言うまでもないが、寝た物の声が寝た者の耳にだけ届くのである。
おそらく、日本兵士の最後として、はっと固唾を呑む思いをしたのは、私だけではあるまい。私は、それまでに、戦場で天皇陛下萬歳と唱えるような兵士は稀で、大概は、お母さんと呼んで死んでいくものだという穿った見方を、さもありなむと聞いていた。ああ、あれはやっぱり穿ち過ぎで、日本兵士の真骨頂は、大君に召された自覚が本ものだったと、私は素直に、これまでの自分の不明を恥じるような気持ちと、今、この世を離れていくその声の主に、敬虔な祈りを捧げねば、と思った。
ところが、どうしたのであろう。萬歳三唱を言うのは常であるとしても、五唱六唱はおろか、何十回となく、同じ兵士が繰り返すのである。
みなそれぞれが負傷し、高熱と痛みに疲れ果てている。だから、よほどのことでもなければ他を顧みたりはしない。自分のことで精一杯で、他人様をかまっているわけにはいかない。それぞれが、自分自身の変わり果てた姿に、いや応なしに、向きあわされるから、被爆者は、互いに、という意識がない。
おそらく、日本兵士の最後として、はっと固唾を呑む思いをしたのは、私だけではあるまい。私は、それまでに、戦場で天皇陛下萬歳と唱えるような兵士は稀で、大概は、お母さんと呼んで死んでいくものだという穿った見方を、さもありなむと聞いていた。ああ、あれはやっぱり穿ち過ぎで、日本兵士の真骨頂は、大君に召された自覚が本ものだったと、私は素直に、これまでの自分の不明を恥じるような気持ちと、今、この世を離れていくその声の主に、敬虔な祈りを捧げねば、と思った。
ところが、どうしたのであろう。萬歳三唱を言うのは常であるとしても、五唱六唱はおろか、何十回となく、同じ兵士が繰り返すのである。
みなそれぞれが負傷し、高熱と痛みに疲れ果てている。だから、よほどのことでもなければ他を顧みたりはしない。自分のことで精一杯で、他人様をかまっているわけにはいかない。それぞれが、自分自身の変わり果てた姿に、いや応なしに、向きあわされるから、被爆者は、互いに、という意識がない。