サッカー観戦後、約束通り叔父の家に寄った。
叔父も約束通り、スーパーで秋刀魚の刺身と丸焼き用のイカ、そして焼き鳥を買って待っていてくれた。
本来ならば翌早朝に妹の引っ越しにともなう家財の搬出を弟と義弟に加わって手伝う予定だったが、叔父との酒宴によってあえなくキャンセルとなってしまった。
(彼らには心底申し訳ないと思いつつ、久しぶりに叔父のお酒に付き合ってあげたかった)
もちろん、義弟には叔父との酒によって帰らないかもしれない旨は伝え、家のスペアキーも念のため預けておいた。
前回一緒に呑んだ際に、あまり良い日本酒が無かったのが記憶に残っており、今回の訪問時に自ら持ち込むことは決めていた。
これが功を奏し、叔父宅にあるのはビールと何だか安そうな無名の芋焼酎、そしてよくわからんブランデーだ。
ゆえに刺身・焼き鳥用に合うのは持ち込んだ八海山だった。
しかし、この八海山も4合瓶だったため瞬く間に空になり、最終的に手を出したのは叔父のイチオシのブランデーだ。
やたらとイチオシのブランデーを「30年モノ」と強調する叔父に理由を問いた。
すると、手に入れてから30年を経過したからと答えてくれた。
すなわち、樽の中ではなく叔父の物置部屋に眠って30年だそうだ(笑)。
しかし、叔父はまだ意味ありげな不敵な笑みを浮かべる。
(他になんだろうか?)
叔父は語り始めた。
「このCAMUS(カミュ)はお前の両親が新婚旅行のお土産で買ってきてくれたものなんだ。ずっと飲まずにいたし、せっかくだからお前が30歳になったら一緒に飲もうと決めていたんだ。まあ、30歳を何年か過ぎてしまったけれどね(これを茨城弁口調で)」
私の両親が新婚旅行でハワイに行ったのは1974年のこと。
私が生まれる前から存在する新婚旅行のお土産ブランデーなわけだ。
今の自分より若い両親が叔父のために買ったお土産。
それをその当時存在しない息子が30年の時を超えて口にする。
樽の中で30年眠った高級品より母親の実家(叔父の家)で眠り続けた30年の方が私にとって感動的だったし、美味かった。
そんなニクイ演出をしてくれた茨城弁100%&差し歯がキンピカの叔父がとてもカッコよかった。
30年の深みとともに更けた秋の夜長であった。