〔週刊 本の発見・第17回 【レイバーネット日本】〕
● 『劣化する雇用-ビジネス化する労働市場政策』(伍賀一道・脇田滋・森慨� 編著 旬報社 1600円)
/評者=渡辺照子
● 安倍「労働政策」に胸のすく反論
「印象操作」「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と、その言葉の軽さゆえに数々もの「名言」を発する安倍首相は、雇用法制においても言葉のインフレを発現する。
いわく日本の労働規制に対しては「この岩盤規制に穴をあけ突破する」、法整備では「女性活躍推進」、提言としては「働き方改革」と、挙げていけばきりがない。そのいずれもが、実態と正反対の認識に依拠するものであり、実効性が極めて希薄か労働者の権利を剥奪するばかりのものだ。
最近では、「非正規の時にはなかった責任感や、やる気が正規になって生まれていく」発言で、私のような万年派遣労働者を含む多くの非正規労働者の神経を大いに逆撫でしている。ただでさえ不快な今年の夏の蒸し暑さをいや増すその効果といったらない。
その苛立ちを、労働者の権利を保障する立場から本書は受け止めてくれる。タイトルが示すように労働市場政策に焦点を当てている点が特徴だ。政策なのだから公的事業であるはずだが、そこを人材ビジネス業界にかなりの部分「委譲」させている点が問題だとの一貫したスタンスを示してくれる。
元来、人材ビジネスは職業安定法や労働派遣法が定義する「職業紹介」「労働者募集」「労働供給」程度であった。それに加えて労働者の退職強要ビジネス、税金を財源とする「リストラ支援助成金」を収益するスキーム、といった具合に労働者の生き血を吸うような「ビジネス」も特化させた。
今年の春、大手派遣会社の創業者の総資産が1,220億円にもなることが発表された。
それはそうだろう、たいした「商品開発」のコストもかけず、商品の在庫管理やメンテナンスも必要ない派遣労働者からの上がりを1時間ごとに確実に「収益」できるのだから。
そして、政府の規制緩和の大号令による企業が求める雇用流動化がそのまま派遣業界を潤す利権ネットワークに結びつき、その構造を益々強化させ多様化させてきたのだから、こんなに有望な「成長産業」は他にない。
安倍政権も、これでもかとばかりに「働き方改革実現会議」「産業競争力会議や「規制改革会議」等、労働者を排除した財界主導の構成陣による各種見解を出している。それらの「会議」を一介の労働者がひとつひとつ検証・批判するのはほぼ不可能だ。
その点、本書はもれなく網羅した後、問題の指摘をしてくれている。経営者寄り、派遣業界寄りの学者、シンクタンクのレポートの歯の浮くような派遣労働礼賛の言説が多く散見される中、ILO条約、憲法や各労働法、労働組合による労働者からのアンケート、政府の統計調査等、客観的で確たる根拠を有した裏づけで展開される反論には胸のすく思いだ。
現行の雇用法制の立法趣旨と実態との矛盾、乖離を的確に言語化している点もありがたい。
「はじめに」の項で伍賀氏は、派遣労働者の中でも短期契約の反復更新により同じ派遣先企業に勤務するパターンを「定着型」と命名している。
日雇い派遣のような就業と失業を繰り返す「漂流型」と並び、実に適切なネーミングだ。
派遣労働者として理不尽な扱いを受けるゆえ、悔しさのあまり「派遣法オタク」になった私にとって、「よくぞ実態をわかってくれた」とのカタルシスさえ覚えるフレーズだ。
法令の条文だけながめても決して認識できない実態を類型化してくれたのだと思う。
重要だと思う箇所をマーカーしているが、ほとんどのページが黄色になってしまった。
*「週刊 本の発見」は毎週木曜日(第1~第4)に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美です。
『レイバーネット日本』(2017-08-10)
http://www.labornetjp.org/news/2017/0810hon
● 『劣化する雇用-ビジネス化する労働市場政策』(伍賀一道・脇田滋・森慨� 編著 旬報社 1600円)
/評者=渡辺照子
● 安倍「労働政策」に胸のすく反論
「印象操作」「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と、その言葉の軽さゆえに数々もの「名言」を発する安倍首相は、雇用法制においても言葉のインフレを発現する。
いわく日本の労働規制に対しては「この岩盤規制に穴をあけ突破する」、法整備では「女性活躍推進」、提言としては「働き方改革」と、挙げていけばきりがない。そのいずれもが、実態と正反対の認識に依拠するものであり、実効性が極めて希薄か労働者の権利を剥奪するばかりのものだ。
最近では、「非正規の時にはなかった責任感や、やる気が正規になって生まれていく」発言で、私のような万年派遣労働者を含む多くの非正規労働者の神経を大いに逆撫でしている。ただでさえ不快な今年の夏の蒸し暑さをいや増すその効果といったらない。
その苛立ちを、労働者の権利を保障する立場から本書は受け止めてくれる。タイトルが示すように労働市場政策に焦点を当てている点が特徴だ。政策なのだから公的事業であるはずだが、そこを人材ビジネス業界にかなりの部分「委譲」させている点が問題だとの一貫したスタンスを示してくれる。
元来、人材ビジネスは職業安定法や労働派遣法が定義する「職業紹介」「労働者募集」「労働供給」程度であった。それに加えて労働者の退職強要ビジネス、税金を財源とする「リストラ支援助成金」を収益するスキーム、といった具合に労働者の生き血を吸うような「ビジネス」も特化させた。
今年の春、大手派遣会社の創業者の総資産が1,220億円にもなることが発表された。
それはそうだろう、たいした「商品開発」のコストもかけず、商品の在庫管理やメンテナンスも必要ない派遣労働者からの上がりを1時間ごとに確実に「収益」できるのだから。
そして、政府の規制緩和の大号令による企業が求める雇用流動化がそのまま派遣業界を潤す利権ネットワークに結びつき、その構造を益々強化させ多様化させてきたのだから、こんなに有望な「成長産業」は他にない。
安倍政権も、これでもかとばかりに「働き方改革実現会議」「産業競争力会議や「規制改革会議」等、労働者を排除した財界主導の構成陣による各種見解を出している。それらの「会議」を一介の労働者がひとつひとつ検証・批判するのはほぼ不可能だ。
その点、本書はもれなく網羅した後、問題の指摘をしてくれている。経営者寄り、派遣業界寄りの学者、シンクタンクのレポートの歯の浮くような派遣労働礼賛の言説が多く散見される中、ILO条約、憲法や各労働法、労働組合による労働者からのアンケート、政府の統計調査等、客観的で確たる根拠を有した裏づけで展開される反論には胸のすく思いだ。
現行の雇用法制の立法趣旨と実態との矛盾、乖離を的確に言語化している点もありがたい。
「はじめに」の項で伍賀氏は、派遣労働者の中でも短期契約の反復更新により同じ派遣先企業に勤務するパターンを「定着型」と命名している。
日雇い派遣のような就業と失業を繰り返す「漂流型」と並び、実に適切なネーミングだ。
派遣労働者として理不尽な扱いを受けるゆえ、悔しさのあまり「派遣法オタク」になった私にとって、「よくぞ実態をわかってくれた」とのカタルシスさえ覚えるフレーズだ。
法令の条文だけながめても決して認識できない実態を類型化してくれたのだと思う。
重要だと思う箇所をマーカーしているが、ほとんどのページが黄色になってしまった。
*「週刊 本の発見」は毎週木曜日(第1~第4)に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美です。
『レイバーネット日本』(2017-08-10)
http://www.labornetjp.org/news/2017/0810hon
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