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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

☆ 『戦争ではなく平和の準備を』(地平社)出版記念シンポジウム

2024年09月13日 | 平和憲法

 ☆ 市民の側から平和を構想する!(レイバーネット日本)

竪場勝司

 7月に地平社から刊行された『戦争ではなく平和の準備を』の出版記念シンポジウムが9月6日、東京都千代田区の衆議院第2議員会館で開かれ、平和外交に関する講演や、市民の側から平和を構想していくための様々な取り組みの提起などがあった。

 シンポは平和構想研究会が主催した。
 同研究会は、安倍晋三首相が首相の私的諮問機関である安保法制懇の提言を受けて、集団的自衛権行使の容認に向け憲法解釈を変更する考えを表明した2014年5月、こうした動きに危機感を覚えた研究者、ジャーナリスト、弁護士、NGO関係者らが集まって結成した「集団的自衛権問題研究会」を前身としている。
 同年7月には集団的自衛権行使容認の閣議決定がなされ、戦後日本の軍事政策の大転換につながった。

 ☆ 安保三文書改訂にぶつける形で、平和への構想を提言

 集団的自衛権問題研究会は雑誌『世界』への寄稿、集会、市民向け学習会など、「戦争の準備」を進める政府に対抗して、様々な活動に取り組んできた。より積極的に平和への構想を市民の立場から練り上げていくため21年10月、平和構想研究会を発足させた。さらに22年、政府による軍拡を批判しつつ、軍事力によらない安全保障などの平和の構想を打ち出すため、「平和構想提言会議」が立ち上がった。安保三文書の改訂により敵基地攻撃能力の保持などの政府の方針が明らかになった22年12月、平和構想提言会議は提言「戦争ではなく平和の準備を――〝抑止力〟で戦争は防げない」を出し、多くの反響を呼んだ。

 今年2月に開かれた平和構想研究会で、

①現在起きている日本の軍拡の動きを総括的に批判する
②外交努力や諸外国との交流、市民社会の力による私たちの平和構想を具体化していく、

 の二つの柱を軸に書籍を出すことで意見がまとまり、今回の出版につながった。
 完成した本は10章に分かれ、沖縄基地問題、日米関係、国際援助、武器輸出、ジェンダー、平和学などの研究者や専門家が論点を掘り下げており、平和構想提言会議の提言も全文掲載されている。

 

 ☆ 「する」平和主義が必要だ

 シンポでは、本の筆者の一人である立命館大学教授の君島東彦さんが「マルチトラック平和外交について考える」のテーマで講演した。
 君島さんは

平和論は関係論だ。常に相手がいる。基本的には東アジアだ。東アジアにおける国際関係はどうなのだろうというのが、平和論の核心部分。相手を信用しないから武装する。相手に対する不信感を互いに減らしていくことが平和論のポイント。軍備で安定した関係はつくれない。東アジアで和解はなされたのか、というのは依然として進行中の課題だ。日米関係と日本・東アジア関係はコインの裏表に関係にある。戦後の日本は東アジアに安定した関係をつくれていないから、日米同盟に依存する」と指摘した。

 憲法の平和主義に関しては

「憲法9条と前文はセットだ。9条の原点は日本非武装。非武装では安全は守れない。だから国連の安全保障ということになる。憲法の言葉で言うと『日本国民は平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した』。『平和を愛する諸国民』は国連加盟国を意味する。国連の安全保障が実現しなかったから、日本政府は日米安保にいく。日本国憲法には『しない』平和主義と『する』平和主義があると、私はずっと考えてきた。9条は明確な禁止規範。これは『しない』平和主義だ。それで平和はつくれるのか。『する』平和主義が必要だと思う。『する』平和主義、これは前文だ。憲法前文が持っているスピリットを、私たちが具体化していく作業がいる。前文は政策規範、国会とか政府の政策を方向付ける規範だ。『する』平和主義で、どういうことをするのかを、前文が指し示している。何ができるのか。一つは国連の集団安全保障が実現しなかった代わりに、自衛権行使とか軍事同盟とかではない形での東アジアでの安全保障の枠組みをつくっていく。もう一つは軍事力によらない国際平和協力、これはいろいろなNGOがある。三つ目は和解、脱植民地主義の活動だ」と語った。

 

 ☆ 平和外交にはさまざまな主体が

 平和外交に関しては

「外交について考える時に、私が一番インスピレーションを得るのは、アメリカの平和研究者のダイアモンドと元外交官のマクドナルドが提起した『マルチトラック外交論』だ。トラックとは外交のルート。彼らは9つのトラックがある、という。トラック1は政府、2非政府の専門家、3企業、4一般市民、5研究・教育、6市民運動、7宗教、8財団、9メディア。フィンランドの平和研究者のマルコ・レーディングは『マルチトラック平和外交』という言い方をしており、私もそれにならっている」と紹介した。

 マルチトラック平和外交の実践例として、君島さんは

(1)沖縄県の自治体外交、
(2)立命館大国際関係学部君島ゼミが中国・上海の復旦大学、韓国のキョンヒ大学との間で行なっている「日中韓学生対話」、
(3)日本平和学会と中国の民間シンクタンク・チャハル学会、南京大学の間で実施している「日中平和学対話」、

 の3つを挙げた。

「東アジアの安全保障を考える時に、『共通の安全保障』という考え方が大事だと思っている。東アジアは今、非常に難しい状況にある。大変だが、長期的目標としては、私たちはこれを目指すしかない。その時に参考になるのはヨーロッパのCSCE(欧州安全保障協力会議)。フィンランドのイニシアティブで敵対するNATOとワルシャワ条約機構を一つの傘の下に置いた。不信感を減らしていって、最終的に冷戦終結に至った。東アジアにおいてこういう枠組みが必要だ。二つ方向性があって、一つはASEANプラス8の枠組みが使えるかどうか。プラス8は日本、中国、韓国、アメリカ、ロシア、オーストラリア、ニュージーランド、インド。もう一つが、中立国が組織していくやり方。憲法前文はこういうものを求めているのではないかと思う」

 と今後の展望を語った。


 ☆ 安保政策が憲法論から切り離され、じわじわ進む〈浸食〉

 続いて、平和構想提言会議の共同座長で学習院大学教授の青井美帆さん「〈破壊〉と〈浸食〉を超えていく」のテーマで発言した。

約10年前の集団的自衛権行使容認の閣議決定、安保法制、あの時に起こったことの帰結を、今見ている。重要なことが国会で議論されることなく、国柄が変わっていってしまっている。今、この状態は10年前の帰結なのだということを指して、〈破壊〉と言っている。もっと危機感を持つべきだと思う、国会が、そして私たちが。日本には憲法9条があり、安全保障の議論は憲法問題になる。新しく自衛隊に権限を与えるといった場合には、法律で根拠を作らなくてはいけなかった。根拠を作る際に合憲なのかどうかの議論ができていた。議論をしなくては、法律が作れなかった。憲法の議論をしないでいい、という事実をもっと知ってもらわないといけない」

 と国会の現状を厳しく指摘した。

「私たちがもっと気を付けなくてはいけないのは〈浸食〉。一見、〈破壊〉とわからないタイプの改正が増えていく。じわじわとくる中で、いかに粘り強く『おかしい』と言っていくか。これが私たちに問われている。〈破壊〉のあとの〈浸食〉段階で何ができるのかが、一つの大きな論点になる。憲法論をしないですむように、大きなことが行なわれた。安保政策が憲法論から切り離された10年後、いま我々はより一層巻き込まれるという段階に入っている。国家安全保障のためにマンパワーが必要になり、戦略の執行段階に国民を巻き込むということが、各方面でなされている。国会がこれだけショートカットされてしまっている状態は、どこまで何をするのかを見えにくくする、〈浸食〉する上で、非常に効果的だ」

 と警鐘を鳴らした。

「一番大きな〈破壊〉は13年、14年あたりからのものだと思うが、その他にも小さな〈破壊〉はたくさん起こっている。阻むものとして力を持っていた団体、組織を片っ端からつぶしていく過程なのだと思う。日本学術会議の法人化問題もその一つだ。一人ひとりの問題として、どのような方面で〈浸食〉が進んでいくのか、というところに目を凝らしながら、より想像力を働かせていく必要がある」

 と呼びかけた。

 

 ☆ 抑止力ではなく、市民が主体になって、対話と信頼醸成の平和外交を

 次に平和構想研究会代表の川崎哲さんが、「戦争を回避するための平和外交へ」のテーマで発言した。
 川崎さんは8月下旬にカザフタンで開かれた、中央アジア非核地帯条約の締約国会議と、核兵器禁止条約第3回締約国会議の準備会合に参加し、世界の核被害者に集まってもらって、被害者の視点をどう生かせるか、といった話をした。
 続いて韓国を訪れた川崎さんは、北朝鮮の核問題、朝鮮半島の非核化をテーマに、韓国と日本の国会議員やNGOが参加した議論にも出席した。

韓国の中での危機感の高まりを感じた。北朝鮮の核はどんどん強まっているので、韓国国会の中で堂々と核武装の議論が堂々となされているのを目の当たりにして、大変だなと。私の方から核兵器禁止条約への参加を呼びかけたが、それがなかなか届かないくらいの危機感があった」

 と振り返った。

抑止力一辺倒では、危険で大変なことになる。対朝鮮半島に関しても、対中国に関しても、いかに対話と信頼醸成、共通の安全保障を図っていくのか、明確な対抗軸が語られなければならない。残念ながら、立憲民主党の代表選、自民党の総裁選をめぐる議論を見ていても、この話が出てきていない。いかに日米協力を強めるかというところになってしまっている。朝鮮半島においては朝鮮戦争を完全に終結させて、これまでの合意をベースにした朝鮮半島の平和と非核化の交渉をしっかりと行なうことを、これから首相になろうという方々はちゃんと語らなければいけない。中国との関係については、中国への敵視政策というものを停止しなければいけない。安保三文書以来の防衛の文書を見ていると、明らかに中国を敵として見ている。信頼が置けない相手だということをかなり挑発的な口調で言っていて、自ら台湾有事を煽っている。ここを大きく変えていかなければいけない。また東アジアで、核やミサイルをきちんと相互に管理できる条約作りをしていくことが、大変重要になってくる。こういった政策をきちんと掲げて、議員外交をしていただき、政権の公約にも入れてもらうという大きな声を、私たちが上げていく必要がある。核兵器禁止条約や非核地域条約は平和をつくるためのツールとして、平和運動の一環として構想されたアイデアであり、できた条約を実行することを政府と市民社会が一緒に協力してやっていく。そうした条約を私たち市民社会が構想して主体になっていく、そんな運動を進めていければ」

 と訴えた。

 シンポではピースボート共同代表の畠山澄子さんと辺野古県民投票の会元代表の元山仁士郎さんが、本の内容に関する感想などについてコメントし、会場に来ていた台湾の学者グループによる反戦声明の発表もあった。

『レイバーネット日本』(2024-09-08)
http://www.labornetjp.org/news/2024/0906hokoku


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