インプラント、と言うと人工歯根、歯科治療で顎骨に埋め込むもの、と患者さん達に一般的に知られるようになって来ました。
しかし、その治療の実態では色々の流儀が沢山あり、何がどう違うのか、患者さんはごっちゃになってしまって中々理解し難くなっているのではないか、と思われます。
なので、今回、かなりの長文になってしまうか、と思いますが、代表的な流儀3つを比較して説明をしたいと思います。
その前に、現在考えられているインプラント治療は”補綴主導型”つまり、最終的な歯がどう言う状態に入ると綺麗に仕上がるのかと考え、そこからインプラントを何処にどう言うように埋めるのかを決める、と言う治療方法が世界的な主流になっている、と言う事をご理解下さい。
これは初期の頃のインプラントが”外科主導型”骨がある所にインプラントを埋めて、そこから何とかして歯を造り上げて固定すると言う方法が、治した後でメンテナンスが難しい、予後が管理が大変だった、と言う反省から修整されて来ているものです。
最終的な綺麗な歯があっても、その周囲に歯茎、骨がある程度のボリュームを保っていないと、歯だけがバナナの房みたいに出来上がってしまって、後々歯磨きが難しい、と言う代表的な事例で有名で、これではいけないだろうと言うことで”補綴主導型”歯が欲しい位置、それに調和している歯茎、骨の状態を保とう、造ろう、と考えられ、今に至っているのです。
難しい専門用語ばかりになってしまっていますので、簡単に言い直すと、見た目の綺麗な歯、機能的にも長持ちする歯を入れるには、インプラントにただ歯を付けるだけでは駄目だと分って来たので、今は改善されて来ている、と言う事です。
つまり、現在のインプラント治療は、どの流儀であっても、審美性、機能性を考慮して骨、歯茎、インプラント、最終的な被せモノである歯を充分に考慮して治療するものである、と知って下さい。
なので、逆に言うと、インプラント治療を説明する時に、そう言う説明が何にも出ない、ただインプラント埋めて被せモノ造ります、と言う話しかできないDRではいけない、と言うことになるのです。
非常に残念ですが、今だにそう言う事を知らないのか出来ないのか分りませんが、歯がなければインプラントを埋める、と言う考えの浅いインプラント治療がかなりありますので、ご注意が必要だと思います。
具体的に言うと、歯茎の状態への配慮は歯周病治療等の事です。
歯周病治療と言うと、歯周病になってしまった歯の周りの歯茎の治療と思われているかもしれませんが、歯茎、骨の全体的な状態を整える、家を立てる上の基礎工事の部分を担当しているのだ、と分って下さい。
以上、現代のインプラント治療の共通概念、どの治し方であろうと外れては考えられないルールの説明をしました。
非常に長い前振りになって、専門用語的解説になってすみません。
しかし、ここをまず正しく理解いただかないと、益々インプラント治療の理解がゴチャゴチャになってしまうので、大変だとは思いますが何回か読んで理解して下さい。
それでは、本題の代表的な3つの流派の説明に入ります。
3つの流派とは、詳しくは以下に書きますが、正確には2大流派と+α、くらいな感じなのが正確な表現になると思います。
1、骨造成GBR、歯茎造成CTG、FGGをしっかりとやり、その上でインプラントを植立する、審美と機能、長期的予後を追究した術者主導流
2、HAインプラント治療に代表され、患者さんの為のインプラント治療と標榜し、低侵襲な手術で早く綺麗に治り、咬めることを追究した患者主導流
3、2大流派の良い所をそれぞれに活かそうと考え、早く綺麗に咬めるように治すこととインプラント周囲に長期的予後を配慮して骨造成GBR、歯茎再生治療も低侵襲手術で治すことを目指す中庸流
以上です。
1番は、世界中を今殆んど占めている主流とも言える治療方法で、王道とも言えるものです。
歯周病や外傷で骨の形態が不良に到ったものを綺麗な形に戻し、その過程で歯茎が足りなくなってしまったら、口蓋の歯肉を削いだりして移植をし、歯がないだけの骨、歯茎のボリュームを周囲に調和する量まで造り上げてるのです。
その途中、もしくは最期にインプラントを植立し、最終的に審美的に仕上げて治す方法です。
この利点は、骨、歯茎がかなり正常な形態にまで造り上げられることが可能なこと、インプラント周囲にしっかりとした支える組織があって、審美性、機能性、長期的予後でも安定している結果が世界的にも出ていると言うことです。
データ上でも10年以上の長期経過のものが沢山報告され、本格的インプラント治療として知られている、王道の名に相応しいものです。
但し、その欠点は、非常に何回もの手術をしなければいけない、治療期間がその為に長期間に及ぶ、患者さんが凄く痛い思いをしたりして大変なことが多い、とされています。
審美性を求める余り7回以上の手術をすることにもなる、と言う問題点が指摘されています。
2番は、1の方法の反省から来ていて、骨を造成したり歯茎を造ったりしても、長い時間の中で収縮して、結局はその歯茎の形態に落ち着く、だから既存骨主体でインプラントを植立して、その周囲には特別には骨造成とかしないでも骨が再生してくれるように治す、と言う方法です。
代表例が、HAインプラントによる即時インプラント治療であり、歯科用CTの解析により骨の安定して存在する部位を見付けて、そこに維持させ、時には手術直後から歯が入る即時荷重治療までするものです。
この利点は、何と言っても、手術回数が少ないこと、低侵襲手術を標榜しているので、歯茎を大きく切ったりして剥がさない、だから糸とか使って縫合したりしない、従って余り痛くない、腫れも少ない、患者さんが飛躍的に楽だ、と言うことです。
HAインプラントはその特性上、特別にしっかりと植立できなくても骨と生着し、純チタンだけのインプラントよりも早くくっ付く、半分程度の時間でインテグレーションする、だから治療期間が短くて済む、と言われています。
しかし、欠点として、世界的な見解ではHAインプラントは初期安定は確かに良いのだけれど、10年位経つとHAの剥離とかの問題が生じ、脱落すると言われていて、殆んど使われている報告を見ません。
長期的予後に関しては今後の研究を見ないと分らない、とされています。
又、その手術方法として、低侵襲で骨造成とかを殆んどしない為に、長期的にはインプラント周囲の歯茎が凹んでしまって痩せてくる、審美上、感覚上問題がある、と指摘もされています。
この方法は、今国内では大流行していて1大ブームになっている治療でもあります。
3番は、1の方法ほど歯茎大きく切り開かないで2の方法に準じる低侵襲手術を応用した方法で骨を造成して、その上を覆ってくれる歯茎を再生するように治療し、インプラント植立も全て同時に1回の手術で終わらせる、骨の状態が良くてインプラントがしっかりと植立できたら最初から仮歯まで綺麗に入れる方法です。
この方法は、1の方法と2の方法の利点を活かし、欠点を補うことを目指して、私が悪戦苦闘しながら頑張っている方法です。
この利点は、低侵襲手術で痛くなく腫れることなく骨を造ることができ、最初から歯が入っているので、患者さんが大変に喜ばれること。
長期的予後の分かっている純チタンのインプラントなので安心出来ること。
治療期間もHAインプラントに遜色のない短さで治ること。
仕事の都合上で、腫れたり顔が変わってしまってしまうことを絶対に避けないといけない、歯が綺麗に入っていないと困る、と言う場合でも対応できること。
つまり、他人からインプラント治療受けたとすら気が付かせないレベルで治すことができ、長期的予後でも安心出来る状態に治せる、と言うことです。
欠点としては、非常に精密な作業(10倍ライト付き強拡大鏡)で丁寧に一つ一つ行わないといけないので、1回の手術処置時間が掛かること。
1回の手術で抜歯、病巣除去、インプラント植立、骨造成処置、歯茎再生処置、審美的仮歯装着となるために、チーム医療で取り組み手分けして平行できるところは平行して行わないといけない、その為に実力あるメンバーを揃える必要があること。
言うは易し、行なうは難し、の方法です。
3番は、私が理想と考え、自分自身で追究し、改良改善を積み重ねて来た方法で、国内のみならず世界レベルで全く一般的ではありません。
なので、本当に2大流派に比べて見劣りし+α、が正確です。
しかし、本当の未来像はこの先にある、と私は信じています。
以上、非常に長文に成りましたが、現在のインプラント治療の3つの方法を、詳しく解説致しました。
ご参考になれば幸いです。