=山口正紀の「言いたいことは山ほどある」第10回【レイバーネット日本】=
◆ 森発言報道で露呈した大手メディアの男性支配と体制翼賛
~性差別に鈍感、東京五輪への疑問・批判はタブーに
東京五輪・パラリンピック大会組織員会の森喜朗会長が女性蔑視発言を行い、国内外から批判を浴びて辞任した「森発言騒動」から約1か月たった。森氏の後任には橋本聖子・五輪担当相、その後任に丸川珠代・自民党参院議員が就任し、森発言騒動は新聞・テレビの報道上、一件落着したかのようだ。
しかし、森発言で問われた問題は解決したのか。また、東京五輪開催に問題はないのか。一連の報道を振り返ると、森発言を伝えるメディアの報道も差別に鈍感だったうえ、後任報道でも密室人事に無批判だった。
一連の報道は、森氏に代表されるスポーツ界・政界の古い体質とともに、男性支配の政治ムラにどっぷりつかり、五輪開催に疑問を提示できない大手メディアの残念な実態も浮かび上がらせた。
◆ 鈍感で問題意識に欠けた森発言の第一報
「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」
「女性っていうのは競争意識が強い」
「女性の数を増やしていく場合は、この発言の時間も、ある程度は規制をしておかないと…」
「組織委員会にも女性は7人くらいおられる。みんなわきまえておられて…」
2月3日開かれた日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議員会で行なわれた森発言の主な内容だ。JOCの評議員たちは、こんな差別意識むき出しの女性蔑視発言に抗議もせず、笑いまじりにおとなしく拝聴していたという。
この発言当時、私は肺がん治療のため入院していて報道にリアルタイムで触れることが出来なかった。だが、退院後、発言を報じた各紙紙面をチェックし、「こんな程度の扱いだったの?」と拍子抜けした。2月4日付各紙の報道、見出しは次の通りだった。
『東京新聞』は1面で大きく取り上げたうえ、見出しで明確に「蔑視発言」と打ち出し、スポーツ面には解説記事も載せて「五輪理念に逆行」と批判した。
しかし、『東京』以外の各紙は扱いが小さく、『読売』『毎日』はベタ記事扱いで記事を見つけるのに苦労したほど。記事の中身も、森発言の差別性に対する指摘、批判的な視点ほとんどなく、ただ「こんな発言がありました」と〝客観報道〟しただけだった。
一方、森発言は海外では大きく取り上げられた。
4日付『東京』夕刊《森氏発言 波紋/海外メディア「性差別」》の記事によると、ロイター通信、AFP通信は森発言を「性差別」と断じ、発言中に評議員から笑いがもれたことも紹介、ニューヨークタイムス(電子版)は「元首相の組織委会長、会議に参加する女性の制限を示唆」と報じた。
また、SNSでは森発言直後から女性たちによる抗議活動が始まった。2月19日付『週刊金曜日』で林香里・東京大学大学院教授は《差別性を認識させたのはSNSの声》として、女性たちの動きを紹介している。
それによると、森発言が明るみに出た4日午前、ツイッターでは森発言の「みんなわきまえておられて」に抗議する「♯わきまえない女」がトレンド1位になった。同日夜には森氏の処遇の検討・再発防止などを求めるネット署名サイトが立ち上がり、開始から約1日で8万人を超える署名が集まったという。
女性たちの抗議や海外の報道に比べ、日本の新聞報道が性差別についていかに鈍感だったか。大手メディアの報道姿勢、ニュース価値観の旧態依然ぶりが際立った。
◆ 男性支配メディアの二重基準
その原因は、森氏が君臨してきたスポーツ界・政界にも劣らないメディア業界の男性支配構造にある。
森発言騒動さなかの2月9日、新聞労連、民放労連、出版労連、「メディアで働く女性ネットワーク」(WiMN)の4団体が記者会見を開き、メディア業界団体と加盟社に女性役員を増やすよう要請したことを発表した。
それによると、2019年の調査で、新聞労連に労組が加盟する新聞社38社の女性割合は、従業員で19・9%、管理職で7・7%、役員は3・1%だった。
また、民放労連の2018年度調査では、在京テレビ局6社の女性の割合は、従業員が24・2%、課長級以上の管理職が15・1%、番組制作部門のトップはゼロ。
さらに、出版労連に労組が加盟する41社の女性の割合は、従業員が36・3%、管理職が15・3%、役員は8・3%だった。
どのメディア企業も女性従業員自体少ないが、管理職や役員となると女性の割合はぐんと低く、メディア業界の男性優位構造がくっきりと浮かび上がった。
もっと驚いたのが、各業界団体の役員に占める女性の数だ。新聞協会は53人中0、民間放送連盟も45人中0、書籍出版協会では40人中1人、雑誌協会も21人中1人だった。
政府は2003年に策定した男女共同参画基本計画で、「社会のあらゆる分野において2020年までに指導的地位女性を3割にする」との目標を掲げていたが、メディア企業とその業界団体では、そんな目標など遠い世界の話だったことが明らかになった。
ネット記事によると、この記者会見には女性記者を中心に多くの報道陣が集まったという。
ところが、翌日の新聞を見ると、『朝日』が第2社会面にベタ記事で《メディアも女性役員増を》とごく短く報じただけで、会見内容を詳しく伝える記事は見当たらなかった。
現場の記者が記事を書いても、男性中心のデスクたちがボツにしたのだろうか。
遅ればせながら森発言を批判するようになっても、自分たちメディアに関する「不都合な真実」は報道しない。
まさに「男性支配メディアの二重基準」というほかない。
その後の会長人事報道も、旧来の政治報道から一歩も抜け出せない無批判なものだった。
2月11日、森氏が会長辞任を決断し、川淵三郎氏に会長就任を要請すると、テレビのニュース・情報番組は一斉に「川淵氏が後任会長に」と報道。
12日の各紙も《森・五輪組織委会長辞意/川淵氏を後任指名・受諾》(『朝日』1面トップ)など、川淵氏の会長就任がまるで正式な決定であるかのように報じた。
女性蔑視発言を批判されて会長を辞任する人が自分で後継者を決める。こんなとんでもない振る舞いは、長年にわたる森氏のボス支配が何も変わっていないことを象徴するものだった。
結局、五輪組織委は2月18日、後任会長に橋本聖子・五輪担当相を選出し、菅義偉首相はその後任(男女共同参画も担当)に丸川珠代・参院議員を起用した。
橋本氏は森氏を「政治の師」と仰ぎ、就任会見でも「今後もアドバイスをいただかなければいけない局面もある」と述べた。
丸川氏は選択的夫婦別姓制度に反対して地方議会に圧力をかける文書に署名し、「男女共同参画」とは正反対の政治家。
二人はいずれも「男性支配の政治ムラ」を巧みに泳いできた女性であり、だからこそ、「森氏の後継」に抜擢されたといえる。しかし、そうした問題点は大手メディアではほとんど論じられなかった。
この後任人事決定によって、約2週間に及ぶ森発言騒動・報道は収束に向かい、以後は何ごともなかったかのような五輪報道に戻った。
◆ 東京五輪スポンサーになった大手メディアのタブー
今、コロナ禍と政府の無為無策に多くの人があえぐ日本で、菅政権が何よりも重視し、優先しているのが、昨年から1年延期していた東京五輪の7月開催だ。
共同通信が2月に実施した世論調査では、東京五輪を「中止すべき」が35・2%、「再延期すべき」が47・1%で、「開催すべき」は14・5%にとどまった。
世界中で新型コロナウイルスの感染拡大が続き、日本も首都圏の「緊急事態宣言」が延長されるほど感染が広がっている。そんな中で世界中から選手を集め、五輪を開催するとどうなるのか。
大会には1万人以上の医療スタッフが必要とされるが、コロナで逼迫した首都圏の医療機関のどこからそれだけのスタッフを集めようというのか。
すでに、東京五輪はとんでもない「金食い虫」になっている。
開催経費は招致当初7000億円と宣伝されたが、専門家の試算によると、すでに3兆5000億円に達し、その大部分が税金から支出されている。
五輪を開催すればさらに莫大なコロナ対策費が必要になる。それでも、スポンサー企業にとって、五輪は巨大な利益が期待できる投資ビジネスなのだ。
コロナ禍で非正規労働者が次々と職を失い、飲食関連を中心に倒産・事業閉鎖が相次いでも、政府も東京都も「自粛」「ステイホーム」を呼びかけるだけ。生命と暮らしの危機に瀕した市民に対しても「まず自助を」と突き放す。
このうえ、まだ金食い五輪に注ぎ込む金があるなら、それをすべてコロナ禍に苦しむ人たちを助けるために使え――それが多くの市民の率直な思いだろう。
ところが、新聞・テレビは、そんな市民の思いなどおかまいなしに、「7月五輪開催」を前提にした「五輪大本営協賛」ともいうべき報道を続けている。
その大きな理由は、大手新聞社自身が東京五輪のスポンサーになっているからだ。
『朝日』『読売』『毎日』『日本経済新聞』が「オフィシャルパートナー」、『産経』『北海道新聞』が「オフィシャルサポーター」になり、スポンサーとして出資している。系列のテレビ局の報道も「右に倣え」。五輪が開催されれば巨額の広告収入が見込める。
そうして、大手メディアは五輪招致をめぐるJOC会長の買収疑惑など、さまざまな不正の追及に及び腰になり、いままた五輪開催への疑問・批判をタブーにしているのだ。
報道機関が「当事者・受益者・関係者」になってしまえば、中立・公正の観点に立ったきちんとした報道は望むべくもない。
今からでも遅くない。メディアはスポンサーから撤退し、東京五輪中止を求める世論に応える報道機関本来の役割を取り戻してほしい(了)。
『レイバーネット日本』(2021-03-08)
http://www.labornetjp.org/news/2021/0308yama
◆ 森発言報道で露呈した大手メディアの男性支配と体制翼賛
~性差別に鈍感、東京五輪への疑問・批判はタブーに
東京五輪・パラリンピック大会組織員会の森喜朗会長が女性蔑視発言を行い、国内外から批判を浴びて辞任した「森発言騒動」から約1か月たった。森氏の後任には橋本聖子・五輪担当相、その後任に丸川珠代・自民党参院議員が就任し、森発言騒動は新聞・テレビの報道上、一件落着したかのようだ。
しかし、森発言で問われた問題は解決したのか。また、東京五輪開催に問題はないのか。一連の報道を振り返ると、森発言を伝えるメディアの報道も差別に鈍感だったうえ、後任報道でも密室人事に無批判だった。
一連の報道は、森氏に代表されるスポーツ界・政界の古い体質とともに、男性支配の政治ムラにどっぷりつかり、五輪開催に疑問を提示できない大手メディアの残念な実態も浮かび上がらせた。
◆ 鈍感で問題意識に欠けた森発言の第一報
「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」
「女性っていうのは競争意識が強い」
「女性の数を増やしていく場合は、この発言の時間も、ある程度は規制をしておかないと…」
「組織委員会にも女性は7人くらいおられる。みんなわきまえておられて…」
2月3日開かれた日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議員会で行なわれた森発言の主な内容だ。JOCの評議員たちは、こんな差別意識むき出しの女性蔑視発言に抗議もせず、笑いまじりにおとなしく拝聴していたという。
この発言当時、私は肺がん治療のため入院していて報道にリアルタイムで触れることが出来なかった。だが、退院後、発言を報じた各紙紙面をチェックし、「こんな程度の扱いだったの?」と拍子抜けした。2月4日付各紙の報道、見出しは次の通りだった。
『朝日新聞』――第2社会面・横見出し《「女性がたくさんいる会議 時間かかる」/JOC会合 森氏「競争意識強くみんな発言」》
『読売新聞』――第3社会面・1段見出し《「女性が多いと理事会に時間」森組織委会長》
『毎日新聞』――社会面・1段見出し《女性多い会議は「時間がかかる」》
『東京新聞』――1面・3段見出し《「女性が入ると時間がかかる」/森氏が蔑視発言/JOC理事巡り》、8面・横見出し《五輪理念に逆行/森会長 女性蔑視発言》
『産経新聞』――第2社会面・2段見出し《「女性多いと時間かかる」/森氏、JOC会議で発言》
『東京新聞』は1面で大きく取り上げたうえ、見出しで明確に「蔑視発言」と打ち出し、スポーツ面には解説記事も載せて「五輪理念に逆行」と批判した。
しかし、『東京』以外の各紙は扱いが小さく、『読売』『毎日』はベタ記事扱いで記事を見つけるのに苦労したほど。記事の中身も、森発言の差別性に対する指摘、批判的な視点ほとんどなく、ただ「こんな発言がありました」と〝客観報道〟しただけだった。
一方、森発言は海外では大きく取り上げられた。
4日付『東京』夕刊《森氏発言 波紋/海外メディア「性差別」》の記事によると、ロイター通信、AFP通信は森発言を「性差別」と断じ、発言中に評議員から笑いがもれたことも紹介、ニューヨークタイムス(電子版)は「元首相の組織委会長、会議に参加する女性の制限を示唆」と報じた。
また、SNSでは森発言直後から女性たちによる抗議活動が始まった。2月19日付『週刊金曜日』で林香里・東京大学大学院教授は《差別性を認識させたのはSNSの声》として、女性たちの動きを紹介している。
それによると、森発言が明るみに出た4日午前、ツイッターでは森発言の「みんなわきまえておられて」に抗議する「♯わきまえない女」がトレンド1位になった。同日夜には森氏の処遇の検討・再発防止などを求めるネット署名サイトが立ち上がり、開始から約1日で8万人を超える署名が集まったという。
女性たちの抗議や海外の報道に比べ、日本の新聞報道が性差別についていかに鈍感だったか。大手メディアの報道姿勢、ニュース価値観の旧態依然ぶりが際立った。
◆ 男性支配メディアの二重基準
その原因は、森氏が君臨してきたスポーツ界・政界にも劣らないメディア業界の男性支配構造にある。
森発言騒動さなかの2月9日、新聞労連、民放労連、出版労連、「メディアで働く女性ネットワーク」(WiMN)の4団体が記者会見を開き、メディア業界団体と加盟社に女性役員を増やすよう要請したことを発表した。
それによると、2019年の調査で、新聞労連に労組が加盟する新聞社38社の女性割合は、従業員で19・9%、管理職で7・7%、役員は3・1%だった。
また、民放労連の2018年度調査では、在京テレビ局6社の女性の割合は、従業員が24・2%、課長級以上の管理職が15・1%、番組制作部門のトップはゼロ。
さらに、出版労連に労組が加盟する41社の女性の割合は、従業員が36・3%、管理職が15・3%、役員は8・3%だった。
どのメディア企業も女性従業員自体少ないが、管理職や役員となると女性の割合はぐんと低く、メディア業界の男性優位構造がくっきりと浮かび上がった。
もっと驚いたのが、各業界団体の役員に占める女性の数だ。新聞協会は53人中0、民間放送連盟も45人中0、書籍出版協会では40人中1人、雑誌協会も21人中1人だった。
政府は2003年に策定した男女共同参画基本計画で、「社会のあらゆる分野において2020年までに指導的地位女性を3割にする」との目標を掲げていたが、メディア企業とその業界団体では、そんな目標など遠い世界の話だったことが明らかになった。
ネット記事によると、この記者会見には女性記者を中心に多くの報道陣が集まったという。
ところが、翌日の新聞を見ると、『朝日』が第2社会面にベタ記事で《メディアも女性役員増を》とごく短く報じただけで、会見内容を詳しく伝える記事は見当たらなかった。
現場の記者が記事を書いても、男性中心のデスクたちがボツにしたのだろうか。
遅ればせながら森発言を批判するようになっても、自分たちメディアに関する「不都合な真実」は報道しない。
まさに「男性支配メディアの二重基準」というほかない。
その後の会長人事報道も、旧来の政治報道から一歩も抜け出せない無批判なものだった。
2月11日、森氏が会長辞任を決断し、川淵三郎氏に会長就任を要請すると、テレビのニュース・情報番組は一斉に「川淵氏が後任会長に」と報道。
12日の各紙も《森・五輪組織委会長辞意/川淵氏を後任指名・受諾》(『朝日』1面トップ)など、川淵氏の会長就任がまるで正式な決定であるかのように報じた。
女性蔑視発言を批判されて会長を辞任する人が自分で後継者を決める。こんなとんでもない振る舞いは、長年にわたる森氏のボス支配が何も変わっていないことを象徴するものだった。
結局、五輪組織委は2月18日、後任会長に橋本聖子・五輪担当相を選出し、菅義偉首相はその後任(男女共同参画も担当)に丸川珠代・参院議員を起用した。
橋本氏は森氏を「政治の師」と仰ぎ、就任会見でも「今後もアドバイスをいただかなければいけない局面もある」と述べた。
丸川氏は選択的夫婦別姓制度に反対して地方議会に圧力をかける文書に署名し、「男女共同参画」とは正反対の政治家。
二人はいずれも「男性支配の政治ムラ」を巧みに泳いできた女性であり、だからこそ、「森氏の後継」に抜擢されたといえる。しかし、そうした問題点は大手メディアではほとんど論じられなかった。
この後任人事決定によって、約2週間に及ぶ森発言騒動・報道は収束に向かい、以後は何ごともなかったかのような五輪報道に戻った。
◆ 東京五輪スポンサーになった大手メディアのタブー
今、コロナ禍と政府の無為無策に多くの人があえぐ日本で、菅政権が何よりも重視し、優先しているのが、昨年から1年延期していた東京五輪の7月開催だ。
共同通信が2月に実施した世論調査では、東京五輪を「中止すべき」が35・2%、「再延期すべき」が47・1%で、「開催すべき」は14・5%にとどまった。
世界中で新型コロナウイルスの感染拡大が続き、日本も首都圏の「緊急事態宣言」が延長されるほど感染が広がっている。そんな中で世界中から選手を集め、五輪を開催するとどうなるのか。
大会には1万人以上の医療スタッフが必要とされるが、コロナで逼迫した首都圏の医療機関のどこからそれだけのスタッフを集めようというのか。
すでに、東京五輪はとんでもない「金食い虫」になっている。
開催経費は招致当初7000億円と宣伝されたが、専門家の試算によると、すでに3兆5000億円に達し、その大部分が税金から支出されている。
五輪を開催すればさらに莫大なコロナ対策費が必要になる。それでも、スポンサー企業にとって、五輪は巨大な利益が期待できる投資ビジネスなのだ。
コロナ禍で非正規労働者が次々と職を失い、飲食関連を中心に倒産・事業閉鎖が相次いでも、政府も東京都も「自粛」「ステイホーム」を呼びかけるだけ。生命と暮らしの危機に瀕した市民に対しても「まず自助を」と突き放す。
このうえ、まだ金食い五輪に注ぎ込む金があるなら、それをすべてコロナ禍に苦しむ人たちを助けるために使え――それが多くの市民の率直な思いだろう。
ところが、新聞・テレビは、そんな市民の思いなどおかまいなしに、「7月五輪開催」を前提にした「五輪大本営協賛」ともいうべき報道を続けている。
その大きな理由は、大手新聞社自身が東京五輪のスポンサーになっているからだ。
『朝日』『読売』『毎日』『日本経済新聞』が「オフィシャルパートナー」、『産経』『北海道新聞』が「オフィシャルサポーター」になり、スポンサーとして出資している。系列のテレビ局の報道も「右に倣え」。五輪が開催されれば巨額の広告収入が見込める。
そうして、大手メディアは五輪招致をめぐるJOC会長の買収疑惑など、さまざまな不正の追及に及び腰になり、いままた五輪開催への疑問・批判をタブーにしているのだ。
報道機関が「当事者・受益者・関係者」になってしまえば、中立・公正の観点に立ったきちんとした報道は望むべくもない。
今からでも遅くない。メディアはスポンサーから撤退し、東京五輪中止を求める世論に応える報道機関本来の役割を取り戻してほしい(了)。
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