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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

この危機の中、やらないこと、捨てること、劣後順位を見定めないと、教職員は疲弊してしまう

2020年04月19日 | こども危機
 ◆ 【休校中に学校、教師は何を進めるべきか】
   ~こんなときこそ、時間の使い道をよ~く考えよう
(Yahoo!ニュース - 個人)
妹尾昌俊 | 教育研究家、学校業務改善アドバイザー、中教審委員(第9期)


筆者作成

 「怒涛の一週間が終わった。ぐったり疲れた。」 昨日、ある小学校の校長はこうつぶやいた。
 新学期が始まって、3、4日。新型コロナウイルスの影響で感染症対策を入念にやり――それでも不安はつきまとう、高ストレスのなかでの勤務が続き――入学式等も縮小し、カリキュラム(年間指導計画や行事予定など)も組みなおし、なんとか授業がスタート。
 長い休み明け、かつクラス替えのあった子どもたちの様子に気を配りつつ、学級担任になったばかりの新任教師らへのケアも必要だった。そんななか、来週からは再度休校(臨時休校)になることが決まったので、
 またバタバタと家庭や教育委員会との連絡調整、宿題等の準備、カリキュラムの練りなおしなどに、学校は大わらわだったそうだ。
 一方、休校中の学校では、先生たちはどうしているだろうか。
 東京都などでは自宅勤務となっている学校も多いようだが、慣れない自宅勤務では自律性が要求される。充実しているだろうか(平たく言えば、サボってないだろうか・・・)?
 保護者からは、「なぜ、学校は子どもの学びについて、プリントを配るくらいで、あとは家庭任せなのか?オンライン授業等をやる気はないのか?」といった声もあがっている地域もあるが、学校や教育委員会は、何か対応を進められているだろうか。
 ◆ 授業動画をつくることは本当に優先度が高いのか?

 休校にせよ、学校再開にせよ、全国各地の先生方が一生懸命子どもたちのことを考えてくださっているとは、わたしは思っているが、ひっかかることもある。
 それは、こういうときだからこそ、限れた時間をなるべく有効活用しようという発想と実行が必要だ、ということだ。当たり前の話だが、時間は有限だ。しかも、各教職員も新型コロナのことで不安とストレスとも戦っているなか、割けるエネルギー(意思力、精神力?)も有限だ。
 具体的にお話ししたほうがわかりやすいと思う。

 例1。休校中、あるいは今後の休校に備えて、オンライン授業等へのニーズは高いが、だからといって、個々の教師たちが、授業動画を配信すること(リアルタイム配信、YouTubeにアップなど方法はさまざま)に、本当に一生懸命に、いま、なるべきだろうか?優先順位のすごく高いことと言えるのだろうか?
 ぶっちゃけ申し上げると、それは、授業や動画づくりがうまい人がやればいいんじゃないか、という見方もあろう。
 スタディサプリ、eboard、Qubenaなど、企業やNPOなどが提供するサービスもたくさんあるし、文科省や経産省のウェブページにも関連情報がたくさんアップされている。
 また、横浜市では市教委と各教員が協力して、体育や道徳などを含めた全教科の授業動画を配信、4月中に520本を配信予定という(リセマム記事4/7)。
 一方で、その学校の独自性や地域性がある授業、教材などは、個々の学校、教師が準備する必要性が高いだろう。たとえば、岐阜県白川村の公立学校では、休校中に、地元の気象台の専門家をゲスト・ティーチャーにしてzoom(ウェブ会議アプリ)でつないで、遠隔授業を実施した(中日新聞3/20)。村が豪雪地域である理由などを解説してもらったという。
 これは、なかなか”借り物”というわけにはいかないだろう。なお、タブレットは児童生徒に1台ずつもともと配備されていたことが功を奏したし、家庭にWi-Fiのないところには村が貸し出したそうだ。
 ◆ しんどい子どものSOSをキャッチする機能は、個々の教師等にとって重要
 例2。休校中、家にいるのがつらい、しんどい子のケアは誰ができるだろうか。あるいは新型コロナのことで不安が大きい、ストレスがあるのは子どもたちもだ。子どもたちの声に耳を傾けられる大人は、誰だろうか。
 もちろん、各家庭の役割が大きい。だが、家庭任せばかりでも危ういのは言うまでもない。子どもに関することに限らないが、フランスでは外出規制の1週間でDV認知件数が3割も増えたという(毎日新聞4/8)。
 子どもたちのSOSをキャッチしやすい大人のひとりは、やはり個々の先生たちだ。細やかな支援をするのは専門性の高いカウンセラーや行政(児童相談所等)、NPO等かもしれないが(個々の教師任せでもいけない)、支援の必要な児童生徒や家庭を発見できる人は、教師を除いて、なかなか他にはいない。発見というフェーズ・機能と、個々の支援は別だ。
 こういう観点で見たとき、授業動画の配信などよりも、個々の学校、教師にとって優先度が高いのは、児童生徒の様子を確認すること、言い換えれば、子どもたちのSOSをキャッチしやすい、つながりを保っておくことだ、とわたしは思う。
 しかし・・・、だからといって、学級担任が全児童生徒の世帯に家庭訪問をする、という学校も実際にあるのだが、これはこれで問題が多い。第一に、教職員が罹患していた場合の感染拡大のリスクがあること。第二に、時間がかかり過ぎることだ。移動も含めて1人に30分仮にかかるとなると、40人学級では20時間もかかる。その時間があれば、他のことに振り向けるべきだろう。
 具体的な方法は、下記の武田緑さんの記事などがとても参考になると思う。一例として、保護者のスマホを使ってでも、オンライン朝の会などを、週1~2回とか、できる家庭だけでもやっていくのは、選択肢のひとつだ。オンラインでつながれない子どもとは、電話などでフォローする。オンライン、オフラインを組み合わせたらよい。何もやらない、放置よりよほどいい。
 ※ 武田緑「休校の長期化・エリア拡大を想定して、いま学校にしてほしいこと 」
 ◆ こういうときこそ、優先順位と劣後順位をしっかり考えよう

 ぜひ、来週から、学校で(自宅勤務の場合はウェブ会議かメールなどで)検討してほしいことがある。たとえば、冒頭の図のように、学校、教師のやるべきことのアクションアイテムをリストアップして、整理することだ。
 図の説明を少ししよう。
 横軸は、「その先生じゃなきゃダメ~!」なのか、それとも「うまい人ならOK!」なのか。先ほどの授業の動画配信などの例を思い出してほしい。
 縦軸は、時間対効果が高いか、低いか。時間対効果とは、費用対効果などにヒントを得た造語かもしれないが、かけた時間に比べて、効果が高いかどうかという視点だ。もちろん、これは一概にそうとは言いにくいことも多い、特に教育の世界は。だが、ひとつの目安として、考えてほしい。
 先ほどの例では、児童生徒の様子を確認することは、個々の教師でないとやりにくい(=見知らぬ大人にすぐに子どもが心を開くわけがない)が、だからといって、全戸家庭訪問というのは、時間対効果は低いだろう。
 別の例としては、3月の休校中に、一生懸命、通知表の所見(コメント)書きに多大な時間を使っている先生は少なくなかったようだが、かけた時間の割には効果は高かったのだろうか?
 個々の学校、教師がもっと時間をかけないといけないのは、図でいうと、右上(第一象限)だ。
 たとえば、オンライン授業をやっても、オフラインで課題プリントを渡すだけであっても、いずれにしても、学習意欲の低い子、あるいは家庭の教育力の低い子をどう励ますか。これは、個々の教師の役割が大きいのではないだろうか。
 左上左下は、別の人や組織にやってもらうことも検討するべきだ(一部自分たちでやることをわたしは否定はしないし、意義もあるだろうが)。なお、子どものSOSをキャッチしたあとの悩み相談などは、学級担任などが向いているケースもあるだろうし、いや先生には相談したくないという子もいるので、一概には言えず、横軸は真ん中とした。
 右下は、やるべきかどうかを検討、仕分けをして、本当に必要性が高いことについては、なるべく短時間で済ませるよう工夫する領域だ。
 こうした整理以外の軸、視点もあっていい。たとえば、個々の教師がやるべきか、あるいはチーム(学校全体)で進めるか、またはもっと広域(市区町村や都道府県全体)で取り組むべきかといった観点も有用だろう。
 日本のビジネスパーソンにとってはおなじみの経営学者、ピーター・ドラッカーは、こう述べている。
 実は、本当に行うべきことは優先順位の決定ではない。優先順位の決定は比較的容易である。集中できる者があまりに少ないのは、劣後順位の決定、すなわち取り組むべきでない仕事の決定と、その決定の遵守が至難だからである。(中略)
 優先順位の分析については多くのことがいえる。しかし、優先順位と劣後順位に関して重要なことは、分析ではなく勇気である
   出典:P・ドラッカー(2000)『プロフェッショナルの条件』ダイヤモンド社
 わたしが伝えたいのは、まさにこのこと。優先順位の高いものだけではなく、むしろ、この危機のなか、やらないこと、優先順位を落とすこと、捨てること、劣後順位を見定めることが重要だ。そうしないと、教職員は疲弊してしまうし、優先順位の高いことに時間もエネルギーも向かわない。
 本当に児童生徒のことを思うなら、優先順位と劣後順位をしっかりと考えて、勇気をもって決断、行動してほしい。
 ※学校や教育行政における劣後順位の検討については、拙著『教師崩壊』でも解説している。
 ※ 妹尾昌俊 教育研究家、学校業務改善アドバイザー、中教審委員(第9期)
徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演などを手がけている。学校業務改善アドバイザー(文科省、埼玉県、横浜市等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、NPO法人まちと学校のみらい理事。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法―卓越した企業の失敗と成功に学ぶ』、『「先生が忙しすぎる」をあきらめない』など。4人の子育て中。
『Yahoo!ニュース - 個人』(2020/4/11)
https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/20200411-00172672/
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