◆ 国際人権から見たヘイト・スピーチ
シン・ヘボン『国際人権入門――現場から考える』(岩波新書) 《前田朗blog》
<第二次大戦後、人権に関するさまざまな国際ルールがめざましい発展を遂げ、日本もそれを守ることとされている。日本社会で現実に起きているさまざまな人権問題も、これらの国際人権基準に照らして考えることで、新たな光を当てられ、解決の方法を見出すことができる場合が少なくない。日本の現場から国際人権法の「活かし方」を考える。>
著書はこれまで、『人権条約上の国家の義務』、『人権条約の現代的展開』という本格的研究、『国際人権法――国際基準のダイナミズムと国内法との協調』という教科書、『友だちを助けるための国際人権法入門』という入門書を送り出してきた。本書は2冊目の入門書である。
序章では、国際的な人権保障の出発点は国連憲章とし、世界人権宣言、国際人権規約、その他の人権条約や、「国連憲章に基づく手続」と「人権条約に基づく手続」などを解説している。
第1章から第4章では、入管、ヘイトスピーチ、女性差別、学ぶ権利の4つを取り上げて、国際人権の観点から日本の現状を考究している。
「第2章 人種差別・ヘイトスピーチ――差別を「禁止」する法の役割」では、「社会生活における人種差別を禁止する法律がない日本」として、憲法には差別の禁止規定があるが、差別禁止法のない日本の現状を確認している。
日本は、人種差別撤廃条約を批准したにもかかわらず、既存の法律で対応でき法律の整備は不要として、立法措置をとらなかった。このため、民法の「不法行為」の規定をあてはめて解釈する迂遠な方法が採用されている。
「法律に明文規定がないということは、どのような行為をしたら違法な人種差別になるのかが社会で共有されないということ」である。
条約は、人種差別を扇動するヘイトスピーチ根絶のための国の義務を明示しているが、日本は条約加入の際に留保を表明した。これがヘイト・スピーチの放置につながった。
しかし、「留保」は条約第四条(a)(b)の留保であり、第四条柱書や(c)にはかかっていないが、実際には柱書や(c)を遵守する姿勢が見られないことを指摘する。
諸外国の立法の例を見ると、スイス、カナダ、フランスなど立法による対策が一般的である。
日本では法律による禁止がなされず、不法行為訴訟の形式をとらざるを得ない。「不法行為という民法の一般規定の解釈にとどまることはやはり根本的な限界だ」という。
二〇一六年のヘイト・スピーチ解消法は、条約の定義を踏まえず、ヘイト・スピーチを禁止していない。罰則がない。つまり、「人種差別撤廃条約で求められている対策を履行したものとはいいがたいものだ」。
ネット上のヘイト・スピーチに対する取り組みを見ても、EUをはじめ国際的には進展がみられ、二〇一九年にはニュージーランドのテロ事件を契機に「クライストチャーチ・コール」が採択され、日本も署名した。
著者は、「日本も、人種差別撤廃条約に合致した形で、公的生活における人種差別禁止に関する法律を制定するとともに、ネット上のものを含むヘイトスピーチについても法律で明確に禁止規定を置き、それに基づいて、EUで行われているように、IT企業の取り組みを求める仕組みを整えていくべきだ」という。
もっともであり、全面的に賛成である。
『前田朗blog』(SATURDAY, OCTOBER 17, 2020)
http://maeda-akira.blogspot.com/2020/10/blog-post.html
シン・ヘボン『国際人権入門――現場から考える』(岩波新書) 《前田朗blog》
<第二次大戦後、人権に関するさまざまな国際ルールがめざましい発展を遂げ、日本もそれを守ることとされている。日本社会で現実に起きているさまざまな人権問題も、これらの国際人権基準に照らして考えることで、新たな光を当てられ、解決の方法を見出すことができる場合が少なくない。日本の現場から国際人権法の「活かし方」を考える。>
はしがき
序 章 国際人権基準とそのシステム
第1章 「不法滞在の外国人」には人権はないのか――入管収容施設の外国人
第2章 人種差別・ヘイトスピーチ――差別を「禁止」する法の役割
第3章 女性差別の撤廃と性暴力
第4章 学ぶ権利実現のため措置を取る国の義務――社会権規約の観点から
著書はこれまで、『人権条約上の国家の義務』、『人権条約の現代的展開』という本格的研究、『国際人権法――国際基準のダイナミズムと国内法との協調』という教科書、『友だちを助けるための国際人権法入門』という入門書を送り出してきた。本書は2冊目の入門書である。
序章では、国際的な人権保障の出発点は国連憲章とし、世界人権宣言、国際人権規約、その他の人権条約や、「国連憲章に基づく手続」と「人権条約に基づく手続」などを解説している。
第1章から第4章では、入管、ヘイトスピーチ、女性差別、学ぶ権利の4つを取り上げて、国際人権の観点から日本の現状を考究している。
「第2章 人種差別・ヘイトスピーチ――差別を「禁止」する法の役割」では、「社会生活における人種差別を禁止する法律がない日本」として、憲法には差別の禁止規定があるが、差別禁止法のない日本の現状を確認している。
日本は、人種差別撤廃条約を批准したにもかかわらず、既存の法律で対応でき法律の整備は不要として、立法措置をとらなかった。このため、民法の「不法行為」の規定をあてはめて解釈する迂遠な方法が採用されている。
「法律に明文規定がないということは、どのような行為をしたら違法な人種差別になるのかが社会で共有されないということ」である。
条約は、人種差別を扇動するヘイトスピーチ根絶のための国の義務を明示しているが、日本は条約加入の際に留保を表明した。これがヘイト・スピーチの放置につながった。
しかし、「留保」は条約第四条(a)(b)の留保であり、第四条柱書や(c)にはかかっていないが、実際には柱書や(c)を遵守する姿勢が見られないことを指摘する。
諸外国の立法の例を見ると、スイス、カナダ、フランスなど立法による対策が一般的である。
日本では法律による禁止がなされず、不法行為訴訟の形式をとらざるを得ない。「不法行為という民法の一般規定の解釈にとどまることはやはり根本的な限界だ」という。
二〇一六年のヘイト・スピーチ解消法は、条約の定義を踏まえず、ヘイト・スピーチを禁止していない。罰則がない。つまり、「人種差別撤廃条約で求められている対策を履行したものとはいいがたいものだ」。
ネット上のヘイト・スピーチに対する取り組みを見ても、EUをはじめ国際的には進展がみられ、二〇一九年にはニュージーランドのテロ事件を契機に「クライストチャーチ・コール」が採択され、日本も署名した。
著者は、「日本も、人種差別撤廃条約に合致した形で、公的生活における人種差別禁止に関する法律を制定するとともに、ネット上のものを含むヘイトスピーチについても法律で明確に禁止規定を置き、それに基づいて、EUで行われているように、IT企業の取り組みを求める仕組みを整えていくべきだ」という。
もっともであり、全面的に賛成である。
『前田朗blog』(SATURDAY, OCTOBER 17, 2020)
http://maeda-akira.blogspot.com/2020/10/blog-post.html
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