ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に靖國神社

映画「Here Come The Waves」(WAVESがやってきた)2

2024-09-07 | 映画

第二次世界大戦時のアメリカのWAVES勧誘映画、
「Here Come The WAVES」、二日目です。


ジョン・キャボットを責任者、ウィンディをアシスタントにした
WAVES勧誘のためのコンサートの企画が進められていました。

そこにやってきたスージーは、嬉しさのあまり、ウィンディに
この計画のためにジョンを騙って嘆願書を書いたことを言ってしまい、
「ダグラス」を降ろされて不満だった彼は、彼女に腹を立てます。



しかも、スージーからローズマリーとジョンが接近していると聞かされ、
ローズマリーを好きだったウィンディは、
彼女にウソを言って、ジョンの印象を悪くさせようとします。

「彼は本当は艦に乗りたくなかったんだ。
なぜって海の上には女の子がいないからね」

「信じないわ」

「僕は本人から聞いたからね」




これを聞いて、ローズマリーは

「誰かが僕を嵌めて艦から追い出し、この任務に就かせたんだ」

と言うジョンの言葉をもう信じられなくなってしまいました。



そして二人は「ダグラス」を揃って降りることになりました。
昨日入隊したと思ったらもう下士官になっているのはさすが映画。



彼が指揮を執ってプロデュースした最初のショーは、
空母USS「トラバース・ベイ」のハンガーを使って行われました。

この「Traverse Bay」はもちろん架空の空母です。
ハンガーなので、画面の手前には航空機の翼が見えています。


観客は海軍軍人ばかりのはずなのに、今更勧誘色があからさま。


で、これが、この映画が後世の一部から「糾弾」される問題のシーンです。
ジョンとウィンディは顔を黒塗りにして黒人の郵便屋に扮し、

「Ac-Cen-Tchu-Ate the Positive」

という、日本では無名ですがアメリカでは何度もカバーされ、
スタンダードナンバーのようになっている曲を歌い踊ります。

タイトルは

「Accentuate the Positive」
(ポジティブを強調=ポジティブでいこう)?

Ac-Cent-Tchu-Ate The Positive - Bing Crosby & The Andrews Sisters (Lyrics in Description)

フレーズになんだか聞き覚えがある!と言う方もおられるかもしれません。
それくらいキャッチーなメロディです。

Clint Eastwood ~ Ac-cent-tchu-ate the positive

クリント・イーストウッドが歌っているバージョン。
決して上手くありませんが、クリント好きだから許す。というか(・∀・)イイ!!

内容を一言で言えば、


「何事も積極的に、どっちつかずになるな」

どっちつかずの人のことを「ミスター・イン・ビトウィーン」と言ってます。

ハロルド・アーレンとジョニー・マーサーという、
知っている人は誰でも知っているゴールデンコンビの曲だけあって、
1945年度のアカデミー優秀音楽賞を受賞しています。

(戦時中でもアメリカって普通にこういうことしてたんですね。余裕の違い)

ただ、この映画のシーンについては、当時の流行りに乗って
顔を黒塗りしてしまったことが祟って、近年では大変不評です。


「1940年台だから許された」

という感想もありますが、それをいうなら日本では、1980年台にも関わらず
顔を黒塗りにした「シャネルズ」というバンドがあってだな・・・。



ジョンは自分の「潔白」(好きで『ダグラス』を降りたのではないこと)
を証明するために、自分のサインが(スージーによって)偽造された書類を
ローズマリーに見せて誤解を解こうとしていました。

スージーは、
彼がローズマリーに見せる前に書類を奪取しようとします。
姉が見れば、筆跡で書類の偽造をしたのが自分だとバレるからです。

ウィンディに唆された奥の手として、彼と一緒に甲板から海に飛び込み、
どさくさに紛れて書類を奪うつもりをしていたスージー。


ローズマリーを待っていたジョンに密着するためキスをお願いしたところ、
流れとはいえ、あっさり応じてくれるではありませんか。

(すかさず『深い意味のないただのキスだよ』と念を押すズルい男ジョン)

熱烈なファンだった彼女は、隙を見て書類を奪うのに成功しますが、
憧れのアイドルにキスされて一瞬気を失い、



ジョンが去ったあと、海に落下してしまいました。

「Man Over Board ! (人が落ちた)」

さすがは海軍、瞬時にあちこちからMOBの声がかかります。
もし本当に空母の甲板から落ちていたら、もっと大事になると思うけど。

近くにいたウィンディがMOBに応じ、救助に飛び込んでびっくり。

「スージー!何してんだこんなところで」

ジョンから体を張って奪った書類は、海に沈んでいきました。



書類がスージーに奪われたことに気づかないジョンは、
ローズマリーに見せようとしますが、

「あれ・・・?誰かに盗られたかのな」

「・・・もういいわよ」


ここは海軍航空基地管制塔。
WAVES勧誘映画ですから、たぶん本物です。


ローズマリーは管制官としてここに配置されていました。
有線によるアナログな通信や、管制塔から発光信号を送るなど、
この頃のシステムでの管制塔の様子が興味深いです。

中でも、(おそらく発進する)航空機への通信の中に、

「Anchor away」

と聞こえるのですが、海軍では航空機に対してもこれを言うんですね。

今現在でもそうなんでしょうか。



任務があるからショーには参加しない、と友人のルースにいうローズマリー。
その理由は・・・明らかです。



そこに空気読まないことでは天性のスージーがやってきて、

「ジョニーが歌を皆わたしに歌わせてくれるって!」

暗い顔をいっそう曇らせるローズマリー。
しかしルースの奨めでショーが行われるニューヨークに行くことにします。



楽屋でスージーはたまたまローズマリーと同じ髪のカツラを見つけ、
冗談半分で被ってみました。



茶色い髪のスージーに驚いたウィンディは、
またまたとんでもないことを思い付きます。



ローズマリーのフリをして、ジョンを失望させる作戦発動。
飲み物をローズマリー(と思っているが実はスージー)に勧める彼に、

「ここだけの話、ジンジャエールなんかつまらないわ」

びっくりしているジョンの前でボトル一気飲み。
(中身はウィンディが用意したお茶)

思いっきりぷはー!とやってから、

「もう一杯(another nip)やってもいい?」

「・・・Nip?」

この言い方にはかなりドン引きのようです。

多分かなり下品な言葉なんでしょう。



そしてジョンがこっそり見ているのを意識しつつ、
ウィンディと(間に手のひらを入れて)熱いキス(のふり)を・・・。



当然ショックを受けるジョン。



ウィンディはパーティ会場にいた本物のローズマリーをスージーだと思い、
さっきの続きをしようとして引っ叩かれております。


失意のジョンは、ショー直前、「ダグラス」が出航することを知ります。
何とか自分を乗せてくれるように頼むのですが・・。


彼の企画した今宵のショーは、

「もしウェーブがセーラーみたいだったら」
"If WAVES Acted Like Sailors"


WAVEなのに水兵みたいな喋り方や掛け声、腕に彼氏の刺青をしていたり、
港港に男がいる、と自慢したり・・・。



彼女らの集うバーに掛かっている絵は半裸の男性が寝そべる姿。
バーテンダーもよくよく見れば女性です。


そこで歌われるのが、

1944 June Hutton - There’s A Fellow Waiting In Poughkeepsie

「ポキプシーに私を待ってる男がいる」

ポキプシーはニューヨークとアルバニーの間にある都市ですが、
響きが面白いせいか、いろんなシーンで引用されます。
(『アリー・マクヴィール』のジョン・ケージ弁護士の口癖とか)

寸劇の内容通り、女性なのに水兵のセリフのような歌詞です。

ポキプシーで待っている男がいる
彼はとても優しい
(略)
それとは別にポモナで待っている男がいる
(略)
そして、デイトナでも一人
(略)
でも、もしあなたがわたしの手を握ってくれたら
みんなわかってくれるわ

わたしがただのジプシーだと思わないで
でもわたしはあなたを正したいの

ここからは、本物の女性ではなく水兵のセリフになります。

ビロクシで俺を待つWAVEがいる
結婚できなきゃ死んでやると言ってくる
もし信頼できる狼を見つけたら代理結婚させてやる

ウォーキガンで待つSUPER(女子海兵隊)がいる

彼女は他の女と一味違う
名前はレーガン
俺はその名を胸に刺青している

ハッケンサックにはWAC
ポンティアックにもWAC
至る所に

中にはボビー・ソックス(グルーピー)みたいなのもいる
(略)
ビロクシで待っているWAVEがいる
でも今夜は俺、ひとりぼっち


映画ではこの歌詞よりバリエーション豊かに、
サンディエゴ、パームビーチ等各地に女がいる、と言っています。

このショーは実際とても楽しいものですが、
実際に見ないと全く伝わらないと思いますので内容は省略。


ショーの合間に大変なことが発覚しました。
なんと、ジョンが「ダグラス」に乗るために
ショーをすっぽかしかけていたのです。



なぜそれが自分のせいなのか、全く理解できないローズマリー。



ウィンディとスージーは荷造りしているジョンを引き止めようとします。
せめてショーの出演だけでも最後まで果たして、というのですが、
彼はガンとしていうことを聞こうとしません。


いつもの変装をして空港に向かうためにホールを出て行きました。


スージーは人通りの多い街路で彼に足をかけて転ばせ、

「ちょっと!ここにジョン・キャボットがいるわよ!」

たちまち女性に群がられて身動きできなくなるジョン。
もう今日は飛行機に乗ることはできなくなりました。


ジョンはスージーが自分を陥れたことを本人の告白によって知りますが、
ローズマリーとウィンディが「できている」と信じているので、
舞台の袖で彼女に冷たく当たり、義務的にステージに上がります。
そしてその心と裏腹にこんな歌を歌うのでした。

誠実な心を約束するよ
いつも自由だったから
夜には腕いっぱいの星
僕はそれを自分のものだというフリをする

富める時も貧しき時も
分かち合えたら幸せ
あなたが取った僕の手
草原の太陽、暗がりのなかの炎
約束しよう 僕はそこにいると


「約束しよう」(I Promise You)という曲をデュエットしながら、
男の心が自分にないと知って、切なそうなローズマリー。

ところであれ?いつのまにこの人少尉になったんだ。
ショーの役柄ってことかな。



という二人とは全く関係なく、ショーはフィナーレを迎えていました。

「Here Come The Waves」というマーチ風の女性コーラスに乗って、
ステージには本物のWAVESたちが続々と登場します。



そして後ろのスクリーンにはジョンのアイデアで、
WAVESの軍隊生活がフィルムで映し出されていきます。

この二人は職場恋愛に発展しそうな雰囲気ありですが、
こういうシーンも志願者を増やすためと思われます。



飛行訓練のシミュレーション機のオペレーターとして。



以前当ブログでご紹介したことがあるシミュレーターですね。



開発機の実験にもWAVESが協力します。





スクリーンを使った銃撃シミュレーターのオペレーション。



通信オペレーターにタイプはWAVESの独壇場です。



航空機の整備は日本軍でも女性がおこなっていました。



こんな場所(空母甲板)なのにタイトスカートにパンプス。
このスカートでどうやって飛行機の翼の上に乗ったんだろうか。



曳航機を使った砲塔の実験も主導します。


二人はエンターテインメントを成功させた今、
海上勤務に戻っていいとWAVESのヘッドオフィスから通達を受けます。
左のWAVES隊長タウンゼント中尉が、

「スペシャリスト・ローズマリー・アリソンが、
あなたが艦に戻ることを強く望んでいると言っていましたよ」

「ローズマリーがそんなことを・・・?」

しかし、彼らの鑑はもうすでに出航した後のはず。
すると隊司令である大佐は、

「今ロスアンジェルス港に停泊しているから海軍の輸送機で送らせる」


司令室を出たジョニーはローズマリーとすれ違いますが、
彼女とウィンディがキスしていたと信じているので、冷たくあしらいます。

しかしこの男、自分はスージーに「意味のないキス」とかしたくせに・・。



そこで今や反省?したスージーが、あの時ウィンディとキスしていたのは、
ローズマリーのフリをした自分だったと打ち明けます。

喜んでローズマリーのもとにかけていくジョニー。



そして、ウィンディとスージーですが、瓢箪から出た駒?とでもいうのか、
フラれたもの同士で発作的に付き合うことにしたようです。

お互いそんなことでいいのか。


ショーのラストシーン、ステージ奥のスクリーンには、なぜかリアルタイムで
二等水兵として「ダグラス」に乗るジョンとウィンディの姿が映し出され、



スクリーンに手を振るスージーとローズマリーの姿で終焉となります。

ローズマリーは涙を浮かべていますが、実際、この時期、
西海岸から出撃する駆逐艦は、おそらく太平洋の激戦地に向かったはず。

姉妹二人の愛する人たちを乗せた「ダグラス」が、
無事に帰ってこられるかどうかは、映画で描かれることはありません。



終わり。



映画「Here Come The WAVES」(WAVESがやってきた)

2024-09-04 | 映画

以前陸軍女子WACの入隊宣伝映画「陸軍の美人トリオ」(常に備えあり)
を紹介しましたが、今日は海軍WAVES勧誘映画を取り上げます。



タイトルは「Here Come The WAVES」
直訳すれば「波が来た」ですが、このウェーブスとは

Women Accepted for Volunteer Emergency Service

の頭文字を取った志願緊急任務女性軍人のことです。

日本の海上自衛隊では女子隊員を「WAVE」としていますが、
その成り立ちを考えるとこの言葉は正鵠を得ておらず、
しかも(こちらは推測の域を出ませんが)ウェーブスだと、

語尾の響きがあまり好ましくないという理由で、
肝心の「任務」を意味する「S」が省かれた名称となっています。


ただ、アメリカでも名称は「WAVES」としながら、
口語では映画を聞く限りSを省略することが多いようですので
本稿も単体に関してはこの名称に倣います。

本作は戦時コメディばかり8本が収録された2枚組CDの中の一編でした。


直輸入版でリージョンが違い、(海外で購入したCDプレーヤーが活躍)
英語字幕すらついておらず、youtubeでも予告編しか見つからなかったので、
正直セリフを細部まで聞き取れたという自信は全くありませんが、

そこはそれ、コメディ&ミュージカルなので、なんとかなるでしょう。

Betty Hutton - "Here Come The Waves" Trailer (1944)

とりあえず、まずトレーラーを上げておきます。
最後まで見た方はお気づきだと思いますが、
本編に登場するWAVEさんたちは一部を除き本物です。

海軍の協力によって1944年に公開されたこの映画は、
ストーリーの中心のドタバタ恋愛劇と音楽の合間に、
WAVESの訓練や任務の映像を盛り込んでくるのを忘れません。

当時カリスマ的人気を誇ったスター、
ビング・クロスビーを主役に配したのも、
WAVES入隊資格のある若い女性にアピールするのが目的です。


ローズマリーとスーザンは双子の姉妹で活躍する人気歌手です。
最初に歌う曲は「ジョイン・ザ・ネイビー」。



赤毛のローズマリーと金髪のスーザン、
この双子を一人二役で演じるのはベティ・ハットンです。

ショーのシーンをはじめ、何度も同時に画面に現れるのですが、
何回見てもハットン一人がやっているとは思えません。



ブルネットの姉のローズマリーは物静かで落ち着いた物腰の、
今や死語ですが「おしとやか」を絵に描いたような女性です。



対して12分後に生まれた金髪のスージーは、典型的な陽キャタイプで、
いつも騒がしいハッピーゴーラッキーな、姉とは正反対のタイプ。



彼女は人気歌手ジョン・キャボット(クロスビー)の熱烈なファンです。

ここで話はいきなり、ショーの後、愛国心の強い姉が、
国のために海軍に入隊すると妹に打ち明けるところから始まります。

最初スージーは反発しますが、姉と離れたくないというそれだけで、
歌手をやめて、一緒にWAVEになることをすぐ決めてしまいます。

展開早すぎ。

そして高らかな「錨を揚げて」が鳴り響きます。


次のシーンからはニューヨークのブロンクスにあった
海軍の訓練学校での撮影となります。

一糸乱れぬWAVESの行進がグラウンドで行われています。



それぞれの私服に貸与されたWAVESの帽子姿の新入生たち。

最初に行うのは海軍式敬礼の練習です。



なんでもそつなくこなす姉に対し、少々不器用な妹のスージーは、
何度も敬礼の角度を直されています。



ベッドメーキングもシーマンとして最初に叩き込まれます。
うまくいかず癇癪を起こすスージーに、担当教官(多分本物)は、

「トライ・アゲイン」(ニッコリ)



制服が出来上がり、ハイヒールを黒のパンプスに履き替えても、
まだスージーは歩調を皆と揃えられず、大変苦労しています。

彼女の周りにいるのもおそらく全員本物のWAVESです。


海軍軍人として必要な基礎を学びます。
艦隊模型を見ながらフォーメーションにについて学んでいるのでしょうか。



スポーツは野球、そして、



バレーボール。

どんなスポーツの時にもスカートを履いて行うのがこの頃の女性です。
スカートの下にはショートパンツが基本でした。
(戦時中結成された女子プロ野球がそうだったように)


両足を組み替える美容体操(死語)みたいなのをしています。
なんなんだこれは。



牧師のお話を伺うレリジョンの時間もあり。

(ここだけ音楽はオルガンのコラール風)


食事は食堂でいただきます。



「食事の前には口紅を落としましょう」


今ではありえない注意書きですが、当時の女性は、
口紅なしで人前に出るのはみっともないとか恥ずかしいとされていたのです。
加えて当時の口紅は食器に付いたら大変落ちにくかったようですね。


そして、「錨を揚げて」がエンディングを迎える頃には、
スージーもすっかり行進がサマになってきていました。


そんなある日、ローズマリーが宿舎に戻ると、
スージーが洗面室に立てこもってジョン・キャボットの曲を聞いていました。

誰にも邪魔されず、一人で彼の歌に酔いしれるスージー。


我慢できなくなったみんながスージーをトイレから引き摺り出したとき、
なんと上官が、明日ジョン・キャボットのコンサートに行くから、と、

「That Old Black Magic」のレコードを借りにきました。


翌日、その「That Old Black Magic」を歌っているジョン・キャボット。

演じるのがビング・クロスビー(しかも絶頂期)なので、
当たり前と言えば当たり前ですが、素晴らしい歌唱です。


彼が現れると会場の女性は熱狂して叫びながら一斉に立ち上がり、
歌い終わると、何人もが彼の甘い声に失神するほど。

アイドルに熱狂し、泣いたり失神したりするファンというのは、
ビートルズやプレスリー以前の時代にもいたんだ、とちょっと驚きました。

カリスマに対する一種の集団催眠的な狂乱は古今東西どこにでもあり、
そんなことがなさそうなヨーロッパのクラシック演奏家でも、人気のある人、
たとえばピアニストでポーランド大統領になったパデレフスキーという人は、
若い頃、熱狂的なファンに何度も髪の毛をむしられて困ったそうだし、
あのフランツ・リストのコンサートでは失神する女性もいたと伝えられます。

この映画で、クロスビーの演じるジョニー・キャボットという歌手は、
ビング・クロスビーというより、当時のフランク・シナトラの要素を持ち、

特にこのステージはシナトラのパロディのように演出されています。


スージーもついきゃーっと叫びながら立ち上がってしまい、
ローズマリーに「制服着てることを忘れないで!」と嗜められています。


ジョンの楽屋に海軍に入った友人のウィンディが訪れました。
彼は楽屋でウィンディが配属された「ダグラス」での様子を尋ねます。

ここで、ジョンが海軍に入れなかったのが、
色覚障害(カラーブラインド)のせいだったという話になるのですが、
実は、ビング・クロスビー自身が有名な色覚障害でした。

彼が自分でブルーだと思って選んだ服は大抵他の人には派手すぎたとか、
それにまつわるエピソードがたくさん残されています。

色覚障害は、男性に20人に一人の確率で現れる症状なので、
有名人の中にも驚くほど多く、たとえばロッド・スチュアート、
ジミー・ヘンドリックス、ニール・ヤング、フレッド・ロジャース、
團伊玖磨、丹波哲郎、ビル・クリントン、タイガー・ウッズ、
キアヌ・リーブス、マーク・ザッカーバーグなど錚々?たるメンバーです。

流石に画家にはいないだろうと思ったら、なんと
ヴィンセント・ヴァン・ゴッホもそうだったらしいです。
後世に残っているゴッホの絵、彼の思ったのとは違う色だったんですね。

ゴッホは自分の作品がこう見えていた

ちなみに、女性は遺伝子を受け継ぐだけで本人に症状は出ず、
彼女が生んだ男児にそれが発現することが多いようです。



このウィンディ、実はアリソン姉妹と同郷の知り合いでした。
彼はジョンを「知り合いが出演しているクラブに行こう」と誘います。

ジョンは、ファンに見つからないように変装しました。
(この変装は一つの伏線)



しかし、アリソン姉妹はすでにステージを引退して、
今日は海軍軍人として客席に座っていました。

ウィンディは実は姉のローズマリーに想いを寄せています。
クラブで彼女らにジョンを紹介すると、スージーは大喜び。

ジョンはというと、ほぼ瞬時にローズマリーを気に入り、
メニューにいつものように自分のサインをして渡したのですが、
彼女は気を悪くしてメニューをビリビリっと破き、

「ご親切ね。でもわたしが何が欲しいか勝手に決めつけないで」

「すみません・・」


(´・ω・`)となるジョン。
世の中の女が全て自分を好きだなんて思うなよ?

ところで、同じ女優が演じる同じ顔の二人という設定なのに、
二人の男のどちらもが、騒がしいスージーには見向きもしないのです。
顔が同じならエレガントな方を男は選ぶってことですかね。

ローズマリーは思い上がった男に反発し、
ダンスの誘いを受けるとウィンディと踊り出しました。



必然的にジョンはスージーと踊ることに。


耳元で彼が流れる音楽(That Old Black Magic)に合わせて鼻歌を歌うと、
それだけでスージーはあまりの興奮に失神してしまいました。

しかし、この夜、ジョンはローズマリーに本格的に恋をしてしまうのです。


そして次の瞬間、なんと彼はいきなり(40歳にして)海軍に志願しました。

戦争中ということで、身体的条件が緩和され、
色覚異常の男性も入隊が可能になったのを受けてのことです。

WAVESのローズマリーを好きになったからと言いたいところですが、
それより彼は海軍軍人だった父の後を継ぎたかったから、
そして、正直ファンに追い回される生活に嫌気がさしていたからです。



国民的アイドルの入隊ということで、西海岸に向かう汽車に乗るキャボットに
ファンが詰めかけて群がり、落とした私物を奪い合う騒ぎに。

「何か言ってえ、ジョニー!」

「ヘルプ!」


着く駅着く駅彼を見ようとファンが押しかけ、うかうか窓も開けられません。



そしてサンディエゴの海軍訓練センターに到着。
ピカピカのプレートを水兵がさらに磨き上げています。

1923年に開始したこのセンターは、1997年まで使用されていました。
閉鎖されてからも「トップガン」など映画の撮影に利用されています。



ここからは、トレーニングセンターの実際の映像が紹介されます。
キャボットを含む新入隊者がゲートをくぐって着任してきました。




グラウンドでこれでもかと訓練が繰り広げられています。
キャボットはこれから6週間のブートキャンプをここで行います。


同じ訓練センターに新入WAVESも着任してきました。
この船はWAVES専用なのか、名前が「WAVE」です。


宿舎に到着してベッドが割り当てられます。



ブルックリンの新兵訓練所の僚友、ルースとテックスに再会しました。
彼女らはヨーマン(事務職)に配置されたようです。

そこで「故郷への通信はテレグラムでできるわよ」という会話があり、
海軍を志望したいが、家族との連絡が取れなくなるのでは?

と心配するお嬢さんたちの懸念を払拭しようとしているのがわかります。


シーマン・キャボットは「ダグラス」乗組が希望です。
彼の父親は第一次世界大戦の際水兵としてこの艦に乗っていました。


しかし、艦は改修中なので、済むまでは歩哨の任務です。

そこにスージーがジョンの配置場所を突き止め、押しかけたものだから
周りが気づき、またしても女の子が群がる騒ぎになってしまいました。

ジョンはこれが嫌で海軍に入隊したのに、と激怒。
スージーもWAVEがなぜこんなところにいるのかと士官に叱責されます。



ローズマリーをなんとかして口説きたいジョンは、

ウィンディと彼女のディナーの席に割り込み、
隣の席の女性にナッツや氷をぶつけてそれをウィンディのせいにして、
騒ぎを起こし、憲兵に連行させるという汚い手で恋敵を追い払い、
彼女と二人きりになることに成功しました。



ここまで来ればもうこっちのもの。


最大の武器である歌を使って落とすだけ、といえば聞こえが悪いですが、
ローズマリーは否定しながらも彼に惹かれている自分に気がつきました。



その夜宿舎に帰ってきてジョンと会ったという姉を妹は問い詰めますが、
肝心のことを話せない姉は、ただ彼が、父親の遺志を継いで
「ダグラス」乗組を希望しているということを聞いた、といい、
スージーは、それでは彼が前線に行ってしまう!とパニクります。

そして、彼を内地に留めるために策略を巡らしました。



それは、ジョン・キャボットをレクリエーション担当に任命させること。

スージーはなんとジョン本人になりすまし、嘆願書を出します。
WAVES勧誘のための娯楽部門を設置し、
自分がその指揮を執りたいと。

カリスマアイドルである彼が女性軍人勧誘の広告塔になるというアイデアが

ワシントンに受け入れられないはずがありません。
彼がヘッドオフィスに呼ばれた時には、
すでにその責任者としてCPOに昇任するという話にまでなっていました。

覚えのない「嘆願書」に驚愕するキャボット。

「父の後を継いで『ダグラス』に乗れると思っていたんですが・・」

「君の父上のことは知っているよ。君の気持ちもわかる。
しかし、それはその任務を終えてからでもいいんじゃないかな」



「ダグラス」に戻ると皆が周りを取り囲みました。

「なんだったんだ?」

「CPOになった」

「嘘だろ?本当に合衆国海軍のか?」

「WAVESのレクリエーション担当オフィサーなんだと」

「ほー、WAVEのねえ(ニヤニヤ)」

「気をつけ!かしら中!」

「・・・・な」

「俺は上官だ。
いいかウィンディ、お前『ダグラス』を降りて俺を手伝え」

「いや、俺は『ダグラス』で戦いますよ」

「ダメだ。上官命令だ」

「それが変更できるかどうか貴様の顔に聞いてやろうか?」

「やれよ。すぐに上官反逆罪で海軍警察行きだ。
いいか、命令だ。今夜中にショーの構成についての報告書を書け」


いきなり上官ヅラして友人を同じ穴に引き入れるジョン・キャボット。
なんかこいつ色々といい性格してんなー。


続く。



映画「ザ・ファイティング・サリヴァンズ」〜USS 「ザ・サリヴァンズ」

2024-07-24 | 映画


エリー湖にあるバッファロー海軍&軍事博物艦に展示されている
第二次世界大戦中の駆逐艦「ザ・サリヴァンズ」。

前回、真珠湾攻撃の時に「アリゾナ」と共に斃れた友の仇を取るために
三人の弟を誘って五人全員で海軍に入隊したという
「海軍サリヴァン兄弟」結成の経緯までをお話ししました。

戦没して駆逐艦に名前を遺した海軍軍人はそれこそたくさんいるわけですが、
この五人兄弟はその数だけでも特異であり、極めて稀です。

ならば、彼らの映画もあるんじゃないかと思って探したらやっぱりあった。
冒頭に貼ったのは、なんと2時間近くの超大作です。


タイトルは「戦うサリヴァン兄弟」(The Fighting Sullivans)。
テーマ音楽はアイルランドの「グリーンスリーブス」を勇ましく、
軍隊調?にしたもので、最初からもうやる気?満々です。

全体的に無名俳優ばかりですが、トップスター、アン・バクスター、
名脇役トーマス・ミッチェル(舞台『刑事コロンボ』の最初の俳優)
をキャスティングしたあたりに、力の入れようが見えます。


監督のロイド・ベーコンは、「42番街」「チャップリンシリーズ」
「北大西洋」などを手掛けた中堅どころの監督で、
映画は1944年に制作されました。

これで更なる戦意高揚が期待できるというところでしょう。
しかし、海軍の協力などがあったわけではありません。
それがなぜかはおそらく映画をご覧いただければわかります。

とはいえ、2時間近いこの大作を翻訳なしで観る根気も時間もない、
という方々のために、不肖わたしが簡単に解説を行います。


サリヴァン家の兄弟は、次々と行われる洗礼式でその名前を紹介されます。


五人の男児、一人の女児(ジェヌヴィエーヴ/ジェン)は
すくすくと育っておりました。

彼らの父親は貨物列車の車掌です。



五人兄弟は、毎日線路脇の給水塔から父親に手を振って見送るのでした。



そしてわんぱくぶりを発揮していきます。
喧嘩は日常茶飯事。



手作りのボートで転覆し、溺れそうになる。
(母親から大人になるまでボートに乗るのを禁止される)



納屋でタバコを吸って見つかる。
(なんとびっくり、父親は五人兄弟に葉巻を吸わせて咽せさせて懲らしめる)


「プランク」を作るために家の壁を切り抜いて、



水道管を破り台所を水浸しにする。
あーもう、本当に男の子ってバカ。(実感済み)



1939年、長男のジョージは街のバイクレースで優勝するような
イケイケな青年に成長していました。


末弟のアルバートはまだ高校生ですが、兄のバイクレースの日に出会った
運命の女性、キャサリン・メアリーと恋に落ちます。


結婚したいという弟に、まだ若すぎると反対する兄たち。



キャサリン・メアリーを招待した食事の席で、兄たちは、
架空の女の子からの手紙が弟に来たことにするなど、
姑息な手段で二人を別れさせようとしますが、すぐに可憐で純粋な
キャサリン・メアリー(綺麗すぎアン・バクスター)の悲しみを目にし、
自分たちが間違っていたことを認め、二人を祝福しました。


そして二人は結婚。


すぐに子供に恵まれました。
これまた当たり前のように男児です。

男系・女系ってあるよね。


1941年12月7日。

この日曜日、サリヴァン一家が皆でくつろいでいるところに
ラジオから飛び込んできたのは真珠湾攻撃のニュースでした。

沈没した「アリゾナ」には彼らの友人の一人、
ビル・バスコム(ビル・ボールがモデル)が乗り組んでいたことを知り、
彼らは友の仇を取るために海軍に入隊する決意をします。


当初新婚子持ちだった末弟のアルは一旦入隊を諦めますが、
あまりに残念そうな彼の様子を見ていた妻は、驚くことに、
彼に兄と一緒に入隊事務所に行くようにと進めるのでした。


事務所受付は、来る男来る男、名前がサリヴァンなのでびっくりです。



募集担当官のLCDR(少佐)ロビンソンは・・・あ、この顔見覚えあるぞ。
「FBI vsナチス」っていう啓蒙映画でFBIの中の人を演じていた俳優だ。

彼らの「5人で同じ船に乗りたい」という切なる願いに対し、
海軍としてもそんな保証はできかねる、と答えるしかありません。
特に5兄弟ともなると、前例もありませんしね。

とりあえず海軍は当初長男のジョージにのみ入隊許可を与えますが、
兄弟は海軍省直々に手紙を書き、結局全員の入隊が実現しました。


そして五人の息子たちが家族と別れる日がやってきました。
ここから彼らの海軍での生活が始まるわけですが、
ふと気づけば、映画は2時間のうちあと30分残すのみ。
これは海軍協賛とかではなく、完全に民製作品だったと知った瞬間です。

予想通り、ここからサリヴァン兄弟はいきなり「ジュノー」に乗り込み、
あっという間にソロモン沖で戦死するのですが、その描写は
明らかにセットで撮影されたもので、全く写実性に重きを置いていません。

ですので、ここからは、映画の流れを無視して?
実際の「ジュノー」沈没までの経緯を書いておきます。



11月12日、「ジュノー」は、ガダルカナル沖の激しい夜戦を行います。

この戦闘で魚雷により艦は大破。
一旦総員退艦の命令が下されました。

翌朝、航行不可能になった巡洋艦は艦首を失い、
18ノットを出すのに苦労しながら戦闘海域から退却します。
なんとか艦体を帰還させようとしたアメリカ海軍でしたが、
当時の海域はもうほぼガラス張り状態。

穏やかな海をのろのろと進む「ジュノー」は、
近くにいた帝国海軍の潜水艦伊号26にとって魅力的な標的となり、
魚雷が1〜2本、損傷した巡洋艦の前方に命中すると、
それは弾倉に引火し、次の瞬間激しい爆発が船を引き裂き、
わずか42秒で沈没していきました。



次男フランシス(操舵手)と三男ジョセフ、四男マディソン2等水兵、
合計3名のサリヴァン兄弟は、退艦することもできませんでした。

彼らは艦上ですでに絶命していたと言われています。

ちなみにこのとき「ジュノー」乗組員中、沈没直後に生存していたのは
約140名と言われていますが、8日後、救助されたのはわずか10名でした。

海軍が無線の沈黙を命じたこともあり、多くの生存者は漂流中に負傷が元で、
そして風雨、飢え、渇き、サメの襲来に斃れていったのです。


映画では、負傷して艦内に寝かされている長男ジョージを
兄弟全員が救出に行き、全員一緒に戦死したということになっています。

生存者の証言によると、フランク、ジョー、マットは全員艦上で即死、
アルバートは救助艇に乗れず翌日溺死、長男ジョージは漂流し、
高ナトリウム血症によるせん妄を患うまで4、5日間生きていました。

彼は兄弟を失った悲しみで精神を追い詰められ、
自分が乗っていたいかだの側面を乗り越えて水に落ち、
それっきり姿を消したという証言もあるそうですが、

それはせん妄によるものということもできるでしょう。

映画に戻りましょう。


画面が暗転すると、次のシーンでは例のロビンソン少佐が
サリヴァン家を訪れてくるところです。

少佐がニコニコと愛想よく挨拶するものだから、
家族たちも悪い予感は何も持たずに握手などしていますが、

実際両親は、戦地の息子たちからぱったりと通信が途絶え、
そこに彼らの戦死の噂が耳に入ってきたこともあって、
海軍人事局に手紙を書いて彼らの安否を問おうとしていました。

軍艦沈没の情報を国民の士気を下げることから報道しない、というのは
決して日本だけのことではなかったようですね。



実際には、1月12日の朝、父親であるトムが仕事の準備をしていたとき、
軍服を着た3人の男性(中佐、医師、兵曹長)がやってきたとされます。

「あなた方の息子さんについてお知らせがあります」

と中佐がいうと、父親は尋ねました。

「どの息子です?」
 "Which one?" 


すると中佐は答えました。

「お気の毒ですが、5人全員です」
"I'm sorry, All five."


アルの妻であるキャサリン・メイと姉のジェンは、
少佐が広報を読み上げるのを聞き終わるやいなや、
ワッと泣きながら自室に姿を消しました。


わたしに言わせると、ここからがこの映画の見どころとなります。
この映画のラスト15分、きっと当時、全米が泣いたに違いありません。

少佐の言葉に呆然とする両親。俯く中佐。
暖炉の上の写真(本物)に父親が見入った瞬間、列車の汽笛が鳴り響きます。
それは、車掌であるトムが仕事に行く合図でもありました。

「失礼します。
イリノイ中央鉄道の操車係になって33年間一度も休んだことがないもので
・・すみません」


そして母親は・・。



ふと我に返った顔になり、「五人全部・・・」と呟きます。
少佐は、そんな母親に向かい、思いついたように微笑みを顔に装って、

「Five on second thought」

という言葉の後に、

「すみませんが・・・コーヒーを一杯いただけますかな」

と所望するのです。

それを聞くと、彼女は何かやらなければならないことを思い出した風に、
同じく微笑んでいそいそと立ち上がり、キッチンに向かうのでした。


母親の「All five..」に対し「5といえば・・」とは妙な返しですが、
この一見不思議なやりとりは、却って観る者の心を深く抉ります。

監督の非凡さを表すシーケンスだと思います。



そしていつものように仕事にかかる父親。



列車が動き出してしばらくすると、あの給水塔の横を通ります。





誰もいない給水塔に向かって、父親は小さく敬礼を送ります。



そして、USS「サリヴァン」の進水式がやってきました。



実は、兄弟が「アリゾナ」のビル・ボールと友人になったのは、
彼がジュヌヴィエーヴのボーイフレンドだったからでした。

実際にジェンはWACとして海軍で人事に勤務し、新兵募集に携わりました。

米国海軍予備役に入隊し、両親のトーマス・F・サリヴァン夫妻とともに
200以上の造船所や製造工場を訪問し、そこで働く労働者を激励しました。

映画でキャサリンが抱いている息子のジミーですが、成長して海軍に入り、
念願かなってこのUSS「ザ・サリヴァンズ」の乗組員になりました。



そして時は流れ、1995年、2代目USS「ザ・サリヴァンズ」DDG-68
(運用中)の進水式スポンサーになったのは、アル・サリヴァンの孫、
ジミーの娘であるケリー・アン・サリヴァン・ローレン(右女性)でした。




シャンパンの儀式は母親のアレッタが行いました。


シャンパンが割れると同時に汽笛を鳴らしながら進水する船。
(艦番号は450なので、この映像は『オバノン』の進水式。

日本海軍の潜水艦とジャガイモの投げ合いをした艦です)

それを見送る彼女は夫に向かっていうのでした。

「トム・・・あの子たちが生き返ったわ」
” Tom, our boys are float again."


「錨を揚げて」Anchors Aweigh の調べの中、
朗らかに手を振り、光に向かって進んでいく五人兄弟。

このラストシーンには、恥ずかしながら涙腺をやられました。


サリヴァン兄弟の映画は、実は間接的に、スピルバーグの映画、
「プライベート・ライアン」に影響を与えています。

サリヴァン兄弟他何組かの兄弟の戦死事案が勘案された結果、海軍省は


ソウル・サバイバー・ポリシー (Sole Survivor Policy)
国防総省指令1315.15「生存者のための特別分離政策」

を制定しました。

ある兵士が軍務で失われた場合、同家族内の生存している兵士を
徴兵または戦闘任務に就かせず、保護することが定められています。

続く。


映画「聯合艦隊司令長官 山本五十六」 ブーゲンビル

2024-06-10 | 映画

始まった時には考えてもいなかったのですが、
この映画が放映時間2時間10分という超大作であったこともあり、
気がつけば場面ごとに4日に分けて紹介することになってしまいました。

山本五十六を描いた映画は、当然のことながらその最後は
ブーゲンビルで米機に撃墜された「海軍甲事件」で幕を閉じており、
本作も山本の乗った一式陸攻がブーゲンビルのジャングルに墜落し、
それを護衛隊が見送る、というシーンがラストになっています。

■南太平洋海戦


ヘンダーソン基地への艦砲射撃が成功したのを受けて、
アメリカ艦隊(青)は全艦隊をもって北上し、連合艦隊(赤)もまた
「翔鶴」「瑞鶴」「瑞鳳」を旗艦とする全機動部隊でこれと対峙しました。
(赤線青線はお節介ながらこちらで書き入れておきました)

昭和17年10月26日の南太平洋海戦です。


こ、この二人は・・・!
ミッドウェーの後しょんぼりしていた南雲&草鹿コンビではないですか。

このとき第三艦隊を指揮したのは他でもない、南雲中将でした。
この二人が「汚名返上のチャンスを」と願い出て、
山本が「温情人事」によって二人を留めたゆえの配置でしたが・・。


日本軍の攻撃によって炎上する「エンタープライズ」。

このとき日本側は損傷を受けたものの、空母「ホーネット」、
駆逐艦「ポーター」を沈没、「エンタープライズ」、重巡1隻を中破させ、
日本側は確かに「海戦では勝った」ことになりました。
南雲&草鹿の「汚名」も、返上されたといってもいいのかもしれません。

しかし・・・。


「未帰還機が多いようです」



その一例。
帰投中、機体と身体に傷を受け、持ち堪えられなくなって
海に落ちていく三上中尉(こんなちょい役に田村亮)。


最後まで声を枯らして励ましていた木村中尉は、
三上中尉の最後を敬礼で見送ります。

数字の上では日本軍の勝ちでしたが、多くのベテラン搭乗員と飛行機を失い、
そもそもこの目的であるガダルカナルの陸軍の支援には
兵力不足で結び付かなかったというのが真実のところでした。

つまりは「試合に勝って勝負に負けた」的な・・・?


もちろん兵站がそれで持ち直す事態にはならず、
ガダルカナルの陸軍は、弾薬はもちろん、食料もすでに底をつき、
「飢島」と呼ばれるにふさわしい地獄の様相を呈していきます。

■ガダルカナル撤退


この窮状を打開するために編成された第八方面軍の司令官は今村均大将。

オランダ領東インド(インドネシア)が降伏したあとは、
大本営に非難されながら寛容な軍政を敷いた人物でもあります。



旗艦の舷門で今村を迎える山本長官。

この「武蔵」という設定の船ですが、絶対海自の護衛艦だと思うんだな。
なんならサイドパイプ吹いてる人も自衛官かもしれん。
エキストラ程度ではこんなちゃんとした音は出ないはずだから。


せっかくロケで自衛艦をお借りしたからといって、
いくらなんでもこんなところでテーブル囲まなくても・・・。

この後ろの感じで、1968年当時のどの自衛艦かわかってしまう方、
もしかしたらおられませんかね?

映画では特に描かれていませんが、この二人は佐官時代から親交があり、
今村着任時の夕食会で、山本は

「大本営がラバウルの陸海共同作戦を担当する司令官が君だと聞いた時は、
誰だか同じ様なものの何だか安心なような気がした。
遠慮や気兼ね無しに話し合えるからな」


と陸海軍の側近らの前で今村に話しています。
のちに山本が戦死した際、今村はこの報に涙して悼みました。


二人が艦上で話し合ったのはガダルカナルの現状についてでした。

今村は赴任前に宮中に参内し、天皇陛下より、
ガダルカナルの将兵を万難を排しても救え、というお言葉を賜った、
と山本に告げ、山本もこれを恐懼して聞きます。


こちらは、切羽詰まったガダルカナルの参謀たちに、
総攻撃をかける機会は今でしょ!と詰められている百武司令。

「飢えで死ぬくらいならば玉砕の方がなんぼかマシです!」

ごもっとも。

しかし今の兵力では成功の見込みはまずない・・と司令は躊躇し、
困り果てて、ラバウルからの指示を仰ぐことにしました。


しかし、ラバウルの今村もこれ以上の戦力をガ島に投入することには及び腰。


業を煮やした山本は渡辺参謀を介してガ島撤退の可能性を探りますが、
陸軍側はそのメッセージを今村に伝えることすら拒否するのでした。

「武士の情けだ。
私としてはお取次ぎしかねるし、このままお引き取り願いたい」


つまり陸軍の立場からは撤退を言い出すことはできないと。
なんだろうこれ。プライドが許さない的な?

これを聞いた山本は、自分が「悪者」になって撤退を上に進言する、
そしてこれから海軍は撤退のため全力を尽くすことを決意しました。


そして海軍艦船により暗夜を利用した撤退作戦、「ケ号作戦」が始まります。
(画面はどう見ても真昼間ですが、それはこの際置いておいて)

山本は、

「動ける駆逐艦全てを投入、半数を失うかもしれぬ」

という覚悟でこの作戦に臨み、結果として駆逐艦「巻雲」を喪失、
軍艦数隻が損傷しましたが、将兵1万6000名余の撤退に成功しました。

2月7日のことでした。

■い号作戦



生前の山本五十六を撮った最後の写真として有名ですが、
これは昭和18年4月7日〜5日、南東方面艦隊と第三艦隊の艦載機により、
ガダルカナル島やニューギニア島南東部のポートモレスビー、
オロ湾、ミルン湾に対して空襲を行った「い号作戦」終了時のものです。


映画は実際に残る写真に忠実な構図が取られています。
山本長官の白い第二種軍装が遠目に目立っていたのも史実通り。

このとき山本は「武蔵」を降り、ラバウルにきて自ら指揮を執りました。
艦を降りることは山本の本意ではなかったとされますが、
(『ニミッツのように艦上から指揮を執りたい』と言ったらしい)
これを説得したのは参謀長だった宇垣纏でした。

またしても歴史に「もし」はないとはいえ、このとき宇垣が反対せず、
山本がラバウルに来なかったら、海軍甲事件はあったでしょうか。

作戦は、参加航空機第11航空艦隊196機、第三艦隊184機の合計380機で、
各地の米軍港にある艦艇を攻撃するというのが目標でした。



出撃する飛行隊を見送る山本長官と幕僚たち。



艦爆隊長は、いつのまにか大尉になっていた木村でした。

ところで、映画でこの後艦爆の後席に乗り込む木村大尉は、
狭いコクピットになんと長刀を持ち込んでおります。
海軍って飛行機に長い刀は持って乗らないと思ってたけど違うのかな。

もちろん高官は事情が違い、山本長官は、撃墜された一式陸攻で
長刀を持ったままの姿で発見されているわけですが・・。



幕僚と共に帽振れをする山本。



この撮影時、渡辺元参謀ら、実際に山本五十六を知る人々が
映画の現場を見ており、おそらくは助言もしていたのですが、
全ての人々が、三船敏郎の演じる山本は
細かい所作の隅々まで本人そっくりだったと証言しています。





戦果は、駆逐艦1隻撃沈、貨物船1隻撃沈、2隻撃破、
油槽船1隻撃沈、コルベット艦1隻撃沈、掃海艇1隻撃破、
航空機は25機を損失せしめるというものでした。

しかし、我が方は零戦25機、艦爆21機、陸攻15機を失い、
戦果の割には損害が大きく、消耗度の高い作戦となりました。



幕僚を集めた山本は「い号作戦」の終了を宣言し、
それに伴い母艦飛行機隊を内地に帰す命令を下しました。



ほとんどが戦友の遺骨を抱いての帰還です。



山本五十六の敬礼は実に美しかったという証言があります。

駐米大使斉藤博が任務中客死した際、横浜まで「アストリア」が遺骨を運び、
それを遺族の立場で埠頭に迎えた犬養首相の孫犬養道子さんが、父上に、
斉藤未亡人に対するレディスファーストの身についた振る舞いを見て、

「誰?あのスマートな軍人」

と思わず尋ねると、父上の犬養健氏は、

「五十六。山本五十六」

と答えたという話が犬養道子氏の著書に遺されています。

後世の人々が語るその姿から、山本五十六という人物は
所作立ち居振る舞いを含め、写真には写らない魅力があったと考えられます。

その魅力は女性のみならず男性をも捉えるような類のものでした。
常に着るものには徹底的にこだわったという話もあります。


「長官・・・ご無事で!」

兵学校の入学から縁があった木村大尉も内地に帰ります。



翌日、山本は前線の部隊を激励するために前線に飛ぶことを計画していました。
行き先はブーゲンビル、ショートランド。

飛行部隊の帰国を見送った後、この映画では山本は
将兵の見舞いに病院を訪問したことになっています。



怪我しているというのに長官が見にくるからと、
ベッドの上で正座をさせられている怪我人、病人を見回り、
声をかけていた山本は、一人の負傷兵から声をかけられました。

彼はかつて加治川で山本を乗せた船の船頭の息子でした。

駆逐艦「長波」に乗っていてルンガ沖夜戦で負傷したという彼を、
山本は励まし、父親によろしくと告げます。


山本を慕う従兵の近江三曹は、「後百日のうちに」という書を見つけ、
山本が死を覚悟していることを確信し、ラバウルまでやってきます。

そして、第三種軍服を持って山本の前に現れ、
前線ではこれを着てください、と懇願しました。

ところで、山本五十六乗機が撃墜されたとき、なぜ白の第二種ではなく、
カーキ色の第三種を着ていたかについては、その直接の理由について
特に記述が見つからなかったのですが、おそらく、近江兵曹のように
目立つ白では敵の標的になりやすいので、という理由で
嫌がる?山本にカーキを着せた「誰か」がいたということでしょう。

ただ、もし白を死の覚悟の表明として選んでいたのなら、人生最後の瞬間、
初めての、しかもあまり好きではない第三種軍服を着ていたことは
装いにこだわりのあった山本にとって心残りだったかもしれません。


翌日長官機の護衛につく零戦隊、森崎中尉以下6名が挨拶に来ました。



居並ぶ中に、山本は見覚えのある顔を見つけました。
岩国航空隊で、飛行時間220時間!と大声で叫んだ元気な航空兵曹本田です。

今や飛行時間を630時間に増やした本田三飛曹ですが、
仲間はどうした、と聞かれて口ごもりました。


本田に変わって零戦隊の森崎隊長が、配属された彼の同期は22名で
生き残ったのはわずか7名であると告げます。


翌日、二機の陸攻に分乗した長官一行は、ラバウルを飛び立ちました。
後ろに乗っているのは参謀飾緒を付けているので、
航空参謀であった樋端久利雄中佐か、副官の福崎昇中佐のどちらかです。

樋端大佐(死後)は伝説の俊英で「海軍の至宝」とまで謳われた逸材でした。



しかしこの飛行はあらかじめ暗号解読により米軍の知るところとなり、
日本軍が時間に正確なことを利用し待ち伏せされていました。



現れた16機のP-38ライトニングと交戦になる零戦隊。
護衛6機に対し16機、これはもう勝てそうな気がしません。



結果として、陸攻は2機とも撃墜され、護衛の零戦隊は被害なし、
アメリカ側のP-38が1機撃墜されています。



このとき長官機は避難のために緊急着陸を試みたと言われます。
長官機に乗っていたのは山本と二人の中佐、そして高田軍医少将、
機長と副機長、偵察員、電信員2名、攻撃員、
そして整備員計11名で、この全員が戦死しました。

2番機も墜落しましたが、宇垣参謀長はじめ3名が救出されています。



映画では、その後1番機は被弾し、副操縦士と、
山本の後ろの中佐はすでに銃弾を受けて死亡しているように描かれており、
山本の右肩には銃創が見えます。


ここでは、山本の遺体に背部盲管銃創があったとする報告通り、
機上ですでに戦死していたと描かれていますが、実際は、
墜落後発見された遺体の状況から、墜落しばらくは生きていたものの、
全身打撲か内臓破裂により翌日早朝ごろ死亡した可能性が疑われています。

なぜこのような齟齬が生まれたか、なぜ正確な検証がされなかったか。

それは、山本がなまじ神格化された存在だったため、
墜落してしばらく生きていたというより、機上で射撃されて即死した方が
連合艦隊司令長官山本五十六に相応しい、と周りが忖度して
その最後の姿を修正しようとしたからではないかと思われます。

それを疑う理由は、実際に発見された遺体の腐敗具合から、
山本がしばらく生きていたことが当時から推測されているのにもかかわらず、
軍医が墜落現場における検死の際、軍服を脱がそうとしたところ、
渡辺参謀が強い口調でそれを制止し、それをさせなかったことがあります。

長官を敬愛する彼らにとっては、正確な死因を追求し記録に残すよりも、
神・山本の物語を完璧に紡ぐことが優先されるべきだったのでしょう。


日本側で山本の死因がはっきりしていなかったように、
アメリカ側でも正確な撃墜状況は長らくわからなかったそうで、現在は
撃墜した「候補者」二人の共同ということに落ち着いているそうです。

映像もないので真実は永遠に謎のままです。


しかし、発見されたとき山本は座席に座り、
軍刀に手をかけていたことだけは確かです。



零戦が見守る中、ジャングルに墜落し黒煙を上げる長官機。


滂沱の涙を流しながら敬礼する零戦隊の六人でした。

「昭和18年4月18日、長官山本はブーゲンビル島の上空において戦死した。
真珠湾攻撃より1年4ヶ月、日米開戦に極力反対した山本五十六は、
志と違い、皮肉にも彼自身戦争遂行の重大責任を担い、
自らの死によってその節をまっとうしたのである。」

ナレーターはこれも聞いてびっくりの大物仲代達也でお送りしました。



終わり。

映画「聯合艦隊司令長官 山本五十六」ガダルカナル

2024-06-07 | 映画

映画「連合艦隊司令長官 山本五十六」三日目です。
本日扉絵左上の百武晴吉陸軍中将ですが、昭和17年、
ガダルカナル島奪回のために派遣された第17軍の司令官でした。

ところでこの百武という変わった名前に覚えがありませんか?

当ブログでは入手した海軍兵学校の遠洋航海記念アルバムをもとに
シリーズとしてここで紹介したことがあるのですが、
練習艦隊司令官としてこの年(淵田美津雄が在籍していた)の
遠洋航海を指揮したのが、晴吉の兄、百武三郎大将でしたね。

兄なのになぜ名前が三郎なのかというと、百武家は5人兄弟で、
三郎の上に二人(おそらく一郎か太郎、二郎という名前の)兄がいたからです。

百武家は三郎、源吾(海軍大将)そして晴吉と3人の将官を輩出しており、
三郎と源吾は海軍史上唯一、兄弟の海軍大将となりました。

晴吉陸軍中将は、兄三郎に似て眼鏡の細面ですので、
映画の百武役はあまり、というか全く似ていません。



これは三郎の弟海軍大将の五男、百武源吾ですが、
不思議なことに?こちらにそっくりです。

映画の配役担当がこの人と写真を間違えていたのではないかと思うくらい。

そして、左下の栗田健男ですが、これはもう全く、
誰がなんと言おうと似ておりません。
「全く似ていないで賞:海軍部門」を謹んで進呈します。

逆に、「そっくりで賞:陸軍部門」を差し上げたいのが今村均陸軍大将

佐々木孝丸という俳優は多才でプロレタリア作家、翻訳家などの面を持ち、
スタンダールの「赤と黒」の翻訳(フランス語)も行っています。



さて、続きと参りましょう。

ここは岩国海軍航空隊。
現在は米海兵隊が運営しており、軍民共用の岩国錦帯橋空港となっています。


訓練を終了し、これからおそらくは南方の戦地に送られる
新人航空兵たちを前にしているのは、あの木村中尉でした。


今日は山本長官が岩国基地に視察に訪れていました。


一人一人の前に立ち、前列の航空兵に飛行時間を尋ねる山本。

「220時間であります 」「230時間であります」「210時間(略)」

零戦以前のパイロットは、総飛行時間300時間でどうにか操縦がまともにでき、
500時間で列機が務まり、7〜800時間でようやく一人前、
1000時間でベテランだったそうですが、それらのベテランは
ミッドウェーの後くらいになると多くが戦死してしまい、
200〜300時間クラスが戦争に出されることになりつつありました。

■ガダルカナル攻防戦


下矢印は、エスピリッサント島に進出するアメリカ艦隊、
上からきているのはラバウルに進出した日本軍の第2、第3艦隊です。



そのちょうど間にあるのが・・・ガダルカナル島です。
両軍の凄惨な争奪戦が始まる、ということを説明しているのですが、
この図がわかりやすくて、感心してしまいました。



昭和17年8月24日の第二次ソロモン海戦の大戦果を報告するのは
大本営の平出(ひらいで)英夫報道部長

実物

ここで余談です。
2020年の朝ドラ「エール」でも扱われた戦時プロパガンダの一つに、

「音楽は軍需品なり」

というのがあり、この言葉の生みの親が平出大佐でした。

当時の音楽家にとってはこれは贅沢品と迫害されないための錦の御旗となり、
多くの音楽家がいわゆる戦意高揚のための協力を行いましたが、
彼らのほとんどは、戦争が終わるや否や慌てて?アリバイを主張したり、
あれはやむなく、などと保身のために言い訳しました。

わたしの知る限り「空の神兵」の高木東六氏はその典型だった気がします。
時世と価値観の変化を思えば、それを責めようとも悪いとも思いませんが。



その頃、陸軍部隊はガダルカナルに進出したものの、
米軍はすでに三本もの滑走路を完成させ、そこから猛攻をかけてきました。



ここトラック島の旗艦「大和」司令室では、黒島&渡辺参謀をラバウルに送り、
陸軍との話し合いを行うよう要請が行われました。

テーマは補給のための物資輸送です。
連合国軍が8月7日にガダルカナルに奇襲上陸したのを受けてのことでした。



海軍側がこのとき提案したのがいわゆる「鼠輸送」でした。
夜間、高速の駆逐艦を用いるしかなかったので、輸送量が限られ、
貨物クレーンも搭載していないことから、大型武器の運搬はできませんし、
月が明るい時期には駆逐艦が発見されやすく実行できませんでしたが、
それでも述べ350隻の駆逐艦が投入され、2万人が輸送されました。



駆逐艦で輸送を行うことを非効率的だというのは、辻政信参謀
トラック島に戦艦がゴロゴロ「遊んでいる」のだから、
大船団を組んで輸送してくださいよ、とつっかかってきます。

渡辺参謀が、駆逐艦を輸送に出すのは海軍にとっても大変な犠牲である、
少しは海軍の立場も理解してもらいたい、というと、

「しかし、ミッドウェーの失敗は海軍ですよ?
ガダルカナルだって先に手を出したのは海軍だ」

と、(海軍側にとって)ムカつくことをズバリ。


険悪になる雰囲気を宥めたのは流石の百武司令でした。

「どうか陸海心を一つにしてこの難局を乗り切っていただきたい。
それがこの百武の願いです!」

本物への似ていなさもあって、わたしもそうだったでしょうが、
この一言がなかったら、この司令官が誰だかわかる人はいなかったでしょう。
よっぽどこの時代の戦史に詳しい人でもなければ。



いよいよ「鼠輸送」が決行されることになりました。
駆逐艦は昼間敵との接触を避け、北方航路を30ノットで進みます。

駆逐艦には本格的な上陸用舟艇も積めないので、
手漕ぎの小型上陸用舟艇に物資兵員を移して、
駆逐艦の内火艇で曳航する方式が基本でしたが、時としてこの映画のように
ドラム缶に入れた食料や弾薬を縄でつないで海上へ投棄しました。

「これで一体どれくらい味方の手に届くんだろうな」

「いいところ5分の1さ」

水雷戦隊を自認する駆逐艦乗員が、自らの任務を自嘲しつついうと、
たちまち先任が、

「ガダルカナルで飢えて物資を待つ将兵のことがわからんのか!」

と怒声混じりに叱咤し、皆は(´・ω・`)となります。


物資の受け渡しのために陸軍の兵たちが海岸に集結しました。

「作業かかれ〜!」

隊長が怒鳴ると、なんとびっくり、皆海岸で服を脱ぎ出すじゃありませんか。

実際の鼠輸送では、海に流したドラム缶などの物資を、
現地部隊の大発が回収するという方法がとられていましたが、
この映画では大勢が泳いで物資を集めに行くということになっています。



大発でもしばしば回収に失敗することがあったというのに、
人が・・泳いで?



駆逐艦では物資の投下が始まりました。



まるで夜間遠泳大会。
本当にこんな生身で物資を拾いに行っていたんでしょうか。


その時、駆逐艦が連合軍に発見され、空襲が始まりました。

夜間は敵戦闘機の飛行も限られていたので、この映画のように
夜間の作業中敵飛行隊の空襲がどれくらいあったかは疑問ですが、
輸送に向かう日中の往路復路は見つかるたびに空襲を受け、
この結果、聯合艦隊はガダルカナル作戦中の半年で駆逐艦を14隻喪失、
損傷は述べ63隻におよぶ被害を出しています。

またWikiによると、駆逐艦がこれほど損害を受けた理由は、
当時の聯合艦隊の艦隊型駆逐艦が、

「缶室か機械室のどちらかに浸水すると動かなくなる」

という弱点を持っていたことでした。
たまりかねて海軍は鼠輸送専用の輸送艦、

第一号型輸送艦
二等輸送艦(第百一号型輸送艦)

を作ったほどです。
ちなみに第一号型は日本で初めてブロック工法で建造された艦でした。
必要は発明の母?

それから、鼠輸送の最中に、つまり夜間、敵水上部隊がやってきて
夜戦になだれ込んでしまうことが数回ありました。

ルンガ沖夜戦、ビラ・スタンモーア夜戦、クラ湾夜戦などがそれです。
日本の駆逐艦は夜戦が得意だったので、これら艦隊戦には勝ち気味でしたが、
もちろん本来の目標である輸送に支障をきたしたことは否めません。

この映画でも物資どころではなくなり、輸送任務を行っていた
「叢雲」は航行不能、「夏雲」は沈没した、という設定です。

実際の「夏雲」はサボ島沖海戦に「衣笠」と合同で戦闘に当たるため、
「叢雲」は海戦で沈没した「古鷹」の乗員の救出のために出動し、
空襲によって「叢雲」は航行不能、「夏雲」は沈没しています。


司令官室の連合艦隊軍艦名簿に赤で❌をつける渡辺参謀でした。


無言で司令官室に戻り、スローテンポの「佐渡おけさ」を唸る山本。


そんな山本を心配気に眺める従兵の近江三曹。
そんな近江に、山本は、これから二種軍装を着用するから用意してくれ、
とさりげない調子で命令しました。


そのとき、「大和」に陸軍の船が着舷しました。
陸軍の船だから大発?と思いましたが、妙にモダンです。
ラバウルにこんな近代的な船があったのか?



やってきたのは陸軍参謀本部の辻政信でした。
ガダルカナルでの輸送作戦が実を結んでいないこと、
なんとしてもガ島を奪還したいことを語ります。

「後続部隊として第二師団がラバウルに集結しております。
百武司令官は『これ以上海軍に迷惑かけては』と、自ら輸送船に乗り込み、
裸の船団でガダルカナルに乗り上げるとまで申されております!」


これはどの程度史実に忠実かは少し疑問があります。
ガダルカナルの実情を無視して攻撃を強行した本人でありながら
失敗に対する対応策を迅速に行わなかったのもまた辻であり、
ここまでガダルカナルにこだわりながら、具体的な策を出しませんでした。

この誤った作戦指導が多くの人命を失う結果となったという説もあります。

そして本人はというと、現地でマラリアにかかり、
鼠輸送のため到着した「陽炎」に便乗して撤退しています。

「毀誉褒貶が激しく歴史的評価は真っ二つ」

という辻政信ですが、石原莞爾のようなキレ者というわけではなく、
戦後のCIAは、この人物について、

「政治においても情報工作においても性格と経験のなさから無価値」

「機会があるならばためらいもせずに第三次世界大戦を起こすような男」


と断じています。
軍人としての資質がなければ、真の意味での道徳心もないってことですか。



山本は、辻に

「百武司令には、乗るなら駆逐艦に乗って行くように」

と伝言させました。(意味不明)
そして、ゆっくり飯でも食っていきたまえ、などと言います。

これは実際にあったことで、辻が「大和」に山本長官を尋ねた際、
物資統制にもかかわらず山海の珍味が食卓に並んでいたのを見て、

「海軍はゼイタクですね」

と皮肉を言ったそうですし、その少し前、
トラック島泊地で第四艦隊司令長官井上茂美中将の接待で
海軍専用料亭(料亭小松)の宴席で芸者がいたことなども、
同じく不快と違和感を感じていたことを自ら書き遺しています。

料亭小松の「お国を思う覚悟の出張」(空襲による芸者の犠牲も出た)や、
山本長官のせめてもの「心づくし」など知るよしもなかったからですが、
のちにそれらのことを聞かされた辻は、

「下司の心をもって、元帥の真意を忖度しえなかった、恥ずかしさ。
穴があったら入りたい気持ちであった」

と、自分の言動を反省したそうです。
CIAからは酷評でしたが少なくとも自省できる人物ではあったようです。


ついで山本は本作中似ていないで賞大賞の栗田健男(左端)を呼びました。

「ガダルカナルの戦局を打開するために、『金剛』『榛名』で
泊地突入し、艦砲で敵飛行場(ヘンダーソン基地)を叩いて欲しい」

ヘンダーソン基地艦砲射撃

「やらせていただきます」

この映画では草鹿の反対を圧して栗田がこう言っていますが、
実際は、作戦に当初及び腰だった栗田が、山本の

「ならば自分が大和で出て指揮を執る」

という言葉でやむなく?引き受けたという経緯がありました。


そして「金剛」を旗艦とする第三戦隊が出撃しました。



このとき「金剛」「榛名」は合わせて966発の艦砲を発射し、
ヘンダーソン飛行場は半分強の飛行機が被害を受け、
個別の戦果で言うと「日本軍の勝利」となりました。



泊地艦砲攻撃を命じた第三戦隊出撃を見送る山本を、
従兵の近江兵曹は心配気に見つめ、藤井政務参謀(藤木悠)に、
なぜ長官はいつも目立つ白い第二種軍曹をしているのかと尋ねます。

山本は「大和」艦上で、

「あと百日の間に小生の余命は全部すりへらす覚悟に御座候」

と言う手紙を故郷に送っていますが、次にその手紙を書くシーンが挟まれ、
白の二種軍装が山本にとっての「死装束」だったことが示唆されます。


続く。




映画「聯合艦隊司令長官 山本五十六」ミッドウェー

2024-06-04 | 映画

映画「連合艦隊司令長官山本五十六」続きです。

前回、加山雄三演じる伊集院大尉のモデルが、「雷撃の神様」こと
村田重治大佐(最終)であるという話をしましたが、
今日のタイトル画で「友永丈一」としたのは、本作ミッドウェー海戦部分で、
伊集院大尉は友永中佐と同じ運命を辿るからです。

本作の登場人物は一部を除き歴史上の人物が実名で登場しますが、
加山雄三の役は村田大佐と友永大尉のどちらもをモデルにしているため、
唯一この役だけが創作名を与えられているというわけです。

また、黒島亀人先任参謀については、一番知られている肖像ではなく、
本作俳優(土屋嘉男)に似ている若い時の写真を挙げてあります。


真珠湾攻撃後、陸軍は「海軍だけに手柄を立てさせまいと」(黒島談)
大陸進出作戦を強く主張していましたが、
山本の目的は一刻も早く講和に持ち込むことですので、
敵艦隊を叩くため、ミッドウェー作戦を提案しました。


そんな折、劣勢を跳ね返すためのアメリカの捨て身の作戦、
「ドーリトル空襲」が起こります。

空母「ホーネット」を発艦したB29の編隊が本土を襲撃し、
このことは軍上層部をにわかに動揺させ、

「太平洋に防空の砦を築くべし」

としてミッドウェー作戦が決行されることになりました。

劇中、採用された空母「赤城」艦上における敬礼シーン(実写)
ちなみに敬礼しているのは士官のみ



ミッドウェー島への発進攻撃命令を下す機動部隊司令長官、南雲中将。


【軍歌】🎌『日本海軍・出航ラッパ』~映画版~

この時の出航ラッパは、このYouTubeで聴くことができますが、
東宝オリジナル(にしてはよくできている)なのだそうです。

帝國陸海軍喇叭集

本物はこの25番目。
ちなみに「防水」「診察」という喇叭があって驚きました。



「両舷前進びそーく」


「一航戦、赤城、加賀、出航しまーす」


「赤城」飛行隊の士官室は、皆意気軒昂そのものです。
木村中尉の幼馴染の写真(恋人でもないのになぜか持っている)
を皆で回し見して揶揄ったり、山本長官の噂をしたりと、和気藹々。



そして一航戦の飛行隊は、いよいよミッドウェーに向けて飛び立ちました。

本作の特撮模型は、船より飛行機の方がよくできているような気がします。
船はどうしても海面がうまく再現できないので限界があるようですね。

攻撃隊はミッドウェーに差し掛かると米軍の迎撃機と交戦、
その後ミッドウェー島の攻撃は予定通り決行されることになりますが、
作戦司令部には、第一次攻撃隊だけでは効果があまり得られず、
第二次攻撃隊の必要があるという打電が入ってきます。

(ちなみにこの連絡をしてきたのは、伊集院大尉のもう一人のモデル、
友永丈一大尉で、通信文は『カワ・カワ・カワ』)


しかしながら、第二次攻撃隊は敵機動部隊との交戦に備えて待機中でした。


そのとき「利根」の索敵機が、空母のない米艦隊の発見を告げてきました。
ここで機動部隊は後世に禍根を残すミスをしてしまいます。

米機動部隊からの攻撃はないと判断した草鹿は、待機していた航空勢力を
全てミッドウェーに向けてしまうことを決定したのでした。

しかも(映画では語られませんが)実はこの索敵機は、敵索敵に発見され、
近くに日本軍の機動部隊がいることを悟られてしまっていました。



そして、魚雷を陸用の爆雷に付け替えるという命令が下されます。
言うまでもなく第二次攻撃隊をミッドウェーに向かわせるためです。


模型チックな昇降機で付け替えのため甲板から降ろされる飛行機。



そのときです。
索敵機は空母2隻を伴う米機動部隊を発見しました。



「  なにい?!」

歴史に「もし」はありませんが、つい考えずにいられません。
もしこのとき、海軍が出した索敵機が、先の小規模艦隊の代わりに、
空母を伴う米機動部隊を発見していたら、結果はどうだったかと。

少なくとも空母4隻壊滅という事態だけは避けられたでしょうか。


そのとき「飛龍」の山口多聞司令から、米機動部隊に対し
直ちに発進の要ありと認む、という打電がされてきました。

しかし、雷撃機を発進させるには、護衛の戦闘機が出払っていて手薄です。
ほとんどの戦闘機はミッドウェー隊の掩護に行ってしまっていました。



「仕方ない、正攻法で行こう!」

上空直掩戦闘機を呼び集め、再び雷装への付け替えが命じられました。


全員なんでやねんって内心ツッコミ入れながら作業していたと思う。
爆弾が剥き出しになっている今、攻撃されたらどうすんの、とか。


そこに、日本軍にとって絶望的なお知らせが。
敵機動部隊飛行隊がこちらに向かっているというのです。

この一連のシーン、草鹿参謀長演じる安部徹は汗ダラダラ流してます。


急かされまくった攻撃隊がやっとのことで発進していきました。


しかし次の瞬間、米機動部隊攻撃隊が牙を剥いて空母群に襲いかかります。


この、爆弾が甲板を貫き爆発炎上する特撮は見事です。


修羅の海に浮かんだ機動部隊上空を、
たった一機になった伊集院大尉の機が航過しました。


「加賀、沈みます!」

沈みゆく「加賀」に敬礼をする伊集院大尉。(冒頭画)


山本長官の座乗した「大和」に、戦果を伝える電報が届けられました。

「敵艦載機の攻撃を受け、赤城、加賀、蒼龍大火災」

続いて、

「山口司令官より無電、『飛龍は健在なり』」



「山口司令官宛て打電せよ。飛龍の健闘を祈る」



「飛龍」からは艦載機攻撃隊が離艦していきます。
伊集院大尉機はこれらと合同で攻撃に当たることになりました。


燃料タンクを増槽に変えると言う飛行士に、
300マイル飛べれば十分だ、と淡々と返す伊集院大尉。

「はあ?」

「帰ってもおそらく母艦は沈んでいるだろう」

実際の友永丈一機は、ミッドウェー島を攻撃したあと、
母艦に戻って給油していますが、その際左翼タンクが破損していたので、
整備を担当した兵装長が、

「これでは片道燃料になります」

と出撃を制止したのを振り切って出撃しています。

映画の会話はこの時の「片道燃料」を盛り込んでいると思われますが、
友永大尉は、米艦隊までの距離は近いから帰れると計算していたようで、
決して最初から「帰らない覚悟」を決めていたわけではありません。

そして伊集院大尉のもう一人のモデルである村田重治大尉は、
ミッドウェーでは「赤城」から「辛くも」(wiki)生還しています。


映画では、伊集院大尉の艦攻は、米空母「ヨークタウン」に対し、



「テー!」

と魚雷を命中させた後、「ヨークタウン」の艦橋に激突自爆しました。

wikiによると、友永機と思われる隊長機を撃墜したのは、
「サッチ・ウィーブ」の発明者ジョン・サッチ少佐でした。

友永機は、機銃弾を浴びせられ、両翼が炎に包まれながらも、
「ヨークタウン」に魚雷を投下するまで飛び続け、
その最後の瞬間を目撃したサッチ少佐は、

「日本の指揮官機はリブをむき出しにしながらも何とか飛行をつづけ、
海中に墜落する寸前に魚雷を投下し、
ほとんど絶望的な状況でも最後まで任務を果たそうとした。」


と感嘆称賛の言葉を送っています。

「ヨークタウン」はこの攻撃により自力による航行が不能になり、
ハワイまで曳航されることになりましたが、
結局その途中で伊号第百六十八潜水艦に撃沈されることになりました。

聯合艦隊機動部隊の中で唯一最後まで残った「飛龍」も損傷を受け、
指揮官山口多聞少将、加来止男艦長を乗せたまま、
他の3隻の空母と運命を共に自沈することになります。



大敗北が決定し、夜戦を断念した聯合艦隊は、
これ以上の攻撃の必要なしとの判断に伴い、
ミッドウェー作戦の中止を決定しました。



「陛下にはわたしがお詫び申し上げる」

鎮痛な面持ちで反転する「大和」の司令官室に一人向かう山本。


「そして三日間が経過した」

この三日の間に、山本長官は夏服に衣替えなさったようです。



渡辺戦務参謀も衣替え。
一般的には6月1日が第二種軍服着用の区切りでした。



「長良」に乗っていた機動部隊の将官が報告のため「大和」に集まりました。
ところが、この南雲と草鹿だけは第一種軍服のままです。

現実的に考えれば、着替えを乗せたまま「赤城」が沈んだからですが、
それにしても、この二人以外全員真っ白なのは何故でしょうか。



それはおそらく制作側がこの構図にこだわったからだと思います。

情報収集と作戦の不手際で大失敗し、打ちひしがれている二人。
この「戦犯」の二人をあえて「黒いまま」残すことで、
その心情と立場を視覚化したかったのではないでしょうか。

このとき山本は、ミッドウェー作戦失敗の全ての責任は自分にあるとして、
彼らに批判的だった黒島亀人に対しても、

「南雲・草鹿を責めるな」(wiki)

と釘を刺しています。

おそらく自分に全責任があるということを痛感していた山本は、
部下だけに今回の敗戦の責任を取らせることができなかったのでしょう。

そして、汚名返上の機会を与えてほしいという二人の願いを聞き入れ、
再編された空母機動部隊の指揮を引き続き執らせました。

このような明らかな責任者への処分に見られる「身内に対する温情主義」、
さらには、ミッドウェーの敗戦を世間に対し隠蔽したこと、
作戦失敗の原因追及等、反省と今後への対策が全く行われなかったこと。

これらもまた、日本をその後の運命に導く一因になったと言われています。

続く。



映画「連合艦隊司令長官 山本五十六」真珠湾

2024-06-01 | 映画
 
昔、東宝映画は毎年8月15日の終戦記念日に合わせて
戦争大作を公開(8.15シリーズ)していた時期がありました。

本作「連合艦隊司令長官 山本五十六」は「日本の一番長い日」の翌年、
昭和42年最大のシリーズ超大作として制作され、大ヒットをおさめました。

本日のタイトル画は、俳優と演じた人物の写真を並べてみました。

草鹿龍之介=安部徹、宇垣纏=稲葉義男、米内光政=松本幸四郎、
南雲忠一=藤田進となります。

全体的に、最近の戦争ものより実物と似ている俳優が多い印象なのは、
当時を知る人々がまだ世間の大半を占める時代に制作されたせいでしょうか。

わたしの感想としては一番違和感があったのは藤田進の南雲忠一です。

もっとも、誰が一番本人と容姿の点で乖離していたかというと、
それは間違いなく山本五十六を演じた三船敏郎といえますが、これは
映画という表現の中では全く違和感なく受け入れられるから不思議です。

歴代の山本五十六を演じてきた俳優は、大河内傳次郎に始まって、
佐分利信、山村聡、小林桂樹、マコ岩松、役所広司、豊川悦司、舘ひろし、
加藤剛、古谷一行、香取慎吾、ともうほとんど誰一人全く似ていませんが、
おそらく役者が山本五十六を演じるとき、そこに求められるのは
容姿の問題ではなく、「存在する意義」そのものの表現力なのです。

その意味で、当時、山本五十六を直接知っていた人々から、
まるで本人が乗り移ったかのように似ている、とまで言われた三船は、
この歴史的人物を演じるに真に相応しい役者だったのだろうと思います。

■日独伊三国同盟締結



戦前のある年、新潟県加治川。



一人で観光の川下りをしている男性客がいました。



ご存知我らが山本五十六(当時海軍次官)。


船頭との会話の流れでなぜか船端で逆立ちをおっ始める山本。

加治川急流下りの船の舳先で逆立ちは実話であり、
そのほかアメリカ行きの船の中でのパーティで階段の手すりの上とか、
妙義山頂の岩の上とか、とにかく危ないところで逆立ちして
皆がハラハラするのを楽しんでいたようです。
身内からの証言もあります。

「逆立ちのおじさま」

舳先での逆立ちのエピソードは、2011年の同名映画で、
役所広司版山本五十六もやっていましたね。


そんな山本を護衛するとして現れた憲兵隊二人組。
この頃山本は三国同盟に米内、井上茂美とともに反対しており、
賛成派からプロパガンダされ、暗殺の噂さえありました。

山本は海軍芸者の巣であるレス(料亭)の宴席に彼らを呼び、

「陸軍さんは威張ってばかりで野暮だ」

などと陸軍の悪口を言うエス(芸者)に彼らを揶揄わせてご満悦です。


昭和14年8月、海軍省。


この暑苦しい顔の海軍少尉、木村(黒沢年男)は、飛行学生として
霞ヶ浦航空隊に赴任途中、山本海軍次官に挨拶に来ました。
貧しい家出身の彼が兵学校の試験の際、山本が推薦したという縁です。


次に待っていたのは、陸軍の辻政信参謀長たちとの面会です。
彼らは、三国同盟に反対する山本を説得に来たのですが、

「では、我々陸軍だけで(反対のための行動を)やります!」

と息巻く辻に、山本は口元を歪めて笑い、

「太平洋を歩いて渡るとでもいうのかね」



その日、独ソ不可侵条約が締結され、それを受けて首相平沼騏一郎は

「欧州情勢は複雑怪奇」

という名言?を残し、総辞職しています。

従来日本政府が準備していた政策をこれで全て打ち切らざるを得なくなり、
「別の政策が必要になってしまったから」
というのが複雑怪奇声明の内容で、要するに、

「国際情勢を判断できず、外交政策を立てられなくなってもうお手上げです」

という意味の総辞職であったと言われています。


当時の海軍大臣米内光政(松本幸四郎)と語り合う山本。
山本が敬語を使っているのは、米内が海兵の3期上だったからで、
法術学校教官時代で同室になって以来、二人は親友という間柄でした。

映画では山本の海軍次官の職を労うような発言がされていますが、
これは逆で、米内を海軍大臣に推したのが当時次官だった山本です。

三国同盟には山本と共に反対の立場でしたが、その理由は

「海軍力で及ばない英米をはっきり敵に回すことになるから」

という「海軍の論理」によるものであり、
決して大局的な観点からのものではなかった、とする意見もあります。



模型特撮はお馴染み円谷英二の手によるものですが、
CGのクォリティの爆上がりした昨今、この当時の特撮を見ると、
なんだか物悲しい気持ちになるくらい、作り物感が拭えません。

ちなみにこちら戦艦「長門」でございます。



旗艦「長門」の聯合艦隊司令官室で書をしたためていた山本の元に、
山本のお気に入り参謀、渡辺安次少佐がやってきました。



演じているのは平田昭彦。



この有名な写真で一番右に写っているのが渡辺参謀です。

本作撮影現場で、平田昭彦、三船敏郎に挟まれて座る渡辺氏

一般人と並ぶと三船も平田もレベル違いの超イケメンであると実感する写真。

平田は、じゃなくて渡辺参謀は、陸軍が三国同盟締結のため、
反対している米内に海軍大臣を辞させるという情報を持ってきました。
そして、後任の海軍大臣は賛成派の及川古志郎に代わります。



海軍首脳会議で、山本は最後まで三国同盟の危険性を訴えます。

及川新海軍大臣(中央)に、もし同盟を結んだら、
英米の勢力圏から輸入している生産物資が途絶える危険があるが、
どうするつもりなんですか、と詰め寄りますが、
もう締結は決まったことだから・・・・と及川むにゃむにゃ。

ちなみに及川の左の白髪は永野修身軍令部総長。(似てない)


昭和15年9月27日、締結は正式に決定されてしまいました。

■真珠湾攻撃


真珠湾攻撃の艦載部隊がそのための訓練を行ったのは、
オアフ島と地形の似ていた鹿児島湾でした。


訓練に参加している艦爆の指揮官席には、木村中尉がいました。
操縦員の野上一飛曹を演じるのは往時のアイドルスター、太田博之です。



後席から思いっきりやれ!と野上をけしかけたら、よりによって
「雷撃の神様」伊集院大尉の飛行機とニアミスしてしまいました。


木村中尉は真っ青になって伊集院大尉に謝りに行ったところ、
さすが神様、大尉(加山雄三)は鷹揚に部下のミスを許します。

伊集院大尉のモデルは、おそらく真珠湾攻撃の際
「赤城」飛行隊長だった、村田重治大佐(最終)と思われます。

ちなみに、支那事変の際、アメリカ海軍の砲艦「パナイ」を誤って撃沈し、
国際問題になりかねない「パナイ号事件」を起こした本人でもあります。

劇中、伊集院はこの訓練の意図がさっぱりわからないとして、

「市街上空は高度40m、海に出るなり高度5mの『雑巾掛け』、
しかも標的は動かない停泊中の船・・・はて?」

と呟いていますが、軍機となっていた真珠湾攻撃の内容を、
村田だけは上から聞かされていたと言われており、おそらくそれは本当です。



「(アメリカとまともに戦っても勝てないから)
先制で打撃を与えて早期講和に持ち込む」


という山本の真珠湾攻撃の企画意図並びに開戦に関する考えは、
本人ではなく、黒島亀人先任参謀の口から永野修身軍令部総長(白髪)、
伊東整一軍令部次長(その右)に説明されています。

「開戦劈頭、一挙にアメリカ太平洋艦隊を撃滅して
早期講和の機会を掴む以外に道はないのです!」




いよいよ開戦は避けられないとなったある日、
戦艦「長門」における作戦会議では、新型魚雷の採用、
真珠湾に至るコース(北回り)などが確認されていました。


これが最終的に決定されたコース。(棒で押さえているところが単冠湾)


草鹿龍之介参謀長南雲忠一機動部隊司令長官は、
大艦隊が秘密裏に真珠湾にたどり着くことの困難さを挙げ、
副案の検討を提案しますが、山本はそれを切り捨てました。

「国力の違うアメリカと四つに組んで戦うことができないからには、
先制攻撃で敵の奥深くに切り込むしかない」


それに対し、今後反対論は述べず、作戦実行に全力を尽くす、という草鹿。


その後、近衛文麿首相(森雅之)に海軍としての勝算を問われ、山本は

「それは是非やれと言われれば初め半年や1年の間は随分暴れてご覧に入れる。
然しながら、2年3年となれば全く確信は持てぬ。
三国条約が出来たのは致方ないが、かくなりし上は
日米戦争を回避する様極極力御努力願ひたい」

というあの有名な発言で返します。
井上茂美海軍大将はこの発言は失敗だったという考えで、

「優柔不断な近衛さんに、海軍は取りあえず1年だけでも戦える、
間違った判断をさせてしまった。
はっきりと『海軍は(戦争を)やれません。戦えば必ず負けます』
と言った方が、戦争を回避出来たかも知れない」


と戦後語っています。
そして山本本人はというと、この時の近衛に対して、

「随分と人を馬鹿にした口調で、現海軍大臣と次官への不平を言ってたが
あの人はいつもそんな感じだから別に驚かない。
要するに近衛公や松岡外相等を迂闊に信頼して海軍が浮き足立つのは危険」


嶋田繁太郎に当てた手紙に書いています。
その後首相は近衛から東條英機に代わりました。


そしていよいよ作戦発動に向け・・

「攻撃命令は『ニイタカヤマノボレ』!」


機動部隊は単冠湾を抜錨し・・・。

・・・って、このシーンの特撮は残念すぎ。
予算のなかった「ハワイ・マレー沖海戦」の方がよくできていたような・・。
白黒の方がアラが目立たなくて良かったのかも。



模型のスケールも「ハワイ・マレー沖」より小さそうですよね。
キャスティングにお金を使いすぎて特撮にあまり回せなかったのか?



そしてここ「赤城」艦橋では・・・・

「ニイタカヤマノボレ、イチニイゼロハチ」

頂きました。


開戦の命令を受け、山本は藤井茂戦務参謀に、
開戦の通告が攻撃以前に手交されることを念押ししています。



これに対し、藤井参謀(藤木悠)は心配はいらないと返事しますが、
実際はいろいろアクシデントがあって攻撃後になり、
日本が騙し討ちをしたというイメージになってしまったのはご存知の通り。



ちなみにこの写真で山本の右側にいるのが藤井参謀です。


マストにZ旗が掲揚されます。

「皇国の荒廃この一戦にあり。
各員一層奮励努力せよ」



「かかれ!」


時々実写の映像が混じっています。



「オアフ島だ・・・攻撃態勢作れ」



「全軍突撃せよ!」
「テー!」
「命中!」

オアフ島の山間を縫うように進んだ機動部隊攻撃隊、
真珠湾攻撃の幕が切って落とされました。



結果を待つ司令部の元に届いた電報を通信参謀(佐原健二)が読み上げます。

「我奇襲に成功せり!」



喜びに沸く司令部の中で、一人重い表情の山本五十六。
戦果報告の中に空母が一隻もなかったことを憂えているのでした。



世間は初戦の勝利に対するお祝いムードに沸き立ちました。

軍内ですら、あらゆる機関で戦勝祝賀会が行われる有様でしたが、
山本はそれらの招待を厳しい表情で全て断りました。

アメリカがこのままで済ませるとは思っていなかったからです。



しかし、機動部隊の面々には全員に休暇が与えられました。
早速故郷に帰った木村中尉は・・



幼な馴染み矢吹友子(酒井和歌子)と姉澄江(司葉子)に再会しました。
この二人は単なる華添えキャストで、物語の筋にはなんの意味も持ちません。

姉澄江は両親のいない木村をお針子をして働いて育て、
最終的には兵学校にまで入れた苦労の人です。



日本軍はその後しばらくは破竹の進撃を続け、
太平洋地域においてアメリカ、イギリス、オランダを駆逐し、
南方支援地帯を確保するに至った・・・と思われました。


山本はここですかさず講和の道を探るべきだと考えました。



が、なまじ初戦で連戦連勝してしまったため、国中のムードが
停戦を良しとしないというところまで暴走しつつありました。

「平和など言い出そうものなら国賊扱いだよ」

と米内。
それではもう一度講和の機会を作るにはどうしたらいいか。

相手がそれに応じずにはいられない状態とは、更なる打撃を与えること。
山本に言わせれば、それは空母部隊を撃滅することに他なりませんでした。

そして、このとき講和の機会を求めて深追いした結果、
日本はミッドウェーで敗戦への道に足を踏み入れてしまうことになります。


続く。


映画「Uボート基地爆破作戦」The Day Will Dawn 後半

2024-05-05 | 映画

映画「Uボート基地爆破作戦」、原題「The Day Will Dawn」後半です。


例によって派手なアメリカ公開時の同作、
アメリカタイトル「アヴェンジャーズ」ポスターがこれ。

「前線の新しい秘密を描いたスリリングなドラマ!」

という煽り文句。
「新しい秘密」って何だろう。




ノルウェーからイギリスに戻ったメトカーフは、本社での仕事を再開しますが、
日に日に飛び込む戦争による損失のニュースに触れるたび、
自分自身が戦線に身を投じて祖国を救いたい思いに駆られていきます。


そんな彼に、先輩記者は、武器を取ることだけが戦いではないといい、
報道記者にしかできない戦い方をするべきだと説きます。

例えばホームフロントで国民一人が心構えを持ち、
勝利のために「経済活動」を行うよう家庭に呼びかけるなど。

ごもっともでありメトカーフもそれに納得するのですが、
ところがどっこい、運命は彼にそれを許してはくれなかったのです。


その頃、イギリス海軍情報局では、ノルウェーのどこかにあるとされる
Uボート基地を探し出すために動き出していました。

「誰かこの辺に詳しい人物はいないか」

「ピットウォーターズ中佐を呼べ」

ピットウォーターズ中佐とは?



メトカーフが空襲下のバーで飲んでいると、彼をドイツ船から助けた
駆逐艦の艦長だったピットウォーターズ中佐が「偶然」現れました。

もちろんこれを偶然と思っているのはメトカーフだけです。

ピットウォーターズ中佐、にこやかに挨拶を済ませると、
いきなり何のスポーツをやっていたか聞いてきました。
メトカーフが学生時代にかじったスポーツを適当に答えると、

「それならもちろん泳げますよね?」

「?」

「あなたモールス信号は打てます?」

「・・・いえ・・何なんです?」

「なに、すぐ覚えますよ」



「グッドラック!」

「・・・あなたも」(?)

この人、目が全然笑ってなくてこわ〜い。

「ああそうそう、乗っていた船が銃撃を受けたっていう件、
あのことで私の友人があなたと話したいと言ってましてね」

「今からですか・・いいですよ。行きましょう」

「あ、ところで結婚してます?」

「いいえ」

「近親者とかは?」

「いませんが」

「それはよかった。家族なんてつまらないですからな」


イギリス海軍、メトカーフに何をさせようとしているのでしょうか。
ドイツ船が彼を攫った理由も謎のままですが。



ピットウォーターズ中佐に海軍司令部に連れて行かれ、
そこでメトカーフは情報部のウェイバリー大佐に紹介されました。

「君はいい記事を書きますね」

「ありがとうございます」

「愚者の後知恵って感じだけどね(Wise after the event)

イギリス人らしい上から目線の嫌味にムッとするメトカーフを尻目に、
なるほど健康そうだね、はい近親者もいないそうですなどと、
何やら勝手に話を進めていく二人。

そしていつのまにか彼は、
「ノルウェーのUボート基地を探し出し、攻撃する」
という海軍の作戦に参加することになっていました。

なるほど、で、日本語タイトルがこうなったわけね。

なぜ彼に白羽の矢が立ったかは、彼がUボートの攻撃を受けたからですが、
だからって、ただ船に乗って攻撃を受けただけの人を、
ろくにその時の状況も聞かずに現場に放り込むかな。



次の瞬間、軍用機に乗せられた彼は、あれよあれよという間に
パラシュートを装着され、目的地上空で降下させられていました。

「三つ数えたらパラシュートの紐を引っ張ってください。
ハッピーランディング!」

ハッピーランディングじゃねえよ。素人になにさせるだ。

案の定、降下するところをドイツ兵に目撃され森の中を逃げ回ることに。
メトカーフ、自分を守る武器すら持たせてもらってません。
必死で身を隠しますが、そのうち一人に見つかってしまい、万事休す。


と思ったら彼はオーストリア人で、メトカーフを見逃すどころか、
イギリス海軍の作戦に通じているらしい?人物で、
しかも、彼の受け入れ先であるパン屋も教えてくれます。

どんな偶然だよと言う気もしますが、映画なのでもうどうでもいいや。


受け入れ先のパン屋の親父から、メトカーフは衝撃的なニュースを聞きます。

一つは、皆の意見を代表したアルスタッド船長が収容所に入れられたこと。
そして、もう一つは、カーリがグンター署長の権力と金になびき、
婚約したため、村人の非難の的になっているという状況でした。


パン屋はメトカーフを、村の学校で校長をしているオラフに紹介しました。
前半の結婚式シーンでカーリの友ゲルダと挙式した新郎で、
彼を目的地のラングダールに連れて行く役目を引き受けたのでした。

オラフを演じるのは、このブログでご紹介するのもなんと三度目、
すっかりお馴染みになったニアール・マクギニス(Niall MacGinnis)

「潜水艦撃沈す」49th Parallel (1941)で、
逃走中仲間に射殺されるドイツ軍水兵の役、
「潜水艦シータイガー」We dive at dawn(1943)で、
結婚したくない男CPOマイク・コリガンを演じていた人です。



オラフと歩いていてドイツ兵に誰何され、隙を見て逃げたメトカーフは、
ドイツ-ノルウェー親睦パーティに紛れ込みますが、
そこでグンターと一緒にいるカーリを見てショックを受けます。



そこに、体重0.1トンデブのドイツ軍司令官がやってきて、
この場にいる全員の身分証を点検すると言い出しました。

メトカーフが逃げたことが報告されたようです。


その時、カーリは会場の一席で目を伏せているメトカーフに気づきました。
彼が身分証を持たずここに忍び込んでいることも察したようです。



事態を混乱させるために彼女が咄嗟に取った行動、
それはコップでテーブルを連打することでした。


それは、内心ドイツ軍のやり方に鬱屈としたものを抱いている
周りのノルウェー人たちに、抵抗の形として伝播していき、
連打の速度はだんだん速くなっていきます。

ドイツ人たちはそれに苦い顔を・・。



司令官に命ぜられたグンターが連打をやめさせ、皆を取りなし、
楽隊に演奏を命じて何とか雰囲気が元に・・、と思ったら、



ノルウェー人の楽隊員がコップ連打のリズムを使ったアドリブを始めました。
残りのメンバーも調子を合わせてアグレッシブに盛り上げます。


騒乱状態の中、律儀に身分証確認の任務を遂行するさすがのドイツ兵士。

ドイツ兵がメトカーフに近づき、あわや、というとき会場は真っ暗に。
カーリが部屋の隅にあるブレーカーを切ったのでした。

暗闇の中カーリは素早くメトカーフに近づき、逃げ込む場所を指示しました。


その後落ち合った二人。

カーリは、グンターと婚約したのは父親の釈放が条件だったから、
と釈明し、メトカーフはこれまでの彼女への想いを打ち明けました。

父親のアルスタッドが逮捕された理由は、
イギリスのラジオが流していたノルウェー国王の言葉、

「私は国民を見捨てない」

という言葉を紙に印刷して人々に配ったからでした。

そして父親を逮捕したのは他ならぬグンターで、彼は
父親の釈放と引き換えにカーリに婚約を強いたのです。


程なくして、イギリス海軍にノルウェーからの暗号が入りました。

「Uボート基地確認 重厚な偽装あり ラングダルより22キロ南方
水曜22時半以降に大西洋攻撃の計画あり」


カーリの父アルスタッドが釈放されて帰宅しました。
「現場監督」(foreman) は船上での娘のあだ名です。

アルスタッドは、潜水艦基地を爆撃する連合軍機に
位置情報を伝えるメトカーフに付いていくことになりました。


ドイツ海軍が艦隊出撃の準備を始めました。
このとき、ドイツ軍人の間でこんな会話があります。

「どうして海軍は総統に敬礼(ナチス式敬礼)しないんだ」

「英国海軍を手本にしたため、伝統を受け継いでいる部分がありましてね。
我々も修正を試みているんですが」


映画はここで悪質な印象操作をぶち込んできます。

「生存者を救出するなどという”騎士道精神”まで受け継いではいませんが、
とにかくドイツ海軍は総統にナチス式敬礼はしないのです」

アメリカとイギリスは、戦後もこの

「ドイツ海軍は生存者を救出しない」

という文言を好み、ドイツの「残虐ぶり」を強調しようとしてきましたが、
実際にはそうではなかったことは、「ラコニア号事件」が証明しています。
ラコニア号の乗員を救出するU-156とU-506

この後、メトカーフが地上から発光信号で航空機を誘導し(!)
偽装が施されたドイツ潜水艦基地は見事爆撃されます。

この一連の爆撃シーンは、実際のストック映像からの流用多数。



役目を終えて帰ってきたメトカーフにカーリは父の安否を訊ねます。

「お父さんはもう帰ってこない」



作戦成功の知らせは海軍情報部にも入りました。

「マーシュのおかげだな!」

「メトカーフです」

「そう言っただろ」

「・・失礼しました」

Mしか一致してねーし。


しかしそれで済むほどドイツ軍は甘くありません。

首謀者がメトカーフであることも当局はすでに掴んでおり、
彼と協力者8名を逮捕し、処刑すると通告してきました。


次々と引き立てられていく人々。
その中には、ゲルダの夫、オラフもいました。

グンターは、メトカーフが見つからなければ、8人を処刑すると脅しています。
ゲルダはカーリに、人質になった人たちの命を救うために
メトカーフの居場所を教えるように懇願しにきたのでした。

その話を陰で聞いていたメトカーフは、警察に自首しました。


カーリの元にグンターが来て、メトカーフの自首を告げました。

彼は、それでもカーリがまだ処罰対象になっているため、
自分と結婚すれば命を助けることができると持ちかけます。

きっぱりとそれを拒否するカーリ。
父の釈放のために婚約はしていましたが、その父も亡くなった今、
こいつと結婚するくらいなら死んだほうがマシということですか。

それを聞くとグンターはいきなり外にいたドイツ兵に彼女を逮捕させました。


警察署で、捕えられた人々と一緒になったメトカーフは、
こんな演説をします。

「あなたはここに製油所と称して潜水艦基地をつくった。
部下はノルウェー語を話す。なぜか。
彼らは子供の頃、戦争でここに逃れてきた人々だからだ。
ノルウェーの人々が空腹だった彼らを助けた。

その彼らが今では侵攻する大隊を構成していて、
『親切な人々』を殺すことができる。

しかしここで我々を殺したとしても、ほんの少しに過ぎない。
他には何百万人だっているんですよ。
漁師、パン屋、商人、教師・・普通の人々がね。

あなた方はその全てを殺すことなんてできない。

『その日』は来ます。あなたが思うよりもはやく。
皆が立ち上がり、自由になる日が。

そのとき、あなたに神のご加護がありますように」




ヴェッタウ司令は鼻白んだ様子になりましたが、
それでも彼の意見には何も言わず、全員を逮捕させました。


同じ房に閉じ込められ、処刑を待つだけの8人。

夜明けと同時にドイツ語の掛け声が房の前で響き、
兵士たちが8人のうち「最初の4人」を処刑のために連れ出します。

そしてすぐそばの処刑場から聞こえる命令と銃声。
こういうとき最後に牧師を立ち合わせたりしないか?



ゲルダの夫、オラフと彼らを含む4人が息を飲んでその時を待っていると、
にわかに外が騒々しくなりました。


このとき、英海軍部隊が潜水艦基地に到達していたのです。



そしてコマンド部隊が基地を強襲。
基地からは彼らの強襲ボートが船着場に乗りこむまで、
ドイツ側から何の反応もなく、全く反撃もなかったようで何よりです。



さっさと基地を後に自分だけ逃げようとする基地司令(私服になってる)。
協力させるだけさせといて逃げる気か!とすがるグンター。

司令は面倒になって、利用価値のない彼をさっさと射殺してしまいました。


このとき、木造の家が爆破されるシーンがありますが、これは
実際にノルウェー海岸をイギリス軍特殊部隊が襲撃した際の映像です。

このときコマンド部隊が攻撃したのはノルウェーの魚油加工工場などで、
この映像は当時のニュースリールに残されたものでした。

この映画に挿入されている実写シーンは、
ニュース映画やその他の現実の映像から抜粋されています。


「・・・イギリス海軍が来たわ」

このデボラ・カーの凄まじい演技を見よ。


捕虜になったドイツ兵たちが船に乗せられるシーンですが、
これ、もしかしたら第一次世界大戦のこの写真を参考にしてる?

WW1 blinds soldiers
WW1 - Weapons and Technology 


写真の人たちが目隠しして前の肩を掴んでいるのは、
彼らが戦闘で視力を失ったからなんですが・・・。

このシーンの人たちは、捕虜として目隠しされているようです。



ゲルダとオラフはイギリスに行って住むことになりました。
この短期間(数時間くらい?)になぜそこまで決まったのかは謎です。
イギリス軍が難民を受け付けてくれたのかな。

「子供はイギリスで生まれることになるが、血はノルウェー人だ」

ところで、いかにこの時代のノルウェーの状況について知らない我々も、
映画はイギリス制作であり、演じているのは全員がイギリス人、
全てがイギリスに都合よく描かれていることも知っておく必要があります。


ノルウェーはイギリス寄りであったとはいえ、中立国で、チャーチルは
ドイツより先にノルウェーを「占領」しようとしていましたよね。

ノルウェーはイギリスに占領された方がラッキーだったはず、というのは
あくまでイギリス人の考えにすぎず、ノルウェー人にすれば、
どちらかに占領されるならドイツよりはまし、程度だったと思うんだけどな。

放っておいたら中国かロシアに取られてしまうという理由で、
国内の偉い人に頼まれるようにして朝鮮を併合した日本が、
そのことをいまだに恨まれ続けているという例もあることですし。
(まあかの国の民族的気質がかなりの粘着質ってのもありますが)

占領される側から見たとき「良い占領」などは存在しない。
防衛上のいかなる正当かつ合理的な理由があったとしても、占領は占領、
国民主権が他国に奪われるという現実には違いないのですから。


そして、ノルウェーを離れる人々は、
村に残る人々に別れを告げ、船は岸を離れて行きました。



メトカーフはもちろんイギリスにカーリを連れて帰ります。
これからノルウェーはドイツに占領されることになるからですね。



最後に流れる字幕には、このようにあります。

「今、ナチスのくびきの下にひれ伏している12の有名な古代国家では、
あらゆる階級と信条の人民大衆が解放の時を待っている。
その時は必ず訪れ、その荘厳な鐘の音は、夜が過ぎ、
夜明けが来たことを告げるだろう。

1941年12月26日、アメリカ合衆国上院で首相チャーチルが行った演説です。

The night is past and that the dawn has come.

映画のタイトルはこの一節から取られました。
実際のノルウェーの「夜明け」は、この時点から4年後のことになります。


終わり。




映画「Uボート基地爆破作戦」The Day Will Dawn 前半

2024-05-02 | 映画

今日は1942年イギリスで製作され、わずか五ヶ月後には
アメリカでも公開された、戦争「系」映画をご紹介します。

まず、この「Uボート基地爆撃作戦」という邦題ですが、
例によって、あまり映画の本質を突いていません。

主人公はイギリス人のジャーナリスト(と言っても競馬記者)。
彼がポーランド侵攻を境に会社からノルウェー特派員を命じられ、
偶然の重なりにより歴史の瞬間を目撃し、自らも命の危険に曝されていく、
という内容なので、まるで戦争もののようなこのタイトルは変ですね。

原題は「その日は夜明けになる」(直訳)。

映画の制作された1942年は、ポーランド侵攻後のヨーロッパ、
並びに世界がどうなっていくか、まだ誰にも何もわかっていません。

The Day Will dawn というタイトルからは、
その頃ヨーロッパに住むすべての人々が陥っていた混沌とした暗闇から、
いつ夜明けになるのかという、そこはかとない願望が読み取れます。

それに比べてよく分からんのが、アメリカで公開された時のタイトル、

「The Avengers」(アベンジャーズ)

アベンジャーズというと現代の我々にはマーベルしかないわけですが、
映画を観た今となっては、こちらの「復讐者」というタイトルも、
なんだかほんのりピントがはずれているような気がしないでもありません。

ただはっきりしたのは、アメリカ人ってこの言葉が相当好きってことかな。

ところで、ここで本題、なぜ映画の舞台がノルウェーだったかですが、
それは当時ノルウェーが中立国だったことが理由でしょう。

ただ、第一次世界大戦時から国際紛争では中立を維持していたノルウェーが、
歴史的にイギリスとは経済的・文化的にも協力関係だったことから、
中立といっても、限りなく連合国寄りだったことを踏まえる必要があります。

第二次世界大戦が開戦するとノルウェーは公的に中立を宣言しますが、
ドイツは、連合国が共闘に引き込む可能性を憂慮し、
盗られる前に盗れ!!とばかりにノルウェーを占領にかかりました。

【ゆっくり歴史解説】ノルウェーの戦い【知られざる激戦10】
海戦の解説が多めなのでぜひ。

連合軍がフランス侵攻後、そちらにかかりきりになったので、
ノルウェー政府と国王ホーコン7世はオスロを放棄して亡命、
海外からレジスタンスを指導しましたが、結局ノルウェーは
ドイツに占領されることになり、終戦まで統治下に置かれることになります。

本作は、ノルウェーの戦い前夜からが舞台として描かれます。


ノルウェー空軍省、戦争省、そして
ノルウェー王国政府に感謝する、とあるのですが、
ここでとんでもない間違い発見!

NORWEIGAN(×
NORWEGIAN(


字幕を書く職人がGとIの前後を間違えただけだけだろうとは思いますが、
よりによって謝意を示すための字幕でスペルミス、これはアウト。


気を取り直して。
1939年9月のことです。



ドイツはポーランドに侵攻しました。


開戦にここぞと浮かれ、いや活気づくイギリス某新聞社のお偉いさんたち。

しかし、新聞各社が腕利きの記者を特派員として各地に送っている中、
この新聞社では、派遣する記者の人数不足に困っていました。

この際、若くて元気で記事が書ければ何が専門でもいい、
と一人が言い出し、政治部の花形記者フランクは、

「心当たりがある」



フランクは、友人の競馬担当記者コリン・メトカーフが、
戦争で競馬が中止となったため、クビになったばかりなのを思い出しました。

「あんなやつ、馬の知識しかないし、そもそも下流(でた階級差別)出身だ」

と社の幹部たちは渋りますが、彼のコミュ力を買っていたフランクは、
反対を押し切り、ノルウェー特派員として彼を推薦したのです。


8ヶ月後、メトカーフはノルウェーにいました。

何やら綺麗なお姉さんとデートなどしています。
ちゃんと特派員の仕事はしているのか。



オスロの街を歩きながら、

「夜のろうそくは燃え尽き、
霧深い山の頂に陽気な日がつま先立ちしている」


などと、シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」の一説を口ずさみ、
ついつい溢れ出る教養をダダ漏れさせてしまうメトカーフ。


二次会?で入ったバーで、メトカーフはノルウェー海軍の水兵たちと
ノリで「ルール・ブリタニア」を合唱してすっかり大盛り上がり。


このシーンのセーラー服、フランス軍と間違えてない?と思いましたが、
ノルウェー海軍の制服って、フランスと似ていたんですね。
白黒なのでわかりにくいですが、セーラーの襟の色が間違っています。

当時は白黒写真しか資料がなかったせいかな?



その時、同じバーの一角に、ドイツ海軍御一行様がいて、
「英国は決して奴隷にはならず」という「ルール・ブリタニア」に対抗して、
ナチスの党歌「ホルスト・ヴェッセルの歌」をがなり始めました。

しかしながら、わたしに言わせれば、この選曲が良くない。
僭越ながら海軍軍人というものを微塵もわかっておらん。

仮にも海軍たるもの、ここでナチスの歌なんか歌いますかね。
同じ映画の中で、「海軍軍人はヒトラー式敬礼はしない」と言って
微妙な海軍とナチスとの乖離を語っているのに、詰めが甘いというか。

こんな時には、やっぱりこれでしょう。

「我らは今日乗船する」 日本語歌詞付き [ドイツ海軍歌]
Heut geht es an Bord
必見:Uボートの実戦映像集 後半にはデーニッツ閣下も登場

ちなみに「眼下の敵」でUボートのクルト・ユルゲンス艦長のもと、
総員で歌っていた「デッサウアー」も、実は歩兵の歌ですので念のため。

(ところで今、ふと某国の公共放送局制作スタッフの無知のせいで、
陸海軍ごちゃ混ぜにハワイに収監されていた日本軍捕虜が、
全員で仲良く『艦隊勤務』を歌っていた戦争ドラマを思い出してしまった)

今回この映画がこの時わざわざ「ホルスト・ヴェッセル」を歌わせたのは、
単に「ナチス」を強調するための意図からきているのかもしれませんが。


さて、そのうち一人のドイツ水兵が荒ぶってものを投げ、鏡が割れるのを見て
白髪の老いた船長が立ち上がり、いきなりドイツ水兵を殴りつけると、
それがきっかけで場内全員による大乱闘になってしまいます。

メトカーフは迷うことなく乱闘に加わり、件の船長アルスタッドと意気投合。
ドイツ水兵を店から追い出した後、船長は彼を自分の船に招待しました。



メトカーフは乗り込んだ船で船長の娘、カーリと衝撃の出会いをしました。

カーリ・アルスタッドを演じるのは、ご存知デボラ・カー(Kerr)
「王様と私」「地上より永遠に」「旅路」などに出演し、
「イギリスの薔薇」とも称えられた美人女優です。

船の上で無様に転んだコリンを大笑いする彼女。
しかし顔を煤で汚していてもその美貌は隠せず。

(但しその笑い声は妙に甲高くて耳障りで、個人的にはイメージ台無しです)



ところで、さっきまでメトカーフとデートしていた女性は、喧嘩の際、
彼によって店から避難させられた後、最初の店に戻って、
やはり最初からそこにいた二人の男性と何やら密談をしていました。

彼女、どうやらドイツ側のスパイだったようです。
特派員である彼に近づいたのは、情報を得るためだったんですね。

ここで老婆心ながら一言。

政府要員、軍人、報道公務員その他国家機密に関わる、特に男性諸氏は、
(もちろん自衛官を含みます)やたら高めの女(又は男)が近づいてきた時、
冷静に自分について客観的に見直してみることも大事かもしれません。

こんな相手にグイグイ来られるほど、俺って今までモテてたっけ?と。
自分が案外モテると思いたい、その気持ちはわからなくもないですが。

個人的見解ですが、自他ともにモテを認める、実質MMな人材には、
そういう輩は決して近寄ってこないような気がします。


さて、航海二日目、アルステッドの船は、ドイツ海軍のタンカー、
「アルトマルク」Altmarkとすれ違いました。

アルトマルク号事件

「アルトマルク」は、ドイッチュラント級装甲艦
「アドミラル・グラーフ・シュペー」
(DKM Admiral Graf Spee)

の通商破壊活動によって沈められた商船から収容された
イギリスの船員を捕虜として載せていました。

「シュペー」がラプラタ沖海戦で自沈したため、
補給すべき相手を失ってノルウェー領海にいた「アルトマルク」は
ノルウェー官憲による立ち入り調査を受けることになります。

しかし「アルトマルク」は、その際捕虜の存在を隠してやり過ごし、
何も問題とならずに、そのまま通航を許されました。

同じ日、イギリス空軍機が「アルトマルク」を発見し、
イギリス海軍は、駆逐艦「イントレピッド」 (HMS Intrepid, D10) と
「アイヴァンホー 」(HMS Ivanhoe, D16) を派遣して
「アルトマルク」をフィヨルドに追い込んでから、
 駆逐艦「コサック」による強制接舷のち「アルトマルク」に乗り込み、
乗組員7名を殺害の末、捕虜を解放しています。

これが「アルトマルク号事件」です。

このことは国際的にも大問題となりました。



その後、アルステッドの船はUボートに発見されました。
(映像は実写)


その時、カーリとメトカーフは、デッキでジャガイモの皮を剥きながら、

「ジョージ・ベネットって知ってる?」

「読んだことあるわ。ノルウェーのイプセンの作品は?」

「読むよ」

「シェイクスピアやディケンズも読むわ」

とマウントの取り合いをしていたのですが、


そこにUボートが浮上してきました。



一連の映像は本物のUボートの戦闘シーンから流用されています。



Uボートは船に艦砲を撃ち込み、船は全壊し沈没しました。
しかし制作予算の関係で肝心の沈没救出シーン等はいっさい無しです。


沈没から逃れた小舟がアルスタッドの村に帰着すると、ちょうど
カーリの女友達ゲルダの結婚式が行われていました。

船を沈没されたのに、ウキウキと結婚式に駆けつけるカーリ、
そんな彼女を「踊りが好きなんだ」と目を細めて見送る船長。

沈没の後誰一人傷一つ追わず、衣服も濡れずに帰還できたどころか
全員が事故について忘れてしまっているかのように陽気です。


しかし、アルステッド船長はちゃんとするべきことを知っていました。

彼はUボートに攻撃されたことを、パーティの席で
地元の警察署長、オットマン・グンターに報告しますが、この警察署長、
ドイツ寄りの立場であるせいか、船長の報告を軽く受け流します。

しかも貴社のメトカーフにに向かって、あくまでお客として滞在しろ、
ここで余計なことをするな!と釘まで刺してくるのでした。



おまけにこの男、カーリに結婚を申し込んでいることもわかりました。
彼女に好意を持っているメトカーフには何かと面白くない人間です。



さて、ここはドイツ軍が駐留している某所。

司令部にやってきたグンター警部は、この体重0.1トンの司令官、
ウルリッヒ・ヴェッタウにメトカーフとUボートの件を報告しました。

ちなみにこの人、全くと言っていいほどドイツ人に見えません。
演じているのはフランシス・L・サリバンというイギリス人俳優です。

ちなみにこの人の痩せてた頃



グンターはヴェッタウ司令からドイツ軍の侵攻が近いことを知らされると
自分の地位と人気を利用して村人を「説得する」と力一杯約束しました。


その頃メトカーフはUボートの件を報告するためにオスロに向かっていました。


オスロのホテルに到着したメトカーフはそこでフランクに会いますが、
なんと自分がいつのまにかクビになっていたことを知らされます。

理由は、世界が注目する「アルトマルク号事件」が起こっている間、
アルステッドの船に乗っていて連絡が取れなくなっていたからです。

せっかくノルウェーに派遣した記者が、仕事せず行方不明なのですから
上層部の怒りもクビも、ごもっともといったところです。


メトカーフは漁船沈没の件をオスロの英国大使館に報告に行きますが、
大使館の駐在武官も何やら半笑いで微妙に真剣味がありません。
それでも何とか海軍に連絡をとってくれました。

つまり、誰もがこのとき次のドイツの目標が、
中立を標榜するノルウェーだとは思っていなかったってことなんですね。


しかし、メトカーフが、昨夜、在ノルウェードイツ大使館で行われた
ノルウェー政府の関係者を招待したパーティで、「火の洗礼」
(バプティズム・オブ・ファイア)という映画が上映され、
その内容がポーランドでの軍事作戦の記録だった、と報告すると、
新聞社は即座に彼のクビを撤回し、大ニュースだと盛り上がりました。

なんでそうなる。
っていうか簡単にクビにしたり取り消したりするな。


そのときホテルのロビーでは、メトカーフを訪ねてきたカーリに、
よりによってメトカーフの同僚の記者がウザ絡みしていました。

気の強いカーリはセクハラ記者を勢いよく平手打ちします。



彼女はメトカーフに、昨日村の近くの港にドイツ商船が来たこと、
軍艦ではないが巨大な船が3隻であったことを伝えに来たのでした。

「喫水線が深いのに、全く荷卸しをしていないの。
その『貨物』とは人間、つまり兵隊ではないかしら」

さすがは船長の娘で自身も船乗りです。
そして彼のために編んだ変な帽子を渡し、頬にキスして去って行きました。


ところが。

彼女と別れて乗り込んだタクシーは、そのまま彼を拉致し、
意識が戻ったとき、彼は船室に寝かされていたのです。

何のために?誰が彼を?


そしてついにヒトラーは軍をノルウェーに侵攻させました。
デンマークを一日で陥落させ、易々と上陸してきたという形です。

チャーチルは元からノルウェーの占領を目論んでおり、
ドイツのに対抗して英仏軍を上陸させましたが、
ヒトラーに察知されて先を越されていたため、
精強なドイツ軍にフルボッコにされてしまいました。

この時のことを、チャーチルはのちに自伝で、

「我々の最も優れた部隊でさえ、活力と冒険心に溢れ、
優秀な訓練を受けたヒトラーの若い兵士たちにとっては物の数ではなかった」


と回顧しています。



メトカーフが連れ込まれたのは、ドイツの民間船でした。
映画ではいっさい説明されませんが、彼は
ブレーメン港に向かう船に載せられたようです。

別に縛られるわけでも虐待されるわけでもなく、本人も怖がる様子もなく、
ドイツ人船長とチクチク嫌味を言い合う様子は、色々と謎です。

大体、拉致までして一介のイギリス人記者を船に乗せる理由って?


そしていきなり場面は6週間後、どこかのイギリスの海峡に変わりました。
このとき、とんでもない部分がカットされていたことがわかりました。



6週間前、ドイツの船に乗っていたはずのメトカーフが、
このシーンではなんの説明もなくイギリス軍艦に乗っているのです。

そこで改めて映画のストーリーを検索したところ、実はこの6週間の間に、

「英国の軍艦がメトカーフを乗せた船を妨害し、彼を解放するが、
英国に連れ帰る前に、フランス北西部からの英国の撤退作戦、
エアリアル作戦を支援するため、彼を降さずにシェルブールに行く」

という出来事があった(けどカットされている)ことを知りました。
こんな大事な部分のフィルムをカットしてんじゃねー(怒)


まあそれはよろしい。よろしくないけど。
シェルブールではドイツ軍の総攻撃が始まっていました。


そこでメトカーフは、空襲で負傷し、瀕死で路上に寝かされている
新聞社の同僚、フランクを発見します。

「とくダネだ。フランス軍に奇妙な命令が出ていて、橋を爆破しなかった」

と妙なことを言って彼はそのまま息絶えました。
ちなみに、この「伏線」は映画の中では永遠に回収されません。

そこで一生懸命考えたところ、おそらくノルウェーの戦いで、
ドイツ軍がフランス侵攻した際、

「フランス軍に奇妙な命令が出ていて、
なぜか橋を二つも爆破せず残していた」


という意味かと思われます。

・・思われますが、それが本当だったのか、そんなことがあったのか、
そこから先は調査が追いつきませんでした。<(_ _)>


続く。


映画「嵐を突っ切るジェット機」後編

2024-04-05 | 映画

1961年度作品「嵐を突っ切るジェット機」後半です。

ところでこの映画の主人公を演じた小林旭について調べていたところ、
まだご健在だったばかりか、まさかのyoutubeチャンネルまでありました。

マイトガイチャンネルー小林旭YouTube

さて、劉の行方を追っているという刑事花山が去った後、
榊拓次は彼の名刺を破り捨てました。

兄を疑っているということが面白くなかったのでしょうか。


やばい商売で成り上がった麻薬商人、劉に脅かされ、
英雄はスタッフの一人、千石に操縦させて沖縄にブツを運ばせました。

何も知らない千石は、沖縄に着くと商店に立ち寄ります。
当時の沖縄はアメリカ領なので、お店では英語で接客してきます。

「May I help you?」

「ジャ、ジャパニーズマネー、OK?」

千石は子供のお土産を買いに来たのでした。
これは映画的には「フラグ」というやつです。

彼はこの後、劉一味のやばい話を聞いてしまい、コロコロされてしまいました。


こちら兄の英雄の場末のパイロット集団?溜まり場では、
自衛隊休暇中の榊がまたもや全員を相手に乱闘を始めました。

その理由ですが・・何度見てもわかりませんでした。
なんか怒ってるんですが、全員滑舌が悪すぎて何言いあってるかも不明なの。

おそらくきっかけは、チコが吹いていたトランペットを
拓次が取り上げて吹いたことじゃないかと思います。

なぜ拓次がそんなことをしたかは・・・わかりません。
まさか寂しかったからとか?



マキは榊の態度を諌めるついでにどうして自衛隊に入ったか聞くのですが、
その答えがこれ。

「飛びてえからだよジェット機で!それだけだい」

マキはそんな拓次が、要するにスリルに身を晒していれば満足で、
アクロバット飛行ができなくなるとイライラして喧嘩をする、
要するに子供だと激しくなじるのでした。

全体的に意味不明だらけのこの映画の中で、かろうじて
この可憐なマキさんのセリフだけが、いつもまともすぎるくらいまともです。



二人が言い争っていると、折しも暴風雨が吹き荒れ始めました。
全員が外に飛び出し、一丸となって嵐の中飛行機の係留作業を行います。


そして、台風一過の次の朝、榊拓次とはぐれパイロット集団の間には
すっかり同志としての連帯感が生まれていました。


その晩は全員でジャズバーに繰り出し、マキと榊は
モダンジャズの調べに合わせ、謎のフォークダンスで盛り上がります。



榊はチコと仲直りし、彼の指名でロイク(楽隊用語)バンドとセッション。
トランペットとサックスどちらもプロ並みってすごーい(棒)

ジャズ、バイオレンス、スピード、そしてジェット。
当時の若者が夢中になった(シビレた)ものを満載してみました的な?



とりあえずマキのお説教はこの短絡的な男に響いた模様。
しかしアキラ、こういう顔をしたら許されると思うなよ?


その頃英雄の会社「太平洋航空集団」には、ヤバい仕事と引き換えに
ボスの英雄が劉から受け取ったビーチクラフトが届いていました。

何も知らないスタッフは大喜び。


しかし経理担当のマキは、飛行機購入の資金などないことを知っています。
まともすぎるくらいまともな彼女は英雄を問い詰め、
弟の拓次も兄の様子が何か変なことに気づきました。

兄と一緒に沖縄に行った千石がなぜ帰ってこないのかも不思議です。


拓次は郵便物配布の仕事を引き受け、ついでに
千石の実家を訪ねてみることにしました。

ざっと1ダースの子供が生息している千石の家では、彼の妻が
子供を叱りつけながら彼が元気かどうか無邪気に訪ねてきました。

千石の生死について何か隠している。
拓次はこのとき兄の嘘に気づいてしまったのです。



このとき、英雄の会社事務所には劉とその部下が忍び込んでいました。

警察に追われていることを知って、逃げ込んできた劉は、
英雄を脅かしながらまず事務所に身を隠します。


そんなことを何も知らないマキは、劉の件で英雄を糾弾していました。

「誰から聞いた!」

英雄が劉とつるんでいることをマキに教えたのはチコでした。
二人の会話を物陰で聞いていたのです。

それを知った英雄がチコをタコ殴りにしているところに拓次登場。

理由を問い詰める三人に向かって英雄は弁明を始めました。

英雄と彼らの父が戦後窮地に陥っていたところ、
闇屋の劉が麻薬の運搬を手伝わせて恩を売り、弱みを握って
断れない関係をずるずると今日まで続けてきたのだと。

そしてここでまたしても兄弟で殴り合いが始まるのでした。
殴りながら拓次が兄にいいます。

「飛んでみろ!飛ばねえから腐るんだぞ!
くそお、叩き直してやる!飛んでみろ!
死んだ親父が言っただろう!空は一つだってな!
俺と一緒に飛んでみろ!負けねえぞ!

あんた、パイロットなら飛んでみろ!とべ!飛んでみろ!」

(セスナに兄を押し込もうとする)


そして号泣

うーん・・・よくわからない。
要するに犯罪に手を染めた兄を責めてるんだよね?
飛ぶとか飛ばないとか、責めるポイントここじゃなくない?

兄の英雄は、どんな手段を使ってもここを維持し、
はぐれもの集団に飛ぶ場所を与えたかったと叫ぶのですが、
それに対し弟は「違う!違うんだ!」と泣きわめいて、もうカオス。

そして場面が変わったらいきなり全員がシーン・・・となって、
英雄抜きでこれからどうするか話し合っています。

もう理屈で理解しようとしたら負け、そんな映画。



そのとき事務所の倉庫から出火しました。

劉が火をつけ、どさくさに紛れて英雄を拉致して連れ出し、
一挙に治外法権の沖縄まで逃走しようとしています。
そこから海外に高跳びしようというのでしょう。

劉は追ってきたチコに操縦させ、部下はめんどいので射殺して、
スペアの操縦士として英雄を拉致し、ビーチクラフトで飛び立ちました。

榊拓次はセスナでその後を追います。



そしてこの映画最大のツッコミどころ。
一人で劉を追ってきて2回撃たれても死んでいなかった刑事が、電話で

自衛隊の出動を要請するのです。

ちなみに自衛隊が出動要請できるのは、自衛隊法によると、

治安出動
警護出動
海上警備行動
破壊措置命令
災害派遣
地震防災派遣
原子力災害派遣

で、指名手配犯の逃亡を阻止、というのはどれにも当てはまりません。


セスナでは追いつかないと判断した榊は、即座に空自基地に乗り入れ、
嵐が来るっていうのにF-86に乗り換えて後を追おうとします。

皆が止めるところを無理やり強行突破しようとしていたら、
出動要請が間に合って、なんと基地司令のフライト許可が降りました。

ビーチクラフトに万が一追いついたとして、そこからどうするつもりだ。
戦闘機にできるのは撃ち落とすことだけだぞ。


しかしそんな心配をよそに、ビーチクラフトを追って
嵐を突っ切るジェット機

空自は、
「This time lost contact on my weapon」
を通信してきます。

操縦中目が見えなくなった(何の病気だろう。飛蚊症?)チコの代わりに
英雄が操縦して、レーダーにかからないように低空飛行したからです。。

嵐をつっきれなかった榊は、すぐさま空自基地に引き返し、
米軍の協力体制を取り付けたので行くなという命令を振り切って、
今度はT-33に乗り換え、ビーチクラフトを追うために飛び立ちました。

行き先が沖縄なら米軍に任せたほうがよくない?
なんかこれ、ただ本人が飛びたいだけなんじゃ・・・。

っていうか、空自が新型機を見せたかっただけかも。

そして驚くことに、鷹の目を持つパイロット、榊は、
はるか上空から、追っていたビーチクラフトが停まっている島を発見し、
すぐさま戦闘機が着陸できる滑走路を持つ飛行場に着陸し、次の瞬間

ジープかっ飛ばして、ビーチクラフトの場所に辿り着いていました。

この手際の良さ、さすが自衛隊出動要請されていただけのことはあります。


そこに目の見えないチコが、榊に駆け寄ってきました。

「ジェット〜!ジェット〜!」(初めて聞くけど榊のあだ名らしい)

なぜ彼は榊が来たのがわかったのでしょうか。
というかあんた目が見えないんと違うんかい。


榊はここで劉の一味から銃撃されたり、相手を拳で制圧したりして大暴れ。
マイト炸裂ってやつですか(意味不明)

しかしこの騒ぎの間、銃弾を受けた英雄は、すでに死にかけていました。

自らも傷つきながら駆け寄った弟に、彼が最後に言った言葉は・・。

「空は・・・そらは・・・ひとつだ」

がくっ。


♬パンパパーンパンパパーンパンパパンパパン!♫



えーと、多分これは自衛隊記念日かなんか?
榊は無事に空自のパイロットとして復帰しました。



マキさんからはチコの目も手術で治ると聞き安心です。
チコ、国民健康保険には加入していないと思うけど治療費大丈夫かな。



そのとき、フライトチームから声をかけられた榊は、

「マキ、俺のこと見てろよ!」

というやダッシュしてT-33(かしら)に乗り込み、



華麗なアクロバットを披露するのでした。

きっと彼の心には兄の「空は一つ」という言葉が
これからも生き続けることでしょう。知らんけど。



しかしこんな企画、よく空自の協力許可貰えたな。


終わり。


映画「嵐を突っ切るジェット機」前編

2024-04-02 | 映画

相変わらず精力的に自衛隊イベントに参戦しておられるKさんが、
ある航空自衛隊基地訪問イベントの後、現地で見つけたという
空自を扱った映画のポスターの写真を送ってくださいました。

世の中には、自衛隊を素材にした映画が結構あったみたいですね。
名作がなかったせいか、他の理由か、全く世に知られてはおらず、
わたしもそのどれもに見覚えがなかったのですが、
そのうちの一つがアマプラで観られることがわかったので、
ここで紹介させていただくことにしました。

1961年日活作品、マイトガイ(て何?)小林旭が、
アウトローな空自パイロットを演じた「嵐を突っ切るジェット機」です。

あーもう、このタイトルだけで駄作の匂いがプンプンするぜ。
タイトルとしてまず語呂が悪く、収まりが悪い。
名は体を表すという言葉の通り、名作は名作らしいタイトルを持ちますが、
このタイトルからは何のオーラも感じません。

当作品は2024年現在、奇跡的にAmazonプライムで視聴可能なので、
わたしには珍しく、今回はオンラインデータを元にログ作成しました。

挿絵も巷に流布している元画像の粗いポスターを参考に描いたため、
もはや小林旭に見えない誰かになった訳だが、まあ許してくれ。


さて、1961年日活作品、それだけで色々とツッコミどころありすぎですが、
とりあえず鑑賞において押さえておくべき時代背景は次の三つ。

1. ブルー・インパルスが発足したばかりの時期

2.  
 沖縄は返還されていない

3. 解決の手段としての暴力が社会的に容認されていた


まず1について。
「源田サーカス」で名を馳せた海軍パイロット出身の
あの源田實が航空幕僚長に就任したのが昭和34(1959)年。

空自のアクロバット飛行は、当初、アメリカ帰りのパイロットが
浜松基地で訓練の合間にクラブ活動的にというかこっそり行っていました。

就任した源田航空幕僚長は、自分の経験を踏まえ、これが隊員の士気向上と、
一般人を惹きつける宣伝効果に大いに役立つことから、
アクロバット飛行チームを制式化するよう推し進めます。

このことは、危険な曲技飛行訓練中万が一事故が起こった場合、
非公認のままでは補償が行われないということも考慮された結果でした。

2については、本作の「悪人」(第三国人)が、
地外法権の沖縄経由で逃げようとするというのが話の要となっております。


そして、3。
「すぐ殴り合いが始まる」

こいつが主人公の榊1尉(小林旭)。
この時代に1尉ということは、戦後浜松にできた航空学校の
初期の航空学生であったという設定なのだと思うのですが、
とにかくこの男のキャラがいかにも昭和のヒーロー。

最初のシーンでは浜松の航空記念日に空自音楽隊をバックに

 赤い雲 光の渦よ 青い空 成層圏を吹き抜けりゃ 
フライトOK視界でも 嵐を突いて 歌い抜いて
ジェット〜ジェット〜ジェット〜空を切る♬

という恥ずかしい歌を得意げに披露。
(そういえばマイトガイは本業歌手)

この頃は「ジェット」という言葉が時代の最先端で、
(あの名曲『ジェットジェットジェットパイロット〜』もこの時代)
ブルーインパルス隊長を演じる芦田伸介も、

ジェッツの魅惑を君にも味合わせてやりたいよ」

という、共感性羞恥で身悶えしたくなるセリフを言わされております。



そしてこの主人公、自衛官のくせにろくに敬語を使わない。
誰に対しても偉そう。すぐ「ちぇっ」とかいう。
なぜかサックスをプロ並みにこなす(ただし指はぴくりとも動かない)。
そして、何かというと人を殴る。理由より先に手が出る。足がでる。

というわけで、この映画、筋書きが全く頭に入ってこないんです。
何かあると殴り合いが始まって、そのシーンが無駄に長いので、

何のために殴り合っていたのか終わる頃には忘れているという・・。

ちなみにこの時代には「ハラスメント」なんて言葉毛ほども存在してません。

夕焼けの河原で不良同士が殴り合って傷だらけで倒れるも、
顔を見合わせた次の瞬間熱い友情が生まれていた時代です。

軍隊の鉄拳制裁は、敗戦と民主化を経てもまだ根深く残っており、
学校で教師が体罰をしても誰もがそれを当然と思う、それが昭和でした。



本作の数少ない見どころは、空自全面協力による
初代アクロバットチーム、F-86セイバーの飛行シーンです。

おそらく、航空自衛隊としては、この映画によって、
アクロバットチームの魅力が世間に認知され、あわよくば
入隊志願者も増えることを期待して制作に協力したのだと思います。



オープニング早々、セイバーのアクロバット飛行が始まります。
もうすでにこの頃チーム名称は「ブルーインパルス」となっていました。


ところがいきなり隊長機が墜落。
ちなみにこれ芦田伸介(当時53歳)演じる杉江二佐です。



アキラ、びっくり。
わたしもある意味びっくりですよ。
航空自衛隊の広報映画で初っ端にブルーインパルス墜落って。



そして、自衛隊上層部はこの事故を受けてアクロバットチームを解散。
「国民の税金を使うからには無茶できない」が理由です。


物分かりの悪い上層部へのやるせない怒り。
榊1尉は、セイバーのインテイクに向かって思わず咆哮するのでした。

「ばかやろ〜!(×4回)」

しかし、インテイクからは何の答えもありません。
あたりまえだ。

それどころか上に喰ってかかったことで金沢基地に転勤決定。
浜松→金沢は左遷ってことでOK?



ここでも「暴れん坊」榊1尉は無茶苦茶やりまくり。

無断でアクロバット飛行して罰金(って制度自衛隊にある?)、
しかも何度もやりすぎて罰金が払えなくなり、代わりに床掃除。

ヘラヘラした態度がなってないと水をかけてきた同僚(一緒に左遷された人)
と殴りあいをして、ついに基地司令の呼び出しを喰らいました。


司令は彼に10日間の飛行停止と「休暇」を命じました。

どうもこの二人の様子を見るに、これは「温情判決」らしい。
榊はほくそ笑み、司令は彼が出て行ってから部下と苦笑い。


榊は休暇中、彼の兄が経営するセスナを扱う飛行機会社で、
亡くなった杉江二佐の妹、マキの手伝いをすることにしました。

マキを演じているのは浅丘ルリ子?と思ったのですが、当時人気で、

5年間だけ活動し、結婚を機にあっさり芸能界から引退してしまった、
笹森礼子という女優さんです。


飛行場に着くと、榊はどういう経緯かここでパイロットをしている
元米軍の副操縦士、チコが目薬を差しているのを見て、
大丈夫か聞くのですが、その時無神経な榊が、よりによって彼を
「黒ちゃん」呼ばわりして怒らせ、殴り合いが始まります。

黒ちゃん・・アウトー。



しかしマジな話、こんな米軍の黒人パイロット上がりっていたのかな?

タスキーギ・エアメンも1948年には解散していたし、
海軍の黒人パイロットが最初に誕生したのは朝鮮戦争の時、
ジェシー・ブラウンという人だけだったというし・・・。

ジェシー・ブラウン/彼を主人公にした映画が現在制作中

副機長ってしかも士官だったってことでしょ?
だったらなぜ日本なんぞでこんな怪しげな仕事を?・・ないよなあ。

さて、チコは目の調子が悪いのではと疑う榊とマキを振り切って、
ビーチクラフトでビラまき(当時はそんな仕事があったんですよ)
に飛びますが、突如目が見えなくなり(おいおい)着陸に失敗。


さっそく運輸会社社長の榊の兄(戦時中は戦闘機乗り)が飛んできて、
チコの無事を確かめるより先に、馬鹿野郎と罵り、何発も殴打するのでした。

絵に描いたようなパワハラ。
さすがは元海軍戦闘機乗り。鉄拳制裁のDNA健在です。

兄の仲間というか手下として集まってきているのは、チコ以外にも
全てがいわゆる「パイロット崩れ」の半端者ばかりでした。


彼はこの半グレ集団を何とか食わせていくため、必死なのですが・・。



その兄、英雄(葉山良二)は、戦後闇屋上がりで財を成した三国人、
劉昌徳から、昔手伝わされたやばい仕事をネタに恐喝&買収されていました。

映画では「三国人」と何回も言っているのですが、この名前は中国系。
三国人の解釈は色々あるようですが、この映画では単純に
「非日本人」という意味で使われているようです。

劉は警察に睨まれている自分の代わりに、英雄に
何か(多分麻薬)を運ばせようとしているのでした。


そんな劉の動きは当局にもつかまれていました。
この刑事は、英雄と「同期」なんだそうです。

なんの同期だろ。海軍かな?

聞き込みに来た刑事に、榊拓次は太々しく、

「あんたデカさんだね?」

すると刑事も仲間を劉に二人やられていることを打ち明けついでに、

「君は自衛隊員だから(警察である俺とは)兄弟みたいな間柄さ」

それは・・・どうかな。

榊、この刑事の来訪と捜査の目的が気に入らんらしく、激昂して
刑事の胸元を小突き、あわや公務執行妨害になりかける始末。

このキレやすさ、戦後の食糧不足でビタミンが欠乏しているに違いない。

あらためて思う。
この映画の主人公が自衛官である必然性はどこに?

続く。


映画「海兵隊魂とともに」Salute to the Marines 後編

2024-03-09 | 映画

第二次世界大戦中のプロパガンダ反日映画、
「海兵隊魂とともに」=「海兵隊に敬礼」最終日です。

フィリピンで日本軍の攻撃が始まるところからですが、その前に
映画のオリジナルポスターを見つけたので見てください。


ポスター上部の「Rough! Romantic! Rarin' to go!」ですが、
標語風に訳すなら、
「痛快!ロマンチック!やる気満々!」
って感じでしょうか。

raring to goは「やる気と熱意に満ちている」という意味です。
一言でやる気と言っても、元々ハイテンションの馬を表す言葉なので、
今にも駆け出しそうな「やる気」の時に用いられます。


さて、実際は違いますが、この映画による時間軸では、
真珠湾攻撃と全く同時刻、日本軍はフィリピン爆撃を開始しました。

引退したばかりの海兵隊曹長、ウォレス・ベイリーが
日曜日、現地の教会にいるところにも、爆撃は行われたという設定です。

真珠湾攻撃より先にフィリピン攻撃があったことになりますが、
そこは映画だから言いっこなしだ。

航空機から爆弾を落とされ、教会の屋根が崩落します。
このシーン、本当に役者の上から砂埃などが容赦なく降り注いでいます。

どうやって撮影したんでしょうか。


日本軍による容赦ない爆撃が始まりました。

しかし、軍事基地もない村に爆弾を落として一般人を殺害するなんて、
この世界の日本軍はなんと無駄で無益な攻撃をするのでしょうか。

ちなみに、この教会のあるとされるバリガンという地域ですが、
実際に日本軍が到達したのは12月の12日以降であり、

それも陸軍による上陸作戦であり、航空攻撃はありませんでした。

そもそもアメリカ領フィリピンには日本軍の航空基地もありませんでしたし。


ここで映画は驚くべきストーリーをぶち込んできます。

村に日本軍の爆撃が起こった途端、ドイツ人キャスパーの薬屋の倉庫に
日系人のヒラタなど何人かがやってきて、隠してあった鉤十字と
旭日旗の腕章(そこは鉢巻だろう)をいそいそと付け、

「ついにこの日が来た!」

「ハイル・ヒットラー!」

(敬礼してお辞儀しながら)

「ニッポン!ボンザーイ!」

などと内輪で盛り上がり、武器を取って上陸部隊を支援しようとするのです。

ごめん。悪いけどここ笑ったわ。


キャスパーは地元の薬屋店主、ヒラタは放送局会社のオーナー。
どちらも何世かはしりませんが、立派な外国系アメリカ市民です。
そんな彼らが、ハズバンド・キンメル司令ですら知らなかった

日本軍の奇襲攻撃を前もって知っていて、今か今かと待っていたとでも?

アメリカ国民として地元に溶け込み、そこで生活しながら、
いつか日本軍がアメリカ人をやっつけてくれるのを待っていたとでも?

執拗に繰り返される「猿」という言葉、相手を人間以下に貶める表現、
そして、善意のアメリカ人たちを裏切る悪魔として描かれる敵国人。


こういう表現による刷り込みこそが、同じアメリカ国民であるはずの
日系アメリカ人や独系アメリカ人に対する排斥と排除の空気を醸成し、煽り、
それが日系人強制収容所の悲劇を生んだことは間違いありません。


ベイリーらが瓦礫から外に生きている人を運び出していると、
外で誰かの演説が始まりました。


フィリピン人に向かって、アメリカの支配から解き放たれろ!
とヒットラー風(もうこういうのうんざり)アジ演説を行うキャスパー。


一部のフィリピン人は、彼の「我々は友人だ」と言う言葉に
んだんだ、と頷きますが、(多分アメリカの支配をよく思っていない層)



ベイリーは怪我した子供の身体を抱いて見せつけながら、キャスパー、いや、
ハインリッヒ・カスパールをお前は薄汚いネズミだと罵ります。


いやそこは子供の手当が先だろう。




その後、拳銃を取り出した彼を瞬時に制圧。

さすがは腐っても元海兵隊員だ。


泥の中に叩き込み、ここは俺が守る!と今度は自分が演説。


民兵を率いて駆けつけてきたアンダーソン伍長と合流。
ジェームズとはヘレンを取り合って負けた海兵隊上陸部隊の士官です。

はて、引退した元曹長が若いとは言え士官に命令を下せるのか?



そこにルーファス・クリーブランド中尉がヘレンを探しにやってきます。
あんたついさっきまで哨戒任務で飛行機に乗ってたん違うんかい。



案の定、ベイリーに基地に戻ってここのことを伝えろ!と怒鳴られたので、
その辺に駐機していたコルセアに飛び乗って行ってしまいました。

ちょっと待って?
このコルセアの後部座席って、さっき死んだ部下がまだ乗ってるよね?



同時刻、先日入港した日本の民間船からは、士官の命令のもと、
続々と日本兵部隊が上陸していました。


形は似ていないでもないけど、色が全然違ってるんだが。
当時、白黒写真を参考にしたせいかしら。



司令は海軍軍人、兵隊は陸軍、揚げている旗は海軍旗。

もうカオスです。



お辞儀をしながら同時に敬礼をし、理解不明な言語を叫んでおります。



「マスタードイエローのサル」を待ち伏せしていたベイリーのもとに、
子供が海兵隊のブルードレスを持ってきたので、早速着込んでいます。

「贅肉の塊がテントサイズの制服を着ようとするのを見たら、
誰も海兵隊に入ろうとは思わなかっただろう」

と、元海兵隊員に言われていたあのシーンね。



そこに謎の軍旗(白地に黒の山線)を持った並行世界の日本軍が!
彼らはフィリピン人民兵の狙撃の前にほぼ無抵抗に薙ぎ倒されます。



バリガンの橋では、村人の避難が始まっていました。



ベイリーらがジェームズ隊と合流し、橋の袂で待ち構えていると、
日本軍がやってきました。

彼らはしきりに日本語らしい言葉で色々と喋っていますが、
日本人のわたしにもまっっったく理解できませんでした。



彼らはジャングルの中に潜む現地人の「蛮刀」によって、
木の上から襲われ、声もなく惨殺されていきます。

この映画から20年後、今度は自分たちが、ベトナムのジャングルで
ベトコン相手に全く同じ恐怖を味わうことになるとは

映画を観ている誰も想像だにしていなかったことでしょう。



両軍間に銃撃戦が始まりました。


陸軍は航空機に救援を要請、たちまち日本軍のヴィンディケーター()
が駆けつけ、敵味方入り乱れる戦場に無分別な爆撃を開始。



今や全軍を率いるベイリー隊は橋のたもとに到着。
彼はここを死守し、一歩も村に敵を入れさせない覚悟です。



ところがその前線となるべきポイントになんと妻ジェニーがいました。
彼女は怪我人の救護をしていてここにきてしまったそうです。

そこであらためて夫の軍服を素敵だと褒める妻、微笑む夫。



こちら、どちらが突撃するかで即席のくじ引きで決める兵隊二人。
どんなときにも米海兵隊は余裕を忘れません。


日本軍はこの珍妙な戦車を大量に投入してきました。
真珠湾攻撃当日にいったいフィリピンのどこから上陸させたのか。

しかし、目も眩むような急斜面を難なく高速で降り、走行できる、
見かけよりはずっと性能のいい戦車のようです。

そして戦車は逃げもしないで地面に寝そべったままの

無抵抗なフィリピン兵を、つぎつぎと容赦なく押し潰していくのでした。

なんて冷酷非道で残酷な連中なのでしょうか。



その頃ようやく海兵隊本部から大佐が到着していました。
もちろん背後には一個師団の上陸隊を率いています。


海兵隊の砲撃がおもちゃのような日本軍の戦車を撃破。



その間工作部隊は橋を爆破するための準備にかかりました。



しかし、次々と狙撃されてしまいます。
その中にはヘレンのボーイフレンドだったジェームズ中尉もいました。


そこでベイリーは単身狙撃ポイント近くまで近づき、
相手を無事殲滅しました。



ベイリーには橋を渡って撤退するよう本隊から命令が出されましたが、
時すでに遅く、彼らはこのとき四方を囲まれていました。

「ここから動けなくなったな」

すると奥さんは怪我人に包帯を巻きながら、軽ーく

「命令違反よ」

それを聞いて、ベイリー、

「こんなときにもユーモアを忘れないんだな」

肝の座った嫁に賞賛を送るのでした。



大佐はベイリーからの最後の通信を受け取ります。

「撤退不可能 命令には従えない」



やむなく大佐は橋の爆破を命じました。



上空からはコルセアの編隊が援護に駆けつけ、
日本軍は撤退を始めました。


ようやく戦いを終えたフィリピン人たちを前に、ベイリーは、
次の戦いに備えよと訓示をして彼らを解散させました。

そして、呆然としているジェニーの手を取り、見つめあった途端、
またもや飛来したヴィンディケーターが、爆雷を落としていったのです。

二人の上に。

爆弾は周囲を巻き込んで黒い煙で全てを覆い隠しました。


■ エピローグ



その日、海兵隊基地では、基地司令たる大佐によって、
不在のウィリアム・ベイリー元曹長に対する勲章の授与式が行われました。

受け取るのは、娘である合衆国海兵隊軍曹、ヘレン・ベイリー。
なぜ最近まで一般人だった彼女がこんなすぐに軍曹になれたのかが謎ですが。


壇上の彼女の手にキスをして、クリーブランド大尉は、

「またいつか会う日のために、このキスを持っててくれる?」

といい、ジープに乗っていってしまいます。
帰らないかもしれない戦いのために。



彼女はそれを逃すまいとするかのように手を握りました。


彼女の偉大な父の叙勲を讃えるための行進が、
「海兵隊讃歌」の中、進んでいきます。

「モンテズマの部屋からトリポリの岸辺へ
我らの祖国のための戦いに挑む 空で、陸で、海で
正義と自由のため 最初に戦う
我らが誇りとするその名は 合衆国海兵隊」




終わり。


映画「海兵隊魂とともに」Salute to the Marines 中編

2024-03-06 | 映画

第二次世界大戦中の反日プロパガンダ映画、
「海兵隊に敬礼」の二日目です。

30年間戦地に出ず、ただ新兵の訓練任務専門にやってきて、
無事にその現役生活を終えた曹長、ウィリアム・ベイリー。

2度と軍事には関わらないことを妻と約束し、家庭に戻り、
これからは悠々自適のリタイア生活、となるはずでしたが、
どうにもこの男、そんな生活に馴染めそうにありません。


暇な時間、こっそり近所の子供を集めてボクシング教室を開催。
なぜか奥さんに取り上げられた海兵隊のブルードレスを着込んでいます。
この際制服を着て号令をかけられたら相手はなんでもいいって感じ。

どうも彼的には海兵隊の英才教育をしているつもりです。



子供相手にドイツ兵と戦った華々しい戦歴(大嘘)を披露していると、



見張りが合図の口笛を吹くと同時にご近所の奥様方がやってきました。
慌てて上着を脱ぎ、話題を聖書に切り替えて誤魔化しますが、
子供たちが怪我をしていたり泥だらけなのを見れば何をしていたか歴然。

怒った母親たちは子供たちを連れていってしまいました。


ジェニーもそんな夫にほとほと呆れ顔です。
海兵隊を辞めさせて連れ帰ったことを後悔している、とまで・・。

■ 日本船の入港



村の港に日本からの定期船が入港しました。
フィリピンとの通商を行っている会社の民間船です。



日本と聞いて、露骨に「ジャップは嫌いだ」と嫌な顔をするフラッシー、

ジャップスと仲良くなんてできるかと苦虫を噛み潰したようなベイリーに、
この、ドイツ人の薬屋店主キャスパーは、
人類皆兄弟、仲良くせねばとリベラルを解きますが、

「奴らの顔を見るだけで鳥肌が立つ!」

とベイリー節全開。



港では日本人船員たちが本格的な剣道を始めました。
(しかしそう見せているだけで、全くのインチキ剣法)

彼らの様子といい、乗ってきた船が見るからに丈夫そうなことといい、
ベイリーはわずかに不信感を抱きます。



子供たちにせがまれたベイリーは、
「オロセ!オロセ!」と怪しい日本語で号令をかけている船員に
船の中を子供たちに見せてやりたいんだが、と頼むのですが、



「ソー・ソーリー」

と断られます。
ムカついたベイリー、よせばいいのに、

「ここはアメリカの港で俺はアメリカ人だ!
止められるなら止めてみろ!」
(ちなみにここはアメリカの港じゃないよね)

と無茶を言って強行突破しようとし、一突きで転がされて、



船上の日本人船員たちに笑われてしまいました。
ベイリー、日本人船員に、いい攻撃だな、というと、



「日本の得意技だ。奇襲だよ」

これが真珠湾後のアメリカでどういう意味を持つかお分かりですね。



ベイリーは握手するふりをして日本人を海に叩き込みました。
これがアメリカの奇襲だ、と勝ち誇って。

「止められるなら止めてみろ」という言葉を受けて、
日本人船員は強行突破しようとするベイリーを止めた。
それは公平に見て、「奇襲」とはいいません。


逆に握手するふりをして投げ飛ばした彼のやり方こそが
本当の「卑怯な奇襲」だと思うんですが・・・。

さて、港からその後何事もなかったかのように無事に帰ってきたベイリー。


「サルどもに笑われたくない!」

などと悪態をつきながらフラッシーに腰を揉ませていると、
街で噂をすでに聞きつけた妻がおかんむりで帰宅してきました。


しかし相変わらず娘はニヤニヤして父を庇うばかりです。

ここでも相変わらず「サルのジャップス」を連呼し、
自分の行動を正当化するベイリー。


そこに運良く?ヘレンを狙う取り巻き二人が乱入してきて、
家族の前で陸空で相手の貶し合いが始まりました。

相変わらずヘレンはヘラヘラととっても楽しそう。


その夜も、二人の男の腕にぶら下がってデートに出かけました。

それにしてもこの女、いつまで男二人を引っ張るのかと思ったら、
この日、初めて意思表示をしました。

ジェイムズの目の前でルーファスにキスしようとするという最悪の方法で。


流石にそれを黙って見ているわけにはいかないジェイムズ、
すんでのところで二人のファーストキスを阻止しました。

「明らかに劣勢で戦況が悪い時には退却すべし」

この勝負、歩兵の負けです。



プライドをズタズタにされたジェイムズがその場を去ると、
二人はゆっくりと愛を確かめ合います。
あー胸糞悪い。


ウッキウキで帰ってきた娘に、母は本心を打ち明けました。
軍人との結婚はできればしてほしくないと。

しかし、そういいながらももう一度娘の歳に戻ったら、
やはり自分はあの人(ベイリー)と結婚する、ともいうのでした。


そして12月7日がやってきました。

この日はアメリカ人にとって真珠湾攻撃として記憶されていますが、
フィリピンの1941年12月7日は、まだ「その日」ではありません。

映画関係者がうっかり揃いだったのか?
それとも時差も知らないバカ揃いだったのか?

と思いがちですが、まず、一般大衆向けのこの映画では、
正確な日付を示すより、皆が記憶する屈辱の日として
これから起こることを表す方が大事だと判断されたのかもしれません。

そして何より、たとえ事実と符合しない表現になっても、
フィリピンで12月7日が「その日」でなければならなかった理由があります。
それは、その日が暦の上では日曜日であったからでした。

真珠湾攻撃が起こったハワイではアメリカ時間12月7日は日曜日で、
多くのアメリカ人は教会に向かったり、教会にいました。

ちばてつやの戦争漫画「紫電改のタカ」で、
主人公の強敵となった
ウォーホーク乗りジョージとトーマス・モスキトン兄弟も、
一家揃って教会に向かう途中の車を日本軍機に掃射され、
両親と妹、弟、赤ん坊を失ったというストーリーだったと記憶します。

彼らにとっては「教会にいるところを襲われた」という事実が
敵の残虐さをより一層際立たせるファクターだったのだと思わせます。

■ 日本軍の奇襲

さて、12月7日の日曜日、ベイリー家は教会に行こうとしていました。



そこにベイリーが「ワシントンの塔にサルが登ろうとしている」と、
ハル-来栖大使の会談を報じる新聞を振り回しながらやってきます。



野村・来栖大使とハル国務長官の会談が行われたのは
12月7日ではなく11月27日であり、そのときに手交された
「ハルノート」は、実質日本を追い詰める「最後通牒」でした。

これを飲むことすなわち「座して飢え死にを待つ」ことになるほど
一方的なものであったことは後世の検証により明らかになっています。

しかし、映画ではとにかく日本が表向き握手を仕掛けながら
同日一方的に奇襲をかけてきたということにしています。

港でベイリーが日本人船員にやったように。

ただ、この映画が公開された頃、大衆にとって政治的公平性の有無など
全く無意味で必要とされていなかったことも知る必要がありましょう。


同時刻、ヘレンを恋敵から奪うことに成功したクリーブランド中尉は、
機嫌良く鼻歌を歌いながらフィリピン上空の哨戒任務についていました。



そこに真珠湾攻撃を知らせる衝撃の打電が入ります。



同時に日本機の編隊発見!
って、デジャブかしら。このヘンな日本軍機、見覚えがあるんですが。

んーとこれは確か「ファイナルカウントダウン?」

今、過去ログ「ファイナル・カウントダウン」を検索して読んでみたら、
この珍妙な日本機に対してわたしはこんなふうに突っ込んでました。

(映画制作の)1980年当時、零戦の写真を手に入れることくらい、
その気になれば、いやその気にならずともいくらでもできたと思うのですが、
なんなのこのどこの国のものでもない不可思議な模様の飛行機は。
やる気がなかったのかそれとも故意か。


この映画を選んだ、おそらく最大と思われる収穫は、

映画「ファイナルカウントダウン」が、よりによって、
1942年の戦争中に製作されたインチキ映画からフィルムを流用していた、
というとんでもない手抜きが判明したことでした。

この日本機は、当時ですら旧式だったアメリカの急降下爆撃機、

ヴォート・ヴィンディケーター
 Vought SB2U Vindicator

を、きったねえ色に塗装した代物です。


ちなみにこの「ヴィンディケーター(擁護者の意)」
ドーントレスができるまでのつなぎ的存在で、パイロットからは
「バイブレーター」とか「ウィンド・インディケーター」
(風向指示器)とかいわれて馬鹿にされていました。

1943年当時では、日本軍がどんな戦闘機に乗っていたか、
要するに誰も知らなかったと言うことでもあります。

しかし1980年作品の『ファイナル〜』がなぜこれを使ったかは未だ謎。


さて、クリーブランド機は日本機を撃墜しましたが、
後席の射手はやられてしまいました。(ここ覚えておいてね)

仕返しとばかりにもう一機を撃墜したクリーブランド、
ジャングルに落ちていく日本機を見ながら、

「祖先がいる森に帰っていくぞ!」

まあ、当時白人が黒人に対してどんな扱いをしていたのかを知っていれば、
黄色人種に対するこんな表現も至極当然かもしれませんが。




その時、日本軍の編隊は村の上空に差し掛かっていました。



上空から聞こえる爆音に皆不安そうな目を向けます。



何かを察している風のベイリー。

さあ、これから何が起こるか?
もちろん皆さんはご存知ですね。


続く。



映画「海兵隊魂とともに」Salute to The Marines 前編

2024-03-03 | 映画

原題は「Salute to the marines」なので、「海兵隊に敬礼」のはずですが、
なぜか日本でのDVDでのタイトルは「海兵隊魂とともに」になっています。

「海兵隊に敬礼」でなにがいかんかったのか。


当ブログでは連続して白黒の映画ばかり取り上げてきたので、
久しぶりにカラーで絵を描いてみたい気分になり、
「Uボート:235強奪作戦」を取り上げようと観てみたら、
あまりにくだらなくて悪食を自認するわたしですらその気を無くし、
次に見つかったカラー作品なら何でも、と適当に選んでしまいました。

しかし、この作品も観はじめてすぐに、不快感を感じました。

まず、この主役の不細工さです。
デブデブしたしまりのない体型、たるんだ顎、
現役の海兵隊員がこんな酒太りなわけあるか!

■ ウォレス・ビーリーという俳優

映画サイトで、元海兵隊員という人がこんなコメントを残しています。

「ウォレス・ビーリーは海兵隊員ではない。なんてだらしないんだ。
まるで贅肉に贅肉を重ねたような身体、一等軍曹役とはとても信じられない」


「ウィリアム・マンチェスター(『ジョン・F・ケネディ』の伝記作家)は、
映画『トリポリ魂に乾杯』”To the shore of Tolipoli ”の洒落た軍服を見て、
そのあまりのかっこよさに魅せられ、海兵隊に入隊した。
彼が観たのがウォレス・ビーリーがテントサイズの制服を着ようとして
格闘しているこの映画だったら、やめて沿岸警備隊に入隊していただろう」



ウォレス・ビーリー(Wallace Beery)は、1913年のデビュー後、
コメディ映画、歴史映画に出演して悪役、性格俳優として人気を博し、
1930年ごろには世界で最も高給取りといわれるほどでしたが、
おそらくはその人間性のせいでこの映画の頃の人気は低迷していました。

「人間嫌いで周りからも一緒に仕事をしたくないと嫌われており、
彼のことを『Shitty Person』と呼ぶ俳優もいた。
セリフを研究することなく代わりに他の俳優の真似をして、
それを指摘されると逆ギレすることは日常茶飯。

別の俳優がクローズアップになるとき、彼はセリフを間違えて
その俳優の演技を邪魔したりした。
『誰からも嫌われていたが、幸いなことに無視されていた』」


17歳のグロリア・スワンソンと結婚して妊娠中に騙して中絶薬を飲ませ、
3年後に愛想を尽かされて離婚されていますし、
死の間際まで彼の子供だと自称する人との裁判が続いていたそうです。

俳優テッド・ヒーリー(三馬鹿大将の一人)を喧嘩で殴って死なせ、
それをもみ消したという黒い噂もあります、

その他彼をクズ認定する証言は、スタジオセットから小道具を盗む、
子役を執拗につねったり演技の邪魔をして嫌がらせし、怖がらせる、
チップを払わない、サインを求めた子供を罵り、唾を吐きかける・・・。
(それを証言したのはあのSF作家レイ・ブラッドベリ)

彼はその功績から1960年にハリウッドの映画の殿堂入りしましたが、
功労者須く人格者ならずの典型だったようですね。

■ 反日プロパガンダ

そして今回、映画をブログのために何度も観るのはわたしにとって
大変な不快感と苦痛を乗り越えなくてはならなかったことを告白します。

その不細工で観るからに人品骨柄卑しそうなおっさんが、
数分おきに口汚く日本人への人種差別発言を繰り返すのですから。

これが戦時中に制作されたプロパガンダ目的であることを差し置いても、
その表現は下品で何のユーモアもなく、従来の戦争映画ヒーローならば、
脚本家はまず主人公のセリフとして選ぶまいという種類のものです。

どうして海兵隊の宣伝映画にこんな主役を選んだのか、
わたしは海兵隊宣伝部の意図を図りかねますが、
それでも考えてみると、この時期、アメリカはかなり焦っていたんですね。

まず、映画で描かれた日本軍のフィリピン侵攻ですが、ご存知のように
アメリカ軍はダグラス・マッカーサーの失策で負けているわけです。

戦前からアメリカの植民地だったのに、ダバオ、マニラ、
バターン、コレヒドール、ミンダナオとアメリカは次々降伏し、
マッカーサーはアイシャルリターン逃走。

フィリピン戦での兵力の損害は日本側戦死行方不明4,417名に対し、
アメリカ側は約2万5000人が戦死、2万1000人負傷、捕虜8万3631人でした。

というところで、先に説明しておくと、この映画は、真珠湾攻撃に続き、
フィリピンに侵攻してきた日本軍を、この元海兵隊の太ったおじさんが
退役後にもかかわらず、民兵を率いて食い止めて死ぬというストーリーです。

もうおわかりですね。

この映画は、真珠湾、フィリピン陥落に沈む国民を鼓舞するのが目的で、
たとえいっとき負けてもアメリカにはこんな海兵隊魂を持つ人物がいる限り
決してくじけはしない、という強いメッセージが込められているのです。

主人公のベイリーが、劇中なん度も言い放つ「黄色い猿」などの表現に、
この映画は当時ですら米国内から品格の点からの批判があったそうです。

しかし、この種の発言は、おそらく当時のアメリカ人にとって、
閉じた場やその人の「品性」によっては日々聞くものだったでしょうし、
(そして今でさえ、アメリカに住んでいると同種の”声”を見聞きする)
自分は立場上決して口にできない「内心の声」が言い放たれるのは
一定の数の民衆にとってはさぞ快感だったでしょう。

そして、当時の「良識派」が眉を顰めるようなこうした発言も、
クラーク・ゲーブルやケリー・グラントには決して似合いませんが、
このおっさんなら遠慮なく言わせられるし、事実いかにも言いそうです。

ところで数えたわけではありませんが、作品中彼がサルと口にするのは
両手で数えられるほどの回数にのぼります。
しかし、その本人は、彼が唯一頭の上がらなかったおばちゃん喜劇俳優、
マリー・ドレスラーMarie Dressler を調子に乗ってイジり、

「あのヒヒ(baboonからナンセンスな侮辱をされた。
あいつの頭を大皿に乗せて(MGMのトップに)突きつけてやる」

と激怒されたことがあり、この時の彼はこの女優に対し、
イタズラを見つかった小さな子供のように何も言い返さず沈黙したそうです。

人は自分が気にしていることを言ってしまうものだそうですが、
もしかしたら、この耳に余る「猿」も実は・・・?


で、当ブログがなぜ結局そんな映画を取り上げることにしたかですが、
最初に選んだ「Uボート:235」のラストに見られる
「政治的無自覚・無神経」に対する不快さと、この作品の人種差別表現では、
こちらの方が悪意があるだけマシというか、我慢できると判断したからです。

(その詳細については各映画評などでお確かめください)


■ 海兵隊讃歌

それでは始めます。
オープニングから早速流れるのは「海兵隊讃歌」。



地球の隅々に赴き、名誉ある戦いを行ったアメリカ合衆国海兵隊に対し、
文字通り「敬礼」を捧げるところから映画は始まります。


1943年、ここはアメリカサンディエゴの海兵隊基地。



合衆国国旗が掲揚されました。
今日はこれから上陸を模した演習が行われる予定です。



視察をする高官たちがビューポイントに到着するとまず歩兵の上陸。



戦車も舟艇から下ろされます。



水陸両用車が現在のものとほとんど同じ形なのにびっくり。



そして空中からは空挺部隊が落下傘で降下。



成功裡に終わった演習後、司令官が訓示で一人の軍人の紹介を始めました。
それが本作主人公のウィリアム・ベイリー軍曹です。



「諸君と同じ訓練を受け、同じ闘志に燃え、不屈の精神を持った男だった」

そしてここから、彼の物語が始まります。



1940年、フィリピン。
海兵隊勤務29年のベイリー軍曹が新兵訓練を終えて帰隊してきました。


ベイリーは帰ってくると、ボクシングの選手である
フィリピン人部隊のフラッシーと挨拶を交わします。

当時、アメリカ軍は、陸軍の軍事組織としてフィリピン人部隊、
「フィリピン・スカウト」を組織していました。
1901年にはすでに現地で編成された軍として機能を始め、
優秀な人物はウェストポイントに送られて、士官に任官しています。

この駐屯地で曹長はボクシングのマネージャーも兼任していました。



そこに大佐からお呼びがかかり、泥だらけで司令室に飛んでいく曹長。


大佐と共に彼に面会を求めてきたのは、
フィリピン軍の「陸軍長官」でした。

フィリピン師団は全てマッカーサー元帥の指揮下にありましたので、
陸軍長官という役職名が正しいかどうかはわかりません。
アメリカ陸軍隷下の軍組織を総称して「陸軍」と言ったのかもしれません。

長官の用事というのは「フィリピン独立法」によって間近にせまった独立後、
国防を強化するために、市民を軍事訓練してほしいという依頼でした。


映画ですから仕方ありませんが、この依頼がそもそも少し変です。

アメリカは前述の通りフィリピン・スカウトなる軍隊を組織し、
支援してきたわけですから、今更海兵隊に一部の市民を軍事訓練せずとも、
と思いますし、そもそも自警団みたいなのって普通にあったんじゃないの?

フィリピンはただアメリカ軍に守られているだけで
独立後はただ脆弱なもの、という印象を観るものに与えますが、
独立しても映画で言っているように海兵隊がいなくなるなんてことないよね?

現にアメリカは1946年のフィリピン独立後も軍の駐留を継続し、
東南アジア全域での軍事プレゼンスを維持し続けるために
軍事基地協定で99年間の基地提供を約束させています。

フィリピンはその99年が過ぎたとき、協定を破棄し、
アメリカ軍はフィリピンに軍隊を派遣できないとしましたが、
その辺に言及していると話が長くなるので割愛します。



ベイリー軍曹は、これまで新兵の訓練を専門にやってきたそうですが、
今回自分が訓練するのがフィリピンの一般人と聞いて激おこ。

「フィリピン人は小さすぎて(Little fellers)戦闘なんかできませんよ」

いやいや、だからフィリピンスカウトの立場は?
しかもこのメイソン少佐までが、

「神は彼らに良い心を与えたが体には気を配らなかった」

だから当時すでにフィリピンスカウトは米軍の一部として連隊に編成され、
4つの歩兵連隊、2つの野戦砲兵連隊、騎兵連隊、
沿岸砲兵連隊を組織し、支援部隊もすでにあったんですってば。

まあその辺は映画だからどうでもよろしい。

ここでベイリー軍曹は、彼の本音をぶちまけます。
彼はもうすぐ海兵隊を退役するのですが、新兵教育ばかりさせられて、
彼らが戦場に赴くのをただ見送るだけ、ついには全くの勲章もなく、
扁平足と大声になっただけで終わるのが口惜しいのです。

というわけで、

「今訓練している第一大隊を戦地で率いさせてください!」



いや、それは・・・無理だよね。指揮系統的にも。
だいたい、曹長が自分の配属を司令官に願い出るなんてありえなす。
少佐は目を泳がせながら、

「・・それではわたしが任務を命じられたら君も一緒に」


■ 民間兵訓練



命令は命令なので、ベイリー軍曹、スービックで早速訓練開始。

しかしフィリピン人、行進もできなければ命令も聞きゃしねえ。
そもそも軍隊が何かさえも全く理解していないわけです。

そのくせ自己主張だけは皆一人前。



「銃剣なんかより俺たちのナタの方がよっぽどいい」

「何?試してやる・・・おお、確かに悪くないな」



こちら若いアンダーソン伍長が銃の扱い方を説明しています。
どうせ一回言ったくらいではわからず、結局手取り足取り時間をかけて、
と思うとうんざりしているのか、やる気なし。

「左手でラッチ、右手で開いて左手でエキストラクタ、
左で照準を合わせて右手でボルトを閉じ、
左手で引き金を引き弾倉確認!わかったか」


むっちゃ早口。
皆うんうんうんと頷きますが、伍長、ため息をついて

「どうせこいつを扱えるようになるまで長くかかるがな。なが〜〜く」

ふう、とタバコを吸うために銃前を離れた途端、



左右左左右左、と皆で確認するなりマシンガン発射。



というか乱射。

なんか映画「二世部隊」の訓練シーンを思い出してしまいました。
教官がすっかり馬鹿にしていた日系人たちは実は一枚も二枚も上手で、
上手に訓練をサボったり、背負い投げで逆に教官を投げ飛ばしたりっていう。

アメリカ人って、一般的に英語を喋らない&上手ではない人たちを
頭から自分より劣っている、と思い込む傾向にありますよね。

ちなみに2022年度の平均知能指数で言うと、上位6位まで全部アジアの国
(一位から日本、韓国、中国、イラン、シンガポール、モンゴル、
アメリカは17位)であることは世界的に周知の事実。
あくまでも「平均値」ということになるわけですが。



そして何週間かの訓練後、何とかフィリピン人部隊はサマになってきました。



そのとき、訓練してきた第一大隊が中国に移動するという噂を聞きつけ、
ベイリー軍曹、大急ぎで隊舎に駆けつけました。

夜だと言うのに兵隊の解けた靴紐や錆びた刀などの粗探しをして
延々と気持ちよくお説教、自分が隊を率いるつもり満々ですが・・。



そんな軍曹を見かねて?急遽大佐が呼びつけました。
いつになく葉巻を勧められ、喜んで吸っていたら、

「君をスービックに送ったのは家族に会わせるためだったんだ」

そして、



「私は中国行きの船には乗らない。君もだ」

「冗談ですよね?」

「冗談ではない。指揮官はバーンズ中佐だ」

これはもちろん「自分ではなく」と言う意味です。

「バーンズ?まだ青二才じゃないですか」

Lieutenant colonel」って中佐で間違いないよね?
中佐が青二才って・・・まあ退役寸前の軍曹と比べれば若いですが。

「そこを何とか!
勲章をもらえるかもしれない最後のチャンスなんです!」

普通軍曹が司令官にこんな口聞けないと思うのですが厚かましいやつだな。
もちろん大佐はそれを拒否し命令に従うようにと軍曹に厳しく命じます。

■ 収監



第一大隊の出航は夜になりました。
酔客で賑わう繁華街を通って港まで行進が行われ、
市民がそれを手を振って見送ります。



鳴り響く海兵隊讃歌を酒場のテーブルで不貞腐れながら聞くベイリー。

「海兵隊はトリポリにも行ったしあらゆる戦場に行った。
でもこのビル・ベイリーは、海兵隊史上、

一度も戦場に行ったことがない唯一の海兵隊員だああ」



酔っ払いの戯言を同じ酒場にいたセイラーが揶揄ったところ、さあ大変。
キレたベイリーが一人を殴り飛ばし、そこから大乱闘が起こってしまいます。



ボクシングの選手であるフラッシーも加勢して・・・これはダメだよね。
彼らは、帽子からマーチャント・マリーンの水夫であるとわかります。


MPが到着した時にはすでにこの有様。


フラッシーと仲良く収監されることになりました。



そのとき自分を捕まえた憲兵がやってきました。
片目にアザを作った憲兵は陽気に、

「ピーカブー、ハンサム!」

「無理に笑わせなくていいぞ、あんたエリザベス・アーデンの化粧部員か」

この部分、字幕で企業名が省略されていたので、ちゃんと翻訳しておきました。
ピーカブーは「いないいないばあ」のことです。

「俺の罪状は?」

「たいしたことないさ。
器物破損、憲兵への威力業務妨害と13人の船乗りへの暴力行為」

「なあ、大佐にはこの件黙っててくれないか」

「だめだ。そんな目で見るな。飼ってた犬を思い出す」

「ちっ・・・何の用だ」

「面会だ」



美人の奥さんジェニーはこんなところで会うなんてとプンスカ。
全く父に似ていない娘ヘレンは一生懸命父をかばいます。

妻ジェニーは夫が海兵隊にいるのが嫌。
というか、軍隊そのものが嫌いな平和主義者で、彼と結婚して以来、
彼がずっと戦地に行かないように「祈って」いたと公言するほどです。

現在も平和運動に身を投じる根っからのリベラル無抵抗主義なのですが、
それならどうして海兵隊で煮染めたようなこの男と結婚し、
何十年間も一緒にやってこれたのか・・・夫婦ってわからないものです。

「第一大隊のニュースを聞いた時から祈ってたわ。
あなたが一緒に行きませんようにって」

「ひどいぞ・・・でも決めた。退役する。
こんなことをしたらどうせクビだ。
君はもう海兵隊員の妻ではなくなるんだ」



娘のヘレンはその足で大佐の部屋に押しかけました。

「ヘレン!」「ジョンおじさん」

なんと、この二人が叔父姪の関係であるってことは、
ベイリー軍曹の嫁というのはこの大佐の妹ってことなんですね?
(大佐はベイリーと同じ歳なので)
どうりでベイリーが軍曹の分際で大佐に妙になれなれしいわけだ。

しかしいや・・・・これも実際はあり得ませんよ。

アメリカというのは、特にこの頃のアメリカは完全な階級社会で、
経済的背景が異なる人々の間には厳然とした階級差が横たわっていました。

特に軍隊では、ある時期まで将校のほとんどは上流階級や、
裕福な家庭の出身者でなければならず、
(ドイツで士官に貴族が多かったのも同じ理由)
下士官や下士官の子供が将校と個人的関係を持つのもほとんど不可能でした。

つまり、ジェニーの兄がアナポリス出身の海兵隊士官である時点で、
最初から彼女と下士官のベイリーとは接点すらなかったはずだし、
万が一何かのご縁で出会ってお互い好ましく思ったとしても、結婚となると
互いの家庭から反対されて諦めるか駆け落ちするしかなかったでしょう。

なんなら、現在のアメリカ軍でも、士官、下士官、兵の間に、
特に彼らの子供たちの間には軍務以外での接触はまずないはずです。
(在日米軍内の子供のための幼稚園学校のことまでは知りませんが)

ですから、いかにも将校の娘然としたこの美人のヘレンが
実は軍曹(しかも見るからに叩き上げ)の娘で、なぜかその叔父が大佐、
という設定には、当時のアメリカ人も首を傾げていたことでしょう。


それはともかく、ヘレンがここにきた理由は、父親が喧嘩で収監されたので
彼が不名誉除隊にならないようにという叔父へのお願いでした。

美人の姪に大佐も目尻を下げて応対していますが、つまり、
娘が地位のある叔父を利用して父の不始末を揉み消そうとしてるって図よね。

父が父なら娘も娘。
これ、厚かましいどころか、とんでもなくない?


そこにルーファス・クリーブランド、ランドール・ジェイムズという
海兵隊士官二人が「ミス・ベイリー」が来たと聞いて飛び込んできます。

この娘、自分に夢中の二人を手玉に取っていて、
どっちにもいい顔をしてここまで引っ張ってきたようですが、これもまた
従来ではあり得ない士官と下士官の娘との取り合わせ(しかもダブル)。

またこのヘレンという女、天性のやり手とでもいうのか、
二人の士官が飛び込んできて大佐が不機嫌になるや、

「あら、あたし、ジョンおじさんに会いにきたのよ〜」

と叔父の腰に手をまわし身体を押し付けるというあざとさ。
こういうのを清楚系●ッチっていうんでしょうか。


そして「ボーイズ」を両脇に抱き抱えて外を闊歩します。
上陸隊とパイロットの二人は互いを貶しながら牽制し合いますが、
彼女はどちらを選ぶとは決して言明しません。

「どっちか選んで」



と二人に迫られてはぐらかすのもお手のもの。
これは根っからの魔性の女だわ。


■ 軍曹の退役



ベイリー軍曹は無事に退役の日を迎えました。
大佐の力が及んだのかどうか、不名誉除隊などではなく、普通に退役です。

しかし、早口で感謝状を読み上げられて終わりといった形式的な流れに、
ベイリーはわずかに不満の様子を見せます。



ベイリー軍曹のために、軍隊は行進を始めました。

この敬礼シーンでも、俳優が全く軍人らしくないのがわかってしまいますね。
敬礼も下手だし、こんなだらしない立ち姿のベテランがいるかあ!


航空士官のクリーブランドは、恋敵がヘレンのそばにいるのが邪魔で、
ジェイムズになぜ陸なのにあっちで行進しないんだと文句を言いますが、
ジェイムズは涼しい顔で「俺はご家族と親しいから免除さ」



そして彼の30年にわたる海兵隊生活は終わりを迎えた・・・に思えました。


そしてヘレンの運転する車がバリガン川の橋にさしかかったとき、
そこでは彼の鍛えた民兵たちが捧げ銃で退官した彼を迎えました。



本来ならこの見送りに一緒に感激するであろう妻ですが、
何しろこの妻、一刻も早く夫に「足を洗わせたかった」人なので、
まるでまだ現役であるかのようなこの見送りに機嫌を損ねるという有様。


村に着くと、地域の人々(もちろん全員白人)が集まって、
「ハッピーバースデイ」の替え歌で出迎える熱烈歓迎ぶり。


この人々、妻の所属する平和運動サークル?なので、
彼に向かって軍隊不要論をやんわりと説いてくるのでした。
中には軍と軍需産業との癒着を糾弾し始める過激なご婦人もいます。


このサークルにはラジオ局を運営しているという高学歴の日系人もいました。
(ハリントン・ヒラタと紹介されているが字幕には出ない)
コーネル大学で電子工学の学位を取ったという彼に、ベイリーは

「アメリカで賢くなったってわけですか、外国人なのによくやるね」

と精一杯馬鹿にして見せますが、彼から

「多くを学びましたよ。アメリカ人の多くはとても賢いですからね」

と皮肉混じりに返されております。



ともすればそういうリベラルな雰囲気にイライラするベイリーに、夫人は
子供をあやすようにあなたはもう退役したのよと言い聞かせるのでした。


そしてベイリーのリタイア生活が始まりました。
居間のカウチでガウンを着てパイプを燻らせる退役後の夫。
夫人は長年夢見ていたそんな光景に幸せいっぱいで、うっとりと、

「あなた・・・新婚旅行の時のことを覚えてる?」

「忘れようったって忘れられないさ・・・(急に思い出し)
あのときは3ドルの部屋なのに5ドルも取られたんだ!」

「もう、なんて人なの!」

怒って夫人が行ってしまったのをいいことに、
パイプに詰める葉を直接口に放り込んで、ついでに
なんだか窮屈なガウンも脱ぎ捨ててしまいました。

パイプより噛みタバコが性に合ってる根っからの兵隊ってわけですね。
しかし噛みタバコは吐き捨てないといけないわけで。



吐き捨てる場所を探してうろうろしているうちに妻が戻ってきました。
手にはマットレスの下に隠したはずの海兵隊の制服を持っています。
処分しろと言われたのに、捨てずにいたのを見つかってしまったのでした。

ベイリーはあわてて口の中の噛みタバコを飲み込み(えええ〜)、

「は、ハロウィーン用に・・・」

と言い訳を。

「わたしを騙してたのね!」

「いや、せめて死ぬ時には身につけたくて・・・。
だって普通の服を着ていたら天使には俺だとわからないだろ?」

「大丈夫よ。わたしからガブリエル(大天使)に話しておくから」


ジェニーは軍服をどこかに持って行ってしまいました。



「しょせん女には男が軍服に抱くロマンがわからんか」

「わたしにはわかるわ」

しかし、そのとき、飲み込んだタバコの葉のせいで、
ベイリーは急いでトイレに駆け込むはめになりました。

余談ですが、もし葉巻の葉を飲み込んでしまった場合、14%が
急性ニコチン中毒で彼のように吐き気を催し嘔吐するといわれています。

これが原因で死亡にまで至ることはたぶんありませんが、まともな人間なら
どんなことがあってもタバコの葉など飲み込もうとは思わないものです。



続く。



映画「フライングフォートレスの物語」〜メンフィス・ベル 国立アメリカ空軍博物館

2024-02-20 | 映画
The Memphis Belle: A Story of a Flying Fortress

メンフィス・ベルのシリーズを始めてから何度も触れたように、
この爆撃機は「官製の英雄」として、有名になりました。

有名になる前からそのように仕立てようというプロジェクトありきで、
とにかく25回の任務を最初に終えそうな爆撃機に目星をつけ、
その直前から、任務達成に向けた記録作りが始まっていました。

その手段として選ばれたのが、ドキュメンタリー映画の制作です。
映画の制作にあたっては、陸軍所属だった映画監督、
ウィリアム・ワイラーがヨーロッパに派遣されました。

■ ウィリアム・ワイラー中佐


Lt. Col William Wyler軍服

アメリカという国がいかに映画を情報伝達と、
プロパガンダに有用なものと認めていたかは、
この映画監督を映像での宣伝を指揮する「司令官」として
中佐の階級まで与えていたことからもわかります。


イギリスの陸軍航空隊基地にて

ワイラーは1943年末に中佐に昇進した。

1943年末に中佐に昇進したワイラーは、この軍服を着て
イタリアで次のドキュメンタリー映画、 "サンダーボルト!" 制作をした。

このカラー映画は、戦争末期の戦闘爆撃機作戦を描いたものである。

1945年に戦争が終わると、ワイラー中佐は軍役を退いた。

その後もハリウッド映画の監督として、
『わが生涯の最良の年』

『ローマの休日』
『ベン・ハー』
などを監督し、12部門にノミネートされ、
3度のアカデミー監督賞を受賞するなど、数々の栄誉に輝いた。

陸軍の協力を行ったのは第二次世界大戦のときでしたし、
むしろ、その後に輩出した作品群が凄過ぎて、
陸軍中佐としての経歴を知らない人の方が多いかもしれません。

「嵐が丘」「黄昏」「大いなる西部」
「ファニー・ガール」「おしゃれ泥棒」

これらの有名作品もワイラー監督作品です。


ちなみにワイラーはドキュメンタリー「サンダーボルト」撮影時に
風圧と爆音で聴覚神経を傷めてしまい、右耳の聴力を失っています。

Thunderbolt (1947 film)

1947年にワイラーとジョン・スタージェスが監督した「サンダーボルト」は
第二次世界大戦中、コルシカ島を拠点とした第12空軍の飛行隊による
「ストラングル作戦」を描いたものです。

アンツィオのビーチヘッドへの枢軸国軍の補給線を妨害するという作戦で、
最初にプロローグを読み上げるのはジェームズ・ステュワート

ちなみにジェームズ・ステュワートは志願入隊して
ヨーロッパ戦線に爆撃機パイロット&指揮官として参加しており、
最終的には准将にまで昇進したガチの高位軍人ですが、
俳優として宣伝映画にも出演しており、この作品もその一つです。

ナレーションでは陸軍航空隊司令官のカール・スパッズ将軍の言葉、
「1944年は古代の歴史になってしまった」を引用しています。

この時の撮影では、リパブリックP-47サンダーボルト
パイロットの背後、主翼の下、ランディングギアのホイールウェル、
計器パネル、銃が発射されたときに同期して撮影する銃の中に、
ワイラー監督はカメラを搭載して撮影
しています。

爆撃機と違い、戦闘機に同乗するわけにいきませんからね。

映画の30分すぎから、隊員たちの余暇の様子が描かれますが、
子犬にミルクを与えたり、犬をボートに乗せたり、
カラスをペットにしている人なんかが出てきます。


撮影のためB-17に乗り込むワイラーとクルー。

右:ウィリアム・クローシエ(Clothier)カメラマン
窓の中:ウィリアム・スカール(Skall)カメラマン
左:キャヴォ・チン(Cavo Chin)イギリス戦時特派員

ワイラーとカメラマン二人の名前が全員ウィリアム。

ワイラー、名前でスタッフを選んだのか?

ところでお断りしておきますが、この人たちの全員、
軍事教練など軍組織での訓練を受けたことは一度もありません。

ワイラーが陸軍に関わるようになったきっかけは、彼が戦前に
「ミニヴァー夫人」というプロパガンダ映画を監督してからのことです。

映画の内容は、アメリカの「不干渉主義」への批判であり、
積極的な戦争への参加を推進するものだったので物議を醸しましたが、
この映画はイギリス国民の共感を強く得ることになります。

そんなことから、ワイラーは自ら志願して航空隊に報道枠で参加し、
何の軍事的下地もないまま、少佐の肩書きで映画を撮ることになります。

陸軍がワイラーに少佐の階級を与えたのは、年齢もあったでしょうが、
(当時40歳)実際戦地で危険を犯して映画の撮影をしたことに対する
「功労賞」の意味合いが大きかったと思われます。

「毎日全体の80%の搭乗員が失われていた」


と言われる当時の戦況で、実際にB-17に乗り込んで、
爆撃任務の全行程を撮影するには、死の覚悟が必要でした。

実際にワイラーは、一度爆撃機の中で酸素不足により失神していますし、
彼のチームとして撮影に当たっていた撮影監督の、


ハロルド・J・タンネンバウム中尉

は、「メンフィス・ベル」の撮影中、1944年4月16日、
乗っていたB-17が撃墜されて戦死しています。

このとき、爆撃機クルーの数人はパラシュートで脱出し、
タンネンバウム中尉もベイルアウトしたのですが、不慣れだったため、
パラシュートが外れたのではないかと言われています。

彼はもともとRKOの音響マンでしたが、ワイラーに誘われて
監督としてヨーロッパに一緒に乗り込んできていました。

年齢は47歳とワイラーより上でしたが、
監督になれるチャンスと考えて、ワイラーの誘いに乗り、
危険な職場と知りつつ、転職してきたのだと思われます。



■ 映画「メンフィス・ベル
:フライングフォートレスの物語」


さて、それでは映画「メンフィス・ベル」についてです。

冒頭の映画は、ワイラー監督がドキュメンタリーに徹し、
故郷の家族談とかいらんサイドストーリーを一切省いたシンプルな作りで、
劇場映画でありながら40分という短い尺に収まっています。

~1:05 オープニングタイトル


~4:05 出撃前に整備&武器搭載が行われるB-17
爆薬の上にまたがってハモニカ吹きつつ一緒に移動する整備員たち

~5:28スタンリー・レイ司令によるブリーフィング
本日の爆撃目標はドイツのエムデン


最後にチャプレン(従軍牧師)によるお祈りあり


ジープでクルー到着、乗り込み


乗り込み前に機長からの短い指示あり
士官は全員最後になるかもしれない喫煙をしながら


ボールターレットに乗り込むクィンラン
(まさかとは思っていたけど、離陸時から乗り込んでいる)

7:06 離陸
ボールターレットの中に仕込んだカメラからの映像あり

11:20~クルー紹介
経歴と出身地は必ず

爆撃目標はエムデンのウィルエルムズシャーベン。

ウィルヘルムズシャーベンは戦争中、連合軍の爆撃により
町の建物の3分の2が破壊されましたが、
主要な標的であった海軍造船所は深刻な被害を受けながら操業していました。

 19:53〜ドイツからの迎撃開始、対空砲

21:29〜目的地上空 敵戦闘機と交戦
爆弾投下、帰投

24:20〜敵戦闘機と抗戦

25:30〜僚機が被弾、撃墜されて落ちていく

「カモン、お前ら脱出しろ!」
「テイルガンナーが脱出したようだ。戦闘機に気をつけろよ」

「クィンラン(ボール砲手)どうなったか見ておけ」
「9時方向でパラシュート二つ確認」

と意外と冷静な感じで淡々と言っています。
僚機は機内には8名が取り残された状態で墜落し、まさに
「10人のうち8人が帰らなかった」という統計通りになりました。

26:21ごろ、戦闘機がパラシュートを引っかけたらしく、

「あいつが捕まりました、チーフ(機長)!ベイルアウトしたのに!」

「インターコムで叫ぶな」(冷静)


というやりとりもあります。

27:07〜傷ついて弱ったB-17に群がってくる敵戦闘機

みすみす仲間がやられていくのを見ているしかありません。
フォーメーションを崩すわけにはいかないからです。


27:28〜帰投してくる機を待つ基地の人々

搭乗員たちはゲームをしながら

負傷者がいる機は優先的に着陸できるきまりです。

29:25〜負傷者ファースト

対空砲の破片が身体にめり込んだ人など。


「彼らはパープルハート徽章を授与されるだろう。この男も」

しかし、遺体が帰ってこられただけ良かったとも言えます。
男が受けている輸血について・・・

「彼が体内に入れている血は、デモインの女性高校生のかもしれないし、
ハリウッドの女優のかもしれない。
いずれにしても彼に感謝している人たちのものだ」

30:35〜次々と着陸してくる機体

全くの無傷は1機だけ。
29機目はパイロットが怪我をしているので着陸が粗い、と。


テイルガンナーは死亡したとのこと


爆撃手を失った機(下部の赤はおそらく血の色)

中には、ノーズのエポキシグラスごと破壊され、
ナビゲーターが機外に失われた機もあったようです。

この日出撃したのは36機、帰投したのは32機でした。
メンフィス・ベルは3機で一番最後に帰投してきます。

35:27〜メンフィス・ベル タッチダウン
25回目のミッションを完了


手を振るモーガン機長とハロルド・ロッホ上部砲手


タキシングの時にすでに上にまたがっている人


ノーズから手を振る爆撃士エバンスとナビゲーター


胴部ガンナー二人


地上に降りるなり地面にキスするクルー



映画ではこれを尾部砲手の役をしたハリー・コニックJr.が再現しています。

クルーに持ち上げられて「ベル」のヒップにタッチするモーガン

37:01〜イギリス国王夫妻謁見



エンディングでは、ミッションの後の穴だらけの地面に
the endのタイトルが重なります。
どれだけ落としてるんだよ。


映画の広告はかず多く作られましたが、
このバージョンは犬のスコッティも含め、まるで全員俳優のようです。


おまけ:このシーンは不採用


続く。