「ご主人だけ主治医のところに来てください」と看護師さんから連絡をもらう。
それは甚だ容易ならない内容だった。
「急性転化期に入ったこと、それがどういう事態かということ」を詳しく説明された。
続けて「まだご本人には告げないほうがよろしいかと・・」
「そうですね、そうします」
病室に帰ると、妻はすぐに察したようだ。
「お父さんは平気な顔をしておられないものね。でも大丈夫よ! 私は何が何でも桜の季節までは頑張ってみせるからね」
今日の昼時に再度主治医に呼ばれた。
「昨日の内容と同じですが、奥様はある意味ご専門ですし、白血球の増加がどういう事態かの察しはついていると思いますから、私からも概要を説明することにします」
私は「愚問だと承知で伺いますが、何か新しい治療法は無いのですか? インターフェロンとかイマニチブとかはダメですか・・・」
「それは慢性白血病の場合のお薬で使えません。考えられる治療はすべて大学病院でやり尽くしています」と冷たい。
確かにその通りで、これまでの治療には納得しているのだが・・・
妻はどう見ても外見上はまだまだ元気である。
眠りの時間は相変わらずだが、食事も摂れているし、最近はむしろ顔色など良くなった。
友人にも頻繁に携帯で電話している。まるで回復してきたようにさえ見える。
夕食後、病室に見えた主治医は、いつもの優しい顔で
「がん細胞が 少しだけ元気に なってきたようですね、でも基本的に今までと同じですよ」
そしていつものように、「頑張ってください」と・・・それだけだった。
それだけだったが妻はほっと安堵の表情になった
「先生もああ言ってくれている、大丈夫よ、大丈夫」
「そうだね・・・大丈夫に決まっているよ」
ちょっとした言葉遣いにもすがっている。。”少しだけ・・””今までと同じ・・”
私はダメだなあ、すぐに深刻な表情になってしまい妻の顔を曇らせる。
妻と約束した、これから出来るだけ明るくしていこう。