みなさま、どうもこんばんは! そうだいでございます~。いよいよ山形も寒くなってまいりましたね~。
いや~、生きててよかった。ついにこの、「復活の日」を迎えることができました! この、まさしく不毛としか言いようのない2010年代、なが~く辛抱してきた甲斐があったというものでございます!!
え? いったい何が復活したんだって? そりゃも~あなた、このお方で決まってるじゃないっすかぁ~!!
あ、そうそう、家に BS放送が見られる TVがあったことにも、大感謝。
ドラマ『獄門島』(2016年11月放送 NHK BSプレミアム『スーパープレミアム』)
32代目・金田一耕助 …… 長谷川 博己(39歳)
16代目・磯川常次郎警部 …… 小市 慢太郎(47歳)
金田一耕助もの長編『獄門島』の7度目の映像化
※本作は、金田一耕助が登場する映像作品としてはドラマ『金田一耕助 VS 明智小五郎ふたたび』(2014年9月放送 金田一耕助は山下智久)以来約2年ぶり、横溝正史の原作小説の映像化としてはドラマ『悪魔の手毬唄』(2009年1月放送 金田一耕助は稲垣吾郎)以来約7年ぶりの作品となる。
※『獄門島』の映像化としては、ドラマ『獄門島』(2003年10月放送 金田一耕助は上川隆也)以来約13年ぶりとなる。
主なキャスティング
鬼頭 早苗 …… 仲 里依紗(27歳)
鬼頭 月代 …… 堀田 真由(18歳)
鬼頭 雪枝 …… 秋月 成美(20歳)
鬼頭 花子 …… 吉田 まどか(19歳)
鬼頭 与三松 …… 山崎 銀之丞(54歳)
分鬼頭 儀兵衛 …… 古田 新太(50歳)
分鬼頭 お志保 …… 山田 真歩(35歳)
鵜飼 章三 …… 柳 俊太郎(25歳)
了然和尚 …… 奥田 瑛二(66歳)
了沢 …… 岡山 天音(22歳)
荒木 真喜平 …… 菅原 大吉(56歳)
村瀬 幸庵 …… 綾田 俊樹(66歳)
清水巡査 …… 山中 崇(38歳)
漁師の竹蔵 …… 谷田 歩(41歳)
漁師の梅吉 …… 八十田 勇一(51歳)
お小夜 …… 中西 美帆(27歳)
鬼頭 千万太 …… 石田 法嗣(26歳)
鬼頭 嘉右衛門 …… 瑳川 哲朗(79歳)
主なスタッフ
演出 …… 吉田 照幸(47歳)
脚本 …… 喜安 浩平(41歳)
ありゃ~、「そろそろ誰か、金田一さんやってくんないかな~。」なんてボンヤリした渇望感をおぼえながらつらつら生きてたら、なんとまぁ7年もの歳月が過ぎてしまっていたのですか! 日本全国のファンのみなさま、待たされてしまいましたね~。「金田一? あぁ、剛くんのやつ?」だとか、「今度はジャニーズの誰がやるんだろうねぇ~。」などと言われの無い勘違いを受け続けてきた隠忍自重の日々がついに今、報われる。
わたくしは、芦辺拓先生による、金田一耕助ものと明智小五郎ものの世界観が交錯する一連のパスティーシュ小説群は、本当に遊び心に溢れた展開の連続で大好きです。
大好きではあるんですが、それはやっぱりあくまでもパスティーシュなのであって、大乱歩や大横溝の残した綺羅星のごとき聖典の数々と同列に並べるべきものでは絶対にないと思っています。ましてや、聖典をさしおいて映像化するだなんて、そんなバカなというお話なんでございます。
それどころかシリーズ化すらしてしまうとは……ほんとに、作った人たちは何を考えてるんだろうか。ご本人の映像を1秒も見せずに、コロッケさんの物真似だけを見てちあきなおみを好きになれ、と強制しているようなものです。
もう2010年代も半分過ぎちゃったわけなんですが、遅ればせながら!といった感じで、突然降ってわいたように「原作小説を基にした」金田一先生が復活したわけなのであります! ぃよっ、待ってました!!
ただし、なんとな~く、その予兆のようなものは今年のはじめにあった、と言えなくもありません。それは、同じ NHK BSプレミアムで「ひっそり。」と放送された『シリーズ江戸川乱歩短編集 1925年の明智小五郎』(2016年1月放送 全3回)でありました。
「ほほ~う、そういう形で映像化しますかぁ。」といった形式での明智先生の大復活であったわけですが、気持ちいいくらいに視聴率だのジャニーズだのをとっぱらった企画にみなぎる勇気のアツさに、「こりゃあ金田一先生も、いけるかな?」などと妄想する素地はあったわけなのでした。
そしてそしての『獄門島』ときたもんだ。そしてなんと、演出はあの、『洞窟おじさん』の吉田照幸さん! これは期待感いやがおうにも大となりましたる次第。
わたくし、実家の現住所に住むようになってからこのかた、それまでにも増して TVドラマというものを(半自動的に観ている大河ドラマ以外は)チェックしなくなっていたのですが、偶然気になって観てみた『洞窟おじさん』(2015年 全4回)は全部観たんだよなぁ。すっごくおもしろかったんですよ、これ!
吉田演出のおもしろさは、全体にオフビートなジャズや古典的洋楽ロックを流すような、なんとなく弛緩したかのような空気感をかもしつつも、登場する俳優さんがたの演技にはかなりの緊張感を要求するかのような、スローなカメラワーク。この、「人生の重だるさを笑い飛ばしたいけど笑えない」みたいな二律背反の表現にあるような気がしています。もちろん、大事な時にシャープなカット割りははさむにしても、軽くはないんですよね。
あともうひとつの特徴としては、「男の登場人物の描写にけっこう力を入れている」という点も感じました。いや、そりゃあたまたま『洞窟おじさん』がそうだった、というだけだったのかも知れませんが、逆に言うと女性の描き方がちょい少なめ。ヒロインがいたとしても、ロマンチックでなく男同様に人間味がしっかり出ていてリアルなんですよね。尾野真千子さん、よかったですよね。そうなると、クリストファー=ノーラン的ということになるのでしょうか? いや、さすがにあれほど「漢、漢ォオ!!」してはいないでしょうけど。
つまり、なんだかんだいってもロマンチックな展開や表現がふんだんにある横溝正史ワールドとは、ちょ~っと違ったリアリズム重視の作風を吉田演出には感じたわけなのですが、「とりあえずジャニーズに金田一をやらせときゃいいっしょ。」みたいな民放ドラマのくびきからは外れた作品が観られるかも!?という期待感は十二分に高まっていたのでありました。
さぁ! そうして満を持して観た『獄門島』2016エディションであったのでしたが……結果はいかに?
いや~、リアルもリアル! 身応え十分のリニューアル『獄門島』でしたが……なんなんだ!? この金田一耕助は!!
うむむ……これは、言っちゃいけないんだろうなぁ。
言いたくてしょうがないんですけど、今作の長谷川金田一の最大のオリジナリティって、クライマックスで「どう謎解きをしたのか」にあるんですよね。ですから、作品自体の結末が違うとかいう話ではないのですが、これは明らかに視聴者が「えっ!?」とビックラこくような反応を狙ってますよね。「これが、あの金田一耕助!?」みたいな。
じゃあやっぱりこれは、これから初めて観る人のためのお楽しみということで、あんまり語るべきじゃないんだろうな。
ま~ま~ともかく、今作で衝撃のデビューを果たした長谷川金田一は、これまでの歴代金田一にはついぞ見られなかった専売特許を有していたわけでありまして、この時点でその勇気に何十点かを差し上げたい良さを感じました。
いや、これはこれで、原作小説の金田一耕助とはぜんぜん違いますよね! 違うんではありますが、少なくとも登場人物に無理矢理「あの人は天使なのかも知れない……」などという、思わず歯が成層圏まで音速で浮かび去ってしまうようなセリフを吐かせる思考停止な位置づけよりは数百倍マシでしょう。
つまり、この長谷川金田一のクライマックスにおける所業は、「金田一耕助が横溝正史に話さなかった真の自分の姿」と解釈できなくもないわけで、もちろんこの『獄門島』に横溝先生は登場しなかったのですが、小日向文世さんが横溝正史を演じたあの「稲垣金田一シリーズ」とはまったく逆のアプローチで、「小説に描かれていない金田一耕助」の実像を想像させる造形の深みを生んでいたのではないでしょうか。
なんてったって、『獄門島』の金田一耕助は、太平洋戦争に従軍してからの復員直後なんですもんね。今作の長谷川金田一ほどに「ああなって」しまっても、無理はない! まんま PTSDのような「鬼頭千万太の霊」描写もふんだんにありましたしね。しゃあないしゃあない。
ただしそう考えてしまえば、長谷川金田一の精神的コンディションがこうまでになっちゃったのは『獄門島』事件の発生タイミングがそうだったからなのであって、それ以降、多くの難事件を解決していきながら、長谷川金田一は徐々に私立探偵としての自分を取り戻していく道を歩んでいくのではないでしょうか。
だから、もし長谷川金田一の次回作があっても、今回ほどにトンガッたキャラクターにはならないのかも知れませんが……エンディングでサービスぎみに出てきた『悪魔が来りて笛を吹く』のときには、ちょっとでもいいから「穏やか~」に事件を解決してくれることを切に願います。ただでさえドロドロな事件が、更にカオスに!!
長谷川金田一に濃厚に漂うリアリティというのならば、やはりその外見も語らないわけにはいきません。
「復員直後」というポイントを強調するべく、長谷川金田一はぼさぼさではあるものの「長髪とはいいがたい山寺宏一さんみたいな中途半端な髪の長さ」になっており、そして何よりも「下駄じゃなくて軍靴」を履いているのです。
さすがや! 別にそれなりの言い訳を用意すれば定番の「長髪ぼさぼさに下駄」でもいいのでしょうが、そこをバサッと捨てたのは素晴らしい思い切りの良さだと感じました。「じゃあ和服じゃなくて復員服でもいいんじゃ……」というコメントはなしで! そこまでいったら海賊狩りの警察に誤射されちゃいますよね。
全体的に、わたくしは非常に好意的に今回の『獄門島』を受け留めたのですが、あえて苦言を呈するのならば、やっぱりキャスティングになりますでしょうか。
BS放送ということからくる予算的制限って、やっぱりあるんですかねぇ。有名な俳優さんがもうちょっと多くいないと、犯人当ての愉しみがないというか、華やかさに欠けるというか。
特に今回は、「分鬼頭家の人々」がじぇんじぇん容疑者リストに挙がってこないんですよね。印象が残らない! 太地喜和子さんと比較されるっていうこと自体がそうとうかわいそうなんですけど、それでも、お話をもっとおもしろくするような味つけにはなってほしかった……
金田一ものの映像化作品って、「女優さんのキャスティングで犯人がわかっちゃう」なんてよく言いますけれど、これ、犯人が男だとしてもそうなのよねぇ。よりによって……だし、ねぇ。キャーもう絵に描いたような「奥歯に物が挟まったような」言い方!!
要するに、吉田演出のクローズアップなキャラクター造形の連続が、ミステリーとしての「犯人はこの中の誰?」という楽しさをそいでしまった感は否めないわけです。う~ん、これ、登場人物の(比較的)少ない『獄門島』だったから良かったけど、あとちょっとでも容疑者の数が多くなる原作小説を選んでいたら、かなり混乱した映像化になってしまったかもしれませんね。
でも、BS放送だからこそ、例の「言葉トリック」も堂々と映像化できたのかもしれないし、粗雑な要素の混じらないストレートな『獄門島』の映像化につながったのかもしれないということで。痛しかゆしですよね~。
吉田演出の女性の魅力……今回はちょっと、どの女優さんからも感じられなかったかなぁ。ビジュアルは、あの三姉妹とかかなり良かったんですけど、鬼頭早苗さんも含めて、「生きてるなぁ」と感じられるキャラクターはいなかったと思います。
仲さん、好きなんだけどなぁ。鬼頭早苗さんのパートが今作ではけっこう削られていましたから、なんか事件をますます混乱させるだけの邪魔だてをするか、おびえるリアクションしかしてない小娘みたいな印象になっちゃいましたね。損な役回りになっちゃった! そりゃあ原作みたいなロマンスなんぞ生まれる余地はありません。仲さんの無駄遣い。
個人的にわたくしは、今回の長谷川金田一の活躍を、あの豊川金田一を祖とする「ちょっとアレな天才・金田一耕助」系統の発展形にして初の「成功例」と受けとめました。いい感じの「社会不適合者」感というか、「あ、確かにこの人は探偵でしか生きていけないな。」みたいな説得力のある演技だったんですよね。豊川金田一は人間味がなくてただ気持ち悪いだけだったんですけど、なんか、長谷川金田一でやっと「平成オリジナルの金田一耕助像」が立ち上がったような気がする。言いすぎ!?
長谷川さんだから言うわけじゃないけど、今回の長谷川金田一の「異形っぷり」って、『シン・ゴジラ』のゴジラに似ていますよね。今までの金田一と似ているようで、決定的に違う異質な特徴を持っているという意味で。ほんと、「悪魔的な金田一耕助」という造形は新しいと思います。長谷川金田一で『三つ首塔』やってほしい! あっ、そうか、長谷川金田一はもしかしたら、原作小説の「都会の猟奇犯罪もの方面」に親和性があるのかもしんない! 『幽霊男』とか『夜の黒豹』、いけますか!?
長谷川金田一の次回作、今から楽しみですね~。そして、そちらはそちらで頑張っていただくとして、その一方で地上波放送局でも、少々ケレン味があろうがジャニーズさんだろうが構わないから、別の「ストライク正統派」の金田一さんにも出てきてほしい気がする! メジャーとエッジ、その両輪があってこそ、残り少ない「2010年代」の映像化金田一シーンは真の活性化を見るのではなかろうかと!!
いちファンの欲望は尽きません。よみがえれ、「雨後のたけのこ金田一耕助」状態~!!
いや~、生きててよかった。ついにこの、「復活の日」を迎えることができました! この、まさしく不毛としか言いようのない2010年代、なが~く辛抱してきた甲斐があったというものでございます!!
え? いったい何が復活したんだって? そりゃも~あなた、このお方で決まってるじゃないっすかぁ~!!
あ、そうそう、家に BS放送が見られる TVがあったことにも、大感謝。
ドラマ『獄門島』(2016年11月放送 NHK BSプレミアム『スーパープレミアム』)
32代目・金田一耕助 …… 長谷川 博己(39歳)
16代目・磯川常次郎警部 …… 小市 慢太郎(47歳)
金田一耕助もの長編『獄門島』の7度目の映像化
※本作は、金田一耕助が登場する映像作品としてはドラマ『金田一耕助 VS 明智小五郎ふたたび』(2014年9月放送 金田一耕助は山下智久)以来約2年ぶり、横溝正史の原作小説の映像化としてはドラマ『悪魔の手毬唄』(2009年1月放送 金田一耕助は稲垣吾郎)以来約7年ぶりの作品となる。
※『獄門島』の映像化としては、ドラマ『獄門島』(2003年10月放送 金田一耕助は上川隆也)以来約13年ぶりとなる。
主なキャスティング
鬼頭 早苗 …… 仲 里依紗(27歳)
鬼頭 月代 …… 堀田 真由(18歳)
鬼頭 雪枝 …… 秋月 成美(20歳)
鬼頭 花子 …… 吉田 まどか(19歳)
鬼頭 与三松 …… 山崎 銀之丞(54歳)
分鬼頭 儀兵衛 …… 古田 新太(50歳)
分鬼頭 お志保 …… 山田 真歩(35歳)
鵜飼 章三 …… 柳 俊太郎(25歳)
了然和尚 …… 奥田 瑛二(66歳)
了沢 …… 岡山 天音(22歳)
荒木 真喜平 …… 菅原 大吉(56歳)
村瀬 幸庵 …… 綾田 俊樹(66歳)
清水巡査 …… 山中 崇(38歳)
漁師の竹蔵 …… 谷田 歩(41歳)
漁師の梅吉 …… 八十田 勇一(51歳)
お小夜 …… 中西 美帆(27歳)
鬼頭 千万太 …… 石田 法嗣(26歳)
鬼頭 嘉右衛門 …… 瑳川 哲朗(79歳)
主なスタッフ
演出 …… 吉田 照幸(47歳)
脚本 …… 喜安 浩平(41歳)
ありゃ~、「そろそろ誰か、金田一さんやってくんないかな~。」なんてボンヤリした渇望感をおぼえながらつらつら生きてたら、なんとまぁ7年もの歳月が過ぎてしまっていたのですか! 日本全国のファンのみなさま、待たされてしまいましたね~。「金田一? あぁ、剛くんのやつ?」だとか、「今度はジャニーズの誰がやるんだろうねぇ~。」などと言われの無い勘違いを受け続けてきた隠忍自重の日々がついに今、報われる。
わたくしは、芦辺拓先生による、金田一耕助ものと明智小五郎ものの世界観が交錯する一連のパスティーシュ小説群は、本当に遊び心に溢れた展開の連続で大好きです。
大好きではあるんですが、それはやっぱりあくまでもパスティーシュなのであって、大乱歩や大横溝の残した綺羅星のごとき聖典の数々と同列に並べるべきものでは絶対にないと思っています。ましてや、聖典をさしおいて映像化するだなんて、そんなバカなというお話なんでございます。
それどころかシリーズ化すらしてしまうとは……ほんとに、作った人たちは何を考えてるんだろうか。ご本人の映像を1秒も見せずに、コロッケさんの物真似だけを見てちあきなおみを好きになれ、と強制しているようなものです。
もう2010年代も半分過ぎちゃったわけなんですが、遅ればせながら!といった感じで、突然降ってわいたように「原作小説を基にした」金田一先生が復活したわけなのであります! ぃよっ、待ってました!!
ただし、なんとな~く、その予兆のようなものは今年のはじめにあった、と言えなくもありません。それは、同じ NHK BSプレミアムで「ひっそり。」と放送された『シリーズ江戸川乱歩短編集 1925年の明智小五郎』(2016年1月放送 全3回)でありました。
「ほほ~う、そういう形で映像化しますかぁ。」といった形式での明智先生の大復活であったわけですが、気持ちいいくらいに視聴率だのジャニーズだのをとっぱらった企画にみなぎる勇気のアツさに、「こりゃあ金田一先生も、いけるかな?」などと妄想する素地はあったわけなのでした。
そしてそしての『獄門島』ときたもんだ。そしてなんと、演出はあの、『洞窟おじさん』の吉田照幸さん! これは期待感いやがおうにも大となりましたる次第。
わたくし、実家の現住所に住むようになってからこのかた、それまでにも増して TVドラマというものを(半自動的に観ている大河ドラマ以外は)チェックしなくなっていたのですが、偶然気になって観てみた『洞窟おじさん』(2015年 全4回)は全部観たんだよなぁ。すっごくおもしろかったんですよ、これ!
吉田演出のおもしろさは、全体にオフビートなジャズや古典的洋楽ロックを流すような、なんとなく弛緩したかのような空気感をかもしつつも、登場する俳優さんがたの演技にはかなりの緊張感を要求するかのような、スローなカメラワーク。この、「人生の重だるさを笑い飛ばしたいけど笑えない」みたいな二律背反の表現にあるような気がしています。もちろん、大事な時にシャープなカット割りははさむにしても、軽くはないんですよね。
あともうひとつの特徴としては、「男の登場人物の描写にけっこう力を入れている」という点も感じました。いや、そりゃあたまたま『洞窟おじさん』がそうだった、というだけだったのかも知れませんが、逆に言うと女性の描き方がちょい少なめ。ヒロインがいたとしても、ロマンチックでなく男同様に人間味がしっかり出ていてリアルなんですよね。尾野真千子さん、よかったですよね。そうなると、クリストファー=ノーラン的ということになるのでしょうか? いや、さすがにあれほど「漢、漢ォオ!!」してはいないでしょうけど。
つまり、なんだかんだいってもロマンチックな展開や表現がふんだんにある横溝正史ワールドとは、ちょ~っと違ったリアリズム重視の作風を吉田演出には感じたわけなのですが、「とりあえずジャニーズに金田一をやらせときゃいいっしょ。」みたいな民放ドラマのくびきからは外れた作品が観られるかも!?という期待感は十二分に高まっていたのでありました。
さぁ! そうして満を持して観た『獄門島』2016エディションであったのでしたが……結果はいかに?
いや~、リアルもリアル! 身応え十分のリニューアル『獄門島』でしたが……なんなんだ!? この金田一耕助は!!
うむむ……これは、言っちゃいけないんだろうなぁ。
言いたくてしょうがないんですけど、今作の長谷川金田一の最大のオリジナリティって、クライマックスで「どう謎解きをしたのか」にあるんですよね。ですから、作品自体の結末が違うとかいう話ではないのですが、これは明らかに視聴者が「えっ!?」とビックラこくような反応を狙ってますよね。「これが、あの金田一耕助!?」みたいな。
じゃあやっぱりこれは、これから初めて観る人のためのお楽しみということで、あんまり語るべきじゃないんだろうな。
ま~ま~ともかく、今作で衝撃のデビューを果たした長谷川金田一は、これまでの歴代金田一にはついぞ見られなかった専売特許を有していたわけでありまして、この時点でその勇気に何十点かを差し上げたい良さを感じました。
いや、これはこれで、原作小説の金田一耕助とはぜんぜん違いますよね! 違うんではありますが、少なくとも登場人物に無理矢理「あの人は天使なのかも知れない……」などという、思わず歯が成層圏まで音速で浮かび去ってしまうようなセリフを吐かせる思考停止な位置づけよりは数百倍マシでしょう。
つまり、この長谷川金田一のクライマックスにおける所業は、「金田一耕助が横溝正史に話さなかった真の自分の姿」と解釈できなくもないわけで、もちろんこの『獄門島』に横溝先生は登場しなかったのですが、小日向文世さんが横溝正史を演じたあの「稲垣金田一シリーズ」とはまったく逆のアプローチで、「小説に描かれていない金田一耕助」の実像を想像させる造形の深みを生んでいたのではないでしょうか。
なんてったって、『獄門島』の金田一耕助は、太平洋戦争に従軍してからの復員直後なんですもんね。今作の長谷川金田一ほどに「ああなって」しまっても、無理はない! まんま PTSDのような「鬼頭千万太の霊」描写もふんだんにありましたしね。しゃあないしゃあない。
ただしそう考えてしまえば、長谷川金田一の精神的コンディションがこうまでになっちゃったのは『獄門島』事件の発生タイミングがそうだったからなのであって、それ以降、多くの難事件を解決していきながら、長谷川金田一は徐々に私立探偵としての自分を取り戻していく道を歩んでいくのではないでしょうか。
だから、もし長谷川金田一の次回作があっても、今回ほどにトンガッたキャラクターにはならないのかも知れませんが……エンディングでサービスぎみに出てきた『悪魔が来りて笛を吹く』のときには、ちょっとでもいいから「穏やか~」に事件を解決してくれることを切に願います。ただでさえドロドロな事件が、更にカオスに!!
長谷川金田一に濃厚に漂うリアリティというのならば、やはりその外見も語らないわけにはいきません。
「復員直後」というポイントを強調するべく、長谷川金田一はぼさぼさではあるものの「長髪とはいいがたい山寺宏一さんみたいな中途半端な髪の長さ」になっており、そして何よりも「下駄じゃなくて軍靴」を履いているのです。
さすがや! 別にそれなりの言い訳を用意すれば定番の「長髪ぼさぼさに下駄」でもいいのでしょうが、そこをバサッと捨てたのは素晴らしい思い切りの良さだと感じました。「じゃあ和服じゃなくて復員服でもいいんじゃ……」というコメントはなしで! そこまでいったら海賊狩りの警察に誤射されちゃいますよね。
全体的に、わたくしは非常に好意的に今回の『獄門島』を受け留めたのですが、あえて苦言を呈するのならば、やっぱりキャスティングになりますでしょうか。
BS放送ということからくる予算的制限って、やっぱりあるんですかねぇ。有名な俳優さんがもうちょっと多くいないと、犯人当ての愉しみがないというか、華やかさに欠けるというか。
特に今回は、「分鬼頭家の人々」がじぇんじぇん容疑者リストに挙がってこないんですよね。印象が残らない! 太地喜和子さんと比較されるっていうこと自体がそうとうかわいそうなんですけど、それでも、お話をもっとおもしろくするような味つけにはなってほしかった……
金田一ものの映像化作品って、「女優さんのキャスティングで犯人がわかっちゃう」なんてよく言いますけれど、これ、犯人が男だとしてもそうなのよねぇ。よりによって……だし、ねぇ。キャーもう絵に描いたような「奥歯に物が挟まったような」言い方!!
要するに、吉田演出のクローズアップなキャラクター造形の連続が、ミステリーとしての「犯人はこの中の誰?」という楽しさをそいでしまった感は否めないわけです。う~ん、これ、登場人物の(比較的)少ない『獄門島』だったから良かったけど、あとちょっとでも容疑者の数が多くなる原作小説を選んでいたら、かなり混乱した映像化になってしまったかもしれませんね。
でも、BS放送だからこそ、例の「言葉トリック」も堂々と映像化できたのかもしれないし、粗雑な要素の混じらないストレートな『獄門島』の映像化につながったのかもしれないということで。痛しかゆしですよね~。
吉田演出の女性の魅力……今回はちょっと、どの女優さんからも感じられなかったかなぁ。ビジュアルは、あの三姉妹とかかなり良かったんですけど、鬼頭早苗さんも含めて、「生きてるなぁ」と感じられるキャラクターはいなかったと思います。
仲さん、好きなんだけどなぁ。鬼頭早苗さんのパートが今作ではけっこう削られていましたから、なんか事件をますます混乱させるだけの邪魔だてをするか、おびえるリアクションしかしてない小娘みたいな印象になっちゃいましたね。損な役回りになっちゃった! そりゃあ原作みたいなロマンスなんぞ生まれる余地はありません。仲さんの無駄遣い。
個人的にわたくしは、今回の長谷川金田一の活躍を、あの豊川金田一を祖とする「ちょっとアレな天才・金田一耕助」系統の発展形にして初の「成功例」と受けとめました。いい感じの「社会不適合者」感というか、「あ、確かにこの人は探偵でしか生きていけないな。」みたいな説得力のある演技だったんですよね。豊川金田一は人間味がなくてただ気持ち悪いだけだったんですけど、なんか、長谷川金田一でやっと「平成オリジナルの金田一耕助像」が立ち上がったような気がする。言いすぎ!?
長谷川さんだから言うわけじゃないけど、今回の長谷川金田一の「異形っぷり」って、『シン・ゴジラ』のゴジラに似ていますよね。今までの金田一と似ているようで、決定的に違う異質な特徴を持っているという意味で。ほんと、「悪魔的な金田一耕助」という造形は新しいと思います。長谷川金田一で『三つ首塔』やってほしい! あっ、そうか、長谷川金田一はもしかしたら、原作小説の「都会の猟奇犯罪もの方面」に親和性があるのかもしんない! 『幽霊男』とか『夜の黒豹』、いけますか!?
長谷川金田一の次回作、今から楽しみですね~。そして、そちらはそちらで頑張っていただくとして、その一方で地上波放送局でも、少々ケレン味があろうがジャニーズさんだろうが構わないから、別の「ストライク正統派」の金田一さんにも出てきてほしい気がする! メジャーとエッジ、その両輪があってこそ、残り少ない「2010年代」の映像化金田一シーンは真の活性化を見るのではなかろうかと!!
いちファンの欲望は尽きません。よみがえれ、「雨後のたけのこ金田一耕助」状態~!!