英国的読書生活

イギリスつながりの本を紹介していきます

愉快、痛快、奇奇怪怪

2009-09-01 | イギリス

ディケンズ「デイヴィッド・コパフィールド」

随分と昔、当時復刊された岩波文庫の旧版で読み始めたのですが、ちっとも面白くなく1巻途中で放った
らかし・・・。今回、新潮文庫で再スタート。こちらも訳が古いですね。これなら5巻本となってちょと
割高ですが、岩波文庫(新版)の方が挿絵も充実していてお得かも。
肝心の感想ですが・・・・、面白いじゃないですか!
物語のスピード、奥行などがバランスが悪く、のどごしが今ひとつよろしくない!とか
主人公デイヴィッドくんは何ら自分で人生を切り開かずに、周りに導かれているだけじゃないか!とか
いくら運命の2人とはいえ、運命的に殺してしまうのはいかがなものか?とか
最後、オールスター登場とばかり、出演者をカーテンコールさせるのはちょっと行き過ぎ!とか
突っ込みどころは満載なのですが・・・
とにかく面白いんです。出てくる登場人物たちが!
富める者、貧しい者、働き者、ずぼらな者、賢い者、おばかな者、健やかな者、不具なる者、祝福され
る者、呪われる者、正直な者、邪な者、賞賛される者、卑怯な者、・・・・・・・・・・・・・
正直言って、デイヴィッドの人生なんてどうだっていい、むしろ沢山の登場人物の顛末、エピソードが
この作品の価値そのものです。19世紀ヴィクトリア中期のロンドン、ミドル階級から底辺階級の人々の
暮らし、路地裏、宿屋、パブ、劇場、駅馬車,etcの描写を取り混ぜ、とにかく可笑しく、時に哀しく綴られていきます。

以下、マイフェイバリット登場人物です。
まずは良い人
「ベッツィ・トロットウッド」 デイヴィッドの大伯母さん。家の敷地に入る驢馬を撃退する。デイヴィッ
ドを連れ戻しに来たマードストン兄妹を撃退する。おぞましいユライア・ヒープを「ウナギか!」と一
喝する。などなど痛快な性格でデイヴィッドの後ろ盾となる。ロンドンは火事が多いので屋上非常口の近くに部屋を取りなさい!ロンドンはスリばかりだから片時も油断してはいけない!なども口癖です。
「ペゴティ」 デイヴィッドの乳母。いつも献身的にデイヴィッドの世話をしてくれる。デイヴィッドを抱
きしめる度にお仕着せのボタンが弾けてしまう。
「ミスター・ペゴティ」 ペゴティのお兄さん。学も財も無い身分であるが、その純朴な性格と真正直な生
き方でデイヴィッドの力になってくれる。
「ミスター・ディック」 ベッツィー伯母さんの家の下宿人。ちょっと頭が足らないが、いつまでも忘れな
い少年の純真さでデイヴィッドに係わる人々をいつも和ませてくれる。
「ウィルキンズ・ミコーバー」 デイヴィッドの大家さんだが、いつも借金取りに追われとうとう債務者監
獄に入れられてしまう。慢性金欠病のくせにいつも大きな夢を見ている。一方で手紙魔。その文章は難解かつ傑作。彼の作るポンチ酒は美味そう。ディケンズの父親がモデルと言われる。
「トラドルズ」 デイヴィッドの学友。学校時代は先生に怒られてばかりのぱっとしない存在。骸骨の落書
きが得意。すぐ人に同情する性格で、ミコーバー氏にも多額の金を用立てする。
「アグニス・ウィックフィールド」 ちょっと出来すぎ感もある女性の鑑(あくまで男性視点として)。
悪いやつ
「ユライア・ヒープ」 いつも卑屈で気持悪く身をよじり、触る手は濡れてる様なキモイ男。デイヴィッド
に異常なまでの対抗心を燃やし、邪悪な計画を遂行する。
「スティアフォース」 デイヴィッドの親友。恵まれた身分の出であるが、それゆえの甘やかされた歪んだ人格形成をしている。彼のデイヴィッドへの悪影響を一番にアグニスは指摘するが、デイヴィッドはその時には理解できない。
「マードストン」 デイヴィッドの継父。デイヴィッドの母親との再婚後、妹のジェインとデイヴィッドに辛く当たり家を牛耳ってしまう。
「リティマー」 スティアフォースの従僕。ちょっとジーヴス的存在感を示し期待を抱かせるが単なる小市民。デイヴィットの苦手な相手。
ちょっと哀しい人
「ミス・モウチャー」 身体的な欠陥をものともせず、懸命に生きる人。スティアフォースの裏切りに知らずと加担するが、そのことを悔い、デイヴィットとの約束を果たし最後には大活躍をする。彼女の姿は岩波文庫版挿絵を参照のこと。
「ミス・ダートル」 スティアフォースの従姉妹。彼との関係はちょっと歪んだ愛情関係か。激しい感情表現でデイヴィットを固まらせる。

それ以外にも名も無き泥棒、古着屋、給仕などなどこれでもかと魅力的?な人々が登場します。台詞はありませんが、ベッツィ伯母さんの使用人ジャネットもけっこうお気に入りです。ちゃんと幸せな結婚をして良かった!

ロンドンでの丁稚奉公から逃れるために、ひもじさ堪えてベッツィ伯母さんの住むドーバーを目指すデイヴィッドがたどる道は、以前ご紹介した「最後の注文」で男たちがドライブした道なんでしょうね。