英国的読書生活

イギリスつながりの本を紹介していきます

ネルソンのZ旗

2006-09-14 | イギリス
昨年はトラファルガー海戦勝利200周年でした。この海戦にもしイギリスが負けていたら、イギリスの公用語はフランス語になっていたかも・・・とまで言われている天下分け目の戦いでした。というと多少大げさな様な気もしますが、イギリス人の国家意識のある部分を形成したことは事実です。
この海戦の始まりから、戦い後の両軍の状況までを具に活写したのが、

ロイ・アドキンズ「トラファルガル海戦物語」

この本、ナポレオン戦争にいたる国際政治の状況や経緯などは全て省かれ、いきなりの初弾発射から記述がスタートする潔い構成となっており、当時の関係者の証言をかき集め積み上げることでネルソン率いるイギリス海軍がフランス・スペイン連合艦隊に対しどの様な戦いを挑んだのかが非常にいきいきと記述されています。
数の上で勝る連合艦隊。ネルソンは縦に長く展開する相手の戦力を分断しようと2列縦隊で旗艦ビクトリー号を先頭にど真ん中に割って入るのです。この時信号旗を使って全軍に伝えられたメッセージが有名な「England expects that every man will do his duty」です。
当時はもちろん帆船の時代。たとえ風を味方につけていても急な制動が出来ません。両軍の戦いは、位置的にはスローにスローに展開するわけですが、艦載砲の斉射をしあう艦上は地獄絵巻が繰り広げられます。そんな戦いの中平然と甲板を闊歩する海軍士官たち。
ネルソンの大胆な作戦もさることながら、連合艦隊側の士気は著しく低く、イギリス側の2回斉射に対し連合艦隊は1回しか斉射が出来ない有様で次第に結果が見えてきます。そして決定的なダメージを与えたのは、戦い後両軍を襲った未曾有の大暴風雨だったのです。もちろんイギリス側も大きな被害が出ましたが、連合艦隊は壊滅的な損害を受け、フランスの制海権は失われたのでした。その後フランスは大陸での勢力を依然として保持するのですが、イギリス侵攻というナポレオンの夢は破れたと言ってもいいでしょう。
イギリス人にとってのネルソンは日本人にとっての東郷平八郎とはちょっと違った存在のようです。このブログで紹介したものにもネルソンに関するものがよく登場しています。タイタニックの映画では、避難する少年の頭にしっかりとネルソンの帽子が被さっています。「シティー・オブ・タイニー・ライツ」では主人公の父親が上記ネルソンの名言を引用します。そしてネルソンの葬儀を取り仕切るホーンブロワー
昨年のプロムス・ラストナイトは200周年を記念して「海」をテーマに開催されてましたね。

歴史が苦手な人も楽しめる作品です。