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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

☆ 司法の民主化と人権擁護のために、免田事件をつねに学び続ける必要がある。

2023年02月08日 | 人権

  《月刊救援から》
 ☆ 死刑冤罪との死闘
   ~免田事件全資料集

前田朗(東京造形大学)

 ☆ 死刑台からの生還

 凄い資料集が出版された。九五〇頁に及ぶ分厚い資料集である。黒カバーの装丁本を机の上に立ててみる。
 表紙に描かれたブルーの多面体はこの国の暗黒裁判に閉ざされた闇を示すのだろうか。それとも免田栄が迷い込み、そこから抜け出すのに三四年の死闘を余儀なくされた刑事司法の迷路を象徴するのだろうか。あるいは免田栄と家族と弁護団が切り拓いた輝ける人権の地平の今後の可能性を予兆する多面体なのだろうか。

 免田事件資料保存委員会編著『検証・免田事件【資料集】』(現代人文社)-一九四八年の事件発生から七四年、一九八三年の再審無罪判決から三九年、二〇二〇年の免田栄の死から二年
 確定死刑囚が初めて再審無罪を勝ち取り、死刑台から生還した世紀の大事件の基本資料が一挙に公開された。
 驚愕の書であり、執念の書であり、絶望の書でありながら、希望の書である。
 免田事件資料保存委員会は高峰武(元熊本日日新聞記者)、甲斐壮一(元熊本日日新聞記者)、牧口敏孝(元RKK熊本放送記者)である。高峰武には著書『生き直すーー免田栄という軌跡』(弦書房)がある。

 第一章「通知」には「福岡刑務所が免田栄策さんに宛てた通知」三通(一九五二年)が収録されている。三通目には再審請求申立てによって死刑執行手続きが停止されたことが記されている。現在、法務省は再審請求に関わらず恣意的に死刑執行を強行している。

 第二章「書簡など」には免田栄が実家に宛てた手紙類四〇〇通、教講師・潮谷総一郎に宛てた一〇〇〇通などの膨大な手紙類のうち一一〇通が収録されている。三〇年に及ぶ死刑囚の獄中からの訴えを知ることで、時代、死刑制度、そして免田栄の成長の過程を知ることが出来る。
 家族への手紙には、再審請求の経過報告とともに拘置所での生活の様子、家族への思い、体調不良の報告、洗礼を受けたことの報告など多様な文面が含まれる。
 潮谷教講師への手紙も、再審請求の経過とともにその都度の心情が細かく記され、不安、怒り、覚悟、希望、そして死刑廃止論が含まれる。

 第三章「真実を」には再審無罪後の免田栄の発言として死刑廃止フォーラム講演録、第一回死刑廃止世界大会報告などを収録する。
 「再審というのは人間の復活なんです」という言葉の重みが伝わってくる。

 第四章「時代」には国会会議録として、免田事件の再審手続きの遅延問題(一九五九年)、死刑確定者の処遇問題(六三年)、免田事件の証拠物紛失(六四年)、死刑囚の仮釈放(七〇年)、再審の要件、証拠物の紛失(七四年)の審議録が収録される。
 凶器とされた「なた」などの証拠物を検察が紛失したことから法務大臣が「ただちに死刑の執行はない」と答弁している。


 ☆ 永遠の教訓

 第五章「司法」には捜査段階の供述調書(員面調書、検面調書)、起訴状、弁護人選任届、熊本地裁八代支部判決(死刑)、控訴趣意書、福岡高裁判決(控訴棄却)、上告趣意書、最高裁判決(上告棄却)、第三次再審請求審・熊本地裁八代支部決定(再審開始・西辻決定)、同抗告審・福岡高裁決定(再審開始取消し)、第六次再審請求審・福岡高裁決定(再審開始)、再審公判・熊本地裁八代支部判決(無罪)、最高検察庁・再審無罪事件検討結果報告などが収録される。
 無罪判決を書いた河上元康元裁判長インタビュー、再審公判担当の伊藤鉄男元検事講演も注目される。
 担当裁判官の率直な証言、公判立会検事の「教訓」、免田弁護団を編成した「七人の侍」の講演など、確定死刑囚の再審無罪という稀有の事態に向き合った司法関係者の立場と熱意と心情が読み取れる

 第六章「二つの異議申し立てー無罪判決への再審申立て・年金問題」には、再審無罪確定判決に対する再審請求書、裁判所宛上申書、再審確定判決に対する再審請求棄却・熊本地裁決定、年金問題に関する国会会議録、年金特例法通知状などが収録される。
 再審無罪にもかかわらず「死刑判決が取り消されていない」と感じられる問題や、無年金問題を通じて「人権の回復」とは何かを考えさせる。

 第七章「記録」には事件当時の新聞記事、再審請求段階の新聞記事(主に熊本日日新聞)が収録される。幻の西辻決定(再審開始)の直後の報道がなく一カ月近くたって毎日新聞が掲載したという。
 西辻裁判長のコメントでは犯行当夜のアリバイ証人の証言が真実だとして再審開始決定を行ったことが記録されている。
 一九五六年にアリバイ証明ができていたのに、再審無罪獲得のために八三年まで死闘を余儀なくされたことの意味を司法関係者は心に刻むべきである。

 第八章「写真が語る日々」には「獄窓に生きる」「再審公判を闘う」「自由社会に生きて」の三部構成で免田栄の写真が収録される

 第九章「死」には免田栄死亡記事、裁判長や主任検事のコメントなどが収録される。
 二二年一二月五日、免田栄の三回忌が営まれた。しかし免田事件は過去の事件ではない。司法の民主化と人権擁護のために、免田事件をつねに最重要教材として学び続ける必要がある。

『月刊救援』(2023年1月10日)

 


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