「白いお母様」
ソログープ 昇曙夢訳
(『決定版ロシア文学全集29』(日本ブック・クラブ)所収)
《あらすじ》
サクサウーロフは、かなわなかった初恋に義理立てし、また生活に何の不自由もないことから独身を通している。白いライラックの花が、死んでしまったタマーラの思い出を呼び起こし、彼女はサクサウーロフの夢のなかへやってくる。復活祭の日に出会った小さな男の子にも、不思議とタマーラの面影を見いだすのだが……。
《この一文》
“『自分が買って来たということに何も意味があるんじゃない。ただこの花を買おうと思ったこと、それを今忘れていたということに暗示があるんだ。』”
ソログープの「白いお母様」を読みました。タイトルがとても美しいので以前から読んでみたかった作品でしたが、ソログープと言えば、読むごとに遣る瀬無い厭世観に覆われて、もういっそ死んでしまいたい! と底なしに気持ちが沈んでしまう人ではなかったかしら…という記憶があったのですが、とりあえず読んでみました。
驚いたことに、私が抱いていたイメージとは裏腹に、この「白いお母様」はたいへんに優しく美しく、温もりのあるお話でした。あれ? 救いがたく暗い作品ばかりというのは私の思い違いだったのかしら。えーと、たしかソログープの「光と影」があの本に収められていたはず……(読み返し)……ぐはっ!! やっぱ死にたくなる……(/o\;)...! 影絵の狂気がひしひしと……うわ~~……く、暗いな。
えーと、もう一個「死の刺」というのが入っている本も持っていたよな。なんかタイトルからして既にあれだけど…(ちらっと読み返し)……そうだ、男の子が水に飛び込んじゃうやつだっけ。……やっぱ死にたく(以下略。
という感じで、これまでに読んだ2篇はとても美しいながらも破滅的で、私の心を限りなく凹ませたのですが、この「白いお母様」はまったく異なった感触のお話でした。たしかにこの世ならぬ美しいものへの憧れを感じさせてくれるところでは共通点がありますが、読後感がまるで違います。こちらは、現世で生きていくための希望を、この世ならぬ美が、優しく美しく与えてくれます。美しいなあ。
以下、この物語の要約。
サクサウーロフはどうしてだか、世間に対してうんざりとした冷たい気持ちしかありません。財産も十分にあり、家のことをまかせている信頼できる従僕がいて生活に不便もなく、結婚する相手も、その必要性もまったく感じていません。しかしその彼にもただ一度だけ恋をした相手があって、そのタマーラは物静かな美しい人だったのですが、彼から求婚を受けると間もなく、それに応えることなく死んでしまったのでした。
復活祭の日に、祝福の接吻を与える相手として、汚れた大人ではなく純真な子供を探していたサクサウーロフは、レーシャという男の子と出会います。まだごく幼い彼は継母から虐げられており、夢のなかに現れるタマーラや、自分のことを憎からず思っている年頃の娘ワレーリヤの言葉などもあり、結局はサクサウーロフはレーシャを引き取ることになります。
サクサウーロフにとってのタマーラのイメージが、白いライラックの花、というところがとても美しいです。なんて美しいのだろう。そしてサクサウーロフが、ある時から目につくものの中に徴を見いだしていくところも良いです。冷たく退屈だと思われた日常の中にも、美しいものははっきりとその姿を現していて、それを見、それに触れることで、生活は少しずつ変化してゆく……。
とにかく、とても幻想的で美しい、どこまでも美しい物語です。少し、ソログープに対する認識が変わりました。こういう優しいお話も書くんですねー。もっと読みたい。とりあえずは、狂気と邪悪とエロスの悪魔主義ばんざいな長篇として名高い『小悪魔』を読みたいですね!
狂気! 邪悪! なんだかんだ言っても私はこういうのが好きなんです。この世はうんざりだ、もう死にたい…とか言っても私はいつも全然死にそうにないから大丈夫なのです。というか、もうだめだ…破滅だ…とか、そういう気持ちになるのが私にとっての快感で、生きる糧となっているのかも。嫌な奴だなー、まったく。でも改める気はないです! 好きです、滅亡!
あ、なんかせっかく心温まる「白いお母様」の話のはずだったのに、なぜか悪魔主義に傾いてしまった…(/o\;)
しかし、ソログープの作品にある「美しさ」は、私をたしかに惹き付けるところがあるので、『小悪魔』には期待が高まりますね。そのうち借りてこようっと。うふふ~~。