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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

《連載》卒業式刑事弾圧事件判決文(8)

2008年06月26日 | 板橋高校卒業式
  「板橋高校『君が代』刑事弾圧裁判」最高裁勝利に向けて
 ☆★☆ 君が代強制に刑事罰!!不当判決抗議集会 ☆★☆
  7月4日(金)18:00~  グリーンホール701

  (東上線大山駅、三田線板橋区役所前駅)


 ◎ 判決文(8) P42~P46

「南空星」 《撮影:佐久間市太郎(北海道白糠定、札幌南定、数学科教員)》


2 違法性阻却事由に関する主張について


(1) 論旨は,要するに,原判決が認定した被告人の本件行為(保護者への呼びかけ,北爪らへの抗議)が,仮に威力業務妨害罪の構成要件に該当するとしても,卒業式等に出席する教員らを,正面壁面に貼り付けた日の丸に正対させて座らせ,君が代斉唱時には全員が起立して歌うよう,校長より職務命令を発し,違反者を懲戒に付すことを骨子とする10.23通達は,教職員の思想良心の自由を侵害する違憲・違法な行政行為であり,また,仮に客観的法規範のレベルで違憲・違法とまで断定できないとしても,その政策的妥当性に重大な疑問を抱かざるを得ない高度に不当な行政行為であるから,そのような10.23通達の違憲・違法・高度の不当性の下では,被告人の本件行為は,以下に述べるように,刑法上の正当行為ないし正当防衛に該当するので,これら違法性阻却事由の判断を誤った原判決には,判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがある,というのである。

   ア 保護者への呼びかけは正当行為に該当するとの主張
 被告人の保護者への呼びかけは,①10.23通達の問題性を保護者に説明するとともにこれに抗議し,将来的にはこれを解消させることを目的としているのであって,その目的は正当であり,②卒業式開式前で,保護者・在校生らが自由に談笑し,式主催者側から特に静粛も求められておらず,到底「静穏」とはいえない状況下で,ごく短時間(約30秒)のうちに10.23通達の問題性を説明する口頭の意見表明であって,その手段は社会的相当性を備えており,③その実現しようとする法益である被告人の表現の自由(憲法21条)ないし教職員らの思想良心の自由(憲法19条)の要保護性が,その侵害しうべき法益である10.23通達を実施しようとする北爪らの業務の要保護性より高度であることは明らかであって,その利益衡量の各側面からみて,刑法35条の正当行為に該当する

   イ 保護者への呼びかけは正当防衛に該当するとの主張
 被告人の保護者への呼びかけは,①その当時,10.23通達を実施するために,教職員に対する国歌斉唱時の起立・斉唱を法的に強制するとともに,保護者に対する起立・斉唱を事実上強制する状況が発生する事態が差し迫っていたのであって,これは,教職員及び保護者の思想良心の自由を侵害する都教委及び北爪らによる急迫不正の侵害であり,②都教委の政策の不当性を多くの保護者に知らせるとともに,保護者にとっても不起立の自由があることを再確認してもらう説明であって,教職員及び保護者の思想良心の自由を,都教委及び北爪らによる侵害行為から防衛するためになされたものであり,③本件当時,10.23通達の問題性は必ずしも一般に広く知られているとはいえず,週刊誌コピーの配布や口頭での説明といった方法以外には,国旗・国歌強制政策の存在と問題性を保護者らに知らせ,教職員・保護者の思想良心の自由を防衛する手段を講ずることは困難であった状況下で,開式前の短時間,配布済みの週刊誌コピーの説明を行い,最後に「ご理解願って,国歌斉唱の時は,できれば着席をお願いします」と控えめに呼びかけたに過ぎないのであって,必要性,社会的相当性も備えている上,呼びかけによる防衛法益である教職員・保護者の思想良心の自由(憲法19条)が,その被侵害法益である10.23通達を貫徹しようとする北爪らの業務より優越することは明らかであって,法益権衡性の要件も満たし,正当防衛に該当する

   ウ 北爪らへの抗議は正当防衛に該当するとの主張
 北爪らによる退場要求に対する被告人の抗議は,被告人の表現の自由(憲法21条)及び被告人の卒業式参列の利益を守るための正当防衛である。すなわち,①北爪らによる退場要求は,被告人の保護者への呼びかけという10.23通達に反対する意思表明としての,憲法上保障される表現行為に対し,その表現内容自体を問題視し,かかる表現を行った被告人の卒業式参列を拒否して物理的に会場から排除することを目的としており,被告人の表現の自由に対する急迫不正の侵害である。また,被告人は正式の来賓として招待された板橋高校教員OBであり,参列の目的は10.23通達の実施状況を見届けるとともに,自らが現役時代に関与した最後の学年に当たる卒業生を祝福することにあって,被告人には卒業式に参列する法的利益があったのであるから,被告人の参列を拒否する退場要求は,被告人の卒業式参列の利益に対する急迫不正の侵害である。②北爪らによる退場要求に対する被告人の抗議は,自己の表現の自由を防衛するためになされたものであるとともに,自己の卒業式参列の利益を防衛するためになされていることが明らかである。③北爪らによる退場要求を受け,後方から押されるように体育館出入口付近まで歩かされた被告人にとっては,口頭で退場要求の不当性を保護者らに訴え,北爪らに抗議しなければ,そのまま体育館から退場させられ,卒業式参列が不可能となる状況であった。また,被告人は,不当な退場要求に対しても暴力的抵抗は一切行わず,あくまで言論による抗議に徹しておりその時間も比較的短く,特に田中の冷静さを失った怒鳴り声に比べれば,対抗的な言論の域を出ておらず,被告人の抗議はその態様の点で社会的相当性を備えている。さらに,被告人の抗議による防衛法益である被告人の表現の自由(憲法21条)及び卒業式参列の利益に対し,被告人の抗議が向けられた北爪らの退場要求は違憲・違法ないし極めて不当な10.23通達を実施しようとする職務の一環としてなされたものであり,前者が後者に優越する法益であることは明らかであって,法益権衡性の要件も満たし,正当防衛に該当する。

(2) そこで検討すると,次の理由により,違法性阻却事由の存在を主張する所論は,いずれも採用できない。

   ア 呼びかけは正当行為に該当するとの主張について
 既に述べたように,被告人の保護者に対する呼びかけが行われた場所は,さほど広くない体育館という屋内施設の会場内であり,その時期は,卒業式開式の約20分前で,来賓入場の予定時刻に近いという,開式の直前の時期である。したがって,所論指摘のように,静穏とはいえない状況下であったとしても,卒業式の開式を待つ厳粛な状況にあったことに疑いはない。被告人は,そのような状況下で,開式を待つ保護者に対し,近い距離から,間もなく始まる卒業式を「異常な卒業式」と決めつけた上で,一定時間にわたって大声で呼びかけを行ったものであって,現にその結果,会場内が,ICレコーダーの録音内容から明らかなような喧噪状態に陥っているのであるから,その手段が社会的相当性を欠くことは明らかである。
 そして,そうである以上,他の要件について検討するまでもなく,被告人による本件呼びかけが正当行為に該当するということはできない。

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