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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

今求められる教育改革とは

2014年05月01日 | こども危機
 ◆ 子どもに学びの喜びを
佐藤学さん(東京大学名誉教授 学習院大学教授)

 学校の危機が叫ばれる中、3月16日に千葉県松戸市で講演会「子どもに学びの喜びを!-今求められる教育改革とは…」(主催・松戸の教育を考える市民フォーラムなど4団体)が開かれ、講師の佐藤学・東京大学名誉教授が要旨次のように話した。
 ◆ 教育劣化の原因
 安倍政権の「戦争のできる国」づくりにより教育現場は混乱し、一種の暴走状態にある。教育委員会制度改革が責任の明確化を掲げて進められているが、権限を教育委員会ではなく政府に集中するものだ。
 GDPに占める教育予算比は、OECD調査によると日本は31カ国中31位。1位がルクセンブルク、2位がスウェーデン。日本は50~70年代はトップだった。
 戦後教育は平等の実現を目指し、超党派で教育を良くしようとした。

 教育基本法成立時の国会議事録を読むと、文部省が「金がないんです(号泣する)」とある。それがこんなにひどい状況になったのはなぜか。
 一つは要生活保護世帯が増え、子どもの貧困化が深刻になったことがあげられる。日本はOECDでワースト4、5位。片親世帯の50・7%が貧困世帯。女子中学生が給食でしか食事をとっていない例もある。
 以前は「荒れた学校」が問題になったが、最近は荒れていない。社会に希望を見出せず、日陰のように生きている。
 教師の自由がなくなったことも原因だ。週平均52時間働き、超勤手当なし、世界でこんなに働いている国は他にない。
 過去12年間に給与を下げた国は仏、スイス、日本の3力国だけ。しかも、仏やスイスは2%程度の引き下げだ。教師の教育水準は、70年代に大学レベルになった。
 米欧は80年代に大学院レベルになり、台湾や韓国でほとんどが修士号を取っている。
 教育改革は地方分権化が世界の趨勢だ。教科書の採択、教育計画などは学校で決めている。教科書を学校や教師が決められないのは日本と中国だけ
 安倍政権は破壊する保守主義、愛国心のかけらもない。志低く虚妄の時代になった。

 ◆ 学びの権利保障
 私はこれまでに約3000校を訪問したが、学校はどんなに手間暇をかけても、トップダウンでは変わらない、内側からしか変わらないということを教えられた。
 最初に訪問した1000校はことごとくが失敗した。
 ある中学校で大改革を行った。自由な自己学習をとり入れ、評価をなくした。が、350人のうち50人いた不登校が逆に80人に増えた。これでは何のための改革かわからない。
 失敗の原因は教師、校長、行政、保護者が頑固で、教師や校長の力で変えようとしたことにあった。そこに無理があった。
 子どもを変えるのは子どものみ、子ども同士が支え合って変える。私自身、子どもの力は凄いと気づくカのに何年もかかった。
 学ぶ権利は子どもの人権の中心、学びは子どもの希望の中心だ。
 学校の窓ガラスが年間900枚割られ、トイレが使えなくなった学校がある。300人が入学して、200人がやめた高校もある。なぜそういうことが起こるのか。学ぶ希望を見出せないからだ。学びから逃避した子どもは簡単に崩れる。
 子どもたちが学ぶ希望を見出した時、学校は変わる
 教師、学校のミッション(使命)は子どもの学びの権利を実現すること、質の高い学びを保障することにある。
 憲法26条「教育を受ける権利」は13条「幸福追求権」、25条「生存権」とともに成立した。その意味を考えてほしい。
 生徒数二百数十人の大阪のある困難校は9割が要生活保護、3割が外国人、まるでサファリパークだった。学力が低く100点満点中平均二十何点だった。
 それが一気に伸びた。各教科で平均50点以上アップした。
 信じられない話だが、その秘密はどの子も一人にしない、排除しないことにあった。
 つぶれる子は一人になり、排除された子は授業を妨害する。中国人と日本人の子が手ぶりで教え合い、言葉の壁はない。ダウン症の子もいる。子どもってとても優しい。支え合う、お節介する、そして学び合う。
 ◆ 学びの協同体へ
 21世紀の社会は知識基盤社会、多文化共生社会、生涯学習社会だ。
 学校も目標・達成・評価のカリキュラム型から思考・探求のプロジェクト型になる。
 一斉授業からグループ学習による協同的な学びを追求する授業が求められる。学びのない話合い授業は、むしろ克服しなければならない。
 フィンランドの教室は平均65人。複式学級で教科書は2年、4年、6年のものしか使わない。それがアジアにも普及、中国は小5で二次関数を勉強している。
 子どもに合わせてレベルを上げると、低学力が減る。
 協同の学びでできない子も夢中になる。できない子ほど、くどくどした授業が嫌い、聞いていない。一斉授業は破たんした。
 ただノートをとっている女の子は危険信号、学びをあきらめている。できなくなると男の子は騒ぎ、女の子は静かになる。
 つぶれそうになって寝る子には1分以内に声をかけること、起きるまで何回も声をかけること。一人残らず安心して学べる教室をつくる。
 それには教師の支えには限界がある。
 コの字型教室、ペア学習、グループの学び合いでどの瞬間も一人にしない。友達同士が声をかけあい、学び合うようにすることだ。
 学びの協同体のビジョンと哲学、システムは一体。なかでも、ビジョンが何よりも大切だ。ビジョンを持たない校長は教師、子どもを潰す。ビジョンを持たない教師は子どもを潰す。
 学びの協同体の哲学は、内側に開かれた学校、他者とともに生きる民主主義、そして卓越性の追求の三つ。
 「明るく元気な学校」はかえってテンシヨンを下げる。
 授業には安心して学べる静けさが必要なのだ。
 一人残らず最後まで夢中になって学ぶ授業をデザインすること。
 学力を追求しないこと、学力は結果にすぎない。
 そして、発展問題に挑戦するジャンプの学びを大胆に組織することだ。子どもは友達の考えを足場にジャンプする。
『週刊新社会』(2014/4/1、4/15、4/22)

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