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ヴェリニス大尉と愛犬シュトゥーカの物語〜メンフィス・ベル 国立アメリカ空軍博物館

2023-11-25 | 飛行家列伝

メンフィス・ベルの搭乗員について、国立空軍博物館の展示をもとに
順番にお話ししていこうと、機長のボブ・モーガンから始めたところ、
この人のパーソナルライフ(というか女性関係)がぶっ飛んでいたので、
つい一項を割いて、彼の6人の妻と恋人について語ってしまいました。

なんというか、モーガンの天然さと、ベルのノーズアートのモデル、
マーガレット・ポークの品格が際立つ話でしたね。

今日もベルのクルーの紹介をしていこうと思います。
ということで、副機長のジム・ヴェリニス大尉です。

■ ジェームズ・ヴェリニス大尉 副機長

"今、クルーは、任務終了まで25回しかないことを知っている。
士気は上々だ。”


ジム・アンジェロ・ヴェリニス

任務終了まで25回、ということは、これから任務開始ってことですね。

前にも書きましたが、メンフィス・ベルの副機長として帰国し、
国債ツァーに参加したヴェリニス大尉が実際にベルの副機長として飛んだのは
一度だけで、後2度、機長としてベルを率いました。

彼が選ばれたのは、ベルの前に彼自身が率いるB-17で任務を行い、
通算25回に相当する実績を上げていたからだと思われます。

博物館には彼がツァーのため渡欧していた6ヶ月のうち、
2ヶ月しか埋められていない「1日1ページ日記」が展示されており、
上の言葉はそこに書き記されたある日(任務開始前)の記述です。

しかし、任務が始まってから2ヶ月目、ヴェリニス大尉は
同じ日記にこのように書き記しています。



”コンバットの影響は着実に出ている。
みんな家に戻ることばかり考えている。
現在までに隊員の約3分の1を失ったわけだが、

まだ任務の半分も完了していない。
なんて危険な毎日なんだ!!!!


ヴェリニス(Verinis)という姓はギリシャ系です。
ギリシャから移民してきた両親はアイスクリーム店を営んでいました。

彼はコネチカット州ニューヘブンで育ち、大学卒業後、
航空士官候補生として1941年 7月に陸軍航空隊に入隊します。

航空訓練で最初の単独飛行となったとき、
彼は着陸の際水平飛行にできず機体を失速させてクラッシュしています。

そのとき彼は全身にガソリンをかぶったまま機内に閉じ込められ、
火が出る前にコクピットから引きずりだされて出され、
命は助かったものの、顔と頭を何針も縫う怪我を負いました。

結局ソロで飛ぶ戦闘機には「飽きた」として、ヴェリニスは、
B-17のファーストパイロットの資格を取りました。

ヴェリニスを含む搭乗員たちはヨーロッパに送られたものの、
しばらくは編隊飛行の練習などで出撃させてもらえませんでした。
彼は、そのむしゃくしゃする思いを日記にこのように綴っています。

10月13日
「まだ何もさせてもらえない」

10月15日
「アンクルサムはいったい何をしていることやら」

10月17日
「最近はよくポーカーをやっている」

10月23日
「誕生日おめでとう、俺!
ケンブリッジのアメリカンバーでちょっとしたパーティーを開いた。
魅力的な英国の女の子が集まるレックス ボールルームに行ってきた!」

そしてこの1週間の間に、事態は動きました。
機長として彼が率いるB-17が決まったのです。

10月31日
「今日、航空団本部は我々を引き継いだ。
これで戦闘の準備が整った。
もう出撃までそう長くはかからないだろう。」

1月12日
「私には新しい飛行機が割り当てられた。
”コネチカット・ヤンキー”と名付けることにした。
彼女の”歪み”を直すのに忙しい」



「コネチカット・ヤンキー」の指揮を取ることになったヴェリニス大尉
(後列左)

ヴェリニスの個人認識用ブレスレット

BBCのインタビューに答えるヴェリニス大尉


映画で副機長のルークを演じたのは、テイト・ドノバン
上層部との話し合いでシャッターにポーズするルークは、
このとき「女の子が目当てでプールの監視員をした」などと言っています。

女の子が好きで陽キャラという彼の映画での描かれ方は、
キャラ付けというやつで、実際そうだったかどうかはわかりません。

この俳優テイト・ドノバンですが、ディズニーのアニメ、

「ヘラクレス」で主人公ヘラクレスの声優を務めています。

(さらに余談中の余談ですが、ヘラクレスのテーマソングを歌っていたのは、
『デスペレートな妻たち』でブリーに言いよる不気味キャラの薬剤師、
ジョージを演じるロジャー・バートだと知った時は衝撃でした)

ところで、実際の写真でも、映画でも、マスコット犬を抱いているのは
この副機長ということになっています。

今日はメンフィス・ベルのマスコット犬についても話します。


■ マスコット犬 シュトゥーカ


マスコット犬シュトゥーカはヴェリニス大尉の飼い犬でした。

シュトゥーカはドイツの急降下爆撃機、ユンカース 87 の名称です。
Sturzkampf-flugzeug (シュトゥルツカンプ-フルークツァウク)
という単語の短縮形で、英語に訳すとそのまま「急降下戦闘機」という意味。

1943年の春、メンフィス・ベルの副操縦士であるジム・ヴェリニスは、
元気いっぱいのスコティッシュテリアの雌の子犬にこう名付けました。

シュトゥーカの物語は、1943年の2月か3月頃から始まりました。
ヴェリニスは、メンフィス・ベルのナビゲーターであるレイトンとともに、
ある日リラックスするためにロンドンに小旅行に出かけました。

彼らが通りを歩いていてペットショップの前を通りかかったとき、
窓を通して小さな子犬が目につきました。
小さな犬は覗き込んだ彼に強くアピールしたので、
彼は店に入ってすぐに彼女を買い求めたのです。

「正確な値段は覚えていませんが、アメリカドルで50だったと思います。」

この「急降下爆撃機」がアメリカ軍に与えた最大の攻撃はというと、
兵舎の寝室の床に置かれた主人の靴下を噛み砕くことでした。

帰国後、副機長の連れていた犬はすぐに話題になり、

「実際に酸素供給装置を備えた小さな箱に入れられて
メンフィス・ベルの爆撃任務に参加した」

という噂がまことしやかに新聞記事になったこともありますが、
ヴェリニスはそれを否定しています。

「どこからそんな話がでてきたのかわかりませんね。
誰かがでっち上げたんだと思います。
もし爆撃機が高度 10,000 フィート以下しか飛ばないなら、
シュトゥーカを乗せて飛ぶこともあるかもしれませんが、

そもそもミッションの時はそんな低空で飛行しませんから

映画メンフィス・ベルでは、最後のミッションからベルが帰ってきたとき、
地面に寝そべっていた犬(黒のスコッチテリアではない)が、
機影も見えず爆音も聞こえないのに、ぴくんと耳を立てて頭をもたげ、
エプロンに向かって一目散に走り出すシーンがありました。






ミッションに参加しなかったシュトゥーカはもちろんですが、
実際にも彼の飼い主は25回のミッションを生き残り、
彼らは一緒にアメリカに行くためB-17に乗り込みました。

「そのときが彼女にとって初めての飛行機搭乗体験だったと思います。
エンジンがかかり、飛行機が動き始めると、彼女は緊張して、
前後に走りまわりましたが、吠えたり叫んだりはしませんでした。」

これまでにも書いたように、機長のボブ・モーガンは腕のいい操縦士で、
それゆえ特に公衆の面前では、ここぞとスタントを行うのが常でしたが、
彼女は最初こそ少しびっくりしていたものの、すぐに慣れて、
新しい都市に到着するたびに飛行機の中で振り回されても全く平気どころか、
あらゆるワイルドな事態を楽しんでいるかのように見えたそうです。

どこにいってもシュトゥーカは群衆に大好評でした。
人々はこの可愛らしい犬に熱狂し、彼女はというと、
自分が注目を集めることを楽しんでいるようだったそうです。

各都市に到着するたびにメンバーは地元でパレードを行いましたが、
シュトゥーカはまるで女王様のように見物人に迎えられました。

メンフィス・ベルを報じるマスメディアのカメラマンは、
こぞって「空飛ぶ犬」の画像を求めて彼女を追いました。

そして今でも良くある話ですが、犬は、女の子を誘うための餌、
じゃなくて、格好の口実にもなってくれます。

「でさ、今泊まってる部屋にその犬がいるんだけど、見にこない?」

「え〜?犬なら見たいわー」

彼女らはホテルのドアを開けるとそこにシュトゥーカがいるのを見ると、
例外なく驚いて、こう言ったそうです。

「へえ、本当に犬を飼っていたのね」

ちょっと待て。
「彼女”ら”」?

どうもこの言い方だと、ヴェリニス大尉、ツァーの間中、
犬の話で女の子を誘って何人も部屋まで連れ込んでいた模様。

そして女の子たちも彼の犬話を単なる口実だと思っていた模様。
口実とわかっていてあえて連れ込まれてあげる的な。

あっ!

今気がついたんだけど、マーガレットとモーガンがツァー後別れたのは、
モテモテの搭乗員たちが、このように各地で遊びまくっているのに、
公式な「婚約者」同伴のモーガンにはそのチャンスがなかったからか?

それとも、彼女がいるのに同じように羽目を外したからか?


■ シュトゥーカの ”ショートスノーター”

その頃、シュトゥーカがウィスキーが好き、という噂が広まりました。

何人かが面白がって犬にソーサーいっぱいのウィスキーを渡すと、
驚いたことに彼女はそれを本当に飲んでいたそうです。

「彼女は少しよろめき、おどけた様子でどこかへ行って
横になって眠っていました。」

これ普通に動物虐待でしょう。
犬はアルコールを体内で分解することができないので、お酒は絶対ダメ。
シュトゥーカのその後って、どこにも書いていないけど、
天寿を全うできた気がしない・・・。


ところでお酒といえば、「混合酒一杯(少なめ)」を語源とする、
「ショートスノーターshort Snorter
というものをこ存じでしょうか。

大西洋を飛行機で横断する搭乗員が「お守り」にしたもので、
1ドル札にいろんな人のサインを書き込んで、それを携帯します。



上はヴァンデンバーグ将軍が1942年に作ったショートスノーター。

ハップ・アーノルド、アイゼンハワー、ルイス・マウントバッテン提督、
共和党のジョン・タワー
(当時海軍にいた)など有名人のサインがあります。
(ちなみにタワーは後年航空機の墜落事故で死亡している)

名前を書くスペースがなくなったら、新しい1ドル札でまたそれを始めます。
これを大量にコレクションしている搭乗員もいたそうです。

戦闘の無事ではなく、あくまで「太平洋横断の無事」を祈るものなので、
ヨーロッパからアメリカに帰国する搭乗員は皆これを持つのですが、
シュトゥーカも犬の分際で自分のショートスノーターを持っていたそうです。

さすがの有名犬、彼女のショートスノーターには

「クラーク・ゲーブル、バージェス・メレディス、
映画『ベル』を作ったウィリアム・ワイラーなどのサインがあった」

ということです。

挨拶するメンフィス・ベルのメンバーとシュトゥーカ

5:54で彼女がヴェリニス大尉によって一瞬紹介されています。


続く。




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