今市子(花音コミックス 芳文社)
《あらすじ》
借金取りの浅田貴史と斜陽の旅行会社「楽園企画」社長、川江務の恋は遭難必至!? 浅田はローン会社社長、菊池と不倫中だし、奥さんは勘付いてるし、さらに…。もうこうなったら三~五角関係に突入か!?
気持ちが沈んだ時はコメディを読むに限る!!! ということで、今市子さんの『楽園までもうちょっと』などを読んでみました。今市子さんと言えばたぶん一番有名なのは『百鬼夜行抄』だと思いますが、あのシリーズのあれほどの恐ろしさから、この『楽園』その他のBL作品でのお笑いぶりまでの幅広さは凄いと言わざるを得ません。SFファンタジーみたいなのもお描きになりますしね。私はホラーが苦手なので断言できるわけではありませんが、恐怖物を得意とする漫画家さんはギャグやコメディを描かせても凄い人が多いような気がしますね。笑いと恐怖とは意外と似たところにあるのでしょうか。
それはさておき、『楽園までもうちょっと』のあらすじを書くと上のようになってなんだかドロドロと生々しいような感じもしますが、実際には徹頭徹尾明るくてさっぱりとした借金苦コメディでした。元嫁・小百合ちゃんの親父さんが死んでその会社と借金をなぜか引き継ぐことになってしまった川江(男)と、彼の元へ借金の取り立てに来るローンズ菊池の社員・浅田(男)との恋が物語の主軸になっているはずですが、なんかあんまり恋愛はどうでもいいというか、借金を返すために繰り広げられるドタバタ喜劇の方が面白過ぎて、正直BLはほんのおまけといった感じでしょうか。いやもちろん恋愛部分も面白いんですけれど、今市子先生のBLはどれもそんなふうで恋愛はどちらかというと二の次で、別の筋でもお話が愉快に進むことが多いような気がしますね。けれどもそこが私はとっても好きです。
また、この『楽園まで~』もそうですが、今市子先生の作品は登場人物のキャラクター設定がしっかりしていて、どのキャラもとても魅力的です。特にBL作品ではしばしば世界に男性しか存在していないかのような世界観が多いのに、今市子作品においてはむしろ登場する女性キャラが強烈で物語に欠かせない存在として登場するところがいいのです。私はそういう作品が好きです。『楽園まで~』では、川江の元妻・小百合ちゃんがものすごく愉快で楽しい人物でした。見切り品の2玉50円のキャベツから目が離せなくなるところとか面白過ぎて苦しい、笑いが止まらない…!
川江と小百合ちゃんがどのように借金を返していくのかも面白いのですが、この作品では「登山」についても扱われています。川江は元々は山登り用品の店の店長で、月に2度は山に登る山男という設定。元義理の父から受け継いだ旅行会社でも登山がらみのツアーを企画して、もちろん実現したツアーの先でもドタバタが巻き起こるのでした。この登山の部分では、実際に今市子先生の登山体験が元になったエピソードや、役に立つ登山知識などが盛り込まれていて勉強になりますね。
全3巻ですが、とても読み応えがあって万人に勧めたい作品です。でも、BL要素は薄いとは言えたしかにBL作品にも違いないので、「なんかおすすめがあったら貸して」とちょうどいまK氏から言われている私ですが、ちょっとためらっているところです^^; この程度の描写でも受け付けない人は受け付けませんからね。いちおう断りを入れてから勧めるか。
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