◆ これがオリ・パラ教育? 「大人ファースト」の実態次々
生徒の競技観戦、都内で81万人予定、競技選べず、休めば欠席扱い (東京新聞【こちら特報部】)
来夏の東京五輪・パラリンピックに向けて、大会組織委員会や東京都は、小中校生を対象に「オリ・パラ教育」を進めている。だが、その内容を見ると、皇室行事の際、小学生に授業として沿道で日の丸を振らせたり、酷暑が予想されるのに競技観戦を事実上強制したり、と都合よく子どもたちを動員したい「大人の事情」が透けるものも。オリ・パラ教育の「子どもファースト」じゃない実態を考える。(片山夏子)
◆ 「両陛下が通る・・・」児童に日の丸持たせ出迎え
「天皇皇后両陛下は、昭和天皇への退位のご報告の為、八王子の武蔵陵を訪問されました」「日の丸の小旗四千本はたちまち無くなり、沿道の小学校、幼稚園、保育園の子供たちは手作りの小旗で集まってくれました」
これは、まだ自民党幹事長代行だった萩生田光一・現文部科学相の四月二十六日付プログだ。
同二十三日に、現在の上皇ご夫妻が、東京都八王子市にある昭和天皇が埋葬されている武蔵陵を訪れたときの様子を記している。振り返ってみれば、四月二十三日は火曜日で小学校は通常通り授業があるはずの日だ。なぜ、小学生は沿道で日の丸の小旗を振っていたのか。実は、これはオリ・パラ教育の一環としても行われたのだという。
◆ 「日本人の自覚と誇り養う」
八王子市教育委員会などによると、武蔵陵沿道の小学校三校の生徒計約五百四十人が日の丸の小旗を持つなどして出迎えや見送りをした。
三校は八王子市町会自治会連合会などの有志が組織した「天皇皇后両陛下八王子奉迎会実行委員会」(解散)や、そこから旗をもらった同会地区会長らの誘いや市教委からの情報を受け、校長判断で参加したという。動員ではなく、あくまで市教委は沿道の安全のために情報提供し、それを受けた三校の校長が、地元の町内会などの要請も受けつつ、子供たちを参加させたという。
通常の授業時間中に並ばせた小学校もあったが、学校裁量で行う教育的活動の一環だぞうだ。
三校の校長に取材すると、一年生から六年生まで全校生徒が沿道に並んだ小学校の校長は「本校はオリ・パラ教育を推進しておりそれに関連づけて行った」と話した。
同市教委の佐生秀之指導主事は「六年の学習指導要領には、国事行為などを取り上げ天皇への理解と敬愛の念を深めるとあるし、オリ・パラ教育で育てる五つの資質に『日本人としての自覚と誇りを持つ』があり、それを養うのに合致する。校長の判断はまったく問題ない。沿道に並び旗を振ることが問題だとする人もいるんですねとしか言いようがない」と語った。
ところで、前出の萩生田氏のプログには「町自連、安協、八王子まつりやいちょう祭りの実行委員会にも呼びかけ、『両陛下をお迎えする会』を組織し準備をしました」とあり、萩生田氏がこの小旗振りで主導的な立場にあるようにも読み取れる。
萩生田氏の事務所に取材すると、事務所は「本人が声がけをした事実はない。陛下をお迎えしたいという市民や団体から問い合わせが多数事務所にある中で、団体間で情報共有されたらよろしいのではというアドバイスを秘書がした」と回答。
オリ・パラ教育の一環として行われたということについては「事実関係を存じ上げないのでお答えいたしかねます」とした。
◆ 「安全に引率できる?」先生に不安
オリ・パラ教育の一環として疑問が残るのは、これだけではない。特に学校現場で大きな問題となっているのは、大会中の児童・生徒の競技観戦だ。
大会組織委員会は都内や関東など競技会場周辺の自治体、東日本大震災の被災地などの幼稚園、小中高、特別支援学校の児童生徒に観戦してもらおうと、百三十万枚以上のチケットを準備。うち東京都では、約八十一万人(九月末時点)の参加が予定される。
だが、実際にはこの観戦がかなりの強行軍となりそうなことに、現場では不安の声が広がっている。
まず、八月の東京の酷暑に対する懸念だ。八王子市在住の元教諭の根津公子さんが、同市に情報公開請求して入手した各学校への意向調査票によれば、各校長からは
「熱中症、昼食時の食中毒など事故も想定される」
「全児童が猛暑の中、移動だけでも所要時間以上がかかり厳しい」
「生徒からも暑いのに行きたくないという意見が出ている」
といった声が噴出している。
◆ 「10分ほど見て帰ろう」の声も
どうやって児童生徒を連れて行くかも難題だ。大会期間中は公共交通機関の大混雑が予想されるが、観戦場所までは公共交通機関だけで行くことを求められ、引率の教員のチケットは中学生で二十人に一人しか割り当てられていない。バスや電車の本数が少なく全員が一度に乗り切らなかったり、会場まで何度も乗り換える学校もある。
意向調査票では、
「多くの子を少ない教員で引率するのは安全上無理」
「公共交通機関で百五十人以上の児童のスムーズな乗降が可能かどうか」
という声が上がった。
一方、多くの学校で半日以上かかる観戦行程なのに、会場は弁当の持ち込みが禁止され、飲み物はペットボトル一本だけに制限されるそうだ。
ある小学校の男性教諭(61)は「会場周辺は学校や学年単位で食事ができる場所もないし、弁当は食中毒が心配。校長が『十分か二十分、会場の雰囲気を見て帰ってこよう』と話している」と話す。
しかも、都教育庁が区市町村教育委員会に出した文書に「都立学校はオリンピツク・パラリンピック教育の集大成として学校の『教育活動の一環』とし、全校や学年単位の観戦は『授業日』として実施。都の扱いを参考に対応を」としたため、それに倣う市区町村が多い。つまり、夏休み中であっても、観戦に参加しないと欠席扱いになる。
また、観戦できる競技や日程はチケット代を負担する都が学校ごとに割り振るため、自由に選べない。
◆ 観戦招待実質は「動員」
どうにも無理な「動員」のようにも見えるが、都教育庁指導部の守屋光輝主任指導主事は、都は三回にわたり意向調査を行っており、「参加しない学校もあり、希望制であって強制ではない」と動員を強く否定した。
交通費は各自か区市町村が負担だが、島しょ部の交通費や宿泊費は都での負担を検討中という。
だが、都教職員組合の平間輝雄書記長は「強制ではないが、都や各自治体の教育委員会に言われたら断れない。どの学校も希望せざるを得なくなっている」と言う。
ある中学校校長は教員へのプリントに「国→都→市区町村に降りてきた事業。国を挙げてのオリンピヅク。パラリンピック。よほどの理由がない限り、不参加は難しい」と書いた。
新潟大の世取山洋介准教授(教育行政学)は「授業日をどう設定するかは学校が自主的に決めることで、指図することではない。都教委が学校の教育活動の一環としての実施を求めている段階で非常識。学校評価が盛んな中、強要していないと言っても説得力がない。事実上の動員。熱中症や移動に伴う学校からの懸念に対処せず、事故が起きれば都教委の責任になる」と批判している。
※デスクメモ
東京都教育庁の資料によれば「オリンピック・パラリンピックは単なるスポーツの競技大会ではない」。え、そうなの?単なるスポーツだからこそ、人々は複雑な政治、経済、外交、歴史といった関係を超えたところで熱中し、相互理解できるのでは。余計な思惑を盛り込まないでほしい。(歩)2019・12・8
『東京新聞』(2019年12月8日【こちら特報部】)
生徒の競技観戦、都内で81万人予定、競技選べず、休めば欠席扱い (東京新聞【こちら特報部】)
来夏の東京五輪・パラリンピックに向けて、大会組織委員会や東京都は、小中校生を対象に「オリ・パラ教育」を進めている。だが、その内容を見ると、皇室行事の際、小学生に授業として沿道で日の丸を振らせたり、酷暑が予想されるのに競技観戦を事実上強制したり、と都合よく子どもたちを動員したい「大人の事情」が透けるものも。オリ・パラ教育の「子どもファースト」じゃない実態を考える。(片山夏子)
◆ 「両陛下が通る・・・」児童に日の丸持たせ出迎え
「天皇皇后両陛下は、昭和天皇への退位のご報告の為、八王子の武蔵陵を訪問されました」「日の丸の小旗四千本はたちまち無くなり、沿道の小学校、幼稚園、保育園の子供たちは手作りの小旗で集まってくれました」
これは、まだ自民党幹事長代行だった萩生田光一・現文部科学相の四月二十六日付プログだ。
同二十三日に、現在の上皇ご夫妻が、東京都八王子市にある昭和天皇が埋葬されている武蔵陵を訪れたときの様子を記している。振り返ってみれば、四月二十三日は火曜日で小学校は通常通り授業があるはずの日だ。なぜ、小学生は沿道で日の丸の小旗を振っていたのか。実は、これはオリ・パラ教育の一環としても行われたのだという。
◆ 「日本人の自覚と誇り養う」
八王子市教育委員会などによると、武蔵陵沿道の小学校三校の生徒計約五百四十人が日の丸の小旗を持つなどして出迎えや見送りをした。
三校は八王子市町会自治会連合会などの有志が組織した「天皇皇后両陛下八王子奉迎会実行委員会」(解散)や、そこから旗をもらった同会地区会長らの誘いや市教委からの情報を受け、校長判断で参加したという。動員ではなく、あくまで市教委は沿道の安全のために情報提供し、それを受けた三校の校長が、地元の町内会などの要請も受けつつ、子供たちを参加させたという。
通常の授業時間中に並ばせた小学校もあったが、学校裁量で行う教育的活動の一環だぞうだ。
三校の校長に取材すると、一年生から六年生まで全校生徒が沿道に並んだ小学校の校長は「本校はオリ・パラ教育を推進しておりそれに関連づけて行った」と話した。
同市教委の佐生秀之指導主事は「六年の学習指導要領には、国事行為などを取り上げ天皇への理解と敬愛の念を深めるとあるし、オリ・パラ教育で育てる五つの資質に『日本人としての自覚と誇りを持つ』があり、それを養うのに合致する。校長の判断はまったく問題ない。沿道に並び旗を振ることが問題だとする人もいるんですねとしか言いようがない」と語った。
ところで、前出の萩生田氏のプログには「町自連、安協、八王子まつりやいちょう祭りの実行委員会にも呼びかけ、『両陛下をお迎えする会』を組織し準備をしました」とあり、萩生田氏がこの小旗振りで主導的な立場にあるようにも読み取れる。
萩生田氏の事務所に取材すると、事務所は「本人が声がけをした事実はない。陛下をお迎えしたいという市民や団体から問い合わせが多数事務所にある中で、団体間で情報共有されたらよろしいのではというアドバイスを秘書がした」と回答。
オリ・パラ教育の一環として行われたということについては「事実関係を存じ上げないのでお答えいたしかねます」とした。
◆ 「安全に引率できる?」先生に不安
オリ・パラ教育の一環として疑問が残るのは、これだけではない。特に学校現場で大きな問題となっているのは、大会中の児童・生徒の競技観戦だ。
大会組織委員会は都内や関東など競技会場周辺の自治体、東日本大震災の被災地などの幼稚園、小中高、特別支援学校の児童生徒に観戦してもらおうと、百三十万枚以上のチケットを準備。うち東京都では、約八十一万人(九月末時点)の参加が予定される。
だが、実際にはこの観戦がかなりの強行軍となりそうなことに、現場では不安の声が広がっている。
まず、八月の東京の酷暑に対する懸念だ。八王子市在住の元教諭の根津公子さんが、同市に情報公開請求して入手した各学校への意向調査票によれば、各校長からは
「熱中症、昼食時の食中毒など事故も想定される」
「全児童が猛暑の中、移動だけでも所要時間以上がかかり厳しい」
「生徒からも暑いのに行きたくないという意見が出ている」
といった声が噴出している。
◆ 「10分ほど見て帰ろう」の声も
どうやって児童生徒を連れて行くかも難題だ。大会期間中は公共交通機関の大混雑が予想されるが、観戦場所までは公共交通機関だけで行くことを求められ、引率の教員のチケットは中学生で二十人に一人しか割り当てられていない。バスや電車の本数が少なく全員が一度に乗り切らなかったり、会場まで何度も乗り換える学校もある。
意向調査票では、
「多くの子を少ない教員で引率するのは安全上無理」
「公共交通機関で百五十人以上の児童のスムーズな乗降が可能かどうか」
という声が上がった。
一方、多くの学校で半日以上かかる観戦行程なのに、会場は弁当の持ち込みが禁止され、飲み物はペットボトル一本だけに制限されるそうだ。
ある小学校の男性教諭(61)は「会場周辺は学校や学年単位で食事ができる場所もないし、弁当は食中毒が心配。校長が『十分か二十分、会場の雰囲気を見て帰ってこよう』と話している」と話す。
しかも、都教育庁が区市町村教育委員会に出した文書に「都立学校はオリンピツク・パラリンピック教育の集大成として学校の『教育活動の一環』とし、全校や学年単位の観戦は『授業日』として実施。都の扱いを参考に対応を」としたため、それに倣う市区町村が多い。つまり、夏休み中であっても、観戦に参加しないと欠席扱いになる。
また、観戦できる競技や日程はチケット代を負担する都が学校ごとに割り振るため、自由に選べない。
◆ 観戦招待実質は「動員」
どうにも無理な「動員」のようにも見えるが、都教育庁指導部の守屋光輝主任指導主事は、都は三回にわたり意向調査を行っており、「参加しない学校もあり、希望制であって強制ではない」と動員を強く否定した。
交通費は各自か区市町村が負担だが、島しょ部の交通費や宿泊費は都での負担を検討中という。
だが、都教職員組合の平間輝雄書記長は「強制ではないが、都や各自治体の教育委員会に言われたら断れない。どの学校も希望せざるを得なくなっている」と言う。
ある中学校校長は教員へのプリントに「国→都→市区町村に降りてきた事業。国を挙げてのオリンピヅク。パラリンピック。よほどの理由がない限り、不参加は難しい」と書いた。
新潟大の世取山洋介准教授(教育行政学)は「授業日をどう設定するかは学校が自主的に決めることで、指図することではない。都教委が学校の教育活動の一環としての実施を求めている段階で非常識。学校評価が盛んな中、強要していないと言っても説得力がない。事実上の動員。熱中症や移動に伴う学校からの懸念に対処せず、事故が起きれば都教委の責任になる」と批判している。
※デスクメモ
東京都教育庁の資料によれば「オリンピック・パラリンピックは単なるスポーツの競技大会ではない」。え、そうなの?単なるスポーツだからこそ、人々は複雑な政治、経済、外交、歴史といった関係を超えたところで熱中し、相互理解できるのでは。余計な思惑を盛り込まないでほしい。(歩)2019・12・8
『東京新聞』(2019年12月8日【こちら特報部】)
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