長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

信頼のうさんくささブランド・中尾彬ここにあり  ~土曜ワイド劇場・天知小五郎シリーズ『化粧台の美女』~

2012年10月31日 14時46分59秒 | ミステリーまわり
 ハイど~もぉ~! こんにちは、そうだいです。
 いやぁ、気がつけばこの10月もおしまいですか……個人的には、ホンットにあっという間でしたわ! 忙しいのなんのって。
 でもね、新しいお仕事のほうはまだまだ始まったばかり。見習い段階の真っ最中なのであります。ちゃっちゃとコツをつかんで、来月はもっと勤務時間を増やしていくぞ~いっと。戦いはまだ1回の表だ、ウルトラマン!!


 さてさて、そんなこんなで最近は家に帰ってもすぐに明日の準備をして眠らなければならないとかなんとかで、なかなか好きな映像作品や音楽をたのしむ時間も少なくなってきてはいるのですが、それでも休みのときには観たり聴いたりしないままたまってきているなんやかやを消化するようにしています。
 この頃はぶらぶら近所の本屋さんとか CDショップに行ってみるヒマもなくなってきているのですが、その代わりによく使っているのが、なんてったって「Amazon 」なのよねェ~。便利な世の中になったもんです……昔、私が大学生だったころには、店頭にあるかどうかもわからない VHSソフトを追いもとめて、毎日のように新宿の街へ出かけていっていたものです。もう気分はハンティング!

 Amazon はいいですね……家にいながらにして、たいていの欲しい本だの CDだの DVDだのが注文できちゃう。いまさら2012年になって、なにを言っているんでしょうか、あたしゃ。

 そんなこんなで、おサイフに余裕のあるときは、常に何かを注文して家に届くのを楽しみにしている状況がここ半年は続いているわたくしなのですが、その中でも目下のところ、「月に1本」というペースで必ず注文することにしているのが、なにを隠そう名優・天知茂が明智小五郎を演じきったテレビ朝日『土曜ワイド劇場』の「江戸川乱歩の美女シリーズ」の DVDなのであります。これはもう、「月に一度のお楽しみ」っていうペースがものすごくぴったりなおもしろさですし、すぐに手当たり次第に全作品を集めようなんて思っても、天知さんの特濃の色気と昭和テイストむんむんの作品世界で、ただただ胃がもたれるだけですからね!
 この天知小五郎シリーズは現時点では再リリースの予定も立っていないようなので、タイトルによっては入手困難だったり高値がついていたりするものもあったりするので、今のところ、私は全作品25本をコンプリートするつもりはありません。でもなるべく、この世にまれなる昭和エンタテインメントシリーズの全容を味わいたいとは強く願っているんですよね~。こんなにおもしろいドラマはないですよ! 今はたぶん、本家の『土曜ワイド劇場』でも復活はムリそうだもん。それは、あの「稲垣小五郎シリーズ」(1998~2000年)を観ても明らかですよね。私はそれをもって「現在の映画・ドラマ界や俳優業界が過去よりも衰退してきている」と結論付ける気はないのですが、まぁ時代の生み出すスケールが違うということなんでしょうか。

 ともあれ、こんな感じでつまみつまみ天知小五郎シリーズを購入している状況でして、そんな中で今回購入した作品が、これというわけ!
 まずは、基本情報をどうぞ~。


ドラマ『江戸川乱歩の美女シリーズ 化粧台の美女』(1982年4月放送 テレビ朝日『土曜ワイド劇場』 92分)


おもなキャスティング
 19代目・明智小五郎  …… 天知 茂(51歳 1985年没)
 ヒロイン・一色令子  …… 萩尾 みどり(28歳)
 毒物学者・黒柳博士  …… 山本 學(がく 45歳)
 実業家・山際大造   …… 中村 竹弥(たけや 63歳 1990年没)
 大造の長女・恵子   …… 早乙女 愛(23歳 2010年没)
 大造の次女・洋子   …… 蜷川 有紀(21歳)
 大造の愛人・マキ   …… 志麻 いづみ(29歳)
 令子の助手・ミナコ  …… 松原 留美子(?歳)
 毒虫研究家・横堀京介 …… 中尾 彬(39歳)
 12代目・小林芳雄   …… 柏原 貴(?歳)
 助手・文代      …… 五十嵐 めぐみ(27歳)
 3代目・波越警部   …… 荒井 注(53歳 2000年没)

 ※天知茂による不定期スペシャルドラマシリーズ『江戸川乱歩の美女シリーズ』の第18作で、長編小説『蜘蛛男』(1929~30年連載)の3度目の映像化
 ※しかし、物語の大筋は原作『蜘蛛男』とはまったく違うものとなっており、後半には明智小五郎の登場しない(が、名前だけは出てくる)長編小説『大暗室』(1936~38年連載)の展開も組み込まれている
 ※天知小五郎シリーズを通して時代設定は「1970~80年代現在」にされており、明智小五郎は東京都心で2人の成人した助手(小林と文代)のいる探偵事務所を運営している。文代は原作の設定である明智小五郎の妻ではなく、名字も明らかにされていない
 ※ドラマ中では黒柳博士の名字は原作の「畔柳(くろやなぎ)」から変更されており、専門分野も「犯罪学」から「毒物研究」に変わっている
 ※山際洋子役の蜷川有紀は演出家・蜷川幸雄の姪にあたり2000年代まで女優として活動していたが、現在は画家として活躍している
 ※助手・文代役の五十嵐めぐみは1977~82年いっぱいまで19作連続で登板しており、土曜ワイド劇場の明智小五郎シリーズで文代を演じた6名の女優の中では最多の出演となる
 ※小林青年役の柏原貴は1978~82年いっぱいまで14作連続で登板しており、土曜ワイド劇場の明智小五郎シリーズで小林青年を演じた3名の俳優の中では最多の出演となる
 ※ミナコ役の松原留美子は1981年にモデルとしてブレイクしたニューハーフタレントのはしりで、作中でも「美女のように見えて、実は……」という展開が取り入れられている



 はい~。もう、どうっしようもなく昭和の天知小五郎シリーズなんですよねぇ~! ストーリーやらキャスティングやら、なにもかもが!!

 ちょっとね、前回にやった記念すべき第1回レビューがそのまま第1作の『氷柱の美女(吸血鬼)』だったので、できれば順番どおりに今回は第2作でいきたかったのですが、Amazon の中古価格がこっちのほうが安かったので、ぶっとびで第18作を先に買ってしまいました。背に腹は代えられねぇと!

 第18作! 明智小五郎役の天知茂さん、ドラマシリーズが始まってからたった5年しかたっていないのにすでに18回も明智を演じておられたんですねぇ。最終的には急逝のまさしく直前までに25回演じることとなりました。最も忙しい年、1978年の登板数はなんと「5作」! もうこれ、連続ドラマなんじゃないの!?
 天知さん以外のどなたかかが明智小五郎役を演じた作品の中でも、70~90分クラスのボリュームの作品を2ケタの回数でこなしたという俳優さんは1人もおられません。毎週放送するかたちの連続ドラマで明智役を演じたという俳優さんはいても1年をこえて演じ続けたという方もおらず、しかも天知さんは TVのドラマシリーズが始まるはるか以前の1968~69年にも、すでに舞台版の『黒蜥蜴』(共演・丸山明宏)で明智小五郎を演じているという素地がありました。まさに、「明智小五郎といえば?」という称号は天知茂の頭上に輝く以外に余地がないわけなのです。
 それにしても、TV ドラマでも天知さんは『黒蜥蜴』事件に挑んではいましたが(黒蜥蜴役はこっちもこっちですごい小川真由美)、同じ30代同士という若さでの、1960年代後半の天知 VS 美輪さまヴァージョンの『黒蜥蜴』! 観てみたかったですね~。

 そんな天知小五郎も18作目の登板となり、もはや円熟の安定感、マンネリをマンネリと感じさせない様式美をふんだんに盛り込んだ今回の『化粧台の美女』であるわけなのですが、第1作の『氷柱の美女』から、天知さんの容姿と演技がまったく変わっていないのには少なからず驚きました。確かに4~50代ということで老いが来るにはまだまだ早い天知さんではあるのですが、そのトレードマークともいえる「眉間の深すぎるシワ」や、いつでもどこでもばっちりきまったスーツ姿とヘンな柄のでっかいネクタイ……まさにこれは「人智を超えた犯罪に終止符を打つデウス・エクス・マキナ(物語を強制的に終わらせる能力を持った神)」たる明智小五郎の存在感を雄弁に物語るキャラクターパーツになっているかと思います。水戸黄門の印籠なみに文句の言えない説得力がありますね。
 このあたりの「明智小五郎」像をとにかく強固に、まるで鉄の甲冑のようにかたくなに身にまとっていた天知茂という俳優の判断は非常に正しいものがあったと思います。

 視聴率という数字のかたちで番組の「絶対的評価」が出てしまう TVドラマ業界の中で、しかも天知小五郎シリーズの場合は実に8年という長きにわたって『土曜ワイド劇場』、いやさ、おおもとのテレビ朝日や制作にかかわった映画会社・松竹にいたるまですべてをひっくるめてのドル箱的存在としての絶大的注目を常に浴び続けていたわけなのですから、その間、世間からの要望や自分自身からの「もうそろそろ、ちょっと変えてみたい。」という欲求もはねつけて変わらぬ明智小五郎を演じ続ける、という行為には強いストイシズムと確固たる信念が必要だったことでありましょう。そして、そういう「俳優・天知茂」の芯の強さがまた「江戸川乱歩の美女シリーズの明智小五郎」のゆるぎなさにフィードバックされるわけで、この循環があるからこそ、同じ役を長年にわたって演じていく名優のたたずまいというものは観ていて飽きが来ないんですよねェ~!!

 そんな天知小五郎の不動のダンディズムが、驚くべきことにシリーズ化されるかどうかも定かでない第1作から完成されていたということは『氷柱の美女』のときにも触れたとおりだったのですが、その後、第2作からシリーズの名物キャラクターともいえる波越警部役の荒井注が参戦し、第6作からいよいよあのケレン味たっぷりのテーマソングがオープニングに入り、さらにいったんは「いないこと」になっていた明智の助手の小林青年がキャスティングをかえて復帰したりとさまざまなパーツがそろっていくこととなり、第18作『化粧台の美女』のころには、巨匠・井上梅次の采配ももはや迷いの見られない展開のズババン感が心地よい域に達していました。こまけぇこたぁいいんだと!!
 また、見逃してはならないのは、この天知小五郎シリーズを放映していた『土曜ワイド劇場』の放送時間が1979年4月にそれまでの「1時間30分」から「2時間」に拡大されたことで、これによって天知小五郎シリーズも、それまで70分だった内容時間から(ただし、スペシャル回としてそれまでに90分サイズになっている作品もあるにはあった)、第8作以降は常時90分サイズにボリュームアップしたということですね。
 たかだか「20分くらい」の差ではあるのですが、ここがなかなか無視できないところなんですよね! 体感時間として70分と90分のどちらが天知小五郎シリーズのめくるめくスピード感にあっているのかは人によって意見の分かれるところかとは思うのですが、私個人の実感としましては、前回の『氷柱の美女』が江戸川乱歩の原作小説『吸血鬼』のいいとこどりな内容にはなっていたものの、ちょっとお話をまとめるのに精一杯で明智以外のキャラクターに深みを持たせる余力がないままクライマックスに向かっていたような印象を受けていたので、それよりは時間に余裕のある90分のほうが楽しいんじゃなかろうか、と考えています。そして、そこらへんの「90分サイズのよさ」がいかんなく発揮されていたのが、今回の『化粧台の美女』だったのではなかろうかと!


 さぁ、いよいよここから『化粧台の美女』本編についてのあれこれに入っていくのですが、まず大前提として、この作品はタイトルでこそ「江戸川乱歩の『蜘蛛男』」と銘打ってはいるものの、内容をちょっと観てみれば一目瞭然ですが、江戸川乱歩の原作小説『蜘蛛男』とは似ても似つかないストーリーラインとなっています。
 原作と比較してみると、「蜘蛛男と名乗る連続猟奇殺人犯」「美人姉妹」「美人女優」「くろやなぎという名前の脚の不自由な学者」「物語に重要な関わり方をしていた人物が実は真犯人」というワードはぽろぽろ共通しているのですが、逆に言うとそこ以外は何から何まで別物といってさしつかえないでしょう。同じように江戸川乱歩の長編『大暗室』から拝借したかと思われる設定もあるのですが、かといって『大暗室』をベースにしているわけでもない、かなりの割合での「美女シリーズオリジナル」な事件になっているのです。この回の脚本を担当したのは、『水戸黄門』などを手がけ、この天知小五郎シリーズでも多くの作品を世に出していた TVドラマ界の大ベテラン・宮川一郎でした。

 んで、具体的に原作『蜘蛛男』とこの『化粧台の美女』のどこがどう違うのかと言いますと、とにかくなにはなくとも言っておかなければならないのが、「真犯人の犯行動機をひっくるめたキャラクター造形」なんですよね。根っこの根っこがぜんぜん違うよ~!

 難しいもので、ここの違いは小説『蜘蛛男』と江戸川乱歩というチームと、ドラマ『化粧台の美女』と「美女シリーズ」というチームとの本質的な「方向性の違い」をこれでもかというほどに明快に象徴しているものになっているので、是非ともどうにかして詳しくご説明申し上げたいのですが……それ言ったらネタバレになっちまうのよねェ~! もう放送から30年も経過してしまっている作品なのですが、ジャンルが犯人捜しのミステリーである以上は、ここだけはちゃんと「秘密」を守り通していきたい……けど、できるかナ~!?

 失敗を恐れずにズバッと言ってしまいますと、『蜘蛛男』の世界はまさしく、「自分のタイプの美女を美しい姿のままの死体に仕立てあげることに全知力をそそぐ」という共感も同情もできない問答無用の「人間やめました。」な殺人犯が帝都東京を恐怖のズンドコに叩き込むという内容のスペクタクル巨編なのですが、いっぽうの『化粧台の美女』はといいますと、一見、無差別に美女が殺されていくという流れが似ているようには見えるものの、その裏には「それなりに共感できる犯行動機もあって同情できなくもない感情」を持った真犯人の生身の執念が通底しているという、読者・視聴者からすれば事件や真犯人に対する印象がまるで違ってくる部分で大きな違いがあるのです。

 原作『蜘蛛男』のここまで「いっちゃってる」犯人像は、ある意味で「時代を超えた」犯罪という闇の恐ろしさを見通している部分があって、さすがは江戸川乱歩という迫力がある作品になっているわけなのですが、『化粧台の美女』はここらへんの原作の肝を気持ちいいくらいに放棄してしまっており、まったく逆に暗い過去を背負った人間味のある犯人を提示してしまっています。この時点で、天知小五郎シリーズは『蜘蛛男』の映像化を放棄してしまったとも言えるのではないでしょうか。
 ただし、そこまでして「湿度のある事件」にしたかった『土曜ワイド劇場』の采配こそが、江戸川乱歩の世界の忠実な映像化よりも視聴者の「観たいもの」の提供を優先させていた姿勢を如実にあらわしていたのではないでしょうか。わかりやすいですね~。

 余談ですが、江戸川乱歩の『蜘蛛男』は現在にいたるまでに、『化粧台の美女』も含めれば映画で1回、TV ドラマで3回映像化されています。私が不勉強のために他の3作品を観ていない状態なので確たることは言えないのですが、このサイコホラーのご先祖様ともいえる『蜘蛛男』の世界を、他の作品がどう映像化していたのかも、どうにかして見届けてみたいですね……特に、あの稀代の怪優・伊丹十三が蜘蛛男を演じたという、連続ドラマ『江戸川乱歩シリーズ 明智小五郎』の第1話(1970年4月放送 テレビ東京)ね! これは観てみたいわぁ~。

 以上のような犯人像の大幅な変更があったため、この『化粧台の美女』で真犯人(主犯)を演じた俳優さんは、「狂気」よりもむしろ「抑制の効いた理性」を行動にあらわすことに長けた人物がキャスティングされたのではないかと思わせるところがありましたね。最初に観たときには「若い!」とびっくりしてしまいましたが、天知茂さんとはまた違った知性があって、そこのぶつかり合いも非常に楽しかったです。
 こういう作品を観るたびにしみじみ再確認してしまうのですが、こういった「荒唐無稽な作品」というものは、演じている俳優さんにそこらへんの矛盾点をおぎなって余りある魅力や迫真性があったら、どんなにおかしな展開になっても不平不満の言いようがなくなるんですよね……まさに、「無理が通れば道理が引っ込む」と言いますか、通常の現実世界では「無理!」になっているものでさえもが、俳優の実力いかんによっては、あるフィクション世界の「道理」になってしまうという気持ちのよさが、天知小五郎のいる「美女シリーズ」には常に満ち溢れているのです。

 もちろん、今回の『化粧台の美女』こそが最たるものであるわけなのですが、この天知小五郎シリーズは江戸川乱歩の原作小説を忠実に映像化したとはとてもじゃないですが言えないものがあり、その大看板としての天知小五郎も、原作の明智小五郎がやったこともないような捜査方法を駆使して、原作の明智からはかけ離れた「色男っぷり」を発揮しているわけで、このあたりを指摘して「こんなの江戸川乱歩じゃない!!」という批判の対象になることがままあります。そして、それは確かに一理ある評価ではあるでしょう。

 でも! 私はあえてこう言わせていただきたい。天知小五郎シリーズは見てくれこそ江戸川乱歩の小説世界とはまったくかけ離れてはいるものの、その本質たる「明智小五郎(=江戸川乱歩)という超人がいる。」という部分では間違いなく乱歩ワールドの遺伝子を忠実に継承していると!! 逆に言ってしまいますと、どんなに原作どおりの挙措動作を演じていたのだとしても、「異常な犯人の実現せしめようとした犯罪パノラマを強引に終結させる超能力」がないのならば、それは明智小五郎ではないニセモノなのです。

 ここらへんの、天知小五郎シリーズにおける明智小五郎の「神性」を物語る最も顕著な例として私が挙げたいのは、なにはなくともあの、クライマックスで毎回毎回明智が見せる、ただただ真犯人をビックリさせるためだけに用意周到に仕掛けられた、「明智の完璧すぎる変装からのパリッとしすぎの純白スーツ姿への早着替え」です。
 確かに人によっては、この現実的にまったくありえない(軽装の変装の下にあんなにしっかりしたスーツを着込んでいるのに、着替える直前までぜんぜん着ぶくれしてない!)演出をさして「アホか!」「まったく意味のない、見てくれだけを優先させた子供だまし」と酷評する方もおられるかもしれません。

 しかし、ここでみなさん、ぜひともこの天知小五郎シリーズにおける「真犯人」の立場になって想像してみていただきたい。

 自分が全生涯をかけて何年、何十年と計画を練り続け、満を持して実行に移した犯罪が、警察を見事に出し抜いてあともうちょっとで完成するというところで、なんだかいつもらしくない発言を思わせぶりに口にする見知った人間が現れる。そして、それが見てきたようにいちいち自分の犯行の核心をつく正確さ!
 まるで人が違ったかのような挙動に、「こいつ、まさか……」と思った瞬間、その相手がカツラと顔をベリベリッとやぶって、しかも着ていたワンタッチ衣装を脱ぎ捨てる。そしてそこにはバッチリ決まりすぎのスーツを着込んだダンディすぎる明智小五郎の姿が!

 こんな、意味のない変装に手をかけまくりの余裕ありまくりで自分の犯行計画を指摘してしまう男を相手にしてしまったとき、果たしてあなたの脳内に「抵抗」という2文字は残されているだろうか。もはやこれ以上どうあがこうが「蟷螂の斧」、あたかも DIOに出会ってしまったときのポルナレフのごとき無条件降伏状態になってしまうのではないでしょうか。
 そうです、このかたよりすぎな天知小五郎の変装に対する命の賭け方は、真犯人の世間への恨みや破壊衝動、場合によっては生きていくためのエネルギーさえをも取りあげてしまう最大最強の必殺技につながっているわけなのです! これぞ、世界を終焉させるフィクション世界のヒーローならではの特権よ!
 このあたりの超能力を、江戸川乱歩の明智小五郎はひたすら「知性と弁舌」という部分(あと、ちょいちょいハマる中国服とかサファリ服とかのヘンなファッションセンス)で表現しているわけなのですが、天知小五郎はそこを見事に「TV ドラマ向け」に変換させているというわけなのです。


 あ、ヤッベ! 気がついたらこんなに長々とくっちゃべっちゃってた!
 もうそろそろ、今回の『化粧台の美女』における最大の見どころとも言えるポイントを指摘しておしまいにいたしましょう。
 それはもう、なんと言ってもここ!


『土曜ワイド劇場』名物の「犯人っぽい登場人物」を演じる中尾彬が怪しすぎる。


 きたきた~! やっぱここなんですよ。
 いや~、中尾、中尾、中尾! 怪しいにもほどがあるんですよ、このひと。

 本作での中尾さんは、日本には生息していない強力な毒をもった「ドクログモ」というタランチュラ蜘蛛を飼育している研究家の横堀という中年男を演じているのですが、人の目を見てしゃべることの不得意そうな、毒ヘビや毒ムカデの世話に愛情を注ぐしじゅうサングラスをかけたその姿はカンペキに不審者です。しかも、自分が所長をしている研究所にいるときには基本的に肩にイグアナをとまらせているという徹底ぶり。
 そういう人の周囲で、ドクログモを人にけしかけて殺人を犯す事件が連続してしまうのですから、中尾さんが警察にマークされないわけがありません。そんな状況下で物語中盤に中尾さんは失踪してしまい、「中尾=蜘蛛男」説がほぼ確定してしまうのですが、われらが天知小五郎はそこに疑問をいだき……というように話は進んでいきます。

 当然ながら、この「毒虫研究家の横堀」というキャラクターは江戸川乱歩の小説にはまったく登場しないオリジナルな人物なのですが、こういった「犯人捜しをミスリードさせる怪しすぎる人物」というのは、いかにもサスペンスドラマに登場しそうな定番のキャラクターです。
 そして、そんなばかばかしい役を喜々として演じきっている中尾彬という俳優の異常性ですよね!

「えぇ~、そ、そんな……わたしが人を殺すわけがないじゃないですか……心外だなぁ……」

 いかにも小心者そうな小声でこうつぶやき、それでいてその目つきは常にギラギラと何かを凝視しているという中尾さんの気持ち悪さは、これまた天知茂さんとは違った方向性で「オンリーワン」な存在感をいかんなく発揮してくれています。
 そうそう、中尾彬さんのキャリアの根幹はここ! 常識的な世間では生きていけないアウトサイダー、日陰者の不気味さと哀しみをあらわす繊細さにあるんですよ。中尾さんといえば、もうすっかり「ずけずけと正論を言い放っていく芸能界の重鎮」というバラエティ番組などでのイメージが定着してしまいましたが、根本的に中尾さんは、そことはだいぶ違った場所に身を置いていた俳優さんだったはずなのです。昭和に友達のいなさそうな変人・悪人役ばっかりを演じていた中尾彬こそが、彼のホームタウンであるはずなのだ! いっしょに仲良く TVに出ていたのだとしても、江守徹さんとは俳優としての「歩いてきた道」がまるで違っているお方なのです。

 その点で言うと、やっぱり最近の映画『アウトレイジ ビヨンド』は、さすがたけし監督は俳優・中尾彬の真骨頂をちゃんとつかんでいるなぁ、と感心してしまうものがありました。そうそう、どっしりかまえた親分なんかじゃなくて、最期に見せたああいう小物っぷりこそが中尾さんなんですよね!


 天知茂と中尾彬。両極端な「昭和のうさんくささ」がいちどに味わえる傑作『化粧台の美女』に大乾杯!!
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2010年7月17日の白昼夢  『岡井ちゃん、寝る! 第2回配信』  ドンの章

2012年10月29日 14時39分48秒 | すきなひとたち
 時に、2010年7月17日正午。
 場所は東京都港区、東京タワーの膝下に広がる芝公園の西の一角・通称「のびのび広場」。

 記録によると、その日の東京の天候は晴天。最高気温は32.1℃、湿度は58%だったという……


12:00 『岡井ちゃん、寝る!』の第2回配信が開始。
   今回の番組内容は全編生中継の外ロケ形式で、カメラマン(おそらく本番組の企画を手がける宮地修平氏本人と思われる)の手持ちのカメラのみで撮影されていく。

12:00~01 カメラは芝公園の敷地に入っていき、のびのび広場のベンチに横たわり、腕を組んで男前に寝ている岡井を発見する。
   この、番組開始と終了時に岡井が寝ているというスタイルは『岡井ちゃん、寝る!』の定型である。
   岡井は1回カメラの存在に気づくが無視して寝続けようとし、カメラマンに肩をたたかれて番組撮影だと気づき(の、ていで)ガバッと跳ね起きる。
   岡井は起床した2秒後には満面の笑みを浮かべている。
   この日の岡井は、サッカー日本代表のレプリカユニフォーム(背番号なし)にポニーテールというスポーティないでたち。

12:01~02 岡井のオープニングトークが始まり、同月11日まで開催されていたサッカー FIFAワールドカップ・南アフリカ大会の話題にふれる。
   「も~ワールドカップ、盛り上がりました~!」と言う時のダブルピースが異常にさまになっている。
   ワールドカップにからめて、この『岡井ちゃん、寝る!』も世界中に視聴者がいるかもしれないという流れで、岡井は英語での自己紹介に挑戦するが、
   「Hello everybody. Chisato Okai. うぃっひっひっひ! なんかこれ、ちょっと照れますね~。Sixteen. ……お?…… (5回手で挨拶をするようなジェスチャーをして)Hey!」ということで、15秒で断念する。

12:02~03 1回目の質問コーナーに入る。今回は外ロケということで、カメラマンに順次手渡される紙に書かれた質問やリクエストを岡井が自分で読んで答えるという形式になっている。
   質問「ワールドカップが終わりましたが、千聖的には MVPは誰ですか?」に対して、岡井は「日本の本田選手に MVPをあげたいと思います。」と答え、早くもこの頃から、視聴者のコメントが流れる画面上には「にわか」という文言がおどり始める。

12:03~06 質問に続いて「リフティングを10回続けてください。」というリクエストがあり、岡井は自信たっぷりに「こんなのわ、楽勝なんですよ!」とこたえてサッカーボールを用意する。
   ※この放送回では岡井のカツゼツのコンディションが充分でなかったらしく、しゃべりかたが余計に小学生男子っぽくなっていたため、「こんなのは」も「こんなのわ」に聞こえる。
   威勢よくリフティングに挑戦する岡井だったが、15回チャレンジして「最高3回しか続けられない」という結果に終わる。真夏の炎天下でのリフティングに、さすがの岡井も若干テンションが下がる。
   発言「この歳(当時16歳)にしては上出来なんじゃないかな、って思いますね。」
   発言「3回できたぞ! おっしゃーい!!」

12:06~07 今回のゲストであるBerryz工房の嗣永桃子が、『タモリ倶楽部』のような通りすがりのていで岡井に接触するが、リフティングに夢中になっている岡井は「これからお仕事? がんばってね。」と軽くいなして嗣永を立ち去らせる。

12:07~  突如として「おなかすいた! おなかすいたんで、ごはん買いに行こ。」とサッカーボールを放り出す。
   岡井とカメラは、弁当屋に行くために公園を出て、徒歩で国道1号線「桜田通り」の方向にむかう。炎天下のためか、通行人がほとんどいない。
   基本的に歩きながらのフリートークになるため、岡井ならではの微妙におかしな発言がポンポン飛び出る。
   発言「日焼け絶対します! この気温。」
   発言「なんかコレ(カメラ)、ほんと見られてる気しませんね! なんかフツーに歩いてる感じ。ほんとになんか歩いてる感じがしないんで、自分的にはけっこう楽しいです。」
   発言「いやー、やっぱなんか、夏はアイスですね。」
   手持ち無沙汰のあまりに、歩きながら℃-uteの『大きな愛でもてなして』の振り付けをしてしまう岡井。
   発言「だー!(なにかを思いだした時の岡井の口癖)梅雨明けした、らしいですよ。梅雨明け、し、するのはうれしいですけど、川に行きたいです、ホントに。」

12:10~13 弁当屋に向かう道すがらでの2回目の質問コーナー。
   ところが、岡井が質問の文章の「参院選」という字の読み方がわからなかったため(当時高校1年生)、質問コーナーは強制終了される。
   「え~……わたし、ちょっと前髪を切りすぎてしまい、ちょっと前髪、切りすぎました。あっついですね~。」とごまかす岡井。

12:13~15 国道1号線ぞいの弁当屋「司亭」にたどり着き、弁当を買う岡井。
   「すいませーん。から揚げ弁当ください。」店に入った瞬間にから揚げ弁当を頼む岡井の迷いのなさに、コメントでも「男前だ」との称賛の声が飛び交う。
   発言「(弁当を受け取って)なんか、アレ、炊きたて!……ちがう、揚げたてだって!」うれしそうな岡井。
   その後、弁当屋のおばさんとおじさんから矢のようなしろうと発言が次々と飛び出し、それに応戦する岡井。

   おばさん「女の人よね?」「何年生?」「かわいい!」
   おじさん「また、アレが来たと思ったんだよ。『ふぉーていえいと』が来たと思った!」
   岡井「(苦笑して)ちがいます、℃-uteっていうグループです! あのー、ハロー!プロジェクトです。モーニング娘。の妹分のグループです、ハイ。」
   おばさん「何回か、ここに来た。あの、モーニング娘。のちっちゃい人がいるころ。なんだっけ?」
   おじさん「加護、加護! 年中来てたね、何年か前、ね。」
   岡井「あ、あぁ~、ホントですか!」

   さすが、岡井の所属事務所の本社が近いだけあるというべきか、司亭の夫婦は「℃-ute」や「ハロー!プロジェクト」は知らなくても「アップフロント」という名前はよく知っていた。
   笑顔で弁当屋を去り、そのまま国道1号線を横ぎって地下鉄・赤羽橋駅付近のアップフロントグループ本社の方向にむかう岡井とカメラ。
   手にさげた弁当の入ったビニール袋をこれでもかというほどにガッシャガッシャ振りながら大手を振って歩く岡井。

12:16 国道1号線にかかる歩道橋をわたったところ、歩道橋の階段をコロコロクリーナーで掃除している嗣永桃子にまた出会う岡井。
   無視して通過しようとするが嗣永に呼び止められてしまい、いやいや30秒ほど会話をして、また強引に別れて歩き出す。
   ※このやりとりの中で、一瞬だけ画面にカメラマンの足元が映りこむが、カメラマンもサンダル履きというラフぶりであることがわかる。

   ここから再び、岡井による意味のないフリートークが展開される。
   発言「えっと、なんかわたし、なに、インドドッハッハ? インドドア派? インド派?(カメラマンに訂正されて)インドア派っと~、なんだっけ、アウトドア派? 私はアウトドアの方ですね。えっ、そうですか? 外がアウトドアですか? そうですね、私はアウトドア派ですね。」
   発言「あ~、でも今日はけっこう歩いたんで、カロリーひょうししたな!」
   発言「あのー、なんていうんですか、これ、この番組ホントに自由ですね。」(この発言の直後に、画面にはいっせいに「お前がな」というコメントが乱立した)
   発言「(画面に向かって)ちゃんと観ててくださいね。楽しくなるのこれからなんで!」
   ※この発言にも象徴されるように、この回での岡井は自分のフリートーク力に大きな不安を感じているようなのだが、本人のまったく意図しない方向で十二分におもしろいトークになっていることには気づいていない。
   ※このやりとりの最中、画面上ではある視聴者が「アホカメの2代目アホチサ」というコメントを投稿していたが、私そうだいとしては、これまでの流れを観ればわかるように亀井絵里のアホさと岡井のアホさにはチューリップとライオンほどの本質の違いがあると見ているため、ちょっと賛同しかねる。強いてあげるのならば、アホカメの2代目は佐藤優樹なのではないだろうか。

12:19 歩きながらのフリートークは再びワールドカップの話題に戻り、岡井は選手よりもアルゼンチンのマラドーナ監督の動きがおもしろかったと語り、その説明にヒートアップしたあまりに、最終的には「マラドーナ選手」と言ってしまう。
   しめの発言「だけど、やっぱなんかー、あれですね。強い国は強いですね! ホントに、みなさんがんばりました。」
   「いや~、もう、ちょっと最初っからやりなおしてほしいな、ワールドカップ。」

12:20 歩いている途中で、カメラマンが通りすがりの老人に「ほんとうに大変なお仕事で……」とねぎらいの言葉をかけられる。
   発言「あー、おなかすいちゃってもう、胃がもうヘコんできました。」
   車道を横ぎるときに手を上げてわたる岡井(高校1年生)。

12:22 アップフロントグループ本社近くの飯倉公園に到着する岡井とカメラ。
   放送時、この公園ではカラスの鳴き声が常に聞こえていた。
   日陰のベンチを選び、それまでしっかり握りしめていた小銭のおつりをかたわらに置いて座る岡井。
   発言「ほっかほっかの 1年生♪ って、ちがうか! うぃっひっひ、自分で『ちがうか』って。うぃっひ!」
   また食べていないうちから、弁当のにおいをかいで「おいしい!」と語る岡井。
   発言「(弁当についていたコンブを見て)千聖、このコンブが好きなんですよ。お弁当とか、絶対コンブがいいもん……あ、まちがえちゃった、おにぎり。」

12:23~25 やっと弁当を食べ始めた矢先に、またしても登場して岡井にお茶のペットボトルをあげる嗣永桃子。
   岡井「(嗣永にまったく目をあわさずボソッと)やさしいね。仕事終わった?」
   嗣永「そんなに気になる? ありがとう、私のこと気になってくれて!」
   岡井「……犬の散歩でもしてきたら。」
   嗣永「えっ? 犬?」
   岡井「お茶ももらったし、ありがと。バイバイ!」
   強引に帰らせようとする岡井に対し、地声で「バカ!」と叫んで弁当のから揚げを1コ盗み走り去る嗣永。
   岡井「おーい!! から揚げから揚げ、から揚げとられた!」地団太を踏んで悔しがる岡井。

   気を取りなおして、『インディジョーンズ』の鼻歌をうたいながらから揚げをかじる岡井。ネプチューンの堀内健もかくやと思わせる選曲センス。

12:26 やっとから揚げ1コを半分食べたところで、弁当にハエがとまり思わず絶叫する岡井。
   発言「うわー!! ハエがぁあ! ハエが千聖のごはんを、ももちゃん(嗣永)と同じように! ハエがから揚げにくっついたぁ~。」
   突然のハプニングに驚愕しながらも、しっかり嗣永をハエと同列にあつかう岡井。
   発言「食べれなくなったじゃん……」
   ハエがとまったことによって、残りの弁当をすべて食べずに片づける岡井。結局からあげは1コも充分に食べていなかったのだが、この繊細さだけが際立って女子らしい。
   発言「卑怯なやつだ。逃げないで千聖にちゃんと『欲しい』って言ってけばいいものを、ねぇ? 早いもん、動きもハエのほうが確実に。ハネもついてるし。」

12:27 発言「いい日だねー。(嗣永のくれたペットボトルのお茶を飲もうとするが、突然なにかを思い出して中断する)ってか、ああ!! あれッスよ。あのー、なにー、あの、『岡井ちゃん、寝る!』、1回目も2回目も雨は降んなかったですよ。やっぱ、その、℃-uteの……(ここでおもむろにお茶を飲む)……℃-uteの、あのー、イベントとかで雨が降るのはやっぱ(矢島)舞美ちゃんか(萩原)舞ちゃんのせいだなって、あらためて思いました、ハイ。」
   岡井のお茶を飲むタイミングのあまりの予想のつかなさに、画面は「そこでwwww 」というコメントが殺到し、しまいには「おまえら(コメント投稿者)のツッコミが面白い」というコメントまで登場する。

12:28 3回目の質問コーナーが始まる。
   質問「ちっさー(岡井)は好きな戦国武将はいますか?」
   岡井「武田信玄さんがすっごい好きですね。信玄餅ってあるじゃないですか。そこから好きになりました。」

   質問「萩原舞ちゃんとチャーハン、どっちが好きですか?」
   岡井「うーん、なんかやっぱ、おいしさ的にはチャーハンですね。」

   質問「(妹の岡井)明日菜と(萩原)舞ちゃんどっちが強い……(質問用紙を読みきる前に)明日菜ですね、確実に! 明日菜の強さはハンパないっすよ!!」
   ※岡井の妹の岡井明日菜は、この番組が放送された2010年の暮れまでハロプロエッグに所属してアイドルとして活動していたが、翌2011年以降は芸能活動を休止して一般人になっているらしい。

   質問「千聖さんはカツ丼と天丼どっちが好きです……(質問用紙を読みきる前に)天丼が好きですね! あの、私、エビが好きなんですよ。エビがなかったらカツ丼が好きなんですけど、エビがあるから天丼が好きです。」

   その他、質問用紙の文章の「経緯」を「けいえい」と読んだり、自分のブログに「今日の格言」を毎回入れておきながら「格言」の意味を理解していなかったりと岡井ならではのひっかかりが続発するが、この状況に画面上には「逆の意味でボキャブラ天国」という意味深長なコメントが流れる。

12:32 ここで今回最初の歌唱コーナーとなり、岡井が『岡井ちゃん、寝る!』のテーマソングとも言える℃-uteの『JUMP 』をカラオケで独唱する。道をはさんで公園の向こうに民家があることもものともせず、振りつきで熱唱する岡井。
   岡井の『JUMP 』にあわせて執念深く登場し、「オイ、オイ、オイ!」と合いの手を入れる嗣永桃子。
   だがしかし、ワンコーラスが終わった段階で疲れてベンチに座ろうとする嗣永。このような彼女とフルコーラスを唄いきる岡井との落差に、画面上では「℃-uteとBerryz工房とではスタミナが違う」というコメントが流れる。

12:37 『JUMP 』終了後、業を煮やした嗣永が初めて「なんなの、このあつかい!?」と食い下がり、岡井はしぶしぶ嗣永を今回の番組ゲストとして紹介するが、先ほどもらったお茶は嗣永にはいっさい飲ませない。

12:38~45 岡井と嗣永が、お互いの最新シングルである(当時)℃-uteの『キャンパスライフ 生まれて来てよかった』(12th 同年4月リリース)と、Berryz工房の『本気(マジ)ボンバー!!』(23th 同年7月14日リリース)の宣伝をする。
   ここでさらに、岡井は℃-uteが翌8月にリリースする予定の13thシングル『Dance でバコーン!』の告知もくわえる。
   発言「あのー、あれれす! ダンスがすっごい激しくてぇ。楽しみにしててください!」
   その後、「Buono!の楽曲『カタオモイ。』で音程がはずれている」といったポイントなどで実に楽しそうに嗣永をいじりたおす岡井。
   ※ただし、番組の中で公然と話題にするだけ、岡井は嗣永の歌唱力をあつく信頼しているとも言える。
   これほどまでに日本語力が全壊している岡井でありながらも、ファンの話題を口にするときにはしっかりと「ファンの方」と発言しているところに、岡井千聖という歌手のプロフェッショナルな面が確実にあらわれている。

12:45 ここで2曲目の歌唱コーナーとなり、トークの中で岡井が「Buono!の楽曲の中で一番好きだ。」と発言した楽曲『消失点』を2人で熱唱する。
   しかし、岡井は嗣永に指摘されるまでこの曲のタイトルを「しょうしてん」と言っていた。
   この『消失点』の歌唱中から、画面の奥に見えるアパートか民家(キューバ大使館のとなり)の住人がけげんそうに撮影のもようをうかがっている様子が映りこむようになる。その視線をものともせず見事に『消失点』を唄いきる2人。

12:49~ ふたたび2人のフリートークに戻り、それぞれが後輩をつのってグループを結成するという「モモイレージ」「チサイレージ」構想が立ち上がる。
   岡井の「チサイレージ」構想はのちの「Team 岡井」に直結する本物の予言だったのだが、岡井はこの時点ではチサイレージを「フットサルで一緒にプレイしたりゴールキーパーをやってくれる遊び相手」と定義していた。

12:53 視聴者からの「早くも夏バテ気味になっている私に一言お願いします。」というリクエストに2人でこたえる。

   岡井「梅雨が明けて、夏がこれから始まるんですよ?」
   嗣永「夏はねぇ、お祭りとか花火大会とか、楽しいことがいっぱいあるんです!」
   岡井「そりゃあ楽しむっきゃあないだろォ!!」
   嗣永「(小声で岡井に)いいよいいよ、もう終わりでいいよ……」
   岡井「カット! よし。」

   続いて、視聴者から「10回クイズ」が出されるが、「キッチンを10回言ってください。」という問題文の「キッチン」をのっけから「チキン」と読み間違える岡井。
   岡井「あっはっはー! カタカナ読めない!! 『キッチン』と『チキン』、似てんねー!!」
   結局、「キッチン」を10回言ったあとに「鳥を英語で言うとなに?」という質問が続いて「チキン」と言い間違えるのがクイズの狙いだったのだが、キッチンを1回も言わないうちに岡井がチキンと言い間違えてしまったためにクイズは根幹から崩壊してしまった。

   巻き返しを図って自分から10回クイズを出題する嗣永。
   嗣永「『シカ』って10回言って。」
   岡井「しかしかしかしかしかしかしかしかしかしか!」
   嗣永「サンタクロースが乗っているのは?」
   岡井「くま!!」
   嗣永「くま!?」

12:56 突如として番組のしめに入る岡井。
   岡井「じゃあ、次の仕事があるんで、このへんで。」
   嗣永「えっ、こういうブチッと切れちゃう感じなの!?」

   ここで、次回の『岡井ちゃん、寝る!』の企画構想を告知する岡井。
   嗣永「あるの? 3回目は。」
   岡井「あのさー、ちょっと聞いてくれる? あのー、言っていいのかどうかわかんないけどさー、3回目はちょっとさー、ちょっと企画を聞いたのね。」
   嗣永「うん。」
   岡井「ちょっと今は言えないんだけどね。すっごくなんかこう……晴れ晴れとしてるね~。」
   嗣永「なにが!? ねぇ、よくわかんないよ、そんなの!」

   岡井「また(『岡井ちゃん、寝る!』に)出たい?」
   嗣永「出たいよ! だって、今日めっちゃ早起きして来たからね。」
   岡井「(突然激昂して)千聖のほうが絶対早起きだよ! だってこの前にお仕事あったんだもん!!」
   妙なポイントに異常にこだわる岡井。

   その後、次の番組企画が岡井とゲストとで行く肝だめしだということが明らかとなり(結局は実現しなかった)、怖いものが苦手な嗣永を強引に次回ゲストにしたてあげようとする岡井。
   嗣永「イヤイヤそれはやだ、それは出ないそれは出ない~!」
   岡井「それでマネージャーさんと話した結果、『ももちゃんらな。』『やっぱももちゃんらな!』『やっぱももちゃんらなー!!』って思ったんで。」
   番組も終盤にさしかかり、岡井のカツゼツは『ブラックジャック』のピノコのようになっている。

   最後のお約束として、ゲストと一緒に公園のベンチで再び眠りにつく岡井。
   岡井「じゃとりあえず、いっしょに寝ない?」
   嗣永「え? 急に寝るもんなの?」
   岡井「そうだよ、お昼寝だよ。」

   こうして、2人の現役アイドルは真っ昼間の公園のベンチで眠りにつくのであった……



 ……どうですか、みなさん。どうなんですか、みなさん!?
 どうでしょう、これでどのくらい『岡井ちゃん、寝る!』の第2回配信の魅力が伝わったのかどうかははなはだ不安なのですが、いずれにしても、この60分間が並みの TV番組などとはまったく比較にならないような、異常なまでのおもしろ濃度に満ち満ちているということはわかっていただけるのではないでしょうか。

 とにかくもう、これ以上いちいちの説明はいたしません。何度も言うようですが、このもようが観られる動画は「非公認」のものとして某超有名サイトに投稿されているものですので、まだご覧になられていない方は一刻も早く視聴されることをお勧めします! まぁその、「画面上に視聴者からのコメントが流れる」と言っている時点で、サイトの名前をふせている意味はほぼ無いに等しいんですけど……

 この奇跡的な放送について、いろいろ言いたいことは山ほどあるのですが、字数もいい加減にかさんできましたので、2点だけを申し上げておしまいにしたいと思います。

 まず、私はこの番組を通して、岡井千聖という人間の「アホさ」を笑える、ウケると評する気は毛頭ありません。
 無論のこと、この回に明らかになった岡井さんのものすごさの大半はそこに起因しているわけなのですが、それ以上に岡井さんが、ふだんはガチガチの唄って踊れる実力派アイドルグループ・℃-uteの特攻隊長として、プロ中のプロとも言える完璧な活動をやり遂げ続けている才能であるからこそ、この番組で見られた多くのウィークポイントがすべからくチャームポイントに転じているわけなのです。
 要するに、ここでの岡井さんと同じかそれ以上に無知な誰かが同じようなことをしたとしても、この『岡井ちゃん、寝る!』ほどの好印象を人に与えることはありえないのです。一面を知るだけではわからない、この多面性こそが岡井千聖という人物の最大の魅力です。だからこそ、この動画はいつ何時、何回視聴してもおもしろいんですね。

 2点目として私が言いたいのは、ここで爆発した岡井さんのおもしろさが、同じ現場にツッコミ役が存在していなくとも(途中からももちは参戦しますが)、リアルタイムに視聴者がコメントでツッコむというかたちで見事にボケとして成立しているという、ふだんの TV番組では実現することが難しい、演者と視聴者とのネット中継ならではの非常に理想的な笑いの新形態を2010年の段階で提示していたということです。
 たとえば、現場に最初から、岡井さんのおかしな発言にいちいちちゃちゃを入れる相手がいたとすれば、果たして岡井さんが放送終了まで持続させていたトップギアのボケスピードは続いていたでしょうか? おそらく、どこかで相手のペースを考えてギアをダウンさせていたのではないでしょうか。岡井さんはそういう気づかいはできる人だと思います。
 つまり、『岡井ちゃん、寝る!』の第2回配信におけるあのスピード感は、「ボケ放置」という、視聴者のツッコミレベルに絶大なる信頼をおいた製作スタッフの決断がおおいに「吉」と出たあかしだったのです。そういう意味でも、あの第2回がコメントの視覚化された「あの動画サイト」にアップされているのは必然だったわけなのです。
 これぞまさしく、「視聴者・ファンがあってこそのアイドル」の雄弁なる番組化! 『岡井ちゃん、寝る!』はものすんごく野心的な番組だったわけなんですね、ホントに。他の回もどうにかして観てみたいんですけどね~。


 まぁこんなわけで、ただおもしろいだけではない岡井千聖の魅力がギッチギチにつまった60分間。彼女のことも℃-uteのことも知っておらずとも、必ずや彼女たちのことに興味がわく素晴らしい入門動画になることは間違いありません。
 あの動画を投稿された無名のお方にも、それを2年間「黙認?」している事務所サマにも感謝! これからも、も~元気がなくなったときには何回でも見なおさせていただきますよ!!

 ℃-uteの岡井さんとBerryz工房のももちが真っ昼間の公園で生中継をしてるなんてねぇ、2012年ならば実現はまず不可能でしょうね……

 岡井さんはこの数ヵ月後、2010年11月から「本人が踊ってみた」シリーズを開始してネット上の注目をあび、2011年1~2月には初のソロコンサートを実現させる。
 嗣永桃子はこの1年後、2011年9月放送の人気バラエティ番組『めちゃ×2イケてるッ!』へのゲスト出演をきっかけに、「いじられブリッ子アイドル」としての知名度を全国的に広げていくこととなる。


 まさしく、あれは白昼夢。さまざまな可能性を秘めた2人の、うたかたの夢舞台だったのです。
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2010年7月17日の白昼夢  『岡井ちゃん、寝る! 第2回配信』  よ~いの章

2012年10月26日 14時32分53秒 | すきなひとたち
 きゃお~。どうもこんにちは。そうだいでございます~。今日もいい秋日和ですねぇ……夜はもう寒い!

 ここんところ数日、のどが痛くて声が出なくなったり、しつこいセキが出たりしていたのですが、今日になってやっとおさまってきましたわ。なんだかんだいって一応ふつうの生活は送ることができていたので、まぁカゼだったということで。薬は使わずに、ひたっすら思いつく限りの身体によさそうな食べ物ばかりを摂取して対応しとりました。こういうときの「3食オール納豆」は、ほんとのところ効いてるのかどうかはよくわかんないですけど、私にとりましては絶大なプラシーボ効果がありますねい。

 最近、朝が早くって早くって。まぁ、早いといっても一般のサラリーマンの皆様といっしょだとは思うのですが。
 そのため最近は、あんなに偏愛した TBSラジオの深夜番組『 JUNK』はしごライフがいちじるしく危機的な状況になっております! ゆうべも朝からの仕事だったために、家に帰ってからはなんと、大好きな『おぎやはぎのメガネびいき』の放送開始を待つこともできずに就寝! 健康的~。
 それだけ働いてるってことなのか、ただ要領が悪くてよけいに疲れているだけなのか……どちらにしろ、ライフスタイルが変わるのは楽しくていいことだとは思うのですが。これはいよいよ、我が『長岡京エイリアン』を海外旅行に行きながらでもチェックしておられるという世界規模で奇特な同志のお方にすすめてもらった「 RADIKA(ラジカ)」のお世話にならなければいかんでしょうか? リアルタイムの深夜は厳しいんだよなぁ~。私もやうやうオッサンになりゆくことですし。


 あの~、この頃はいろいろな DVDを観たり、大学時代にお世話になった大好きな先生のことを思い出したり、自分的に「これほど相性がいい作家さんはいない!!」と惚れこんでいる小説家の作品を読み直して「やっぱいいわぁ~♡ 」と再確認したり、ふと鬼束ちひろのベストアルバムを聴きなおして「私的には、惜しい人をなくしたもんだ……」と涙したりと、けっこう OFFは楽しくやってるんですよね。

 その中でも今回は、またしても本ブログおなじみの悪癖「知るのが遅すぎる病」の再発ということで、「なぜ今さら気づく!」とどなたかに怒られてしまいそうな話題ですが、2年前に配信されたあるインターネット番組の奇跡的内容に、まる2年後の2012年になって大いにハマッてしまったというつれづれをつぶやいてみたいと思います。これには病中の私もめちゃくちゃ元気をもらいました。


USTREAM 配信番組 『岡井ちゃん、寝る! 第2回』(2012年7月17日 正午~午後1時生中継)


 これはものすごい番組です……と言っても、実際に映像をご覧になっていただけばおわかりのように、この回の『岡井ちゃん、寝る!』は、一般に TVなどで放送されている「番組」という概念とは明らかに一線を画しているグダグ……いやさ、生ならではのハプニングに満ちたフレッシュすぎる緊張感にいろどられた「貴重な映像記録」になっています。そういう意味では、この回は「アイドルの息抜きかお遊び」などというぬるさは、一見それだけでひっぱっているように見えながらも実は一切存在していないという、バラエティ番組というよりもむしろ、ディスカバリーチャンネルとかでやっているような「あの猛獣の生態の撮影に成功!」みたいなドキュメンタリー番組に通じる緊張感を持ちうるものになっているのです。この表現が大げさではないことは、映像をご覧になった皆様ならばわかっていただけるでしょう……

 映像本編についてのつれづれにいく前に、まずはこの番組のパーソナリティとなっている、アイドルグループ「℃-ute」メンバー・岡井千聖さんのインターネット界隈での最近の活動などについて整理してみたいと思います。


『岡井ちゃん、寝る!』とは(ウィキペディアの記事より)
 インターネット配信サイト「USTREAM」を利用し、岡井をメインとして構成される番組。2010年6月より計7回配信されている。
番組タイトルは、「岡井千聖のチャンネル」と岡井が寝過ぎてよく遅刻することに掛けた言葉遊びである。
番組内容は、岡井がメインとなって話す、唄うなどというものである。ゲストが来たり、外でロケをすることもある。配信時間は約1時間。

第1回 2010年6月26日 前半はサッカー FIFAワールドカップ・南アフリカ大会の話。後半は質問コーナーや歌など。
第2回 2010年7月17日 外ロケ。前半は公園や弁当を買いに行く道すがらでのトーク、後半は公園でゲストの嗣永桃子(Berryz工房)とのトークや歌など。
第3回 2010年8月14日 前半はギタリストの菅原潤子をゲストに迎えてギターの練習。後半はBuono!をゲストに迎えてのトーク。
第4回 2010年10月4~5日 岡井千聖ファースト写真集『千聖』の撮影風景を生配信。
第5回 2010年11月20日 ℃-uteの中島早貴をゲストに迎えてトークや歌、岡井の写真集『千聖』の発売告知やYouTubeの「踊ってみた」シリーズへの中島によるダメ出し。
第6回 2010年12月8日 岡井の写真集『千聖』発売記念企画。トーク・歌など。
第7回 2012年10月9日 Team 岡井(岡井千聖・中西香菜・竹内朱莉・勝田里奈・田村芽実・金子りえ・高木紗友希・宮本佳林・吉橋くるみ・田辺奈菜美)のダンス練習部分と『ワクテカ Take a chance を踊ってみた』、最近の楽曲・新アルバム・冬ツアーについてのコメントを生配信。


 2010年11月に℃-uteの公式YouTubeチャンネル「℃-ute Official Channel」にて『Danceでバコーン!を踊ってみた 岡井千聖(本人)』という動画を公開し、2日間で視聴数は10万回、2011年1月には100万回を超えた。その後も様々な楽曲を踊った動画を公開しており、通算視聴者数は同年2月の時点で300万回を超えている。

YouTube 「踊ってみた」シリーズ
『Danceでバコーン!を踊ってみた 岡井千聖(本人)』2010年11月9日投稿
『大きな愛でもてなしてを踊ってみた 岡井千聖(本人)』2010年11月10日投稿
『FOREVER LOVEを踊ってみた 岡井千聖(本人)』2010年11月11日投稿
『まっさらブルージーンズを踊ってみた 岡井千聖(本人)』2010年11月25日投稿
『LOVE 涙色を歌って踊ってみた 岡井千聖』2010年11月25日投稿
『夢見る15歳を踊ってみた 岡井千聖』2011年1月10日投稿
『純情☆ファイターを踊ってみた! 岡井千聖』2011年12月15日投稿
『桜が散りはじめた東京でデビュー曲の桜チラリをメンバー全員で踊りました! ℃-uteメンバー全員』2012年4月10日投稿
『ワクテカ Take a chance を踊ってみた Team 岡井』2012年10月9日投稿

ソロライブ
「岡井千聖(℃-ute)Solo Live 2011 Vol.1 会社で踊ってみた!!」(2011年1月25・26日、岡井の所属する芸能事務所アップフロントエージェンシーの親会社アップフロントグループの本社ビル1階のイベントホール・パシフィックヘブンでの開催、ファンクラブ会員限定)
「岡井千聖(℃-ute)Solo Live 2011 Vol.2 半蔵門で踊ってみた!!」(2011年2月13・14日、東京・半蔵門のイベントホール・WinPa での開催)


 2011年10月15日、東京・六本木のイベントホール・ニコファーレで開催されたダンスイベント『ニコニコダンスマスター3』に、スペシャルサプライズゲストとして℃-uteの岡井千聖と萩原舞が登場した。

 『ニコニコダンスマスター』とは、ニコニコ動画に「踊ってみた」動画を投稿して活躍する踊り手たちが多数出演するダンスイベントで、2010年12月から4回開催されている。その第3回大会となった『ダンスマスター3』には、580組もの応募作品の中から選出された22組の個性的な踊り手たちが出演。大会の模様はニコニコ生放送で中継され、視聴者は20万人。書きこまれたコメント総数は40万以上にのぼった。

 この大会の中盤で、踊り手のじょっぴん、みうめ+気まぐれプリンスの3名が℃-uteの『kiss me 愛してる』を踊り、ワンコーラスパフォーマンスしたのち(歌唱はじょっぴんによる生歌)、突如として本物の℃-uteの岡井千聖と萩原舞が登場してパフォーマンスに参加。
 このサプライズ出演に、踊り手の3名はもちろん、会場にいる約150名の観客と視聴者も驚愕。大歓声とコメント弾幕が途切れることなく続いた。



 こんな感じなんですけれどもね。
 ふつうは一般人が歌手の真似をして「踊ってみた」り「唄ってみた」りするはずの動画投稿サイトにモノホンの歌手が登場するという活動は当時物議をかもしましたが、そういったところからくる岡井千聖という人物の「距離の近さ」を、まず最初に世に問うた実験番組こそが、「岡井さん本人が踊ってみた」シリーズの始まる数ヶ月前にスタートした『岡井ちゃん、寝る!』だったというわけなのです。そして、中断をはさみながらもその両シリーズが2012年10月まで継続されているというあたりに、これらの企画を立ち上げたプロデューサーこと、アップフロントグループ系列社員の宮地修平氏の周到な計画性と岡井さんへの惚れこみようを感じます。
 Team 岡井の企画も、元をただせば『岡井ちゃん、寝る』の一環だったんですね……ほんとに「人に歴史あり」、ですよねェ~。

 さて、こうした流れの中で配信されたくだんの『岡井ちゃん、寝る! 第2回』だったのですが、現在、USTREAM 自体からこれらの番組のアーカイヴを視聴することはできません。したがって、これらを録画した映像が他の動画サイトにアップされたものを楽しむより他に手段はないわけで、私もご多分にもれず、岡井さんと浅からぬ縁のある某超有名動画投稿サイトにアップされているものを観て、今回の『第2回』の魅力にイチコロになってしまいました。たぶん、あれは意図的に「黙認」されてるんでしょうね……あれが2010年7月17日の1時間を目撃した人だけしか楽しめないというのは、ちょっとした日本芸能文化の損失ですよ! 寛大なるご処置、まことにありがとうございます……

 ということで、もちろんYouTube の「踊ってみた」シリーズはすべて現在でも鑑賞可能であるわけなのですが、私が観ることができた『岡井ちゃん、寝る!』放送回は、問題の第2回と、岡井さんの「踊ってみた」にかなりツンツンなツッコミを展開する「℃-uteのダンス番長」こと中島早貴さんがゲスト出演した第5回のみです。第5回のほうもおもしろかったねぇ~!! プロ意識がものすごく高く、それでいて、なんとかハイテンションでダメ出しをかわそうとする岡井さんにはめっぽう弱い中島さんの魅力が大爆発した放送でした。℃-uteはいいグループだ。

 さぁ、いよいよお話は第2回の内容に入っていくのですが、この回での岡井さんは、一貫して以下のような魅力を満身にまとっている、ある種の「なににぶち当たっても怖くない、スターきのこを食した ♪てってってー てってってれってー なパーフェクトマリオ状態」になっていました。
 その魅力とは?


太陽のにおいのするバカっぽさ 岡井少年うたかたのフルスロットル


 これですよね~!!

 あの、「うたかたの」なんて言い回しをしちゃうと、あたかも今現在の岡井さんが2年前の7月17日ほどの勢いをたもてていないんじゃないか、みたいな勘ぐりをしてしまう方がおられるかも知れないので念を押しておきますが、決してそんなことはありません! 今も昔も、アイドル業界における岡井千聖という才能の貴重さはまったく変わっていないのです。
 ただし、前回の Team 岡井に関する話題のときにも触れたとおり、2012年現在の岡井さんはスマイレージやハロプロ研修生といった後進たちの鑑となるべき立場におり、ハロー!プロジェクトの先輩グループのメンバーの中でもズバ抜けて後輩との距離が近い大事な大事な存在になっているのです。もちろん、これは岡井さんの人徳もあるのでしょうが、彼女がしっかりと「歌」も「踊り」も人に教えることができるマルチプレイヤーであるという、厳然たる実力の証左でもあるでしょう。なっきぃにはいろいろ言われてましたが、それから2年たって、岡井さんは後輩たちをしたがえて本家とタメをはれるダンスチームのリーダーになるほどになったってわけ!

 2010年7月とは、まさしくそういった未来の成長のおおもとのおおもと! さまざまな方向への爆発の予感をはらみつつも、まずはひとりで業界のしがらみなんかわれ知らずで「ん~っと、なぁ~にしよっかなぁ~!」とフラフラしている16歳の少女の夏。そういううたかたの季節だったのです。2012年現在っつったって岡井さんはまだ18歳なんですけれども、いろんな経験を積んで大人になったんだなぁ~って雰囲気がもうただよってますからね。アイドルの方は年齢よりもはるかにソフィスティケイトなされてるもんですよ。18歳なんて、そのころの私なんかまだまだ山形弁のぬけきれてないガキンチョでしたよ!? それで30すぎた今でもご覧の通りのインフィニティなんですから。


 さぁさぁそんなわけで、岡井さんがあの夏に惜しげもなく大放出してしまった「太陽のにおいのするバカっぽさ」とは、具体的にはどのようなものだったのか!?
 問題の核心に迫る、あの「奇跡の60分間」の詳細なルポは、また気合いを入れなおして次回に展開させていただきたいと思いまする~。

 いや、これはちゃんと番組のもようを時間軸にして説明しないといけませんからね……じっくりいきますよ。
 わたくしのつたない文章でいかほど岡井さんの魅力が伝えられるのかははなはだ心もとないのですが、それでも当たってくだけろで~い!!

 嗚呼、それにしても、たった2年前なのにどうしてこんなに2010年の夏が遠いのだろうか。
 岡井さんはサッカー日本代表のユニフォームを着た少年であり、ゲストの嗣永桃子さんは「ももち結び」をしておらず、℃-uteとBerryz工房はかろうじてまだ「モーニング娘。の『妹分』グループ」と解釈されており、そのモーニング娘。は伝説の「プラチナ期」のまっただなかで、あの亀井絵里さんもまだまだ現役で活躍していた……あと、岡井さんの妹の岡井明日菜さんもアイドルだった。

 近くて遠い、そんな2010年7月17日についての続きは、また次回のココロだ~。
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観たんだけどさぁ……

2012年10月24日 22時28分20秒 | ふつうじゃない映画
 いや~、どうもこんにちは、そうだいでございます。

 あの、うわさの『アウトレイジ ビヨンド』、ついさっき観て帰ってきたところなんですけれどもね。


……ふつうに、おもしろかったねぇ……

 でも、ふつうすぎて感想が出ないっすね。
 予想通りのおもしろさっつうかなんつうか。思ったとおりの大崩壊劇でしたけども……思ったとおりでしたね、見事に。

 個人的には前作の方が好きだったんですけど。


 なかなか難しいもんで、今回はほめる部分もほめない部分も、高いテンションでお送りできそうにねぇな。

 っつうことで、今日はここまで! いちおう『アウトレイジ ビヨンド』、観るには観たよ~っつう報告だけにとどめてトンズラぶっこくぜ。
 実は最近、体調もあんましかんばしくないもんですし明日も仕事で早いんで、全面的な「後方前進」で逃げ切りだ~い。


 宣伝でよくやってる、たけしさんがタンカを切ってるところは良かったね~。

 そんだけ! そんじゃまた、バッハハ~イ☆
 たまにゃあこんな字数もいいでしょう。フレッシュふれっしゅ。
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緊急事態発生!! 安心して楽しめる感動作のはずが  映画『ツナグ』

2012年10月19日 23時37分48秒 | ふつうじゃない映画
 ぺりどっと~ぺりどっと~。どうもこんばんは、そうだいでございます~。みなさま、今週も一週間お疲れさまでした! 年の瀬もいよいよ近づいてまいりましたなぁ~。

 『ワクテカ Take a chance』、ウィークリーチャート3位ですか。ああそうですか。私としましては文句なしの3ヶ月連続トップ確定なんですけどね。
 でもあれですよ。どうしても「1位じゃなくて残念だ!」っていう気分にはなれないんですよね。だって、1位と2位がアレとアレでしょ? なんか世界が違いすぎるというか、負けた勝ったとかいう話にならないんですよ。
 どこからどう見ても『ワクテカ Take a chance』がいちばんだと思うんだけどなぁ……まぁ、1位はいずれとれるでしょ。ってかもう、あんな有名無実もいいとこなヒットチャート、無視しちゃおっか。

 ところで、これは恨み節じゃなくて本気でふしぎに感じていることなんですが、「歌手の福山雅治さん」って、女性の中のどんな方々が指示してるんですかね。少なくとも断言できるのは、男性で好きな人はゼロに近いってことなんですけど。いや、ラジオパーソナリティとか俳優としての福山さんの人気はまったく別ですよ?
 その男性像は幻想だと思うんだけどなぁ……余計なお世話なんですけど、現状のままでいくと将来、福山さんご本人が唄わなくなった後、福山さんの歌を唄う人は誰もいなくなると思いますよ。福山さんにかぎったことじゃないですけどね! それって、歌にとっては非常にかわいそうなことじゃないでしょうか。「歌」というものが戦う相手は、初リリース時の経済市場じゃなくて「時間」「時代」だと思うんですけどね。その気概がなければ名曲にはならないと思います。なにをいっぱしのつらしてしゃべってんでしょうかねぇ、私!

 え? 『ワクテカ Take a chance』? これは間違いなく名曲ですよ! 1人で唄うのムチャクチャ難しいけど。
 まずとにかく、「年間4シングル」というハードスケジュール、お疲れさまでございました~。来年2013年もよろしくお願いいたしまっす。


 さてさて、お話かわりまして、今回は最近観た映画についての雑感しょうしょうでございます。


映画『ツナグ』(2012年10月公開 監督・平川雄一朗 主演・松坂桃李 129分 東宝)


 きたきたきた~! 観てきましたよ、ついに!

 私の愛する辻村深月先生の原作による初映画化作品。「映像化作品」ということでは、今年2012年の1~3月に NHK総合で放送された『本日は大安なり』(連続ドラマ 全10回)以来2作目になりますね。『本日は大安なり』のドラマは、結局まだ1秒も観られておりません……

 2004年のデビューから現在にいたるまで、けっこうなハイペースで長編小説を中心にパワフルな執筆活動を続けておられる辻村先生なのですが、私としましては、ことここにいたって「やっと」映画化作品が世に出ることになった、という思いがありますね。
 ところで、この映画『ツナグ』はパンフレットによりますと2012年の3~5月に撮影されたとのことでした。つまり、辻村先生に関して世間的には今のところ最もホットなニュースになっている、7月の直木賞受賞よりもだいぶ前に映画化の話はズンズン進んでいたということになるんですね。
 ここですよ……こういう、本人や周囲のみなさんが策を張りめぐらすわけでもなく、ごくごく自然の流れとして直木賞受賞の報がすべり込んできて、映画『ツナグ』にたいする期待のボルテージが上がっていくと! この流れがいいのよねぇ~。まさしく「天運」。きてるきてる、先生きまくってますぞよ~。

 ということで、映画の脚本が仕上がる段階では、「あぁ、あの辻村深月の!」という効果がここまで上昇するとは製作スタッフ陣も予想していなかったのではなかろうかと思うのですが(無論のこと、前からすでに超有名ですけど)、「原作の内容を重視した」この映画のスタイルも、最近の辻村先生の活況に華をそえるものになったのではないでしょうか。

 そうなんです。映画『ツナグ』は、2009年9月~10年6月に連載されて2010年10月に刊行された原作小説『ツナグ』の内容をほぼ忠実に映像化したものとなっています。そういう意味では、原作の味わいをかなり親切にくみとった映画になっているんですね。

 んでまぁ、その「原作の味わい」というのが一体なんなのかといいますと、それはもちろん本を読んだ方それぞれの解釈でとらえていいことだとは思うのですが、私がいちばん感じたのは、「人と人とのつながりの温かみをもう一度たしかめてみよう。」と、こういうメッセージなんじゃなかろうかと、原作を読み終えたときに感じていたんですね。

 『ツナグ』にかぎらず、辻村先生のすべての作品を読んで感じるのは、登場するキャラクターに必ず「読者の記憶の中からなにかを引っぱりだす」キーワードがあるというか、「あれっ、この人、どこかで見たことがある……」と思わせる体温があるということなんですね。それは会社の同僚なのかもしれないし、一緒に住んでいる家族なのかもしれないし、いっしょにバカ笑いをした親友なのかもしれないし、部活であこがれた先輩だったのかもしれないし。
 そんなふうに思い出す「なにか」の中でも、特にドキッとするのが「あ、この人……私だ。」と思わせる描写が差し込まれていたりした時の辻村先生の筆のするどさですね。ことここにいたって、辻村ワールドは並みのホラー映画よりも恐ろしく、並みのエンタテインメント映像よりも心を揺さぶる強烈な語りのパワーを発揮します。そして、それらの効果を映像をいっさい使用しない形で読む人の心に引き起こすというところが、小説家・辻村深月のオンリーワンなところなんじゃないかと思うわけなんです。

 最近の小説家の中では、わかりやすい情景描写やスピーディな登場キャラクターのアクションでスラスラ~ッと読ませ、アッという驚きのどんでん返しで読者の意表をつく、それこそ海外の軽快な娯楽映画をそのまま小説にしたかのような作品がうけているようで、それらは確かに読みやすく、単純にスカッとした気持ちになるので人気が出るのももっともなことだと思います。
 でも、そういうのって、読んだあとに「おもしろかった~」ってことしか頭に残らなくて、私としましてはな~んか、もともと私が好きな三島由紀夫とか太宰治とか中井英夫とかが並んでるマイ本棚におさめるのは躊躇しちゃうんですよね! 「いや、いっしょじゃねぇよな。」みたいな。

 その点、辻村先生は、そりゃあまだ若いし、出版ペースもむちゃくちゃ早いのですが、1作1作、力をぬかないでちゃんと自分の中の血肉を小説の登場人物たちに分け与えて作品を「産みおとしている」エネルギーが感じられるんです。
 そして、当然ですが辻村深月は小説家であるとともに1人の人間であるわけなのですから、そこから誕生する物語もただおもしろいだけではなくて、読む人に人間だからこそ起きるさまざまな感情の揺さぶりをしかけてくるものになるのです。そのために、ある展開では読み進めるのがしんどくなるくらいに気が重くなるイヤ~な空気が充満するし、ある展開では「こいつ……サイテー!」とムカムカッときてしまう人物に遭遇してしまうわけなのです。でも、それが実際に私たちが生きている世界なんですよね。
 脱線しますが、最近第一線で活躍している辻村先生と同年代くらいの作家さんの多くは、なんか「自分の手を汚さずにきれいに完成された小説を提示したい」みたいな気持ち悪いプロ意識って、ありませんかね。いやいやそんなあなた、村上春樹じゃないんですから。もっと身を削れ、削れ~。

 やがて、そういった物語も最後には必ず小説家の手によって、つまりは、そういう苦しみを知っている生身の人間・辻村深月の手によって終焉を迎えることとなります。そこがまぁ、ホントに神様がいるのかどうかが確かめられない現実世界との違いなのですが、辻村ワールドは必ず辻村先生の手によって読者も登場キャラクターも双方が納得する結末をむかえるのです。衝撃と感動とがないまぜになったクライマックスが訪れて物語は去ってゆきます。毎作毎作、辻村先生はここらへんの安心感もものすごいんだよなぁ。だからこそ、また再び厳しい試練の物語が始まるのだとしても、次の作品との出会いが楽しみになるってもんなんです。


 さてさて、そんなもろもろを勝手に考えていた私にとって、今回の「『ツナグ』映画化!」の報は、「うむ、まぁ、そんなとこですか。」といったものでした。映画化というのは確かに素晴らしいニュースですが、意外とフーンってな感じだったんですね。

 なぜならば、原作の『ツナグ』は辻村ワールドの中でも比較的ソフトというか、わかりやすい作中のルールにのっとった「救い」がほどこされる、ファンタジーでエンタテインメントな作品だと感じていたからなのです。

 原作『ツナグ』は、「死者を一晩だけ復活させて、生きている人に会わせることができる」というふしぎな能力を持った仲介人「ツナグ」を名乗る青年を中心に、彼に死者との再会を依頼する4人の男女、そして最後に青年自身を主人公とした物語を用意して構成されている「全5章の連作小説集」という形式をとっています。最終章を別にすると、それまでの各4章の登場人物は、基本的に別の章の登場人物とはまったくかかわりのない独立した短編のようになっています。要するに、「ほぼオムニバス形式」という形態をとっているんですね。

 そして、今回の映画『ツナグ』で映像化されたのは「第2~最終5章」の内容ということになっています。原作の第1章「アイドルの心得」が今回カットされた理由はいろいろあるのでしょうが、私の勝手な解釈では、第1章の登場人物のひとりが実在されていた有名人のイメージを強く呼び起こすものになっていたため、彼女ご本人の記憶が観る側にいまだに色濃く残されている現状で、それを別の俳優が演じるのは得策ではないという判断があったからなのではないでしょうか。なんか、ものまねショーみたいになったら作品全体のスケールも小さくなってしまいますからね。
 今のこの文章で、まだ原作の『ツナグ』を読まれていない方、第1章が読みたくなったんじゃないの~!? ほれほれ、読んでみ読んでみ~♡

 ともあれ、この製作スタッフの判断によって、映画『ツナグ』はそれぞれ文庫本にして100ページ前後の「4つの物語」を映像化するということになったのです。

 こういった作品を忠実に映像化する場合、ふつうはそのまま原作小説の記述の順番に4章をつづっていく「オムニバス映画」の形をとるのではなかろうかと私はふんでいたのですが、平川雄一朗監督はあえて、それぞれのエピソードを同時進行でスタートさせながら映画全体の物語をつむいでいくという手法をとっていました。これによって、最終章の主人公となる青年(演・松坂桃李)とその祖母(演・樹木希林)のキャラクターがより丁寧に観る側に伝わってくるという効果があったかと思います。ただし、ちょっと映画の序盤に一斉スタートする視点の数が多くなって情報がゴチャゴチャしてしまい、特にツナグに出会わない時点から始まっている第4章の主人公(演・佐藤隆太)が、なぜこの映画に出ているのかがちょっとわかりづらい印象になってしまっていたような気もしました。

 余談ですが、原作小説では名前が明確にされていなかった「使者との再会ができる東京・品川の高級ホテル」は、映画の中では「品川ロンドホテル」という名前がついていました。
 「品川なのにロンドン!? 島国根性丸出しでや~ね~!」と感じるのは早計でして、これはおそらく、世界のオムニバス映画の中でも指折りの傑作と言われる1950年のフランス映画『輪舞(りんぶ)』(監督・マックス=オフュルス 出演・ジェラール=フィリップら)を意識した映画製作スタッフのお遊びかと思われます。『輪舞』っていうのは、19世紀末のウィーンの小説家アルトゥール=シュニッツラーの戯曲『ロンド』を映画化したものですね~。
 あと、『有頂天ホテル』もそうでしたけど、「役者がいっぱい出てきていろんなエピソードが同時進行する映画」のことを意味する「グランド・ホテル形式」という用語の語源となった『グランド・ホテル』(1932年)の例をあげるまでもなく、群像映画の舞台に高級ホテルが使用されるのはもう、伝統なんですよねぇ! こちらはおそらく、設定を考えたときの辻村先生の「つながり発想」でしょう。


 さぁ、ここからやっと映画の内容に入っていくのですが、物語は原作の通り、時を経ても変わらない「母と息子」のつながりを描く原作第2章のエピソード「長男の心得」、愛憎半ばする「親友」のつながりを描く第3章「親友の心得」、秘密を抱えて去っていった恋人との再会に苦悩する男を描く第4章「待ち人の心得」、そして、死者と生きる者とのあいだに立つ役割をになう青年と祖母の「家族」のつながりを描き、新しい物語のはじまりを予兆する最終章「使者の心得」。それぞれをしっかりと映像化したものとなっていました。

 最初の、亡くなった母親とすっかり一家の大黒柱となった長男との再会を描いたエピソードは、とにかくまぁ母親を演じた八千草薫さんの「たたずまい」が素晴らしかったですね! もちろん、「死んだはずの母ちゃんが……」という、長男を演じた遠藤憲一さんの、疑いから一転してうれしさで胸がいっぱいになる演技も見事なものではあったのですが、それ以上に、たった一晩とはいえ、「母ちゃんに会いたい」という息子の言葉を受けてこの世に戻ってきた八千草さんの、全身に満ち満ちた「喜び」のエネルギーが素晴らしかったんですね。もちろん、ハイテンションになってきゃっきゃするという単純な演技ではなく、物静かに息子との再会に接しています。しかし静かではあるのですが、間違いなく物語のルールにのっとって「もう二度とできない息子との再会」という貴重な時間をしみじみ楽しんでいるリアリティがそこにはあったんですよね。
 これが大女優というものなのか……「死んだ人」という役柄を、ちまたにあふれる凡庸なイメージではなく、あたかも菩薩様のようなあたたかなオーラで演じきってしまわれた!! 驚くべきナチュラルさ、驚くべき包容力の豊かさ。言うまでもなく私の肉親は八千草さんのような容姿でも世代でもありませんが、そんなことはとっぱらって、観客全員の母親を思い起こさせる「なにか」を八千草さんは実にかろやかに身にまとっていました。エンケンさんは……ちょ~っとああいうキャラクターのおじさんにしてはカッコよすぎるかなぁ!?

 「死んだ人を活き活きと演じる」という逆転にこそ輝く真理。まさしくこれですよ。『バイオハザード』シリーズのゾンビ連中も、ちったぁ八千草薫さんを見ならえ、コノヤロー!!


 さて、こういう感じで1人1人の演技をつづっていってもいいほど、映画『ツナグ』の出演俳優陣は充実しまくっていました。主演格の松坂桃李、樹木希林はもちろんのこと、各エピソードの主人公、脇を固める桐谷美玲、大野いと、仲代達矢、浅田美代子。みなさんかなり気合いの入ったお仕事をしてくださっていたと思います。


 ところが、その緊急事態は映画中盤で発生してしまった。


 今回の映画『ツナグ』の場合、やはり、最終的にいちばん大きな感動はラスト、「ツナグ」という立場を祖母から確かに受け取って歩き出していく青年の成長した姿でなければならなかった。もちろん、そこにいたるまでの「親子」「親友」「恋人」「家族」というそれぞれのキーワードにまつわる感動も用意されているわけなのだが、作品全体としては、それらを見届けた上での青年の決断に最大のクライマックスをもってこなければならなかったのである。

 しかし……中盤、「親友の心得」パートの主人公たる、ある女優の演技がとんでもない異常事態を誘発してしまった!
 その異常事態とはすなはち、「中盤の彼女の演技がもんのスゴすぎてそれ以降のエピソードを喰ってしまい、作品全体のバランスがぶっこわれちゃった」!! とんでもハップン歩いて2分。

 映画の進行としては、その「親友の心得」のあとに佐藤隆太エピソードと松坂&樹木ペアのエピソードが続くという流れだったのだが……そこに行く前に観客の度肝を抜き去っていってしまった恐るべき女優とは、なにやつ!?


その名は、橋本愛。


 いんや~。おらァもう、ビックラこいたずら。熊本県出身の16歳ですか。これが「肥後もっこす」のポテンシャルというものなのか。肥後もっこすって、字ヅラにすると予想以上におもしろいね。

 これ、私だけの偏見じゃありませんよね? 映画を観たみなさんが全員そう感じましたよね!
 そうなんです、他の皆さんの演技も素晴らしかったんですが、この橋本愛さんの演技はそれらをブッコ抜いて冴え渡りまくっていたんです。その冴え、あたかも冬の快晴時における北海道・摩周湖の湖水透明度の如し。わかりづら~!

 問題の橋本さん演じる女子高生の美砂は、同じ演劇部に所属している親友の奈津にオーディションで次回公演の主役の座を奪われてしまったことから彼女に憎しみの感情をいだくようになり、まさに「魔がさした」と言うべきなのか、下手をしたら奈津が怪我をして公演に出演できなってしまうようないたずらを通学路にしかけてしまいます。これまでは唯一無二の親友だと思い込んでいた奈津だっただけに、他ならぬその彼女が、演劇部エースである自分から主役の座をかすめとっていってしまったと受け取った美砂にとっては、「裏切られた」というショックが大きすぎたのです。
 ところが、翌日に登校した美砂は、奈津が通学途中に大事故に巻き込まれて搬送先の病院で死亡してしまったという恐ろしすぎる事実に直面してしまいます。
 「自分が奈津を殺してしまったのか?」受け入れがたい疑惑に美砂は身を焦がし、その上、病院で死を目前にした奈津が美砂の名を口にしていたという話を奈津の母親から聞いてしまいました。
 「自分が殺そうとしていたことを奈津は知っていたのか? それとも、奈津は死ぬ直前まで自分のことを親友だと信じ続けていたのか……」
 なかば錯乱状態におちいってしまっていた美砂は、学校で広まっていた「死者に会わせてくれる使者」の都市伝説を思い出し、死んだ奈津に会ってその真意を聞き出すためにインターネット上に散在する「ツナグ」の情報を調べだし、そしてついに……

 だいたいこんな感じが橋本さんの登場する「親友の心得」パートのおおまかなお話なのですが、わたくしのつたない説明でもおわかりいただけるとおり、橋本さん演じる主人公格の美砂という少女は非常に「むつかしい役柄」です。ヘタな女優が担当してしまえば好感のひとつも喚起しない、自己中心的で単純で猜疑心の強いおろかなキャラクターになりかねないわけなんですから。ただし、逆に言ってしまえば「そういう小人物」が主人公であるという、『ツナグ』全体の流れの中でのワンクッションになってもいいわけなのです。事実、原作『ツナグ』でも美砂はひたすらに思い込みのはげしい高慢チキな印象が強く、その結果としてあまりにも残酷な「あの夜明け」を迎えてしまうわけなのです。

 ところが! 演じた橋本さんは「そのくらいの高校によくいそうな女の子でいいよ~。」という低いハードルを軽く蹴飛ばして、いつもどおりの楽しい学校生活の日々が一転、「親友の奈津が自分と同じ主役のオーディションに立候補した」というほんのささいな出来事から何もかもが信じられなくなるという、「異常すぎるほどに繊細な神経の持ち主・美砂」という部分に精巧なガラス細工を作り上げるような手つきでいどんでいく茨の道をえらんだのです。いや、女優・橋本愛の稀代の感性があえてそういった困難の道を歩ませることになったと言うべきか。

 奈津がオーディションに立候補したという事実を知ったその瞬間から、美砂の目つきは常に引きつってつり上がるようになり、肌は血の気のうせた蒼白に、声は自分で自分を抑え込むような低さになってしまいます。冷たい、キツい、こわい!!
 そのネガティブな態度は、奈津が美砂をおさえて主役になってしまったことでさらに硬化してしまい、そのあまりの恐ろしさに「どうして……?」と思わず涙してしまった奈津にもやわらぐことはありませんでした。
 そして、そんなある日に奈津が突然の死を迎えてしまったという思わぬ悲報から美砂の心境は急転直下、奈津との思い出や他人の非難の視線の幻覚にしじゅうまとわりつかれる狂乱のていにもろくも崩壊していってしまいます。

 ここからの橋本さん演じる美砂の修羅の表情はまさに「鬼気迫る」ものがあり、特に奈津の通夜の席で、彼女の母親から「娘があなたの名前をベッドでつぶやいてたわ。なんでか、知ってる?」という話を耳にした時の美砂は、あたかも壊れた西洋人形でもあるかのように表情が凍りついて視線が泳ぎに泳ぎ、全身をこきざみに震わせながら、

「あば、あばばばばばば。」

 とまでは言わないものの、心中の混乱度は間違いなくそのくらいのレベルで「しし、知りません!」とあえぎあえぎつぶやくのです。失神もしくは失禁の一歩手前という極限状況をここまでの気迫をもって演じられる女優、そうそういませんよ!? 『シャイニング』(1980年)のシェリー=デュヴァル以来じゃないですか? ほめ言葉になってねぇ~!

 これはたぐいまれなる橋本愛さんという逸材の、映画『ツナグ』における奇跡的な演技のほんの一部しか紹介していないわけなのですが、これらのような異常なまでの緊張感をみずからに強いているからこそ、ホテルでの奈津との再会や、その結果として選んでしまった「逃れることのできない罪を背負って明日から生きていく」という残酷すぎる道に慟哭してしまう美砂の姿に、映画を観る人の心ははげしく動かされてしまうわけなのです。
 おろかな小人物というキャラクターは、逆に言えば映画に出てきそうな理想化された登場人物たちよりもよっぽど「生身の人間っぽい」ということになるのではないでしょうか。つまり、『ツナグ』の中で重すぎる十字架を背負ってしまった美砂の姿に、観客は「今となっては謝ることができなくなってしまった、あのときのあのひと」の姿を忘れ去ることができないでいる自分自身の姿を投影してしまうのです。
 人間、長く生きていれば「思い通りにならなかった別れ」というものもあるわけなんですよね……でも、それこそが人を大きく成長させるきっかけになるとも思うんです。

 ところで、原作『ツナグ』でも、美砂は「あの夜明け」を迎えたあとで何度か「ツナグ」の青年と出会っています。そのあたりは映画『ツナグ』でもほぼ同じように映像化されているのですが、実は映画のほうでの美砂と青年とのやりとりでは、最後にたった一ヶ所だけ、原作にはなかった青年の質問と、それに対する美砂の返答が差し込まれています。
 これ自体はまったく作品の出来を損ねるような蛇足ではないのですが、小説という形式が好きな私にとっては、いかにも「言わずもがな」な確認作業以外の何者でもありません。最後のこのやりとりはまったくもって、辻村ワールドの中では「行間で感じ取ればいい」空気の部分であって、美砂という人間をあそこまでに立体化した橋本さんのまなざしがあったら、セリフになる必要はなかったはずなのです。
 でもたぶんね、ここをちゃんとセリフにしてわかりやすい演技のやりとりにしないといけないのが「映画」という形式なんですよね、きっと。思わぬところで、

「肝心なときにこそセリフを使わない辻村ワールド」と「肝心なときをセリフで説明する映画」

 という両者の明白なちがいを見いだした気がしました。
 余談ですが、「両者のちがい」といえば、原作小説で美砂と奈津のいる演劇部が上演することになっていたお芝居は三島由紀夫の『鹿鳴館』(1956年)だったのですが、映画のほうではチェホフの『桜の園』(1903年)に変更されていました。ここらへんも、それぞれの個性をうまく体現していておもしろいですね~! どっちにしても、いい高校だ。


 またしても字数がかさんできましたのでそろそろまとめに入りますが、残念ながらこの橋本愛さんのエピソード以降に用意されている佐藤隆太さんと松坂・樹木ペアのエピソードは、もちろん各自ちゃんと独立した感動が味わえることは確かなのですが、橋本さんの入魂の2~30分間をくぐり抜けた直後では、いささか落ち着いてしまった感があります。特に佐藤隆太さんのやっていた役は、佐藤さんよりももっと「モテない感じ」のあるくたびれたおじさんが演じたほうがもっと味わいがあってよかったんじゃなかろうかと思うんですけどね。

 なにはともあれ、映画『ツナグ』は間違いなく必見の感動作です! 上にあげたような(私としては超うれしい)番狂わせのために、私個人の印象としては、ちょっと全体のバランスが崩れて上映時間を長く感じてしまう作品になりましたが、それだけさまざまなかたちの感動が詰まった充実の1作であったとも言えます。
 ただ、感動させるだけはでなく、世界の大部分が思ったよりも「生きている人間の思い込みや願望」で成り立っていること。そして、ツナグの使命が死者をよみがえらせることではなく「生きる者を救うこと」であるという原作の意図をしっかりとくみ取っている構成にも大きく感じ入りました。勝手に原作ファンを自称している私にとっても、今回の映画化は大いに当たりでしたよ!


 ここまできてしまうとついつい欲ばって想像してしまうのが「次回作」なのよねェ~。
 でもさぁ、辻村ワールドの映像化は、そりゃあもォ~大変ですよ。
 個人的には、『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』とか『スロウハイツの神様』とか『太陽の坐る場所』とか~?

 別に、映像化された辻村作品がもっと観たいのではありません。
 そうじゃなくて、「辻村作品の映像化に挑戦するような気骨を持った製作スタッフや俳優たちの仕事が観てみたい」ということなんです。もんのスンゲ~難しいんだぜ~。

 それこそ、今回の橋本愛さんみたいな天賦の才を持った人物でなければいかんわなぁ。
 橋本さんが再び、別の名前をたずさえて辻村ワールドに登場する日を、今から首を長くして待っておりますぞ~。

 まぁまずは、まだ東京でやってる『桐島、部活やめるってよ』、観に行くかぁ~!
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