長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

名探偵・金田一耕助、はじまりの特異点 ~映画『三本指の男』(本陣殺人事件1947)~

2024年11月14日 20時52分21秒 | ミステリーまわり
映画『三本指の男』(1947年12月公開 モノクロ84分 東映)
・横溝正史による金田一耕助もの推理小説第1作『本陣殺人事件』(1946年4~12月連載)の初映像化作品。
・白木静子は原作小説にも登場する人物だが、金田一耕助の助手となって活躍するのは東映(初公開当時は東横映画)版「金田一耕助シリーズ」(全6作)に共通するオリジナル設定である。
・本作の題名が原作小説通りの『本陣殺人事件』でないのは、検閲をしたアメリカ占領軍が「殺人」という言葉にクレームをつけたためである。
・時代設定が原作小説の昭和十二(1937)年から、映画公開当時の太平洋戦争後に変更されている。
・犯人の設定と動機、「三本指の男」の正体が、原作小説から大幅に変更されている。

おもなキャスティング(年齢は映画初公開当時のもの)
初代・金田一耕助   …… 片岡 千恵蔵(44歳)
初代・磯川常次郎警部 …… 宮口 精二(34歳)
初代・白木静子    …… 原 節子(27歳)
久保 銀造 …… 三津田 健(45歳)
久保 お徳 …… 松浦 築枝(40歳)
久保 春子 …… 風見 章子(26歳)
一柳 賢造 …… 小堀 明男(27歳)
一柳 糸子 …… 杉村 春子(41歳)
一柳 隆二 …… 水原 洋一(38歳)
一柳 秋子 …… 賀原 夏子(26歳)
一柳 三郎 …… 花柳 武始(21歳)
一柳 鈴子 …… 八汐路 恵子(23歳)
一柳 良介 …… 上代 勇吉(?歳)
周吉    …… 村田 宏寿(48歳)
お島    …… 初音 礼子(39歳)

おもなスタッフ(年齢は映画初公開当時のもの)
監督 …… 松田 定次(41歳)
脚本 …… 比佐 芳武(43歳)
製作・企画 …… マキノ 光雄(38歳)
撮影 …… 石本 秀雄(41歳)
照明 …… 西川 鶴三(37歳)
音楽 …… 大久保 徳二郎(39歳)、吉川 太郎(?歳)

あらすじ
 私立探偵の金田一耕助は、かつてアメリカ滞在時代に世話になった財産家・久保銀造の姪の春子が、岡山県の旧家である一柳家の当主・賢造と結婚することを知り、結婚式に出席するために一柳家を訪れた。往きの列車の中で金田一は偶然、同じく結婚式に参加する春子の女工時代の親友の白木静子に出会うが、眼鏡をかけたインテリ女史の静子は金田一に冷淡な態度をとる。一柳家は由緒正しい家柄で、賢造の家族や親戚の中には、春子との結婚に反対し妨害しようとする封建的な考えの人々もおり、一柳家と久保家の双方に結婚を妨げる怪文書が送られ、さらに一柳家には謎の「三本指の男」が現れていた。春子から結婚への不安を聞かされた金田一は独自に調査を始めるが、結婚式の翌朝未明、密室状態の離れで春子と賢蔵の死体が発見される。岡山県警の磯川警部は三本指の男が犯人ではないかと考えるが、金田一は静子の協力のもと捜査を進めていく。




≪最初の作品から冒険しまくり! 本文マダヨ≫
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こんなんでいいじゃん!レトロ感たっぷりのひらきなおりエンタメ ~『黒蜥蜴』2024エディション感想本文~

2024年11月09日 23時16分52秒 | ミステリーまわり
 え~、そんでま、前回に引き続きまして『黒蜥蜴』2024エディションの感想なんですけれども。

 私、けっこう楽しめました! 実は、視聴するまでは個人的に不安要素が多いなと感じていて、かなり懐疑的なまなざしで画面とにらめっこしていたのですが、だんだんとこの作品の「方向性」みたいなものがわかってくると、あぁそういう楽しみ方をすればいいのねといった感じに肩の力がぬけて、どんどん面白くなってきたんですよね。正直、最初の心の中でのハードルがかなり低かったから後は上がるだけという好条件もあったのでしょうが、観終わった後は「船越小五郎の第2作があってもいいじゃないか!」という気分にまで上昇していたのです。ほんと、この明智探偵事務所チームが1作だけで解散しちゃうのは実にもったいない!


 まず、2024エディションに入る前に前提としておさえておきたいのですが、今回の船越小五郎 VS 黒木蜥蜴のバージョンをもってなんと11度目の映像化になるという、江戸川乱歩作品の中でも随一の映像化頻度の高さを誇る『黒蜥蜴』において、言うまでもなくその現時点での最新バージョンがこの2024エディションであることはもちろんなのですが、これが「令和最初の『黒蜥蜴』」ではぜっっっったいにないことは!ここでしっかりと断言させていただきたいと思います。なんか、一部媒体でそんな妄言をぬかしてる文章なんか、ありませんこと!? なんと無礼な!!

 令和最初の『黒蜥蜴』は、この1コ前の『黒蜥蜴 BLACK LIZARD』(2019年12月放送 監督・林海象 NHK BSプレミアム)ですから!!
 いくら、明智小五郎役の俳優さんの不祥事で再放送やソフト化に暗雲が立ち込めているとはいえ、この作品を無視するなんて許しませんぞ! 歴代、いくたの美人女優さんがたが演じてきた(丸山さんも女優だ!!)女賊・黒蜥蜴の中でも、「爬虫類っぽさ」部門と「アクション」部門でぶっちぎりの一位を獲得している、りょうさんによる黒蜥蜴……ほんとに最高でしたよね。あとは、岩瀬庄兵衛役の中村梅雀さんの、岩瀬早苗を押しのけるプリティさが際立った異色の逸品でした。ほんと、クライマックスで黒い特高警察みたいな悪ぶった衣装に身を固めてた姿が最高に似合ってなくてかわいい♡

 ともかく、そっちの2019エディションの感想は過去記事にあるので深くは立ち入らないのですが、そちらは何といっても黒蜥蜴役のりょうさんの超人的なビジュアルが世界観全体を併呑したかのように、時代設定を思いッきり SFな「架空の近未来」にして、もはや江戸川乱歩作品なんだか手塚治虫作品なんだか『攻殻機動隊』(アニメ版のほう)なんだかよくわかんない作品に仕上がっていたので、りょうさんが大好きな私としては異存なぞあろうはずもないのですが、『黒蜥蜴』の映像化作品としては、いささか冒険が過ぎるような異端の一作となっておりました。ほんと、再放送の機会が絶望的なのがまことにもったいない!!

 そんな2019エディションのわずか5年後に、今度は BS-TBSに場を移して映像化されることとなった今回の2024エディションなのですが、まず放送前に発表されたアナウンスをチェックしたとき、私は正直言いまして「ふ~ん、がんばってね。」的な、何とも言いようのないテンションの低下をもよおさずにはいられなかったのでありました。

 いわく、「サスペンスドラマの帝王」こと船越英一郎の明智小五郎、いわく、もはや大御所女優となった黒木瞳ふんする黒蜥蜴、いわく、作品の時代設定は「昭和四十年頃の雰囲気と現代を織り交ぜた架空の時代」……

 私の主観的な印象ではあるのですが、どうもこの2024エディションは新味に欠けると言いますか、TV的なアイコンにまみれている感じで、少なくとも原作小説の『黒蜥蜴』の味わいをどうこうしようとかいう意思は薄いような気がしたのです。
 だって、「昭和四十年頃」って1965年ってことでしょ? 原作の『黒蜥蜴』の時代設定はその約30年も前の昭和九(1934)年の物語なんですから、なんで21世紀現代でもなく原作リスペクトでもない、そんな中途半端な時代になってるのかって話なんですよ。しかもそれを踏まえた上での「架空の時代」……?
 ちなみに、おそらく映像化された『黒蜥蜴』の中で特に有名なのは1962年大映映画版(監督・井上梅次 黒蜥蜴は京マチ子)と1968年松竹映画版(監督・深作欣二 黒蜥蜴は丸山明宏)、そして言わずと知れた天知小五郎シリーズの中での1979年ドラマ版(監督・井上梅次 黒蜥蜴は小川真由美)の3バージョンなのではないかとおもわれます。ヒエ~どの黒蜥蜴もクセがすごい!

 こう見てみると、今回の2024エディションが標榜している「昭和四十年」というキーワードは、本来 TVドラマを主戦場としている船越英一郎さんのテイストからすれば一番意識するはずの天知小五郎シリーズからはややずれた、そこからさらにひと昔前の設定になっているという違和感が残ります。実際に見比べてみても、天知小五郎シリーズは実質的に「1980年代」の雰囲気をすでに先取りしている印象が強く、やけにとんがったデザインの最新車種を乗りこなす明智や大爆破あったり前のカーアクション、ワープロや「禁煙」といった小道具・言葉が出てくる作品の雰囲気は、明らかに先行する2バージョンの映画版とはまるで違った、いかにも TVっぽいにぎやかさに満ちたものとなっています。同じ「昭和」でも、中身は結構違うのね。
 そもそも昭和四十(1965)年というのは、大乱歩の原作小説よりも、それを元にした三島由紀夫の戯曲版『黒蜥蜴』(1961年発表、62年初演)のほうがよっぽど近いわけで、2024エディションは乱歩と三島のどっちの映像化なんだというどっちつかず感が目立ってしまいます。いや、これは今回に限らず、どの映像化作品でもそうなんですけどね……全バージョン、三島戯曲が世に出て以後の作品なんだもんなぁ。

 原作小説が大好きな私としては、現在の二代目とはだいぶ外観の違う初代・通天閣(高さ75m、1943年に焼亡)が登場する戦前の商都・大阪を CGかなんかで完全再現した、昭和九年の小説版のみを原作とする『黒蜥蜴 THE ORIGIN 』を死ぬまでに一度でいいから観たい気もするんですけどね~。時代設定的に原作小説に最も近い黒蜥蜴が登場するのはマンガ『二十面相の娘』(2003~07年連載)なんですけど、あれも刺青の位置が違うからなぁ。

 ま、そんなこんなで乱歩的でもなく天知小五郎的でもなく現代的でもないらしいという前情報にモヤモヤした感情を抱えてしまった私は、あの白本彩奈さんが岩瀬早苗役で出るヨという朗報を得てもなお、「大丈夫かぁ!?」という疑念が晴れずにいたのでした。いいとこどりすぎて薄っぺらい TVドラマになるんじゃないかという危惧ですよね。


 それでいよいよ、おっかなびっくりで録画した本編を観てみたわけなのですが、2024エディションは原作小説および戯曲版の味わいを可能な限り物語に落とし込みつつも、天知小五郎シリーズに寄せすぎず「船越さんと黒木さんなりの TVドラマっぽさ」を上品に反映させた良作になっていると感じました。おふざけがありつつも、面白いエンタメ作品になってましたよ!

 TVドラマっぽい。そうなんです、この作品は、映画になるには作りが軽すぎます。前回の視聴メモでも言及しましたが、この2024エディションにおける黒木蜥蜴は、明智の捜査によって原作ではついぞ語られることの無かった「過去」を暴かれ、犯罪の道にはしる以前の少女時代のトラウマをさらけ出して一人の人間の女性に戻った上で退場するのです。そこに過去バージョンの多くで女賊・黒蜥蜴が守っていたミステリアスな雰囲気やプライドの壁は無く、そもそも黒木蜥蜴のふるまいには、明智の若干サイコな探偵論の披歴に素でひいてしまうような人間っぽさも常に漂っていたのです。直近のサイボーグみたいなりょう蜥蜴とはえらい違いでんな!

 その一方で、黒木蜥蜴に対抗する船越小五郎はどうかと言いますと、こんなこと言ったってどうしようもないのですが、外見がどこからどう見ても「船越英一郎」なんですよね、どうしようもなく……ンやわたっっ!!
 これ、冗談で言ってるんじゃなくて、本当に船越さんくらいにサブリミナルレベルで TVに露出している俳優さんだからこその業病と言いますか、「何をやってもぜんぜん明智小五郎に見えない」という足かせがかなり強く働いているんですよね。これが実にしつこく、作品全体の重力が、その主人公を務めている船越さんのまとう、「そんなカッコつけても船越英一郎さんなんでしょ」という視聴者側のぬぐいきれないメタ視点によって軽くなってしまうのです。
 その上さらに、BS-TBS での本放送では、CM にその船越さんと黒木さんがまんま刑事と犯人役で登場するにしたんクリニックのサスペンスドラマ風コマーシャルが流れちゃうもんなのですから、もはや狙ってやってるというか、「おれ達も今さら THE MOVIE 気取りでしゃっちょこばってやるつもりなんてさらさらねぇゼ!」みたいな覚悟を見せつけられてしまうのでした。腹くくってんなぁ!

 ただ、ここまでくると「そんなに TVっぽいなら見たくないな」と思われる向きもあるかも知れないのですが、本バージョンのいちばん目覚ましいポイントは、主演の船越さんがそうとうな力の入れようで明智小五郎という人物の造形にこだわっているところなのです。この一点! この一点のみがブラックホールのように深く暗い「おもし」となっているので、ともすれば軽すぎてひらひら~っと飛んで行ってしまいそうな作品の存在感をかろうじてつなぎとめるアクセントになっているのです。主人公に特異な色味があるのは大事ですね~、ほんと!

 これはつまり、船越さんが俳優としての自分自身の「主戦場(TVドラマ)」と「弱点(軽さ)」を充分に自覚分析したうえで明智小五郎となる仕事を引き受けたという事実の証左なのです。相手を知り、己を知れば百戦危うからず……遅ればせながら、私は船越さんが素晴らしい名優であることを本作で確信いたしました。まさに帝王!
 そして、ここで船越さんが範としたであろう「陽キャヒーローなばかりでもない明智小五郎」の原形が、まさしく江戸川乱歩が初期の小説世界で描いていた大正時代の書生ふうの青年明智、すなはち「犯罪者すれすれのダークな異常才能者」としての明智小五郎だったことは疑いようがなく、こういう明智が映像作品の中で描かれるのはけっこう久しぶりなことなのではなかろうかと私は感服してしまったのでした。これは偉業だ!

 「大正時代のヤング明智」の映像作品における活躍といえば、何はなくとも NHK BS プレミアムで放送されていた『シリーズ・江戸川乱歩短編集』(2016~21年放送)が挙げられるわけですが、あそこでは明智小五郎を女優の満島ひかりさんが演じるということで、明智のヤバい部分、異端性がポップになるという効果がありました。ですので今回の「ほんとはこわい」船越小五郎に、過去に明智を演じた綺羅星の如き俳優さんがたの中で誰がいちばん近いのかと考えてみますと、それはやはり、あの実相寺昭雄監督の映画2作(映画『屋根裏の散歩者』と『 D坂の殺人事件』 真田広之~!!)で明智を演じた嶋田久作さんなのではないでしょうか。すごいとこと繋がったな~!

 船越小五郎、いいですよ~。その発言については前回の視聴メモでふれているので繰り返しませんが、1作のみで終わらせるには惜しすぎる暗黒面を抱えたキャラクターになっています。船越小五郎と吉岡秀隆の金田一耕助によるダースベイダー卿 VS 銀河皇帝パルパティーンみたいな暗黒面対決、観てみたい~!!
 ま、外見はどうしても陽気な船越さんなんですけどね……でも、あの天知茂さんだって、美女シリーズが始まった当初は「どこからどう見ても天知茂じゃないか」と揶揄されていたのではないでしょうか。顔の知れた大スターはつらいものですよ。船越さんも、どんどん作品を重ねて明智小五郎の新しい顔になって欲しいと切に願います。

 「1回こっきりにしておくのは惜しい」と言うのならば、やはり本作の明智探偵事務所、特に船越小五郎と樋口小林青年との「長いつきあい」についても、ちょっと触れるだけで終わってしまったので、次回作にて是非とも具体的に明らかにして欲しいところであります。本作だけを観ると、もっぱら手柄があったのはアクション担当の文代さんだけで、小林青年はせいぜい陽動作戦でおとりになってくれた程度といった感じで、文代さんよりも助手歴が長い理由がはっきりしないコメディリリーフ要員でしかなかったですよね。そこらへんを、もっと詳しく教えて! 「ボクは頭脳専門でね……」と豪語していた小林青年の本領発揮を、次の事件簿で見せてくれ~。
 そして、あの『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(2022~23年放送)で一年間堂々と赤センターのドンモモタロウを務めあげた樋口さんなのですから、単に助手と言うだけでなく「明智の後継者」という将来も視野に入れた人選となっているのではないかと、私は睨んでおります。そうなると即座に脳裏にひらめくのは、あの佐藤嗣麻子監督によって映画化もされた、劇作家・北村想の小説『怪人二十面相・伝』二部作(1988~91年)における明智と小林に関する実に興味深い新解釈であります。1925~62年という長期にわたって、明智小五郎はどうしてずっと「若き天才探偵」のスタイルを変えずにいられたのか……主人公を十二分に演じられるポテンシャルを持っている樋口さんだからこそ、船越小五郎との力関係に非常にふくみがあるようで、興味は尽きませんね~!!

 さて、主人公サイドの船越小五郎チームに続いて振り返ってみたいのは、本作の影の主役となる「黒蜥蜴一味」なのですが、今回はとにもかくにも、「やけに人間くささと弱さを持った黒蜥蜴」が目立ったキャラ造形だったなと感じました。確かに、直近のりょう蜥蜴がダイヤモンド並みの硬度を持った造形だったので、その逆をゆくという判断は非常に的確だったと膝を打ちました。そうきたか~!
 この、思い切って黒蜥蜴をデバフさせるという奇手は、対する明智がまさに演じる船越さんのサスペンスドラマにおける「捜査法」を踏襲するかのように、「黒蜥蜴の前半生を掘り起こして人間としての彼女の犯行動機をさぐる」戦法を採っていたがために、重いトラウマを抱えた少女の記憶を取り戻し悔恨するひとりの女性を演じるためにも、黒木さんにとって最適の選択だったのではないでしょうか。
 そうなのです、本作の明智と黒蜥蜴は、そのキャラクターこそ乱歩ワールドの住人であっても、物語の進み方は限りなく往年の旅情サスペンスドラマの骨格を継承しているのです。ま、「旅情」というほど明智が旅をしていたわけでもないのですが、黒蜥蜴=緑川夫人が着ていた和服の帯から群馬県桐生市に飛ぶという、原作小説のどこを見ても明智がやったことのないアプローチをたどった船越さんの捜査は、ベッタベタなのに絶対に船越さんでしか実行しえない、乱歩ワールドの中ではきわめて新鮮な展開だったのではないでしょうか。その手法を受け入れるためにも、今作の黒木蜥蜴は「人間的で弱く」ならなければならなかったのです。

 ……とは言いましても、黒木さんは本作の出演者陣の中では比較的小柄だし、おまけにホテルニューアカオから逃走する時に変装した老紳士の姿を見てもわかる通りに枝みたいにスリムすぎる体型なので、内面だけでなく外見も、世界の大富豪たちをおびやかす強盗グループの首領としてはだいぶ心もとない印象になってしまいましたね。ほんと、さらわれて緊縛されてる白本さんの方がどう見ても強そうなんだもんなぁ。まぁ、それは黒木蜥蜴ご本人も先刻承知のようで、峰不二子よろしくふとももにデリンジャーを隠し持っていたわけですが。

 あと、これだけは必ず触れなければならないのですが、本作の隠れた MVPは、やはり黒蜥蜴の過去を知る唯一の側近・松吉を演じた諏訪太朗さんと言うしかないのではないでしょうか。顔半分のやけど跡に眼帯、回想シーンではヅラ! もうフルスロットルの大活躍でしたね。演出の本田隆一監督は、わかってらっしゃる!!
 本編を観ても分かる通り、映像化された『黒蜥蜴』において松吉(松公)を演じる俳優さんは後半に大事な役目があるので、それをちゃんとやり切ることのできる実力のある方でなければなりません。
 ですので、2024エディションでは諏訪太朗さん、そして2019エディションではなんとあの堀内正美さんが演じていたということで、『黒蜥蜴』を楽しむ上での隠れたお楽しみトピックとなっています。
 うをを、諏訪太朗 VS 堀内正美!! この、実相寺昭雄監督ファンならば血圧が200あたりを超えること必至な名バイプレイヤー対決は、この『黒蜥蜴』でも繰り広げられていたというわけなのですか。りょう蜥蜴に寡黙につき従う堀内さんと黒木蜥蜴に親のように寄り添う諏訪さん、あなたはどっちがお好き!?
 乱歩ワールドにおけるこのお2方の対決といえば、どうしてもあのテレ東「ガールズ×戦士」シリーズにおける『ひみつ×戦士ファントミラージュ!』第15話(2019年7月放送)での、堀内さん演じる名探偵「明土(あけっち)小五郎」と諏訪さん演じる「怪盗二十面相」との宿命の対決構造を思い出さずにはいられません。たまんねぇキャスティングだ~!! このエピソードについては、我が『長岡京エイリアン』でもかなり前に記事にしたのですが、まだ本文完成してないのよね……この不調法者が!! ヒエ~変態けろっぴおやじ神さま、おゆるしを。

 あと、黒木蜥蜴一味といえば、やはり今回でも明智と黒蜥蜴の愛憎関係にだいぶ時間を割いてしまったために、黒蜥蜴にゆがんだ恋慕の情を寄せる雨宮のポジションが小さくなってしまったのは残念でしたね。いや、これは意図的に明智の存在を薄くしないと前に出てくる余地が作られない立場なので仕方ないのですが、本作でも雨宮なりの物語のしめ方が語られなかったのはもったいなかったなぁ。文代さんにコテンパンにのされるだけでしたからね。

 最後に、本作の「にぎやかで軽い TVドラマのノリ」を体現するかのように、オーバーすぎるほどに肩をビクッと震わせて目を見開くリアクションを見せてくれた早苗役の白本さんもすばらしかったと触れずにはいられません。あんな顔、驚かす側のほうがびっくりするわ!
 いや~、白本さんは今回もよかったなぁ。作品ごとでの自分の役割をわかってらっしゃるクレバーな女優さんですよ。金持ちのお嬢様らしく甘ったれた話でもあるのですが、父の愛情に飢える令嬢の苦悩をセリフでなく、その特徴的な「ハ」の字まゆで見事に表しきっていた演技力は見事でした。ほんと、こうなるとごくごくフツーの役を演じる白本さんの引き出しも他の色々な作品で観てみたいですね。ここ最近の他のドラマ作品での白本さんの仕事に関しましては、本記事最後のおまけコーナーにて!

 でも、明らかに黒蜥蜴よりもガタイの良い早苗という絵面はかなり新鮮で、そういえば黒蜥蜴が先に作った「をとこの剥製」もけっこうマッチョな感じだったので、本作の黒蜥蜴は男女に関わらず、自分に無いマッシブな肉体に渇望していたのかも知れませんね。だとしたら黒蜥蜴は、あの『盲獣』のようなむちむちぶりんぶりんの曲線に包み込まれるエル・ドラドオを脳裏の地平線に追い求める想いがあったのかも知れず……彼女の心の闇は、深い!!


 こんなわけでありまして、『黒蜥蜴』2024エディションは、自分たちの身の丈に合ったサイズを熟知した上で、いちばん得意とする主戦場「サスペンスドラマ的文法ゾ~ン」に、畏れ多くも乱歩ワールドを無理くり引き込むという奇策に出た、非常に野心的な作品であると感じました。江戸川乱歩の世界に忠実かというとそうでもないのですが、とにかく俺たち、私たちでしかできないエンタメを作ってやろうぜというプロ意識はひしひしと感じられる良作だったと思います。2019エディションのようなひたすら世界観の硬度にこだわる作り方もあるわけなのですが、今回の2024エディションは「お茶の間の人気者」としてのコンプライアンスを順守した上で、令和の御世にどこまで王道な娯楽作を作り上げることができるのかという課題に、船越英一郎と黒木瞳という W座長公演のスタイルで挑んだわけなのです。ナンパでほんわかした勧善懲悪の世界を、真剣勝負で作る! TVドラマの本気を観た思いでしたね。

 ただし、ここで注意しておかなければならないのは、今回再現された TVドラマの世界は、あくまで平成と令和の時代を生き抜いた船越さんと黒木さんの経験則に基づくものなのであって、もっと乱雑で刺激的だった「天知小五郎シリーズ」もいた昭和の世界とは全く別物だということです。つまり、今作の世界はやっぱりどこまでも「架空の時代」のお話なのであり、天知小五郎の世界の復活を期待するのは筋違いなんですね。実際、車の一台も爆破炎上しないし、21:55~22:05くらいのきわどい時間帯に被害者となる女性のおっぱいだってまろび出ない今作の世界は、ある意味でヌルいことこの上ない、上っ面だけを天知小五郎シリーズから拝借した「カレーの王子さま」にしか見えないという方もおられるかも知れません。

 ただ、作品が万人ウケする視聴率重視のドラマ作品であるという宿命から、「全く動機不明だが美にこだわりまくる狂人」だの、「無差別殺人にしか快楽を見いださないサイコ連続殺人鬼」だのがポンポン出てくる江戸川乱歩の世界を TVという媒体で忠実に映像化することができないのは、今回の2024エディションもかつての天知小五郎シリーズも同じことで、今作での黒木蜥蜴が地に足の着いた人間になったように、例えばあの超絶サイコな虐殺グランギニョル作『蜘蛛男』(1929~30年連載)を原作とする天知小五郎の『化粧台の美女』(1982年)もまた、「犯人にはそれなりの哀しい事情がある。」というきわめて俗っぽいお涙ちょうだいな言い訳を加えていたのです。ただ盗みたいから盗む、殺したいから殺すというカオスなキャラが出てきたって、視聴者は納得しないだろうと見ているわけですね。
 そういう意味では、日本の TVドラマは、まだまだ約100年近く前の江戸川乱歩の世界に追いついていないということになるのでしょうか。海外の映画界に目を向ければ、『羊たちの沈黙』(1991年)とか『ノーカントリー』(2007年)とか『ダークナイト』(2008年)とか、もはや自然災害かなんかとしか言いようのない説明不能の異常犯罪者は枚挙にいとまがない程いるのですが、乱歩の明智もの長編に出てくる犯罪者なんて、だいたいこっちの世界の奴ばっかですからね! 魔術師とか蜘蛛男とか、黒蜥蜴とか吸血鬼とか……もう、ゴッサムシティで大笑いしながらサブマシンガンをぶっぱなしてても違和感ないキャラばっか!

 いろいろ申しましたが、今回の船越小五郎のチャレンジは、船越さんらしさの総決算的作品ではあるものの、まだまだ過去作品に伍して闘うことのできる、この作品だけのオリジナリティというものが出ているとは言い難い中途半端さがあります。CG で明智と黒蜥蜴の双方の変装術を表現するというのも、天知小五郎シリーズのブラッシュアップの範疇ですからね……
 だからこそ! 船越小五郎シリーズは必ず、後続する第2弾を作って、ほんとうの独自性を創出していかねばならない義務があると思うのですよ。

 船越小五郎と樋口小林くん、ほんとに頑張れ! 再び立ち上がれ!! 私は待ちますよ、いつまでも。

 諏訪太朗さん、またなんか別の役で出てくんないかな。荒唐無稽な乱歩ワールドへと続く扉の鍵を握るのは、やっぱり諏訪さんと、諏訪さんのヅラだ!! いつまでも、元気でいてくださいね♡


≪乱歩とまるで関係のないおまけコーナー:白本彩奈さんのドラマ出演作観察日記・秋の陣≫
〇TVドラマ『GO HOME 警視庁身元不明人相談室』第6話『トー横キッズに挑む地雷系バディ!』(2024年8月24日放送 日本テレビ 脚本・八津弘幸&佐藤友治、演出・本多繁勝&山田信義)自殺したトー横キッズ・キイちゃん(奈良岡紗季)役

 白本さんが目当てで観たのですが、ドラマのコンセプトとしてまず白本さん演じるキイちゃんが死んでから話が始まるので、白本さん自身はほとんど登場しませんでした……エピソードとしては、主演の小芝風花さんとゲストの莉子さんがメインで活躍する物語でしたね。
 45分間の中に、かなりたくさんの要素をオーバーフロー気味に詰め込んだ意欲作だと感じたのですが、やはり「親友の自殺」という、かなり重い問題をテーマとしていたために、逆に触れ方がナーバスになって白本さん演じるキイちゃんの明るいふるまいのみが語られる印象になっていましたね。そりゃまぁ、それを語る莉子さん演じるはるぴちゃんがそこのみを選んで回想していたから仕方ないのですが。でも、いちおう前向きエンドなしめ方にするためには、キイちゃんの継父(演・和田聰宏)の DVを詳細に掘り返すわけにはいかなかったのでしょう。実態を観たわけではないので私もはっきりとは言えないのですが、トー横キッズやネカフェ難民の描写も、お茶の間の視聴者層を意識してかなりマイルドになっていたかと思います。
 はるぴちゃんとキイちゃん、どっちもそうなんですが、なんかこう生活臭がしないというか、ジャンクな食べ物で飢えをしのいで、変な場所で寝てるから姿勢が悪くて、髪の毛を洗ってなくて服もあんまり洗濯してないかもみたいな雰囲気が無いような気がするんです。ふつうにきれいな衣装を着てヘアスタイルもいつも整ってるので、金銭的に困っていない女優さんが多少奇抜なメイクとファッションをしているようにしか見えないんだよなぁ。それで「今話題のトー横キッズです」と言われましても……当然、性的な暗部もきれいに取り除かれてたし。
 そもそも、白本さんはああいったお顔立ちの方なので、すっぴんと地雷メイク後のお顔とでほぼ違いがないから、別々の似顔絵を用意して聞き込みに手間がかかるみたいな過程が「そんなに苦労する?」という気がして、この点、白本さんをこの役に当てはめるのはやや難があるような気もしました。もっと、メイクしたらほぼ別人のようなうす~いお顔の女優さんの方がよろしかったかと……いや白本さんでいいです!
 短い出演時間ではありましたが、ゴスロリ系の衣装を着たりスマホの写真で変顔を見せたり、「にゃーにゃーにゃー♪」と唄ったりする白本さんが拝見できたのは僥倖でした。ほんとにちょっとだけでしたが。

 余談ですが、作中で私がいちばん気にかかったのは、地元の静岡県御殿場市で女子高生時代のキイちゃんを通学バスでよく見ていたという証言をしていた酒井という青年(演・ダウ90000上原佑太)でした。あの、刑事(小芝さん)に全く視線を合わせずにおずおずと語るしぐさ……絶対に当時、キイちゃんに対してはかなき好意を抱いていたな!? わかるぞ! でも、4、5年ぶりに似顔絵でその顔を見せられたかと思ったら、キイちゃんはすでにこの世にいないという衝撃の事実……泣ける! そこだけで2時間ドラマにできるわ!!


〇TVドラマ『ザ・トラベルナース』第2シーズン第4話『仕組まれた医療ミス!VS モンスター患者』(2024年11月7日放送 テレビ朝日 脚本・香坂隆史、演出・片山修)潰瘍性大腸炎の患者・四宮咲良役

 『GO HOME 』もそうだったのですが、このエピソードも病院という空間で発生するモンペ(モンスターペイシェント)問題にアレルギー対応食の誤配事故、そして医療者側からの「がんばりましょう」発言が受けた患者によっては重い負担となるのではないかという大問題と、たった45分の中に様々なテーマをモリモリに盛り込んだ充実の内容でした。ただ、こちらの方は全ての問題が一人の患者の過去に集束していくというきれいな作りの構成になっていたので消化不良感はなく、よくできたお話だなぁと感じ入りました。脚本がうまいな!
 ただ、その……肝心カナメの我らが白本さんの役割がせっかくのゲストなのに小さめというか、膵臓がんステージ3の入院患者の斉藤四織(演・仙道敦子)とモンスターペイシェントの四谷純子(演・西尾まり)の2人が本エピソードのメインゲストといった感じなので、役割としてはかなり軽く。白本さんの演じていた患者は、こう言っては実もフタもないのですが本エピソード内での犯人候補のひとりとしてと、重めなお話を明るくするご陽気キャラとしての隠し味的配置でしたので、キャスティングとしてはかなり贅沢な采配だと感じました。正直、能天気な韓流アイドルファンの女の子という役柄なので、白本さんでなくともそこらへんのグループアイドルの女の子にやらせてもいいようなポジションで、私としては、何といっても白本さんとかなり縁のある中井貴一さんとの久々の共演なのでもっと大きな立ち位置なのかなと思っていたのですが、そんなことなかったですね。白本さんのいる病室に中井さんが来ても、セリフのやり取りも全然なかったし。
 でもなんか、死の運命とかサスペンスの被害者とかいう重苦しい展開とはまるで無縁で、とにかく陽気に笑う白本さんを観るのもかなり珍しく、ヘアスタイルもベリーショートだし、いろいろレアな白本さんが観られるので、出演時間が短いわりに非常にお得なエピソードかと感じました。第一、お話が面白いのでいいですよ! 出演陣がみんな達者ですよね。野呂佳代さんのナースチュニックのぱっつぱつ感、リアル~!!

 ほんと、患者役の白本さんがベリーショートって写真をまず観たので、こりゃ九分九厘、不治の病のやつだなと思って身構えてたんですが、そんなこと全然なくてホッとしたというか肩透かしというか……むしろ、天野はなさんが演じてた役の方が白本さんらしかったのですが、そんなんばっかやってても楽しくないでしょうしね~。口を思いきりバカっと開けて笑う白本さんも、やっぱり最高だ!! これからも、とこしえに応援し続けま~っす♡
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超ニッチ企画!! 『刑事コロンボ』幻の未映像化事件簿をよむ ~だいぶ遅れた読書感想文その3~

2024年10月26日 10時40分23秒 | ミステリーまわり
『刑事コロンボ』オリジナル小説作品の事件簿!! 各事件をくわしく解析
 ※TVドラマシリーズ『刑事コロンボ』の概要は、こちら
 ※未映像化事件簿の「 File.1、2」は、こちら! 「 File.3~5」は、こちら~。


File.6、『血文字の罠』( The Helter Skelter Murders)ウイリアム=ハリントン 訳・谷崎晃一 1999年12月25日刊
 ≪犯人の職業≫    …… デパート社長、ハリウッドの新人女優
 ≪被害者の職業≫   …… デパート社長夫人、ディスカウントストア副社長、麻薬の密売人
 ≪犯行トリックの種類≫…… ホテルの食事を利用したアリバイ工作、ダイイングメッセージの改竄
・アメリカ本国で1994年(この年は2作の単発新作が放送されていた)に出版されたオリジナル小説の翻訳。
・ロサンゼルスで1969年8月に発生した実在の事件「シャロン=テート殺害事件」に基づく展開があり、シャロンの当時の夫だった映画監督のロマン=ポランスキーの名前も別の経緯で作中に登場する。
・日本語訳版ではカットされているが、アメリカ原書版ではコロンボが1969年のシャロン=テート殺害事件の捜査に参加したり、1994年に服役中のチャールズ=マンソン(2017年に獄中死)と面会したりする場面がある。
・本作オリジナルのキャラクターとして、テキサス州のダラス市警からロサンゼルス市警殺人課に転属してきたチコ=ハモンド巡査が登場する。
・映像版に登場したキャラクターとしては、コロンボの飼い犬「ドッグ」、獣医のベンソン院長、「バーニーの店」のバーニー(バートではない)が登場する。
・本作に登場するコウリーズ・デパートは、1925年創業で創立70周年を目前に控えた老舗高級デパートである。ちなみに、『人形の密室』の舞台となったダウンタウンのブロートン・デパートは、1972年に発生した事件の時点で「築50年」と描写されているので、コウリーズとほぼ同年代に創業したデパートであると思われるが、本作ではブロートンへの言及はない。デパートの種類としては、ビバリーヒルズにあるコウリーズが高級百貨店でダウンタウンにあるブロートンが庶民的という印象がある(『人形の密室』ではコロンボが幼い頃にブロートンに行った思い出を語っている)。
・本作が翻訳出版された時期は、日本テレビ『金曜ロードショー』枠内で『新・刑事コロンボ』シリーズが年に1、2作のペースで放送されていた時期だった( WOWWOWによる放送も始まっていた)。

あらすじ
 ロサンゼルスのビバリーヒルズにある六階建ての老舗高級デパート「コウリーズ」の社長夫人が、自邸の化粧室で変死を遂げた。さらには邸内に停まっていた車にも射殺死体が……荒らされた室内や盗まれていた貴金属から押し込み強盗の犯行と断定されたが、コロンボ警部は犯人の侵入経路を不審に思う。映画界にも進出するデパート社長と新人女優の野望が、忌まわしい連続殺人劇を繰り広げる。犯行現場に書きのこされた血文字は、いったい何を意味するのか?


 はい、これまで「交換殺人」、「ビルまるごとの密室殺人」、「ビデオ撮影しながらの殺人」、「大学構内での殺人」、「サーカス興行中での殺人」と、映像化されなかったのが惜しい個性が目白押しの「未映像化八部衆」であったのですが、6番目の刺客となる本作もそれらに負けず、なんと「実際に発生した有名連続殺人事件とリンクする殺人」という大きな特色があります。これはすごい……映像化された69エピソードの中でも、ここまで現実世界に攻め込んだ作品は無かったのではないでしょうか!?

 その実際に事件というのは、もはや語るまでもないというか、語るもはばかられる残忍無比な「シャロン=テート殺害事件」なわけですが、1969年にロサンゼルスで発生した事件ということで、それよりも前の1968年2月にパイロット版『殺人処方箋』(実質第1話)ですでに刑事となっていたコロンボならば捜査に参加していないはずがないという発想から、本作の構想がスタートしたことは間違いないでしょう。
 この「フィクションの名探偵」VS「実際の事件」という、まさしく「虚と実」究極の対決を体現する構図は、ミステリーの世界で言えばなんと「シャーロック=ホームズ VS 切り裂きジャック」どころか、すべての推理小説のいできはじめのおやとも言うべきエドガー・アラン=ポオの生んだ名探偵第1号オーギュスト=デュパンの活躍する短編小説『マリー=ロジェの謎』(1842~43年連載)から始まっている伝統中の伝統ですので、ホントに過言でなく、コロンボ警部は本作『血文字の罠』をもって、ついに世界ミステリ史上に残る名探偵の殿堂入りを果たしたと申して良いのではないでしょうか。
 すごいよこれは! 日本でもこの域に達したのは金田一耕助先生くらいじゃないっすか(『八つ墓村』と『悪魔が来りて笛を吹く』)? でも、ホームズ先生も金田一先生も、そして本作のコロンボ警部も、実際に発生した惨劇を止めることはできていないというのが、後発であるフィクションの宿命と言ってしまえばそれまでなのですが、悔しい気もしますよね。事実は小説よりも奇なり……

 ……とまぁ、本作ならではのアピールポイントをここまでさんざんブチ上げておいてナンなのですが、本作は別に「シャロン=テート殺害事件」の解決にコロンボ警部が挑むというものではなく(すでに解決してるし)、かの大事件の犯人グループの元関係者でシャバにいる人間に罪をなすりつけようとしただけの模倣犯罪ですので、本筋自体はいたって通常運転のスケールなんです……う~ん、これこそまさに、「大山鳴動して鼠一匹」ってやつぅ~!?

 しかしながら、事件の内容自体は、夫婦関係とデパートの経営方針の相違から社長が愛人と結託して妻を殺害するという流れこそよくある感じなのですが、妻が死の間際に遺したダイイングメッセージを改ざんする社長の工作や、次第に社長の言うことを聞かなくなり自滅してボロを見せる愛人、そして彼らが見せる一瞬のスキをついて解決の糸口を拾い上げていくコロンボ警部といった面々がくんずほぐれつする攻防戦は、映像化作品ばりに密な構成と緊迫感がみなぎっていて意外と見ごたえがあります。決して1コや2コの大ネタだけでもたせようとかいう単純な作りではないんですね。

 例えば、本作のタイトルには「罠」というキーワードがあり、これは既出の未映像化作品 File.4の『13秒の罠』と同じなのですが、File.4でいう罠が「コロンボから犯人に仕掛けた罠」という意味が込められているのに対して、本作の罠は「犯人が警察に仕掛けた罠」と同時に、「犯人の罠を見抜いたコロンボが犯人に仕掛け返した罠」という真逆の意味も重なるという、ひとつ上をいく深化を遂げているのです。ダイイングメッセージという非常に古臭いテーマを取り上げていながらも、これを犯人と名探偵とのかなり高度な心理戦のステージに仕上げている発想は見事だと思います。

 ただ、その~……重箱の隅をつつくようで申し訳ないのですが、本作の悲劇はやはり、『13秒の罠』のように映像的にバチっと決まる「チェックメイト」なコロンボの一撃が無いというところなのでありまして、しかもタイトルにでかでかと掲げている「血文字」じゃない最後の奥の手というのが、「犯人の靴跡」というビックリするほど地味なものになっているので、これをドラマにしたら、文句は出ないんだろうけど印象にも残らないというどっちらけの評価を受けることは火を見るごとく明らかなのです。マンソンファミリーというとんでもない呼び込み花火を打ち上げておきながら、最後はこぢんまりとしたジェンガ対決になってしまうような、このガリバートンネル並みの尻すぼみ感……私は嫌いではないのですが、TVドラマの『刑事コロンボ』シリーズに列せられるには、あまりにも線が細すぎます!!

 結局、この作品が如実に示しているのは、「矛盾がなければいいってもんじゃないよ」という、エンタメ作品としてのバランス感覚が要求される非常にシビアな教訓なのでありました。作品の密度、レベルとしては未映像化八部衆の中でも屈指の傑作かとは思うのですが、きわだった個性らしいものが見当たらないんですよね……いちおうドラマ的なわかりやすさで言うのならば、本作も「かなりうるさいグルメなはずの犯人が、ホテルのカキ料理の味が変わっても文句を言わない」というネタはあるのですが、ちょっとこっちはこっちで単純すぎるし。

 ていうか、「ホテルの料理をちゃんと食べたから、僕たち部屋にいたよ!」なんていう小学生みたいな言い訳、アリバイとして成立するとでも思ってんのかァア!? 桜田門……じゃなくてロス市警をなめんじゃねぇ!! 逮捕しちゃうぞコノヤロー☆


File.7、『歌う死体』( The Last of the Redcoats) 北沢遙子 1995年4月25日刊
 ≪犯人の職業≫    …… 女性ニュースキャスター
 ≪被害者の職業≫   …… 引退したロックスター
 ≪犯行トリックの種類≫…… テープレコーダーを使ったアリバイ工作
・没シナリオ・シノプシスの小説化作品。
・本作の原形が執筆された時期は不明だが、本作の時代設定は日本で翻訳出版された当時の「1995年」となっている。その他に作中の年代を象徴する描写として、風変わりな刑事を演じる俳優としてブルース=ウィリスの名前が出たり(映画『ダイ・ハード』は1988年の公開)、警察署との連絡手段として警官がポケットベルを使用しているくだりがある。
・内容に類似性はないが、映像版で重要な役として TV番組の司会者が登場する作品は第57話『犯罪警報』(1991年2月放送 第10シーズン)が、人気歌手が登場する作品は第24話『白鳥の歌』(1974年3月放送 第3シーズン)がある。
・本作オリジナルのキャラクターとして、ロサンゼルス市警殺人課に配属されて1~2年目のホワイト巡査が登場する。ちなみにコロンボと同じくホワイト刑事も死体や血を見るのが苦手。
・本作が翻訳出版された時期は、日本テレビ『金曜ロードショー』枠内で『新・刑事コロンボ』シリーズが年に4、5作のペースで放送されていた時期だった。

あらすじ
 伝説のロックスターが10年ぶりに復活する! その情報をつかんだ女性ニュースキャスターはさっそく特別番組の企画にとりかかり、テレビ局内は新曲発表のスクープに色めきたった。ところが、取材中の思わぬ誤算から殺人事件が発生! コロンボ警部はサンフランシスコに赴き、復活の歌に秘められた謎に挑む……


 こちらはまた、異色の一編と言った感じでしょうかね。
 文庫本の解説で訳者の北沢さんも考察されているのですが、本作が映像化されなかった理由は、やはり「衝動的な殺人の後追い隠蔽ごときでコロンボに勝てるわけがない」という部分が大きいかと思います。プロの殺し屋でもない犯人がエピソード一本分の尺いっぱいに逃げ回るなんて無理っしょ……
 ただし、本作はこういう設定があるので、コロンボとの熾烈な推理合戦を楽しむというよりは、ただひたすらにヒドイ目に遭い続ける犯人の転落劇を「うわぁ~ヤダ!」とドン引きしながら見守るクライムノベル的な作品になっているかと思います。

 当然、この犯人の転落の中には「殺人を犯してしまう」という弁解のしようのない重大な犯罪行為も含まれているのですが、これもよくよく見れば転落の中のひとつの結果に過ぎず、そもそものことを言えば、どこからどう見てもまともな精神状態にあるとは言えない往年のロックスターの言うことを過度に信用しきった彼女の考えの甘さが根源にあるとしか言えないと思います。殺人にいたった経過自体は正当防衛と言えなくもないものがあるのですが、被害者を激高させてしまったのは彼女の短絡的で怖いもの知らずな発言にあるので、本作の犯人を悲劇のヒロインと見るのはちと難しいかと思います。
 ただ、それでも読者の同情を誘ってしまうのは、犯人が「時代の寵児」として、アメリカ全国の視聴者の期待に応えなければならないという強迫観念の虜になっている点でしょう。ここらへんは、仕事の内容は微妙に違うにしても、現代日本の TV業界の中で心身をすり減らされていく幾多の女子アナさん、人気俳優、お笑い芸人あたりにも通じる、いまだに解決していないメディア業界の大問題だと思います。だからこそ、TVシリーズ『刑事コロンボ』の映像化エピソード群の中にも芸能人がしょっちゅう出てくるのでしょう。ひとの人生の転落するさまを見届けるなんて、なんと残酷で、しかし確かに魅惑的な愉しみであることか……

 ゲスト犯人が散々な目に遭う倒叙ものドラマというと、私は『古畑任三郎』第1シーズンの堺マチャアキさんや小堺一機さんの回を真っ先に思い起こしてしまうのですが、今作の犯人も、突発的に起こしてしまった自分のあやまちを隠すために、コロンボという最悪の敵から逃げ回るハメにおちいってしまいます。
 ただ、実は今回に関してはさしものコロンボ警部も、犯人が彼女であるという確信はさまざまなヒントから得るわけなのですが、決定的な証拠をつかむことができずかなり苦労してしまい、最後の奥の手となった「火事の通報電話」も、厳密に言えば犯人が100% 被害者のアパートにいたという証拠にはなり得ないわけで、そこで登場したのが、本作最大のオリジナル展開となる「被害者の遺書」なのです。

 ほんと、このエピソードは最初からずっとひどい展開続きで、天才なんだか狂人なんだかさっぱりわからない被害者に死後も振り回され続ける犯人の孤軍奮闘ぶりが読んでいてかわいそうになってくる感じなのですが、最後に登場したこの遺書によって、被害者も実はその才能を完全に死なせてはおらず、犯人や、後に被害者の遺志を継ぐ天才アーティストになるであろう少年への愛情を捨ててはいなかったということが明らかになるという、かなり爽快で粋な読後感を呼び込んでくれます。
 これは、映像化・未映像化に関わらず総じてゲスト犯人が最期に捕まるという終幕が確定となっている『刑事コロンボ』シリーズにおいては、なかなか味わえない稀有なハッピーエンド(?)オチではないかと思えるのですが、そういう意味では、未映像化が惜しまれる隠れた珍品ともいえるのではないでしょうか。

 ただまぁ、やはり人気歌手や人気 TV司会者が登場する映像化エピソードはすでにいくつかあるわけで競争率も高かったですし(未映像化作品の File.3もそうですね)、犯人の努力(トリック)が、被害者&謎の美少年サーシャの存在感に圧倒的に負けてしまっているというインパクト不足が、映像化に至らなかったウィークポイントだったのではないでしょうか。

 未映像化 File.2の犯人もそうだったのですが、女性が単独で犯人になると、やっぱりどことなく人間的な弱さが強調されるきらいがあって、コロンボにグイグイ追及される流れがかわいそうに見えちゃうのでドラマ的な面白みがなくなる印象がありますよね。
 その一方で映像化された作品群中の女性犯人たちを見ると、そこらへんを補うためのさまざまな工夫がよく見えるような気がします。まぁ女性じゃなくても、あのコロンボを相手にするからには、そうとう肝のすわったタマじゃなきゃダメなわけなのね!


File.8、『硝子の塔』( The Secret Blueprint)スタンリー=アレン、訳・大妻裕一 2001年8月25日刊
 ≪犯人の職業≫    …… 建築会社設計企画部長
 ≪被害者の職業≫   …… 建築会社副支社長
 ≪犯行トリックの種類≫…… ビデオテープを使ったアリバイ工作
・アメリカ本国で1999年(当時は1~2年に1本のペースで新作が放送されていた)に出版されたオリジナル小説の翻訳。
・内容に類似性はないが、映像版で建築業界のプロが重要な役として登場する作品に第9話『パイル D-3の壁』(1972年2月放送 第1シーズン)がある。
・本作オリジナルのキャラクターとして、ロサンゼルス市警殺人課に配属されたばかりのトムザック巡査と、コロンボと旧知の中であるコンピュータ課のフラーティ警部が登場する。ちなみにトムザック刑事はコロンボと同じく死体や血を見るのが苦手。
・映像版に登場したキャラクターとしては、「バーニーの店」のバーニー(バートではない)、コロンボの飼い犬「ドッグ」が登場する。特にドッグは、コロンボに重要なヒントを与える役割を担っている。
・本作が翻訳出版された時期は、日本テレビ『金曜ロードショー』枠内で『新・刑事コロンボ』シリーズが年に1、2作のペースで放送されていた時期だった( WOWWOWによる放送も行われていた)。

あらすじ
 高層タワー専門の建築家が企てた、殺しの設計図。次期支社長の座をめぐって野望うず巻く建築会社に仕掛けられた巨大な密室の罠とは? 重役会議用のスピーチビデオに映っていた奇妙なものに目をとめたコロンボ警部は、犯人の完璧なアリバイを突き崩していく。美しい塔に秘められた謎とは?


 さぁ、というわけでありまして、豊穣なるミステリの傑作群が実る『刑事コロンボ』という黄金の大地の片隅にひっそりと取り残された、暗くじめっとした「忌み田」のような未映像化八部衆に光を当てるこの企画も、ついに最後の一作を残すばかりとなりました。やっとここまできたか~!

 とは言いましても、本作は別になにかしらの「終わり」を飾るような位置にある作品ではないのですが、本企画独自の判断で、「原型となるシナリオやシノプシス、小説ができた時期が古い順番」に並べたところ、1999年に出版された本作がいちばん最後ということになるので、こういうナンバリングになりました。単純に二見書房文庫から出ていたノベライズシリーズの順番で言いますと最後の未映像化作品は File.5(2003年出版)ですし、「日本で出版された」未映像化作品は File.3(2004~06年 同人誌にて連載)でした。あと、これら以降にも『刑事コロンボ』の短編小説はいくつか出版されていますよね。
 ただ、やはり本作が世に出た1999年というのは、ドラマとしての『刑事コロンボ』シリーズで言いますと末期に入っていますし、「映像化の可能性はあったけど実現しなかった」という観点でいくと最後の作品と言ってよろしいのではないかな、と思います。これ以降の短編作品はまず TVシリーズのエピソードなみのボリュームはないですし、トリビュートの意味合いが強いですよね。

 そんでもって、そういった未映像化八部衆の掉尾を飾る作品として紹介する本作なのですが、これさぁ……八人兄弟の中で、いっちばん個性がない! いや、出来は悪くないんです! 内容に矛盾はない。矛盾はないんだけど個性もない! 老人から見た最近の若者みたい。よく見りゃおもしろいんですけどね……よく見ない人の目もガッとわしづかみにしなくちゃならないのが TVドラマの世界なんで、そのおとなしさはマイナスなんだよなぁ。

 本作も、File.4の系譜に連なる「ドラマ映えするコロンボの最後の一撃」がアピールポイントとなる大ネタ一発系のエピソードなのですが、File.4のように「なるほど、そうきたか!」というスカッと感がないと言いますか、作中で伏線らしいものがまるで登場しない(停電の情報はあっても、ビルの設備機能については全く言及がない)ので、ラストでそれが出てきても読者としては「へ~、そうなんだ……」と思うしかなく、ミステリとしての満足度に雲泥の差があります。トリック解明のヒントをコロンボに与える重要キャラは File.4と同じ「あいつ」なのに、この差はいってぇどうしたことだってんだい!?
 でも、トリックに関する情報をあんまり出したくない作者の気持ちもわからんでもないんですけどね……「ビルにこういう設備がある」って言及した瞬間に、「あ、これトリックに関係あるな。」って思われちゃうもんね。難しいもんだなぁ。

 あと、本作の邦題を見たら、日本のミステリファンだったら、多くの方は奇妙な建築物を舞台にした「館もの」かな?なんて期待しちゃうじゃないですか。『刑事コロンボ』で館ものですよ!? これは面白いでしょう!
 でも、いざ読んでみたら、そんなことあるはずもなくいつも通りのフツーのオフィスビルで発生する事件なんですよね……なんだよ、このタイトル! これ、犯人がロサンゼルスのダウンタウンに建てた地上七十階建ての高層ビルが全面ガラス張りになっていることからきていると思われるのですが、事件の舞台にすらなってないし全然関係ないよ……詐欺すぎる。
 こういった邦題のトンチンカンさもたいがいなのですが、もっとひどいのが実は原題の方なのでして、「 The Secret Blueprint(隠された青写真)」て……個性が無いにも程があるというか、どういう事件なのかさっぱり印象に残らないよ! 邦題決めも苦労したんだろうな。

 とにもかくにも、この作品は顔立ちこそそつなく整ってはいるのですが、とてもじゃないですが『刑事コロンボ』という競争率激高のバトルフィールドで生き残るインパクトを持っているエピソードだとは言い難く、未映像化も至極当然かなと、他のどのエピソードよりもうなずけてしまう哀しみを持った作品なのでありました。
 一見、『刑事コロンボ』のドラマ上の特徴をしっかりくみ取った構成のような雰囲気もあるのですが、どっちかというとコロンボ警部の日常やディティールを描写するのに時間を割いていて、肝心の事件や犯人まわりの色彩がやけに淡いというか、弱いんですよね。味が薄すぎる……コロンボの大好物はチリコンカンなんでしょ!? こんな病院食みたいなスッカスカの料理、ワン公も後ろ足で蹴り飛ばすわ!

 ましてや、犯人の職業の身の程知らずっぷりよ。『パイル D-3の壁』先輩に廊下で会ったら、どうするつもりなの!?


≪まとめ≫
 いや~!! 『刑事コロンボ』って、ホンッッッットォウオに!! いい~いもんですねェエエ!!

 ……ネタがないわけじゃなくて、ほんとにどこをどう行って、どこでどうあがいても、『刑事コロンボ』という一大遊園地で遊んだ結論は、必ずかくのごとしになっちゃうんですよね。おもしろい。ただそれだけ!

最後に、ごく私的な未映像化八部衆のランキングをつけておしまいにしましょうかね。なんの参考にもならないよ~!!


第1位 File.4『13秒の罠』
第2位 File.2『人形の密室』
~~映像化してほしい願望という壁~~
第3位 File.7『歌う死体』
第4位 File.1『殺人依頼』
第5位 File.6『血文字の罠』
第6位 File.3『クエンティン・リーの遺言』
第7位 File.5『サーカス殺人事件』
第8位 File.8『硝子の塔』


 厳しいですか? いや、でも実際こんな感じなんです。くれぐれも誤解の無いようにしていただきたいのは、8作品すべて、「読み物」としては充分に面白いということです。問題は、映像化したところで群雄割拠の『刑事コロンボ』シリーズの枠内で他に負けない存在感を放てるかということなんですよね……生まれないには、生まれなかっただけの理由があったのだということで。南無阿弥陀仏。

 『刑事コロンボ』、また観たいな~!!
 それじゃあまた、ご一緒にたのしみましょ~。
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こんなんでいいじゃん!レトロ感たっぷりのひらきなおりエンタメ ~『黒蜥蜴』2024エディション資料&メモ~

2024年10月15日 22時18分33秒 | ミステリーまわり
 え~、どもども! そうだいでございます。いよいよ秋めいてきましたね~。

 あのですね~、先日ついに、我が『長岡京エイリアン』でもこの秋注目大本命と目していた『黒蜥蜴』2024エディションが堂々放送されたわけなのでございますが……

 すんません、録画した作品を本腰すえてチェックするまでに、え~らい時間かかっちゃった!
 いやあの、今年に限った話でもないのですが、秋はいろいろ忙しいのよ! その上、週末は必ず映画館に行ってる感じでなんかしらの新作品を観てるし、『黒蜥蜴』の感想をぐだぐだ言ってる余裕はなかったんですよね……

 でもまぁ、だからと言って記事にもせずにスルーするなんていう選択肢などあるわけもないですし、しかも今回の2024エディションは、あの白本彩奈さんがヒロイン枠で出演しているということですので、だいぶ放送から遅れてはしまいましたが、覚悟を決めて感想を述べる記事を作らせていただきたいと思います! ま、遅れたって誰も待ってないから問題ないだろうし☆


ドラマ『江戸川乱歩原作 名探偵・明智小五郎 黒蜥蜴』(2024年9月29日放送 92分 BS-TBS)
 『江戸川乱歩原作 名探偵・明智小五郎 黒蜥蜴』は、『黒蜥蜴』の11度目の映像化作品(三島由紀夫による戯曲版の映像化も含める)。
 本作は、昭和四十年(1965年)頃の雰囲気と現代を織り交ぜた架空の時代を舞台に設定している。

 『黒蜥蜴(くろとかげ)』は、江戸川乱歩の長編探偵小説。「明智小五郎シリーズ」の第7長編で、1934年1月~12月に連載された。
 本作、もしくは本作を原作とする三島由紀夫による戯曲(1961年発表)を原作として、これまで映画2本・TVドラマ9本(2024年版を含む)・ラジオドラマ2本が制作された。なお、コミカライズも4回されている(舞台化作品に関しては、多すぎてカウントできず)。


あらすじ
 大富豪で宝石商の岩瀬庄兵衛のもとに、一人娘・早苗の誘拐と、大宝玉「エジプトの星」の強奪をほのめかす予告状が届き、岩瀬は名探偵・明智小五郎に警護を依頼する。明智は、部下である小林芳雄と木内文代と、警視庁捜査一課の浪越警部と共に警備にあたるが、混乱のなか早苗が誘拐されてしまう。
 明智は、岩瀬宝飾店の常連客でもある緑川夫人が犯人の女賊・黒蜥蜴であると確信し追い詰めていくが、互いに心の内を探るうちに二人は惹かれあっていく……

おもなキャスティング
21代目・女賊黒蜥蜴 …… 黒木 瞳(63歳)
84代目・明智小五郎 …… 船越 英一郎(64歳)
42代目・小林芳雄  …… 樋口 幸平(23歳)
19代目・浪越警部  …… 池田 鉄洋(53歳)
14代目・木内文代  …… 唯月 ふうか(28歳)
岩瀬 早苗     …… 白本 彩奈(22歳)
岩瀬 庄兵衛    …… 大河内 浩(68歳)
雨宮 潤一     …… 古屋 呂敏(34歳)
松吉        …… 諏訪 太朗(70歳)
黒蜥蜴の手下(年長)…… 渡辺 隆二郎(56歳)
黒蜥蜴の手下(調理)…… 五明 紀之(52歳)
黒蜥蜴の手下(新人)…… 工藤 秀洋(48歳)
浪越警部の部下   …… 川手 祥太(33歳)
岩瀬家の家政婦   …… 小柳 友貴美(66歳)
遊覧船乗り場の受付 …… 山野 海(59歳)
美青年の剥製    …… 志生(じお 32歳)
※浪越警部は原作小説における「波越警部」、木内文代は原作小説における「明智文代」としてカウントしています。

おもなスタッフ
演出 …… 本田 隆一(50歳)
脚本 …… 入江 信吾(48歳)
制作 …… ホリプロ


 と、まぁそう思いまして、ついにリビングでハリボーグミをかじりながら本作を観てみましたのですが、視聴中に気になったポイントをちょいちょいメモしていきましたらば、なんと以下のように即時的なつぶやきだけでけっこうな文量になってしまいましたので、全体を見通した上での感想文は、また次回にちゃちゃっとまとめようかと思います。長くなって申し訳ない!って、いつものことですか。

 いや、この作品はテイストから言いましても、そんなに長く引っ張ってくどくど申し立てるようなものでもないと思うんですけど……頭をからっぽにして楽しんで、面白ければそれでいいじゃないかという娯楽作ですよね。


≪毎度おなじみ視聴メモでございやす≫
・冒頭から、小林少年との息の合った連係プレイで、なんか死体の上にバラの花びらを散らばす連続殺人犯の逮捕に貢献する明智探偵。定番の滑り出しだが、渋い黒コートに身を固めた船越さんと、ひょろっとしてどことなく頼りない幼さのある樋口くんとの対比がなかなか面白い。がんばれ、ドンモモタロウ!
・事件解決後、探偵事務所のある建物の中でタモさんか古畑任三郎のように視聴者に直接語りかけてくる明智探偵。これはおそらく、あのレジェンド天知小五郎の「あけましておめでとうございます、明智小五郎です。」(『天国と地獄の美女』より)を意識した演出かと思われるのだが、「善悪」と「美醜」を別の問題としてとらえているという視点が、けっこう明智っぽくて興味深い。顔は船越さんなんだけどね……
・宝石商の岩瀬庄兵衛が読む犯行予告状の、「黒蜥蜴」という署名と紋章が画面に映るときに、今どきギャグアニメでも聴かないような中華ドラの「ぼわ~ん!!」という効果音が鳴り響くのが、視聴者の不安感をいやがおうにも高ぶらせてくれる。真剣に演じている大河内さんと白本さんの立場が……
・タイトルロールの前に、ステンドグラスから光の射しこむ教会の礼拝堂のような場所で、金銀財宝や動物の剥製、いかにもな球体関節人形たちに囲まれ、原作通りの「美青年の剥製」を見上げて恍惚とした笑みを浮かべる女賊・黒蜥蜴がさっそく登場! さすが、演じる黒木さんは還暦を超えているとは思えない美貌なのだが、同時に自分の愛するものに夢中になる幼さも持っている、ちょっと脇の甘そうな黒蜥蜴である。
・軽快なジャズのリズムに乗って始まる本作のタイトルロールなのだが、眼帯をしてナイフを持つ諏訪太朗さんがクレジットされた時点で、「あぁ、そういうドラマなのね。」と腹をくくらせてくれる親切設計なのがうれしい。肩の力ぬいて観ようか!
・本作のタイトルの字体が、ハサミで切り取ったようなおどろおどろしい形になっているのが、明らかに天知小五郎の「美女シリーズ」を意識しているようで面白い。調べてみたら、1962年の京マチ子版も、68年の丸山明宏版もタイトルの字体は違うんですよね。どれも違ってどれもいい!
・タイトルロールの終わった瞬間に見えるのが、「東洋のモナコ」こと静岡県熱海市に実在するホテル・ニューアカオなのが素晴らしい。タイアップロケ全盛の TVサスペンスドラマへのハンパないリスペクトがあふれてるぞ! でも……「昭和四十年頃の雰囲気と現代を織り交ぜた架空の時代」っていうか、もろリアルタイムの今なんじゃないの? ニューアカオは昭和四十八(1973)年開業なので四十年ごろにはないし……
・なんで庄兵衛の大事な仕事の商談に娘の早苗がいるんだ……と思ってたら、宝石を着けるモデルとして連れてきてんのか! 単なる親バカではなく、モデル社員を雇わずに家族で代用している庄兵衛のケチ臭い商魂が垣間見える。ま、そんなに美女だったら使いたくもなるでようけどね。
・細かいことを言うようで申し訳ないのだが、黒蜥蜴こと「緑川」夫人が紫色の着物を着ていて、対する早苗が「緑色」のワンピースを着ているという構図がなんだか非常に気になる。いや、別に意味はない偶然なのだろうが、せっかくどっちもステキな衣装なのだから、役の名前にも配慮した配色にしてほしいのですが……
・早い段階で明智探偵と対面する緑川夫人なのだが、本作では船越さんが意外と長身(181cm )だし、居合わせている大河内さん(178cm )と白本さん(170cm )よりも小柄な黒木さん(163cm )のこぢんまり感がチャーミングな方にはたらいている。この時点で出す必要はないのでいいのだが、大犯罪者らしいすごみが全然ないんですよね。ま、仮の姿なんだからまだいいけど。
・まともなセリフなど一言も発していないのだが、父親である庄兵衛にいいようにこき使われて「私(庄兵衛)の命の次に大事なもの」の座も大宝玉「エジプトの星」に奪われてしまっている早苗を演じる、白本さんの表情のかげりの演技がさすがである。いや~、今作でも嘆きの「ハ」の字まゆがいい味だしてるねぇ!! 22歳のみそらででっかい水玉のリボンをつけても許されるのは、白本さん級の美女の特権ですな!
・庄兵衛を囲む食後のコーヒーの席で、なにげなく出したアレキサンドライト「白夜の森」の話をエサに見事に緑川夫人にかまをかける明智探偵! この小ズルいやり口が実に明智らしい。こいつ、出会った瞬間に犯人の目星をつけやがったな!
・白本さんが美人であることには異議の申し立てようもないのだが、やはり物語の流れ上、黒蜥蜴にとりこにされる令嬢が黒蜥蜴よりも大柄というのは、ちと不思議な感じもする。黒木さんもそんなに小さいわけでもないはずなんですけどね……
・これは本作の内容自体からは切り離すべき話なのだが、本放送時にひっきりなしに流れる石破内閣の組閣人事のニュース速報と、CM でバンバン流れる船越さんと黒木さんが共演する本作向け特別仕様の「にしたんクリニック」コマーシャルがものすんごく気にさわる。まぁ、にしたんさんは「このドラマはこういう楽しみ方をしてください」というガイドなので甘受するしかないのだが……TV ドラマって、こういう雑味が入るもんなのよねぇ。のちにソフト商品で観るのとは全然違う印象になりますね。
・犯行予告時刻までサシで酒を飲む明智探偵と緑川夫人との会話が、いかにも同世代の名優同士の演技合戦という感じで魅せるものがある。距離感ちかいな~!
・「人間の闇です……僕は、その闇を暴くことに、たまらない愉悦を感じるんですよ。」という明智探偵のアブない告白に、「はぁ……」と眉をひそめて本気でドン引きする緑川夫人。いや~、本作の黒蜥蜴はほんとに等身大というか、かわいらしいですね。乱歩キャラらしくないな~。
・「僕に言わせれば、黒蜥蜴のやっていることなど、もう滑稽でしかない。どんなに美しいものを集めても、どんなに美しいものに囲まれても……人間本来のドス黒さは薄まりません。そうでしょう?」と、緑川夫人をあおりにあおりまくる明智探偵! う~む、今回の明智小五郎は、見た目は完全に船越さんなんだけど、中身はかなり仕上がってるぞ。いいね!
・寝ているはずの早苗がクッションとマネキン人形の首にすり替えられているというのも、天知小五郎シリーズへのオマージュだと思われる。ベタだな~! でも、そこがいい。でも、エジプトの星を守る庄兵衛はしょうがないとしても、犯罪者の一団が襲撃してくるかもしれない部屋で早苗がグースカ寝ているというのは、どんなもんなのだろうか。余裕ありすぎじゃありませんこと?
・黒蜥蜴のさしがねで早苗を誘拐しようとする雨宮をなんとか阻止する小林と文代の助手コンビだが、本作ではちょっとまぬけな小林と気丈で格闘術にも長けた文代という感じにキャラ分けがはっきりしているのが面白い。小林の方は天知小五郎シリーズでもコメディ要員な感じだったので伝統なのだが、文代がパワー系になっているのは、いかにも令和っぽいアレンジである。
・早苗に変装する黒蜥蜴の描写が精密な CG処理になっているのも令和っぽいのだが、だとすると、明智探偵は黒蜥蜴の変装を見抜けなかったということになってしまう。まぁ、あえて泳がせていたと言われればそこまでなのだが……あと、明智の前に現れた時に早苗(に変装した黒蜥蜴)がエロいバスローブを着ていたのも、紳士たる明智にガン見させず目をそらさせるための作戦だったのかもしれない。やるな黒蜥蜴! 男心をよくわかっとる。
・サスペンスドラマあるあるだと思うのだが、女優さんが男装すると体型がめちゃくちゃ貧相に見えることが多く、今回も黒木さんが扮する老紳士が枝みたいな手足の細さで思わず心配になってしまう。女優さんって大変なんだな!
・黒蜥蜴一味による岩瀬早苗誘拐未遂事件から一夜明けた、明智探偵事務所での明智・小林・文代の天知小五郎シリーズいらい伝統のダベりシーンなのだが、事務所の入っているビルの外観が、まんま東京都中央区日本橋茅場町にある実在の「第2井上ビル」である。このビルは関東大震災からの帝都復興計画の最中、昭和二(1927)年に建設されたコンクリート建築で、非常に貴重な歴史的建造物なのである。いかにも明智探偵事務所がありそうなビルでけっこうなのだが、「架空の時代」とかいう設定はどこへ……?
・黒蜥蜴の異常なまでの美術品収集への執着に興味を深めた明智は、小林助手に過去の黒蜥蜴の被害に遭った強奪品のリストアップを命じる。ここらへんから、明智が原作小説とは全く違うアプローチで黒蜥蜴の正体に迫ろうとする本作オリジナルの展開が始まってきて面白い。緑川夫人が来ていた和服の帯の産地(群馬の桐生織)から、黒蜥蜴のルーツを探ろうとするとは……いかにも、日本全国を駆け巡る旅情サスペンスドラマでキャリアを積んできた船越さんらしい捜査法である。やっるぅ!
・明智のいじわるなディスり発言が確実にボディにきいてきて、ついには自分のこしらえた美青年の剥製が動き出してののしってくるという幻覚にすら悩まされる黒蜥蜴。メンタル弱すぎでしょ!
・いや~、諏訪太朗さんが出てくるとほんとに安心するなぁ。しかも今回は、せむしでびっこをひいて顔半分はやけどで眼帯という、そうとうにデンジャラスなよくばりスタイルだ! バカバカしいな~、だが、そこがイイ!!
・人前では平静な様子を装っているが、明らかに常軌を逸した執念で明智への復讐計画を練る黒蜥蜴に、今までの彼女らしからぬ乱心を感じ取って浮かない顔をする松吉。ここらへんから、松吉が他の雨宮などの手下たちとは全く違う、黒蜥蜴にもっと親密な関係にある人物であることが垣間見えてくる。こういったあたりをセリフでなく諏訪太朗さんの無言の表情で暗示してくる演出が非常に素晴らしい。諏訪さんのポテンシャルをわかってる采配だね~!
・本作は船越&樋口ペアが初めてタッグを組む作品なので仕方がないのかも知れないが、明智と小林の会話がやや堅く、若干パワハラ気味のきつい口調で明智が小林に接しているのが気になる。ここはもうちょとコミカルな感じでもいいと思うのだが……少なくとも今作では、原作小説でただよってくるような倒錯気味なただれた関係なぞ微塵も感じられない、極めてドライな上司と部下の関係である。小林君、辞めないといいんだけど……
・黒蜥蜴に誘拐されかけたあたりから早苗を演じる白本さんの演技が徐々にオーバーになってきて、父・庄兵衛への屈折した感情もあいまって楳図かずおのマンガみたいな顔になっておびえるのが大げさすぎて面白い。白本さんも、わかってんね! それにしても、早苗(22歳)はでっかいリボン好きだな~!!
・ピアノを演奏するタッチが違うことに気づき、早苗の得意だったテニスの話題をエサに黒蜥蜴の変装を見破る明智。いやいや黒蜥蜴さん、また明智の口車に乗って正体ばれちゃってるよ……バカなの? それにしても早苗さん、もしかして通ってた中学校は「ゆめの風中学校」で、そこのテニス部で「お蝶夫人」とか呼ばれてブイブイ言わしてたときに、遠藤憲一さん率いる邪魔邪魔団の魔手に堕ちて怪人になってませんでした? あれからもう6年が経つのか……人に歴史あり!
・二度目の挑戦にしてついに早苗誘拐に成功した黒蜥蜴が、エジプトの星との交換に選んだ場所は、作中では「あおば湖西公園」と指定されているのだが、景観はまんま、神奈川県相模原市の相模湖である。熱海に相模湖と、本作はロケーションもなかなかレトロですばらしい。このこぢんまり感、あぁサスペンスドラマだな~って感じですね。
・唐突に挿入される、謎の少女が児童養護施設の前で同年代の子ども達に「トカゲ!トカゲ!」と呼ばれ忌み嫌われるセピア色の記憶。本作で最も独自力の強い「黒蜥蜴の過去」を象徴するシーンなのだが、少女を罵倒する3人の昭和っぽい恰好をした子ども達のうち、2人目のセーラーの冬服を着た女の子のはやし方が、両手を片方ずつテンポよく「 Yo!Yo!」みたいに突き出して指さすスタイルなので、戦後間もない日本の子どもにしておくには惜しすぎるリズム感覚の持ち主である。生まれるのが年号1、2コぶん早い!!
・ちなみに、現実世界の日本で保護者のいない子どもを主に擁護する施設に「児童養護施設」という名称が使われるようになったのは1998年の改正児童福祉法の施行からであり、それまでは戦前は「孤児院」、戦後は「養護施設」という名称が一般的であった。でもま、架空の時代なんだから、いっか。
・『黒蜥蜴』の映像化作品のご多分に漏れず、紫の着物、どピンクのワンピース、全身黄色コーデのセットアップ、純白のネグリジェと華麗な衣装の七変化を見せてくれる黒木蜥蜴なのだが、明智をとっつかまえたと勝ち誇るアジトでの気合の入った衣装がヒョウ柄のコート風シースルーワンピースなのは、トカゲとしてさていかがなものか。それともこれは、登場する連続殺人鬼の名前が「青蜥蜴」なのに作品のタイトルが思いッきり『夜の黒豹』になっている横溝正史先生へのオマージュなのか? 乱歩なのに!? いや、ここは私としては、船越小五郎シリーズの第2弾が、今まで一度も映像化されたことのない(舞台化はあるけど)、乱歩作品でもとびっきり不遇なあの異色すぎる長編になるゾという隠し予告メッセージであるという説を採りたい! 期待してますぞ!! 文代さん大活躍!!
・「人間ソファ」の中から聞こえる明智の声に勝利を確信し、ソファの上でキャハキャハいってはねたり、恍惚とした表情でソファにしなだれかかり「ねぇ、今どんな気分~?」と問いかけて悦に入る黒木蜥蜴還暦オーバー! この様子を早苗がどんな表情で観ていたのかが非常に気になる。なにやってんだ、こいつ……
・原作通りの展開で、ソファは黒蜥蜴団の手により海へと投棄される。でもシチュエーションが原作とは違うので、ピーカンの陽気の中でおだやかな波間にソファがぷかぷか浮かんでいる画がマヌケである。いや、そりゃ中に人がいたらほっときゃ死ぬんだろうけどさ、投げる前後にとどめとか刺さないの? 相手は明智だよ!? 優しいんだがずぼらなんだか……
・ソファを海に捨てた黒蜥蜴は、自分の心を見透かした唯一の男である明智を失った絶望感から自室で落涙する。そんな彼女に寄り添う松吉は優しくハンカチを渡すのだったが、そのとき屋敷中に鳴り響く非常ベルの音が。このシーンで、気を取り直して自室を出る黒蜥蜴の後に付き従う松吉が、一瞬背筋をぴんと伸ばして立ち上がりかけてから思い出したようにいつものせむしに戻る。ここの細かい仕草、遊び心がたっぷりでいいですね~! 原作を読んだことのある人だったらニヤリとする演出。いいぞ、諏訪太朗さん!
・本作の黒蜥蜴一味の構成は、黒蜥蜴、松吉、雨宮、手下3名(年長、新入り、料理番)の全6名のようである。あくまで黒蜥蜴のアジトに同居している人間の人数ではあるのだが、屋敷のデカさに対してかなり少ない違和感は残る。
・非常ベルを鳴らした犯人を捜して屋敷中を探し回る一味の中で、なぜかひとり早苗を開放して連れ出そうとする松吉。その正体は……? という展開が、まさしく天知小五郎シリーズの衣鉢を継ぐ本作の真骨頂といった感じなのだが、船越さんがつなぎを脱いで黒ずくめのスーツ姿に戻るとき、ちょっとだけ、つなぎが足元にまとわりついて時間がかかっているのが初々しい。まだまだだな~!
・あと、天知小五郎シリーズのテイストの復活を狙っているのならば、やはり「明智死亡!?」のくだりが、車の一台も爆発せずに悲しむ人間が出る暇もない忙しさでかなり淡白なのが、だいぶ物足りない。でも、「美女シリーズ」だって最初っからそういうパターンが定着していたわけでもないですからね。なんにしろ船越小五郎の第1作なんですから、寛大な心で楽しみましょう!
・ヅラだ! 諏訪太朗さんが回想シーンでヅラかぶってるぞ!! 加点6億点!!
・黒蜥蜴の美術品強盗の真の犯行目的は、黒蜥蜴の過去の秘密とともに本作オリジナルの新解釈なのだが、だとするのならば、礼拝堂の柱にこれ見よがしに貼り付けられていたちっちゃめのワニの剥製も、盗まれて心から悲しむ持ち主がいたのだろうか……いや、いても全然いいんだけどさ、もっと他になんかないの、命の次に大切な物がさ!?
・黒蜥蜴がふとももに隠し持っていたシルバーの上下二連装式小型拳銃は、あの峰不二子の愛銃のひとつとしても有名なレミントン・デリンジャーであると思われる。ベタだけど、そこはやっぱりデリンジャーですよね~。
・「すいません、抜いておきました……」も、明智小五郎を語る上で絶対にはずしてはならない特技中の特技である。ちゃんと映像化してますね、いいぞ~!
・クライマックスの大乱闘において、格闘能力のランクが明智・文代>雨宮>小林とはっきりしているのが面白い。文代さん強いな!
・エンドロール中の小林と文代との会話で、明智と小林は小林が少年だった頃からの付き合いであるが文代はその時期を知らないらしいということがわかる。少なくとも今回の黒蜥蜴事件ではほぼ手柄のない小林だったが、有能な文代よりも長く明智と組んでいる理由があるようだ……そこらへんは、是非とも第2作で明らかにしていただきたい! BS-TBS さま、なにとぞよろしくお願い致します!!
・ラストで明智が黒蜥蜴の幻影(?)とすれ違うのは、国重要文化財としても有名な神奈川県庁本庁舎の前である。昭和三(1928)年完成の、非常に画になる歴史的建造物なのだが、お役所の前で堂々と撮影できるなんて、やっぱ横浜はハイカラだずねぇ~。


 細かいメモはこんな感じで。それでは、まとめはまた次回に!
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超ニッチ企画!! 『刑事コロンボ』幻の未映像化事件簿をよむ ~だいぶ遅れた読書感想文その2~

2024年09月24日 22時45分35秒 | ミステリーまわり
『刑事コロンボ』オリジナル小説作品の事件簿!! 各事件をくわしく解析
 ※TVドラマシリーズ『刑事コロンボ』の概要は、こちら
 ※未映像化事件簿の「 File.1、2」は、こちら!

File.3、『クエンティン・リーの遺言』( Shooting Script)ジョゼフ=P=ギリスとブライアン=デ・パルマの共作 訳・大倉崇裕 2004年12月~06年12月
 ≪犯人の職業≫    …… 犯罪心理研究家(映像マニア)
 ≪被害者の職業≫   …… TV番組司会者、一人芝居俳優
 ≪犯行トリックの種類≫…… 動機なき無作為殺人
・アメリカ本国で1973年7月(第2シーズンの放送終了後)に、第3シーズン用として執筆された没シナリオの小説化作品。日本における『刑事コロンボ』シリーズ研究の第一人者である町田暁雄が編集した同人誌『 COLUMBO!COLUMBO!』の Vol.1~3にて連載された。
・シナリオ版では、コロンボをサポートするオリジナルキャラクターとして、メカ小僧のスピルバーグ君ら3人の大学生が登場するが、小説化に当たって日本人映画監督キタカワイッペイに差し替えられている。
・映像版に登場したキャラクターとしては、コロンボの部下のジョージ=クレイマー刑事とシオドア=アルビンスキー刑事(通称マック)、「バーニーの店」のバートが登場する。

あらすじ
 犯罪心理の研究家であり、常にビデオカメラを手放さない映像マニアのクエンティン=リーは、自身の完全犯罪の一部始終を録画して、自分の死後にドキュメンタリー作品として発表しようと計画した。そのために、自分の住むマンションに数多く暮らす「無益な有名人」のリストを壁に貼り、ダーツで決めた被害者をビデオカメラで撮影しながら殺害する! 事件解決に協力する映画監督くずれの日本人青年とともに、コロンボはこのあまりにも異常な犯罪を打ち砕くことができるのか!?


 私が今回の企画で読んだ、『刑事コロンボ』の未映像化作品8作のうち、唯一、一般書店で流通していた書籍でなく同人誌内での連載という形で小説化されたエピソードとなります。ただし、訳者はプロのミステリ小説家で二見書房文庫の『刑事コロンボ』ノベライズシリーズでも2作担当されている方なので、単行本化していないというだけの違いで内容のクオリティは他のエピソードと遜色ないものであると思います。だって、同人誌の責任編集者が、あの町田暁雄先生なんだもの! わざわざ町田先生に連絡して同人誌を注文購入するだけの価値は十二分にありまっせ。

 非常に不勉強なことに、私はミステリ作家としての大倉崇裕先生の作品をまともに読んだことはなくて、今回の本作と、アニゴジ2作のノベライズでしか存じ上げないんですよね……もうね、ここ20年くらいは新しいミステリ作家さんの作品を開拓してない感じなのです、申し訳ない!
 ただ、本作に大倉先生オリジナルで追加、というかシナリオの「スピルバーグ君」たちと交代で登場することとなった日本人監督「キタカワイッペイ」というキャラクターに関しては、ゴジラシリーズのノベライズを手がけた大倉先生としては許すことのできない実在の人物がいそうなことを予想せずにはいられません。ま、あの人のことだろうな……最近は『シン・ゴジラ』や『ゴジラ -1.0』の大ヒットでシリーズにも余裕が出てきたので、その人が手がけた作品も「いい思い出」みたいな感じになってきてますが、当時は私も「ゴジラシリーズの乗っ取りだ!」と憤慨したものでした。にしても、作中で彼にここまで落ちぶれた生活を強いているのは、大倉先生のそうとうな恨みを感じますね……フィクションだけど!

 さて肝心の内容についてなのですが、本作は何と言っても、かの『スカーフェイス』(1983年)や『アンタッチャブル』(1987年)などで有名な映画監督のブライアン=デ・パルマが脚本を手がけた作品であり、しかもゲスト主人公となる犯罪心理研究家のクエンティン=リーが、「ビデオテープで録画しながら殺人を犯す」という、かなりサイコで倒錯したエピソードとなっております。
 確かにそういう目立つポイントだけを見てみると、同人誌の中で町田先生も解説しているように、執筆された1970年代前半の価値観から「恨みも何もない相手を興味本位で殺す」という点が過激だったがために映像化が見送られたという経緯もあるかも知れません。

 ただ、この作品、今回大倉先生による訳を読んでみて率直に私が感じたのは、単に「他の候補シナリオに比べてパッとしないから」映像化しなかっただけなのでは……? という印象なんですよね。この点、実は大倉先生も小説化にあたってもっと面白くアレンジしようかということも考えられたらしいのですが、これはあくまでもデ・パルマのシナリオを翻訳する仕事なので、極力手を加えずに小説化したと語っておられています。例のキタカワイッペイ青年の登場も、元のスピルバーグ君達の活躍を小説という文章の世界で表現しても面白くなりそうにないという判断からだったとのことです。つまり、デ・パルマのシナリオはやはり映画監督の作品らしく、ハンディカメラを構えながら人殺しをする犯人とか、クライマックスで犯人の目を盗んで「罠」をしかけるコロンボ達のサスペンスとかいう「映像映え」に特化した作品だったということなのです。

 なので、本作は正直、ミステリ作品としてはかなりスカスカな内容になっていると言わざるを得ず、その割にゲスト犯人のリーは冒頭で「自分が死後にバラすまで絶対に解明されない完全犯罪をやってのけるゼ!」と傲岸不遜きわまりないハードル上げをブチあげてしまうので、「お前あんなこと言っといて、結果そのザマかよ~!!」とツッコまざるを得ない醜態をさらしてしまうのです。
 このリーは、ミステリ作品なので具体的には言えないのですが、まず肝心カナメの殺人の決行後に、自分の録画したビデオ内に映っていた「あるもの」を見てとんでもない勘違いをやらかし、それを隠蔽しようとして、やる意味の全く無い第2の殺人を犯してしまうのです。当然、その辺の行きあたりばったりな犯行からコロンボもリーを怪しむわけなのですが、コロンボもコロンボで捜査にはイマイチ精彩を欠き、最終的にリーを追い詰める最後の一手は「リー自身が慌てて決定的な証拠を持ち出す瞬間を押さえるために罠をかける」という定番のやつなので、はっきり言って疑わしい人物の家に火を放つのと同じくらい原始的な作戦で強引に犯人検挙をもぎ取るのでした。犯人がリーだったから良かったようなものの……

 いやほんと、今作のリーは口ばっかり達者なのに実際にやってみようとしたとたんに足元がガタガタ震え出して、疑心暗鬼からいらぬ失敗を呼び込むような典型的な犯罪チェリーボーイくんで、第一、上で言ったリーが誤認した「あるもの」というのも、そこにいくまでにリーは2回はそれを見ているはずだし(被害者が手渡される時と、部屋で放り投げる時)、それ自体A4 サイズに拡大されているものだそうなので、いくらなんでもそれを「生きている人間」のように勘違いしてしまうというのは、視覚認知機能に異常な欠陥のある人間でなければ犯さないミスなのではないでしょうか。でも、リーはビデオカメラを手放せない映像マニアなんでしょ? その彼がこんなミスをやらかすとは思えないんだよなぁ。
 この「あるもの」の要素を読んだ瞬間、私はミステリ映画の世界ではかなり有名なある作品(続編でも何でもないのになぜか日本では『 PART2』呼ばわりされてるやつ!)のメイントリックを連想してしまったのですが、あれもあれで「いや、そうはならんやろ……」と感じてしまうものではあるものの、デ・パルマの本作の方が数段ありえない誤認だし、そもそもそれをサスペンスフルに映像化するのはほぼ不可能だと思います。まともに映像化したら視聴者に笑われたんじゃなかろうか……

 もう一つ、リーは「無差別にダーツで選んだ人間を殺す」という、所さんもビックリの無差別殺人という悪魔の所業を犯して……いるようでありながらも、まずダーツの標的がリーの住むマンションの同居人というアホみたいに近い生活範囲内の人選ですし、選んだ実際の被害者もリーにかなり面識のある人物だったので、「無差別」というのは看板に偽りありで、コロンボにとってイージーな問題になってしまったと思います。

 そもそも、本作最大の「ビデオ撮影する殺人者」というのも、そのまんま「殺人者がビデオで撮影している」という事実以上なんのミステリ的な面白みにもつながっていないので、ここのビデオが「カセット録音」であっても「犯人しか知り得ない情報を記した日記」であっても全然互換可能なのが残念で仕方ありません。ただ目新しいからビデオになったってだけにしか見えないというか。その実、内容はかなり古臭いんですよね。
 せめて、ここのビデオという要素にもうちょっと工夫を足して、「たまたま撮影していたビデオの中に人死にが映り込んじゃった」みたいなていで実は撮影者が計画的に殺人を犯していた、みたいな感じになっていたら、音声や文章では代えられない独自のサスペンスを生んでいたような気もするのですが……これはこれで、松本清張の有名な短編作品を思い起こさせますね。でも、本作よりは面白そうでしょ?

 いずれにせよ、この『クエンティン・リーの遺言』は、「あのデ・パルマ監督が演出したかもしれない幻のエピソード」ということで過剰に伝説化しているきらいがあるのですが、映像化されなかっただけの十分な理由はある凡庸きわまりない作品だと思います。ただ、この「凡庸」というのは、あくまでも異常にレベルの高いエピソードが目白押しの『刑事コロンボ』シリーズの中ではという話であって、この作品が没になってしまうほど1970年代のシナリオ群はとんでもなかったんだなぁと、1990年代以降の『新・刑事コロンボ』を見て育った私なぞは驚愕してしまうのでした。

 映像化しても、評価は低めなエピソードになってたんだろうなぁ。同人誌の解説の中で訳した大倉先生は、もしこの作品が映像化されたら犯人のリー役は1970年代ならピーター=クッシング、1980~90年代ならばジェレミー=ブレットに演じてほしかった、なんて語っておられているですが、いやいや、それは作品の過大評価にも程があるんじゃないかなぁ……こんな、ハンニバル=レクター博士の足元にも及ばない、もしも「シリアルキラー甲子園」があったとしても地方予選一回戦コールド負けレベルのまぬけを、かのレジェンドホームズ名優サマがたに演じてほしくはないですよね。身の程を知りなさいって話ですよ。

 ともあれ、このエピソードの全貌をうかがい知る貴重なチャンスを与えてくださった、町田先生の同人誌『 COLUMBO!COLUMBO!』に大感謝!! ありがとうございました。


File.4、『13秒の罠』( The Dean's Death)アルフレッド=ローレンス 訳・三谷茉沙夫 1988年4月25日刊
 ≪犯人の職業≫    …… 大学の総長(シャーロッキアン)
 ≪被害者の職業≫   …… 大学の学部長(大学演劇部の顧問)
 ≪犯行トリックの種類≫…… テープレコーダーを使ったアリバイ工作
・アメリカ本国で1975年(第4・5シーズンの放送時期)に出版されたオリジナル小説の翻訳。
・のちの映像版第56話『殺人講義』(1990年12月放送 第10シーズン)と同様の展開がある。
・映像版第11話『悪の温室』(1972年10月放送 第2シーズン)と第36話『魔術師の幻想』(1976年2月放送 第5シーズン)に登場したコロンボ警部の部下フレデリック=ウィルソン刑事が三たび登場する。ただし、名前が「ジョン=J=ウィルソン」となっている。
・映像版に登場したキャラクターとしては、ウィルソン刑事の他にコロンボの飼い犬ワン公、獣医のベンソン院長が登場する。特にワン公は、事件解決に重要な役割を担っている。
・コロンボの行きつけのチリ料理の美味しい店も登場するが、店主の名前は映像版のバートではなく「バーニー」となっている(映像版では第2・5話に登場)。
・本作が翻訳出版された時期は、日本で『刑事コロンボ』シリーズと『新・刑事コロンボ』シリーズとの放送の中間期で、新作の放送は途絶えていた。

あらすじ
 ロサンゼルス近郊にあるメリディス大学から、犯罪捜査に関する講演を依頼されたコロンボ警部は、大学の演劇部をめぐる奇怪な殺人事件に巻き込まれる。舞台公演に使う棺に隠されていた大学学部長の変死体。その惨殺劇を演出する策謀のシナリオの謎。捜査線上に浮かびあがった、緑色の服を着た男の正体とは?


 結論から先に言ってしまうのですが、私、このエピソードはこの企画で読んだ「未映像化八部衆」の中でも、特に面白いと感じた作品でした。

 これ以前に紹介したFile.1~3は、それぞれ「交換殺人」、「ビルまるごとの密室殺人」、「ビデオ撮影しながらの殺人」という、なかなか鮮烈な独自色のあるふれこみこそありはしたのですが、その内実はどれも完全にやり切れてはいない残念な出来のものが多く、せっかく魅力的な食材なのにおいしく調理する腕がなかったとしか言えない結果のものばかりでした。まぁ、映像化されないだけの理由は充分に推し測ることのできる作品が続いたわけです。

 それに比べて本作はどうなのかと言いますと、まず第一に目立つのは、TVドラマの形で提供されるエンタメ作品としての「オチ」がかなりしっかりしている点です。コロンボ警部が、犯人にぐうの音も出させない決定打をはなって事件を鮮やかに解決させるという終幕の切れ味が、それこそ名人落語のサゲなみにスパッと決まるんですよね。この気持ちよさは、映像化されたエピソードの名作群と比較しても、あの『溶ける糸』(第15話)や『だまされたコロンボ』(第51話)にすら匹敵するものがあると思います。いやほんと、言い過ぎではないと思う!
 しかも、その決定的なコロンボの論拠、言い換えれば犯人側の致命的なミスが、「カセットテープを使ったアリバイ工作」というトリックの性質に深く根差したものであるというところが、憎らしいくらいにうまいんですよね。つまり、「音声」という点では完璧に自身の不在を隠しおおせていたはずの犯人の策略が、「音声以外」の死角からの指摘でガラガラと崩壊するというカタルシス! これはいいですよね~。
 さらに言うと、コロンボにこの会心の一撃の天啓を与えたのが、TVシリーズ版において「限りなくレギュラーに近い準レギュラー」として腐れ縁みたいに登場していた「あいつ」なんですから、TVシリーズからの『刑事コロンボ』ファンに喜んでもらおうという配慮も行き届いた余裕を感じさせます。しかもなんとラストでは、長い TVシリーズを通しても全く明らかにされることのなかった、ある衝撃の事実が……!? まぁこちらは本作かぎりの特例サービスのようではありますが、ファンにとっては大満足の幕切れなのではないでしょうか。

 このように本作は、事件解決のスッキリ感が TVシリーズの傑作エピソード群レベルにしっかりしているところが特徴的なのですが、そこにいくまでの展開の中で、「自信家でいけすかない犯人」と「爪を隠して敵の隙をうかがうコロンボ」という典型的な対立構造もまたしっかり提示されているという点でも完成度が高いです。File.1、2のように訳者の作家性を反映させてキャラが立っているのではなく、あくまで TVシリーズの味わいに寄り添った形で犯人とコロンボそれぞれの造形が掘り下げられているのです。
 具体的にそこらへんのディティールを明確にしているのは、本作では「シャーロッキアン」というキーワードでして、犯人はアリバイ工作まで周到に計画して殺人を決行するのですが、そもそもの原因は、犯人が大学学長という社会的地位にありながら大学の学生と不倫関係におちいっていたことであって、それを学長選に際して公表される前に告発者を殺そうというんですから、最早つける薬がありません。最低最悪のクズですね。
 その彼が、ことあるごとにコロンボを小馬鹿にするだしに使うのがシャーロック=ホームズ・シリーズに関する話題で、会話のはしばしでドイルの作品に関する知識(ホームズの名言とか使っていたパイプの種類とか)を披歴しては、「あたしゃまともにホームズの小説なんて読んだことがないんで……」と口ごもるコロンボに、「刑事をやってるのに、そんなことも知らんのかね~?」とからんでくるところも、非常にイヤな犯人の人間性をあぶり出しているわけなのです。

 ところが、物語の終盤におよぶ段になって、コロンボはいきなり犯人が驚くようなホームズに関するマニアックな知識(『海軍条約事件』と『マザリンの宝石』に関するもの)を持ち出してきて自身の推理を展開し、どうやらそこまでのコロンボの態度は完全なフェイクで、犯人の心理的ゆるみを引き出すためのカマトト作戦だったということが明らかとなるのでした。スカッとジャパンか、これ!? でも、このコロンボの、犯人逮捕のためならなんぼでも無能なふりをするし、いくら馬鹿にされても痛くもかゆくもないという姿勢は、TVシリーズに非常に忠実な解像度の高さがありますよね。

 このように、本作はかなり映像化作品に肉薄するクオリティを持った傑作となっていると私は感じたのですが、それじゃどうして映像化されなかったのかと考えるに、まずもともとシナリオでなく小説の形で生まれたものだったということを抜きにしても、テープレコーダーのトリックの他に中盤で提示されていた「緑色の服を着た男」の謎が、ちょっと距離感のある感じになっていたのが問題だったのかな、という気がします。

 要するに、この作品は「コロンボの大学講演を利用して殺人を犯す学長」という部分の他に「大学の演劇サークルで発生した殺人」という側面も持っていて、後者にからんでくるのが緑色の服の男という、それはそれで魅力的な謎なわけなのですが、ちょっとこの2つが有機的に組み合わされているとは言い難い乖離を生んでいるんですよね。なんか、2つの物語を無理やりくっつけたような強引さがあるのです。
 せめて、犯人の学長が殺人の濡れ衣を演劇サークルの学生に着せようとする、みたいな策謀でもあったらさらに面白くなったような気はするのですが、残念ながら本作では犯人にそこまで見通す時間的余裕はなかったらしく、棚ぼた的にたまたま殺人現場に変なやつが来たから捜査が勝手に混乱してくれて助かった~、みたいな関係にしかなっていないのです。もったいないな~!

 あと上にもあげたように、後年に「大学に講演にやって来るコロンボ」という一番おいしい要素だけが『殺人講義』にかっぱらわれてしまった、ということが、本作の映像化を決定的に闇に葬ってしまったような気もします。あわれな……部分的につままないで『華麗なる罠』(第54話)みたいに責任もって全部映像化してくれよ~!! でも、どうせ大学を舞台に映像化するんだったら、犯人は学生そのものの方がインパクトもあって面白いですよね。不謹慎だけど。

 いや~、ちゃんと映像化された本作も観たかったなぁ! 非常に惜しい、不遇の一作でありました。


File.5、『サーカス殺人事件』( Roar of the Crowd)ハワード=バーク 訳・小鷹信光 2003年4月25日刊
 ≪犯人の職業≫    …… サーカスの綱渡り師
 ≪被害者の職業≫   …… サーカスの団長
 ≪犯行トリックの種類≫…… 電波通信による遠隔殺人
・1975年12月(第5シーズンの放送時期)に執筆された没シナリオの小説化作品。ただし、作中で「1967年」のサーカス団結成を「30年以上前のこと」と示唆しているセリフがあるため、物語の時代設定は日本語版刊行時の2000年代初頭に改変されていると思われる。
・映像版第11話『悪の温室』(1972年10月放送 第2シーズン)と第36話『魔術師の幻想』(1976年2月放送 第5シーズン)に登場したコロンボ警部の部下フレデリック=ウィルソン刑事が、『13秒の罠』に続いて登場する。ただし、名前が「ケイシー=ウィルソン」となっている。
・映像版に登場したキャラクターとしては、ウィルソン刑事の他にコロンボの飼い犬「ドッグ」が登場する。
・本作の冒頭で、コロンボは甥のマイク(10歳)とトム(8歳)を連れてガーニイ・サーカスの興行を観に行く。ただし、映像版のルールにのっとってマイクとトムは登場しない。
・本作が翻訳出版された時期は、映像化新作の放送は無かった(翌2004年に最終第69話が WOWWOWにて吹き替え放送された)。
・本作は、二見書房文庫から出版されたノヴェライズ版『刑事コロンボ』シリーズで最後に出版された作品となる。

あらすじ
 非番の日に、甥たちと連れ立ってサーカス見物に行ったコロンボ警部。その上演中、サーカスの団長がキャンピングカーの中で変死を遂げた。一座のスターである綱渡り師が密かに仕掛けた空中の殺人トリックとは? 猛獣使いとピエロの証言をもとに、コロンボは密室の謎に挑む。


 本作は1970年代に原型となるシナリオが執筆された作品なのですが、同様に小鷹信光さんが翻訳小説化した File.1、2と同様に、日本で出版された時期に時代設定が変更されています。そして何を隠そう本作は、長らく『刑事コロンボ』のノベライズを手がけてきた二見書房文庫からリリースされた最後のタイトルということになります。まぁ、アメリカ本国で最終第69話が放送された時期でもありますので、それに歩調を合わせた花道的な作品ということになりますでしょうか。
 そして、そういう事情も込みで読んでみますと、本作は全国巡業するサーカス団という、時代の移り変わりとともに衰微し消えゆこうとしている娯楽業界を舞台にしていることもあいまって、何とも言いようのない哀愁を漂わせた独特な作品となっているのです。またこれが、ピーター=フォークというジャストフィットすぎる肉体を得てしまったがために、彼の人生と共に終焉を迎える運命を選んでしまった TVドラマ『刑事コロンボ』シリーズと、なんとなくオーバーラップするような気がするんですよね。もちろん、フォークから離れた形で2010年代以降に新たなる『刑事コロンボ』を再スタートさせることも不可能ではないのでしょうが(小説という形での新作もしかり)……前にも言いましたが、少なくとも今現在の私は、フォークでない外見を持った刑事コロンボの活躍は想像がつきません。

 ただし、かといって本作の中でのコロンボが、ノベライズシリーズの最終作らしく何かしらの衰えを感じさせるような描写を見せているのかというと、決してそんなことはなく、いつも通りのコロンボと言いますか、むしろ TVシリーズ伝統のパターンで「物語にいっさいからんでこないコロンボの親戚」が登場したり、サーカス団のトラ4頭に囲まれてピンチに陥ったり、さらに終盤の謎解き場面では、なんと自ら身体を張ってピエロに変装して綱渡り用の高所に登ったりと、サービス満点の大活躍を見せてくれます。

 だいたいにして、「サーカス団興行の最中に発生する不可能犯罪」というテーマが非常に個性豊かなので、これもまた、どうして没になったのかがわからない魅力的な題材のようでもあるのですが、実際に読んでみると、このエピソードの場合はメイントリックに関して「荒唐無稽すぎる」というケチがついたのではないか、という予想が容易に立ちます。
 倒叙ものとは言えミステリ作品なので、ここでメイントリックに関して詳細を語ることは控えさせていただくのですが、本作のそれは、なんちゅうかその……機械トリックの種類に入るものなのですが、読んで真っ先に「そんなに、うまくいく!?」と疑問符がついてしまうものなのです。

 ギリギリの範囲で言わせていただきますと、ほら、よくカセットコンロで使うガスボンベってあるじゃないですか、あのスプレー缶みたいな形のやつね。ああいうのを、ちょっと想像してみてください。

 みなさん、あれの噴射口に取り付けるだけで、人間の手を使わずにガスを噴射させてくれる「マッチ箱大の装置」って、ありうると思います?

 私、プライベートでも仕事でも、よくガスボンベを廃棄することがあるのですが、あれって中のガスをちゃんと全部出し切るためにいろいろ作業が必要でしょ。それをやってみるとよくわかるのですが、少なくとも日本で流通しているそういったスプレー缶って、噴射するためにはそうとうな力をかけて噴射口を押す必要があるんですよ。子どもの指の力だとけっこう難しいですよね。
 あの力を、マッチ箱大の機械ごときで出せるのか……? それ、1970年代にしたって2000年代にしたって、いっぱしのミステリ作品のメイントリックの中心に据えていいような、現実味のあるものなのかな!?

 そうは言いましても、それが無いと話が進まないので「いいから、そういう装置があるの!」といった強引な語り口で押し切られていくわけなのですが、そんな平賀源内の発明品みたいな「ツッコまないでくださいお願いします!!」的な魔法のアイテムを出すのって、私としてはにんともかんとも得心がゆかないものが残ってしまうのです。安易に「バカミス」という言葉は使いたくないのですが、そこを受け流すとなんでもアリになっちゃうと思うんだよなぁ。おそらくは、1970年代の制作スタッフの間でも、そういう常識的な判断が働いたのではないでしょうか。

 なんと言っても、見た目が非常に華やかなサーカス団を舞台としたエピソードで、しかも犯人が専門分野とする綱渡りの演目がさまざまな角度から重要なキーワードとなってくる本作ではあるのですが、やはりその中核に位置するメイントリックにおいて、まるで SFの産物のような異物が混入してしまったことが、映像化を考える時に最後まで引っかかり続ける致命傷となっているような気がしました。いろいろ惜しいんだけどなぁ!

 あと、本作に関してもう一つ気になってしまうのは、前回の File.1のゴルフ関係の交換殺人のエピソードでも触れましたが、実質的には犯人に殺人という極悪非道な選択肢をえらばせた張本人でありながらも、出すのは口ばっかりで自らの手を汚すことがないために、法の番人であるコロンボ警部ではどうしても裁くことのできない「真の悪人」が存在感たっぷりに描かれて、最後までのうのうと暮らしているという点です。そこはなんにも解決しなくていいの!? というモヤモヤ感が残ってしまうんですよね……でも、それが確かに現実の社会ではあるんですけれどもね。
 団員もどんどん高齢化し、世間にサーカス以上に手軽に楽しめる娯楽コンテンツが氾濫している今現在を生き抜いていくために、自分たちのサーカス団をどう変えていけばいいのか。本作の犯人も被害者も、その間にいる犯人の恋人も、同じ問題について日夜真剣に悩みながらも、考え方が違っていたことで殺人という目も当てられない悲劇が発生してしまうわけなのですが、その内輪もめを遠巻きに扇動しておいてなんにもお咎めなしな人物がいるというのは……天下無双の娯楽ドラマ『刑事コロンボ』として一体ど~なのよ!という気はしちゃうんですよね。

 ただ、『刑事コロンボ』の中にそういうビターな要素を入れているのは、アメリカ本国にいるシナリオやオリジナル小説の作者というよりも、File.1、2、5を翻訳(超訳?)している小鷹信光さんなんじゃないかという気もするんですけどね……訳のクセがすごい!!
 「滅びゆくサーカス団の人々」というところにスポットライトを当て、ディティールを掘り下げる着眼点は素晴らしいとは思うのですが、わざわざ『刑事コロンボ』でやらなくても……という気はします。サーカスというパッケージこそ派手ではあるのですが、ある集団の中で古い力と新しい力とが衝突するという構図は、けっこうあるあるなパターンですよね。


 さぁさぁ、こうして今回は『刑事コロンボ』未映像化小説八部衆のうちの File.3~5を扱ってみたわけなのですが、結局、一部分の展開(コロンボの大学講演)が映像化作品に使いまわされてしまった File.4以外の作品は、それぞれちゃんと映像化されなかっただけの「理由」はある、ということがよくわかりました。File.4の鮮やかな推理、映像で観たかった~!

 八部衆のうち、残すは3作品となりましたが、果たして今までの作品を上回る面白さをみせてくれるエピソードはあるのでありましょうか!?
 遅れに遅れている『刑事コロンボ』感想文企画、おそらく次回、最終回!

 遅すぎるわ……待ってる担任の先生も、退職して実家でさといも農家はじめちゃうぞ!!
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