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ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に靖國神社

映画「雲ながるる果てに」〜戦歿飛行予備学生の手記 後編

2025-04-16 | 映画

宿舎に帰ってきた大瀧中尉は、
上島上飛曹(西村晃)の頬に殴られた跡があるのを見咎めました。



「どうしたんだ」

「敬礼の仕方が悪いと言って修正を受けました」

「誰に」

「第三飛行隊の・・」

「馬鹿野郎、第三飛行隊はもうおらんじゃないか」

「たった今着任されたんであります」

「チッ・・・特攻の仁義を知らねえな?よし来い!」


前の部隊が全員特攻に行っていなくなったので、
新しく補充されてきた「次の消耗品」士官は、宿舎で先人の遺した

「後から来る消耗品に告ぐ、冥土で待ってるぞ!!」

という書き置きを読んでいました。

「・・いやなこと書きやがる」


そこに上島上飛曹を連れてやってきた大瀧が、勢い込んで、

「おい、この男を殴ったのは誰だ!」

しかし次の瞬間・・・・



「大瀧!」「加藤じゃないか!」「生きていやがったか!」「貴様もか!」
「こいつうう〜〜!」「はっはっはっは」




「・・・・・・・・」(チッ)



同期の間で盛んに知人の消息について情報交換がなされます。

「笠原は?」「この間往った。黒板の連中と同じときだ」

「竹内どうした」「硫黄島だ」「水野は?」「台湾で別れたきりだ」


「杉村は?」「わからん」「畜生、だいぶやられたな」

上島「・・・・・・・・」


憮然としている上島に気がついた大瀧は本来の用事を思い出し、

「おい、こいつを殴ったの誰だ」「俺だ」

「お前か。勝手なことしゃがって!」



たちまち取っ組み合いが始まりますが、弾けたように笑い出して、
全く本気モードではありません。

不満そうな上島。



そこに従兵が大瀧宛の故郷からの電報を持ってきました。
明日の朝、両親と幼馴染みの’よっちゃん’が面会に来るという知らせです。


大瀧、喜び勇んで部屋を走り出てしまい、置いていかれた上島は、
慌てて敬礼を(ちゃんと)し、後を追いかけていくのでした。



宿舎中を駆け回って自分の喜びを皆に伝えずにいられない大瀧。
深刻な顔をしていた深見もつい釣られて笑いをこぼします。


ご機嫌の大瀧、皆に喜びのお裾分けとばかり、

「従兵、酒が来たからやるぞ」

「ご馳走になります!」


「親父とお袋が来るんだよ!りんごのほっぺたも来るぞお!」


しかし、その頃、部隊には司令部からある作戦命令がもたらされていました。



翌払暁、皆が集められます。
沖縄方面の敵機動部隊に対し、可動機全機による特攻が発令されたのです。
昭和20年4月16日に行われた「菊水三号作戦」がこれに当たります。

飛行場ではすでに爆装が始まり、各機には500キロ爆弾が搭載されました。


「本日の指揮は村山大尉が執る!」



深見は大瀧を呼び止めました。

「汽車が着くのは5時だったな?
到着したら電話をしてもらうように駅長に頼もう。
声だけでも聞いていけよ」




「間に合えばよし、間に合わなければまた致し方なしだ。覚悟はできてる」

「大瀧・・・・」

「どうも話がうますぎたよ!はっはっは」

大田区は深見を軽く叩くと笑いながら走って行きました。


出撃までの1時間、隊員たちは「自分のしたいこと」をして過ごします。
故郷に電話をかける上島上飛曹。

「もういい加減カタギになれよ」

一体誰に電話してるんだろう。



ボタン付けをしている田中中尉。



アルバムに写真を貼り付ける岡村中尉。



髭を念入りに剃る野口中尉。



彼らの様子をじっと見つめる深見中尉。



辞世の句がどうも浮かんでこない北中尉は仲間に助けを求めます。

「特攻隊 神よ神よと おだてられ」

「どうもロマンチックじゃねえなあ・・・はっはっは」




その頃、何も知らない大瀧の両親と幼馴染を乗せた汽車は
九州に近づいてきていました。



出て行ったまま帰ってこない大瀧を探しに行った深見が見たのは、
誰もいない林の中で慟哭しながらのたうち回る彼の姿でした。



「父ちゃん・・・母ちゃん・・・よ、よっちゃん・・・・
会いたい、会いたい、会いたいっ!」

このシーン始め、エモーショナルな場面で聞こえてくるのは、
芥川也寸志が手がけたドイツロマン派風のBGMです。


やおら立ち上がった大瀧は、海軍五省を唱えたあと、
服を脱いで湖に飛び込み、泳ぎ出しました。



深見は司令室に行ってこう告げます。

「私も往かせてください!」




「貴様その体では無理じゃないか」

「大丈夫です。レバーぐらい握れます」



「村山、連れて行ってやれ」

この飛行長のおっさん、目つきも何もかもが不遜です。
村山大尉の最後の出征を見送るための酒席のはずなのに、
楽しげに酒を飲み、ものを食い、さらに、口にものが入っている状態で、

「深見、なかなか立派になったぞ」


「深見、一緒に死のう!」



黙って敬礼を返す深見中尉。
深見が去ると、後ろの士官どもは、

「特攻隊にまた美談が増えたな」

「早速デカデカと報道班員に書かせますか」

「明日の新聞は賑やかになるねえ」


そして全員で何がおかしいのか呵呵大笑し、
それを背中で聞いていた村山大尉は黙ってその場を去りました。

その後も、楽しげに

「今日は2割は当たるかな」

「いやあ、もっと当たる!」


そこに明日の朝特攻出撃する士官もいるのに、
こんな無神経なことを言う士官が本当にいたとは考えられません。
流石にこれは映画上の創作ではないでしょうか。

過去観た学徒出陣を扱った映画は、兵学校士官を敵扱いして、
いかに酷い連中だったかを強調する傾向がありました。

深見中尉が準備のために部屋に戻ると、全員から声をかけられます。

「深見、貴様から親父に手紙を渡してくれないか」

「深見、貴様生き残ったら俺のうちに寄ってくれよな」

「俺んとこも頼むわ。
うちのお袋は泣き虫やさかい、塩梅よう頼みまっせ。
・・・・おう、なんや?」


後ろで着替えをしていた深見に初めて気がつきました。

「俺もいくぞ」

無理するな、とか付き合いが良すぎるぞ、と声をかける戦友に、

「貴様たちと一緒に死にたいんだ」



「誰の命令だ。隊長か?飛行長か?」

「命令は受けん。許しを得てきた」

「何があったんだ」



「何もないよ。心配するな」

大瀧は、先日の二人の議論で自分が言ったことを根に持っているのか、
と聞きますが、もちろんそれは違い、深見は、この期間に
自分だけでなく皆がそれぞれの気持ちで苦しんでいることを知り、
皆と一緒に死にたくなった、と訴えます。


それでも尚深見を行かせまいとする大瀧ですが、
最後は無言で白いスカーフを巻いてやります。



誰が始めたか、いつの間にか皆は「同期の櫻」を合唱していました。


出撃時間は迫っていました。
地上における最後の時間を、彼らはいつものように過ごします。



「大瀧、ゆっくり話す間もなかったな」

「うん、これからはずっと一緒だ」

加藤中尉は、着任した次の日に特攻出撃することになってしまいました。



「今や皇国の必勝のためにお前たちの命を捧げる時が来た!
お前たちは生きながらにすでに神である」


搭乗前に、各自故郷の方向に最後の挨拶をします。



その時、大瀧の家族は基地のすぐ近くまで来ていました。


搭乗機の前で別れを告げます。



飛行場にZ旗が揚げられました。


離陸の映像は実写フィルムです。



帽振れで送る基地の人々。



格納庫の前からかろうじて機影を見送った家族。
父は万歳し、幼な馴染みは手を振り、母は手を合わせます。



攻撃の状況が通信されてきました。






その後は火を噴き海に墜落する飛行機の実写映像が流れます。



通信音が「ピー」と鳴り続けている間は「突入中」です。
その音が切れたとき、それは操縦者がこの世から消えたことを意味します。



最後の通信音が途切れ、参謀が言います。

「思ったよりいかんな」

「まだまだ技量未熟だ」


「何、特攻隊はいくらでもある」

この士官たちの描写に対し、どこかから文句は出なかったんでしょうか。



その日、国民学校の唱歌の時間に子どもたちが歌うのは、
搭乗員たちが弾いていた「箱根八里」でした。



深見がもうこの世にいないことを、彼女は誰から聞いたのでしょうか。



大瀧の家族は、いつまでも、いつまでも飛行場に立ち尽くしていました。



お父さん、お母さん、よっちゃん、愈々後1時間の命です。
最後の筆を取ります。
お父さん、お母さん、25年のご慈愛を心からお礼申し上げます。
僕の大好きなすべての人、懐かしい故郷の山河、そして平和な日本。

それを思い浮かべながら今死んでいきます。

お父さん、身体に十分気をつけてください。
月に一度は山田先生の診察を受けるように。
これだけは是非お願いします。
お母さん。優しいお母さん。
お母さんに泣くなと言うのは無理かもしれませんが、
どうか泣かないでくださいね。
お母さん、お母さん、お母さん。
何度でもこう呼びたい気持ちでいっぱいです。

よっちゃん。林檎のほっぺただ。
思い出すと楽しいことばかりだった。
両親のことを頼みます。

ではみなさん、どうかいつまでも、いつまでも長生きしてください。

往ってまいります。

昭和20年4月16日、
神風特別攻撃隊第三御楯隊
海軍中尉 大瀧正男
身長五尺六寸 体重十七貫五百

きわめて健康




「特別攻撃隊 全史」の記録によると、昭和20年4月16日に行われた
「菊水三号作戦」では、海軍176機、陸軍52機の特攻が敢行されました。

大瀧中尉がいたとされる第三御楯隊は、六〇一、二五二部隊が出撃し、
そのうち予備士官は下の5名となります。

青木牧夫中尉 高知師範 爆戦 喜界島付近
岡田俊男中尉 東京帝大 彗星 喜界島
天谷英郎中尉 福井高工 彗星 喜界島
和田守圭秀中尉 島根師範 彗星 喜界島
福元猛寛少尉 松本高校 彗星 奄美大島

この日出撃した士官64名のうち、海軍兵学校出身者は、

畑岩治中尉 海兵72期 97艦攻 嘉手納沖
村岡茂樹中尉 海兵73期 天山 沖縄周辺
中村秀正中尉 海兵73期 爆戦 喜界島南東

の3名でした。

本日、4月16日は、本作映画のモデルになった学徒士官たちが出撃した
菊水三号作戦が行われてからちょうど80年目になります。



終わり。

映画「雲ながるる果てに」〜戦歿飛行予備学生の手記 中編

2025-04-13 | 映画

その晩、村山大尉が総員上陸をコールしました。



上陸すなわちレス(料亭)で宴会です。



目の座った村山大尉が「もっとやれ!」と檄を飛ばすと、
海軍名物「芋掘り」(レスなどでの乱暴狼藉・破壊行為)の始まりです。

彼らの明日をもしれない運命を世間が了解していることもあって、
こういった芋掘り行為は半ば公然と行われ、お目溢しされる傾向でした。

天井にぶら下がる者、池に何か投げ込む者、障子を破る者・・。



大瀧中尉は敵空母轟沈!と言いながら、襖に飛び込んで行きました。



見事襖を破って隣の部屋に突入。



隣の部屋で体を起こしてみると、



そこに二人でいたのは松井の恋人富代と北中尉でした。
てっきり大瀧は北が富代を口説いているのかと思って激昂するのですが、



「違う!これだよ!」

「・・・辞世一句?」



「不精者 死際までも 垢だらけ」ダラ松
富代様


北中尉は松井からこれを預かってきたのでした。



「あたしゃね、いっぺんくらいあの人を風呂に入れて洗ってあげたかったよ」

それをいうと畳に突っ伏して嗚咽する富代。



しかし、なぜか松井の辞世の句に乾笑いしてしまう大瀧でした。



翌日行われるはずだった飛行作業は、燃料不足のため中止になりました。

映画で使用されている機体については説明がないのですが、
映画が制作された1953年には、後に映画で零戦の代わりに登場した
T-6テキサンはまだ自衛隊に供与されていないことから(1955年に供与開始)
この映像は戦中のフィルムではないかと考えます。



飛行作業がなくなり、村山大尉の「命の洗濯でもしておけ」という言葉で、
各自思い思いにその日1日を過ごし始めました。



子供達とチャンバラごっこをするのは山本中尉。
子供達と一緒に走り回っている様子を見ても、
この俳優がこの直後亡くなるとはとても想像できません。



木陰で語らうのは野口中尉と田中中尉。

「尊敬していたドイツ人の宣教師に、
『人間と人間の殺し合いを神様はお許しになるんだろうか』と聞くと、
牧師は三段論法で、『アメリカは悪い。悪いのを討つのは良いことだ。
だからこの戦争を神様はお許しになる』とさ。




「俺あその時からその牧師のやつが嫌んなってねえ・・・」



池のほとりで「お家訪問ごっこ」をして遊ぶのは、北中尉と岡村中尉。
岡村中尉(右)を演じているのは若き日の金子信雄です。
禿頭のおじさんのイメージしかなかったのでちょっと驚きでした。

「いいうちだなあ」

「えれえシャッとしたセビロ着てんじゃないか」

「おお、えらい難しい本読んでるなあ」




「へへ、ゲーテだよ」

「原書か・・ぼくドイツ語は苦手やさかいなあ」




「おう、ちゑ子、こっち来い」

「べっぴんさんやなあ・・あんたはん、京美人だっか?」




「はっはははははは」

二人の笑いはすぐに吸い込まれるように消えていきました。



燃料不足で飛行作業が中止になった一日、腕を負傷している深見中尉は、
宿舎となっている国民学校の瀬川道子教諭と二人で語らっていました。



彼の実家は(おそらく)山形で、時計店を営んでいます。
兄は死んだ父親に代わって職人として店を切り盛りし、
母はこけしに色をつける内職をして、慎ましい暮らしの中、
深見を大学まで進学させてくれました。



兄が嫁をもらい、弟が大学を出て銀行に勤めるのが、
母親の思い描く夢だったのです。



深見が進学したのは京都帝大でした。
この1952年当時の映像は、現在の京都大学の正門の様子と
全くと言っていいほど変わりがありません。

この門は、1889年、第三高等中学校正門として建設されました。

その学舎で学徒を戦線に駆り出すための演説が行われています。




「山本元帥の戦死、アッツ島の玉砕、諸君はこのことをなんと考えているか。
今や祖国は寸刻の躊躇を許さない、絶対の危機である。
盟邦ドイツの学徒はすでに立ち上がった。
諸君らもこれに遅れてはならない!」




演説を聴く学生の中に、大瀧と深見もいました。

「立て、学徒諸君!往け、海と空へ!」

1941年、内閣は不足する兵力を学生から補うため、就学年限を短縮し、
1943年になると、理工系と教員養成系を除く文科系の学生に対し、
徴兵延期措置を撤廃する臨時特例を実施しました。

学徒出陣によって海軍に入隊することになった多くの学生は、
高学歴者であるという理由で、予備学生、予備生徒として、
不足していた野戦指揮官クラスの下級士官または下士官に充てられます。

ちなみに、学徒出身の戦後の有名人は多く、例えば、
中華民国総統であった李登輝は、京都帝大在学中に学徒出陣しています。

この映画に上飛曹役で出演している西村晃もまた、
日本大学専門部芸術科在学中に動員され、第14期海軍飛行予備学生として、
徳島海軍航空隊の白菊特攻隊に配属されています。

西村の部隊には裏千家の千玄室もいましたが、
彼らが出撃する前に戦争は終わり、部隊でこの二人だけが生き残りました。



海軍の部隊に入隊した学徒たちを待ち受けていたのは、
兵学校卒士官からの教育に名を借りた虐めとシゴキでした。

「貴様らのせいで70年の海軍の歴史は汚された!」


いや、僕らをここに入れたのはその海軍なんですが



そして、「娑婆気を抜く」という名目のもと、
学徒たちを兵学校士官たちが殴るリンチが行われます。

兵学校士官にすれば、昨日まで学生だった連中が自分と同じ士官を名乗るのが
単純に面白くないという気持ちからでしょうが、その鬱憤晴らしのため、
理不尽な暴力が公認されていたことは、海軍の陰惨な黒歴史の一つです。


連帯責任も海軍の伝統の一つ。
一人が「飛行機を壊した」ので全員が飛行場を3周ランニングさせられます。

グラウンド3周と違い、飛行場はとてつもなく広いので、
終わる頃には陽は暮れかけています。


全員が走り終わった後も、飛行機を壊した本人は、
飛行場で一人起立して「反省」をさせられます。



それは深見でした。


そして、ついに彼らが「特攻隊員」になる時がやってきます。

「諸君の肉体をもって敵を撃滅してほしい」

この司令を演じているのは加藤嘉(よし)。
「海軍」の主人公の父、「白い巨塔」(田宮二郎版)で演じた
謹厳な大河内教授の役が印象に強く残る俳優です。


ここには、大瀧と深見の他に、後の田中中尉(織本順吉)、



山本中尉(沼崎勲)、



岡村中尉(金子信雄)、



北中尉(清村耕二)がいました。



それらの思い出を瀬川道子に語る深見。

「砂の上にこうして一本足を下ろす。
ここは僕の足が今の今まで触れたこともない土なんだ。
生まれて初めて足を下ろす土なんだ。
ここも、ここも、ここも。

僕のこの足跡が25年前の故郷からずっとここまで続いてきた。
そしてここで終わるか、あそこで終わるか・・・もういくらも無い。

・・・・知らないことが実に多いなあ」


この独白は、確かめたわけではありませんが、
「雲ながるる果てに」に掲載された実際の学徒士官の言葉かもしれません。



「できるだけ足跡を多くつけておこう」


ところが、砂浜から上がってきた二人は、
まずいことに片田飛行長に見つかってしまいます。



「貴様、軽病患者の分際でどこをふらついているんだ!
特攻隊と言われりゃいい気になりやがって!」

料亭の女将と組んで私腹を肥やしてるやつが何言ってる。



綺麗な先生と一緒にいたっていうのもお怒りポイントの模様。
腹立ち紛れに何発も怪我人を殴りつけます。

「困ったもんだよ予備学生なんてのは!
女の後ばっかり追いかけやがって」



憎々しげに言い捨て、飛行長が去っていくと、
瀬川道子は嗚咽して駆けて行ってしまいます。



追いかけた深見はつい瀬川を抱きしめ、彼女は泣きながら
どこかへ連れて行って!と激情に駆られ何度も叫んでしまうのですが、
幸か不幸か?そこにちょうど空襲が来てしまいます。


それで気が削がれたというか、すっかり意気消沈してしまう二人。
瀬川が、

「さっきはごめんなさいね」

と謝ると、深見は静かにこういうのでした。

「どこかへ行ってしまいたい、それはあなただけの気持ちじゃありません。
でもそれは僕にはできないんだ。

目に見えない大きな力が、僕らを墓場の中にぐんぐん引き摺り込んでいく。
いや・・・僕は墓場にも入れやしない。
敵の船に突っ込めば、肉も骨も一筋の髪の毛さえもが消えてしまうんだ。

現在すでに僕らには、人間の愛情も人間の意思も、

人間的なものは何一つ、何一つ残されていない。
ただ戦争のための一個の消耗品に過ぎないんだ。

これが深見の現実の姿なんです」



次の飛行作業は訓練でした。
左は航空監視専用の双眼鏡です。



その最中、異変が起こりました。


飛行中の一機が、操縦ミスか機体不調のせいか、不審な動きを始めました。

このシーンの飛行機の模型担当は「圓谷特殊技術研究所」となっています。
円谷英二がその2年前の「聞けわだつみの声」の特撮のために創設した
6畳の大きさくらいの撮影所で、スタッフは4、5人でした。
これこそ後の「円谷プロ」の前身です。



「角度が深い!」



皆が見守る中、飛行機は空中分解ののち墜落しました。


墜落した機に乗っていたのは、子供たちとチャンバラしていた山本中尉です。



現場は、誰が見ても乗員が生きている可能性のない状態でした。


遺体は隊員の手ですぐさま荼毘に付されることになりました。



山本の持ち物と遺体から外した階級章、そして
彼の遺骨を納める壺と木箱を用意して作業が始まります。



荼毘を見守りながら、深見と大瀧は特攻の是非について語り合います。
あくまでもその方法に懐疑的な深見に対し、大瀧は諦観した様子で、

「深見、戦争は理屈じゃないぞ。生命の燃焼だ。
人間の根源的な情熱なんだ。
悠久の大義に生きる・・・個人の存在を超越した、
民族的な情熱への自己統一なんだ。
元来俺たちの命は天皇陛下からお預かりしているんだ」

と肯定する立場を示します。



「深見、貴様、女に惚れて死ぬのが怖くなったのか」



一旦は否定した深見ですが、うな垂れて告白します。

「この手を怪我した時、もしかしたら自分は助かるかと思った。
あれから腰がふらついてきたんだ。
瀬川さんに対する愛情も否定はしない・・・けど、
そういうことじゃないんだ。

・・・大瀧、貴様・・悠久の大義で死ねるのか?」


「馬鹿っ!・・・貴様、怪我をしていなければ殴りつけてやるぞ!」

しかし大瀧の目には明らかな動揺が浮かんでいました。

続く。



映画「雲ながるる果てに」戦没海軍飛行予備学生の手記 前編

2025-04-10 | 映画

本作品は、大学・高専を卒業もしくは在学中の1943年(昭和18年)9月に
第13期海軍飛行専修予備学生として三重または土浦の両海軍航空隊に入隊、
特攻散華した神風特別攻撃隊の青年たちを中心とする遺稿集、

「雲ながるる果てに 戦没飛行予備学生の手記」

を元にして制作された映画です。

主人公の学徒士官に、鶴田浩二(当時29歳)木村功(30歳)
沼田洋一(29歳)金子信雄(30歳)西村晃(30歳)というオールアラサー、
彼らの兵学校卒隊長を原保美(38歳)が演じるという、
全体的に実際より少し上の世代によるキャスティングとなっています。


昭和20年4月、九州南端の特攻基地から故郷の両親に宛てて書いた、
主人公大瀧中尉(鶴田浩二)の手紙の朗読から映画は始まります。

九州南端の特攻基地とは、鹿屋航空基地のことでしょう。
戦争中、特に末期の沖縄戦の頃には第5航空艦隊司令部が置かれ、
数多くの神風特別攻撃隊の出撃基地となりました。

ここから出撃した特攻隊員は828名に上ります。



隊員たちが木陰で眠りを貪っているところに空襲警報の幟が立ちます。
たちまち「回せ〜!」と手を回しながら邀撃班は走り出し、



あっという間に機に飛び乗って出撃していきます。
この秋田中尉は、この後戦死してしまうことになります。



地面に掘られた掩体壕に駆け込む途中で、
深見中尉(木村功)が腕に被弾し負傷しました。


「くそお!」と叫ぶと銃を敵機に向けて撃つ大瀧中尉。



地元の国民学校の校舎が彼ら搭乗員の宿舎です。



校庭では生徒たちが食料を植えるために土を耕しています。
一人が「兵隊さんが帰ってきた」と叫ぶと、皆が
「兵隊さん、おかえりなさい」と合唱するのですが、



教諭の瀬川道子は、はっとして動きを止めます。



深見中尉が腕を負傷していたからでした。
(このシーンの木村功とんでもなくイケメン)



予備士官たちの宿舎の部屋には、同室から戦死した仲間の祭壇がありました。
今日そこにまたひとつ「秋田中尉」と記した位牌が加えられます。


皆が秋田の遺品を整理していると、飛行隊長である村山大尉
(原保美)が明日の出撃搭乗員名簿を持ってやってきました。

村山大尉は予備士官からなるこの第一飛行隊の隊長であり兵学校卒士官です。
かれもまた、いつかは特攻で出撃する運命にありますが、
それまでは航空隊の出撃「宣告」を行う立場です。

この立場だった兵学校卒元士官の方が戦後に書いた手記を読みましたが、
特攻を部下に命じる立場に苦悩していたことが書かれていました。



予備士官は10名のうち4名。
この松井中尉(高原駿雄)と、



北中尉。



そして主人公の大瀧中尉。



沼田曜一演じる笠原中尉の4名で、あと6名は下士官です。
名前を呼ばれた者は、はい、と返事し、身を強張らせます。



その夜は、司令から届けられた酒で宴会が行われました。

「おい、明日の今頃、俺は化けて出るぞ!」



「お前ら予備士官に我々帝国海軍の伝統は汚された!
歯を食いしばれ!」

自分たちが任官後兵学校士官に言われた言葉、
殴られた嫌な思い出を今更のように再現する悪趣味な人。




学徒士官たちは皆そのことに今もトラウマを持っています。
そしてなぜ俺たちばかりが死に追いやられるのか、というやるせない怒り。


酒の席では当然「女」が話題になります。

ここでも芸者の一人と馴染みになり、
「最後まで娑婆気の抜けぬ予備士官」を地でいく松井中尉に、
女というものは美しくて可憐なものだ!と説教するのは大瀧中尉。


しかし、誰いうともなく、思い出したように本日の戦死者、
秋田中尉にお酒を捧げ「同期の桜」を歌うのでした。



宴会に下士官たちが加わった頃、明日出撃の「ダラ松」こと松井中尉は、
馴染みのエス(芸者)富代と今生最後となる逢引きを決行しました。



料亭の一室では、特攻隊の飛行長片田大佐と女将が何やら密談しています。

「飛行長さんの顔で回してくださいよ」
「飛行長さんの命令なら右から左ですよ」
「いっぺん宴会やったことにすればよかでしょう」


などと、盛んに何かを持ちかけています。
「ねえ、飛行長さん、その代わり」
と耳元で何かをヒソヒソ。

「女将も特攻隊に感謝するんだな」

よくわからないけど、飛行長に賄賂?を渡して、
何かずるいことをしようとしていることはわかった。
こいつら結構とんでもないな。



朝方まで一緒に過ごした松井と富代は、ふざけながら航空隊の門まで来ると、
握手をしてパッと反対方向に駆け出し、別れることにしました。



すぐに振り返って男の背中を凝視する富代でした。



ところが、その日雨が降り出し、出撃は中止となってしまいます。



というわけで、飛行隊長による座学が行われることになります。

今更アメリカの機動部隊のフォーメーションを示し、
狙うのは空母だとか、被弾したら躊躇なく目前の艦に突っ込めとか、
今更なことをもっともらしくレクチャーしています。

これ、今朝出撃予定だった搭乗員が初めて聞くとかじゃないよね?



今日一日を命拾いした大瀧中尉は、風呂に入って文字通り命の洗濯中。


彼がまぶたに浮かべるのは、故郷の父母の元にいる自分の姿でした。


同じような句を黒板に書く二人。
まあ、こうとしか感想はないかもしれません。


暇を持て余した彼らは、小学校の教室で、オルガンの発表会。
腕に自慢のある北中尉が「箱根八里」の完奏に挑戦です。


その時教室の後ろから深見中尉が入ってきました。
瀬川道子は、お互いにしかわからない好意を込めて目で挨拶します。

山岡比佐乃という女優について年配の役のイメージしかありませんでしたが、
この映画で当時27歳のキリッとして清楚な彼女を見ることができます。
チートなし加工なしのまぎれもない天然美人です。



ダラ松こと松井中尉が昨夜の寝不足を補っていると、
上島上飛曹(西村晃)が伝達を持ってきました。

起こそうとするとむにゃむにゃと抱きついてくる松井に、

「昨日の続きのつもりでいやがる。これが生き神様の顔かねえ・・」

呆れた上島は偽の空襲警報で叩き起こし、松井に要件を告げます。

「秋田中尉の奥さんが面会に来たんです」



秋田中尉・・・昨日邀撃に出て戦死したばかりです。
上島上飛曹は分隊士である松井に対応をさせようとしてきたのでした。



秋田の妻(町子)役は朝霧鏡子という女優さん。
この映画のすぐ後引退して家庭に入ったため、芸歴は長くありません。

背中に赤子をおぶった可憐な若妻を前に本当のことが言い出せず、

「秋田中尉は一昨日前線に移動しました」

と咄嗟に嘘をついてしまう松井中尉。
しかも、秋田中尉の位牌や遺品を隠す姑息な細工まで・・。



困った松井中尉はみんなを呼び入れますが、彼らもまた本当のことが言えず、
松井のついた嘘に調子を合わせ始めてしまいます。

「あのう、秋田は・・・」

「ああ、秋田は前線で今頃やす子ちゃんの自慢話ですよ!」

「やす子ちゃん、皆で写真撮ってお父ちゃんのところに送りましょうね〜」



「やめてくれ!」


その空気に耐えられなくなったのは、今朝出撃を逃れた笠原中尉でした。

「嘘はやめろ!奥さん、秋田は・・!」



「・・・秋田は死んだんでしょうか?」




誰もそれに答えないことが真実を物語っていました。
わっと泣き伏す町子。

秋田中尉は娘の顔も見ないまま逝ってしまったのでした。


雨の中、娘を背負い、秋田の遺品を持って帰っていく秋田の妻。


その後ろ姿を沈黙して見送る隊員たちでした。


翌日も雨で、またもや出撃は中止となります。


読書、腹筋、工芸品作り、一人トランプ、お酒を飲む・・・と、
隊員たちの過ごし方は様々です。



「明日は雨と出ている」

トランプ占いするのは野口中尉(西田昭市)。

西田昭市は、俳優というより声優として「刑事コロンボ」「サンダーバード」
「キャプテンスカーレット」など、海外作品の吹き替えで活躍しました。


ところが、松井中尉がだらだらと喋るうち、深見中尉の怪我について、

「うまくやったな、怪我が治るまで女と楽しめる」

などと要らんことを口走ってしまいます。



「何っ?・・・もう一度言ってみろ」

構わずヘラヘラと松井が差し出した盃を叩き落とし出ていきます。

「あいつ、内心ほっとしてるんじゃないか」

尻馬に乗る北と松井を嗜める大瀧中尉に、


「散る桜 残る桜も 散る桜」

したり顔の山本中尉(沼崎勲)。
沼崎勲は本作公開の年、過労による心臓麻痺で早逝(37歳)しています。


「死ぬ方が楽なこともあるさ」

そこに笠原中尉が、戦艦大和が撃沈されたニュースをもたらします。


「まさか、あの不沈戦艦が」

「間違いない、今通信室で聞いてきたんだ」


「聯合艦隊全滅じゃねえか」

「俺たちもここらが死に時やな」


降り続く雨。
何をすることもなく沈んだ気分で皆が酒を飲んで過ごしていると、
下士官たちの部屋で騒ぎが起こりました。



彼らの乱闘の原因は実にやるせないものでした。
一人が「明日は雨だ」と言い、もう一人が「明日は晴れる」と言って、
それから取っ組み合いが始まった、というのです。

田中中尉(織本順吉)が、お互い地獄の釜の底まで一緒に行く運命、
せめて生きている間は仲良くしようじゃないか、と二人を諌めます。



翌日はついに晴れました。



「おい、雨あがったぞ!」

「来た・・・!」



今日も富代の部屋で朝を迎えていた松井中尉は、



彼女が眠りから醒めないうちに部屋を飛び出します。
というか、この時点で遅刻しそうになっていたのでした。


宿舎まで全力疾走。



皆、起きるなり飛行服に着替え、そのまま飛行場に向かうようです。
朝ごはんも食べないし、歯を磨いたり顔を洗ったりしないのか。

これは流石に映画上の表現だと思いたいなあ・・・。


ところがその時またしても命令が変更になりました。
出撃の規模が小さくなったため、
予備士官からは松井と笠原中尉だけが出撃となり、
大瀧と北中尉は出撃を逃れたのです。



しかし、その松井中尉はまだ帰ってきていません。
大瀧中尉は、自分が代わりにいかせてください、と頼みますが、
隊舎を見回して松井がいないのに気づいた村山大尉は、

「何、あいつまた抜け出したのか・・・まあ帰ってくるさ」

と楽観的です。


そして、皆がトラックで飛行場に向かおうとしているとき、
なんとか松井中尉は宿舎にたどり着きました。


敬礼をする松井中尉に村山大尉は、

「心残りはないか」

「ありません!」

「よし、かかれ!」



宿舎に窓から飛び込んで超高速で身支度を整える松井中尉を、
隊舎に残っていた深見中尉が黙って手伝います。

そして、彼が装具を身につけ終わると、


「松井、昨日は・・・・」

「いやあ、俺が悪かった。一足先にいくぞ!」


松井中尉は黒板の「雨降ってまたまた一日生き延びる」の句を消し、



「深見、戦争のない国に行って待ってるよ」

とにっこり笑って窓から姿を消しました。


最後に地上で挨拶を交わす笠原中尉と松井中尉。


二人が出撃していった夜、残った予備士官たちはこんな会話をします。

「俺たちは地獄へ行くのか、それとも極楽か」

「そりゃ極楽さ。国家のために死ぬんだから」

「地獄だとすれば特攻隊も考えもんだなあ」

「馬鹿、そういう考えのやつが地獄行きだ」



卵に二人の似顔絵を描いた絵の得意な北中尉。
オルガンも弾いていたし、芸術方面に多才な人のようです。

「おい、笠原、松、お前たち今どこだ。地獄か極楽か」

指で弾くと、松井の卵が床に落ちました。



「松の野郎、2度も玉砕しやがった」

皆一瞬笑いかけて、すぐその笑いを引っ込めます。



続く。



映画「ザ・ダイバー」Men of Honor 後編

2025-02-01 | 映画
実在したアフリカ系の海軍ダイバー、
カール・ブラシア上級曹長(最終)の伝記映画、
「ザ・ダイバー(メン・オブ・オナー)」の続きです。

カール・ブラシア

ブラシアを演じたキューバ・グッディングJr.は、この翌年あの世紀の怪作、
「パール・ハーバー」に出演して、やはり実物のドリス・ミラー曹長を演じ、
「出演者の中で一番演技がまともだった」と言われることになります。

当作品でも2000年度の最優秀俳優賞にノミネートされましたが、
この頃は若かったのでまだそれほど有名ではなく、
だからこそロバート・デ・ニーロを無理やり投入したのでしょう。

大俳優の威光が生む一種のケミストリーが本作品を底上げした感はあります。

ただ、残念なことにデニーロの演じる架空の人物、サンデー曹長、
この人の「やりすぎ感」が何かと前面に出過ぎだと思いました。

最初は人種差別的嫌悪から黒人部下を排斥しようとした上官が、
途中からは自らを犠牲にしてまで積極的に彼を支えるというのは
映画にはありがちな展開なのですが、ありがちすぎて陳腐ですらあり、
この極端な行動を無理やりデニーロ一人に詰め込んだ結果、
彼の人物像は奇怪なものとなり(デニーロの演技はそれでもさすがですが)
よくわからないメンヘラ妻の存在とともに、本来称えられるべき
カール・ブラシアの実際の人生を霞ませることになっています。

蛇足ついでに、わたしが本作の演出で許せなかったのは、
ブラシアが潜水学校の宿舎に入ると、白人学生が全員バラックから出てゆき、
残ったのがウィスコンシン州出身の白人だったという設定でした。

ブラシアともう一人の学生が宿舎に二人きりになったというのは実話ですが、
一人残った学生は白人ではなく、ブラジル系でした。

ブラジル系も白人にとっては「カラード」です。
ブラシア以外に潜水学校にいたカラードを登場させると、
ブラシアの苦難が強調できないと考えた結果かもしれません。


奇怪な人物といえば、潜水学校の司令官である「ミスター・パピー」
というあだ名の大佐は、いわば「ブラシアの絶対的な敵」として登場します。

「ワシントンに行くはずが、ネジの緩んだスチュードベイカー
(アメリカの車)であることがバレてここに飛ばされた」


という噂のあるこの大佐、これがいつも司令塔の上から見張ってるんだよ。
なぜ「いつもか」というと、司令塔に住んでるから。

飼っている犬を部下に散歩させ、ロープをつけたバケツで上まで引き揚げる。
部屋では真っ赤なガウンを着込んで何故かクリスタルグラスを磨いている。

この、いろんな意味でやばい気しかしない老人が、サンデーを呼びつけ、

「自分がここにいる間は黒人のダイバーは出さん」

と念を押しました。



それを受けてサンデー曹長は、ブラシアに
明日の最終試験には司令の命令で合格できないから休めと言いにきます。

入所時、嫌がらせの貼り紙をしたのも実は彼でした。

怒ったブラシアは、あなたは過去の栄光にすがっているだけ、
と、思わずサンデーの痛いところを突いてしまい、
激昂したサンデーに、父からもらったラジオを叩き割られてしまいます。



翌日の試験は、水底にある部品を拾って鉄管を水中で組み立てるというもの。
空気は送られますが、水温は低く、過酷な環境です。



説明が終わった時、休めと言ったはずのブラシアが現れました。
登場シーンが何故かスローモーションです。

来てしまった者を参加させないわけにもいきません。



全員が同時に入水して試験が開始されました。

課題は、水中で部品を組み立て、できたらそれを引き揚げさせること。
受験者が水底で部品と探照灯を発見したら、
工具袋をリクエストし、桟橋から投下されることになっています。



ブラシアは一番に部品を見つけたと連絡してきましたが、
マスターチーフは、監視塔から司令が目配せしたのを見て、
ブラシアの工具袋をテンダーに切り裂かせ、一番最後に投下させました。

やっと受け取った工具袋から、工具はほとんど流出しています。
それに気づき絶望するブラシア。



1時間37分でロークが一番に組み立てを終わり訓練を完了、
程なく二人目、と次々に上がってきました。

しかしブラシアはこの時点でまだ工具をかき集めています。



4時間で終了した者は、寒さで顔色が変わり、肩で息をしています。
水の中は身を切られるような冷たさだと彼は報告します。



ブラシアが上がってこないまま、夜になってしまいました。



彼の同僚たちも桟橋に集まってきます。



そしてなぜかブラシアの妻まで・・。
この人が潜水学校内に入ってくるのはまず不可能なはずですが。
しかも、彼女は誰から聞いてこの事態を知ったの?



その頃、水中でブラシアはガタガタ震える手で組み立てを試みていました。
平常ならばすぐできることが、凍えていてうまくいきません。



その時司令塔のパピー(笑)から電話がかかってきました。

「奴が動きを止めるまで引き揚げるな」

それはつまり死ぬまで放置しろって意味でよろしいでしょうか。



マスターチーフは司令を無視して、もう諦めて上がってこいと説得します。
それに対するブラシアの返事は、

”My name is... Boatswain's Mate.. Second Class C, C, Carl Brasier.
I am a Navy diver. "

うーん、実に感動的なシーンだ。
感動的だが、なんだろうこの気恥ずかしさは。

この返事が正常な状態から発せられたのではないと判断したんでしょう。
ちらっと司令塔の上を見やったマスターチーフ・サンデーは、

「引き揚げろ」

この命令を受けて真っ先に駆け出したのは、あのローク兵曹でした。


「やめないとクビにするぞ!」

目を血走らせてそれを阻止しようとする司令。
(だから字幕、マスターチーフは特務曹長じゃないっつーの)

しかし誰一人としてこのおっさんの命令に耳を貸さず動き出しました。
いくら相手が黒人でも、さすがにこれはやりすぎってやつです。



ブラシアを引き上げようと皆が位置についたときです。
水中から組み立てられた管が上下られてきました。
ブラシアは課題を完成していたのです。



さっきまで自分を白い目で見ていたはずの同僚が、
引き揚げに手を差し伸べ、口々に声をかけてきます。

ロークによってヘルメットを外されたブラシアは、
ガチガチと音を立てて震えていました。

そのとき・・・。



「二等掌帆長カール・ブラシア、9時間31分、組み立て完了」



ブラシアは半年間の訓練過程を終了し、学校を卒業しました。
卒業の日、潜水学校に復帰したスノウヒルから、サンデーが司令に睨まれ、
降格させられて潜水学校を首になったことを聞かされます。



複雑な気持ちのブラシアが見つけたものは、
サンデーが激昂して叩きつけた父親のラジオ。
それはすっかり修復されて音も出るようになっていました。

そして、修復前は彫り込まれていた『ASNF』の文字の下に、新たに

「A SON NEVER FORGETS」(忘れられぬ息子)

という言葉が付け加えられていたのです。


そしてそれから何年か経ったあるニューイヤーズ・イブ。

ただでさえ年齢のわかりにくいアフリカ系で、さらに実際に若いキューバが
髭を蓄えただけなので最初は全く経年を感じませんが、実はこの間、
ブラシアはサルベージダイバーの試験に失敗して一度潜水資格を失い、
努力して再び二等潜水士の資格を取り直すという苦難を経ていました。

「ミスターネイビー」というあだ名で呼ばれていたブラシアは、
アイゼンハワー大統領のヨットの警護チームに参加、
戦艦「アリゾナ」の海中調査と遺骨の調査、記念碑の建造に携わり、
潜水脱出装置「スタンキーフード」の開発者スタインケ(Steinke)中尉の下で、
このフードを着用した初めてのダイバーにもなっています。

というわけで、この時点では妻から妊娠を告げられ、超ハッピー。



そして同日、こちらは海軍主催のニューイヤーズイブパーティ。



「ホイスト」の副長だったハンクス少佐が機嫌よくテーブルを囲んでいると、
後ろから無礼にも肩を突っつく下士官、サンデーの姿が。

「Auld Lang Syne and all.」

ご存知のように「オールド・ラング・サイン」は
(日本語では『蛍の光』)「久しき昔」という意味があります。

「全くお久しぶりね、ってやつですな」

って感じかな。

自分を降格させた少佐に嫌味を言い、美人の妻を見せびらかして悔しがらせ、
さてこれで気が済んだのかと思ったら、


次の瞬間ブチギレて相手に飛びかかりました。
まあ、酒癖悪いってやつですわ。

士官と下士官が同じ会場でパーティをしているという状況も不思議ですが、
(同じ艦でもない)降格された恨みで上官を殴る下士官って実在するのかな。

しかも彼は2回降格されていて、もし恨みを持つなら、ハンクスよりは
潜水学校教官をクビにした司令の方じゃないかと思うんですが。


彼は上官暴行罪で二等曹長に降格、半年の減給と2ヶ月の謹慎に処されます。
なんと、三度目の降格なのにまだアウトじゃないんだ・・。

と思ったら、更なる衝撃が。



ここで場面は映画冒頭の裁判所待合室に戻るわけですが、


これ、上官暴行事件の怪我じゃないんですよ。全くの別件。

AWOL(Absent Without Leave、無断外出)をやらかして、
海兵隊に殴られ、殴り返したので処分を待っている状態でした。


この事故は、1966年1月17日に起こりました。

スペイン沖で爆弾の回収作業に投入されたのはUSS「ホイスト」。
そう、ブラシアが最初にコックとして勤務した艦です。
実在の「ホイスト」はサルベージ艦なので、ダイバーが常駐しています。

ちなみにこのとき衝突したのは、

B-52Gストラトフォートレスと、

KC-135Aストラトタンカーでした。

この事案はアメリカ軍の決めるところの「ブロークン・アロー」案件、
=核兵器事故として最優先で対策が行われることになっていました。


そして驚いてはいけない、「ホイスト」の艦長はまだプルマンでした。
現在35歳のブラシアが海軍で最初に配属された17年前も艦長だった人です。

海中のブラシアに、

「なんとか爆弾を見つけて、私を死ぬまでに提督にしてくれ」

なんて言ってますが、17年前に大佐なら、なれるものなら
もうとっくに提督になって退役しているはずです。

これを「火垂るの墓『摩耶』艦長在任長すぎ現象」と(わたしは)呼びます。


「何か金属片が・・・コークの缶でした」

「拾ってこい、チーフ。海は綺麗にな」

などと和気藹々と捜索中、警報音が鳴り出しました。
艦長はすぐさま潜水艦、しかもソ連のであることを推測します。

核戦略機の事故と海中の爆弾はニュースになっていましたから、
それを受けてソ連側が何か行動を起こしても全く不思議ではありません。


しかし艦長の呼びかけにブラシアは答えている場合ではありませんでした。
迫り来る潜水艦から逃げるため海底を走って(歩いて)いたのです。
しかしこれ、徒歩で逃げてもあまり意味なくないかなあ。

案の定、フィンがケーブルを引っ掛け、彼は潜水艦に引っ張られますが、
ケーブルは切れる前に無事艦体から離れ、迫り来るスクリューからも逃れ、
ブラシアは無事に海底に叩きつけられました。



しかも、解放し倒れ込んだその場所に彼は例のブツを見つけたのでした。

水爆は実際には事故から80日後、深海探査艇「アルビン」が発見、
「ホイスト」によって潜水艦救難艦「ペトレル」に引き揚げられました。



爆弾の回収に貢献した功績で、ブラシアはのちに勲章を与えられています。

そして、この作業中、あの運命的な事故が起こるのです。
wikiより、このときの事故状況を書き出してみると、

1966年3月23日の爆弾回収作業中、吊り上げケーブルが切れ、
USS「ホイスト」の甲板上でパイプが激しく跳ねた。

ブラシアはそこにいた乗員を突き飛ばして救ったが、その結果、
左足の膝下に切れたケーブルが直撃し、その組織を破壊した。
衝撃で彼の体は宙に飛び、甲板から投げ出されそうになっている。



すぐさま病院に搬送されたが、持続的な感染症と壊死に悩まされ、
最終的に左下肢を切断することになった。



サンデー曹長がカールの事故のことを知ったのは、
サンデーがアル中のリハビリ施設で妻に愛想を尽かされかけているときでした。


入院中のブラシアのもとに送人不明の冊子が送られてきました。
片足を戦闘で失いつつ義足で現役復帰している搭乗員を扱った記事を読み、
ブラシアはダイバーに復帰の決心を固めます。



その希望を上層部に訴えるも、ペンタゴンの人事製作委員会の委員になり
今や大佐に昇進して得意の絶頂のハンクスが現れてダメ出ししてきます。
この海軍同じ人物との遭遇率高すぎ。

ブラシアはそれに対し、

「怪我した脚を切断して義足にし、リハビリして復帰を果たします。
12週間後の判定会議で現役が可能であることを証明しますから、
その時には私をマスターチーフにしてください」



嫁はもちろん猛反対。

息子の存在を盾に退役を迫ってきますが、彼の決心は揺るがず、
ついに部屋を立ち去ってしまいました。

そしてブラシアは、自分の意思で脚を切断し、義足を装着しました。
(というのは映画の創作で、実際は壊死で切断するしかなかった)


ブラシアの装着した義足

実際のブラシアのトレーニングシーンをどうぞ。



ブラシアはその間、潜水学校で陸上訓練の指導をしていたそうですが、
学生たちは当初誰も彼が義足であることに気が付かなかったそうです。

ランニングの後、義足に血溜まりができていることがあっても、
彼はそれを知られないように、病院に行かず、人目につかないように
塩を入れたバケツに脚を浸して苦痛を我慢していました。


マーク5潜水服をつけて訓練用プールから上がるブラシア。

この時、彼はノーフォークの潜水学校の主任となっていた
かつての同級生に頼み込み、そこで訓練させてもらっていました。

同級生は今や特務士官として学校を率いていたのですが、
彼のキャリアに影響を与えるかもしれないこの申し出を、
快諾とは言わないまでも、引き受けて許可しています。



映画に戻りましょう。

思うようにいかないトレーニングに苛立つブラシアのもとに、
ふらりとコーンパイプを咥えたサンデー曹長がやってきます。

「やあ、もう切断しちまったか、クッキー」

クッキーというのは最初からのサンデーが使うブラシアへの呼び名で、
これは彼が最初キッチンのコックだったことからきています。

それにしてもこの男、あれだけやらかしてまだ海軍にいられるのが不思議。



しかも、ハンクスが判定会議でブラシアを失格にし追い出す気だ、
と、どこからともなく情報をゲットしてきて、さらには
留まるためにはワシントンの海軍人事を動かせ、と知恵をつけるのです。



彼の入れ知恵で、メディアに情報を流して世間の注目を集めた上で、
「英雄」ブラシア曹長は公平に人事局長を加えた聴聞会で評価されるべきだ、
という世論形成を行い、内々に処分しようとする企みを打ち砕きます。

このとき、彼はハンクスに長年の恨みから嫌味を言うのを忘れません。

「脚を失ったおかげで、彼は英雄です。”サー”」

どうして三度降格された一介の曹長が上層部を動かせるのか謎ですが、
それはやはり彼がロバート・デ・ニーロだからに違いありません。


「だがブラシアが失格したら君もやめろ」

そんな人事、大佐でも自分勝手に決定できないぞ?



その日から訓練は二人三脚になりました。
この映画のような(映画だが)訓練風景をご覧ください。

それにしてもサンデー曹長の現在の所属ってどこだろう。
(しょぼい潜水学校、と本人は言っていたけどそんなものあるのか?)


そして聴聞会の日。
海軍裁判所の廊下を颯爽と歩く二人の姿がありました。
このときのキューバとデニーロのオーラがすごい。(歩調も揃ってる)

ちな現在サンデーは二等軍曹(E-6)であり曹長のブラシアより二階級下です。


しかしながら、サンデーは入廷を許されません。


ブラシアの仰々しくすらある敬礼に鼻白んだ風のハンクス大佐は、
室内での敬礼をするのは陸軍だけだ、などと言いますが、

「すみません。しかし私が勤め上げてきた海軍では、
この日の重大さを考えれば、敬礼に値すると考えます」

と即座に言い返し、さらには、

「若いダイバーについていけないだろう」

という大佐に、これも即座に、

「ついていけないと言うのは彼らが私に、ですか?」

医療官の義足では浮上しにくいという意見にも、

「溺れたら海軍軍人らしく頑張ってさっさと死にますよ」

と答えてハンクス以外の全員を味方につけてしまいます。



しかしそのとき、運ばれてきた新型潜水服を見て法廷は静まり返ります。
この130キロの潜水服を着て12歩歩ければ認めよう、とハンクス。

日を改めてと言いかけるハンクスに、ブラシアは今ここでやると宣言します。

ダイバーが130キロの装具で、大理石の床を12歩歩けるのか、
というと、それはもし両足があったとしても現実的には不可能でしょう。



外に締め出されていたサンデー曹長が乱入してきて、
そのテストはここでやるべきではない、と演説し始めます。

ワシントンからきたと言う人事の偉い人が、彼の名前を聞くなり言いました。



「レイテで『セント・ロー』から泳いで脱出した男か。
4分息を止めたとか」

「5分です」

「ほう♡」


おじさんたちすっかり伝説の男サンデー曹長の虜です。
悪い噂は伝わっていないと見えますね。


そして、君の海軍でのビジネスは、とハンクスが言いかけると、

「失礼ですが、私にとって海軍はビジネスではありません。
我が国の最も優れた面を代表する人々の組織です。

我々には多くの伝統があります。
私のキャリアでは、そのほとんどに出会ってきました。
良いものもあれば、そうでないものもある。

しかし、私たちの最も偉大な伝統がなかったら、
私は今日ここにいなかったでしょう。」


「それではなんだと言うのだね、ブラシア曹長」

「名誉です。大佐」


我が意を得たり、と相好崩す壇上のオールドネイビーたち。


「義足で130キロの潜水服で歩くなんて、6歩で失神するぞ」

と今更言われましても。



しかも底意地の悪いハンクス大佐、普通二人に手を貸されて立ち上がるところ
一人で立たせろなどと言い出すではありませんか。
海軍の規定では手を貸すべきところですが、ハンクス大佐ったら、



「今は真鍮ではなく銅だし、改訂されたマニュアルによると、
ダイバーは自力で立てること、となっている」


そしてその書き換えを行なったのは自分だ、と得意げ。
なら仕方ないね。自分で立ちましょう。


渾身の力を振り絞り、立ち上がったブラシアに、
2階級下のサンデーが命令を下しました。

"Navy diver, stand up!
Square that rig and approach the rail."


(ネイビーダイバー起立、索具を確かにレールに向かえ)



そして、ダイバーは歩き出しました。


途中明らかに足の痛みで身体をよろめかせたブラシアに、
ハンクスが中止を命令しようとしますが、
それを提督たちが手で静止します。

9歩目からのサンデー曹長のセリフです。

「ナイン!
ネイビーダイバーは戦闘要員ではなく、サルベージの専門家である。

テン!
水中で失われたものは見つける。
沈没していれば、それを引き上げる。
邪魔なら移動させる。

イレブン!
運がよければ、波の下200フィートで若くして死ぬ。
ネイビー・ダイバーになりたがる奴の気が知れん!

さあ、このラインまで来るんだ、クッキー!」



本気で感動してしまうアドミラルズ。


涙に塗れた顔のブラシアに、ハンクス大佐は宣言せざるをえません。

「アメリカ海軍は誇りのもとに以下宣言する。
シニアチーフ(曹長)、ダイバー、カール・ブラシアの現役復帰を認める」


字幕では一等軍曹となっていますが、それは
「シニア」の付かないCPOを指しますので、間違いです。



「これで辞められる」

とブラシアは言いますが、彼の妻はもうそれは望んでいませんでした。
実際彼がマスターダイバーの資格を取るのはこの後なのです。

事故から4年後、彼はマスターダイバーとなり、その後
海軍に9年間勤務し、1971年、40歳でマスターチーフに昇進しました。

そして、法廷を出る前に(室内で)敬礼するサンデーに


こちらは無帽で敬礼を返してしまうブラシアでした。
まあ、この場合帽子はヘルメットってことになるから無理か。

というわけで当作品、海軍エンタメとしてはなかなか優れていますので、
細かいことが気になりすぎる方でなければ十分に楽しめると思います。
機会があればぜひ。

終わり。



映画「ザ・ダイバー」Men of Honor 前編

2025-01-29 | 映画

「リトルロック」艦内の展示で、海軍御用達でもあった潜水スーツ、
Mk.5の存在とともに、アフリカ系の最初海軍潜水士の一人であり、
また、アフリカ系初のマスターダイバー資格保持者でもあった、

カール・マキシー・ブラシア上級曹長
MACPO Carl Maxie Brashear


を主人公として描いた映画、「Men of Honor」
邦題「ザ・ダイバー」のことを知り、取り上げることにしました。

ブラッシャー本人を演じるのがキューバ・グッディングJr.、
彼の上官として最初はその前に立ちはだかる潜水士にロバート・デ・ニーロ、
となれば、もうこれは当たりの予感しかありませんでしたが、
実際、文句なしによくできた映画だと思いました。
ブログのために観た映画としては、今までで最も楽しめたかもしれません。


1966年。
ニュースでは、地中海に衝突により墜落したB-52戦略爆撃機が、
海中に落下させた水素爆弾を海軍が回収することを告げていました。

この事故は、パロマレス米軍機墜落事故といい、
実際には4個の落下爆弾のうち2個は通常爆発(核爆発ではない)し、
2個が陸と海に一つづつ無事に?落下したのですが、
捜索の結果事故80日後に発見された爆弾が海軍によって回収されました。


作業中のサルベージ艦USS「ホイスト」甲板にアフリカ系の軍人がいます。



さて、ここはどこでしょうか。

各座席の前に一つづつアナログのミニテレビが取り付けられた、
なんとも贅沢な?この待合室に3人の海軍軍人がいました。



両脇をセーラー服の水兵に挟まれたこの男、ビリー・サンデー。
傷だらけでおまけに手錠をはめられています。
何かやらかして海軍裁判所に連れてこられたようです。

テレビ画面のアフリカ系軍人を見ると、男は、

"Ornery son of a bitch."
(癇癪持ちのクソ野郎が)

と毒づき、それを聞き咎めた水兵が、

「曹長(Chief)様は黒人好きらしいぞ」

と言ったとたん、いきなりキレて手錠で二人を殴り、

「チーフじゃない、マスターチーフと呼ばないと手首折るぞ」

「あんた降格されたじゃないか」


(手首を捻りあげながら)「どうでもいいわ!」

「うう・・すんません・・・マスターチーフ」

「よし」

なんという乱暴者。
しかし、サンデー軍曹は、画面を凝視しながら、

「カール・・・・」

とその名をつぶやきます。

マスターチーフ・ペティ・オフィサー(MACP)は、
等級E-9の下士官、最先任(最上級)上等兵曹のことです。

なぜ彼は階級降格され、しかも裁判にかけられようとしているのでしょうか。



ここから遡ること23年、1943年の、ここはケンタッキー。

つなぎのジーンズと、靴を履いたままの格好で池に飛び込み、
水底に沈んだ車を潜って遊ぶ、14歳の黒人少年がいました。

なぜ着のみ着のままで泳ぐのかは謎ですが、とにかくこれが
のちの海軍ダイバー、カール・ブラシアの少年時代です。


黒人の人権など全くなかったこの時代、彼の父もまた、
小作人として苦しい生活をしていました。



手伝うよ、という息子に、

「俺のようになるな」

という父親。


学校に通いながら父の手伝いをして成長したカールですが、
彼にはこの生活から抜け出すための一つの望みがありました。

海軍に入ることです。



カールも海軍入隊を果たし、故郷を離れる日が来ました。



休みになれば帰るというカールに、父は、
二度と戻ってくるな、そして戦えと声をかけます。
そして唯一の財産ともいうべきラジオを手渡しました。



当時入隊した黒人の配置は例外なく厨房か雑用係です。
カールの最初の任務もUSS「ホイスト」のコックでした。



南太平洋に展開していた「ホイスト」は、
ある日暑さしのぎに乗組員に遊泳許可を出していました。

戦争も終わったからこそできることですが、
ここにはサメはいないのかしら。


黒人兵も泳がせてもらえますが、週一度火曜のみとされていました。
白人兵たちがはしゃいでいるのを見ていたカール、やおらズボンを脱ぎ出し、
何人かの制止を振り切って甲板から海に飛び込みます。



それを見ていた「ハドソン」艦長プルマンと、副長のハンクス。
すぐに彼を止めるために人をやりますが、



カールは競泳に持ち込み、相手を負かしてしまいました。


黒人水兵や下士官はこっそり快哉を叫び、



白人下士官たちはその騒ぎを不快げに見ています。
その中に、ビリー・サンデー上級曹長がいました。



その晩、ブリッグス(艦内牢屋)に入れられたブラシアのもとに
なんとプルマン艦長がやってくるではないですか。
そして、



「船から落ちた水兵を救助する仕事があるから、貴様、それになれ」

泳ぎが抜群に上手く、肝っ玉が座っている、と艦長は見込んだのです。
それは同時に上等兵への昇進を意味していました。



次の日、事故が起こります。
「ハドソン」に郵便物を運んできたヘリ(シコルスキーのHSS-1?)が、
甲板に荷下ろし中、海に墜落したのです。


海上で炎を噴くヘリ。
すぐさま艦長からダイバーに救難指令がかかりました。


ダイバー投入後、引き揚げが始まりました。
はて、ヘリ墜落現場までどうやって往復したのかな。



ダイバー目線。
以前当ブログでご紹介したマーク5のヘルメットという設定ですが、
映画で使われたのは別のメーカーのそれらしく作ったものらしいです。


パイロットを揚収したのはビリー・サンデー上級曹長でした。

軍医がパイロットの生死を確かめ首を横に振ると、
サンデーはあと数分早かったら助かったのに、と吠えます。



しかも、この日の「ハドソン」に、続いて事故が起こってしまいます。
副機長の救出のために別のダイバーを投入しようとしていたところ、
ワイヤが切れ、ダイバーがスーツを付けたまま海に転落したのです。



そこで、減圧室に向かおうとしていたサンデーが戻ってきて、
今すぐ行けば、窒素が溜まる前に15分未満の間隔を空けて潜る
「バウンス・ダイブ」と同条件だから助けに行く、と服を脱ぎ出します。

ウェイトをつけて素潜りする気です。

バウンスダイブは250m以浅の水深で行われることが条件ですが、
正しく行ったところで潜水病は避けられないほど危険な方法です。


しかもここは深すぎる、と言っていますね。

ハンクス副長が危険を理由にそれに反対しますが、
この、最後まで主人公二人の「敵」になる悪役キャラ、
こんな事態に「最後にサーをつけろ」などと言い放つくらいですから
おそらく優秀だが鼻持ちならないエリート意識まみれのパワハラ気質。

ちなみに「サー」と呼ばれたがる?のは士官だけで、
CPOクラスはこう呼ばれることを何よりも嫌います。



副長の阻止を振り切って海に飛び込むサンデーを、
驚きと称賛の眼差しで見つめるブラシア。



サンデーの働きにより、同僚潜水士の命は助かりましたが、
その代償はあまりにも大きなものでした。

彼は完治不能の空気塞栓症(動脈中に生じた気泡によって
各器官への血液供給が妨げられる状態)つまり潜水病で、
もう二度と現場復帰はできないと医師から宣告されてしまいます。



病院内で荒れて大暴れするサンデー。

なお被害者たち

この時働いた乱暴狼藉その他色々の罪で、
サンデー上級曹長は3ヶ月停職ならびに教官任務に戻す措置を受けました。


当然だろ、みたいな顔をしてすましているハンクス副長。
イケメンの無駄遣い(デビッド・コンラッド)。



言い渡されたサンデーがここで敬礼するんだけど、
この敬礼・・どう見ても無茶苦茶陸軍式なんですがこれは。

デニーロが偉すぎて誰も注意できなかったか。


そうそう、このプルマン艦長の敬礼、これがまっこと正しく海軍式。

しかし残念ながら、基本海軍(海兵隊)では無帽の敬礼はしません。
陸軍と空軍は無帽でも敬礼をするため、海軍軍人は、
彼らと一緒の時には無礼にならぬよう相手に合わせるそうです。

それからそもそも、ここ、MPもいるちゃんとした軍事法廷で、
艦長が裁判長みたいに判決言い渡しして槌まで打ってるんですが、
これって艦長じゃなくて法務官の仕事よね。



裁判を傍聴していたブラシアは、皆が退出後、いきなり艦長に、
ダイバーになりたいから推薦してくれと直球で頼みます。

「三日前にキッチンから掌帆員にしたばかりだぞ」

「借りは返します。サー」


黒人は養成所に受け入れてもらえないだろう、無駄になると思うがな、
といいながらも、プルマン大佐はそれを引き受けます。

ケンタッキーの徴兵官もそうですが、入った後でどんな目に遭おうと、
入れる者にとって知ったこっちゃないからですねわかります。


嘆願書を書きまくってようやく潜水学校入学許可が出た時には、
すでに2年が経過していたってんだからびっくりだ。

そこで彼はニュージャージにやってきたのですが、ここからがもう大変。
サンデーMCPOが無視したせいで、門から中に入ることすらできません。



何時間か後通りがかって、田舎に帰れ!というサンデーに、

「私は海軍兵士です。
誇り高き海軍兵士は、ラバで畑を耕しません」


とさりげなく自分の出自を匂わせつつ断言するブラシア。

するとサンデーは、コーンパイプを持った自分の手をちらっと眺めます。
そこにはブラシアの父の掌にあったのと同じ、鋤を握ったタコの跡が・・・。

その後、上級曹長は彼に入門許可をぶっきらぼうに言い渡しました。


やっと門の中に入れたと思ったら、今度は先輩水兵たちから、
噛みタバコを真っ白いズボンに吐きかけられるという歓迎を受けます。



白人ばかりの潜水学校生はブラシアに敵意を顕にしてきました。

ブラシアの入舎をサンデー曹長が皆に通告すると、
一人が嫌悪感を隠さず「黒人と一緒はごめんです」といい放ち、


最初に声をかけてくれた吃音症の青年、スノウヒル一人を残し、
全員がバラックをゾロゾロと出て行ってしまいました。

マスターチーフは白人水兵のこの行動に対し何も注意しません。


このスノウヒル一人が、彼に対し「普通に」接してくれ、
しかも、宿舎を出ていく他の連中にも付き合いませんでした。
不思議に思ったブラシアが、

「君は行かないのか?」

と聞くと、

「いや。俺はウィスコンシンから来た」

「・・・?」



しかも、ブラシアのベッドの上部にはいきなりこんな紙が貼られていました。

「溺れさせてやるぞ ニガー」

この貼り紙の嫌がらせは、カール・ブラシアが実際に受けたものです。


その夜、ブラシアはサンデーに叩き起こされ、リンチを受けます。
水責めにしながらサンデーは、ヘイトをぶつけ、ついでに

「貴様ら黒人が安い賃金でも平気で働くせいで、
俺の親父は農場を追い出されて酒浸りで死んだ!」

と個人的な恨みを吐き散らかすのでした。
これが彼が黒人を毛嫌いする理由の一つだったのです。
しかしそんなことを言われてもだな。

ただ言えるのは、おそらく彼もまた、そんな暮らしから抜け出すために
海軍に入り、努力と才能でマスター・ダイバーにまで上り詰めたということ。



翌日、新兵は潜水訓練を見学することになりました。


胸当ての「マーク5」が強調されていますが、これは
この胸当ての部分だけが本物のマーク5が使われているからだそうです。


「”彼”は神のしもべだが、俺は神だ」

海軍のチーフという人種が自分を神だと思っている、というジョークは
当ブログでご紹介したことがありますが、こいつマジで言ってます。

「彼」とは、実在の人物で、エバンジェリストのビリー・サンデーという、
彼と同名のメジャーリーガーでかつKKKから献金を受けていた聖職者のこと。

サンデーという名前は、多分この黒人ヘイトで名高い人物から取られました。


この字幕では「特務曹長」となっていますが、特務曹長は准士官のことで、
正確にはサンデーはマスターチーフ「最上級上等兵曹」です。

アメリカ軍の階級を日本語で表すのは文字的には可能ですが、
口語では「マスターチーフ」というしかないので、これは間違いです。

さて、その神たるマスターチーフがターゲットにしたのは、
黒人に同情して一人バラックに残った、可哀想なスノウヒルでした。

身上書を調べた上でここにやってきたらしく、スノウヒルが
ウィスコンシン大学の水泳部のキャプテンで州大会に優勝したことや、
大学2年生で彼女を妊娠させて結婚したことまで皆の前で暴露し、
その後、錘を抱かせていきなり海に突き落とすという暴挙に及びました。

そして、彼がウェイトなしで浮いてくると、
訓練の停止を(まだ訓練に入っていないのに)命じたのです。

ブラシアに同情したばっかりに、こんな目に・・・・(-人-)


さて、ともかくその後、陸上での訓練が始まりました。
そちらは順調ですが、中学までしか学校に行っていないブラシア、
筆記試験がどうにも苦手です。



座学の教官はテストを返しながら、

「次の試験に不合格だったら退学になるぞ」

しかし、彼は同時に小さな声で、外で勉強することを勧めてきました。
周りの全てが敵ではないとブラシアが知った2度目の出来事でした。



そこで彼は週末の休暇に図書館に行き、そこで誰かに
一般教養科目を教えてもらおうとしました。

もちろん図書館ではそんなことはやっていないのですが、
彼はそこで司書として働きながら医学部に通っている女性、
ジョーに目をつけて、泣き落とし始め、あの手この手で頼み込み、
なんとか個人教授してもらう約束を取り付けることができたのです。



何日間かの特訓で、次の試験は76点という及第点を取りました。

試験を返しながら口の端でだけ微笑む教官。(いい人)
思わず安堵のため息をつくブラシアでした。



そして始まった実地訓練。
二人組で海底に沈んだ練習船の穴を塞いで引き上げるというものですが、
ブラシアの前のルーク&アイザート(どちらもいじめっ子)組が作業中、
練習船が海底を15メートル滑り落ちるというアクシデントが起きます。

直ちに浮上が命じられましたが、アイザートのホースが絡まって動けません。


救出に向かうため、マスターチーフは服を脱ぎだしますが、
ブラシアは潜水服をすでに着ている自分が行くと名乗り出ました。


アイザートを脱出させるためには、ホースを外して
ブラシアの持ってきたホースに付け替える作業を行いますが、
そのためには一旦送っている空気を止めなくてはなりません。

しかし作業中船が激しく動き出したため、恐怖に駆られたアイザートは、

「もうダイバーなんかやめるぅー!家に帰るぅー!」

とパニクり、怖くなったロークはバディを見捨てて逃げ出しました。



ブラシアはアイザートが意識を失う寸前に冷静にホースを繋ぐことに成功。
アイザートは息を取り戻し、ヘルメットの中でブラシアに微笑みました。


こちら、バディの必死の制止を振り切って一人浮上してきたローク。


マスターチーフは無言のまま心底軽蔑した顔でロークを睨みつけます。
これがブラシアだったら、瞬時にクビだったでしょう。


それどころか!

事故に際し、「命をかけてバディを救った」として、
叙勲されたのはブラシアではなく、逃げたそのロークだったのです。



そして「ダイバーなんかもう嫌だ」と叫んでいたアイザートは
その言葉通り、ロークの叙勲式の真っ最中に基地を出て行きます。


ロークが表彰されているのをわずかに侮蔑を浮かべて見ていた彼ですが、
ブラシアと目が合うと、彼にだけわかるように目で挨拶をしました。

それはブラシアだけにわかるアイザートからの感謝と共感でした。


それにしても、こんな表彰誰も得しないよね。
解散しても誰も彼に声かけないし、本人も全然嬉しくなさそう。



ある日カールは実家にかけた電話で父の死を知らされました。


波止場で泣き濡れる彼の前に現れたド派手な美女。

「グウェン・サンデーよ」

つまりあのビリー・サンデーの妻であると。

「それは残念です」(Sorry to hear that.)

それがいきなり彼女こんなことを言い出すじゃありませんか。

「彼はあなたを海軍から追い出すつもりよ。
このまま黙ってされるままになるつもり?
彼がその気ならあなたも何かするべきじゃない?」


本作でおそらく美女的彩りのために投入されたシャリーズ・セロン演じる
このサンデーの妻ですが、最後までその立ち位置がわかりません。

下士官の妻がなんだってこんな格好で夜ウロウロしてるのか。
潜水艦学校内での夫のパワハラの内容を知っているだけでなく、
会ったこともない黒人下士官の味方をするのか。



グウェンが夫のいる酒場にブラシアを伴って入っていくと、
ロークその他が色めき立ちますが、サンデー本人は余裕かましてきます。


かましついでに、愛用のコーンパイプの由来を話し始めます。
またか、みたいな顔をするグゥエン(笑)

曰く、
これはマッカーサー元帥の愛用していたもので、
レイテ湾では彼の下で戦った(はて、海軍なのに?)。
特攻隊が突撃した護衛空母「セント・ロー」に乗っていた彼は
機関室から水没した艦内を5階分泳いで抜け出し助かった。

そしてその時にマッカーサーの声が、

「サンデー、このちくしょうめ、4分間息なんて止められないだろう」

と聞こえたので、パイプを賭けるならやってみせると答えた。
機関室にいた6人も俺が助けた。

なんで「セント・ロー」でマッカーサーの声が聞こえた気がしたのか。
そもそも海軍軍人ならそこで聞こえる声はニミッツの方がよくないか?

と、これを見ている人のおそらく26%くらいの人が思うでしょうが、
おそらく監督は陸海軍の相剋についてはあまり関心のない人なのでしょう。



そして彼は勢いで店内に都合よく二つ吊られていた潜水マスクを使い、
息止め競争で俺に負けたら出ていけ、と勝負を強制します。



そして二人のヘルメットに水が注がれていくわけですが・・。



いや、あの、真剣な顔をしているところ申し訳ないんですが、
このヘルメットって、スーツの首部分に捩じ込んで固定するやつだよね?
下から水漏れるよね?こんな金魚鉢みたいに水溜まらないよね?
大体今どこからどうやって水注入してるの?


その時バーにジョーが入ってきました。
そういえばブラシア、ジョーを電話で呼び出してたんだね。

きっかけを作った張本人グウェンは見ていられずバーを脱出し、
ジョーもまた勝負を見届けず出て行きます。

おいおい、二人ともそこは最後まで見守ろう。



4分経つ前に勝負はつきました。
サンデーが鼻血を噴き出したため中止となったのです。



その時外ですごい音がしました。
なんと、グウェンが車を暴走させ、事故ったのです。



あっという間に回復して走り出てきたサンデーは妻を抱きしめ、

「帰ろう」

いやだからさっきから何やってんのこの二人。
ってか、この奥さん何がやりたかったの?



ジョーは、カールと一緒ではこれからもこんな思いをするかもしれないと
彼を拒否しますが、なぜか次の瞬間プロポーズを受け入れます。

なぜ危険なあなたなど見ていられないと言った直後、タクシー運転手に

「(追いかけてくる男が)結婚してくれるか知りたがってる」

と言われたくらいで考えを180度変えるのかよくわかりませんが、
まあまずはめでたしめでたしってことにしないと話が続かないのでしょう。

どちらにしても、この実話ベースの話に無理くり盛り込んだ女性
(特にシャリーズ・セロン)の描き方が雑で、表面的。
実に感興を削ぐというか、はっきり言って邪魔ですらあります。

大体、いつの間にブラシアとジョー、恋人同士になったんだよ。

デニーロ演じる架空のマスターチーフがあまりに無茶苦茶で凶暴なので、
そのバイオレンスな部分を緩和するために配した女性役かもしれないけど、
いずれにしても他にもっと時間を割くべきところがあったんじゃない?

と思いました。

続く。


令和7年度年初め映画タイトルギャラリー〜日米リクルート映画

2025-01-04 | 映画


たった今知ったばかりのニュースに驚かされたので、
本題とは離れますが、英語版の記事を挙げておきます。

USスチールCEO、売却阻止のバイデン氏の「恥ずべき」行動を激しく非難

USスチールの社長兼最高経営責任者(CEO)は金曜午後の声明で、
同社が日本企業の日本製鉄に買収されるのを阻止するという
バイデン大統領の決定は「恥ずべきこと」であり「腐敗している」と述べた。

「バイデン大統領の今日の行動は恥ずべき腐敗だ。
彼は組合員と疎遠な組合長に政治的報復を行い、
わが社の将来、労働者、そして国家の安全保障に損害を与えた」

とデビッド・バリット氏はソーシャルプラットフォームXに投稿し、大統領は
全米鉄鋼労働組合のデビッド・マッコール会長に恩義があると主張した。

「バイデン氏は、経済と国家安全保障の重要な同盟国である日本を侮辱し、
米国の競争力を危険にさらした。
北京の中国共産党指導者たちは小躍りしている。
そしてバイデン氏は、事実を知るために
我々と会うことさえ拒否しながら、これらすべてを行った」

と同氏は付け加えた。
この取引は対米外国投資委員会によって1年以上検討されており、
委員らは米国の鉄鋼業界に影響を及ぼす大規模な変化の
潜在的なリスクと利益を検討してきた。

バイデン氏は、国家安全保障上のリスクと国際競争力への打撃を
決定要因として挙げ、この合意を阻止すると発表した。

「米国の国益のために戦いを主導し続けるためには、
米国の鉄鋼生産能力の大部分を占める大手米国企業が必要だ」


とバイデン氏は述べた。 

「行政府の国家安全保障と貿易の専門家委員会が決定したように、この買収は
アメリカ最大の鉄鋼メーカーの一つを外国の支配下に置くことになり、
国家安全保障と重要なサプライチェーンにリスクをもたらすだろう。
だから、私はこの取引を阻止するために行動を起こしているのです。」

トランプ次期大統領も、労働団体からの強い支持を得て
同様の発言を称賛しながら、この合意に反対する姿勢を示している。

しかし、バリット氏は、この決定は鉄鋼労働産業における米国の将来を妨げ、
長年の進歩を後退させるだろうと述べた。
USスチールの従業員のグループもこの取引を支持している。

「我々の従業員と地域社会は、より良い待遇を受けるに値する。
アメリカにとって最善の条件を得る方法を知っており、
それを実現するために懸命に働く大統領が必要だった」

とバリット氏は書いた。 

「誤解しないでください。
この投資はUSスチール、当社の従業員、地域社会、
そして国家にとって素晴らしい未来を保証するものです。
私たちはバイデン大統領の政治的腐敗と戦うつもりです。」

なんと売却に反対していたのは政府であり、
企業側はそれを進めたがっていたのですね。知らんかった。
なおこの新聞記事で労働者たちが持っているプラカードには

「We want Nippon Steel's investment」

と書いてありました。


さて、本題に戻ります。

平成6年度の映画ログより、タイトルイラストを振り返る企画、
年を跨いで三日目となりました。

最終日は、日米双方の隊員勧誘を目的とした宣伝映画です。

■ 嵐を突っ切るジェット機

前編

この映画の存在については全く知らなかったのですが、
知人のKさんが航空自衛隊の基地を訪問し、そこで撮った写真の中に、
空自の協力で制作された昭和の映画のポスターがあったわけです。

自衛隊を描いた、あるいは自衛官が主人公である映画は、
昭和期には宣伝目的でそこそこ制作されていたようですが、
DVD化されている作品はあまりないため、ネットで検索しても
なかなかヒットしないので、この情報は大変ありがたかったです。

その中で現在なんらかの方法で視聴できる唯一の映画がこれでした。

空自のパイロットを主人公としたこの映画は、源田實が空幕長に就任し、
その肝入りでアクロバット飛行チーム、「ブルーインパルス」が
正式に発足した、まさにその翌年の1961年に公開されています。

時期的に見て、これはもう間違いなく、ブルーインパルス発足と同時に
広報を目的とした映画の企画が始まっていたものでしょう。

当時イカすヤングスターだったマイトガイこと小林旭を主人公に、
ブルーインパルスの宣伝とパイロットへの憧れを育てようとしたようです。

しかし、現代の視点でこれを見ると、色々と疑問を感じます。
まず、主人公演じる自衛官像について。

当時の若者が「イカす」と思うような人物像は、
例えば石原慎太郎が描き、弟の石原裕次郎が主人公を演じた
「太陽の季節」から派生した太陽族のように、裕福な家庭に育ち、無軌道で、

「健康な無知と無倫理の戦後派」
(太陽の季節の宣伝文句)

つまり、その時代のアンファン・テリブル=アウトローに属するような
「不良」であったとすれば、この主人公、榊は、
自衛隊で素行の悪さから叱責を受け、それが原因で左遷され、
私生活では車をかっ飛ばしてジャズをやり、何かというと暴力を振るう、
という不良ぶりを遺憾無く発揮する人物なのですが、
そもそもそんな人物が自衛官というのはどうなのか。


後半

そしてこの映画の失策その2は、
主人公とその兄が立ち向かう敵が「第三国人」だったことです。

戦後のドサクサに麻薬を売買して儲けていた第三国人、
劉にヤバい商売の片棒を担がされていた榊の兄(元海軍パイロット)。

兄の犯罪に気づいた榊は、劉を追っていた刑事が
沖縄に逃げようとする劉を捕まえるため、自衛隊に出動要請
したのを受けて、
最初はF-86で、それもダメならT-33に乗り換えて劉を追います。

そもそも、一介の警察官が自衛隊の出動を電話で要請できるなんて、
並行世界の日本かよとこの映画を見たおそらく全員が思うでしょう。

わたしは思うのですが、もし自衛隊がこの映画でジェット機を宣伝して、
自衛隊への関心を深め、あわよくば入隊者の増加につなげたいのなら、
まず、チンケな密売人との戦いではなく、自衛隊の出動要件である、
治安出動や災害派遣、警護出動を満たすアクシデントを据えるべきでした。

感想の最後に、

「よくこんな映画に自衛隊が協力を許したな」

と書いたのですが、それはあくまでも半世紀後の常識によるもので、
1950年台の自衛隊は今とは全く採用基準、そして構成人員、
その他もろもろが今とは全くちがっていたことを考えなくてはいけません。

今では考えられませんが、名前さえ書ければ入隊できた時代もあるのです。
盛場でウロウロしている若者に、「ニイちゃんいい身体してるね」
と声をかける自衛隊の勧誘員がいたというのも伝説などではありません。

有名な「昭和の自衛官」

映画はこの時代(ヤンキー出現期)より遥かに昔であり、
そういう意味では、自衛隊に入隊しようとする若者の層もピンキリで、
それこそキリの方にはとんでもないのも紛れていたはずです。

もしかしたら、こんな映画でも「アキラの兄ぃイカス!」とシビレて、
パイロットになってジェットぶっちぎっちゃる!
と自衛隊に入隊する人もちょっとくらいいたかもしれない。

アメリカで「トップガン」を上映した映画館に窓口を設置しておいたら、
そこから海軍への入隊を申し込んだ人がたくさんいたという話もあったし。

■ HERE COME THE WAVES
(ウェーブスがやってくる)


アメリカの戦争コメディ(戦争中にコメディを作ってしまうアメリカ)
ばかりを集めた直輸入版のCDに収録されていた映画です。

日本では公開されなかった作品なので、邦題は直訳しましたが、
もし公開されていたら、その時はどんなタイトルになっていたでしょうか。
想像してみます。

例1:「海軍の美人双子」

この作品の前にご紹介した陸軍WAC勧誘映画、

「Keep Your Powder Dry」(常に備えあり)

が、「陸軍の美人トリオ」になったことから類推してみました。

例2:「海軍女子がきた!」

〇〇女子、という言い方はちょっと今風ですがどうでしょう。
まあ、いずれにしても日本では「WAVES」という言葉は使わないでしょう。
何度かこのブログでもお話ししているように、海上自衛隊では
女性隊員のことを、語尾の印象が良くない「ウェーブス」ではなく、
「ウェーブ」と呼んでいるので、万が一この言葉を採用しても、

例3:「ウェーブがやってきた!」

になるはずです。

本作は英語字幕がなく、シノプシスも見つからず、
要するに翻訳の助けになるものが何もなかったので、
全ての理解を聞き取りで行いましたが、正直なところ、
一部どうしても聞き取れなかったセリフもあったりして苦労しました。

さて、「嵐を突っ切るジェット機」は、入隊希望者を増やすために
設定すべき「憧れられる主人公」「憧れられるシチュエーション」
をすっかり見誤ったとわたしは厳しく断罪しましたが、
戦時中のアメリカにおける女性軍人のリクルートを目的とした当映画は、
当時アイドル&カリスマ的人気があった歌手、ビング・クロスビーが
海軍に入隊してウェーブスと恋に落ちるという展開で、
海軍への憧れを実に軟派な方向から憧れを煽ってきています。

これはアメリカ人にとっては大変効果的だったと思われます。

日本と違ってアメリカの戦争映画は必ず男女の恋愛を取り上げますし、
軍公式のリクルート映画などでも、それは例外ではなく、
はっきりと「女の子にモテるよ」などという直接的な文言で
航空隊への参加を誘ってくるような作りとなっていました。

愛国心とか公徳心、公に殉じる覚悟とかはもちろん誰の建前にもありますが、
人間誰しも自分の人生を良く生きたいというのが古今東西本音にあります。

陸軍の「常に備えあり」にしても、この「ワックがやってきた」にしても、
そこでは軍隊での生活を女性のライフステージの一つとして提案し、
そこではちょっとワクワクした非日常な出来事が起こるかも?
それは素敵な男性との出会いかもしれないし、
一生付き合える仲間との出会いかもしれない、という具合です。

軍隊に参加することは、多少は厳しいこともありますが、
決して自分を殺したり、我慢をしたりすることはないんですよ、
それに、国のために働くのはこれだけ格好良くて尊敬されます、
と、まあ現在のリクルートとはあまり違いのない角度からのアプローチです。


本編のイラストは、白黒映画だったこともあって、
「陸軍の美人トリオ」と同じ、アメコミ風に仕上げてみました。

また今年も、皆様があまり観る機会のない、
このような日本未公開の作品も頑張って取り上げていきたいと思いますので、
どうかお付き合いください。




令和7年度 年初め映画タイトルギャラリー

2025-01-01 | 映画


皆さま、明けましておめでとうございます。
本年度も淡々と、主に海軍関係のことや見たものについて発信していきます。
よろしければどうかお付き合いください。

さて、年末に戦時中に制作された日米の国策映画を取り上げましたが、
そこで年が明けてしまったので、掲載順ではなく、
なんとなく絵面が正月向きの「聯合艦隊司令長官 山本五十六」
のタイトルイラストで新年をスタートしたいと思います。

■ 聯合艦隊司令長官 山本五十六

本作品は、元ページでも説明したように、
東宝映画が毎年終戦記念日と同時に公開する「8/15シリーズ」の一つです。

確かに、夏になると必ず戦争大作がリリースされていた時期がありましたが、
それでは東宝の8/15シリーズとは結局なんだったのかというと、

「日本のいちばん長い日」(1967) 監督:岡本喜八 
「連合艦隊指令長官 山本五十六」(1968) 監督:丸山誠治 
「日本海大海戦」(日露戦争)(1969) 監督:丸山誠治 
「激動の昭和史 軍閥」(1970) 監督:堀川弘通 
「激動の昭和史 沖縄決戦」(1971) 監督:岡本喜八 
「海軍特別年少兵」(1972) 監督:今井正

「聯合艦隊」(1981) 監督:松林宗恵
「零戦燃ゆ」(1984)監督:舛田利雄

毎年季節の風物詩的に夏にリリースされた作品は6作。

戦後懐古的に語られることの多かった戦争映画も、ある時期から
極端に左傾化していった朝日新聞を筆頭とする言論に叩かれるようになって、
反戦・自虐の思想に配慮するようになるのですが、このシリーズも
「激動の昭和史 軍閥」辺りでその傾向が見えてきて、
(内容は竹槍事件いう言論事件が中心)「沖縄決戦」は言わずもがな、
「海軍特別年少兵」で子供を戦争に駆り出した軍と政府への非難、と、
とにかく日本が悪うございました的な反戦反日一色になっていきます。

こういった反戦思想が悪いというのではありませんが、
誰にとってもこの手の映画は単純にエンタメとして「面白くない」し、
映像作品としての完成度も高いとは言えないものがほとんど。

事実、この3作品は、少なくとも「山本五十六」ほどヒットはしていません。

これで懲りたのか、東宝の戦争映画シリーズは一旦途切れたのですが、
1981年、戦争映画の原点に立ち返った作品「聯合艦隊」で息を吹き返します。

「聯合艦隊」の制作が決定した直後、製作補の高井英幸は、
資料を探しに立ち寄った本屋で偶然遭遇した当時の東宝社長松岡功に、

「過去の戦争映画で、真珠湾攻撃やミッドウェー海戦、
山本五十六の戦死などドラマチックなエピソードはすべて描かれてしまった。

だからといって、今回、それ以外の秘話や
裏面史を探し出そうなどと考えないように。
秘話は一部の観客しか興味を持たない。

既に描かれてきたエピソードが最もドラマチックなんです。
だからこそ映画の素材として早く取り上げられたんです。
それ以上のもの探してもないんです。
今回も、これまで描かれたエピソードを照れずに使って下さい」

と言われ、真珠湾攻撃から沖縄特攻までを盛り込んだ作品、
「聯合艦隊」を作り上げ、ヒットにつなげました。

ちなみに松岡社長はあの松岡修造のパパです。

「真珠湾」

本作タイトルの絵は、作中登場人物とそのモデルとなった
実在の軍人の写真を並べるということをしてみました。

実在人物を扱う映画として、多少なりとも雰囲気が似ていると、
観ていて非常に納得感があるものですが、
1日目の「真珠湾」で一番似ているのは草鹿龍之介の安部徹だと思います。

本文でも縷々述べたように、三船敏郎の山本五十六は、特別枠で、
「造形は似全く似ていないがこの俳優しか考えられない」で賞に決定。


本作は、山本五十六が起案した真珠湾攻撃から、
「海軍甲事件」によって戦死を遂げるまでが描かれますから、
真珠湾の次のステージはミッドウェー海戦となります。

この頃の戦争映画によく顔を出していた加山雄三が出演しています。

ついでに、東宝は8/15シリーズに遡り、

太平洋の鷲・日本聯合艦隊は斯く戦えり(1953)監督・本田猪四郎
ハワイ・ミッドウェイ大海空戦・太平洋の嵐(1960)監督:松林宗恵
太平洋の翼(1963)監督:松林宗恵

これら「太平洋シリーズ三部作」を制作しています。
このシリーズは、戦後空幕長になった源田實の「海軍航空隊始末記」を元に、
戦闘機部隊の戦いを描く戦争映画シリーズで、これらは間違いなく
当時子供アニメまで波及した「零戦ブーム」を受けています。

加山雄三はこの中の「太平洋の翼」で戦争ものに初出演し、その後、
「青島要塞爆撃命令」「戦場にながれる歌」、そして、
8/15シリーズには「海軍特別年少兵」を除いて前作出演を果たしました。

本作で加山雄三は、真珠湾攻撃で「赤城」攻撃隊長だった
「爆撃の神様」こと村田重治大佐、そしてミッドウェー海戦における
「飛龍」攻撃隊で「ヨークタウン」の艦橋に激突自爆した、
友永丈一少佐二人をモデルに創作された伊集院大尉を演じています。

「ガダルカナル」

舞台がガダルカナルに転じると、画面が急にカーキっぽくなり、
設定上陸軍軍人多めになってきます。

特にこの日の扉絵で描いた人々は瓜二つの生き写しとしか言いようのない
佐々木孝丸演じる今村均を除いては、誰も全く似ていませんが、


畑俊六陸軍大臣を演じた今福正雄と、



大本営報道部長だった平出英夫と加東大介

この二組は思わず膝を叩いてしまうほど似ていました。
但しわたくし、畑陸軍大臣が出ていた場面は全く思い出せません。

ガダルカナルでは、輸送をめぐる陸海軍の相剋や、
壮烈なネズミ輸送の現場、そして海軍が引き受けた
ヘンダーソン基地艦砲射撃などが描かれます。

「ブーゲンビル」

この映画を掲載するにあたって、最終回を「ブーゲンビル」としたのは
そこが山本五十六の終焉の地であったからですが、この最終回では、
聯合艦隊の残照というべき勝利となった南太平洋海戦が、詰まるところ
ガダルカナル陸軍の支援に帰結しなかった、という皮肉な史実が語られます。

そして全ての山本五十六を描いた映画のシーンと同じく、
本作も、輸送機の座席に軍刀を脚の間に保ったまま、
泰然として彼岸に向かう聯合艦隊司令長官の最後の姿が描かれます。

■ Uボート基地爆破作戦
THE DAY WILL DAWN


1942年、イギリス映画をご紹介しました。

邦題「Uボート基地爆破作戦」
本題「夜明けの日」、
アメリカ公開時タイトル「ジ・アヴェンジャーズ」


何も知らない人は、この三つのタイトルが
同じ映画のものであるとはまず思わないでしょう。

もちろん、どれが一番本作にふさわしいかというと、本題である
「The Day Will Dawn」
です。
日米のそれは、タイトルだけでなんとか客を呼ぼうという、
商業的な媚びが透けて見え、本質からは離れています。

このタイトルは、映画の最後で字幕により紹介されるチャーチルの演説、

”今、ナチスのくびきの下にひれ伏している12の有名な古代国家では、
あらゆる階級と信条の人民大衆が解放の時を待っている。
その時は必ず訪れ、その荘厳な鐘の音は、
夜が過ぎ、夜明けが来たことを告げるだろう。
(The night is past and that the dawn has come.)


から取られていることから、その評価は妥当と考えます。

当作品の舞台設定はノルウェー侵攻作戦を経て、
連合国のフランス侵攻に対し、ドイツ軍が統治に至ったノルウェーという、
映画作品としては大変レアな設定です。

イギリスからノルウェーのドイツ侵攻について取材するため、
誰でもいいや的に派遣された競馬記事専門のメトカーフという記者が、
ノルウェーで漁船で操業する父と娘に出会い、娘と愛し合ううち、
いつの間にか英国とナチスとの戦いに巻き込まれていきます。

何よりわたしが驚いたのが、残存しているフィルムからは、
彼がなぜかドイツ軍艦に拉致され、解放され、フランスに行って
シェルブールで英国の撤退作戦に参加する、
という一連のシーンがごっそり欠落していたということです。

なぜこんな重要なシーンがカットされていたのか全く理由がわかりませんが、
映画解説サイトではちゃんとこの部分にも言及しているので、
DVD化するときにフィルムが物理的に欠損していたのかもしれません。

見どころがあるとすれば、それは第二次世界大戦下のノルウェーという
特にハリウッドではまず取り上げられないシチュエーションであることと、
イギリスの名女優、デボラ・カーの美貌が拝めることくらいでしょうか。

メトカーフはドイツ軍艦に拉致された後、なぜかイギリス海軍諜報部に、
ノルウェーのUボート基地を探し出す作戦の民間人スパイとして
(全く本人の同意なしで)パラシュートで現地に放り込まれます。

彼の働きでイギリス軍はドイツ潜水艦基地を爆破するのに成功しますが、
その後、彼を待っていたのは、容赦ないドイツ軍の報復処刑でした。

作戦に協力したデボラ・カー演じるノルウェー娘や村人と共に、
彼が銃殺刑に処せられようとした寸前で、間一髪イギリス海軍がやってきます。


当作品は戦時中に制作されたイギリスのプロパガンダ映画ですので、
そもそも中立であるべきノルウェーを狙っていたのはドイツだけでなく、
英側だって戦略上侵攻しようとしていた(仏にかまけている間取られた)
という視点はごっそりと(このフィルムのように)抜け落ちています。

年末にお話ししたプロパガンダ映画の要件を紐解くまでもなく、
そこには当然「我が方イギリスの側の正義」しかないわけです。

いずれにしても「プロパガンダ映画に名作なし」の典型みたいな作品でした。


ところで蛇足ながら、この映画の前半の絵は、人間ドックの待ち時間を利用して
iPadで検査の合間を埋めるようにして仕上げたせいで、
これを見るとドックを行った病院と待ち時間の様子を思い出してしまいます。

実は音楽の演奏も同じで、ある箇所をさらっているときに考えたことが、
意識下でプリンティングされてしまい、そこにくると
そのプリンティングされた映像や出来事、イメージが、
何回演奏してもふっと浮かんでくる現象があるのですが、
絵を描くという作業にも同じようなことが起こるんだなあと実感しました。

ちなみに”プリンティング”される事象は、人の顔だったり、
ブログ制作で取り扱ったシーンだったり、もっと他愛のないことだったり。
自分では内容やプリンティングそのものをコントロールできません。

この現象、楽器をやる人ならおそらく皆わかってくれますよね。

続く。

令和6年度 歳忘れ映画タイトルギャラリー〜日米国策映画を考える

2024-12-29 | 映画


早いもので、令和6年ももう終わろうとしています。
今年も恒例の映画タイトルギャラリーをやります。

今日は、令和6年度に掲載した日米のプロパガンダ映画について。

■「愛機南へ飛ぶ」
2023年の年末に掲載した国策映画です。

この映画を制作したのは、その名も「映画配給社」という、
戦時国策映画を制作するために1942年に作られた御用映画会社でした。

政府は1942年2月にすべての娯楽映画の制作を禁止する
「映画統制令」を作ったため、既存の映画会社のスタッフは、
徴兵されるか、志願して戦争に行くか、あるいは
国内で国策映画を作るかのどれかしか道がなくなりました。

監督は、当時松竹に在籍していた早撮りのできる佐々木康が務め、
陸軍の全面協力によって当時国民的ヒットを果たしました。

娯楽映画がなくなって、他に観るものがなくみんなが観た、
という非常にわかりやすいヒットの理由があったとはいえ、
国家予算が費やされていることもあり、決して駄作ではありません。



国策映画の目的はまず戦意発揚と戦争遂行への理解を深めることですが、
本作の場合、これに「航空兵」「偵察」の増員という目的が加わります。

主人公の青年は、外国航路の船員だった父が客死したため、
自分は航空士官となることを目指すのですが、配属先は偵察。

従来映画に取り上げられやすい海軍の船乗りや戦闘機、
爆撃機乗りという配置と比べると比較的地味です。

しかし、この映画で取り上げることで、おそらく陸軍は、
地味だが重要な偵察任務の重要性とその魅力を伝え、
希望者を増やそうと計画したのだろうと思われます。

本作は当時の映画館の慣例に従い、単体ではなく、
東宝映画の「決戦の大空へ」と同時に上映されました。

松竹と東宝作品の二本立ては本来ならばあり得ない組み合わせですが、
それは当時の配給会社が「映画配給社」しか存在しなかったからです。

既存の映画制作会社は統廃合されたわけではなく、
「映画配給社」が企画したものを各社で個別に制作し、
それを一括して配給していたので、こういうことも起こり得たのでした。

映画配給社が陸海軍のバランスをとったのか、
「決戦」は海軍後援映画で、予科練の航空兵を描いた作品でした。

こちらも出演者に人気絶頂だった原節子、高田稔、
練習生に木村功というなかなか豪華な陣容となっており、
特筆すべきは、この映画からあの「若鷲の歌」が生まれたことでしょう。


映画に戻りますが、本作では主人公が陸軍予科士官学校に入るという設定で、
朝霞にあった陸軍予科士官学校の様子を見ることができます。

予科士官学校のあった場所は現在陸上自衛隊朝霞駐屯地になっています。

そして、埼玉県の所沢にあった、陸軍航空士官学校の訓練の様子、
現在航空自衛隊入間基地となった修武台の内部を見ることもでき、
歴史的に貴重な映像資料としても後世に伝えるべき作品です。

そして、この映画では、当時霧ヶ峰で訓練していた
女子航空員のグライダー滑走の貴重な映像を見ることができます。


前半が主人公の立志と錬成、そして陸軍士官学校卒業までで、
後半は日米開戦、主人公が台湾に出征するところから描かれます。

映画にはフィルムが欠損している部分が多々あり、それはほとんどが
主人公の母の働く航空機工場における「銃後の人々」の様子なので無問題。

映画のクライマックスで、主人公は偵察任務の際、
ガソリンの残量が少ないのを覚悟で任務を遂行し、無人島に不時着。
しかし爆撃部隊は彼らの偵察によって大戦果を挙げます。

生還した主人公は褒賞として(たぶん)帰郷を許され、
母親と二人水入らずの(最後になるかもしれない)旅行を終えて、
また南へと飛行機が飛ぶ(戦地に帰っていく)ところで映画は終わります。



この作品が宣伝映画としてなかなかよく出来ていると思うのは、
青少年、父母層、働く若い女性と、各層について満遍なく描写し、
全方向からの共感を得られやすくしてあるという点でしょう。

ただ生真面目で説教臭く、理想化されすぎた人々の描写など、
プロパガンダ映画ならではの致命傷はあるものの、
当時の映画人たちが、娯楽映画の制作を禁じられ、
軍の各種縛りという制限下における創作活動においても、
彼らの状況でプロとしてやり遂げた一つの仕事といった感じです。

【「若鷲の歌」と「索敵行」】


「愛機」の挿入歌「索敵行」がヒットしたと前回書きましたが、
そうは言っても、1年間のレコード売り上げは6万5千枚止まりでした。

これに対し、同時上映された「決戦の大空に」の挿入歌、
「若い血潮の予科練の」で有名な「若鷲の歌」
全く同じ時期に発売され、1年間の売り上げは23万3000と海軍圧勝でした。

「若鷲の歌」の作曲者、大作曲家古関裕而は、戦後、
土浦航空隊跡地である自衛隊武器学校に「若鷲の歌の碑」が建造された際、
その式典の席でこんなことを述べています。

「この歌に刺激され、発奮され、大空に国難に殉じようと
何万という青少年が予科練に志願したという話を聞き、
更に祖国のために身を捧げられたことを聞き、
いたく責任を感じ、只、英霊の冥福を祈るのみである

自分の優れた歌曲が多くの若者を戦地に追いやったと言うのでしょうか。

しかし、肝心の作詞を手がけた西条八十はというと、
戦争中従軍文士として大陸に渡り、日本文学報国会の会員として
まあ言うたら全面的に戦争協力を行なっていたわけですが、
戦後は歌謡界の重鎮としてさらなる創作活動を行い、
戦争中の活動については反省どころか特に言及もしていないようです。

古関裕而はきっと誠実で良心的な人物だったのでしょう。
しかし「死に追いやった責任を感じる」は、
芸術家としていうべきではなかったとわたしは思います。



■ 海兵隊魂とともに Salute to the Marines




意識したわけではありませんが、カラーの扉絵を描こうとして
カラー作品を選んだところ、日本の国策映画の次は、
アメリカの国策映画を紹介することになってしまいました。

主人公にウォレス・ビーリーという当時落ち目の俳優、
(しかも落ち目になった理由が因果応報自業自得としか言えない人格破綻者)
加えて、いわゆる出演者に有名どころが一人もいないという、
こちらはハリウッドにしては思いっきり低予算映画。

だらしなく太った海兵隊曹長という設定もさることながら、
いくら国策映画だからと言って、その主人公が日本人を何度も何度も
口汚くイエローモンキー、ジャップと罵る映画というのは、
プロパガンダとわかっていても決して愉快なものではありませんでした。

たとえわたしが日本人でなかったとしても、それは同じ。

「FBI vs ナチス」や「Uボート基地爆破作戦」における
ドイツ人&ドイツ軍の描き方が単純に不快なのと同じことです。

本作は、開戦直後からフィリピン陥落までの頃、つまり、
アメリカが日本相手に何かと苦戦していた頃に制作されたもので、
退役した海兵隊軍曹が悪の日本軍相手に戦いを挑み、
最終的には敗れて死んでいくというストーリーです。


【プロパガンダ映画とは】

戦時プロパガンダ映画というのは、国民の戦争協力を得るため、
特定の思想、世論、意識、行動へと誘導する意思のもとに制作されます。

かつてアメリカ合衆国に戦時中のみ存在した、
宣伝分析研究所(Institute for Propaganda Analysis)
の分析によると、プロパガンダの手法の一つに、

ネーム・コーリング(名指し=罵詈雑言)


というものがありますが、それは、個人または集団に対し、侮辱的、
卑下的なレッテルを貼り、攻撃対象をネガティブなイメージと結びつけ、
「恐怖に訴える論証」(Appeal to fear)を用いて、
観衆に恐怖、不安、疑念と先入観を植え付けることを目的とします。

「海兵隊に敬礼」(原題直訳)というこの作品の主人公は、
粗野で二言目には罵詈雑言を吐き散らし、隙あらば大ボラを吹いて
自分を大きく見せるような海兵隊曹長ですが、不思議なことに
酔って暴れて憲兵に収監されようが、不名誉除隊にもならず、
全ての狼藉は「微笑ましいエピソード」として大目に見られます。

しかも彼の周りには、美人の妻と父親に似ても似つかない娘を始めとして、
妻の所属する「平和同好会」のメンバーも、教会に集う隣人たちも、
全てが善良で、口汚く敵を罵る役目は、主人公ただ一人に任されています。

(しかも、彼が下士官なのに、妻の兄は士官であり、
娘は司令の姪としてイケメン士官二人を両天秤にかけているなど、
主人公の生息するコミュニティには階級的にもあり得ない事象が多々)

それに対比する意味で登場するのが、市民に溶け込んでいると思われた
日系のラジオ局オーナーと、ドイツ系の薬屋です。

彼らは日本軍の侵攻と同時に正体を表して武器を取って暴れ出し、
善良な隣人を傷つけ始めますが、このような描写や、
民間船に偽装して兵隊を密かに運んでいた日本軍の描写は、
ネーム・コーリングで言う、「恐怖や嫌悪を煽る目的」によるものです。

イギリスの政治家、アーサー・ポンソンピーによると、
戦争プロパガンダの10の主張とは以下のとおり。

1.我々は戦争をしたくはない
2.しかし敵側が一方的に戦争を望んだ
3.敵(の指導者)は悪魔のような人間だ
4.我々は領土や覇権のためではなく偉大な使命(大義)のために戦う
5.我々も誤って犠牲を出すことがあるが、敵はわざと残虐行為に及ぶ
6.敵は卑劣な兵器や戦略を用いている
7.我々の受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大(大本営発表)
8.芸術家や知識人も、正義の戦いを支持している
9.我々の大義は、神聖(崇高)なものである(聖戦論)
10.この正義に疑問を投げかける者は、裏切り者(売国奴、非国民)である

このうち、本作に見られるプロパガンダは赤字が顕著です。

そこであらためて、「愛機南へ飛ぶ」と日本の国策映画の傾向はというと、
敵を貶めたり悪魔化するような表現はあまり用いられず、
ただ戦いに臨む軍人を理想化、英雄化し、周りの人物の覚悟を美化し、
上の主張で言うと9番の聖戦論を拡大したものであると考えられます。



ストーリーは、主人公夫妻が死後に海兵隊から勲章を与えられ、
その叙勲式で娘がいきなり海兵隊軍曹になるところで終了します。

まあこれはなんだ、美人の女優さんに海兵隊の素敵な軍服を着せて、
あわよくば女子の入隊も見込めないかってことだったんだろうなあ。


最後に、本作を不快に耐えて取り上げて良かったと思ったことは、
なんと言っても、このシーンです。



1980年度作品「ファイナル・カウントダウン」で登場した「零戦」シーンが
実は1943年作品のこの映画から流用されていたと知った時の驚き。

おそらくこんなとんでもない事実に最初に気づいたのは、
世界広しと言えども、わたしだけではないかとすら思えました。

「ファイナル・カウントダウン」のスタッフは、
この映画のあまりに無名なことから、流用がバレないと思ってたんだろな。

ところがわたしのミスは、英語のある映画サイトで、この映画の日本機は
ヴィンディケーター Vought SB2U Vindicatorであると書いてあったのを
検証せず鵜呑みにして、本文でヴィンディケーター連呼したことです。

ただちにこれテキサンじゃね?と皆様に間違いをご指摘をいただきました。
うむ、確かにテキサンと言われて見れば、テキサンの形をしておるわ。

しかし、この間違いのおかげで、「ヴィンディケーター」が
当時のパイロットにめっっぽう評判が悪く、「バイブレーター」とか、
特に「ウィンド・インディケーター」(風向指示器)なんていう
誰がうまいこと言えと的なあだ名がついていたことを知ったので、
これは転んでもタダでは起きないってやつか?と自分を慰めています。


続く。


映画「Here Come The Waves」(WAVESがやってきた)2

2024-09-07 | 映画

第二次世界大戦時のアメリカのWAVES勧誘映画、
「Here Come The WAVES」、二日目です。


ジョン・キャボットを責任者、ウィンディをアシスタントにした
WAVES勧誘のためのコンサートの企画が進められていました。

そこにやってきたスージーは、嬉しさのあまり、ウィンディに
この計画のためにジョンを騙って嘆願書を書いたことを言ってしまい、
「ダグラス」を降ろされて不満だった彼は、彼女に腹を立てます。



しかも、スージーからローズマリーとジョンが接近していると聞かされ、
ローズマリーを好きだったウィンディは、
彼女にウソを言って、ジョンの印象を悪くさせようとします。

「彼は本当は艦に乗りたくなかったんだ。
なぜって海の上には女の子がいないからね」

「信じないわ」

「僕は本人から聞いたからね」




これを聞いて、ローズマリーは

「誰かが僕を嵌めて艦から追い出し、この任務に就かせたんだ」

と言うジョンの言葉をもう信じられなくなってしまいました。



そして二人は「ダグラス」を揃って降りることになりました。
昨日入隊したと思ったらもう下士官になっているのはさすが映画。



彼が指揮を執ってプロデュースした最初のショーは、
空母USS「トラバース・ベイ」のハンガーを使って行われました。

この「Traverse Bay」はもちろん架空の空母です。
ハンガーなので、画面の手前には航空機の翼が見えています。


観客は海軍軍人ばかりのはずなのに、今更勧誘色があからさま。


で、これが、この映画が後世の一部から「糾弾」される問題のシーンです。
ジョンとウィンディは顔を黒塗りにして黒人の郵便屋に扮し、

「Ac-Cen-Tchu-Ate the Positive」

という、日本では無名ですがアメリカでは何度もカバーされ、
スタンダードナンバーのようになっている曲を歌い踊ります。

タイトルは

「Accentuate the Positive」
(ポジティブを強調=ポジティブでいこう)?

Ac-Cent-Tchu-Ate The Positive - Bing Crosby & The Andrews Sisters (Lyrics in Description)

フレーズになんだか聞き覚えがある!と言う方もおられるかもしれません。
それくらいキャッチーなメロディです。

Clint Eastwood ~ Ac-cent-tchu-ate the positive

クリント・イーストウッドが歌っているバージョン。
決して上手くありませんが、クリント好きだから許す。というか(・∀・)イイ!!

内容を一言で言えば、


「何事も積極的に、どっちつかずになるな」

どっちつかずの人のことを「ミスター・イン・ビトウィーン」と言ってます。

ハロルド・アーレンとジョニー・マーサーという、
知っている人は誰でも知っているゴールデンコンビの曲だけあって、
1945年度のアカデミー優秀音楽賞を受賞しています。

(戦時中でもアメリカって普通にこういうことしてたんですね。余裕の違い)

ただ、この映画のシーンについては、当時の流行りに乗って
顔を黒塗りしてしまったことが祟って、近年では大変不評です。


「1940年台だから許された」

という感想もありますが、それをいうなら日本では、1980年台にも関わらず
顔を黒塗りにした「シャネルズ」というバンドがあってだな・・・。



ジョンは自分の「潔白」(好きで『ダグラス』を降りたのではないこと)
を証明するために、自分のサインが(スージーによって)偽造された書類を
ローズマリーに見せて誤解を解こうとしていました。

スージーは、
彼がローズマリーに見せる前に書類を奪取しようとします。
姉が見れば、筆跡で書類の偽造をしたのが自分だとバレるからです。

ウィンディに唆された奥の手として、彼と一緒に甲板から海に飛び込み、
どさくさに紛れて書類を奪うつもりをしていたスージー。


ローズマリーを待っていたジョンに密着するためキスをお願いしたところ、
流れとはいえ、あっさり応じてくれるではありませんか。

(すかさず『深い意味のないただのキスだよ』と念を押すズルい男ジョン)

熱烈なファンだった彼女は、隙を見て書類を奪うのに成功しますが、
憧れのアイドルにキスされて一瞬気を失い、



ジョンが去ったあと、海に落下してしまいました。

「Man Over Board ! (人が落ちた)」

さすがは海軍、瞬時にあちこちからMOBの声がかかります。
もし本当に空母の甲板から落ちていたら、もっと大事になると思うけど。

近くにいたウィンディがMOBに応じ、救助に飛び込んでびっくり。

「スージー!何してんだこんなところで」

ジョンから体を張って奪った書類は、海に沈んでいきました。



書類がスージーに奪われたことに気づかないジョンは、
ローズマリーに見せようとしますが、

「あれ・・・?誰かに盗られたかのな」

「・・・もういいわよ」


ここは海軍航空基地管制塔。
WAVES勧誘映画ですから、たぶん本物です。


ローズマリーは管制官としてここに配置されていました。
有線によるアナログな通信や、管制塔から発光信号を送るなど、
この頃のシステムでの管制塔の様子が興味深いです。

中でも、(おそらく発進する)航空機への通信の中に、

「Anchor away」

と聞こえるのですが、海軍では航空機に対してもこれを言うんですね。

今現在でもそうなんでしょうか。



任務があるからショーには参加しない、と友人のルースにいうローズマリー。
その理由は・・・明らかです。



そこに空気読まないことでは天性のスージーがやってきて、

「ジョニーが歌を皆わたしに歌わせてくれるって!」

暗い顔をいっそう曇らせるローズマリー。
しかしルースの奨めでショーが行われるニューヨークに行くことにします。



楽屋でスージーはたまたまローズマリーと同じ髪のカツラを見つけ、
冗談半分で被ってみました。



茶色い髪のスージーに驚いたウィンディは、
またまたとんでもないことを思い付きます。



ローズマリーのフリをして、ジョンを失望させる作戦発動。
飲み物をローズマリー(と思っているが実はスージー)に勧める彼に、

「ここだけの話、ジンジャエールなんかつまらないわ」

びっくりしているジョンの前でボトル一気飲み。
(中身はウィンディが用意したお茶)

思いっきりぷはー!とやってから、

「もう一杯(another nip)やってもいい?」

「・・・Nip?」

この言い方にはかなりドン引きのようです。

多分かなり下品な言葉なんでしょう。



そしてジョンがこっそり見ているのを意識しつつ、
ウィンディと(間に手のひらを入れて)熱いキス(のふり)を・・・。



当然ショックを受けるジョン。



ウィンディはパーティ会場にいた本物のローズマリーをスージーだと思い、
さっきの続きをしようとして引っ叩かれております。


失意のジョンは、ショー直前、「ダグラス」が出航することを知ります。
何とか自分を乗せてくれるように頼むのですが・・。


彼の企画した今宵のショーは、

「もしウェーブがセーラーみたいだったら」
"If WAVES Acted Like Sailors"


WAVEなのに水兵みたいな喋り方や掛け声、腕に彼氏の刺青をしていたり、
港港に男がいる、と自慢したり・・・。



彼女らの集うバーに掛かっている絵は半裸の男性が寝そべる姿。
バーテンダーもよくよく見れば女性です。


そこで歌われるのが、

1944 June Hutton - There’s A Fellow Waiting In Poughkeepsie

「ポキプシーに私を待ってる男がいる」

ポキプシーはニューヨークとアルバニーの間にある都市ですが、
響きが面白いせいか、いろんなシーンで引用されます。
(『アリー・マクヴィール』のジョン・ケージ弁護士の口癖とか)

寸劇の内容通り、女性なのに水兵のセリフのような歌詞です。

ポキプシーで待っている男がいる
彼はとても優しい
(略)
それとは別にポモナで待っている男がいる
(略)
そして、デイトナでも一人
(略)
でも、もしあなたがわたしの手を握ってくれたら
みんなわかってくれるわ

わたしがただのジプシーだと思わないで
でもわたしはあなたを正したいの

ここからは、本物の女性ではなく水兵のセリフになります。

ビロクシで俺を待つWAVEがいる
結婚できなきゃ死んでやると言ってくる
もし信頼できる狼を見つけたら代理結婚させてやる

ウォーキガンで待つSUPER(女子海兵隊)がいる

彼女は他の女と一味違う
名前はレーガン
俺はその名を胸に刺青している

ハッケンサックにはWAC
ポンティアックにもWAC
至る所に

中にはボビー・ソックス(グルーピー)みたいなのもいる
(略)
ビロクシで待っているWAVEがいる
でも今夜は俺、ひとりぼっち


映画ではこの歌詞よりバリエーション豊かに、
サンディエゴ、パームビーチ等各地に女がいる、と言っています。

このショーは実際とても楽しいものですが、
実際に見ないと全く伝わらないと思いますので内容は省略。


ショーの合間に大変なことが発覚しました。
なんと、ジョンが「ダグラス」に乗るために
ショーをすっぽかしかけていたのです。



なぜそれが自分のせいなのか、全く理解できないローズマリー。



ウィンディとスージーは荷造りしているジョンを引き止めようとします。
せめてショーの出演だけでも最後まで果たして、というのですが、
彼はガンとしていうことを聞こうとしません。


いつもの変装をして空港に向かうためにホールを出て行きました。


スージーは人通りの多い街路で彼に足をかけて転ばせ、

「ちょっと!ここにジョン・キャボットがいるわよ!」

たちまち女性に群がられて身動きできなくなるジョン。
もう今日は飛行機に乗ることはできなくなりました。


ジョンはスージーが自分を陥れたことを本人の告白によって知りますが、
ローズマリーとウィンディが「できている」と信じているので、
舞台の袖で彼女に冷たく当たり、義務的にステージに上がります。
そしてその心と裏腹にこんな歌を歌うのでした。

誠実な心を約束するよ
いつも自由だったから
夜には腕いっぱいの星
僕はそれを自分のものだというフリをする

富める時も貧しき時も
分かち合えたら幸せ
あなたが取った僕の手
草原の太陽、暗がりのなかの炎
約束しよう 僕はそこにいると


「約束しよう」(I Promise You)という曲をデュエットしながら、
男の心が自分にないと知って、切なそうなローズマリー。

ところであれ?いつのまにこの人少尉になったんだ。
ショーの役柄ってことかな。



という二人とは全く関係なく、ショーはフィナーレを迎えていました。

「Here Come The Waves」というマーチ風の女性コーラスに乗って、
ステージには本物のWAVESたちが続々と登場します。



そして後ろのスクリーンにはジョンのアイデアで、
WAVESの軍隊生活がフィルムで映し出されていきます。

この二人は職場恋愛に発展しそうな雰囲気ありですが、
こういうシーンも志願者を増やすためと思われます。



飛行訓練のシミュレーション機のオペレーターとして。



以前当ブログでご紹介したことがあるシミュレーターですね。



開発機の実験にもWAVESが協力します。





スクリーンを使った銃撃シミュレーターのオペレーション。



通信オペレーターにタイプはWAVESの独壇場です。



航空機の整備は日本軍でも女性がおこなっていました。



こんな場所(空母甲板)なのにタイトスカートにパンプス。
このスカートでどうやって飛行機の翼の上に乗ったんだろうか。



曳航機を使った砲塔の実験も主導します。


二人はエンターテインメントを成功させた今、
海上勤務に戻っていいとWAVESのヘッドオフィスから通達を受けます。
左のWAVES隊長タウンゼント中尉が、

「スペシャリスト・ローズマリー・アリソンが、
あなたが艦に戻ることを強く望んでいると言っていましたよ」

「ローズマリーがそんなことを・・・?」

しかし、彼らの鑑はもうすでに出航した後のはず。
すると隊司令である大佐は、

「今ロスアンジェルス港に停泊しているから海軍の輸送機で送らせる」


司令室を出たジョニーはローズマリーとすれ違いますが、
彼女とウィンディがキスしていたと信じているので、冷たくあしらいます。

しかしこの男、自分はスージーに「意味のないキス」とかしたくせに・・。



そこで今や反省?したスージーが、あの時ウィンディとキスしていたのは、
ローズマリーのフリをした自分だったと打ち明けます。

喜んでローズマリーのもとにかけていくジョニー。



そして、ウィンディとスージーですが、瓢箪から出た駒?とでもいうのか、
フラれたもの同士で発作的に付き合うことにしたようです。

お互いそんなことでいいのか。


ショーのラストシーン、ステージ奥のスクリーンには、なぜかリアルタイムで
二等水兵として「ダグラス」に乗るジョンとウィンディの姿が映し出され、



スクリーンに手を振るスージーとローズマリーの姿で終焉となります。

ローズマリーは涙を浮かべていますが、実際、この時期、
西海岸から出撃する駆逐艦は、おそらく太平洋の激戦地に向かったはず。

姉妹二人の愛する人たちを乗せた「ダグラス」が、
無事に帰ってこられるかどうかは、映画で描かれることはありません。



終わり。



映画「Here Come The WAVES」(WAVESがやってきた)

2024-09-04 | 映画

以前陸軍女子WACの入隊宣伝映画「陸軍の美人トリオ」(常に備えあり)
を紹介しましたが、今日は海軍WAVES勧誘映画を取り上げます。



タイトルは「Here Come The WAVES」
直訳すれば「波が来た」ですが、このウェーブスとは

Women Accepted for Volunteer Emergency Service

の頭文字を取った志願緊急任務女性軍人のことです。

日本の海上自衛隊では女子隊員を「WAVE」としていますが、
その成り立ちを考えるとこの言葉は正鵠を得ておらず、
しかも(こちらは推測の域を出ませんが)ウェーブスだと、

語尾の響きがあまり好ましくないという理由で、
肝心の「任務」を意味する「S」が省かれた名称となっています。


ただ、アメリカでも名称は「WAVES」としながら、
口語では映画を聞く限りSを省略することが多いようですので
本稿も単体に関してはこの名称に倣います。

本作は戦時コメディばかり8本が収録された2枚組CDの中の一編でした。


直輸入版でリージョンが違い、(海外で購入したCDプレーヤーが活躍)
英語字幕すらついておらず、youtubeでも予告編しか見つからなかったので、
正直セリフを細部まで聞き取れたという自信は全くありませんが、

そこはそれ、コメディ&ミュージカルなので、なんとかなるでしょう。

Betty Hutton - "Here Come The Waves" Trailer (1944)

とりあえず、まずトレーラーを上げておきます。
最後まで見た方はお気づきだと思いますが、
本編に登場するWAVEさんたちは一部を除き本物です。

海軍の協力によって1944年に公開されたこの映画は、
ストーリーの中心のドタバタ恋愛劇と音楽の合間に、
WAVESの訓練や任務の映像を盛り込んでくるのを忘れません。

当時カリスマ的人気を誇ったスター、
ビング・クロスビーを主役に配したのも、
WAVES入隊資格のある若い女性にアピールするのが目的です。


ローズマリーとスーザンは双子の姉妹で活躍する人気歌手です。
最初に歌う曲は「ジョイン・ザ・ネイビー」。



赤毛のローズマリーと金髪のスーザン、
この双子を一人二役で演じるのはベティ・ハットンです。

ショーのシーンをはじめ、何度も同時に画面に現れるのですが、
何回見てもハットン一人がやっているとは思えません。



ブルネットの姉のローズマリーは物静かで落ち着いた物腰の、
今や死語ですが「おしとやか」を絵に描いたような女性です。



対して12分後に生まれた金髪のスージーは、典型的な陽キャタイプで、
いつも騒がしいハッピーゴーラッキーな、姉とは正反対のタイプ。



彼女は人気歌手ジョン・キャボット(クロスビー)の熱烈なファンです。

ここで話はいきなり、ショーの後、愛国心の強い姉が、
国のために海軍に入隊すると妹に打ち明けるところから始まります。

最初スージーは反発しますが、姉と離れたくないというそれだけで、
歌手をやめて、一緒にWAVEになることをすぐ決めてしまいます。

展開早すぎ。

そして高らかな「錨を揚げて」が鳴り響きます。


次のシーンからはニューヨークのブロンクスにあった
海軍の訓練学校での撮影となります。

一糸乱れぬWAVESの行進がグラウンドで行われています。



それぞれの私服に貸与されたWAVESの帽子姿の新入生たち。

最初に行うのは海軍式敬礼の練習です。



なんでもそつなくこなす姉に対し、少々不器用な妹のスージーは、
何度も敬礼の角度を直されています。



ベッドメーキングもシーマンとして最初に叩き込まれます。
うまくいかず癇癪を起こすスージーに、担当教官(多分本物)は、

「トライ・アゲイン」(ニッコリ)



制服が出来上がり、ハイヒールを黒のパンプスに履き替えても、
まだスージーは歩調を皆と揃えられず、大変苦労しています。

彼女の周りにいるのもおそらく全員本物のWAVESです。


海軍軍人として必要な基礎を学びます。
艦隊模型を見ながらフォーメーションにについて学んでいるのでしょうか。



スポーツは野球、そして、



バレーボール。

どんなスポーツの時にもスカートを履いて行うのがこの頃の女性です。
スカートの下にはショートパンツが基本でした。
(戦時中結成された女子プロ野球がそうだったように)


両足を組み替える美容体操(死語)みたいなのをしています。
なんなんだこれは。



牧師のお話を伺うレリジョンの時間もあり。

(ここだけ音楽はオルガンのコラール風)


食事は食堂でいただきます。



「食事の前には口紅を落としましょう」


今ではありえない注意書きですが、当時の女性は、
口紅なしで人前に出るのはみっともないとか恥ずかしいとされていたのです。
加えて当時の口紅は食器に付いたら大変落ちにくかったようですね。


そして、「錨を揚げて」がエンディングを迎える頃には、
スージーもすっかり行進がサマになってきていました。


そんなある日、ローズマリーが宿舎に戻ると、
スージーが洗面室に立てこもってジョン・キャボットの曲を聞いていました。

誰にも邪魔されず、一人で彼の歌に酔いしれるスージー。


我慢できなくなったみんながスージーをトイレから引き摺り出したとき、
なんと上官が、明日ジョン・キャボットのコンサートに行くから、と、

「That Old Black Magic」のレコードを借りにきました。


翌日、その「That Old Black Magic」を歌っているジョン・キャボット。

演じるのがビング・クロスビー(しかも絶頂期)なので、
当たり前と言えば当たり前ですが、素晴らしい歌唱です。


彼が現れると会場の女性は熱狂して叫びながら一斉に立ち上がり、
歌い終わると、何人もが彼の甘い声に失神するほど。

アイドルに熱狂し、泣いたり失神したりするファンというのは、
ビートルズやプレスリー以前の時代にもいたんだ、とちょっと驚きました。

カリスマに対する一種の集団催眠的な狂乱は古今東西どこにでもあり、
そんなことがなさそうなヨーロッパのクラシック演奏家でも、人気のある人、
たとえばピアニストでポーランド大統領になったパデレフスキーという人は、
若い頃、熱狂的なファンに何度も髪の毛をむしられて困ったそうだし、
あのフランツ・リストのコンサートでは失神する女性もいたと伝えられます。

この映画で、クロスビーの演じるジョニー・キャボットという歌手は、
ビング・クロスビーというより、当時のフランク・シナトラの要素を持ち、

特にこのステージはシナトラのパロディのように演出されています。


スージーもついきゃーっと叫びながら立ち上がってしまい、
ローズマリーに「制服着てることを忘れないで!」と嗜められています。


ジョンの楽屋に海軍に入った友人のウィンディが訪れました。
彼は楽屋でウィンディが配属された「ダグラス」での様子を尋ねます。

ここで、ジョンが海軍に入れなかったのが、
色覚障害(カラーブラインド)のせいだったという話になるのですが、
実は、ビング・クロスビー自身が有名な色覚障害でした。

彼が自分でブルーだと思って選んだ服は大抵他の人には派手すぎたとか、
それにまつわるエピソードがたくさん残されています。

色覚障害は、男性に20人に一人の確率で現れる症状なので、
有名人の中にも驚くほど多く、たとえばロッド・スチュアート、
ジミー・ヘンドリックス、ニール・ヤング、フレッド・ロジャース、
團伊玖磨、丹波哲郎、ビル・クリントン、タイガー・ウッズ、
キアヌ・リーブス、マーク・ザッカーバーグなど錚々?たるメンバーです。

流石に画家にはいないだろうと思ったら、なんと
ヴィンセント・ヴァン・ゴッホもそうだったらしいです。
後世に残っているゴッホの絵、彼の思ったのとは違う色だったんですね。

ゴッホは自分の作品がこう見えていた

ちなみに、女性は遺伝子を受け継ぐだけで本人に症状は出ず、
彼女が生んだ男児にそれが発現することが多いようです。



このウィンディ、実はアリソン姉妹と同郷の知り合いでした。
彼はジョンを「知り合いが出演しているクラブに行こう」と誘います。

ジョンは、ファンに見つからないように変装しました。
(この変装は一つの伏線)



しかし、アリソン姉妹はすでにステージを引退して、
今日は海軍軍人として客席に座っていました。

ウィンディは実は姉のローズマリーに想いを寄せています。
クラブで彼女らにジョンを紹介すると、スージーは大喜び。

ジョンはというと、ほぼ瞬時にローズマリーを気に入り、
メニューにいつものように自分のサインをして渡したのですが、
彼女は気を悪くしてメニューをビリビリっと破き、

「ご親切ね。でもわたしが何が欲しいか勝手に決めつけないで」

「すみません・・」


(´・ω・`)となるジョン。
世の中の女が全て自分を好きだなんて思うなよ?

ところで、同じ女優が演じる同じ顔の二人という設定なのに、
二人の男のどちらもが、騒がしいスージーには見向きもしないのです。
顔が同じならエレガントな方を男は選ぶってことですかね。

ローズマリーは思い上がった男に反発し、
ダンスの誘いを受けるとウィンディと踊り出しました。



必然的にジョンはスージーと踊ることに。


耳元で彼が流れる音楽(That Old Black Magic)に合わせて鼻歌を歌うと、
それだけでスージーはあまりの興奮に失神してしまいました。

しかし、この夜、ジョンはローズマリーに本格的に恋をしてしまうのです。


そして次の瞬間、なんと彼はいきなり(40歳にして)海軍に志願しました。

戦争中ということで、身体的条件が緩和され、
色覚異常の男性も入隊が可能になったのを受けてのことです。

WAVESのローズマリーを好きになったからと言いたいところですが、
それより彼は海軍軍人だった父の後を継ぎたかったから、
そして、正直ファンに追い回される生活に嫌気がさしていたからです。



国民的アイドルの入隊ということで、西海岸に向かう汽車に乗るキャボットに
ファンが詰めかけて群がり、落とした私物を奪い合う騒ぎに。

「何か言ってえ、ジョニー!」

「ヘルプ!」


着く駅着く駅彼を見ようとファンが押しかけ、うかうか窓も開けられません。



そしてサンディエゴの海軍訓練センターに到着。
ピカピカのプレートを水兵がさらに磨き上げています。

1923年に開始したこのセンターは、1997年まで使用されていました。
閉鎖されてからも「トップガン」など映画の撮影に利用されています。



ここからは、トレーニングセンターの実際の映像が紹介されます。
キャボットを含む新入隊者がゲートをくぐって着任してきました。




グラウンドでこれでもかと訓練が繰り広げられています。
キャボットはこれから6週間のブートキャンプをここで行います。


同じ訓練センターに新入WAVESも着任してきました。
この船はWAVES専用なのか、名前が「WAVE」です。


宿舎に到着してベッドが割り当てられます。



ブルックリンの新兵訓練所の僚友、ルースとテックスに再会しました。
彼女らはヨーマン(事務職)に配置されたようです。

そこで「故郷への通信はテレグラムでできるわよ」という会話があり、
海軍を志望したいが、家族との連絡が取れなくなるのでは?

と心配するお嬢さんたちの懸念を払拭しようとしているのがわかります。


シーマン・キャボットは「ダグラス」乗組が希望です。
彼の父親は第一次世界大戦の際水兵としてこの艦に乗っていました。


しかし、艦は改修中なので、済むまでは歩哨の任務です。

そこにスージーがジョンの配置場所を突き止め、押しかけたものだから
周りが気づき、またしても女の子が群がる騒ぎになってしまいました。

ジョンはこれが嫌で海軍に入隊したのに、と激怒。
スージーもWAVEがなぜこんなところにいるのかと士官に叱責されます。



ローズマリーをなんとかして口説きたいジョンは、

ウィンディと彼女のディナーの席に割り込み、
隣の席の女性にナッツや氷をぶつけてそれをウィンディのせいにして、
騒ぎを起こし、憲兵に連行させるという汚い手で恋敵を追い払い、
彼女と二人きりになることに成功しました。



ここまで来ればもうこっちのもの。


最大の武器である歌を使って落とすだけ、といえば聞こえが悪いですが、
ローズマリーは否定しながらも彼に惹かれている自分に気がつきました。



その夜宿舎に帰ってきてジョンと会ったという姉を妹は問い詰めますが、
肝心のことを話せない姉は、ただ彼が、父親の遺志を継いで
「ダグラス」乗組を希望しているということを聞いた、といい、
スージーは、それでは彼が前線に行ってしまう!とパニクります。

そして、彼を内地に留めるために策略を巡らしました。



それは、ジョン・キャボットをレクリエーション担当に任命させること。

スージーはなんとジョン本人になりすまし、嘆願書を出します。
WAVES勧誘のための娯楽部門を設置し、
自分がその指揮を執りたいと。

カリスマアイドルである彼が女性軍人勧誘の広告塔になるというアイデアが

ワシントンに受け入れられないはずがありません。
彼がヘッドオフィスに呼ばれた時には、
すでにその責任者としてCPOに昇任するという話にまでなっていました。

覚えのない「嘆願書」に驚愕するキャボット。

「父の後を継いで『ダグラス』に乗れると思っていたんですが・・」

「君の父上のことは知っているよ。君の気持ちもわかる。
しかし、それはその任務を終えてからでもいいんじゃないかな」



「ダグラス」に戻ると皆が周りを取り囲みました。

「なんだったんだ?」

「CPOになった」

「嘘だろ?本当に合衆国海軍のか?」

「WAVESのレクリエーション担当オフィサーなんだと」

「ほー、WAVEのねえ(ニヤニヤ)」

「気をつけ!かしら中!」

「・・・・な」

「俺は上官だ。
いいかウィンディ、お前『ダグラス』を降りて俺を手伝え」

「いや、俺は『ダグラス』で戦いますよ」

「ダメだ。上官命令だ」

「それが変更できるかどうか貴様の顔に聞いてやろうか?」

「やれよ。すぐに上官反逆罪で海軍警察行きだ。
いいか、命令だ。今夜中にショーの構成についての報告書を書け」


いきなり上官ヅラして友人を同じ穴に引き入れるジョン・キャボット。
なんかこいつ色々といい性格してんなー。


続く。



映画「ザ・ファイティング・サリヴァンズ」〜USS 「ザ・サリヴァンズ」

2024-07-24 | 映画


エリー湖にあるバッファロー海軍&軍事博物艦に展示されている
第二次世界大戦中の駆逐艦「ザ・サリヴァンズ」。

前回、真珠湾攻撃の時に「アリゾナ」と共に斃れた友の仇を取るために
三人の弟を誘って五人全員で海軍に入隊したという
「海軍サリヴァン兄弟」結成の経緯までをお話ししました。

戦没して駆逐艦に名前を遺した海軍軍人はそれこそたくさんいるわけですが、
この五人兄弟はその数だけでも特異であり、極めて稀です。

ならば、彼らの映画もあるんじゃないかと思って探したらやっぱりあった。
冒頭に貼ったのは、なんと2時間近くの超大作です。


タイトルは「戦うサリヴァン兄弟」(The Fighting Sullivans)。
テーマ音楽はアイルランドの「グリーンスリーブス」を勇ましく、
軍隊調?にしたもので、最初からもうやる気?満々です。

全体的に無名俳優ばかりですが、トップスター、アン・バクスター、
名脇役トーマス・ミッチェル(舞台『刑事コロンボ』の最初の俳優)
をキャスティングしたあたりに、力の入れようが見えます。


監督のロイド・ベーコンは、「42番街」「チャップリンシリーズ」
「北大西洋」などを手掛けた中堅どころの監督で、
映画は1944年に制作されました。

これで更なる戦意高揚が期待できるというところでしょう。
しかし、海軍の協力などがあったわけではありません。
それがなぜかはおそらく映画をご覧いただければわかります。

とはいえ、2時間近いこの大作を翻訳なしで観る根気も時間もない、
という方々のために、不肖わたしが簡単に解説を行います。


サリヴァン家の兄弟は、次々と行われる洗礼式でその名前を紹介されます。


五人の男児、一人の女児(ジェヌヴィエーヴ/ジェン)は
すくすくと育っておりました。

彼らの父親は貨物列車の車掌です。



五人兄弟は、毎日線路脇の給水塔から父親に手を振って見送るのでした。



そしてわんぱくぶりを発揮していきます。
喧嘩は日常茶飯事。



手作りのボートで転覆し、溺れそうになる。
(母親から大人になるまでボートに乗るのを禁止される)



納屋でタバコを吸って見つかる。
(なんとびっくり、父親は五人兄弟に葉巻を吸わせて咽せさせて懲らしめる)


「プランク」を作るために家の壁を切り抜いて、



水道管を破り台所を水浸しにする。
あーもう、本当に男の子ってバカ。(実感済み)



1939年、長男のジョージは街のバイクレースで優勝するような
イケイケな青年に成長していました。


末弟のアルバートはまだ高校生ですが、兄のバイクレースの日に出会った
運命の女性、キャサリン・メアリーと恋に落ちます。


結婚したいという弟に、まだ若すぎると反対する兄たち。



キャサリン・メアリーを招待した食事の席で、兄たちは、
架空の女の子からの手紙が弟に来たことにするなど、
姑息な手段で二人を別れさせようとしますが、すぐに可憐で純粋な
キャサリン・メアリー(綺麗すぎアン・バクスター)の悲しみを目にし、
自分たちが間違っていたことを認め、二人を祝福しました。


そして二人は結婚。


すぐに子供に恵まれました。
これまた当たり前のように男児です。

男系・女系ってあるよね。


1941年12月7日。

この日曜日、サリヴァン一家が皆でくつろいでいるところに
ラジオから飛び込んできたのは真珠湾攻撃のニュースでした。

沈没した「アリゾナ」には彼らの友人の一人、
ビル・バスコム(ビル・ボールがモデル)が乗り組んでいたことを知り、
彼らは友の仇を取るために海軍に入隊する決意をします。


当初新婚子持ちだった末弟のアルは一旦入隊を諦めますが、
あまりに残念そうな彼の様子を見ていた妻は、驚くことに、
彼に兄と一緒に入隊事務所に行くようにと進めるのでした。


事務所受付は、来る男来る男、名前がサリヴァンなのでびっくりです。



募集担当官のLCDR(少佐)ロビンソンは・・・あ、この顔見覚えあるぞ。
「FBI vsナチス」っていう啓蒙映画でFBIの中の人を演じていた俳優だ。

彼らの「5人で同じ船に乗りたい」という切なる願いに対し、
海軍としてもそんな保証はできかねる、と答えるしかありません。
特に5兄弟ともなると、前例もありませんしね。

とりあえず海軍は当初長男のジョージにのみ入隊許可を与えますが、
兄弟は海軍省直々に手紙を書き、結局全員の入隊が実現しました。


そして五人の息子たちが家族と別れる日がやってきました。
ここから彼らの海軍での生活が始まるわけですが、
ふと気づけば、映画は2時間のうちあと30分残すのみ。
これは海軍協賛とかではなく、完全に民製作品だったと知った瞬間です。

予想通り、ここからサリヴァン兄弟はいきなり「ジュノー」に乗り込み、
あっという間にソロモン沖で戦死するのですが、その描写は
明らかにセットで撮影されたもので、全く写実性に重きを置いていません。

ですので、ここからは、映画の流れを無視して?
実際の「ジュノー」沈没までの経緯を書いておきます。



11月12日、「ジュノー」は、ガダルカナル沖の激しい夜戦を行います。

この戦闘で魚雷により艦は大破。
一旦総員退艦の命令が下されました。

翌朝、航行不可能になった巡洋艦は艦首を失い、
18ノットを出すのに苦労しながら戦闘海域から退却します。
なんとか艦体を帰還させようとしたアメリカ海軍でしたが、
当時の海域はもうほぼガラス張り状態。

穏やかな海をのろのろと進む「ジュノー」は、
近くにいた帝国海軍の潜水艦伊号26にとって魅力的な標的となり、
魚雷が1〜2本、損傷した巡洋艦の前方に命中すると、
それは弾倉に引火し、次の瞬間激しい爆発が船を引き裂き、
わずか42秒で沈没していきました。



次男フランシス(操舵手)と三男ジョセフ、四男マディソン2等水兵、
合計3名のサリヴァン兄弟は、退艦することもできませんでした。

彼らは艦上ですでに絶命していたと言われています。

ちなみにこのとき「ジュノー」乗組員中、沈没直後に生存していたのは
約140名と言われていますが、8日後、救助されたのはわずか10名でした。

海軍が無線の沈黙を命じたこともあり、多くの生存者は漂流中に負傷が元で、
そして風雨、飢え、渇き、サメの襲来に斃れていったのです。


映画では、負傷して艦内に寝かされている長男ジョージを
兄弟全員が救出に行き、全員一緒に戦死したということになっています。

生存者の証言によると、フランク、ジョー、マットは全員艦上で即死、
アルバートは救助艇に乗れず翌日溺死、長男ジョージは漂流し、
高ナトリウム血症によるせん妄を患うまで4、5日間生きていました。

彼は兄弟を失った悲しみで精神を追い詰められ、
自分が乗っていたいかだの側面を乗り越えて水に落ち、
それっきり姿を消したという証言もあるそうですが、

それはせん妄によるものということもできるでしょう。

映画に戻りましょう。


画面が暗転すると、次のシーンでは例のロビンソン少佐が
サリヴァン家を訪れてくるところです。

少佐がニコニコと愛想よく挨拶するものだから、
家族たちも悪い予感は何も持たずに握手などしていますが、

実際両親は、戦地の息子たちからぱったりと通信が途絶え、
そこに彼らの戦死の噂が耳に入ってきたこともあって、
海軍人事局に手紙を書いて彼らの安否を問おうとしていました。

軍艦沈没の情報を国民の士気を下げることから報道しない、というのは
決して日本だけのことではなかったようですね。



実際には、1月12日の朝、父親であるトムが仕事の準備をしていたとき、
軍服を着た3人の男性(中佐、医師、兵曹長)がやってきたとされます。

「あなた方の息子さんについてお知らせがあります」

と中佐がいうと、父親は尋ねました。

「どの息子です?」
 "Which one?" 


すると中佐は答えました。

「お気の毒ですが、5人全員です」
"I'm sorry, All five."


アルの妻であるキャサリン・メイと姉のジェンは、
少佐が広報を読み上げるのを聞き終わるやいなや、
ワッと泣きながら自室に姿を消しました。


わたしに言わせると、ここからがこの映画の見どころとなります。
この映画のラスト15分、きっと当時、全米が泣いたに違いありません。

少佐の言葉に呆然とする両親。俯く中佐。
暖炉の上の写真(本物)に父親が見入った瞬間、列車の汽笛が鳴り響きます。
それは、車掌であるトムが仕事に行く合図でもありました。

「失礼します。
イリノイ中央鉄道の操車係になって33年間一度も休んだことがないもので
・・すみません」


そして母親は・・。



ふと我に返った顔になり、「五人全部・・・」と呟きます。
少佐は、そんな母親に向かい、思いついたように微笑みを顔に装って、

「Five on second thought」

という言葉の後に、

「すみませんが・・・コーヒーを一杯いただけますかな」

と所望するのです。

それを聞くと、彼女は何かやらなければならないことを思い出した風に、
同じく微笑んでいそいそと立ち上がり、キッチンに向かうのでした。


母親の「All five..」に対し「5といえば・・」とは妙な返しですが、
この一見不思議なやりとりは、却って観る者の心を深く抉ります。

監督の非凡さを表すシーケンスだと思います。



そしていつものように仕事にかかる父親。



列車が動き出してしばらくすると、あの給水塔の横を通ります。





誰もいない給水塔に向かって、父親は小さく敬礼を送ります。



そして、USS「サリヴァン」の進水式がやってきました。



実は、兄弟が「アリゾナ」のビル・ボールと友人になったのは、
彼がジュヌヴィエーヴのボーイフレンドだったからでした。

実際にジェンはWACとして海軍で人事に勤務し、新兵募集に携わりました。

米国海軍予備役に入隊し、両親のトーマス・F・サリヴァン夫妻とともに
200以上の造船所や製造工場を訪問し、そこで働く労働者を激励しました。

映画でキャサリンが抱いている息子のジミーですが、成長して海軍に入り、
念願かなってこのUSS「ザ・サリヴァンズ」の乗組員になりました。



そして時は流れ、1995年、2代目USS「ザ・サリヴァンズ」DDG-68
(運用中)の進水式スポンサーになったのは、アル・サリヴァンの孫、
ジミーの娘であるケリー・アン・サリヴァン・ローレン(右女性)でした。




シャンパンの儀式は母親のアレッタが行いました。


シャンパンが割れると同時に汽笛を鳴らしながら進水する船。
(艦番号は450なので、この映像は『オバノン』の進水式。

日本海軍の潜水艦とジャガイモの投げ合いをした艦です)

それを見送る彼女は夫に向かっていうのでした。

「トム・・・あの子たちが生き返ったわ」
” Tom, our boys are float again."


「錨を揚げて」Anchors Aweigh の調べの中、
朗らかに手を振り、光に向かって進んでいく五人兄弟。

このラストシーンには、恥ずかしながら涙腺をやられました。


サリヴァン兄弟の映画は、実は間接的に、スピルバーグの映画、
「プライベート・ライアン」に影響を与えています。

サリヴァン兄弟他何組かの兄弟の戦死事案が勘案された結果、海軍省は


ソウル・サバイバー・ポリシー (Sole Survivor Policy)
国防総省指令1315.15「生存者のための特別分離政策」

を制定しました。

ある兵士が軍務で失われた場合、同家族内の生存している兵士を
徴兵または戦闘任務に就かせず、保護することが定められています。

続く。


映画「聯合艦隊司令長官 山本五十六」 ブーゲンビル

2024-06-10 | 映画

始まった時には考えてもいなかったのですが、
この映画が放映時間2時間10分という超大作であったこともあり、
気がつけば場面ごとに4日に分けて紹介することになってしまいました。

山本五十六を描いた映画は、当然のことながらその最後は
ブーゲンビルで米機に撃墜された「海軍甲事件」で幕を閉じており、
本作も山本の乗った一式陸攻がブーゲンビルのジャングルに墜落し、
それを護衛隊が見送る、というシーンがラストになっています。

■南太平洋海戦


ヘンダーソン基地への艦砲射撃が成功したのを受けて、
アメリカ艦隊(青)は全艦隊をもって北上し、連合艦隊(赤)もまた
「翔鶴」「瑞鶴」「瑞鳳」を旗艦とする全機動部隊でこれと対峙しました。
(赤線青線はお節介ながらこちらで書き入れておきました)

昭和17年10月26日の南太平洋海戦です。


こ、この二人は・・・!
ミッドウェーの後しょんぼりしていた南雲&草鹿コンビではないですか。

このとき第三艦隊を指揮したのは他でもない、南雲中将でした。
この二人が「汚名返上のチャンスを」と願い出て、
山本が「温情人事」によって二人を留めたゆえの配置でしたが・・。


日本軍の攻撃によって炎上する「エンタープライズ」。

このとき日本側は損傷を受けたものの、空母「ホーネット」、
駆逐艦「ポーター」を沈没、「エンタープライズ」、重巡1隻を中破させ、
日本側は確かに「海戦では勝った」ことになりました。
南雲&草鹿の「汚名」も、返上されたといってもいいのかもしれません。

しかし・・・。


「未帰還機が多いようです」



その一例。
帰投中、機体と身体に傷を受け、持ち堪えられなくなって
海に落ちていく三上中尉(こんなちょい役に田村亮)。


最後まで声を枯らして励ましていた木村中尉は、
三上中尉の最後を敬礼で見送ります。

数字の上では日本軍の勝ちでしたが、多くのベテラン搭乗員と飛行機を失い、
そもそもこの目的であるガダルカナルの陸軍の支援には
兵力不足で結び付かなかったというのが真実のところでした。

つまりは「試合に勝って勝負に負けた」的な・・・?


もちろん兵站がそれで持ち直す事態にはならず、
ガダルカナルの陸軍は、弾薬はもちろん、食料もすでに底をつき、
「飢島」と呼ばれるにふさわしい地獄の様相を呈していきます。

■ガダルカナル撤退


この窮状を打開するために編成された第八方面軍の司令官は今村均大将。

オランダ領東インド(インドネシア)が降伏したあとは、
大本営に非難されながら寛容な軍政を敷いた人物でもあります。



旗艦の舷門で今村を迎える山本長官。

この「武蔵」という設定の船ですが、絶対海自の護衛艦だと思うんだな。
なんならサイドパイプ吹いてる人も自衛官かもしれん。
エキストラ程度ではこんなちゃんとした音は出ないはずだから。


せっかくロケで自衛艦をお借りしたからといって、
いくらなんでもこんなところでテーブル囲まなくても・・・。

この後ろの感じで、1968年当時のどの自衛艦かわかってしまう方、
もしかしたらおられませんかね?

映画では特に描かれていませんが、この二人は佐官時代から親交があり、
今村着任時の夕食会で、山本は

「大本営がラバウルの陸海共同作戦を担当する司令官が君だと聞いた時は、
誰だか同じ様なものの何だか安心なような気がした。
遠慮や気兼ね無しに話し合えるからな」


と陸海軍の側近らの前で今村に話しています。
のちに山本が戦死した際、今村はこの報に涙して悼みました。


二人が艦上で話し合ったのはガダルカナルの現状についてでした。

今村は赴任前に宮中に参内し、天皇陛下より、
ガダルカナルの将兵を万難を排しても救え、というお言葉を賜った、
と山本に告げ、山本もこれを恐懼して聞きます。


こちらは、切羽詰まったガダルカナルの参謀たちに、
総攻撃をかける機会は今でしょ!と詰められている百武司令。

「飢えで死ぬくらいならば玉砕の方がなんぼかマシです!」

ごもっとも。

しかし今の兵力では成功の見込みはまずない・・と司令は躊躇し、
困り果てて、ラバウルからの指示を仰ぐことにしました。


しかし、ラバウルの今村もこれ以上の戦力をガ島に投入することには及び腰。


業を煮やした山本は渡辺参謀を介してガ島撤退の可能性を探りますが、
陸軍側はそのメッセージを今村に伝えることすら拒否するのでした。

「武士の情けだ。
私としてはお取次ぎしかねるし、このままお引き取り願いたい」


つまり陸軍の立場からは撤退を言い出すことはできないと。
なんだろうこれ。プライドが許さない的な?

これを聞いた山本は、自分が「悪者」になって撤退を上に進言する、
そしてこれから海軍は撤退のため全力を尽くすことを決意しました。


そして海軍艦船により暗夜を利用した撤退作戦、「ケ号作戦」が始まります。
(画面はどう見ても真昼間ですが、それはこの際置いておいて)

山本は、

「動ける駆逐艦全てを投入、半数を失うかもしれぬ」

という覚悟でこの作戦に臨み、結果として駆逐艦「巻雲」を喪失、
軍艦数隻が損傷しましたが、将兵1万6000名余の撤退に成功しました。

2月7日のことでした。

■い号作戦



生前の山本五十六を撮った最後の写真として有名ですが、
これは昭和18年4月7日〜5日、南東方面艦隊と第三艦隊の艦載機により、
ガダルカナル島やニューギニア島南東部のポートモレスビー、
オロ湾、ミルン湾に対して空襲を行った「い号作戦」終了時のものです。


映画は実際に残る写真に忠実な構図が取られています。
山本長官の白い第二種軍装が遠目に目立っていたのも史実通り。

このとき山本は「武蔵」を降り、ラバウルにきて自ら指揮を執りました。
艦を降りることは山本の本意ではなかったとされますが、
(『ニミッツのように艦上から指揮を執りたい』と言ったらしい)
これを説得したのは参謀長だった宇垣纏でした。

またしても歴史に「もし」はないとはいえ、このとき宇垣が反対せず、
山本がラバウルに来なかったら、海軍甲事件はあったでしょうか。

作戦は、参加航空機第11航空艦隊196機、第三艦隊184機の合計380機で、
各地の米軍港にある艦艇を攻撃するというのが目標でした。



出撃する飛行隊を見送る山本長官と幕僚たち。



艦爆隊長は、いつのまにか大尉になっていた木村でした。

ところで、映画でこの後艦爆の後席に乗り込む木村大尉は、
狭いコクピットになんと長刀を持ち込んでおります。
海軍って飛行機に長い刀は持って乗らないと思ってたけど違うのかな。

もちろん高官は事情が違い、山本長官は、撃墜された一式陸攻で
長刀を持ったままの姿で発見されているわけですが・・。



幕僚と共に帽振れをする山本。



この撮影時、渡辺元参謀ら、実際に山本五十六を知る人々が
映画の現場を見ており、おそらくは助言もしていたのですが、
全ての人々が、三船敏郎の演じる山本は
細かい所作の隅々まで本人そっくりだったと証言しています。





戦果は、駆逐艦1隻撃沈、貨物船1隻撃沈、2隻撃破、
油槽船1隻撃沈、コルベット艦1隻撃沈、掃海艇1隻撃破、
航空機は25機を損失せしめるというものでした。

しかし、我が方は零戦25機、艦爆21機、陸攻15機を失い、
戦果の割には損害が大きく、消耗度の高い作戦となりました。



幕僚を集めた山本は「い号作戦」の終了を宣言し、
それに伴い母艦飛行機隊を内地に帰す命令を下しました。



ほとんどが戦友の遺骨を抱いての帰還です。



山本五十六の敬礼は実に美しかったという証言があります。

駐米大使斉藤博が任務中客死した際、横浜まで「アストリア」が遺骨を運び、
それを遺族の立場で埠頭に迎えた犬養首相の孫犬養道子さんが、父上に、
斉藤未亡人に対するレディスファーストの身についた振る舞いを見て、

「誰?あのスマートな軍人」

と思わず尋ねると、父上の犬養健氏は、

「五十六。山本五十六」

と答えたという話が犬養道子氏の著書に遺されています。

後世の人々が語るその姿から、山本五十六という人物は
所作立ち居振る舞いを含め、写真には写らない魅力があったと考えられます。

その魅力は女性のみならず男性をも捉えるような類のものでした。
常に着るものには徹底的にこだわったという話もあります。


「長官・・・ご無事で!」

兵学校の入学から縁があった木村大尉も内地に帰ります。



翌日、山本は前線の部隊を激励するために前線に飛ぶことを計画していました。
行き先はブーゲンビル、ショートランド。

飛行部隊の帰国を見送った後、この映画では山本は
将兵の見舞いに病院を訪問したことになっています。



怪我しているというのに長官が見にくるからと、
ベッドの上で正座をさせられている怪我人、病人を見回り、
声をかけていた山本は、一人の負傷兵から声をかけられました。

彼はかつて加治川で山本を乗せた船の船頭の息子でした。

駆逐艦「長波」に乗っていてルンガ沖夜戦で負傷したという彼を、
山本は励まし、父親によろしくと告げます。


山本を慕う従兵の近江三曹は、「後百日のうちに」という書を見つけ、
山本が死を覚悟していることを確信し、ラバウルまでやってきます。

そして、第三種軍服を持って山本の前に現れ、
前線ではこれを着てください、と懇願しました。

ところで、山本五十六乗機が撃墜されたとき、なぜ白の第二種ではなく、
カーキ色の第三種を着ていたかについては、その直接の理由について
特に記述が見つからなかったのですが、おそらく、近江兵曹のように
目立つ白では敵の標的になりやすいので、という理由で
嫌がる?山本にカーキを着せた「誰か」がいたということでしょう。

ただ、もし白を死の覚悟の表明として選んでいたのなら、人生最後の瞬間、
初めての、しかもあまり好きではない第三種軍服を着ていたことは
装いにこだわりのあった山本にとって心残りだったかもしれません。


翌日長官機の護衛につく零戦隊、森崎中尉以下6名が挨拶に来ました。



居並ぶ中に、山本は見覚えのある顔を見つけました。
岩国航空隊で、飛行時間220時間!と大声で叫んだ元気な航空兵曹本田です。

今や飛行時間を630時間に増やした本田三飛曹ですが、
仲間はどうした、と聞かれて口ごもりました。


本田に変わって零戦隊の森崎隊長が、配属された彼の同期は22名で
生き残ったのはわずか7名であると告げます。


翌日、二機の陸攻に分乗した長官一行は、ラバウルを飛び立ちました。
後ろに乗っているのは参謀飾緒を付けているので、
航空参謀であった樋端久利雄中佐か、副官の福崎昇中佐のどちらかです。

樋端大佐(死後)は伝説の俊英で「海軍の至宝」とまで謳われた逸材でした。



しかしこの飛行はあらかじめ暗号解読により米軍の知るところとなり、
日本軍が時間に正確なことを利用し待ち伏せされていました。



現れた16機のP-38ライトニングと交戦になる零戦隊。
護衛6機に対し16機、これはもう勝てそうな気がしません。



結果として、陸攻は2機とも撃墜され、護衛の零戦隊は被害なし、
アメリカ側のP-38が1機撃墜されています。



このとき長官機は避難のために緊急着陸を試みたと言われます。
長官機に乗っていたのは山本と二人の中佐、そして高田軍医少将、
機長と副機長、偵察員、電信員2名、攻撃員、
そして整備員計11名で、この全員が戦死しました。

2番機も墜落しましたが、宇垣参謀長はじめ3名が救出されています。



映画では、その後1番機は被弾し、副操縦士と、
山本の後ろの中佐はすでに銃弾を受けて死亡しているように描かれており、
山本の右肩には銃創が見えます。


ここでは、山本の遺体に背部盲管銃創があったとする報告通り、
機上ですでに戦死していたと描かれていますが、実際は、
墜落後発見された遺体の状況から、墜落しばらくは生きていたものの、
全身打撲か内臓破裂により翌日早朝ごろ死亡した可能性が疑われています。

なぜこのような齟齬が生まれたか、なぜ正確な検証がされなかったか。

それは、山本がなまじ神格化された存在だったため、
墜落してしばらく生きていたというより、機上で射撃されて即死した方が
連合艦隊司令長官山本五十六に相応しい、と周りが忖度して
その最後の姿を修正しようとしたからではないかと思われます。

それを疑う理由は、実際に発見された遺体の腐敗具合から、
山本がしばらく生きていたことが当時から推測されているのにもかかわらず、
軍医が墜落現場における検死の際、軍服を脱がそうとしたところ、
渡辺参謀が強い口調でそれを制止し、それをさせなかったことがあります。

長官を敬愛する彼らにとっては、正確な死因を追求し記録に残すよりも、
神・山本の物語を完璧に紡ぐことが優先されるべきだったのでしょう。


日本側で山本の死因がはっきりしていなかったように、
アメリカ側でも正確な撃墜状況は長らくわからなかったそうで、現在は
撃墜した「候補者」二人の共同ということに落ち着いているそうです。

映像もないので真実は永遠に謎のままです。


しかし、発見されたとき山本は座席に座り、
軍刀に手をかけていたことだけは確かです。



零戦が見守る中、ジャングルに墜落し黒煙を上げる長官機。


滂沱の涙を流しながら敬礼する零戦隊の六人でした。

「昭和18年4月18日、長官山本はブーゲンビル島の上空において戦死した。
真珠湾攻撃より1年4ヶ月、日米開戦に極力反対した山本五十六は、
志と違い、皮肉にも彼自身戦争遂行の重大責任を担い、
自らの死によってその節をまっとうしたのである。」

ナレーターはこれも聞いてびっくりの大物仲代達也でお送りしました。



終わり。

映画「聯合艦隊司令長官 山本五十六」ガダルカナル

2024-06-07 | 映画

映画「連合艦隊司令長官 山本五十六」三日目です。
本日扉絵左上の百武晴吉陸軍中将ですが、昭和17年、
ガダルカナル島奪回のために派遣された第17軍の司令官でした。

ところでこの百武という変わった名前に覚えがありませんか?

当ブログでは入手した海軍兵学校の遠洋航海記念アルバムをもとに
シリーズとしてここで紹介したことがあるのですが、
練習艦隊司令官としてこの年(淵田美津雄が在籍していた)の
遠洋航海を指揮したのが、晴吉の兄、百武三郎大将でしたね。

兄なのになぜ名前が三郎なのかというと、百武家は5人兄弟で、
三郎の上に二人(おそらく一郎か太郎、二郎という名前の)兄がいたからです。

百武家は三郎、源吾(海軍大将)そして晴吉と3人の将官を輩出しており、
三郎と源吾は海軍史上唯一、兄弟の海軍大将となりました。

晴吉陸軍中将は、兄三郎に似て眼鏡の細面ですので、
映画の百武役はあまり、というか全く似ていません。



これは三郎の弟海軍大将の五男、百武源吾ですが、
不思議なことに?こちらにそっくりです。

映画の配役担当がこの人と写真を間違えていたのではないかと思うくらい。

そして、左下の栗田健男ですが、これはもう全く、
誰がなんと言おうと似ておりません。
「全く似ていないで賞:海軍部門」を謹んで進呈します。

逆に、「そっくりで賞:陸軍部門」を差し上げたいのが今村均陸軍大将

佐々木孝丸という俳優は多才でプロレタリア作家、翻訳家などの面を持ち、
スタンダールの「赤と黒」の翻訳(フランス語)も行っています。



さて、続きと参りましょう。

ここは岩国海軍航空隊。
現在は米海兵隊が運営しており、軍民共用の岩国錦帯橋空港となっています。


訓練を終了し、これからおそらくは南方の戦地に送られる
新人航空兵たちを前にしているのは、あの木村中尉でした。


今日は山本長官が岩国基地に視察に訪れていました。


一人一人の前に立ち、前列の航空兵に飛行時間を尋ねる山本。

「220時間であります 」「230時間であります」「210時間(略)」

零戦以前のパイロットは、総飛行時間300時間でどうにか操縦がまともにでき、
500時間で列機が務まり、7〜800時間でようやく一人前、
1000時間でベテランだったそうですが、それらのベテランは
ミッドウェーの後くらいになると多くが戦死してしまい、
200〜300時間クラスが戦争に出されることになりつつありました。

■ガダルカナル攻防戦


下矢印は、エスピリッサント島に進出するアメリカ艦隊、
上からきているのはラバウルに進出した日本軍の第2、第3艦隊です。



そのちょうど間にあるのが・・・ガダルカナル島です。
両軍の凄惨な争奪戦が始まる、ということを説明しているのですが、
この図がわかりやすくて、感心してしまいました。



昭和17年8月24日の第二次ソロモン海戦の大戦果を報告するのは
大本営の平出(ひらいで)英夫報道部長

実物

ここで余談です。
2020年の朝ドラ「エール」でも扱われた戦時プロパガンダの一つに、

「音楽は軍需品なり」

というのがあり、この言葉の生みの親が平出大佐でした。

当時の音楽家にとってはこれは贅沢品と迫害されないための錦の御旗となり、
多くの音楽家がいわゆる戦意高揚のための協力を行いましたが、
彼らのほとんどは、戦争が終わるや否や慌てて?アリバイを主張したり、
あれはやむなく、などと保身のために言い訳しました。

わたしの知る限り「空の神兵」の高木東六氏はその典型だった気がします。
時世と価値観の変化を思えば、それを責めようとも悪いとも思いませんが。



その頃、陸軍部隊はガダルカナルに進出したものの、
米軍はすでに三本もの滑走路を完成させ、そこから猛攻をかけてきました。



ここトラック島の旗艦「大和」司令室では、黒島&渡辺参謀をラバウルに送り、
陸軍との話し合いを行うよう要請が行われました。

テーマは補給のための物資輸送です。
連合国軍が8月7日にガダルカナルに奇襲上陸したのを受けてのことでした。



海軍側がこのとき提案したのがいわゆる「鼠輸送」でした。
夜間、高速の駆逐艦を用いるしかなかったので、輸送量が限られ、
貨物クレーンも搭載していないことから、大型武器の運搬はできませんし、
月が明るい時期には駆逐艦が発見されやすく実行できませんでしたが、
それでも述べ350隻の駆逐艦が投入され、2万人が輸送されました。



駆逐艦で輸送を行うことを非効率的だというのは、辻政信参謀
トラック島に戦艦がゴロゴロ「遊んでいる」のだから、
大船団を組んで輸送してくださいよ、とつっかかってきます。

渡辺参謀が、駆逐艦を輸送に出すのは海軍にとっても大変な犠牲である、
少しは海軍の立場も理解してもらいたい、というと、

「しかし、ミッドウェーの失敗は海軍ですよ?
ガダルカナルだって先に手を出したのは海軍だ」

と、(海軍側にとって)ムカつくことをズバリ。


険悪になる雰囲気を宥めたのは流石の百武司令でした。

「どうか陸海心を一つにしてこの難局を乗り切っていただきたい。
それがこの百武の願いです!」

本物への似ていなさもあって、わたしもそうだったでしょうが、
この一言がなかったら、この司令官が誰だかわかる人はいなかったでしょう。
よっぽどこの時代の戦史に詳しい人でもなければ。



いよいよ「鼠輸送」が決行されることになりました。
駆逐艦は昼間敵との接触を避け、北方航路を30ノットで進みます。

駆逐艦には本格的な上陸用舟艇も積めないので、
手漕ぎの小型上陸用舟艇に物資兵員を移して、
駆逐艦の内火艇で曳航する方式が基本でしたが、時としてこの映画のように
ドラム缶に入れた食料や弾薬を縄でつないで海上へ投棄しました。

「これで一体どれくらい味方の手に届くんだろうな」

「いいところ5分の1さ」

水雷戦隊を自認する駆逐艦乗員が、自らの任務を自嘲しつついうと、
たちまち先任が、

「ガダルカナルで飢えて物資を待つ将兵のことがわからんのか!」

と怒声混じりに叱咤し、皆は(´・ω・`)となります。


物資の受け渡しのために陸軍の兵たちが海岸に集結しました。

「作業かかれ〜!」

隊長が怒鳴ると、なんとびっくり、皆海岸で服を脱ぎ出すじゃありませんか。

実際の鼠輸送では、海に流したドラム缶などの物資を、
現地部隊の大発が回収するという方法がとられていましたが、
この映画では大勢が泳いで物資を集めに行くということになっています。



大発でもしばしば回収に失敗することがあったというのに、
人が・・泳いで?



駆逐艦では物資の投下が始まりました。



まるで夜間遠泳大会。
本当にこんな生身で物資を拾いに行っていたんでしょうか。


その時、駆逐艦が連合軍に発見され、空襲が始まりました。

夜間は敵戦闘機の飛行も限られていたので、この映画のように
夜間の作業中敵飛行隊の空襲がどれくらいあったかは疑問ですが、
輸送に向かう日中の往路復路は見つかるたびに空襲を受け、
この結果、聯合艦隊はガダルカナル作戦中の半年で駆逐艦を14隻喪失、
損傷は述べ63隻におよぶ被害を出しています。

またWikiによると、駆逐艦がこれほど損害を受けた理由は、
当時の聯合艦隊の艦隊型駆逐艦が、

「缶室か機械室のどちらかに浸水すると動かなくなる」

という弱点を持っていたことでした。
たまりかねて海軍は鼠輸送専用の輸送艦、

第一号型輸送艦
二等輸送艦(第百一号型輸送艦)

を作ったほどです。
ちなみに第一号型は日本で初めてブロック工法で建造された艦でした。
必要は発明の母?

それから、鼠輸送の最中に、つまり夜間、敵水上部隊がやってきて
夜戦になだれ込んでしまうことが数回ありました。

ルンガ沖夜戦、ビラ・スタンモーア夜戦、クラ湾夜戦などがそれです。
日本の駆逐艦は夜戦が得意だったので、これら艦隊戦には勝ち気味でしたが、
もちろん本来の目標である輸送に支障をきたしたことは否めません。

この映画でも物資どころではなくなり、輸送任務を行っていた
「叢雲」は航行不能、「夏雲」は沈没した、という設定です。

実際の「夏雲」はサボ島沖海戦に「衣笠」と合同で戦闘に当たるため、
「叢雲」は海戦で沈没した「古鷹」の乗員の救出のために出動し、
空襲によって「叢雲」は航行不能、「夏雲」は沈没しています。


司令官室の連合艦隊軍艦名簿に赤で❌をつける渡辺参謀でした。


無言で司令官室に戻り、スローテンポの「佐渡おけさ」を唸る山本。


そんな山本を心配気に眺める従兵の近江三曹。
そんな近江に、山本は、これから二種軍装を着用するから用意してくれ、
とさりげない調子で命令しました。


そのとき、「大和」に陸軍の船が着舷しました。
陸軍の船だから大発?と思いましたが、妙にモダンです。
ラバウルにこんな近代的な船があったのか?



やってきたのは陸軍参謀本部の辻政信でした。
ガダルカナルでの輸送作戦が実を結んでいないこと、
なんとしてもガ島を奪還したいことを語ります。

「後続部隊として第二師団がラバウルに集結しております。
百武司令官は『これ以上海軍に迷惑かけては』と、自ら輸送船に乗り込み、
裸の船団でガダルカナルに乗り上げるとまで申されております!」


これはどの程度史実に忠実かは少し疑問があります。
ガダルカナルの実情を無視して攻撃を強行した本人でありながら
失敗に対する対応策を迅速に行わなかったのもまた辻であり、
ここまでガダルカナルにこだわりながら、具体的な策を出しませんでした。

この誤った作戦指導が多くの人命を失う結果となったという説もあります。

そして本人はというと、現地でマラリアにかかり、
鼠輸送のため到着した「陽炎」に便乗して撤退しています。

「毀誉褒貶が激しく歴史的評価は真っ二つ」

という辻政信ですが、石原莞爾のようなキレ者というわけではなく、
戦後のCIAは、この人物について、

「政治においても情報工作においても性格と経験のなさから無価値」

「機会があるならばためらいもせずに第三次世界大戦を起こすような男」


と断じています。
軍人としての資質がなければ、真の意味での道徳心もないってことですか。



山本は、辻に

「百武司令には、乗るなら駆逐艦に乗って行くように」

と伝言させました。(意味不明)
そして、ゆっくり飯でも食っていきたまえ、などと言います。

これは実際にあったことで、辻が「大和」に山本長官を尋ねた際、
物資統制にもかかわらず山海の珍味が食卓に並んでいたのを見て、

「海軍はゼイタクですね」

と皮肉を言ったそうですし、その少し前、
トラック島泊地で第四艦隊司令長官井上茂美中将の接待で
海軍専用料亭(料亭小松)の宴席で芸者がいたことなども、
同じく不快と違和感を感じていたことを自ら書き遺しています。

料亭小松の「お国を思う覚悟の出張」(空襲による芸者の犠牲も出た)や、
山本長官のせめてもの「心づくし」など知るよしもなかったからですが、
のちにそれらのことを聞かされた辻は、

「下司の心をもって、元帥の真意を忖度しえなかった、恥ずかしさ。
穴があったら入りたい気持ちであった」

と、自分の言動を反省したそうです。
CIAからは酷評でしたが少なくとも自省できる人物ではあったようです。


ついで山本は本作中似ていないで賞大賞の栗田健男(左端)を呼びました。

「ガダルカナルの戦局を打開するために、『金剛』『榛名』で
泊地突入し、艦砲で敵飛行場(ヘンダーソン基地)を叩いて欲しい」

ヘンダーソン基地艦砲射撃

「やらせていただきます」

この映画では草鹿の反対を圧して栗田がこう言っていますが、
実際は、作戦に当初及び腰だった栗田が、山本の

「ならば自分が大和で出て指揮を執る」

という言葉でやむなく?引き受けたという経緯がありました。


そして「金剛」を旗艦とする第三戦隊が出撃しました。



このとき「金剛」「榛名」は合わせて966発の艦砲を発射し、
ヘンダーソン飛行場は半分強の飛行機が被害を受け、
個別の戦果で言うと「日本軍の勝利」となりました。



泊地艦砲攻撃を命じた第三戦隊出撃を見送る山本を、
従兵の近江兵曹は心配気に見つめ、藤井政務参謀(藤木悠)に、
なぜ長官はいつも目立つ白い第二種軍曹をしているのかと尋ねます。

山本は「大和」艦上で、

「あと百日の間に小生の余命は全部すりへらす覚悟に御座候」

と言う手紙を故郷に送っていますが、次にその手紙を書くシーンが挟まれ、
白の二種軍装が山本にとっての「死装束」だったことが示唆されます。


続く。




映画「聯合艦隊司令長官 山本五十六」ミッドウェー

2024-06-04 | 映画

映画「連合艦隊司令長官山本五十六」続きです。

前回、加山雄三演じる伊集院大尉のモデルが、「雷撃の神様」こと
村田重治大佐(最終)であるという話をしましたが、
今日のタイトル画で「友永丈一」としたのは、本作ミッドウェー海戦部分で、
伊集院大尉は友永中佐と同じ運命を辿るからです。

本作の登場人物は一部を除き歴史上の人物が実名で登場しますが、
加山雄三の役は村田大佐と友永大尉のどちらもをモデルにしているため、
唯一この役だけが創作名を与えられているというわけです。

また、黒島亀人先任参謀については、一番知られている肖像ではなく、
本作俳優(土屋嘉男)に似ている若い時の写真を挙げてあります。


真珠湾攻撃後、陸軍は「海軍だけに手柄を立てさせまいと」(黒島談)
大陸進出作戦を強く主張していましたが、
山本の目的は一刻も早く講和に持ち込むことですので、
敵艦隊を叩くため、ミッドウェー作戦を提案しました。


そんな折、劣勢を跳ね返すためのアメリカの捨て身の作戦、
「ドーリトル空襲」が起こります。

空母「ホーネット」を発艦したB29の編隊が本土を襲撃し、
このことは軍上層部をにわかに動揺させ、

「太平洋に防空の砦を築くべし」

としてミッドウェー作戦が決行されることになりました。

劇中、採用された空母「赤城」艦上における敬礼シーン(実写)
ちなみに敬礼しているのは士官のみ



ミッドウェー島への発進攻撃命令を下す機動部隊司令長官、南雲中将。


【軍歌】🎌『日本海軍・出航ラッパ』~映画版~

この時の出航ラッパは、このYouTubeで聴くことができますが、
東宝オリジナル(にしてはよくできている)なのだそうです。

帝國陸海軍喇叭集

本物はこの25番目。
ちなみに「防水」「診察」という喇叭があって驚きました。



「両舷前進びそーく」


「一航戦、赤城、加賀、出航しまーす」


「赤城」飛行隊の士官室は、皆意気軒昂そのものです。
木村中尉の幼馴染の写真(恋人でもないのになぜか持っている)
を皆で回し見して揶揄ったり、山本長官の噂をしたりと、和気藹々。



そして一航戦の飛行隊は、いよいよミッドウェーに向けて飛び立ちました。

本作の特撮模型は、船より飛行機の方がよくできているような気がします。
船はどうしても海面がうまく再現できないので限界があるようですね。

攻撃隊はミッドウェーに差し掛かると米軍の迎撃機と交戦、
その後ミッドウェー島の攻撃は予定通り決行されることになりますが、
作戦司令部には、第一次攻撃隊だけでは効果があまり得られず、
第二次攻撃隊の必要があるという打電が入ってきます。

(ちなみにこの連絡をしてきたのは、伊集院大尉のもう一人のモデル、
友永丈一大尉で、通信文は『カワ・カワ・カワ』)


しかしながら、第二次攻撃隊は敵機動部隊との交戦に備えて待機中でした。


そのとき「利根」の索敵機が、空母のない米艦隊の発見を告げてきました。
ここで機動部隊は後世に禍根を残すミスをしてしまいます。

米機動部隊からの攻撃はないと判断した草鹿は、待機していた航空勢力を
全てミッドウェーに向けてしまうことを決定したのでした。

しかも(映画では語られませんが)実はこの索敵機は、敵索敵に発見され、
近くに日本軍の機動部隊がいることを悟られてしまっていました。



そして、魚雷を陸用の爆雷に付け替えるという命令が下されます。
言うまでもなく第二次攻撃隊をミッドウェーに向かわせるためです。


模型チックな昇降機で付け替えのため甲板から降ろされる飛行機。



そのときです。
索敵機は空母2隻を伴う米機動部隊を発見しました。



「  なにい?!」

歴史に「もし」はありませんが、つい考えずにいられません。
もしこのとき、海軍が出した索敵機が、先の小規模艦隊の代わりに、
空母を伴う米機動部隊を発見していたら、結果はどうだったかと。

少なくとも空母4隻壊滅という事態だけは避けられたでしょうか。


そのとき「飛龍」の山口多聞司令から、米機動部隊に対し
直ちに発進の要ありと認む、という打電がされてきました。

しかし、雷撃機を発進させるには、護衛の戦闘機が出払っていて手薄です。
ほとんどの戦闘機はミッドウェー隊の掩護に行ってしまっていました。



「仕方ない、正攻法で行こう!」

上空直掩戦闘機を呼び集め、再び雷装への付け替えが命じられました。


全員なんでやねんって内心ツッコミ入れながら作業していたと思う。
爆弾が剥き出しになっている今、攻撃されたらどうすんの、とか。


そこに、日本軍にとって絶望的なお知らせが。
敵機動部隊飛行隊がこちらに向かっているというのです。

この一連のシーン、草鹿参謀長演じる安部徹は汗ダラダラ流してます。


急かされまくった攻撃隊がやっとのことで発進していきました。


しかし次の瞬間、米機動部隊攻撃隊が牙を剥いて空母群に襲いかかります。


この、爆弾が甲板を貫き爆発炎上する特撮は見事です。


修羅の海に浮かんだ機動部隊上空を、
たった一機になった伊集院大尉の機が航過しました。


「加賀、沈みます!」

沈みゆく「加賀」に敬礼をする伊集院大尉。(冒頭画)


山本長官の座乗した「大和」に、戦果を伝える電報が届けられました。

「敵艦載機の攻撃を受け、赤城、加賀、蒼龍大火災」

続いて、

「山口司令官より無電、『飛龍は健在なり』」



「山口司令官宛て打電せよ。飛龍の健闘を祈る」



「飛龍」からは艦載機攻撃隊が離艦していきます。
伊集院大尉機はこれらと合同で攻撃に当たることになりました。


燃料タンクを増槽に変えると言う飛行士に、
300マイル飛べれば十分だ、と淡々と返す伊集院大尉。

「はあ?」

「帰ってもおそらく母艦は沈んでいるだろう」

実際の友永丈一機は、ミッドウェー島を攻撃したあと、
母艦に戻って給油していますが、その際左翼タンクが破損していたので、
整備を担当した兵装長が、

「これでは片道燃料になります」

と出撃を制止したのを振り切って出撃しています。

映画の会話はこの時の「片道燃料」を盛り込んでいると思われますが、
友永大尉は、米艦隊までの距離は近いから帰れると計算していたようで、
決して最初から「帰らない覚悟」を決めていたわけではありません。

そして伊集院大尉のもう一人のモデルである村田重治大尉は、
ミッドウェーでは「赤城」から「辛くも」(wiki)生還しています。


映画では、伊集院大尉の艦攻は、米空母「ヨークタウン」に対し、



「テー!」

と魚雷を命中させた後、「ヨークタウン」の艦橋に激突自爆しました。

wikiによると、友永機と思われる隊長機を撃墜したのは、
「サッチ・ウィーブ」の発明者ジョン・サッチ少佐でした。

友永機は、機銃弾を浴びせられ、両翼が炎に包まれながらも、
「ヨークタウン」に魚雷を投下するまで飛び続け、
その最後の瞬間を目撃したサッチ少佐は、

「日本の指揮官機はリブをむき出しにしながらも何とか飛行をつづけ、
海中に墜落する寸前に魚雷を投下し、
ほとんど絶望的な状況でも最後まで任務を果たそうとした。」


と感嘆称賛の言葉を送っています。

「ヨークタウン」はこの攻撃により自力による航行が不能になり、
ハワイまで曳航されることになりましたが、
結局その途中で伊号第百六十八潜水艦に撃沈されることになりました。

聯合艦隊機動部隊の中で唯一最後まで残った「飛龍」も損傷を受け、
指揮官山口多聞少将、加来止男艦長を乗せたまま、
他の3隻の空母と運命を共に自沈することになります。



大敗北が決定し、夜戦を断念した聯合艦隊は、
これ以上の攻撃の必要なしとの判断に伴い、
ミッドウェー作戦の中止を決定しました。



「陛下にはわたしがお詫び申し上げる」

鎮痛な面持ちで反転する「大和」の司令官室に一人向かう山本。


「そして三日間が経過した」

この三日の間に、山本長官は夏服に衣替えなさったようです。



渡辺戦務参謀も衣替え。
一般的には6月1日が第二種軍服着用の区切りでした。



「長良」に乗っていた機動部隊の将官が報告のため「大和」に集まりました。
ところが、この南雲と草鹿だけは第一種軍服のままです。

現実的に考えれば、着替えを乗せたまま「赤城」が沈んだからですが、
それにしても、この二人以外全員真っ白なのは何故でしょうか。



それはおそらく制作側がこの構図にこだわったからだと思います。

情報収集と作戦の不手際で大失敗し、打ちひしがれている二人。
この「戦犯」の二人をあえて「黒いまま」残すことで、
その心情と立場を視覚化したかったのではないでしょうか。

このとき山本は、ミッドウェー作戦失敗の全ての責任は自分にあるとして、
彼らに批判的だった黒島亀人に対しても、

「南雲・草鹿を責めるな」(wiki)

と釘を刺しています。

おそらく自分に全責任があるということを痛感していた山本は、
部下だけに今回の敗戦の責任を取らせることができなかったのでしょう。

そして、汚名返上の機会を与えてほしいという二人の願いを聞き入れ、
再編された空母機動部隊の指揮を引き続き執らせました。

このような明らかな責任者への処分に見られる「身内に対する温情主義」、
さらには、ミッドウェーの敗戦を世間に対し隠蔽したこと、
作戦失敗の原因追及等、反省と今後への対策が全く行われなかったこと。

これらもまた、日本をその後の運命に導く一因になったと言われています。

続く。



映画「連合艦隊司令長官 山本五十六」真珠湾

2024-06-01 | 映画
 
昔、東宝映画は毎年8月15日の終戦記念日に合わせて
戦争大作を公開(8.15シリーズ)していた時期がありました。

本作「連合艦隊司令長官 山本五十六」は「日本の一番長い日」の翌年、
昭和42年最大のシリーズ超大作として制作され、大ヒットをおさめました。

本日のタイトル画は、俳優と演じた人物の写真を並べてみました。

草鹿龍之介=安部徹、宇垣纏=稲葉義男、米内光政=松本幸四郎、
南雲忠一=藤田進となります。

全体的に、最近の戦争ものより実物と似ている俳優が多い印象なのは、
当時を知る人々がまだ世間の大半を占める時代に制作されたせいでしょうか。

わたしの感想としては一番違和感があったのは藤田進の南雲忠一です。

もっとも、誰が一番本人と容姿の点で乖離していたかというと、
それは間違いなく山本五十六を演じた三船敏郎といえますが、これは
映画という表現の中では全く違和感なく受け入れられるから不思議です。

歴代の山本五十六を演じてきた俳優は、大河内傳次郎に始まって、
佐分利信、山村聡、小林桂樹、マコ岩松、役所広司、豊川悦司、舘ひろし、
加藤剛、古谷一行、香取慎吾、ともうほとんど誰一人全く似ていませんが、
おそらく役者が山本五十六を演じるとき、そこに求められるのは
容姿の問題ではなく、「存在する意義」そのものの表現力なのです。

その意味で、当時、山本五十六を直接知っていた人々から、
まるで本人が乗り移ったかのように似ている、とまで言われた三船は、
この歴史的人物を演じるに真に相応しい役者だったのだろうと思います。

■日独伊三国同盟締結



戦前のある年、新潟県加治川。



一人で観光の川下りをしている男性客がいました。



ご存知我らが山本五十六(当時海軍次官)。


船頭との会話の流れでなぜか船端で逆立ちをおっ始める山本。

加治川急流下りの船の舳先で逆立ちは実話であり、
そのほかアメリカ行きの船の中でのパーティで階段の手すりの上とか、
妙義山頂の岩の上とか、とにかく危ないところで逆立ちして
皆がハラハラするのを楽しんでいたようです。
身内からの証言もあります。

「逆立ちのおじさま」

舳先での逆立ちのエピソードは、2011年の同名映画で、
役所広司版山本五十六もやっていましたね。


そんな山本を護衛するとして現れた憲兵隊二人組。
この頃山本は三国同盟に米内、井上茂美とともに反対しており、
賛成派からプロパガンダされ、暗殺の噂さえありました。

山本は海軍芸者の巣であるレス(料亭)の宴席に彼らを呼び、

「陸軍さんは威張ってばかりで野暮だ」

などと陸軍の悪口を言うエス(芸者)に彼らを揶揄わせてご満悦です。


昭和14年8月、海軍省。


この暑苦しい顔の海軍少尉、木村(黒沢年男)は、飛行学生として
霞ヶ浦航空隊に赴任途中、山本海軍次官に挨拶に来ました。
貧しい家出身の彼が兵学校の試験の際、山本が推薦したという縁です。


次に待っていたのは、陸軍の辻政信参謀長たちとの面会です。
彼らは、三国同盟に反対する山本を説得に来たのですが、

「では、我々陸軍だけで(反対のための行動を)やります!」

と息巻く辻に、山本は口元を歪めて笑い、

「太平洋を歩いて渡るとでもいうのかね」



その日、独ソ不可侵条約が締結され、それを受けて首相平沼騏一郎は

「欧州情勢は複雑怪奇」

という名言?を残し、総辞職しています。

従来日本政府が準備していた政策をこれで全て打ち切らざるを得なくなり、
「別の政策が必要になってしまったから」
というのが複雑怪奇声明の内容で、要するに、

「国際情勢を判断できず、外交政策を立てられなくなってもうお手上げです」

という意味の総辞職であったと言われています。


当時の海軍大臣米内光政(松本幸四郎)と語り合う山本。
山本が敬語を使っているのは、米内が海兵の3期上だったからで、
法術学校教官時代で同室になって以来、二人は親友という間柄でした。

映画では山本の海軍次官の職を労うような発言がされていますが、
これは逆で、米内を海軍大臣に推したのが当時次官だった山本です。

三国同盟には山本と共に反対の立場でしたが、その理由は

「海軍力で及ばない英米をはっきり敵に回すことになるから」

という「海軍の論理」によるものであり、
決して大局的な観点からのものではなかった、とする意見もあります。



模型特撮はお馴染み円谷英二の手によるものですが、
CGのクォリティの爆上がりした昨今、この当時の特撮を見ると、
なんだか物悲しい気持ちになるくらい、作り物感が拭えません。

ちなみにこちら戦艦「長門」でございます。



旗艦「長門」の聯合艦隊司令官室で書をしたためていた山本の元に、
山本のお気に入り参謀、渡辺安次少佐がやってきました。



演じているのは平田昭彦。



この有名な写真で一番右に写っているのが渡辺参謀です。

本作撮影現場で、平田昭彦、三船敏郎に挟まれて座る渡辺氏

一般人と並ぶと三船も平田もレベル違いの超イケメンであると実感する写真。

平田は、じゃなくて渡辺参謀は、陸軍が三国同盟締結のため、
反対している米内に海軍大臣を辞させるという情報を持ってきました。
そして、後任の海軍大臣は賛成派の及川古志郎に代わります。



海軍首脳会議で、山本は最後まで三国同盟の危険性を訴えます。

及川新海軍大臣(中央)に、もし同盟を結んだら、
英米の勢力圏から輸入している生産物資が途絶える危険があるが、
どうするつもりなんですか、と詰め寄りますが、
もう締結は決まったことだから・・・・と及川むにゃむにゃ。

ちなみに及川の左の白髪は永野修身軍令部総長。(似てない)


昭和15年9月27日、締結は正式に決定されてしまいました。

■真珠湾攻撃


真珠湾攻撃の艦載部隊がそのための訓練を行ったのは、
オアフ島と地形の似ていた鹿児島湾でした。


訓練に参加している艦爆の指揮官席には、木村中尉がいました。
操縦員の野上一飛曹を演じるのは往時のアイドルスター、太田博之です。



後席から思いっきりやれ!と野上をけしかけたら、よりによって
「雷撃の神様」伊集院大尉の飛行機とニアミスしてしまいました。


木村中尉は真っ青になって伊集院大尉に謝りに行ったところ、
さすが神様、大尉(加山雄三)は鷹揚に部下のミスを許します。

伊集院大尉のモデルは、おそらく真珠湾攻撃の際
「赤城」飛行隊長だった、村田重治大佐(最終)と思われます。

ちなみに、支那事変の際、アメリカ海軍の砲艦「パナイ」を誤って撃沈し、
国際問題になりかねない「パナイ号事件」を起こした本人でもあります。

劇中、伊集院はこの訓練の意図がさっぱりわからないとして、

「市街上空は高度40m、海に出るなり高度5mの『雑巾掛け』、
しかも標的は動かない停泊中の船・・・はて?」

と呟いていますが、軍機となっていた真珠湾攻撃の内容を、
村田だけは上から聞かされていたと言われており、おそらくそれは本当です。



「(アメリカとまともに戦っても勝てないから)
先制で打撃を与えて早期講和に持ち込む」


という山本の真珠湾攻撃の企画意図並びに開戦に関する考えは、
本人ではなく、黒島亀人先任参謀の口から永野修身軍令部総長(白髪)、
伊東整一軍令部次長(その右)に説明されています。

「開戦劈頭、一挙にアメリカ太平洋艦隊を撃滅して
早期講和の機会を掴む以外に道はないのです!」




いよいよ開戦は避けられないとなったある日、
戦艦「長門」における作戦会議では、新型魚雷の採用、
真珠湾に至るコース(北回り)などが確認されていました。


これが最終的に決定されたコース。(棒で押さえているところが単冠湾)


草鹿龍之介参謀長南雲忠一機動部隊司令長官は、
大艦隊が秘密裏に真珠湾にたどり着くことの困難さを挙げ、
副案の検討を提案しますが、山本はそれを切り捨てました。

「国力の違うアメリカと四つに組んで戦うことができないからには、
先制攻撃で敵の奥深くに切り込むしかない」


それに対し、今後反対論は述べず、作戦実行に全力を尽くす、という草鹿。


その後、近衛文麿首相(森雅之)に海軍としての勝算を問われ、山本は

「それは是非やれと言われれば初め半年や1年の間は随分暴れてご覧に入れる。
然しながら、2年3年となれば全く確信は持てぬ。
三国条約が出来たのは致方ないが、かくなりし上は
日米戦争を回避する様極極力御努力願ひたい」

というあの有名な発言で返します。
井上茂美海軍大将はこの発言は失敗だったという考えで、

「優柔不断な近衛さんに、海軍は取りあえず1年だけでも戦える、
間違った判断をさせてしまった。
はっきりと『海軍は(戦争を)やれません。戦えば必ず負けます』
と言った方が、戦争を回避出来たかも知れない」


と戦後語っています。
そして山本本人はというと、この時の近衛に対して、

「随分と人を馬鹿にした口調で、現海軍大臣と次官への不平を言ってたが
あの人はいつもそんな感じだから別に驚かない。
要するに近衛公や松岡外相等を迂闊に信頼して海軍が浮き足立つのは危険」


嶋田繁太郎に当てた手紙に書いています。
その後首相は近衛から東條英機に代わりました。


そしていよいよ作戦発動に向け・・

「攻撃命令は『ニイタカヤマノボレ』!」


機動部隊は単冠湾を抜錨し・・・。

・・・って、このシーンの特撮は残念すぎ。
予算のなかった「ハワイ・マレー沖海戦」の方がよくできていたような・・。
白黒の方がアラが目立たなくて良かったのかも。



模型のスケールも「ハワイ・マレー沖」より小さそうですよね。
キャスティングにお金を使いすぎて特撮にあまり回せなかったのか?



そしてここ「赤城」艦橋では・・・・

「ニイタカヤマノボレ、イチニイゼロハチ」

頂きました。


開戦の命令を受け、山本は藤井茂戦務参謀に、
開戦の通告が攻撃以前に手交されることを念押ししています。



これに対し、藤井参謀(藤木悠)は心配はいらないと返事しますが、
実際はいろいろアクシデントがあって攻撃後になり、
日本が騙し討ちをしたというイメージになってしまったのはご存知の通り。



ちなみにこの写真で山本の右側にいるのが藤井参謀です。


マストにZ旗が掲揚されます。

「皇国の荒廃この一戦にあり。
各員一層奮励努力せよ」



「かかれ!」


時々実写の映像が混じっています。



「オアフ島だ・・・攻撃態勢作れ」



「全軍突撃せよ!」
「テー!」
「命中!」

オアフ島の山間を縫うように進んだ機動部隊攻撃隊、
真珠湾攻撃の幕が切って落とされました。



結果を待つ司令部の元に届いた電報を通信参謀(佐原健二)が読み上げます。

「我奇襲に成功せり!」



喜びに沸く司令部の中で、一人重い表情の山本五十六。
戦果報告の中に空母が一隻もなかったことを憂えているのでした。



世間は初戦の勝利に対するお祝いムードに沸き立ちました。

軍内ですら、あらゆる機関で戦勝祝賀会が行われる有様でしたが、
山本はそれらの招待を厳しい表情で全て断りました。

アメリカがこのままで済ませるとは思っていなかったからです。



しかし、機動部隊の面々には全員に休暇が与えられました。
早速故郷に帰った木村中尉は・・



幼な馴染み矢吹友子(酒井和歌子)と姉澄江(司葉子)に再会しました。
この二人は単なる華添えキャストで、物語の筋にはなんの意味も持ちません。

姉澄江は両親のいない木村をお針子をして働いて育て、
最終的には兵学校にまで入れた苦労の人です。



日本軍はその後しばらくは破竹の進撃を続け、
太平洋地域においてアメリカ、イギリス、オランダを駆逐し、
南方支援地帯を確保するに至った・・・と思われました。


山本はここですかさず講和の道を探るべきだと考えました。



が、なまじ初戦で連戦連勝してしまったため、国中のムードが
停戦を良しとしないというところまで暴走しつつありました。

「平和など言い出そうものなら国賊扱いだよ」

と米内。
それではもう一度講和の機会を作るにはどうしたらいいか。

相手がそれに応じずにはいられない状態とは、更なる打撃を与えること。
山本に言わせれば、それは空母部隊を撃滅することに他なりませんでした。

そして、このとき講和の機会を求めて深追いした結果、
日本はミッドウェーで敗戦への道に足を踏み入れてしまうことになります。


続く。