《【労働情報】特集・教員「1年変形」の危険性》
◆ 夫の過労死から考える 「1年変形」への危惧と不安
臨時国会という大変短い時間の中で、教師の働き方に「1年間の変形時間労働制」が現場の先生方に理解されないまま導入されようとしている。今回導入されるかもしれないと聞いた時、夫や夏休み前に亡くなった多くの先生が死をたどった過程を思い出し、過労死等が増えてしまうと大変な危機感を持っている。
◆ 夏休みが待てずに
12年前、公立中学校の教師だった夫は40歳の若さでくも膜下出血で突然他界した。教師の仕事が大好きで、元気いっぱいの体育教師、生徒指導専任で死からは遠く離れた教師だったが、通常ではない過重で過密、責任を伴う仕事で常に長時間労働の中、過労死してしまった。
夫の仕事は心身ともに過重過密で、1日で疲れが回復することも出来ず、どんどん疲労が蓄積され、1年前の脳ドックで将来くも膜下になる可能性はほとんどないと言われたはずが、疲労により発症してしまった。
結局休めると目指していた夏休みまで体は持たなかった。
家族の会で公務災害を担当し教師の過労死事案を調べると、脳心疾患で35件中6月が1番多く8件、夏休みを待たずに5~7月に力尽きてしまう先生が14件と全体の約4割を占める。
1番多忙な時期の定時を増やしたら、みかけの残業時間は滅るが、その分今の業務量が減らない限り合法的な残業が増えるだけで働く時間は減らないばかりか繁忙期に更に長時間労働になってしまうのではと懸念する。
そもそも人間のサーガディアンリズムは24時間サイクルで、睡眠不足や睡眠の質が低下すると過労死等が起こりやすくなる。
夏休みのまとめ取り自体は良いと思うが、夏休み以外の時期に1日で疲れを取れなくなる労働になってしまっては本末転倒である。
◆ 公務災害も認められにくく
また、公務災害認定にも影響を及ぼすのではないか。
夫の場合6ヵ月で328時間15分については証拠がない、自主的な仕事とされ労働時間として認められなかった。そんな中、発症前6ヵ月間でやっと認定された時間外労働が最も少ないのは4月で44時間だった。
もし週3回3時間×4週間労働時間が増えたとすると12時間定時が伸びるので、その間の時間外労働は44時間-12時間=32時間となる。
昨年度の『過労死等防止白書』によると、公務災害認定事案での時間外労働は発症前1~6ヵ月平均80時間に対し、認定外は発症1~6ヵ月前が32・5時間である。これに照らすとわが家は公務外となる。
公務災害がますます認められにくくなるのではないかと危惧する。
今後一年間の変形時間労働制が導入された場合、例えば上限を越した時、また時短ハラスメント、介護や子どものお迎えができにくい状態が起きた時は誰がどの様にそれを把握し、指導するのだろうか。
神戸の教師間のいじめ事件の対応では、文科省から各自治体に対応をする様に指示するだけで、各自治体もいまだに対応に混乱をきたしているという問題がある。
今後条例となった場合、きちんと体制ができていない中で、同じ問題が起こる可能性が大きいと考える。
わが家の公務災害認定3ヵ月後、当時の教育長より「認定されたので公務災害だと考えられる」そして産業医の面接指導などへの依頼書が回っただけで、夫の死はお悔やみの言葉も防止策も責任者も何もなく無駄死にしたという感覚が今でも悲しく残る。
いつも教師の事故、疾病について責任の所在なく、多くの先生方が病死として扱われている今、きちんと管理できるとは思えない。
各地で人事委員会へ勤務時間の適正化など(労働時間、内容、休憩時間)の措置要求が行われているが、話し合いが難航している事実がある。
各自治体に降りた場合、人事委員会はどれだけ機能するのか。企てに対して文科省はどこまで責任を負い介人して是正できるのかの具体が分からない。
学校単位、人事委員会、教育委員会だけでは無理がある。
労働基準監督署の様な第三者的な見方ができる機関や文科省内でもきちんと個々の意見を匿名でも相談ができ改善につながる様な「ホットライン、ライフライン」的なものを作っていただきたい。働く先生方が安心できる体制が確立されなければ、不安のままである。
◆ 負の連鎖断つとき
この度、現役の高校教師の斉藤ひでみ先生とともに9月16日より「1年間の変形時間労働制を撤回して下さい」という署名を行ったところ、半月で約3万筆の署名と600を超えるコメントが集まった。
定時が伸びた分、会議が遅い時間に設定されないか、部活動が所定時間内という事で強制されないか、保育園に迎えに行ったり介護のある人はどうするのか……。こうならないようなガイドラインや指針が出来たとしても、労基署という監督機関がないなか、全教員にこれらがきちんととれる担保があるのか、今回の署名でも多くのコメントが寄せられている。
また多くの先生方が有給休暇を消化しきれない中、有給がしっかり消化できるのか、夏休みがしっかりとれるのか、部活動は、研修は?プール指導は?どうするのだろうか。
今も8月に時間外労働が発生している。仮に変形時間労働制が導入されるのであれば、まずは業務量を減らす、もちコマ数を減らす、先生の数を増やし仕事が楽になったと実感できることから始めていただきたい。
現場の先生方の中では、導入されることによって何がプラスになるのか、ほとんどの方がイメージ出来ず不安なままである。夫は大好きな仕事で、一番大切な生徒に生きることを教える学校で死ぬ姿を見せてしまった。
17年間子ども達をひきつけ大きな影響を与えてきた夫の最期が過労死だという事は最悪の結果で、夫も天国で後悔しているだろう。
先生が健康で幸せでなくては子ども達に行き届いた教育を届けられず、また長時間労働が当たり前な子ども達を作るという負の連鎖となる。今この時期に早急に決める事だろうか、今一度現場の声を聞きながら再考していただきたい。
『労働情報 NO.988』(2019.12)
◆ 夫の過労死から考える 「1年変形」への危惧と不安
工藤祥子さん(神奈川過労死等を考える家族の会代表〉
臨時国会という大変短い時間の中で、教師の働き方に「1年間の変形時間労働制」が現場の先生方に理解されないまま導入されようとしている。今回導入されるかもしれないと聞いた時、夫や夏休み前に亡くなった多くの先生が死をたどった過程を思い出し、過労死等が増えてしまうと大変な危機感を持っている。
◆ 夏休みが待てずに
12年前、公立中学校の教師だった夫は40歳の若さでくも膜下出血で突然他界した。教師の仕事が大好きで、元気いっぱいの体育教師、生徒指導専任で死からは遠く離れた教師だったが、通常ではない過重で過密、責任を伴う仕事で常に長時間労働の中、過労死してしまった。
夫の仕事は心身ともに過重過密で、1日で疲れが回復することも出来ず、どんどん疲労が蓄積され、1年前の脳ドックで将来くも膜下になる可能性はほとんどないと言われたはずが、疲労により発症してしまった。
結局休めると目指していた夏休みまで体は持たなかった。
家族の会で公務災害を担当し教師の過労死事案を調べると、脳心疾患で35件中6月が1番多く8件、夏休みを待たずに5~7月に力尽きてしまう先生が14件と全体の約4割を占める。
1番多忙な時期の定時を増やしたら、みかけの残業時間は滅るが、その分今の業務量が減らない限り合法的な残業が増えるだけで働く時間は減らないばかりか繁忙期に更に長時間労働になってしまうのではと懸念する。
そもそも人間のサーガディアンリズムは24時間サイクルで、睡眠不足や睡眠の質が低下すると過労死等が起こりやすくなる。
夏休みのまとめ取り自体は良いと思うが、夏休み以外の時期に1日で疲れを取れなくなる労働になってしまっては本末転倒である。
◆ 公務災害も認められにくく
また、公務災害認定にも影響を及ぼすのではないか。
夫の場合6ヵ月で328時間15分については証拠がない、自主的な仕事とされ労働時間として認められなかった。そんな中、発症前6ヵ月間でやっと認定された時間外労働が最も少ないのは4月で44時間だった。
もし週3回3時間×4週間労働時間が増えたとすると12時間定時が伸びるので、その間の時間外労働は44時間-12時間=32時間となる。
昨年度の『過労死等防止白書』によると、公務災害認定事案での時間外労働は発症前1~6ヵ月平均80時間に対し、認定外は発症1~6ヵ月前が32・5時間である。これに照らすとわが家は公務外となる。
公務災害がますます認められにくくなるのではないかと危惧する。
今後一年間の変形時間労働制が導入された場合、例えば上限を越した時、また時短ハラスメント、介護や子どものお迎えができにくい状態が起きた時は誰がどの様にそれを把握し、指導するのだろうか。
神戸の教師間のいじめ事件の対応では、文科省から各自治体に対応をする様に指示するだけで、各自治体もいまだに対応に混乱をきたしているという問題がある。
今後条例となった場合、きちんと体制ができていない中で、同じ問題が起こる可能性が大きいと考える。
わが家の公務災害認定3ヵ月後、当時の教育長より「認定されたので公務災害だと考えられる」そして産業医の面接指導などへの依頼書が回っただけで、夫の死はお悔やみの言葉も防止策も責任者も何もなく無駄死にしたという感覚が今でも悲しく残る。
いつも教師の事故、疾病について責任の所在なく、多くの先生方が病死として扱われている今、きちんと管理できるとは思えない。
各地で人事委員会へ勤務時間の適正化など(労働時間、内容、休憩時間)の措置要求が行われているが、話し合いが難航している事実がある。
各自治体に降りた場合、人事委員会はどれだけ機能するのか。企てに対して文科省はどこまで責任を負い介人して是正できるのかの具体が分からない。
学校単位、人事委員会、教育委員会だけでは無理がある。
労働基準監督署の様な第三者的な見方ができる機関や文科省内でもきちんと個々の意見を匿名でも相談ができ改善につながる様な「ホットライン、ライフライン」的なものを作っていただきたい。働く先生方が安心できる体制が確立されなければ、不安のままである。
◆ 負の連鎖断つとき
この度、現役の高校教師の斉藤ひでみ先生とともに9月16日より「1年間の変形時間労働制を撤回して下さい」という署名を行ったところ、半月で約3万筆の署名と600を超えるコメントが集まった。
定時が伸びた分、会議が遅い時間に設定されないか、部活動が所定時間内という事で強制されないか、保育園に迎えに行ったり介護のある人はどうするのか……。こうならないようなガイドラインや指針が出来たとしても、労基署という監督機関がないなか、全教員にこれらがきちんととれる担保があるのか、今回の署名でも多くのコメントが寄せられている。
また多くの先生方が有給休暇を消化しきれない中、有給がしっかり消化できるのか、夏休みがしっかりとれるのか、部活動は、研修は?プール指導は?どうするのだろうか。
今も8月に時間外労働が発生している。仮に変形時間労働制が導入されるのであれば、まずは業務量を減らす、もちコマ数を減らす、先生の数を増やし仕事が楽になったと実感できることから始めていただきたい。
現場の先生方の中では、導入されることによって何がプラスになるのか、ほとんどの方がイメージ出来ず不安なままである。夫は大好きな仕事で、一番大切な生徒に生きることを教える学校で死ぬ姿を見せてしまった。
17年間子ども達をひきつけ大きな影響を与えてきた夫の最期が過労死だという事は最悪の結果で、夫も天国で後悔しているだろう。
先生が健康で幸せでなくては子ども達に行き届いた教育を届けられず、また長時間労働が当たり前な子ども達を作るという負の連鎖となる。今この時期に早急に決める事だろうか、今一度現場の声を聞きながら再考していただきたい。
『労働情報 NO.988』(2019.12)
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