◇ 都教委事務局、市民の声選別 請願6割報告せず(TOKYO Web)
東京都教育委員会に提出された都民らからの請願のうち、有識者などでつくる合議制の教育委員会に内容が報告されたのは、過去三年間で三割程度だったことが本紙の調査で分かった。
残り六割強は、都職員で構成する事務局(都教育庁)の判断だけで対応していた。教職員の君が代斉唱や、給食の放射能検査をめぐる請願も報告されていない。都民の声が事務局の裁量で、ふるいに掛けられている実態が浮き彫りとなった。 (中山高志) =関連27面
◇ 過去3年 33件中21件
戦前の軍国教育の反省から、今の教育委員会制度は、外部の教育委員が、中立的な立場から事務局を指揮監督する仕組みとなっている。
実際は事務局の追認機関になっているとの批判があり、国の教育再生実行会議は見直しを提言している。
しかし肝心の委員に都民の声が十分届かない実態に「それが形骸化を生む」との声も出る。
本紙は、全国の都道府県教委事務局に、二〇一〇~一二年度に受理した請願の件数と、そのうち委員に報告した件数などを尋ねた。
都教委の事務局は計三十三件の請願を受け付けたが、二十一件は報告しなかった。報告したのは一一年度の二十二件のうち十二件だけ。一〇、一二年度に受け付けた請願は、一件も報告しなかった。
一方、請願が五件以上あった七府県のうち神奈川、千葉、愛知など六府県は全件を、滋賀県は五件中三件を報告していた。
◇ 教育委員会に 君が代斉唱など
都の事務局が報告しなかった請願には、君が代斉唱などを教職員に義務づける「一〇・二三通達」関連や、学校給食用牛乳の放射性物質測定をめぐる請願などがある。
事務局によると、要綱で「委員会決定に該当する請願」を委員会に報告すると定めている。
請願を選別する根拠となる、要綱そのものの改善を求める請願も六件あったが、要綱そのものをどうするかは「委員会決定」にあたらないという。
一方で、君が代斉唱関連は「すでに方針が決まったこと」だから報告しなかったという。
都教委教育情報課の波田健二課長は「教育委員会の効率的運営や請願の迅速な処理のため件数を絞っている。報告していないものも事務局で丁寧に対応している」としている。
◆ 改善行っている
木村孟(つとむ)都教育委員長の話
請願の取り扱いについては、これまでも必要な改善は行っているが、現在、基本的な仕組みについて変更は考えていない。
都民の意見や要望である「都民の声」の件数や主な内容は従来教育委員に資料配布されていたが、次回の教育委員会からは、請願や公益通報も含めて報告を受ける。
<請願>
憲法16条は損害救済や法律、規則改正などについて「平穏に請願する権利」を国民に保障し、請願法は、官公署が請願を「受理し誠実に処理しなければならない」と規定する。
自治体議会への請願は、地方自治法が「議員の紹介により提出しなければならない」などと定めているが、教育委員会への請願の法規定はない。
『東京新聞』(2013年6月25日 1面トップ)
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2013062590070905.html
◇ 「教育委員は裸の王様」
提出者「形骸化」と批判
地域の教育をつかさどる教育委員に聞いてほしいと願う都民の声を、委員に伝えていなかった東京都教育委員会の事務局(都教育庁)。提出された請願の多くを報告せず、職員で対応していた。
その理由があいまいな事例もあり、請願を提出した人たちは「憲法で保障された請願権を、公務員が侵害している」と訴える。(中山高志、1面参照)
◇ 請願 都の事務局が選別
「結局、事務局の考え方に合わない請願は伝えないということではないか。このままでは、教育委員は裸の王様になってしまう」
そう懸念するのは、市民団体「都立高校のいまを考える全都連絡会」の佐藤洋史さん(67)。
2011年、都立高校の教育内容にかかわる「都立高校改革推進計画」について、都民の意見をより反映させることを求める請願を提出した。保護者代表らによる検討会議の設置や、都民からの意見の募集期間を延長することなどを求める内容だ。
だが、事務局は教育委員会に報告しなかった。
取材に対し、事務局は「すでに決定された内容のため報告しなかった」と説明したが、その後「教育長が決定する項目に該当するため」と変更し、不透明さをうかがわせた。
元高校教諭の小俣三郎さん(70)も一〇年、「請願制度改善に関する請願」を持参し、教育委員会に請願が届かない現状の問題点を訴えようとした。
しかし、応対した事務局の職員はメモを取り「主管課に伝えて後日回答します」と言うのみだったという。
三カ月後、ようやく「請願処理方法などを規定した要綱の改正は、現在、考えておりません」と書かれた、一通の無味乾燥な文書が届いた。
名義は「東京都教育委員会」。委員長の名前すらなく、教育委員に報告されたかどうか読み取れない不親切な内容だった。
取材した結果、報告されていないと分かった。
「私たちの思いをどの程度、真剣に受け止めてくれたのか」とむなしさを感じたという小俣さん。「近年、教育委員会の存在意義が問われているが、形骸化をもたらしているのは、むしろこうした事務局の手法では」と指摘している。
◆ すべて伝えて当然
元兵庫教育大学学長で、大阪府箕面市教育委員長も務めた梶田叡一さんの話
教育委員会は、行政が必要な時に意見を聞く諮問機関ではなく、合議制の行政機関。請願は事務方がすべて教育委員会に伝えるのが当然で、請願を判断して報告するようなやり方は、教育委員会制度の根幹にかかわり、事務局が勝手に対応している印象を与えることにもなる。
教育委員会に対し請願という形で市民が声を出す道があることを、もっと積極的に知らせるべきだ。
『東京新聞』(2013年6月25日 【社会面】27面)
東京都教育委員会に提出された都民らからの請願のうち、有識者などでつくる合議制の教育委員会に内容が報告されたのは、過去三年間で三割程度だったことが本紙の調査で分かった。
残り六割強は、都職員で構成する事務局(都教育庁)の判断だけで対応していた。教職員の君が代斉唱や、給食の放射能検査をめぐる請願も報告されていない。都民の声が事務局の裁量で、ふるいに掛けられている実態が浮き彫りとなった。 (中山高志) =関連27面
◇ 過去3年 33件中21件
戦前の軍国教育の反省から、今の教育委員会制度は、外部の教育委員が、中立的な立場から事務局を指揮監督する仕組みとなっている。
実際は事務局の追認機関になっているとの批判があり、国の教育再生実行会議は見直しを提言している。
しかし肝心の委員に都民の声が十分届かない実態に「それが形骸化を生む」との声も出る。
本紙は、全国の都道府県教委事務局に、二〇一〇~一二年度に受理した請願の件数と、そのうち委員に報告した件数などを尋ねた。
都教委の事務局は計三十三件の請願を受け付けたが、二十一件は報告しなかった。報告したのは一一年度の二十二件のうち十二件だけ。一〇、一二年度に受け付けた請願は、一件も報告しなかった。
一方、請願が五件以上あった七府県のうち神奈川、千葉、愛知など六府県は全件を、滋賀県は五件中三件を報告していた。
◇ 教育委員会に 君が代斉唱など
都の事務局が報告しなかった請願には、君が代斉唱などを教職員に義務づける「一〇・二三通達」関連や、学校給食用牛乳の放射性物質測定をめぐる請願などがある。
事務局によると、要綱で「委員会決定に該当する請願」を委員会に報告すると定めている。
請願を選別する根拠となる、要綱そのものの改善を求める請願も六件あったが、要綱そのものをどうするかは「委員会決定」にあたらないという。
一方で、君が代斉唱関連は「すでに方針が決まったこと」だから報告しなかったという。
都教委教育情報課の波田健二課長は「教育委員会の効率的運営や請願の迅速な処理のため件数を絞っている。報告していないものも事務局で丁寧に対応している」としている。
◆ 改善行っている
木村孟(つとむ)都教育委員長の話
請願の取り扱いについては、これまでも必要な改善は行っているが、現在、基本的な仕組みについて変更は考えていない。
都民の意見や要望である「都民の声」の件数や主な内容は従来教育委員に資料配布されていたが、次回の教育委員会からは、請願や公益通報も含めて報告を受ける。
<請願>
憲法16条は損害救済や法律、規則改正などについて「平穏に請願する権利」を国民に保障し、請願法は、官公署が請願を「受理し誠実に処理しなければならない」と規定する。
自治体議会への請願は、地方自治法が「議員の紹介により提出しなければならない」などと定めているが、教育委員会への請願の法規定はない。
『東京新聞』(2013年6月25日 1面トップ)
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2013062590070905.html
◇ 「教育委員は裸の王様」
提出者「形骸化」と批判
地域の教育をつかさどる教育委員に聞いてほしいと願う都民の声を、委員に伝えていなかった東京都教育委員会の事務局(都教育庁)。提出された請願の多くを報告せず、職員で対応していた。
その理由があいまいな事例もあり、請願を提出した人たちは「憲法で保障された請願権を、公務員が侵害している」と訴える。(中山高志、1面参照)
◇ 請願 都の事務局が選別
「結局、事務局の考え方に合わない請願は伝えないということではないか。このままでは、教育委員は裸の王様になってしまう」
そう懸念するのは、市民団体「都立高校のいまを考える全都連絡会」の佐藤洋史さん(67)。
2011年、都立高校の教育内容にかかわる「都立高校改革推進計画」について、都民の意見をより反映させることを求める請願を提出した。保護者代表らによる検討会議の設置や、都民からの意見の募集期間を延長することなどを求める内容だ。
だが、事務局は教育委員会に報告しなかった。
取材に対し、事務局は「すでに決定された内容のため報告しなかった」と説明したが、その後「教育長が決定する項目に該当するため」と変更し、不透明さをうかがわせた。
元高校教諭の小俣三郎さん(70)も一〇年、「請願制度改善に関する請願」を持参し、教育委員会に請願が届かない現状の問題点を訴えようとした。
しかし、応対した事務局の職員はメモを取り「主管課に伝えて後日回答します」と言うのみだったという。
三カ月後、ようやく「請願処理方法などを規定した要綱の改正は、現在、考えておりません」と書かれた、一通の無味乾燥な文書が届いた。
名義は「東京都教育委員会」。委員長の名前すらなく、教育委員に報告されたかどうか読み取れない不親切な内容だった。
取材した結果、報告されていないと分かった。
「私たちの思いをどの程度、真剣に受け止めてくれたのか」とむなしさを感じたという小俣さん。「近年、教育委員会の存在意義が問われているが、形骸化をもたらしているのは、むしろこうした事務局の手法では」と指摘している。
◆ すべて伝えて当然
元兵庫教育大学学長で、大阪府箕面市教育委員長も務めた梶田叡一さんの話
教育委員会は、行政が必要な時に意見を聞く諮問機関ではなく、合議制の行政機関。請願は事務方がすべて教育委員会に伝えるのが当然で、請願を判断して報告するようなやり方は、教育委員会制度の根幹にかかわり、事務局が勝手に対応している印象を与えることにもなる。
教育委員会に対し請願という形で市民が声を出す道があることを、もっと積極的に知らせるべきだ。
『東京新聞』(2013年6月25日 【社会面】27面)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます