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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

若い労働者の過労死が最も多いのはメディア業界

2019年11月03日 | 格差社会
  たんぽぽ舎です。【TMM:No3775】「メディア改革」連載第17回
 ◆ 若い記者の死を無駄にせず長時間労働の解消を
浅野健一(アカデミックジャーナリスト)

 私が学生の頃、全共闘系の反戦集会に、「NHK反戦青年委員会」という赤旗をよく見かけた。私が1972年に入社した共同通信にも反戦青年委員会があり、光文社闘争などを支援し、「電算合理化阻止闘争」を展開していた。
 NHK長崎放送局の記者でNHK反戦のメンバーはNHKをやめ、弁護士になり公安労働事件の弁護をしている。NHKには日本放送労働組合(日放労)という労組があり、社会党参議院議員を務めた上田哲氏が長く委員長を務めていた。かつて、NHKには多様性があった
 NHKが現在のように、安倍官邸の御用放送になったのは1980年代後半に海老沢勝二会長が実権を掌握してからだと思う。
 安倍首相の広報官としか思えない岩田明子解説委員のような記者は、昔はいなかった。
 読売新聞だって渡邊恒雄氏が実権を握るまでは、非日本共産党系の知識人がしばしば登場するリベラルな紙面だった。
 10月6日午後、東京・千駄ヶ谷区民会館で、2013年7月の参院選挙後に過労死したNHK記者、佐戸美和さんの「過労死公表から2年NHK記者の死が問いかけるもの」と題した集いがあった。『未和NHK記者はなぜ過労死したのか』(岩波書店)の著者、尾崎孝史氏らでつくる「未和さんのことを伝える有志」が主催した。
 この本には、私のNHKの労働者酷使は海老沢勝二会長が君臨してからだというコメント(p116~117)も載っている。
 第一部は、佐戸記者が大学生の時にテレビ報道について指導した下村健一・元TBSアナウンサーが聞き手になり、父親の佐戸守さんと母親の佐戸美恵子さんが佐戸記者の生い立ちから、過労死(労災認定)までの経過やNHKへの現在の思いを語った。
 両親は佐戸記者の過労死が4年間、公表されなかった経緯も明らかにした。
 第二部では金平茂紀TBS「報道特集」キャスターが進行役となり、参加者を交えて議論した。
 過労死をゼロにと訴える運動に参加する佐戸恵美子さんは娘の新人記者のことを話した。
「鹿児島放送局に赴任した時、私の実家の長崎へ帰省したついでに何度か、娘のアパートを訪ねて何日か滞在したが、娘はずっと忙しく、私が出た後に帰宅し、起きる前に出かけて、ほとんど話もできなかった。警察官とお酒を飲むことも多く、酔わないように、のどに手を突っ込んで無理に吐くこともあったと聞いている」
 「私が外出先から夜遅くアパートに戻る時、駆け付けてくれたが、ネオンサインのように小さなランプがピカピカしているプラカードをぶら下げていた。『NHK新人記者の佐戸美和です』と書いてあった。警察官に名前を顔と憶えてもらうために持ち歩いているということだった」
 NHKの新人記者教育はすさまじい。
 読売新聞でもここまではやらない。

 「娘はNHKに殺された、と叫びたいが、娘はNHK記者になったことを誇りに思っていたので、そういうといやだろうから言わないことにしている」。
 佐戸美恵子さんはそう話した後、「娘は殺されたんです」と言った。
 佐戸守さんは「NHKはどういう経過で娘が過労死したかを調べ、私たちに報告してほしい。NHKの対応は不十分だ」と強調した。
 私は2017年11月21日、両親の自宅でインタビューし、「創」18年1月号に記事を書いた。この記事はブログ「浅野健一のメディア批評」に載せている。
http://blog.livedoor.jp/asano_kenichi/archives/cat_208730.html
 主催者によると、「両親と言葉を交わしたいが、NHK局内での開催はもとより、職員や日放労が主催するのは難しい」という現場の声を受けて、有志による集会を企画したという。
 金平氏は「今日は元TBSと現在TBSの二人が来て進行役を務めている。本来はNHKの人がやるべきではないか」と述べ、「マンモスのNHKに比べるとTBSは社員が2000人の小さい会社だが、佐戸さんの過労死の問題は、私たちの問題でもあると思って今日は来た」と話した。
 「民放でも労働者の酷使の問題はある。私の職場はTBSの7階にあるが、深夜、廊下を歩くと、通路の両側に人間が何人も倒れている。よく見ると、非正規のスタッフが廊下で横になって寝ている。深夜まで働き、ホテルに泊まらず、廊下で寝ている
 こんな話は初めて聞いた。テレビの現場は、正社員は少なく、下請け・孫請けの制作会社の若い労働者が支えている。
 佐戸恵美子さんの話にもあったが、NHKでは新人記者に、警察署の入り口で1カ月、『新人の○○△△記者です』と書いたプラカードを持って立たされる。出勤する警官に名前を憶えてもらうためだ。
 佐戸記者は選挙取材で過労死したが、新人記者時代からの長時間労働などのストレスが重なって、亡くなったのではないか。
 警察キシャクラブで記者教育をするのが間違っている

 NHKの労組、日放労が佐戸記者の過労死を取り上げていない。
 NHKでは、政権の報道管制を受けて、組織が官僚化し、民主主義的な雰囲気が消え、人権も守られなくなった。
 浅野ゼミの元ゼミ生は約10年前にNHKに入り、中国地方のある地方放送局で1年半記者として働き、身も心も疲弊して、NHKをやめた。
 警察署の入り口で「新人記者」プラカードを持たされたのは屈辱的だったと振り返る。警察官からのセクハラもすさまじかった。「先生、記者を目指す後輩に言ってほしい。『NHK記者だけは止めた方がいい』」と言ってきた。
 厚労省は若い労働者の過労死が最も多いのはメディア業界だと公表している。メディア界が抱える長時間労働、社内のパワハラを社会化するのは難しい。マスメディア内部の犯罪を伝えるメディア、学者はほとんどいないからだ。
 「NHKをぶっ壊せ」ではなく、NHKを市民みんな(人民、パブリック)の放送=公共放送を英BBCなど海外の公共放送の水準に上げよう。
 NHKは安倍政権下で権力との癒着を強め、御用放送化した。
 NHKは「災害と選挙」を重視するといわれてきたが、今回の台風15号災害報道は最優先ではなく、意味のない組閣報道に集中していた。
http://blog.livedoor.jp/asano_kenichi/archives/cat_208730.html
 かんぽ生命不正販売問題を取り上げたNHK番組「クローズアップ現代+」を巡り、日本郵政がNHKに抗議。NHKは日本郵政に文書で事実上、謝罪し、続編番組の放送を延期した。
 NHK経営委員会(石原進委員長)が2018年10月、上田良一NHK会長への厳重注意処分を行った。これは憲法が禁止している検閲に当たる。
 日本郵政の鈴木康雄副社は元総務次官。NHK経営委員会の委員12人は全員が安倍官邸の選任だ。
 村田晃嗣・前同志社大学学長(法学部教授、防衛省参与)が2018年3月から経営委員になっている。安倍氏の盟友、作家の百田尚樹氏の後任だ。
 NHK本体と経営委員会を政権から独立した機関に改革しなければならない。
 公共放送は受信契約者=人民の知る権利にこたえる当たり前の仕事をしてほしい。
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