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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

文科省・都教委は、教員の権利保障せず。国際機関の勧告を無視。

2020年11月03日 | 日の丸・君が代関連ニュース
 ◆ 今も続く「君が代斉唱強制システム」
   「先にあるのは全体主義」
(『東京新聞』こちら特報部)


 立って歌うことを命令し、従わなければ処罰するー。どこかの全体主義的な国の話ではない。日本の首都・東京都の教育委員会が教員に対し、今なお卒業式などで運用する「君が代斉唱強制システム」だ。労働と教育、双方の国際機関から「教員の権利を侵害している」とレッドカードを突き付けられ、改善を促されている。ところが、文部科学省と都教委は無視を決め込んでいる。(石井紀代美)
 ◆ 再任用打ち切り3年も前に通知「異常」

 ひと言も書き漏らすまいと、必死でペンを走らせた。驚きと不安で、ノートの文字がゆがむ。「とんでもないことが私の身に降りかかったと思いました」。都立高校教諭の川村佐和さん(62)は、二〇一九年一月、校長室で起きた出来事を振り返る。
 川村さんは同年の三月末、定年退職を控えていた。退職後、希望者は基本的に、六十五歳まで働くことができる。川村さんもその前日、再任用の合格通知を受けていた
 「都教委からこんなメールが送られてきた」。校長はそう言って、文面を読み上げた。
   「あなたは卒業式での命令違反のため、戒告処分を受けました」
   「今後、年金が支給される年度になれば採用しないこととなります」。
 現行制度では、川村さんが年金の一部を受け取れるのは六十三歳。「『君が代』の際に座っていただけなのに。三年も前から不採用を通告するのは異常だ。」
 ◆ 「自分の生き方に反して生徒の前には立てない」

 川村さんは〇四~一六年の卒業式や入学式で計三回起立せず、いずれも懲戒処分で一番軽い「戒告」を受けた。
 「日の丸」や「君が代」、それ以外の何に対しても、敬意は強制されるべきではないと思う。嫌なら表明しなくても構わない。それを許されるのが民主国家だと生徒たちにも教えてきた。
 「もし私が起立斉唱すれば、自分の生き方、考え方に反し、私が私でなくなる。胸を張って生徒の前にも立てなくなる。強制の先にあるのは、国民を一様に束ねる全体主義。戦争をしようと思えばできる国に、再びなってしまう」。川村さんは訴える。
 ◆ 都の懲戒処分480人に

 そもそも、市民に「君が代」を歌えと強制できる法律はない。そこで編み出されたのが、都教委が〇三年十月二十三日に発出した「一〇・二三通達」を根拠とする強制システムだった。
 公務員は、地方公務員法に基づき、上司が部下に職務命令を出すことができる。そして「職務怠慢」や「公務員にふさわしくない非行行為」は懲戒処分にできるとも規定する。
 都教委は各学校長に起立斉唱の職務命令を出させ、従わない場合は職務怠慢などと断定し、懲戒処分を連発した。
 都の元教員らでつくる「被処分者の会」によると、〇三年度以降、通達に基づき懲戒を受けたのは延べ約四百八十人
 文科省の集計では、全国の「日の丸・君が代」絡みの懲戒者数は東京が突出して多く、大阪、広島、福岡も目立つ。
 処罰された側は、これまで何度も「思想・良心の自由を保障する憲法に違反」と法廷に訴えてきた。裁判所は違憲と認めていない
 ◆ 国際機関「明確にノー」

 ただ、世界は容認しなかった。国際機関「国際労働機関(ILO)」「国連教育科学文化機関(ユネスコ)」は一九年、日本の強制システムについて「教員個人の価値観や意見を侵害する」との見解を示した。
 なぜ、ILOとユネスコはノーを突き付けたのか。答えは、一九六六年に両機関が作った「教員の地位に関する勧告」の中にある。教員の責任や権利、懲戒手続きなどについての「世界基準」として約百四十項目を設けている。
 社会や文化の発展に教育が不可欠で、それを担う教員の地位は大事との共通認識から策定され、日本も賛同した。
 同時に両機関は基準の適用状況をチェックするため、教育学の専門家ら十二人で構成する合同委員会「セアート」も設置した。
 セアートに一四年八月、都内の教員労働組合「アイム89」が強制システムのひどさを訴えた。セアートは、文科省と労組から意見聴取を重ね、一八年十月に結論を出した。
 委員を務める東京大の勝野正章教授(教育学)は自国の案件のため議論に加わらなかったが、「明確に『強制はダメ』と言っている」と指摘する。
 判断の鍵となったのは、教員の地位勧告にある「市民的権利」という概念。他人の権利を侵害しない限り、市民には自由に意見交換し、思考を深め、表現する権利がある。こういった権利は教員にも保障されるべきだという原則だ。
 「そうすることが教員の人間的成長につながり、ひいては教育の質、社会全体の向上に資するという思想が根底にある」(勝野教授)。
 「公務員である教員は職務命令に従う義務がある」と主張する文科省に、セアートは「たとえ職場であっても」と念押しした上で、座ったまま静かに拒否する行為は周囲に混乱をもたらすわけでもなく、市民的権利の範囲内だと強調。
 起立斉唱したくない教員も参加可能なルールについて、教員団体と対話することなど六項目を日本に求めるようILOとユネスコに勧告し、承認された。
 ◆ 都教委、文科省人ごと

 ところが、当の文科省と都教委は、今のところ徹底的に無視し続けている。
 勧告の実現を目指す市民団体との交渉で、文科省「わが国の実情や法制を十分斟酌(しんしゃく)しないまま記述されている」と真っ向から否定する。
 教員団体に対しては「国ではなく各教委と話し合うべきだ」と突き放す。

 げたを預けられた都教委は、より露骨に逃げの姿勢をみせる。
 十月上旬、市民団体と対面した指導企画課の小寺康裕課長は「勧告はあくまでも参考資料として文科省から送られてきた。見解を述べる立場にない」。
 主任指導主事の桐井裕美氏も「対話の機会を設けるつもりはない」と言い切る。
 市民団体側が勧告を読んでいるか尋ねると、「読んだかどうかも答えられない」と小寺課長。参加者全員をあぜんとさせた。
 「こちら特報部」は都教育行政のトップ・藤田裕司教育長に見解を聞いた。藤田教育長はメールで「本件勧告は日本政府に対して送付されたものであるため、内容について見解を述べる立場にはありません」。自分たちのことが問題視されているのに、あたかも人ごとのようだった。
 ◆ 世界の目 日本に厳しく

 市民団体は今後、文科省と都の対応をセアートに報告する。
 ILOとユネスコの勧告を無視し続けるとどうなるのか
 東京造形大の前田朗教授(国際人権法)は「日本の国際的評価をさらに下げるのは間違いない」と断言する。
 欧州シンクタンクが発表した男女平等ランキングで日本は百五十三力国中百二十一位。慰安婦問題難民申請者の長期拘束問題など、も国連から非難され、非政府組織(NGO)関係者らはすでに「人権後進国」と見始めているという。
 前田教授は「人間の内面の自由は、近代民主制の中核的部分であり、しっかり対応しないと他国から信頼されない。国際的な人権尊重の流れにも逆行している。国連などで日本政府の発言自体が相手にされなくなる日が訪れかねない」と警告する。
 ※ デスクメモ
 一九九九年八月、国旗国歌法が成立した。その直前の衆院議長報告によると英国、ドイツの学校では、入学式や卒業式ですら国旗国歌はなし。米国は学期中、国旗を掲揚すべきだと法で定めるが、国歌斉唱はおおむね現場側の判断。一方、中国は掲揚、斉唱を義務にしている。(裕)
『東京新聞』(2020年11月2日【こちら特報部】)

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