お正月の新聞だったと思いますが、一面使って「寅さん」のCDを広告していました。
ああ、そうだ、寅さん映画はお盆とお正月に新作が出て、多くの人が楽しんだのだった、と懐かしく思いました。
高校時代は学則として、映画館は保護者同伴か、生徒として行くのは特に学校から許されたものだけということだったと記憶しています。私はその上、兄たちが実家から出て行ってから、田んぼ仕事の母を助けねばならずほとんど映画を観たことがありませんでした。
大学生になり、母の里でしたが親の元から離れて一人暮らしをすることになりました。自由でした。
今、じいじフレンドと呼んでいる、当時1年先輩のボーイフレンドでしたが、映画好きな人でした。よく連れて行ってもらったのでした。その一つに「寅さん」がありました。
隅田川かな?、土手の草の中で昼寝をしている寅さんが、女性にもてる夢の中から目覚める始まりのシーンは今でもよく覚えています。画面いっぱいの寅さんでした。
よく笑いました。でも正直なところ私はどこかなじまないところがありました。父は軍人でした。四角四面の固い、真面目な家庭でした。不真面目は悪いこと、冗談さえ言えないような父の雰囲気でした。その教えが離れて暮らしていても私を縛っていたのでしょう。どこかちゃらんぽらんの寅さんの生き方は素直に笑い飛ばすにはちょっと違和感があったのです。
次々と作品を見ているうちに大好きになったのでしたが・・・。
新聞の広告にはこんな寅さん語録が書かれていました。
何というかな、ほら。あー生まれてきてよかったと思うことが何べんかあるだろう。そのために人間生きてんじゃねえのか。お兄ちゃんは恋したんじゃねえ。ただあの人が幸せになればいいな、そう願っただけよ。
ほら、いい女がいるとするだろう。男がその女を見て、ああこの女大事にしたいなあ、そう思うだろう。それが愛じゃねえのか。
決して上品な言い回しでもない。でも率直に寅さんの心情が現れています。漂泊の香具師生活。その中で生きた人間を見てきた言葉です。一見ふざけているようで人の真実をついています。自分の言葉できちんと生きる意味、愛を説明しています。
「すごい」「めちゃくちゃ」「やばい」などの乏しい表現ではないのです。
山田監督のこうした人間性が人気の源だったのでしょうね。