文部科学大臣 永岡 桂子殿
◎ 要 請 書
2020年から続くコロナ禍の影響により国連の自由権規約委員会を始めとして、人権条約関係の各委員会は開催が大幅に遅れていましたが、この8月に開催された障害者権利委員会に続いて、10月には自由権規約委員会の日本政府報告についての審査が行われました。また来年1月にはUPR審査での日本審査が行われる予定になっています。
この間に開催された各委員会の日本審査では、日本政府に対しての委員からの質問に対する政府関係者の回答には従来行われた答弁を再度繰り返す場面も少なくなく、その姿勢に疑問を感じたものでした。障害者権利委員会及び自由権規約委員会から出された総括所見では厳しい内容の勧告が示されました。さらに加えてILOユネスコ合同委員会からは国内の教育現場で長年行われている国旗、国歌の強制問題について2度に亘ってその改善を求める勧告も一方で出されています。
しかし、これまでも人権問題について国連の人権関係の各委員会から度々の勧告が出されていますが、残念ながら日本政府、各関係省庁におかれましては勧告内容を真摯に受け止め、誠意をもって対応するという姿勢が乏しく、また「法的拘束力がない」などを理由として、その内容が実現するに至っていません。
現在も国連人権理事会に理事国の一員として代表を送っている日本政府、関係各省庁におかれては、これらの勧告に対し、また以下に示す私たちの要望に対して是非とも前向きな姿勢、対応を強く要請するものです。
1.自由権規約第一選択議定書(個人通報制度)の早期の批准を求めます。
日本では自由権規約を1979年に批准して以来、自由権規約委員会から個人通報制度を規定する第一選択議定書の批准を求める勧告を何度も受けています。さらには、この11月に出された自由権規約委員会での日本審査の総括所見においても、再度にわたって「締約国は第一選択議定書への加入の見地から措置を講じなければならない」という、強い口調での勧告が示されました。これまで日本政府は「個人通報制度」について、国内の司法・立法制度との関係でその整合性などを問題として、他国の状況などを踏まえて検討する必要がある、などとして実現のための努力の様子も残念ながら見えません。国際的にはすでに自由権規約で116か国、女性差別撤廃条約でも109か国(2019年・日弁連資料より)で受け入れられている現状があり、「他国の状況を踏まえて検討する」という政府の見解は成り立ちません。人権理事国を務める日本の政府として、ぜひとも早期に個人通報制度の実現に向けて、選択議定書の批准に取り組んでいただくよう要求します。
2.国連社会権規約委員会が2013年5月、5年後の2018年5月までに無償教育の実行計画を定めるなど、A規約13条履行に必要な諸事項について回答を求めていますが、4年6ヵ月を過ぎた現在も日本政府はこれに応じていません。
2012年9月11日にA規約13条2(b)(c)の規定にかかわる留保を撤回し、規約に拘束されてから10年が経過した今日、早期に実行計画を作成し、政府報告を行うよう要請します。
3.東京都教育委員会は、条約遵守義務についてのNGOからの要請に対して、義務を認めない回答を繰り返しています。この姿勢は国の見解に反しているので、監督官庁として適切に指導助言して下さい。
【参考資料】
① 地方公共団体の条約遵守義務についての国の見解
「自由権規約が定める義務については、東京都教育委員会を含め、日本国内において、遵守される必要があります。いずれにせよ次回自由権規約の対日審査が実施される際には、勧告の内容などは地方公共団体にも周知する予定です。」(2021年12月9日 宮川光國外務省総合外交政策局人権人道課主査)
②NGOの「東京都教育委員会は自由権規約が定める義務を遵守するよう要請します」という要請に対する東京都教育委員会の回答
「都教育委員会は、締約国の地方公共団体として、国際人権規約について答える立場にありません。」(2022年3月7日 所管:総務部教育政策課)
4. 第7回自由権規約日本政府報告審査『総括所見』パラグラフ38では、不起立教員に対する停職6ヶ月処分などに懸念が表明され、パラグラフ39では「思想良心の自由」の制約が第18条で許容される制約の厳密な解釈を越えてなされることがないよう、自国の法律とその運用を規約に適合させるべきであるという勧告がなされました。
つまり、東京都の「10・23通達」とそれに基づく職務命令、処分は自由権規約18条に適合していないということです。法の運用を規約の基準に適合させるため、「10・23通達」を撤回するよう、都教委を指導して下さい。
5.セアートは2019年3月に続いて2022年6月にILOが勧告を公表しました。日本語訳作成を含め、当事者の教員や障がいのある子どもを含めた関係者のニーズに照らして式典の是正を勧告しています。11月の自由権規約委員会の勧告とセアートの勧告及び再勧告の日本語訳を、直ちに、東京都や全ての地方自治体の教育委員会に届けて下さい。
また、第7回日本政府報告審査・総括所見パラグラフ39に従い、卒業式・入学式等で障害への合理的配慮が行われ、思想良心の自由が制約されることが無いよう、東京都に対して「10.23通達」を撤廃するよう要請します。
6.私たちは、「障がいのある子どもや青年たち」の人権を重んじ、対等な人間関係を基礎にした、明瞭で十分に詳しい科学的な『包括的セクシュアリティ教育』を享受する権利を求め、以下の2点を を要請します。
2022年9月国連・障害者権利委員会からの「すべての障がい者が質の高い、年齢に応じた保健サービスと『包括的性教育』をとの勧告を、日本政府として真摯に受け止め早急に取り組んでください。
まずは「はどめ規定」をなくし、学校現場での自由な研究や討論を重ねて「包括的セクシュアリティ教育」を学校教育に位置付ける後押しをして下さい。
7.第7回自由権規約報告(事前質問票への回答)中、パラグラフ155、156の記述について見解を求めます
上記報告(事前質問票への回答)では、「従軍慰安婦」問題に関連して教科書に言及し、教科書検定には「政治的意図が介入する余地はない」と断言しています。しかしこれは、「従軍慰安婦」ならびに「強制連行」「強制労働」の記述について、昨年文部科学省が関連教科書発行者に訂正申請を要請(事実上は強要)した事実と明らかに矛盾しています。しかも、この訂正申請の原因は閣議決定によるものであり、その閣議決定は日本維新の会の議員による質問主意書への回答です。これは「政治介入」そのものではありませんか。このことについての見解を求めます。該当箇所の外務省仮訳と英語正文は別紙資料をご覧ください。
8.国連自由権規約委員会の総括所見の勧告への対応について見解を求めます
2022年10月28日に採択された日本政府報告に対する総括所見(CCPR/C/JPN/CO/7)は、パラグラフ29で「慰安婦」問題に言及し、"The Committee reiterates its previous recommendations and urges the State party to take immediate and effective legislative and administrative measures to ensure..." と述べています。このように厳しい表現になったのは、日本が以前の勧告(複数)を実行していないためにほかなりません。同パラグラフ(c)では教科書に言及し、" Education about the issue, including adequate references in textbooks, and strong condemnation of any attempts to defame victims or to deny the events." すなわち「教科書への十分な記述を含む、(「慰安婦」)問題についての教育ならびに被害者の名誉を損ねる、もしくはこの出来事を否認するあらゆる企てを強く非難すること」としています。文部科学省としては、これにどう応えるのか、ご説明ください。
ちなみに(c)は、第6回政府報告に対する総括所見(CCPR/C/JPN/CO/6)にもあった同趣旨の文言より強い表現になっています。これは日本政府が「慰安婦」問題に誠実に対応していないことを示しているというべきです。「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」(日本国憲法前文)のが日本政府の立場であるならば、国連の人権機関の勧告を重く受け止め、それを受け入れ、実行すべきではありませんか。見解を求めます。
以上、参加者からの発言・意見を人権改善のために役立てることを強く要求します。
2022年12月9日
国際人権活動日本委員会(JWCHR)
(国連経社理特別協議資格NGO)
議長 : 鈴 木 亜 英
〒107-0005 東京都豊島区南大塚2-33-10
東京労働会館内
Tel: 03-3943-2420; Fax: 03-3943-2431;
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