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出航作業〜平成三十年 海上自衛隊練習艦隊 体験航海

2018-05-25 | 自衛隊

 さて、練習艦隊は5月21日に出航し、今現在も平均時速12.7ノットで
一路インドネシアに向けて航行しているわけですが、当ブログでは
少し時間を巻き戻し、体験航海の続きについてお話ししたいと思います。

わたしとTOが格納庫に呼び戻されたのは、出航時間に人員を把握するため、
エスコートの自衛官がグループに招集をかけたからだとわかりました。

出航作業を行うために待機するボースンの皆さん。
職域的には運用員ということになるのでしょうか。

舫を扱うための手袋をきりりと身につけます。

サングラスの幹部は甲板作業を率いる指揮官です。
階級は二尉、旧軍の中尉ですが、このクラスの幹部が束ねるのは
三十人くらいの部隊、ということになっています。

甲板での作業は肉体的にも大変だと思いますが、最近の自衛艦では
女性自衛官の姿をここに見ることは決して珍しくなくなりました。

彼女はタグボートから受け取った牽引用の舫を固定しているようです。

出航を補助する曳船と「まきなみ」が舫で繋がれます。
「あすか丸」、芝浦通船所属の中大型タグボートです。

右舷側ではおなじみの「舫ダッシュ」が始まりました。
引き上げる舫を持って数メートル走って放ち、
また根元に行って同じことを何人かで繰り返します。

着岸した時にサンドレットを受け取り岸壁で行われる舫ダッシュと違い、
この舫は太く結構重たそうです。

この作業に女性が参加しているのを見るのは初めてです。
自衛隊こそ男女共同参画職場ですよね。

ここでふと興味が湧いて、この「舫取り、舫取りはずし」の作業が
民間では金銭的にいくらに換算されるのか調べてみました。

作業を行うのが岸壁なのか、片浮標か、両浮標かで料金は違ってきて、
当然船の大きさによっても違ってきます。

この場合は岸壁での作業なので、小さな船、299トン以下であれば
綱取料 9,500円、 放料5,800円といったものですが、
「かしま」クラスを総トン数5.400トン強だとすれば(最大排水量で計算)
今やっている舫はずしはある会社で19,400円。

ちなみに舫取りは31,700円、基本料金(おそらくどちらも行う)は
51,100円となっていました。

これらは平常の料金であり、

時間外割増 自 6 時 01 分 至 8 時 30 分······ 70%増
自 16 時 31 分 至 22 時 00 分·················· 60%増
自 22 時 01 分 至翌 6 時 00 分··············· 120%増

また、 荒雨雪天(気象庁の発表する注意報発令下)では
自動的に50%増となります。

これらの民間企業の行う舫作業と、海上自衛隊のそれは
どのようにかはわかりませんが、おそらく全く違うものでしょうから、
金銭に換算すること自体、意味がないかもしれませんが。

たくさん写真を撮っているので長時間やっているように見えますが、
実は作業そのものにかかる時間は15秒くらいのものです。

彼らの手袋を拡大して見ると、どの人のものも真っ黒でボロボロです。
昔は軍手で行なっていたんでしょうか。

岸壁の舫が放れると、同時にタグボートが引っ張りにかかりました。

その時、向こう側に自衛隊のタグボートがいるのに気がつきました。
はて、なんでここに?しかも何も仕事をしていません。

これは、後で甲板にいる自衛官に聞いて理由がわかりました。
晴海に「かしま」と「まきなみ」をメザシ状態に係留するのに、
両艦の間に入れていた防眩物を持って帰るために横須賀から来たのです。

YT10くんは、この後「かしま」から防眩物を回収して、
我々と同じ航路で横須賀に向かうことになっています。

タグボートの巨大な巻き取り機をアップにしてみました。
大型船を引っ張るタグラインはタグボートのものです。

艦首側のタグは「武蔵」という東港サービス所属の船です。
「あすか丸」は芝浦通船。
同時に作業を行う船が必ずしも同じ会社ではないみたいですね。

「まきなみ」の作業が終わり、「武蔵」は早速「かしま」に近づき、
「かしま」に今からタグラインを渡すところです。

ここで面白い光景を目にしました。
「あすか丸」の乗員が差し出した虫網のようなものに、乗員が何かを入れています。

トランシーバーのようですね。
タグボートと大型船の間では、トランシーバーや書類などを受け渡しするのに
原始的なようですが、この方法が一番確実で話が早いのだとか。

いつの間にか「まきなみ」は出航しましたが、格納庫の中からは
艦尾にいるダイバーの帽振れしか見ることはできません。

トランシーバーを受け取った「あすか丸」も「かしま」の作業にかかります。

「かしま」の左舷側にYT 10の回収する予定の防眩物があります。

そこに水産庁の漁業取締船「はまなす」が通りかかりました。
この時には知るべくもなかったのですが、写真を点検していて見覚えがあるのに気がつき、
海保の観閲式のパンフを調べてみたら、この子も参加していました。

「はまなす」は、密漁などを防止・摘発し水産資源を保護することを目的に、
水産庁が運用しており、外国漁船の違法操業に対しても
拿捕などの主権行使できるという結構強面のやつです。

乗組員は非殺傷性とはいうものの、手榴弾や警棒で武装していますし、
自身もボディアーマーに身を包んでいます。

HOS302 三連装短魚雷発射管については、もう今やTOの質問に
スラスラと答えられるくらいにわたしも成長いたしました。

「これどうするの」

「海に向かって落とすの」

「どうやって?」

「撃つ時は筒が海の方を向くの」

というか、「むらさめ」見学の時に、船が魚雷を撃つとは知らなかった、
と言って恥をかいたのを忘れたのか君は。

晴海を出港してすぐ、レインボーブリッジの下を通過します。
聞いた話ですが、この橋の下を通れない船って結構あるそうですね。
クイーン・エリザベス二世が干潮のときに通れる高さ、という基準で設計されましたが、
実際に女王陛下は晴海にご来臨されたことはないそうですし、
帆船でも「日本丸」「海王丸」豪華客船「飛鳥」も通れません。

そして、なんと自衛艦のうち半分以上、イージス艦は全部アウトだそうですが、
これは正確な資料を見たわけではないのであしからず。

国際都市である東京の港への入り口なのにこんな微妙な高さなのはなぜかというと、
近くに羽田空港があり、高さに規制がかかっているせいだそうです。

昨今は大型の外国客船が続々と増えているのにも関わらず、
そのほとんどが東京に入港できないというのはかなりの問題かもしれません。

「まきなみ」がレインボーブリッジ下に差し掛かります。
甲板の運要員の皆さんが帽振れをはじめました。

実習幹部らしいこの人も。
どこに向かって帽振れしているのかな?

レインボーブリッジ真下なう。

ブリッジ下の公園で自衛艦旗を振っている人がいたのでした。
この後、もう一度帽振れがあったのですが、なぜかわからなかったので
帽子を振っていた一人に聞いて見ると、

「あそこで自衛艦旗を振ってる人がいたので」

指差す方向を探しましたが、わたしには見えませんでした。
後でメールにより、それが知り合いの一団だったことがわかりました。

余裕でレインボーブリッジ通過。
わかっているけどついつい息を飲んで見てしまいます。

東京湾には実にいろんな船が生息しているものです。
警視庁の巡視船「かわせみ」が通りかかりました。

そして、またしてもわたしはこのとき知るべくもなかったのですが、
この直後海保観閲式で受閲船隊として邂逅することになった
本庁所属HL01、測量船「昭洋」の横を通り過ぎました。

測量船とは、海図、地図の作成や海上工事の資料収集等を目的とした測量、
測地を行う船舶のことです。

自衛隊では艦種記号AGSで「海洋観測艦」と称しており、現在就役しているのは
 「わかさ」「にちなん」「しょうなん」の3隻です。

さて、晴海を出港してレインボーブリッジ下を通過した「まきなみ」。
この後には、東京湾航行中に練習艦隊旗艦「かしま」に追い抜かされるという、
ある意味この航海におけるメイン・イベントが待ち受けていました。

 

続く。