◆ 「ババァ」発言などを問う・第二次石原裁判 ◆
2007/02/02
● 第二次石原「ババア」発言裁判、判決 ●
日時:3月27日(火)13:10~
場所:東京地裁712号法廷(東京メトロ「霞ヶ関」駅A1出口)
「女性は子どもを産む機械」と発言し、女性の人権を否定した女性蔑視の発言であるとして厳しい批判にさらされている柳沢伯夫・厚労大臣ですが、石原慎太郎・東京都知事の「ババァ」発言(生殖能力を失った女性を「ババァ」と誹謗中傷し、「生き続けるのは無駄で罪だ」などとメディアや公の場で発言したもの)も、女性蔑視の発言として訴えられたことは記憶に新しいところです。
東京高裁で原告の訴えは棄却されましたが、一審判決後の記者会見において石原都知事が、「あれは裁判のための裁判。パフォーマンスだ」などと原告を誹謗中傷したことに対し、石原都知事と東京都に謝罪と損害賠償、東京都ホームページから当該発言の削除を求め、原告92名が新たに提訴した「第二次石原裁判」(平成18年〈ワ〉第8261号)が、東京地裁で審理されています。その第5回口頭弁論が1月30日(火)午後1時20分より東京地裁で行われました。
● 法廷での主なやりとり
「第二次石原裁判」は東京地裁712号法廷で行われました。法廷の前の掲示板に書いてある裁判長の名前などをメモしたあと、中に入ると、すでに裁判が始まっていて、裁判長(高野伸裁判長)がなにか言っていました。
1時20分から始まるということだったのですが、5分ほど早く始まったことをあとで知りました。傍聴席は結構埋まっていて、新聞などではほとんど報道されるこのないこの裁判に対する関心が、意外と高いことを知りました。ただ、傍聴にきている人たちはこの裁判の原告の人たちなどで、裁判に関わりのある人たちが多いような印象を受けました。
裁判長がやや早口で「弁論終結」という言葉を口にしたので、急いでメモをとりました。法廷でのやり取りは専門用語が多い上に、民事裁判の場合、書面や文書でのやり取りが中心となるため、そこで話し合われている内容を傍聴人が理解するのはなかなか難しい面があるのですが、今回の口頭弁論で主に話し合われたことは、(被告の)石原都知事と東京都は切り離して裁判を行うこと、石原都知事については(今回で)弁論終結し、3月27日午後1時10分に判決言い渡しをすること。また、もう一方の被告である東京都については、次回原告2名が本人尋問をそれぞれ40分ずつ行うこと、裁判所としてはその尋問をもって終結をする可能性があること、よって原告被告ともに主張があるなら提出可能なものについては提出してほしい、との裁判長からの申し渡しがありました。
石原都知事と東京都を切り離して審理をすると裁判長が告げると、原告代理人(弁護士)から「石原都知事本人の尋問はないんですか?」という質問があり、裁判長は「(石原については)分離して終結。石原の本人尋問はない」と答え、分離することについては、「法律の問題」としました。原告代理人が重ねて「石原都知事の尋問はないということか」と聞くと、「いま申したとおり、被告本人の尋問は必要ない」との裁判所の判断を示しました。
被告代理人は6名きていたのですが、ほとんど発言することはなく、裁判長に次回行われる原告本人の尋問に対する反対尋問に要する時間を問われても、「とくに聞くことはありません」と答えていました。淡々と裁判をしているように見える被告代理人の態度に比べ、4名の原告代理人は積極的に意見や要望を述べ、裁判に対する意気込みの違いを感じさせました。
最後に、準備書面を補足する形で原告の1人であるM.Wさんが陳述書を読み上げました。
● M.Wさんの陳述書
私は、石原慎太郎都知事による女性差別発言の撤回と謝罪を求めた前提裁判の原告でした。2001年暮れに『週刊女性』誌上で「ババァ」発言を知り、その後事実関係の調査や公開質問状の提出など、一連の作業に関わった事務局の一員でもありました。あらゆる手段を試みた後、裁判は被害回復のための最後の手段でした。
その裁判の地裁判決後、記者会見で石原都知事は裁判自体を「パフォーマンス」と呼び、私たちを「(ある会合にいた)変な左翼」と呼びました。この「変な左翼」という名指しは、私に不安と恐怖を与えるものでした。
言うまでもなく、私は「ある会合」が何のことかわかりませんし、「変な左翼」呼ばわりされる謂われもありません。この発言自体が事実に反しており、侮辱です。と同時に、私たち原告を「変な左翼」とメディアに流布したため、尊厳の回復を求めて闘う私を周囲の人が揶揄しているのではないか、という不安を感じるようになりました。
私が石原都知事の差別発言を許さず裁判の原告となっていることは、友人・知人たちも知っており、必ずしも理解し協力してくれる人ばかりではないからです。石原都知事には少なくとも「どの会合」に「誰がいたのか」事実関係を明らかにして頂かなければなりません。
私たちは「生きていても無駄なババァ」に加えて、「変な左翼」と名指しされました。そして今、ネット上には「変な左翼のババァがまた裁判を起こした」と書き込みがあります。私たちはすでに「変な左翼」と「ババァ」のセットで見ず知らずの誰かから攻撃を受け始めています。権力と影響力を持った都知事がメディアを通じて女性差別を植え付けていることは、ただ単に彼に侮辱された、という怒りだけに終わらず、恐怖を呼び起こします。
(中略)
2006年8月15日に起きた加藤紘一議員宅の放火事件も人ごとではありません。都知事のように影響力のある人間の差別発言や暴力的発言に呼応してしまう人がいるのではないか、という恐怖は、現実的なものです。
私は一人住まいのため、夜の物音には特別に気をつけ、深夜に帰宅するときにはアパートに入る前に振り返るようになりました。このように恐怖を感じたり、様々な場面で我慢し、自己規制することによる損失は、はかることができません。
私はまだ閉経を迎えていませんが、生きていれば無駄な存在になっていくと名指しされた絶望、怒り、そして恐怖を感じ、人間の生きる価値を生殖能力で判断する誤った考えは、都知事自身の謝罪によって正さなければならないと前提裁判の原告になりました。
折しも、一昨日、柳沢厚生労働大臣が「女は子を生む機械」と発言しました。石原都知事による「ババァ」発言後、このような政治家による女性蔑視発言は後をたちません。女性は歳をとればとるほど価値が低くなると常につきつけられるこの日本社会で、都知事が社会における偏見をただすどころか、強化していく発言を繰り返すのを許すことはできません。
石原都知事が事実を明らかにし、過ちを認め、謝罪することは、私が言葉の暴力による被害から回復するための第一歩です。そして、暴力の恐怖から解放され、少しでも安心して暮らすことができるよう、裁判官の適切なご判断を心から願っています。
裁判のあとの説明会
裁判のあと、弁護士さん(原告代理人)から裁判についての説明がありました。傍聴人の多くが、なぜ石原都知事が分離裁判となったのか、その理由について質問すると、弁護士さんは、公務員は公務で発言したことについては個人の責任が問われないため、その言動についても責任を問うことができない、とする最高裁の判決があり、法律判断であるとの見方を示しました。裁判所は過去の判例に従うことが多いので、今回も過去の判例に従ってそのような結論を導き出したのではないか、ということでした。
判決については「予断を許さない」といった厳しい見方を示しながら、次回の口頭弁論で原告の本人尋問があるので、すべての原告の思いを代表して訴えたいとの説明がありました。弁護士さんの説明を聞いた傍聴人の中から、石原都知事に対する本人尋問がなく、分離裁判となったことに対し、「なんか、くやしい」と納得のいかない思いを口にする人たちもいました。
筆者の感想
石原都知事の「ババァ」発言に対し、女性たちが提訴したというニュースは新聞等の報道で知っていましたが、裁判で敗訴したあとも、新たな裁判が行われていることは知りませんでした。
今回、「第二次石原裁判」の口頭弁論を傍聴し、この問題がいかに深刻な問題をはらんでいるか、原告の一人が法廷で読み上げた陳述書を聞き、いまさらながらにそのことを思い知ったような気がしました。陳述書を読み上げた女性の思いは、この裁判を起こした原告すべての思いであることが、裁判を傍聴し、その後の説明会での話を聞いているとよくわかります。
社会に大きな影響力をもつ東京都知事という職にある人物が、メディアや公の場で女性蔑視の発言をすることがいかに多くの女性たちを傷つけているか、また、その言動に対してなんの責任も問われないことがさらなる差別発言を生み出し、第2、第3の石原発言となっていることに対し、司法だけでなく、私たちの社会はあまりに寛容でありすぎることを、この裁判は私たちに教えてくれているような気がします。
今回の「女性は子どもを産む機械」と発言した柳沢厚生大臣に対する女性たちの怒りが大きいのも、それが単なる失言ではなく、そのような言葉が出てくる背景にあるものに対する憤りなのだと思います。より高い規範意識が求められる国務大臣や都知事といった立場にいる人たちは、その言動の影響力を考え、発言については現に慎むべきであると同時に、政治家である前に一人の人間として、他者の思いを汲み取ることのできる人であってほしい、との思いを強くしました。
次回の第6回口頭弁論は、4月24日(火)午後1時30分~3時30分 東京地裁第712号法廷。
なお、分離裁判となった石原都知事に対する判決は、3月27日(火)午後1時10分からです。
(ひらのゆきこ)
「JANJAN」
http://www.janjan.jp/government/0702/0702019255/1.php
2007/02/02
● 第二次石原「ババア」発言裁判、判決 ●
日時:3月27日(火)13:10~
場所:東京地裁712号法廷(東京メトロ「霞ヶ関」駅A1出口)
「女性は子どもを産む機械」と発言し、女性の人権を否定した女性蔑視の発言であるとして厳しい批判にさらされている柳沢伯夫・厚労大臣ですが、石原慎太郎・東京都知事の「ババァ」発言(生殖能力を失った女性を「ババァ」と誹謗中傷し、「生き続けるのは無駄で罪だ」などとメディアや公の場で発言したもの)も、女性蔑視の発言として訴えられたことは記憶に新しいところです。
東京高裁で原告の訴えは棄却されましたが、一審判決後の記者会見において石原都知事が、「あれは裁判のための裁判。パフォーマンスだ」などと原告を誹謗中傷したことに対し、石原都知事と東京都に謝罪と損害賠償、東京都ホームページから当該発言の削除を求め、原告92名が新たに提訴した「第二次石原裁判」(平成18年〈ワ〉第8261号)が、東京地裁で審理されています。その第5回口頭弁論が1月30日(火)午後1時20分より東京地裁で行われました。
● 法廷での主なやりとり
「第二次石原裁判」は東京地裁712号法廷で行われました。法廷の前の掲示板に書いてある裁判長の名前などをメモしたあと、中に入ると、すでに裁判が始まっていて、裁判長(高野伸裁判長)がなにか言っていました。
1時20分から始まるということだったのですが、5分ほど早く始まったことをあとで知りました。傍聴席は結構埋まっていて、新聞などではほとんど報道されるこのないこの裁判に対する関心が、意外と高いことを知りました。ただ、傍聴にきている人たちはこの裁判の原告の人たちなどで、裁判に関わりのある人たちが多いような印象を受けました。
裁判長がやや早口で「弁論終結」という言葉を口にしたので、急いでメモをとりました。法廷でのやり取りは専門用語が多い上に、民事裁判の場合、書面や文書でのやり取りが中心となるため、そこで話し合われている内容を傍聴人が理解するのはなかなか難しい面があるのですが、今回の口頭弁論で主に話し合われたことは、(被告の)石原都知事と東京都は切り離して裁判を行うこと、石原都知事については(今回で)弁論終結し、3月27日午後1時10分に判決言い渡しをすること。また、もう一方の被告である東京都については、次回原告2名が本人尋問をそれぞれ40分ずつ行うこと、裁判所としてはその尋問をもって終結をする可能性があること、よって原告被告ともに主張があるなら提出可能なものについては提出してほしい、との裁判長からの申し渡しがありました。
石原都知事と東京都を切り離して審理をすると裁判長が告げると、原告代理人(弁護士)から「石原都知事本人の尋問はないんですか?」という質問があり、裁判長は「(石原については)分離して終結。石原の本人尋問はない」と答え、分離することについては、「法律の問題」としました。原告代理人が重ねて「石原都知事の尋問はないということか」と聞くと、「いま申したとおり、被告本人の尋問は必要ない」との裁判所の判断を示しました。
被告代理人は6名きていたのですが、ほとんど発言することはなく、裁判長に次回行われる原告本人の尋問に対する反対尋問に要する時間を問われても、「とくに聞くことはありません」と答えていました。淡々と裁判をしているように見える被告代理人の態度に比べ、4名の原告代理人は積極的に意見や要望を述べ、裁判に対する意気込みの違いを感じさせました。
最後に、準備書面を補足する形で原告の1人であるM.Wさんが陳述書を読み上げました。
● M.Wさんの陳述書
私は、石原慎太郎都知事による女性差別発言の撤回と謝罪を求めた前提裁判の原告でした。2001年暮れに『週刊女性』誌上で「ババァ」発言を知り、その後事実関係の調査や公開質問状の提出など、一連の作業に関わった事務局の一員でもありました。あらゆる手段を試みた後、裁判は被害回復のための最後の手段でした。
その裁判の地裁判決後、記者会見で石原都知事は裁判自体を「パフォーマンス」と呼び、私たちを「(ある会合にいた)変な左翼」と呼びました。この「変な左翼」という名指しは、私に不安と恐怖を与えるものでした。
言うまでもなく、私は「ある会合」が何のことかわかりませんし、「変な左翼」呼ばわりされる謂われもありません。この発言自体が事実に反しており、侮辱です。と同時に、私たち原告を「変な左翼」とメディアに流布したため、尊厳の回復を求めて闘う私を周囲の人が揶揄しているのではないか、という不安を感じるようになりました。
私が石原都知事の差別発言を許さず裁判の原告となっていることは、友人・知人たちも知っており、必ずしも理解し協力してくれる人ばかりではないからです。石原都知事には少なくとも「どの会合」に「誰がいたのか」事実関係を明らかにして頂かなければなりません。
私たちは「生きていても無駄なババァ」に加えて、「変な左翼」と名指しされました。そして今、ネット上には「変な左翼のババァがまた裁判を起こした」と書き込みがあります。私たちはすでに「変な左翼」と「ババァ」のセットで見ず知らずの誰かから攻撃を受け始めています。権力と影響力を持った都知事がメディアを通じて女性差別を植え付けていることは、ただ単に彼に侮辱された、という怒りだけに終わらず、恐怖を呼び起こします。
(中略)
2006年8月15日に起きた加藤紘一議員宅の放火事件も人ごとではありません。都知事のように影響力のある人間の差別発言や暴力的発言に呼応してしまう人がいるのではないか、という恐怖は、現実的なものです。
私は一人住まいのため、夜の物音には特別に気をつけ、深夜に帰宅するときにはアパートに入る前に振り返るようになりました。このように恐怖を感じたり、様々な場面で我慢し、自己規制することによる損失は、はかることができません。
私はまだ閉経を迎えていませんが、生きていれば無駄な存在になっていくと名指しされた絶望、怒り、そして恐怖を感じ、人間の生きる価値を生殖能力で判断する誤った考えは、都知事自身の謝罪によって正さなければならないと前提裁判の原告になりました。
折しも、一昨日、柳沢厚生労働大臣が「女は子を生む機械」と発言しました。石原都知事による「ババァ」発言後、このような政治家による女性蔑視発言は後をたちません。女性は歳をとればとるほど価値が低くなると常につきつけられるこの日本社会で、都知事が社会における偏見をただすどころか、強化していく発言を繰り返すのを許すことはできません。
石原都知事が事実を明らかにし、過ちを認め、謝罪することは、私が言葉の暴力による被害から回復するための第一歩です。そして、暴力の恐怖から解放され、少しでも安心して暮らすことができるよう、裁判官の適切なご判断を心から願っています。
裁判のあとの説明会
裁判のあと、弁護士さん(原告代理人)から裁判についての説明がありました。傍聴人の多くが、なぜ石原都知事が分離裁判となったのか、その理由について質問すると、弁護士さんは、公務員は公務で発言したことについては個人の責任が問われないため、その言動についても責任を問うことができない、とする最高裁の判決があり、法律判断であるとの見方を示しました。裁判所は過去の判例に従うことが多いので、今回も過去の判例に従ってそのような結論を導き出したのではないか、ということでした。
判決については「予断を許さない」といった厳しい見方を示しながら、次回の口頭弁論で原告の本人尋問があるので、すべての原告の思いを代表して訴えたいとの説明がありました。弁護士さんの説明を聞いた傍聴人の中から、石原都知事に対する本人尋問がなく、分離裁判となったことに対し、「なんか、くやしい」と納得のいかない思いを口にする人たちもいました。
筆者の感想
石原都知事の「ババァ」発言に対し、女性たちが提訴したというニュースは新聞等の報道で知っていましたが、裁判で敗訴したあとも、新たな裁判が行われていることは知りませんでした。
今回、「第二次石原裁判」の口頭弁論を傍聴し、この問題がいかに深刻な問題をはらんでいるか、原告の一人が法廷で読み上げた陳述書を聞き、いまさらながらにそのことを思い知ったような気がしました。陳述書を読み上げた女性の思いは、この裁判を起こした原告すべての思いであることが、裁判を傍聴し、その後の説明会での話を聞いているとよくわかります。
社会に大きな影響力をもつ東京都知事という職にある人物が、メディアや公の場で女性蔑視の発言をすることがいかに多くの女性たちを傷つけているか、また、その言動に対してなんの責任も問われないことがさらなる差別発言を生み出し、第2、第3の石原発言となっていることに対し、司法だけでなく、私たちの社会はあまりに寛容でありすぎることを、この裁判は私たちに教えてくれているような気がします。
今回の「女性は子どもを産む機械」と発言した柳沢厚生大臣に対する女性たちの怒りが大きいのも、それが単なる失言ではなく、そのような言葉が出てくる背景にあるものに対する憤りなのだと思います。より高い規範意識が求められる国務大臣や都知事といった立場にいる人たちは、その言動の影響力を考え、発言については現に慎むべきであると同時に、政治家である前に一人の人間として、他者の思いを汲み取ることのできる人であってほしい、との思いを強くしました。
次回の第6回口頭弁論は、4月24日(火)午後1時30分~3時30分 東京地裁第712号法廷。
なお、分離裁判となった石原都知事に対する判決は、3月27日(火)午後1時10分からです。
(ひらのゆきこ)
「JANJAN」
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