ジュンパ・ラヒリ「停電の夜に」
9篇のお話からなるこの本。「病気の通訳」「本物の門番」「ビビ・ハルダーの治療」以外はアメリカで生活するインド系の人々が描かれています。同朋意識が強く、時におせっかいで人懐っこい、でもとっても寂しがり屋さん・・・・というインド系の人々の日々の暮らしの中に潜むちょっとしたすれ違い、孤独感、そして喪失感が、静かなタッチながらもユーモラスに生き生きと描写されていきます。
・「停電の夜に」
・「ピルザダさんが食事に来たころ」
・「病気の通訳」
・「本物の門番」
可笑しいけど、とっても哀しいお話。老婆の語る昔話は、あながち嘘ではないのかも・・・。
・「セクシー」
・「セン夫人の家」
私はこのお話が一番胸に残りました。インド人がお魚大好きとは知らなかった。
・「神の恵みの家」
・「ビビ・ハルダーの治療」
インドの大地では、これぐらいの奇跡は日常なのでしょうか。
・「三度目で最後の大陸」
最後のお話はラヒリの家族の経歴がベースになっています。遠くインドから離れ、世界のあらゆる場所で異邦人として、でもその地にしっかりと根を下ろして生活するインド系の人々の自信と誇りのようなものが滲み出る作品です。
後半に出てくる一文にちょっとニンマリしてしまいます。
「私だってロンドンへ行ったばかりのときはそうだった。地下鉄でラッセルスクエアへ行く道を覚え、初めてエスカレーターなるものに乗り、新聞売りの呼び声すら聞き取れず、車掌が各駅で「隙間に注意」と言うのさえ、一年ものあいだわからなかった。」
私の体験と同じ・・・。英語教育をある程度受けた人間でも分かり辛いのですね。
ジュンバ・ラヒリは1967年、ロンドン生まれ。両親ともカルカッタ出身のベンガル人。幼少時に渡米し、ロードアイランド州で育つ。
それにしても、この文庫版の表紙デザインとクレスト・ブックス版との違いは・・・・・・。ここまでグレードを落とさなくても、ってな感じです。多様なスパイスで構成されるラヒリの作品(インド料理)には、やはりこちらの方が、いいですね。