『東京新聞』2019年1月18日「頓挫が相次ぐ輸出計画」
たんぽぽ舎です。【TMM:No3551】【TMM:No3552】地震と原発事故情報
◆ 年末年始の原子力報道を読む
重要ニュースが伝えられない現代社会の闇
山崎久隆(たんぽぽ舎副代表)
1.経済界からの悲鳴 「国民が反対するものはつくれない」…中西経団連会長
1月5日、東京新聞が一面で大きく報じた中西宏明経団連会長(日立製作所会長)の言葉が波紋を広げている。年初の報道各社とのインタビューで今後の原発政策について次のように語った。
「東日本大震災から8年がたとうとしているが東日本の原発は再稼働していない。国民が反対するものはつくれない。全員が反対するものをエネルギー業者や日立といったベンダー(設備納入業者)が無理につくることは民主国家ではない」(東京新聞1月5日)
「お客さまが利益を上げられない商売でベンダー(提供企業)が利益を上げるのは難しい。どうするか真剣に一般公開の討論をするべきだと思う。」(日刊ゲンダイ1月6日)
中西会長は昨年12月17日の会見でも、英国アングルシー島の原発建設計画についても「(今の枠組みでは)もう限界だと英政府に伝えた」と明らかにし、事実上の撤退を示唆している。
ところが、極めて重要なこれらニュース、他紙はほとんど取り上げていないか紙面の片隅にしか載せていない。既存のニュースがこれではネットニュースに負けるのは当然ではないか。
原発政策全般に対して、経済界が悲鳴を上げ、安倍政権による「原発輸出をはじめとした原子力推進政策」について行けなくなっているのだ。
2.東海第二原発再稼働への批判
「地元自治体の同意も見通せず原電の経営の先行きは不透明なまま」
規制委が適合性審査の決定書を出した原発の中でも最も批判の大きな原発
2018年11月8日付けの日本経済新聞の見出しにはちょっと驚かされた。
「老朽原発、さらに20年東海第2延長認可地元同意ハードル原電、経営なお不透明」
価値観を伴う言葉「老朽化」を、日本経済新聞が見出しで使った。
毎日新聞、東京新聞や朝日新聞では普通だが、日本経済新聞ではかなり珍しい。記事を書いた記者もよほど腹を据えかねたのだろう。
リード部も以下の通り。
「原子力規制委員会が7日、今月末に運転開始から40年を迎える日本原子力発電東海第2原子力発電所(茨城県東海村)について、最長20年間の運転延長を認めた。大がかりな工事が必要で、再稼働は2021年以降になる見通し。地元自治体から同意が得られるかも見通せず、原電の経営の先行きは不透明なままだ。」
同じく11月8日の北海道新聞の社説は旗幟鮮明でありわかりやすい。
「東海第2原発 運転延長は筋が通らぬ」と題し、
「老朽原発の事故リスクを減らすために設けた「40年ルール」が、これでは骨抜き同然ではないか。規制委の判断は大いに疑問だ。」
「規制委は、新基準への適合、安全対策の工事計画、運転延長という三つの審査を同時に進め、今年7月以降、相次ぎ合格を認めた。原電が事業を存続できるように、最優先して審査を行ったと受け取られても仕方ない。」
「どう見ても運転延長は筋が通らない。原電や株主の電力各社は、老朽原発を無理に延命するのではなく、存廃も含め原電の経営自体を抜本的に見直す必要がある。」と、常識的な主張をしている。
同じく朝日新聞も社説で
「東海第二原発再稼働は容認できない」
「東海第二の運転には懸念や疑問が多い。人口が密集し事故時の避難が難しい首都圏の老朽原発を、原則を超えて長く動かす正当な理由は見当たらない。再稼働は認められない。」
としている。
新聞記事で「再稼働判断は当然」とする社は産経新聞を除きほとんど見当たらない。価値判断を加えない記事でも地元同意は難航又は困難との見方で一致している。
規制委がこれまでに新規制基準適合性審査の決定書を出した原発の中でも最も批判の大きな原発であることは確かだ。
3.原発輸出を批判する毎日新聞社説
「原発輸出を成長戦略の柱に据えることは国民からも根強い批判」
12月25日、毎日新聞は社説で「総崩れの原発輸出 官邸・経産省の責任は重い」との記事を出した。
日立による英国原発建設計画の停滞と、三菱重工とアレバの合弁会社であるアトメア社によるトルコへの原発輸出の失敗、さらにはベトナム、リトアニアへの原発輸出からの撤退について問題としたものだ。
原発輸出は、東芝の米国、サウステキサスプロジェクトの破綻に続き、全部壊滅した。
「そもそも、日本は史上最悪レベルの原発事故をひき起こし、数十年にわたる廃炉作業の道半ばにある。原発輸出を成長戦略の柱に据えることに対しては、国民の間からも根強い批判がある。」
「そこで政府は、経済成長に伴って電力需要が急増する途上国に、低コストの電気を供給して貢献するという大義を掲げてきた。しかし、建設コストの高騰で、その大義も失われたわけだ。」
と批判し
「政府は、世界の潮流を見据え、速やかな脱原発に向けて原子力政策を抜本的に見直すべきだ。」
としている。
4.強制起訴された東電旧経営陣三人への求刑は禁固五年
業務上過失致死傷罪で強制起訴された東電旧経営陣三人の論告求刑公判が12月26日に東京地裁で開かれた。検察官役の指定弁護士は勝俣恒久元会長ら被告3人にそれぞれ禁錮5年を求刑した。武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長の二人は、それぞれ原子力・立地本部長、副本部長を務めている。
この報道も少ないと思う。その中で、12月27日の福島民報から。
業務上過失致死傷罪の法定刑は5年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金だから指定弁護士は法定刑の上限を地裁に求めた。
この裁判では二つの争点、津波を予見できたか、対策をすれば事故が防げたのかが争われている。
被告側は「長期評価の科学的な信頼性がなかった」から「津波を予見できなかった」と主張、さらに「試算に基づいて防潮堤を作っていても被害を防ぐことは出来なかった。」としている。
しかし指定弁護士は、膨大な資料を基に「東北地方の太平洋側ではどこでも大津波が起きる危険がある」とした国の地震予測「長期評価」が示された後に、それに基づき、東電が社内外の専門家によりまとめた「津波対策」において、津波波高の試算を行い15.7メートルにも達するとの結果を元に、具体策も策定していて、方針を説明して被告人を含む東電上層部の了解を得る段階になっていたことを示した。
しかし、決定的な場面で、津波対策工事は先送りされ、「土木学会での検討」という意味の無い時間稼ぎの場面に移行してしまった。
その後、何度も津波対策工事に着手しなければならないと経営陣が決断すべき場面があったが、それらは見逃された。「情報収集義務」が課せられている経営陣は、これを前提とする予見可能性があったと言うべきだ。
なぜ対策工事を行わなかったのか、その理由は、工事には数百億円の費用と長い年月がかかり、当然のこととして工事中は福島第二も含めて原発を止めなければならず、それによる経済損失を恐れたこと、さらに福島県に対し、このようなリスクのある原発であることを説明することを嫌ったものと思われる。
今後裁判は、3月12、13の両日に無罪を主張する被告側の主張を改めて聴く最終弁論を行い、結審する予定だ。
5.何をすべきかもう一度考えよう
全ての知見を結集して福島第一原発事故の対応-再度の放射能汚染の防止と事故の真の原因究明を進めるべき
除染作業や廃炉作業などの被曝労働に外国人導入は絶対にしてはならない
日本の原子力で最優先課題は、福島第一原発事故の対応であることは異論は無いと思う。老朽原発を無理矢理動かしたり断層の真上にある原発の再稼働を推進などしている場合ではない。
全ての知見を結集して福島第一原発事故の対応、すなわち再度の放射能汚染の防止と、事故の真の原因究明を進めるべきだ。
国会事故調も政府事故調も、最終報告を書いていない。2012年に報告書を出した時点の限られた知見で一定の結論を出しただけである。
原発の内部が分かり始めた今こそ、何が起きたのかを調べるときだ。
さらに、廃炉にした原発の安全管理や、使用済燃料、高レベル放射性廃棄物などの核のゴミの安定及び安全管理を早急に実現しなければならないはずだ。
原子力に携わる人員は減少の一途、危機的な状況にある。
核の現場には、いわゆる「外国人材」を導入できないし、してはならない。
国は除染作業や廃炉作業などの被曝労働に外国人を導入したいのだろうが(実際に、既に除染作業について違法に外国人実習生を使っている事実が明らかになっている)それは絶対にしてはならないことだ。
被曝を最小限に抑えつつ、事故の後始末や廃炉・廃止処理を行うには、時間をかけて放射線が減衰するのを待つのが最も良い方法だ。時間はかかるが安全性はより高い。
そのことをもう一度考えるべきだ。 (了)
(2019.1.13発行「脱原発東電株主運動ニュース」No280より転載)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます