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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

「表現の自由」特別報告者ケイ氏へのNGOブリーフィング(1)めざす会

2016年04月20日 | 人権
 ◎ 「公共の福祉」という名の言論弾圧

2016年4月16日 板橋高校卒業式事件から「表現の自由」をめざす会

 1,はじめに
 私たちは、板橋高校卒業式で国旗国歌の強制に反対意見を表明した元教員の藤田さんを応援する市民グループである。3月末に、ケイ氏宛に、わが国では「表現の自由」が「公共の福祉」の名目で厳しい制約を受けているという問題について、以下のような趣旨でレポートを提出した。
 2,卒業式での意見表明とそれに対する刑事弾圧
 元教員の藤田さんは、学校で国旗国歌が強制されるべきではないとの「意見」を持っていた。彼は、卒業式の開式前に1分足らずの間保護者席に向かって、学校で国旗国歌が強制されるべきではないとの意見を表明した。
 この行為に対して、検察は「卒業式の円滑な進行を妨害した」として刑法(威力業務妨害罪)を適用し「懲役8月」を求刑。
 最高裁は「表現の自由は絶対無制限ではなく、公共の福祉による制限は是認される」として「罰金20万円」の有罪判決を申し渡した。最高裁は、これまでも幾つかのビラ配布事件に関して、同様の理由で刑罰を科しきた。【別添資料1】
 このように「公共の福祉」概念は、実質上「公権力の意志」と同様に使われ、当局に不都合な政治的意見は安易に弾圧にさらされてきた。このような使われ方は、規約19条3項の条件を満たしていない、と私たちは考えている。
 3,国際社会では通用しない「公共の福祉」による自由制限
 かねてより日本政府は、自由権規約委員会から、"「公共の福祉」の概念は、曖昧で、制限がなく、規約の下で許容されている制約を超える制約を許容するかもしれない"という懸念を示されてきた。
 日本政府は、自由権規約委員会第6回日本政府報告書の中で、「国家権力により恣意的に人権が制限されることはあり得ない」事例として、上記の最高裁判決を引用して釈明を試みた。
 それに対して委員会は、2014年7月、総括所見パラ22で、"思想・良心・宗教の自由や表現の自由の権利に対していかなる制約を課すことをも差し控えるように強く要請する"と勧告した。
 このパラグラフ22は、政府による"公共の福祉概念による人権制約が規約の許容範囲を超えない"という説明は、委員を納得させることができなかったこと、今後のあり方として「表現の自由」の制約条件としては国際基準である規約19条3項の「厳しい条件」を直接適用するやり方が具体的な解決策として示されたこと、そしてその実行は緊急を要すること、を意味していると私たちは受けとめている。
 4,勧告に背を向ける関係省庁の態度
 ところが日本政府は、次に示すように、この勧告が緊急性を要するものとは受けとめていない。【別添資料2】
  ①勧告から1年以上たったが、政府内で未だ所管が決まっていない
  ②いずれの機関も、国連から勧告された「公共の福祉」概念について何の検討も始めていない
  ③卒業式等で、戒告・減給などの懲戒処分を発令し続けている東京都教育委員会は、当事者意識がゼロで、国連勧告を無視している。
 5,締約国の義務を果たしていない日本政府に対する督促の必要性
 社会的関心事についての情報や表現の自由に対する刑事弾圧は、幅広い「萎縮効果」を生み、多様な考え方の尊重を基盤とする民主主義社会を危険にさらすことになる。
 人権制約概念として用いられている「公共の福祉」に対する、国際社会の懸念を、日本政府は真摯に受けとめ、速やかに勧告を実行に移す責務がある。「公共の福祉」による人権制約の問題の所在と解決の方向性は、国連自由権規約委員会総括によって明確に示されており、あとは実行に移すだけの段階である。
 なぜ実行できないのか、究明していただきたい。


 【別添資料1】  「表現の自由」を「公共の福祉」で制約し刑罰を適用した、一字一句同じな3つの最高裁判決
 「表現の自由は、民主主義社会において特に重要な権利として尊重されなければならない」
 「憲法21条1項も、表現の自由を絶対無制限に保障したものではなく、公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を是認するものであって、たとえ意見を外部に発表するための手段であっても、その手段が他人の権利を不当に害するようなものは許されない。」
  ① 『立川ビラ入れ事件最高裁判決』(2008/4/11)・・・人の看取する邸宅に立ち入ったこと
  ② 『葛飾ビラ入れ事件最高裁判決』(2009/12/4)・・・管理組合の承諾なくマンション内に立ち入ったこと
  ③ 『板橋高校卒業式事件最高裁判決』(2011/7/7)・・・卒業式の円滑な進行を妨げたこと
【別添資料2】 NGOの要請に対する当局の無責任な回答
 この勧告パラグラフ22が発表されて以降、私たちを含むいくつかのNGOが、関係省庁に勧告パラグラフ22の即時実行を要請してきた。それに対する、国内各機関の回答は、国連勧告に背を向ける極めて消極的な内容で、勧告が実行に移される動きはなく、勧告は無視されたままである。
 代表的な、無責任な回答例をいくつか引用しておく。

 (1)勧告から1年以上たったが、文科省によれば、政府内で未だ所管が決まっていない。
Q1 このパラグラフ22は、いくつかの省庁の所管事項に関わっていると思われるが、その1つに文科省も含まれると理解して間違いないか。
A1 ご指摘のパラグラフ22については、自由権規約委員会が作成したものであり、またその内容を鑑み、関係する省庁を直截に申し上げることは困難でございまして、しかしいずれにせよ、自由権規約委員会から日本政府に対して出された最終見解につきましては、法的拘束力を有するものではございませんが、政府として、内容を十分検討の上、引き続き適切に対処していきたいと思っております。
(2015年8月3日 質問者:第5回「日の丸・君が代」問題等全国学習・交流集会実行委員会
回答者:文科省大臣官房国際課 調査係専門職 鈴木育乃)
 (2)「公共の福祉」概念についての国連の勧告を、政府は聞き流そうとしているかのようである。
Q2 このパラグラフ22を読んで、「公共の福祉」概念についての自由権規約委員会の懸念が、日本政府の説明(『回答』パラ184~186)によって、解消されたと考えているか。
A2 自由権規約委員会が、いかなる情報に基づき、お尋ねの勧告を作成するに至ったかについて正式に申し上げることは、差し控えさせていただきたい。いずれにせよ、政府として、同委員会に対し必要な情報を提供し、我が国における自由権規約の実施状況等について誠意を持って、説明しております。
(同上)
 (3)東京都教育委員会は、当事者意識がゼロである。
Q3 わが国が「国際社会で尊敬され、信頼され」るためには、憲法98条2項の定めに従い、行政機関として国連勧告を尊重し、実現に向けて誠実に努力する責務があることを認めること。
A3 日本政府の見解について答える立場にない。
(質問2015年3月20日、回答2015年4月14日
質問者:五者卒入学式対策本部 回答者:東京都教育庁指導部指導企画課)

Q4 「総括所見パラグラフ22」で、「いかなる制約も控えるように」とある「いかなる制約」には、自由権規約委員会が日本政府に宛てた「質問事項17」にある「減給、停職、及び解雇を含む制裁」及び「再発防止研修」が含まれることを認めること。
A4 日本政府の見解について答える立場にない。
(質問2015年3月20日、回答2015年4月14日
質問者:同上 回答者:東京都教育庁人事部職員課)


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