前編のオープニングでも述べたように、23日(土)の東京は嵐だった。
春一番の強風が吹き荒れたのだが、夕方に近づくにつれ生暖かった風は見事に冬将軍に戻ってしまった。
ビッグサイトを出る頃、外の黄砂は薄れて青空が戻りつつあったが、冷たい風が歩行者の進路を妨げるように吹き荒れ始めた。
笠を貰ったがために用意したショッピング袋の中身はほとんど空気。
重さが全く無い為、風の影響は絶大。
突風が吹く度に袋は風に持っていかれ、まるで"凧あげ"状態になってしまった。
ただでさえ歩行が難しいのに、その袋のおかげで駅までの道のりが滅茶苦茶険しいものとなった。
帰りの国際展示場前駅。
強風吹き荒れる中、新木場行き電車は発車した。
ここまでは"風のみ"との戦いだった。
新木場駅からの京葉線でこの後の過酷な状況との戦いは始まったのだ!
新木場駅に到着すると電車はまた運行を見合わせていたらしかった。
私が到着した時にちょうど運よくこれまた解除されたのだった。
階段を上がると、下り列車を待つ人たちでホームはごった返していた。
私は運よく電車が来る10分前にホームに到着したわけだが、それ以前から待つ人は冷たい強風が吹き荒れる中を待ち続けていたわけだ。
到着した下り列車は新木場駅の大量の乗客とは裏腹に空いており、列後方の私も乗車することが出来た。
しかし、電車は発車したものの、新木場~葛西臨海公園は荒川河口を、葛西臨海公園~舞浜は旧江戸川河口を渡るため強風に備え時速10kmほどの超低速による徐行運転で従来よりも大幅に時間はかかってしまった。
目的地の市川塩浜駅まで走ってくれれば安全が第一なので徐行は我慢しようじゃないか。
そんな気持ちで混雑する車内と、今や"邪魔にしかならないベトナム笠"の所持を我慢し続けたのだった(せっかくいただいた笠なのにスミマセン)
舞浜駅から新浦安駅までの区間に河川はないので徐行運転は解除され、普通どおりの運転であった。
さあいよいよ次の駅で降りて営業所に置いたマイカーに乗り換えて帰宅するぞ!と思った矢先に最大の不幸は始まった。
なんと、ついに新浦安駅でまたまた運転を見合わせてしまったのだ。
急がば回れという言葉の通り、ここは運転再開を我慢して待ち続け、この電車に乗り続けることが賢明だと自分に言い聞かせた。
されど数十分が過ぎ、同じく我慢して待ち続けていた乗客は徐々に新浦安駅で下車し始めた。
停車中の電車のドアは開きっぱなしのため冷たい風が車内に吹き注ぐ・・・。
頭の中でシュミレーションし、一番早い市川塩浜駅までのルートを模索してみた。
いくら一駅といえど距離は2.5kmから3kmはある。
なにせ電車で4分近くかかる区間なのだから。
やはりタクシーだろう。
バスでは市川塩浜駅のずいぶん手前で左折してしまうから。
もしくは電車が走るまでの間、駅中にあるコーヒーショップで寒さをしのぐか・・・。
どちらにしても一旦電車を降り、ホームから離れることにした。
改札付近は下車した乗客とこれから乗車しようとする人等で混乱していた。
振替のバス券の受け渡しとかで。
寒さをしのごうと思ったコーヒーショップは駅中にはなく、駅の外。
この時に京葉線で市川塩浜駅に向かうことを断念した。
改札を出てロータリーへ向かうと、バス停には恐ろしいほどの人たちが列を作っていた。
無論、振替乗車券を貰っているからだろう。
そんな安易な思いでタクシーを利用する人はさすがに昼間なのだから居ないだろうとタクシー乗り場へ向かった。
そこには誰も並んでいなかった。
そこは降車場所だったからだ。
では、乗車場所はどこかなと見渡すと・・・。
バス停だと思っていた場所が実はタクシー乗り場で、巨大な列はタクシー待ちの人たちだったのだ。
単純に見積もっても100人以上の列。
しかも、タクシーはほとんどやって来ない。
こんなところで待っていては次の予定に間に合わないし、日中の気温に騙されて薄着だったので寒さにも耐えられない。
考えた結果、違う場所でタクシーで探すことにした。
駅付近の大通りを走る車には先客がおり、交差点付近まで移動しても私と同じくキョロキョロとタクシーを探す人たちが多くいた。
「これじゃあ駄目だ。」
一番大きなホテルの玄関で乗車しようと思いついたのだ。
しかし、これも無駄だった。
この日のタクシーは何所に行ってしまったのか?
いつもなら溢れんばかりの乗客待ちのタクシーが連なっているのに・・・。
新浦安近辺に友人・知人は居ない。
タクシーは全くつかまらない。
駅ホームに目をやってもまだまだ動きそうにない下り電車。
私以外にも必死でタクーを探す他乗客たち。
最後の手段を取るしかなかった。
こうなったらやけくそだ!
歩いちまえ!
タクシーを拾えたらラッキー、もしくは途中までにはなってしまうがバスが来たら乗ってしまおうと。
そんな思いで、ビッグサイト付近と同様に強風と手提げ紙袋との戦いを強いられながら線路沿いの道を足早に歩き始めた。
浦安市と市川市を境にする河を渡るときの強風はすさまじかった。
なんで「俺はこんな目にあっているのか?」、だんだんと己に降りかかる不幸を呪い、ネガティブな気分になってきたので気持ちを切り替えた。
4kmも歩けばかなりの運動だし、カロリー消費につながるじゃないか!
なんな前向きな気持ちに応えるべく私の足は速度を上げ、いつしか停車中の下り列車を後ろ目に気にし始めた
万が一、乗っていた下り列車が先に市川塩浜駅に到着されたら目も当てられない。
強風による「凶」というおみくじを「大凶」に変えないためにも。
いつしか私は手提げ紙袋をぎゅっと抱きしめて前方を見据えた。
こうなったら走っちまえ!
あの列車に追い抜かれないためにも。