◆ 不当判決に対する抗議声明
2011年7月7日
板橋高校威力業務妨害事件弁護団
板橋高校威力業務妨害事件弁護団
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「報告集会」 《撮影:平田 泉》
1 本日,最高裁判所第一小法廷(桜井龍子裁判長)は,東京都立板橋高等学校の元教諭である藤田勝久さんに対し、同校の卒業式に来賓として招待された藤田さんが開式前に保護者へ語りかけ、校長らによる退出要求に抗議した行為について、「威力業務妨害罪」が成立するとして罰金20万円(求刑懲役8月)を課した原判決を是認し,藤田さんの上告を棄却する判決を言い渡した。
われわれは,この不当判決に対し、抗議するとともに,特に、保護者への呼びかけ行為を「被告人が大声や怒声を発するなどして、……卒業式の円滑な遂行を妨げた」という恣意的な認定によって威力業務妨害罪の実行行為に当たるとした今日の判決によって、社会における正当な異議申し立て行為が委縮することがないよう全力でたたかう決意をここに表明する。
2 藤田さんが,2004月3月11日の都立板橋高校の卒業式当日に行ったことは,開式18分前に式場内で「国歌斉唱の義務付け」に関する週刊誌記事のコピーを配布し,その直後,数十秒間,保護者に対して「教職員に対する国歌斉唱の義務付け」が深刻であることを説明し,説明が終わった直後に管理者からの退去要求に対して来賓として招待されていることなどを申し述べ,式に列席させるよう抗議をしたものの,開式前に式場から退去したというだけである。
藤田さんが式場から退去した後,開催された卒業式の国歌斉唱の際に,来賓として列席していた土屋たかゆき都議会議員が大声で卒業生らに起立するよう命じたものの,卒業生のほとんどが着席したままであった。
本件事件は,土屋都議が都議会本会議において,都教委に対し「生徒の着席を扇動した犯人探し」を求めると同時に,開式前の時間帯に保護者らに対して教職員への国歌斉唱の義務付けの深刻さを訴えた藤田さんを制裁するよう求める質問を行い,横山教育長(当時)が藤田さんに対する「法的措置」をとることを明言したことに端を発する。
すなわち,本日の有罪判決は,そもそも都教委や一部政治家ら「国歌」を強制的に歌わせることを求める勢力が,卒業式の国歌斉唱時の卒業生が起立しなかった責任を,開式前に校長らの求めに応じて式場から退去していた藤田さんに負わせるという,特定の政治勢力に呼応して,公安警察,検察がでっちあげた荒唐無稽の「事件」について司法が追随する判断を示したものというほかない。
3 本日の有罪判決は,裁判所までもが都教委や一部政治家らの特定政治目的に加担し,怒号、怒鳴り声、粗野な言動など感覚的な修辞語を用いて誇張された原審の事実認定をそのまま無批判に追認している点で非難を免れない。
本件においては、憲法21条の表現の自由を最大限に尊重するという立場から刑法234条の「威力」について厳格な解釈基準がを示されるべきであり、本件のような言論のみによる行為に「威力業務妨害」が適用されるということは、まさに、刑法の自由保障機能の限界点を示す場面であったはずである。
にもかかわらず、本日の判決はきわめて粗雑な「公共の福祉」に載ったかのような論理によって有罪とされている。
最高裁は人権の砦として、国民の権利擁護の使命を果たすべき職責を担っているところ、本日の判決は、最高裁自らその職責を放棄したことを明らかにするものであり失望を禁じ得ない。
国家権力による不当な権利侵害に対する人権の砦であるはずの裁判所が,近代刑事司法の核心である「証拠裁判主義」「公平な裁判所」の精神に反する恣意的事実認定及び法適用を行い,一部政治家・行政当局・訴追権力の特定の政治的意図に追随することを絶対に許してはならない。
4 本件では,藤田さんは「都教委の君が代強制に批判的な内容」の記事のコピーを配布し,保護者へ説明した。これに対し,校長ら管理職が,その記事の内容を問題にして体育館から退去するよう命じたことは,公権力が表現内容を問題視し,卒業式に参加させないという不利益を課すことである。これは,表現行為を行ったことを理由とする不利益取り扱いであり憲法21条が禁じるところである。
にもかかわらず本件判決では、表現内容に基づく規制としてではなく表現行為の態様に基づく規制に矮小化して、「被告人の本件行為は、その場の状況にそぐわない不相当な態様」であるとして社会通念上許されないとして断罪した。
保護者に対する呼びかけ及び退去要求に対する言論による抗議,いずれも社会の中で行われるささやかな表現行為である。にもかかわらず,このようなささやかな表現行為であっても,公権力の意に反するものであるとことを理由に刑事罰の対象とすることになれば,「言論・表現自由」の保障は画餅に帰し,表現者に対する圧殺効果は計り知れない。
5 なお、一審判決、原判決及び本日の最高裁判決は「コピー配布行為」そのものは「威力」に該当する等するとの判断をしてこなかった。そして、本日の判決の宮川裁判官の補足意見は教頭によるコピー配布制止行為があったとの誤った事実を前提としても藤田さんによるコピー配布行為が「威力」を用いて卒業式式典の遂行業務を妨害したと評価できない」と明言した。
このことは、藤田さんが保護者らに日の丸君が代問題に関して訴えかけた当日の行動のすべてが「威力」に該当し犯罪が成立するものではないことを確認したものというべきである。
6 われわれ弁護団は,あらためて本日の不当判決に抗議するとともに,ひきつづき「日の丸.・君が代」強制政策や,「愛国心」の法制化に対して良心の抵抗を続ける多くの人々と共に,言論の自由を守り,自由な教育現場を取り戻す闘いを続けていく決意である。
以上
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