原発新基準で真価問われる規制委 安全審査で魂入るか
(2013年7月8日午前7時10分)福井新聞
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原子力規制委員会の委員らが視察する中で行われた大容量ポンプの接続訓練。安全審査の進め方で規制委の真価が問われる=6月15日、福井県おおい町大島の大飯原発
原発の安全性を高める実効性ある規制を行うには何が必要かを探る連載企画「変わる原発規制 新基準スタート」(1)
規制当局は東京電力の「虜(とりこ)」となっていた―。国会事故調査委員会は昨年7月、原発の監視・監督を担う旧原子力安全・保安院の機能が、福島第1原発事故前から崩壊していたと厳しく指摘した。こうした反省の上に立ち、いかに原発の安全性を高めていくか。原子力規制委員会が発足してから約10カ月。福島事故の教訓を踏まえた新規制基準の施行で、国内の原発をめぐる規制行政は新たな局面を迎えている。
田中俊一委員長は新基準を正式に決めた6月の会合で決意を語った。「国際的に見ても相当きちっとした体系ができた。ただし真価が問われるのは今後の審査で魂が入るかどうかだ」
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新基準に基づく安全審査の進め方は明確になっていない。が、一つの参考になるのは国内で唯一稼働している関西電力大飯原発3、4号機で行われた新基準への適合性の事前確認だ。
6月の現地調査で、規制委の更田豊志委員らは「保安検査官が入る場所はないのか」「騒音はテレビ会議の障害になる」と、関電側に次々と質問を浴びせた。海水ポンプが使えない事態に備えて配備した大容量ポンプは、金網を壊さなければ使えないことも分かった。
規制委は4月から14回の評価会合を重ね、その合間には「毎日のようにヒアリングがあった」(関電幹部)。だが、対策の実効性を点検する上で、書類では浮かび上がらない盲点が現地調査では多く見つかった。
保安院時代は、書類中心の形式的検査に偏っていたと多くの専門家が指摘する。その反省を踏まえてか、更田氏は「見に来ないと分からないことがある」と現場重視の姿勢を強調した。
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では新基準の内容そのものに不備はないのか。
今年2月に開かれた日本原子力産業協会主催の「原子力安全シンポジウム」で、岡本孝司東京大大学院教授(原子力安全)は「福島以前と同じハード中心の規制」と批判。大飯3、4号機の安全対策を点検した6月の県原子力安全専門委員会では「改造工事がプラントにマイナスの影響を与える恐れもある」と過剰な対策になりかねない点に注意を促す意見も出た。
「基準とは『最低この線は守ってください』というもの。新基準はいろんなことを書き込みすぎている」と宮崎慶次大阪大名誉教授(原子力工学)。例えば、緊急時制御室などを備える特定安全施設が必要としているが「中央制御室とどちらを優先するかなどが詰め切れていない」と疑問を投げかける。
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「余計な規制をやめて、効率を考えなければ、事業者の対応がどんどん積み重なり、大事なことが見えなくなる」。福島の事故前から原子力業界の問題点を指摘していた元日本原電理事の北村俊郎さん=福島県在住=は安全上重要な項目に重点を置くべきだと訴える。
こうした観点では田中規制委員長も同じ考えだ。「安全確保に必要な本当に重要なことをきちっとやる」とし、細かなトラブルには事業者の責任での対応を求めている。
ソフト対策の重要性も規制委は意識している。大飯の調査で、福島事故後に配備した設備を使う訓練を視察。更田委員は「今日の訓練に当たった人はえり抜きの1軍メンバーだと思う」と述べ、2軍や3軍でも遜色なく対応できるよう求めた。
原子力事業本部の大塚茂樹副事業本部長は、365日24時間きっちり対応できる体制と説明。「訓練をしなければ能力は落ちる。繰り返しの訓練が重要だ」とも語った。