◎ジェイド・タブレット-07-07
◎天国まで-07
◎【天国志向と積善】-3
◎袁了凡
人が死んでまもなく、あの世の閻魔大王の前には、自分が乗る天秤はかりがあって、自分の体重より自分の犯した罪が重ければ、地獄行きになる。
それで中国では、他人が見てなくとも天はあなたの行動を見ているという通念があって、善行をたくさん積み重ねた家には、意外な慶び事があり、小さな悪事を積み重ねてきた家には、不慮の災難がふりかかると云う。
(積善の家に余慶あり、積不善の家に余殃(よおう)あり:易経)
明の時代の袁了凡という高級官僚が、若年の時に、さる占い師に、貴殿は53歳の8月14日丑の刻に亡くなるが子供はいないという予言を聞いていた。
役人になってから、北京の雲谷禅師に会って、「今までの境遇や運命は、天から与えられたものであるが、これからの運命は、自分の努力で能動的に変えていくことができる。」と説得されたことで、功過格をやってみようと決心した。そこで功過格という善悪基準書に沿って行動したことにより、科挙の試験(高級官僚任官試験)も合格し、予言ではできないと言われた子供まで授かり、74歳まで生きたので、抜群の効果があることがわかり、「陰隲録」に所載されて、功過格は有名になった。(陰隲録(いんしつろく)/明徳出版社)
袁了凡は、まる三日冥想しても雑念が沸かなかったので、既に想念停止までできていた人であるが、善行実践にまで踏み込めなかったので、窮極の体験はまだなかったと考えられる。
そして功過格は、人間が生活の智慧として集めた良い行い・悪い行いの実例集ではなく、道(仏、神、宇宙意識)を知った人は善行だけ行い、悪事を行う事ができないが、その生きる姿『衆善奉行 諸悪莫作』を、世俗で生きる者のためのおすすめ行為とやってはいけない行為の実例に翻案したものであると言える。つまり功過格は人間の側から来たものでなく道の側から来た行動基準とも言えるように思う。
ところが、袁了凡の運命改善譚が、かえって世間の人に『願望実現のノウハウ』として強調されてしまったのだと思われる。
逆に、そういう誤解の起こることを承知で出したということもあるだろう。つまり功過格の外形はカルマ・ヨーガであり、無私の行動を積み重ねることにより、宇宙意識(道、仏、神)に至る道だからである。
功過格(善行/悪行)は、12世紀中国の金の時代の新道教「浄明道」に由来すると言われている。
また袁了凡は朝鮮に出陣し、咸鏡において加藤清正軍を打ち破ったと伝えられる。
なお、人間として、善を行い悪を行わないのは基本。また陰隲録全体としては、効果を得るべく善行を積みなさいという教訓ではあるが、もとより効果を期待して行う善行は善行ではない。だから、積んだ善行だけ見返りがあるということでとどまっていては、いけない。イエスも善行を行うなら右の手のやっていることを左の手は知らないようにやるように、と言っている。
積善は天国志向ではあるが、成果を期待せずにやらないと天国から先には進めないのではないか。
◎功過格の実際のやり方:
一例:
1.おじいちゃんが死んだのでがっかりしているAさんを慰めなかった(マイナス1点=一悪)。
2.Bさんにひどいこと言われたが、怒らなかった(プラス3点=三善)。
3.ペットの文鳥がごみ箱に入って動けないのを助けた(プラス1点=一善)
今日は合計でプラス3点でした。一カ月合計し、年でも合計していく。
◎功過格表-1(善行篇)
功格五十条(謝礼や代価を受けて行った物は除外すること)
(たとえば百善とは一回やると一善の項目百回と同等であるということです。)
百善
一人の死を救う
一人の婦女の貞節を全うさせること
子供を溺死させたり、堕胎しようとするのを諭し思い止まらせること
五十善
世嗣ぎの絶えるのを継続させてやること (先祖供養の継続)
一人の寄る辺ない人を引き取って養ってやること
一人の無縁者の死骸を埋葬してやること
一人の流浪者を救うこと
三十善
一人の者を出家得度させること
一人の無法者を教化して行いを改め善につかせること
一人の無実の罪を明らかにして救ってやること
自分の土地の一か所を無縁者の墓地に提供すること
十善
一人の有徳者を推薦し引き挙げてやること
一つの民の害になることを取り除くこと
一冊の世を救う法典を編纂すること
医術等をもって一人の重病人を治してやること
五善
一人の訴訟者を諭して思い止まらさせること
人に一つの生命を保ち益す方法を伝えること
生命を保益する書物を1冊編纂すること
医術等をもって一人の軽病者を治すこと
人間に役立つ1家畜の生命を救うこと
三善
一の不法な仕打ちを受けても怒らないこと
一つのそしりを受け手も受け流して弁解しないこと
一つの気に入らぬ言葉も甘んじて受けること
一人の打ち懲らしめてやりたいものに対して許してやること
人間に報いることもない一匹の畜生の生命を救う
一善
一人の人の善を讃えること
一人の欠点や悪いところをあばき立てないこと
人の非行の一時を諭しとどめること
一人の争いを諭しとめさせること
出かけていって人の病気を治療すること一回
捨ておかれた字一千字(文書のこと)を拾い上げること
饗応に招かれることになって受けないこと1回
一人の飢えを救うこと
死人を留めて一夜の宿を貸してやること
正しい道を説いて教化が一人に及ぶこと
事業を興しその利が一人に及ぶこと
人畜の疲労を世話して回復させること一時
一匹の自然に死んだ鳥類畜類を埋めてやること
一匹の微細な生物の命を救うこと
一万円相当が一善に相当する行い (注1.原典では、百銭相当が、一善または一悪に相当することになっているが、ここでは、仮に一万円相当とした。)
道路や橋を修繕すること
河川を通じさせ、井戸を掘って民衆を救うこと
神社仏閣などの聖なる像壇宇や供養などの者を修繕すること (他人に費用を与えてさせた場合には半減して計算する)
人のなくした品物を返すこと
債務を免除すること
人を教化し救うための文書を思考すること
功徳を作って非業に倒れて浮かばれない魂に回向すること
困っている者に恵んで賑わしてやること
倉庫を建て穀物の価格を調節すること
茶薬衣棺一切の物を施すこと
◎功過格表-2(悪行篇)
過格五十条(誤って犯した物は除外すること)
百悪
一人の人を死に至らしめること
一人の婦女の節操を失わしめること
一子を溺死させさたり、堕胎させることに協力すること
五十悪
他家を断絶させること
一人の婚姻を破談にさせること
一人の死骸を抛棄すること
一人の人を流浪者にしてしまうこと
三十悪
一人の者の戒行を破らせること
誹謗して一人の行為に疵をつけること
隠し事を摘発して人の行為の邪魔をすること
十悪
一人の有徳者を排斥すること
一人の邪な人を推薦し、挙げ用いること
一人のすでに節操を失った婦人に触れること
あらゆる生物を殺す道具を一つ所持すること
五悪
経典礼法を一つ破壊すること
一冊の教化を乱す書物を編纂すること
無実の罪を明白にすることができるのに捨ておくこと
一人病人が救いを求めてきても救わないこと
一人の者に訴訟をするように唆すこと
一人の者にあだ名をつけたり噂をしたりすること
悪口を言って人を傷つけること
道路や橋や渡し場などを妨害したり、切り崩したりすること
人間に役立つ一匹の家畜を殺すこと
三悪
一つの耳に逆らう言を聞いて怒ること
一つの尊卑の順序にそむくこと
酔って一人の人を害すること
一人のうち責めるべきでない人を打ちたたくこと
二枚舌を使って人の中を離間すること
一つの正しくない制服を着ること
一匹の家畜以外の畜生を殺すこと
一悪
一人の善行を無にしてしまうこと
一人の人に争うことを唆すこと
一人の人の過失を言い広めること
人の非行一つに協力すること
一人の盗みをする者を見ても諭しとどめることをしないこと
承諾も得ずに一本の針、一本の草を取ること
一人の無知の者を欺きたぶらかすこと
一つ約束に背くこと
一つの礼儀を失うこと
一人の心配事あるものを見ても慰めないこと
人や家畜を使役して、その疲労を憐れまないこと1回
湿気に生ずる微細な生物一匹の生命を奪うこと
一万円相当が一悪に相当する行い (注1.原典では、百銭相当が、一善または一悪に相当することになっているが、ここでは、仮に一万円相当とした。)
天の生ずる物を無益に浪費し尽くすこと
人の功績を破壊すること
公衆の利益に背いて自分だけが利益を受けること
他人に代わって金銭を使う場合、倹約せずにほしいままに使用すること
借りた金品を返済しないこと
人の遺留品を私して返さぬこと(1万円未満も1悪に計算する)
官の権力を借りて金品の贈与を要求すること
人や金品資材を取る方法のすべてのことを謀略によってなすこと