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登録型派遣は「雇用」の概念を充足していない:ILO

2012年08月07日 | 格差社会
 ◆ ILOが日本の労働者派遣は181号条約に不適合と勧告
中野麻美(弁護士・NPO派遣労働ネットワーク)

 全国ユニオンが09年9月にILO憲章24条に基づいて日本が民間職業仲介事業所に関する181号条約(1997年採択。日本は99年に批准)を遵守していないとして申立を行った件について、ILOは、2012年3月、三者構成委員会の調査結果を受け入れ、日本政府に対し「勧告」を行った。
 ◆ 最高裁不当判決を受けて
 申立は、伊予銀行に勤務している正規行員と全く同じ仕事に13年にわたって従事してきた労働者が上司のハラスメントに謝罪を求めたところ雇用を打ち切られた伊予銀行・いよぎんスタッフサービス事件の司法判断に関連して行われたものである。
 第2審高松高裁判決は、「『登録型派遣』であるかぎり、たとえ13年継続して働いてきたとしても雇用継続への期待は客観的に法的保護に値しない」とし、「派遣元と派遣先が締結する労働者派遣契約が終了してしまえば雇用継続はありえない」との不当な判断を下していた。
 そして09年3月、最高裁は労働者側の上告を棄却し高裁判決を追認した。これには、今井功裁判官が、「やはり13年も雇用が継続されてきた以上、いかに商取引が終了しようと、雇用主との間では雇用打ち切りの正当性が法的に問われてしかるべきであって、審理をやり直すべきだ」という反対意見が付されていた。
 この判決には強い批判が加えられたことはもちろんだが、最高裁によって、登録型派遣に関するこの判断が動かないものとなった以上、登録型派遣制度そのものの是非が問われなければならなかった。
 09年9月、全国ユニオンとNPO派遣労働ネットワークは、ILOに対して、「日本政府の労働者派遣(登録型)制度と法の運用は、民間職業仲介事業所に関するILO181号条約に違反する」という憲章24条に基づく申立を行った。
 具体的な申立の内容は、政府に対し、
 ①派遣元事業主の雇用主としての責任から逃れられないようにするために、「登録型派遣」を原則的に禁止すること
 ②「登録型派遣」を容認する場合は、雇用を打ち切る時には解雇であろうと、契約更新の拒否であろうと、打ち切りの理由を制限すること
 ③日本政府は派遣元事業の労働者に対して直接雇用の労働者と同一の雇用上の権利を保障することを勧告するよう求めるもので、
 その申立理由は、日本の労働者派遣法が、前記の司法判断を前提に運用することを許容するのであれば、そのような制度はILO181条約1条1項bの「雇用」の概念を充足しておらず、第5条や第11条が保障すべきとしている労働者の権利を否定している、というものであった。
 申立を受けて、2010年11月に組織された三者構成委員会は、調査のうえ、本年3月26日に最終報告書を取りまとめ、ILO理事会はこれを承認した。
 委員会報告は、登録型派遣で働く労働者には雇用継続への期待など法的に保護されないというのでは、ILO条約1条1項bの「雇用」に関する定義を充足していないという申立人の主張に留意し、条約勧告適用専門家委員会が、加盟国政府が、派遣労働者の権利保障のために全ての事例においてはっきりとした責任が確定できるような法的枠組みをもつ必要性を強調していることなどを指摘したうえで、伊予銀行のケースでは、派遣先である伊予銀行は当局からなんらの是正指導も受けておらず、日本政府はILO181号条約第11条が求めている労働者に対する十分な保護を怠っていたかも知れないと判断した。
 そして、登録型派遣を禁止しようとした改正派遣法が修正された事態も踏まえつつ、日本政府に対し181号条約に関する詳細な報告を年内に提出するよう、また、今後条約勧告適用専門委員会においてフォローアップしていくことを求めた。
 ◆ 未比准条約の早期批准を
 ILO181号条約については、小泉内閣の構造改革路線のもと、労働者派遣対象業務を原則自由化する根拠としてめずらしく迅速に批准されたものだったが、その内容は、労働者の雇用と労働条件保障のための規制を確立すること、とくに、日本が批准していないILO111号(雇用におけるあらゆる差別撤廃条約)が求めるところにしたがって、差別を禁止し、派遣労働者に対する充分な保護を実施することを求めている。
 またこの181号条約は、日本が未批准のまま放置しているILO158号雇用終了条約も前提として「雇用」の概念を組み立てている。
 ILO181号条約に基づいて労働者派遣制度を見直すというのであれば、まずはこれらの未批准条約を批准することから始めるべきであった。
 商取引を含んだ労働関係は、買い叩かれやすい。とくに、労働者派遣契約の存続や条件に直接影響を受ける「登録型派遣」は、労働者の権利を危うくする
 当時の自民党政府は、そうした登録型派遣を野放図に解禁しようとして99年の派遣原則自由化に向けた外的圧力としてこの条約を利用したのだった。
 その結果が、日雇い派遣やリーマンショツクを受けた大量の「派遣切り」であって、登録型派遣を原則禁止することは、この勧告が明らかにしているように、とても雇用を保障したとはいえない労働形態、働けど働けど貧しくなるだけの、労働力の再生産も不可能とし、未来への希望も奪ってしまうような細切れ労働をなくすには不可欠の課題だった。
 勧告は、改めて、登録型派遣の原則禁止規定などを削除した労働者派遣法改正法案への危惧を表明するとともに、ILO181号条約が求める労働者保護を完全に実施するよう求めるものであった。
 勧告は、丁度前記改正法案等が国会で採択された翌日になされたものであったが、派遣労働ネットワークは、本年度総会において、政府が勧告を受けてどのように対応するのか、この勧告に基づく制度改善を実現するまで働きかけることを決定した。
『労働情報』(843号 2012/7/15)
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