《大阪ネットニュースから》
◆ 児美川孝一郎さん講演要旨
「公教育の転覆を図る教育DX-市場化、デジタル監視、新たな戦前」
このタイトル通りのことが進みつつあり、放置するととんでもないことになる。教育DXは「Society5.0」に向けた教育改変だが、文科省と経産省のせめぎ合いの中で、それを内閣府が統合して進められているのが現在である。
◆ 文科省と経産省のせめぎ合い
経産省の唱える「GIGAスクール」構想(2019年)は、パソコン・タブレット出荷増による経済効果が狙いで、民間教育のフル活用には一人一台のパソコンが必要ということでもあった。経産省の狙いは、教育を社会の全領域にまで拡張して、教育を市場化していくことにあった。これに安倍政権が乗り、長期不況にあえいできた経済界の野望が結びついた。
経産省による「未来の教室」は、AIドリルによる教科学習の「個別最適化」によって浮いた時間を「探究的な学び」、つまり企業と連携して開発・実施されるSTEAM教育に充てるというもの。社会の中にいろいろな学びの場を増やし、学校での学びを減らそうとしている。
経産省は、コロナ一斉休校でオンライン教育が注目を浴びたのをチャンスとして、補助金を出して民間企業に無料での教材提供を呼びかけ、多くの企業が応じた。
この教育DXによって、教育のサービス化、公教育の市場化・民営化が推進され、子どもたちの学びと人間的成長が痩せ細り、批判的知性を持たない人材育成が進むことになる。
一方、文科省は経産省に追随していたが、コロナ一斉休校で学校の役割が再認識され、少人数学級の後ろ盾となったこともあり、経産省とは異なる「令和の日本型学校教育」を追求するようになった。
それは「GIGAスクール」はやるが、伝統的な学校の形を維持し、一斉授業を否定せず、協働的な学びを強調するというもの。すでにパンパンの状態にある学校教育に条件整備抜きでICTを押し付け、最後は学校現場と教師に丸投げしている。
◆ 教育DXの現在地は?
部活の地域移行は経産省が言い出した。民間委託を大前提にして、部活だけではなく、学校施設の複合化による利用で儲けようとしている。不登校の子どもたちの授業を民間に任せることも打ち出されている。
文科省による教育DXでは、全国学カテストのCBT化、デジタル教科書の普及を進めている。デジタル教科書からQRコードで民間の教材や学習支援ソフト(検定を受けないのでやり放題、有料の場合もあり)に飛べるようになっている。
内閣府の政策パッケージでは、この二つの流れを統合して
「教師による一斉授業」 → 「子ども主体の学び」、
「同一学年で」 → 「学年に関係なく」、
「同じ教室で」 → 「教室以外の選択肢」、
「教科ごと」 → 「教科等横断・探究・STEAM」、
教師の役割を「ティーチング」 → 「コーチング」、
教職員組織を「同質・均質な集団」→ 「多様な人材・協働体制」
という変化のイメージ図が示されている。
学校という枠をなくして、社会全体で公教育をやっていこうという枠組みであり、子どもに対する無茶苦茶な自己責任論でもある。子ども・家庭に関する各種情報を分野横断的にデータベース化することも目指している。
◆ では、私たちはどうするか?
「子どもたちの学びと成長への不安」「学びの自己責任化による格差」「教師の分断と脱専門職化」「公教育の市場化、民営化」という問題に加え、「公教育の統治システム化」による「新たな戦前とのドッキング」も大きな問題である。
新自由主義(市場化・民営化、デジタル社会)と国家主義(新たな戦前)は全く矛盾しないで、むしろ結びつく。
これに対して、本気で対抗軸を考え、うち出していかなければならない。対抗軸の立て方として、学校は何をするところなのかを問いながら、教育をサービスだと考えずに、同じ場で豊かな学びを作っていくものという意識を学校の中で作っていくことが大事だ。
『大阪ネットニュース 第29号』(2023年9月16日)
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