たんぽぽ舎です。【TMM:No3059】2017年4月22日(土)地震と原発事故情報
▼ 今村雅弘復興大臣の激高に見る
政府の責任放棄と東電福島第一原発事故被害者棄民政策
今村復興大臣の暴言は意図的になされたもの
その背景には「原発事故子ども・被災者支援法」の無力化がある
『避難を継続した場合であっても適切に支援すること』を国に義務付けている 避難を「自己責任」などとする余地はない
原発事故の被災者については、国と東電の責任を明記し、賠償と生活保障を基幹とする法律が事故の翌年(2012年)に制定されている。
今村復興大臣の暴言は、意図的になされたものであり、その背景には「原発事故子ども・被災者支援法」(*1)の無力化があると考える。
その基本理念は「第二条」に明記されている。
『被災者生活支援等の施策』については、被災者一人一人が支援対象地域における居住、他の地域への移動及び移動前の地域への帰還についての選択を『自らの意思』によって行うことができると規定し、被災者が避難と帰還のいずれを選択した場合であっても『適切に支援するものでなければならない。』と定めている。自らの意志という点を歪曲し「自己責任」とすり替えているのかもしれない。
この条文で重要なのは平等性で「自らの意思によって行な」われた選択を保証し、『避難を継続した場合であっても適切に支援すること』を、国に義務付けている点だ。避難を「自己責任」などとする余地はない。
第三項では『放射線による外部被ばく及び内部被ばくに伴う被災者の健康上の不安』を早期に解消するべき最大限の努力がなされなければならないとしており、ここでは「不安」に着目していることが重要である。
因果関係の科学的証明を求めているわけではない。最大限の努力については、後の条文にある差別の防止策ともつながる、教育や啓蒙があるものと考えられるが、これについて具体的に施策は実施されていない。
特に問題なのは低線量被曝に対して「100ミリシーベルト以下では健康に問題はない」とする主張の横行と、事実上20ミリシーベルトを帰還制限区域の境界とし、帰還を促進する基本方針である。不安に対して強権的行政決定をもって応えるのは許されない。
また第四項では『被災者に対するいわれなき差別が生ずることのないよう、適切な配慮がなされなければならない。』とわざわざ記載し、「原発差別」の発生を予見憂慮し、あらかじめ対策を求めているのである。
「差別は無知から生ずる」とばかりに、「放射能は安全だ」教育をするべきとの主張さえあるのだが誤っている。
危険なものを危険と教え、そこから逃げることは正しい判断との認識を持つことからしか始まらない。新たな「放射能安全神話」を作っても解決になるわけがない。
第五項『胎児を含む子どもが放射線による健康への影響を受けやすいことを踏まえ、その健康被害を未然に防止する観点から放射線量の低減及び健康管理に万全を期することを含め、子ども及び妊婦に対して特別の配慮がなされなければならない。』と、放射線被ばくに対する子供への特別の配慮を行うことも定めている。
子ども被災者支援法の根幹を成す考え方の一つだ。学校教育の場でこのことを教えてこなかったことが、差別の原因の一端でもある。福島から避難してきた子どもがいる授業参観で「福島に帰れ」と言った他地域の親の発言は、根底に無理解があることは容易に想像できる。
第六項では『放射線による影響が長期間にわたるおそれがあることに鑑み、被災者の支援の必要性が継続する間確実に実施されなければならない。』と、数年で終わらない厳しい状況を念頭に、長期にわたる安定的な施策の構築を求めている。
これは6年で住宅支援を打ち切ることは法の趣旨に反していることを意味している。
法律の規定では、国に対して大きな義務を負わせているから、政府は大いに不満だった。
2.国の責任
大規模放射能災害を招いた責任を国も有している
通常の自然災害等では見られない規定が、なぜ作られたのか。それは第三条の規定を見ると明白だ。全文を引用する。
『国は、原子力災害から国民の生命、身体及び財産を保護すべき責任並びにこれまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任を負っていることに鑑み、前条の基本理念にのっとり、被災者生活支援等施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。』
原発を推進してきたからこそ、一民間企業の公害事件では終わらない、大規模放射能災害を招いた責任を国も有している。
国が文字通り前面に出なければならないと規定している根拠は国策としての原発政策である。これを故意に忘れたふりをして「責任って何ですか」とうそぶく大臣を、言いっぱなしで見過ごしてはならないのはマスコミの責任だ。
特に第一次安倍政権を含む民主党以前の政権が、主に原発推進策を策定し実行してきた。責任のウエイトはより自民党に掛かっている。
しかし残念なことに、支援法の規定と大臣の発言を関連付けて報じ、政府を批判した記事はほとんど見られなかった。
国の責任を前面に指摘をした規定を持つ法律が別にある。「水俣特措法(*2)」である。その前文には次の文章がある。
『平成十六年のいわゆる関西訴訟最高裁判所判決において、国及び熊本県が長期間にわたって適切な対応をなすことができず、水俣病の被害の拡大を防止できなかったことについて責任を認められたところであり、政府としてその責任を認め、おわびをしなければならない。』
水俣病と福島原発震災の類似点は、政府の行った行為(水俣の場合は拡大防止の失敗などの不適切な対応とされる)が、多大な犠牲を生じた点を重視していることだ。
当時の政権与党だった民主党はもちろん、野党だった自民党などの超党派による議員立法で制定された法律であり、極めて重いものだった。
しかし、このような責任を負うつもりは、政府、特に原発を推進してきた官僚機構には全くなかった。
制定直後から、換骨奪胎、骨抜きかがもくろまれ、自民党が政権について第二次安部内閣が作られて以降、特にひどくなる。
3.「支援」内容の規定
福島県や被災者は「医療費無償化」を求めたが実施されなかった
放射能に汚染された地域に暮らすこと、避難を強いられることは、
他の地域に住む人と比べて不公平ではないのか
第八条では支援の内容について規定をしているが、これには問題がある。
施策そのものは条文に具体的に規定されていない。
第五条に基づいて定める「基本方針」により定めることとなっている。
これが、支援法の最大の問題点だ。
法で定める施策の内容は『医療の確保に関する施策、子どもの就学等の援助に関する施策、家庭、学校等における食の安全及び安心の確保に関する施策、放射線量の低減及び生活上の負担の軽減のための地域における取組の支援に関する施策、自然体験活動等を通じた心身の健康の保持に関する施策、家族と離れて暮らすこととなった子どもに対する支援に関する施策』そしてその他の必要な施策を講ずるとしている。
しかし前提条件が問題だ。『支援地域から移動して支援地域以外に生活する』と規定しているので支援地域から外れる、または、もともと支援地域とされない地域については対象外だ。避難区域外避難者(いわゆる自主避難者)の多くに届かないのはこのためである。
また、支援の内容も十分とは言えない。福島県や被災者は「医療費無償化」を求めたが、「他の医療費負担との均衡がとれない」つまり不公平だとの国の主張で、実施されなかった。
不公平というのであれば、放射能に汚染された地域に暮らすこと、避難を強いられることは、他の地域に住む人と比べて不公平ではないのか。原因を作った国に、そのような理由で無償化を見送る正当性はない。
基本計画が策定されたのは法の制定から1年以上もたった13年10月。
15年8月にはこれが改定されているが、大きく後退した。その具体的問題点は次に明確に見て取ることが出来る。
『原発事故発生から4年余りが経過した現在においては、空間放射線量等からは、避難指示区域以外の地域から新たに避難する状況にはなく、法の規定に従えば、支援対象地域は縮小又は撤廃することが適当となると考えられる』
この文章は基本計画の改定に関するものである。対象者を「4年たったこと」「線量が低下したこと」「新たな避難をする状況ではないこと」から支援対象地域を縮小、撤廃するとしている。これが「被災者切り捨て」の論理であり「棄民政策」と批判される理由でもある。
空間線量の低下については、いわゆる「20ミリシーベルト以下」ではなく現状が「生活圏として既に年間1~20ミリシーベルトの線量域の下方部分にあり」としているが、実態は、生活圏と見なしていない区域かも知れないが、一部で20ミリシーベルトを超える地域の隣接区域や敷地の中に高い線量を抱える地域も含んでいる。厳密に計測を行って決めているわけではない。
4.住宅「支援」の根拠と打ち切り
住宅「支援」を打ち切ることが、第九条の規定に反している
第九条には住宅「支援」についての規定がある。
『支援対象地域からの移動の支援に関する施策、移動先における住宅の確保に関する施策、子どもの移動先における学習等の支援に関する施策、移動先における就業の支援に関する施策、移動先の地方公共団体による役務の提供を円滑に受けることができるようにするための施策、支援対象地域の地方公共団体との関係の維持に関する施策、家族と離れて暮らすこととなった子どもに対する支援に関する施策その他の必要な施策を講ずる』
住宅「支援」を打ち切ることが、この条文に反していることは明確だ。しかも、打ち切りを決めたのは、第三条にいう事故責任が重くのしかかる政府自らだ。
条文では打ち切りをする基準を明確に定めていない。これも基本計画にゆだねられているが、その基本計画は一方的に国により改定された。しかし法は「勝手に決めては行けない」と明記している。
第十四条の「意見の反映等」では『国は施策の適正な実施に資するため、当該施策の具体的な内容に被災者の意見を反映し、当該内容を定める過程を被災者にとって透明性の高いものとするために必要な措置を講ずる』としている。
改定案はパブリックコメントにかけられた。そこでは大半が「住宅支援打ち切り反対」の意見だったという。ところが2017年3月末で打ち切りが決められる。意見はまったく反映されなかった。
これでは法律違反と言うしかない。
5.情報提供と意見聴取
条文では原子力災害が見えにくく他者の理解が困難な存在で
あることを認識しているにもかかわらず
現政権も担当官庁も大臣も「理解」を拒否し
徹底したサボタージュを決め込んでいる
十四条以外にも随所に情報提供や意見聴取についての規定がある。
第十二条には『国は、第八条から前条までの施策に関し具体的に講ぜられる措置について、被災者に対し必要な情報を提供するための体制整備に努めるものとする。』と規定しており、知らなかったために起きる不利益をなくす努力が求められている。
第五条第三項には『政府は、基本方針を策定しようとするときは、あらかじめ、その内容に事故の影響を受けた地域の住民、当該地域から避難している者等の意見を反映させるために必要な措置を講ずる』とし、変更についても同様としている。
第十四条の具体的な規定は『国は、第八条から前条までの施策の適正な実施に資するため、当該施策の具体的な内容に被災者の意見を反映し、当該内容を定める過程を被災者にとって透明性の高いものとするために必要な措置を講ずる。』
全十九条と附則二条で構成され、法律としては短い「支援法」において、こうした規定を三カ所も設ける意味は何か。
それほどに原子力災害が見えにくく、他者の理解が困難な存在であることを認識し、被災者、加害者である国と電力会社にも理解を求めなければならないとの思いからだろう。
案の定、現政権も担当官庁も大臣も理解を拒否し、徹底したサボタージュを決め込んでいるのだ。
(*1) 正式名称「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律(2012年6月27日)」
(*2) 正式名称「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法(2009年7月15日)」
▼ 今村雅弘復興大臣の激高に見る
政府の責任放棄と東電福島第一原発事故被害者棄民政策
今村復興大臣の暴言は意図的になされたもの
その背景には「原発事故子ども・被災者支援法」の無力化がある
山崎久隆(たんぽぽ舎)
目 次1.「原発事故子ども・被災者支援法」は
1.「原発事故子ども・被災者支援法」は
『避難を継続した場合であっても適切に支援すること』を国に義務付けている 避難を「自己責任」などとする余地はない
2.国の責任
大規模放射能災害を招いた責任を国も有している
3.「支援」内容の規定
福島県や被災者は「医療費無償化」を求めたが実施されなかった放射能に汚染された地域に暮らすこと、避難を強いられることは、他の地域に住む人と比べて不公平ではないのか
4.住宅「支援」の根拠と打ち切り
住宅「支援」を打ち切ることが、第九条の規定に反している
5.情報提供と意見聴取
条文では原子力災害が見えにくく他者の理解が困難な存在であることを認識しているにもかかわらず現政権も担当官庁も大臣も「理解」を拒否し徹底したサボタージュを決め込んでいる
『避難を継続した場合であっても適切に支援すること』を国に義務付けている 避難を「自己責任」などとする余地はない
原発事故の被災者については、国と東電の責任を明記し、賠償と生活保障を基幹とする法律が事故の翌年(2012年)に制定されている。
今村復興大臣の暴言は、意図的になされたものであり、その背景には「原発事故子ども・被災者支援法」(*1)の無力化があると考える。
その基本理念は「第二条」に明記されている。
『被災者生活支援等の施策』については、被災者一人一人が支援対象地域における居住、他の地域への移動及び移動前の地域への帰還についての選択を『自らの意思』によって行うことができると規定し、被災者が避難と帰還のいずれを選択した場合であっても『適切に支援するものでなければならない。』と定めている。自らの意志という点を歪曲し「自己責任」とすり替えているのかもしれない。
この条文で重要なのは平等性で「自らの意思によって行な」われた選択を保証し、『避難を継続した場合であっても適切に支援すること』を、国に義務付けている点だ。避難を「自己責任」などとする余地はない。
第三項では『放射線による外部被ばく及び内部被ばくに伴う被災者の健康上の不安』を早期に解消するべき最大限の努力がなされなければならないとしており、ここでは「不安」に着目していることが重要である。
因果関係の科学的証明を求めているわけではない。最大限の努力については、後の条文にある差別の防止策ともつながる、教育や啓蒙があるものと考えられるが、これについて具体的に施策は実施されていない。
特に問題なのは低線量被曝に対して「100ミリシーベルト以下では健康に問題はない」とする主張の横行と、事実上20ミリシーベルトを帰還制限区域の境界とし、帰還を促進する基本方針である。不安に対して強権的行政決定をもって応えるのは許されない。
また第四項では『被災者に対するいわれなき差別が生ずることのないよう、適切な配慮がなされなければならない。』とわざわざ記載し、「原発差別」の発生を予見憂慮し、あらかじめ対策を求めているのである。
「差別は無知から生ずる」とばかりに、「放射能は安全だ」教育をするべきとの主張さえあるのだが誤っている。
危険なものを危険と教え、そこから逃げることは正しい判断との認識を持つことからしか始まらない。新たな「放射能安全神話」を作っても解決になるわけがない。
第五項『胎児を含む子どもが放射線による健康への影響を受けやすいことを踏まえ、その健康被害を未然に防止する観点から放射線量の低減及び健康管理に万全を期することを含め、子ども及び妊婦に対して特別の配慮がなされなければならない。』と、放射線被ばくに対する子供への特別の配慮を行うことも定めている。
子ども被災者支援法の根幹を成す考え方の一つだ。学校教育の場でこのことを教えてこなかったことが、差別の原因の一端でもある。福島から避難してきた子どもがいる授業参観で「福島に帰れ」と言った他地域の親の発言は、根底に無理解があることは容易に想像できる。
第六項では『放射線による影響が長期間にわたるおそれがあることに鑑み、被災者の支援の必要性が継続する間確実に実施されなければならない。』と、数年で終わらない厳しい状況を念頭に、長期にわたる安定的な施策の構築を求めている。
これは6年で住宅支援を打ち切ることは法の趣旨に反していることを意味している。
法律の規定では、国に対して大きな義務を負わせているから、政府は大いに不満だった。
2.国の責任
大規模放射能災害を招いた責任を国も有している
通常の自然災害等では見られない規定が、なぜ作られたのか。それは第三条の規定を見ると明白だ。全文を引用する。
『国は、原子力災害から国民の生命、身体及び財産を保護すべき責任並びにこれまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任を負っていることに鑑み、前条の基本理念にのっとり、被災者生活支援等施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。』
原発を推進してきたからこそ、一民間企業の公害事件では終わらない、大規模放射能災害を招いた責任を国も有している。
国が文字通り前面に出なければならないと規定している根拠は国策としての原発政策である。これを故意に忘れたふりをして「責任って何ですか」とうそぶく大臣を、言いっぱなしで見過ごしてはならないのはマスコミの責任だ。
特に第一次安倍政権を含む民主党以前の政権が、主に原発推進策を策定し実行してきた。責任のウエイトはより自民党に掛かっている。
しかし残念なことに、支援法の規定と大臣の発言を関連付けて報じ、政府を批判した記事はほとんど見られなかった。
国の責任を前面に指摘をした規定を持つ法律が別にある。「水俣特措法(*2)」である。その前文には次の文章がある。
『平成十六年のいわゆる関西訴訟最高裁判所判決において、国及び熊本県が長期間にわたって適切な対応をなすことができず、水俣病の被害の拡大を防止できなかったことについて責任を認められたところであり、政府としてその責任を認め、おわびをしなければならない。』
水俣病と福島原発震災の類似点は、政府の行った行為(水俣の場合は拡大防止の失敗などの不適切な対応とされる)が、多大な犠牲を生じた点を重視していることだ。
当時の政権与党だった民主党はもちろん、野党だった自民党などの超党派による議員立法で制定された法律であり、極めて重いものだった。
しかし、このような責任を負うつもりは、政府、特に原発を推進してきた官僚機構には全くなかった。
制定直後から、換骨奪胎、骨抜きかがもくろまれ、自民党が政権について第二次安部内閣が作られて以降、特にひどくなる。
3.「支援」内容の規定
福島県や被災者は「医療費無償化」を求めたが実施されなかった
放射能に汚染された地域に暮らすこと、避難を強いられることは、
他の地域に住む人と比べて不公平ではないのか
第八条では支援の内容について規定をしているが、これには問題がある。
施策そのものは条文に具体的に規定されていない。
第五条に基づいて定める「基本方針」により定めることとなっている。
これが、支援法の最大の問題点だ。
法で定める施策の内容は『医療の確保に関する施策、子どもの就学等の援助に関する施策、家庭、学校等における食の安全及び安心の確保に関する施策、放射線量の低減及び生活上の負担の軽減のための地域における取組の支援に関する施策、自然体験活動等を通じた心身の健康の保持に関する施策、家族と離れて暮らすこととなった子どもに対する支援に関する施策』そしてその他の必要な施策を講ずるとしている。
しかし前提条件が問題だ。『支援地域から移動して支援地域以外に生活する』と規定しているので支援地域から外れる、または、もともと支援地域とされない地域については対象外だ。避難区域外避難者(いわゆる自主避難者)の多くに届かないのはこのためである。
また、支援の内容も十分とは言えない。福島県や被災者は「医療費無償化」を求めたが、「他の医療費負担との均衡がとれない」つまり不公平だとの国の主張で、実施されなかった。
不公平というのであれば、放射能に汚染された地域に暮らすこと、避難を強いられることは、他の地域に住む人と比べて不公平ではないのか。原因を作った国に、そのような理由で無償化を見送る正当性はない。
基本計画が策定されたのは法の制定から1年以上もたった13年10月。
15年8月にはこれが改定されているが、大きく後退した。その具体的問題点は次に明確に見て取ることが出来る。
『原発事故発生から4年余りが経過した現在においては、空間放射線量等からは、避難指示区域以外の地域から新たに避難する状況にはなく、法の規定に従えば、支援対象地域は縮小又は撤廃することが適当となると考えられる』
この文章は基本計画の改定に関するものである。対象者を「4年たったこと」「線量が低下したこと」「新たな避難をする状況ではないこと」から支援対象地域を縮小、撤廃するとしている。これが「被災者切り捨て」の論理であり「棄民政策」と批判される理由でもある。
空間線量の低下については、いわゆる「20ミリシーベルト以下」ではなく現状が「生活圏として既に年間1~20ミリシーベルトの線量域の下方部分にあり」としているが、実態は、生活圏と見なしていない区域かも知れないが、一部で20ミリシーベルトを超える地域の隣接区域や敷地の中に高い線量を抱える地域も含んでいる。厳密に計測を行って決めているわけではない。
4.住宅「支援」の根拠と打ち切り
住宅「支援」を打ち切ることが、第九条の規定に反している
第九条には住宅「支援」についての規定がある。
『支援対象地域からの移動の支援に関する施策、移動先における住宅の確保に関する施策、子どもの移動先における学習等の支援に関する施策、移動先における就業の支援に関する施策、移動先の地方公共団体による役務の提供を円滑に受けることができるようにするための施策、支援対象地域の地方公共団体との関係の維持に関する施策、家族と離れて暮らすこととなった子どもに対する支援に関する施策その他の必要な施策を講ずる』
住宅「支援」を打ち切ることが、この条文に反していることは明確だ。しかも、打ち切りを決めたのは、第三条にいう事故責任が重くのしかかる政府自らだ。
条文では打ち切りをする基準を明確に定めていない。これも基本計画にゆだねられているが、その基本計画は一方的に国により改定された。しかし法は「勝手に決めては行けない」と明記している。
第十四条の「意見の反映等」では『国は施策の適正な実施に資するため、当該施策の具体的な内容に被災者の意見を反映し、当該内容を定める過程を被災者にとって透明性の高いものとするために必要な措置を講ずる』としている。
改定案はパブリックコメントにかけられた。そこでは大半が「住宅支援打ち切り反対」の意見だったという。ところが2017年3月末で打ち切りが決められる。意見はまったく反映されなかった。
これでは法律違反と言うしかない。
5.情報提供と意見聴取
条文では原子力災害が見えにくく他者の理解が困難な存在で
あることを認識しているにもかかわらず
現政権も担当官庁も大臣も「理解」を拒否し
徹底したサボタージュを決め込んでいる
十四条以外にも随所に情報提供や意見聴取についての規定がある。
第十二条には『国は、第八条から前条までの施策に関し具体的に講ぜられる措置について、被災者に対し必要な情報を提供するための体制整備に努めるものとする。』と規定しており、知らなかったために起きる不利益をなくす努力が求められている。
第五条第三項には『政府は、基本方針を策定しようとするときは、あらかじめ、その内容に事故の影響を受けた地域の住民、当該地域から避難している者等の意見を反映させるために必要な措置を講ずる』とし、変更についても同様としている。
第十四条の具体的な規定は『国は、第八条から前条までの施策の適正な実施に資するため、当該施策の具体的な内容に被災者の意見を反映し、当該内容を定める過程を被災者にとって透明性の高いものとするために必要な措置を講ずる。』
全十九条と附則二条で構成され、法律としては短い「支援法」において、こうした規定を三カ所も設ける意味は何か。
それほどに原子力災害が見えにくく、他者の理解が困難な存在であることを認識し、被災者、加害者である国と電力会社にも理解を求めなければならないとの思いからだろう。
案の定、現政権も担当官庁も大臣も理解を拒否し、徹底したサボタージュを決め込んでいるのだ。
(*1) 正式名称「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律(2012年6月27日)」
(*2) 正式名称「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法(2009年7月15日)」
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