『奏(騒)楽都市 OSAKA 』(1999年 メディアワークス電撃文庫)
『奏(騒 正式な表記は「騒」の上に「奏」が乗る作者の創作漢字)楽都市 OSAKA 』(そうがくとし おおさか)は、川上稔の「都市シリーズ」の第4作。前作『風水街都 香港』に続く上下2巻組み大長編。
異世界の都市・大阪を描いた小説、およびプレイステーション用ゲームソフトである。両者は同じ世界観を共有しているが、ゲーム版が小説版の続編にあたるという関係にあり、どちらかがどちらかの原作という関係にはない。
あらすじ
時は1996年12月。舞台は学生達が全ての主導権を握り、かつ東西で勢力が分裂してしまっている日本列島。
西日本の首都・大阪はかねてよりの計画、「言詞加速器 IXOLDE(イゾルデ)」を完成させ、最強神器の開発を行おうとしていた。
だがその最強神器を狙い、東日本の首都・「矛盾都市」東京の総長連合が大阪へと侵攻してくる。
そしてまた、時を同じくして一人の少年が大阪へとやって来た。
少年の名は陽阪勝意(ひざか しょうい)。大阪に伝わる秘伝において「近付く事を許すな」とされる、「己の詞を持たない少年」だった……
用語
大阪圏(おおさかけん)
西日本の中心都市・大阪のこと。
1983年(物語の13年前)に起きた「近畿動乱」以来、東日本と敵対している。IXOLDE による最強神器の開発を長年の悲願としており、本作での戦いはそれによって巻き起こったもの。
古都圏(ことけん)
西日本の主要都市・京都(京都圏)と、奈良(奈良圏)が1970年に併合してできた都市圏のこと。
西日本の有力な都市圏の一つで、特に南大門神社は古都圏の総意に強く影響する勢力である。その南大門神社の主張もあって、大阪圏のIXOLDE 完成と最強神器開発に反対しており、今回の開発立ち会いも監視としての意味あいが強い。
名護屋圏(なごやけん)
中日本の主要都市・名古屋のこと。戦国都市(タービュレントシティ)・名護屋。
日本の東西を分ける位置にあり、常に実戦や情報戦が繰り広げられる激戦地域として知られる。比較的大阪圏に協力的であり、今回の最強神器開発にも他意無く立ち会った。
圏内には、13年前の「近畿動乱」で「言詞爆弾」が投下されたために「言詞構造」が破壊された砂漠地帯「詞変線(オルタード・ライン)」が存在している。
東京圏(とうきょうけん)
都市世界における東日本の首都・東京のこと。矛盾都市(ゼノンシティ)・東京。
東日本の中心であり、近畿動乱以来、大阪とは敵対を続けている。
この東京を舞台としたのが、「都市シリーズ」第7作『矛盾都市 TOKYO 』(2001年)である。
冬に咲く桜並木
略して「冬桜」とも。大阪圏のどこかにあるとされる並木道。
近畿動乱の引き金となった場所で、近畿動乱中には大阪圏・東京圏の総長が「全ての不幸」と呼んでいた。東京圏総長連合副総長の葵聖が探している。
総長連合(そうちょうれんごう)
日本の各都市に存在する、学生達の自治組織。
作中の日本列島では、学生紛争の激化による国力の減衰を抑制するために、成人社会と学生社会との全権相互不可侵を取り決めた「校則法」が施行されている。
全員が各都市最寄りの「御山(おやま)」で修行を積んだ学生であり、学力・戦闘力ともに一般の学生を遥かに超えている。総長と副総長を中心とし、副総長補佐や特務隊長などの役職が存在している。
御山(おやま)
総長連合の幹部を育成するための機関。
通常は半年の修行を経て、適性の有無が判断される。あらゆる面で能力の優れた者が集まっており、落第者でも大学卒業以上の学力を持つ。
大阪圏総長連合
現在はIXOLDE による最強神器開発を計画している。総長は難波総一郎、副総長は平野某(登場せず)、第一特務隊長は崎誠次。
古都圏総長連合
IXOLDE や最強神器の完成に反対している。総長は古都圏守護役を兼任する結城夕樹。
南大門神社(なんだいもんじんじゃ)
奈良時代以来、「平城京」「長岡京」「平安京」といった畿内地方の首都の南を守護し続けてきた、奈良県大和郡山市内の小高い丘にある大きな神社。付属学校も存在している。
ここの筆頭である古都圏守護役は都市に根付く無量の心霊と対話する者であり、朱雀四十式を操る事もあって、古都圏において強い発言力を持つ。
名護屋圏総長連合
比較的、大阪圏に協力的である。同圏の生徒会とは折り合いが悪い。総長は山下妙子、副総長は市村雄生、第一特務隊長は霞隆一。
東京圏総長連合
最強神器を狙い、大阪圏へと侵攻してくる。総長は中村久秀、副総長は葵聖、第一特務隊長は池丸孝弘。
近畿動乱(きんきどうらん)
1983年に発生した、東西日本の学生が敵対するきっかけとなった事件。大阪圏と東京圏の双方の総長が犠牲になって終結した。
和解動乱(わかいどうらん)
本作における一連の抗争の通称。
技能(テック)
教育機関によって取得できる、肉体や精神の専門技能のこと。
特定の一動作を特殊能力のレベルにまで昇華させたものであり、無数の分野に体系化されている。これを発動させる事によって、ある程度の物理法則を無視して自身の行動・意思を制御する。
神器(リズム)
神器の遺伝詞が宿った歌詞の無い音楽。その発動には個人の詞と、その音楽を込めたMD が必要である。
右神器、左神器、重神器の三種が存在しているが、右神器以外の種は非常に数が少ない。なので主に右神器とその能力を指す。その強さによって「神(ハイ)」「帝(ミドル)」などと段階付けされ、その能力の内容を示す漢字一文字と繋げて神器の名前とする。
右神器(オーバーリズム)
一般的な神器。
左神器(ワインドリズム)
原始的な種であり、MD を必要としない。攻撃力が非常に強い。
重神器(ヘビィリズム)
左右の神器とは全く異なる種。強大な能力を秘めているが、それを扱える者は非常に少ない。
草薙(くさなぎ)
大阪圏総長連合総長・難破総一郎が使用する左神器。日本神話に由来する強力な切断能力を持つ。
炎神(えんじん)
IXOLDE が開発した最強の神器。重神器としての名は「八又(やまた)」、荒神と併せて「二極神器」と称される。
物体、術を問わずあらゆるものを貫通し、触れたものを絶対的に燃やし尽くす炎を生む。
荒神(すさがみ)
重神器としての名は「十拳(とつか)」。あらゆる神器の効果を打ち消すことができる、攻めではなく護りのための重神器。
詞(ことば)
各人の遺伝詞から導き出される、個性を表現する詩。神器を発動させる際に用いられる。
己の詞を持たない少年(ディスワーダー)
何らかの要因によって己の詞を失った者の総称。己の詞を持たないがゆえに他者の詞に影響され易いが、低威力ながらもあらゆる右神器を使用できる。
殺活者(キリングホルダー)
総長以外で殺人を犯した学生に与えられる異名。
登場キャラクター
陽阪 勝意(ひざか・しょうい)
本編の主人公。字名「己の詞を持たない少年」、戦種「近接格闘師(クリティカルフォーサー)」、舞闘「南大門無手派」。
飄々としたいい加減な性格で、かなりエロい。しかし夕樹のことになると必死になる意思の強さがある。元南大門食客で、夕樹の恋人になる。しかし「勝意が夕樹を護る」という約束を守れず、強襲してきた山下義兵を夕樹が殺害して以来、別れている。その時の負傷が額に残っているため、常にバンダナをしている。15歳から2年間、御山で修行するも総長連合に入れなかったという経歴を持つ。かつて西日本中学空手選手権で優勝した経験があり、予備動作無しで5m 以上の跳躍技能ができる。
山下義兵死亡の直前に負傷で気絶しており、夕樹の義兵殺害に関する記憶が無い。そこに隠された事実があるらしい。
結城 夕樹(ゆうき・ゆうき)
古都圏総長・古都圏守護役。字名「殺括者」、戦種「遠隔神術師(エナジーガンナー)」、神器「水神(アクア・ハイ)」「凍神(コールド・ハイ)」「霊帝(ガイスト・ミドル)」、舞闘「南大門神術派」。
寡黙で冷徹な性格で、排他的な態度を崩さないが、今のようになったのは勝意が約束を守れなかったためだとされている。かつては勝意の恋人だったが、現在は別れている。守護役として心霊と対話する能力を持ち、総長として戦闘兵器「朱雀四十式」と「鳳星」を操る。右目は山下義兵に潰されたため、朱雀四十式を操るための義眼「鳳凰」が移植されている。
勝意との別れ、義兵殺害にある事実を隠している。
難波 総一郎(なんば・そういちろう)
大阪圏総長。字名「鬼沈め」、戦種「近接武術師」、神器「草薙」、舞闘「紫電流改」。
平安時代中期に都に巣食う鬼を退治したという武将・渡辺綱(953~1025年)の末裔。
寡黙にして無骨、実直な性格。2年前にIXOLDE の暴走で生まれた鬼と戦った際に四肢と右目を失い、現在はそれらの義体を装着している。大阪圏総長として、IXOLDE による最強神器開発を先導する。
山下 妙子(やました・たえこ)
名護屋圏総長。字名「竜后」、戦種「全方位義体師(スチールマスター)」、神器「雷神(サンダー・ハイ)」、舞闘「我流」。18歳。
快活であっけらかんとした性格で、人なつっこい。山下義兵の妹で、同じ詞を持つ。義兵を殺した夕樹を恨んでいるが、勝意の彼女に相対する主張から、自分の意思は抑えている。御山での勝意との試合中に右腕を失ったため、大八竜帝を装着している。
崎 誠次(さき・せいじ)
大阪圏総長連合第一特務隊長。神器「圧神(プレッシャー・ハイ)」。
公私共に難破総一郎を支える。槍術技能を得意とする。勝意を「己の詞を持たない少年」であるとして危険視した。
市山 雄生(いちやま・ゆうせい)
名古屋圏副長。西日本空手無差別級一位。神器は「爆神」。両腕と眼を義体化し、強化内臓を呑んでいる。
霞 隆一(かすみ・りゅういち)
名古屋圏総長連合第一特務隊長。爆神神器とナイフの投術を得意とする。武闘は「裏五家流」。
結城 繊雅(ゆうき・せんが)
夕樹の祖母で、元御山・高野山教官長、関西寺社連盟長。大阪一の槍使いと言われたが、13年前に引退している。現在67歳。
中村 久秀(なかむら・ひさひで)
東京圏総長。神器も技能も使えないがゆえ、「奏音の領主(ホワイトノイズ)」としての能力を持つ。舞闘は「伊庭式」。
近畿動乱の際に東京圏総長だった姉・緑の遺した神器を奪うため、また、予言を果たし王になるために大阪に侵攻する。
東日本空手無差別級一位。
高田 清犠(たかだ・せいぎ)
「速読歴(ファストリーダー)」の字名を持ち、他人の唇から予言を詠むことができる。
狗神使いであり、自身の遺伝詞から生まれた狗神・太郎丸を連れている。太郎丸は敵意に反応し、彼女を護る。
久秀の恋人。孝弘の従姉妹でもある。
太郎丸(たろうまる)
狗神。七十二の分身を持ち、主の意志を通訳する。
葵 聖(あおい・ひじり)
東京圏副長。全方位格闘師。神陰流の継承者。
かつて両親が見たという「冬に咲く桜」を探している。孝弘の恋人。
池丸 孝弘(いけまる・たかひろ)
東京圏総長連合第一特務隊長。言霊師(ワードマスター)。舞闘は「帝式真呼流」。
清犠の従兄弟であり、過去に彼女の遺伝詞から狗神を生み出した。
伊庭 優明(いば・まさあき)
御山の教員で、近畿動乱時の大阪圏第一特務長。久秀の師匠。繊雅の元教え子。
岩井 参蔵(いわい・さんぞう)
豪商・法善寺家の執事長で、難波総一郎の有力な擁護者。大阪圏最大の情報網を統括している。前・法善寺グループ特殊部隊部長。
山下 義兵(やました・ぎへい)
山下妙子の兄で、かつての名護屋圏総長。結城夕樹との果たし合いで殺されている。
中村 緑(なかむら・みどり)
中村久秀の姉で、かつての東京圏総長。13年前の近畿動乱で死亡している。繊雅の元教え子。
久木 右大(くき・うだい)
かつての大阪圏総長。13年前の近畿動乱で死亡している。緑の恋人。繊雅の元教え子。
二条 誠(にじょう・まこと)
九代前の古都圏総長。使う神器は「鉄神」。舞闘は「洋門二条流」。
藤原
栃木県の日光に住む15歳の少女。使う神器は「水帝(アクア・ミドル)」。華厳の滝に潜り、滝壺の底に咲く「白い花」を目撃する。
登場機械
言詞加速器「 IXOLDE(イゾルデ)」
最強神器「炎神」製造のために大阪圏が開発した、巨大な言詞加速器。大阪府立第二高等学校の地下に設置されている。
衛星「朱雀四十式」
南大門神社が保有する世界唯一の戦闘用人工衛星。結城夕樹が「鳳凰」を介して操る。天蓋の外側から粒詞砲での砲撃や流体給弾を行い、粒詞砲の最大出力は地上の半径1キロを壊滅させることができる。
巨杖「鳳星(ほうせい)」
南大門に伝わる、喪失技巧(デステクノ)で作られた巨杖。朱雀四十式との連携によって強力な砲撃を放てる。
義腕「第八竜帝(だいはちりゅうてい)」
山下妙子の左腕に装着されている義腕。竜の力を持つ「竜帝」と称される機種の一つ。
竜の眼を内蔵しており、自らの意思で装着者を選ぶ。全部で9つの形態を取り、最終形態では喪失技巧級の戦闘力を発揮し、都市ひとつを壊滅させる破壊力を持つという。
義眼「鳳凰」
結城夕樹の右目に埋め込まれた赤い瞳の義眼。移植された者は朱雀四十式に単独通信が可能となる。
ゲーム
キングレコードから1999年3月に発売されたプレイステーション用2枚組ゲームソフト。2010年7月よりガンホー・オンライン・エンターテイメントからプレイステーション3、プレイステーションポータブル向けのゲームアーカイブスソフトとして配信中。
内容は小説版の続編にあたるが、共通して登場するキャラクターや直接つながる要素はほぼない。
なお、1998年4月~99年3月にはゲームソフトと小説と連動したラジオ番組『池澤春菜のぱちモン OSAKA 』(ラジオ日本 毎週土曜日深夜0時30分~1時)が放送されていた。番組パーソナリティはゲームソフトに出演していた声優の池澤春菜(22歳)。
あらすじ
時は小説版の「和解動乱」が終結したのちの1998年。西日本の首都・大阪圏は25年以上の建造期間をへて、ついに世界を変えることができるという全世界広告塔「 BABEL(バベル)」を完成させ、企業と学生にその使用権を争わせる NET戦争を行う。
作中での関連年表
1944年 第二次世界大戦における敗色濃厚なドイツ第三帝国、「言詞爆弾」を全世界の主要都市に投下。世界の都市概念が崩壊し、各都市がそれぞれ独自の発展を遂げる端緒となる。
この際の「言詞崩壊」により、地球の成層圏には透明な力場「大天蓋」、世界の各都市の上空には同様な「天蓋」が発生し、人類は宇宙への進出が不可能となる。
同時に、電波も上空を通過することが不可能となり、全世界のネットワークが事実上、断たれる。
1945年2月 アメリカ合衆国・ソヴィエト連邦・イギリス帝国3ヶ国の首脳による「ヤルタ会談」の結果、第二次世界大戦で投入された主要兵器「超常識飛行艦『dp』シリーズ」、「グラソラリアン言詞板」、「風水五行三法」、「アティゾール計画式自動人形」などが違法とされ廃止される。
5月 ドイツ第三帝国、降伏。
1950年 朝鮮戦争勃発にともない派生した安全保障問題をめぐり、活発化した学生運動や暴力の低年齢化が問題となる。
1962年 学生の武力的行為一切を取り仕切り、学生を正しく先導する役職を組み込んだ「番付式司導格認定制度」、いわゆる「番格制度」が執行される。
1963年 肉体や精神の特定の一動作を特殊能力のレベルにまで昇華させた専門技能「テック」が学校教育に導入される。
1965年 番格の「司導格徒長認定試験制度」が制定され、第零から第九まで、10ヶ所の修行場が全国に創設される。
1969年 1959~60年に展開された安保闘争などの反省から、番格制度から大学生が完全排除される。
1970年 京都圏と奈良圏が併合され「古都圏」となる。
1972年 1944年以来断たれていた全世界でのネットワークの復活をうたう全世界広告塔「 BABEL 」、大阪圏で建造開始。
1978年 MD ウォークマンの販売が開始され、廉価な神器が大量発生する。
1983年 近畿動乱、勃発。
1984年 名護屋圏郊外で「格爆弾」が爆発。これによって発生した砂漠地帯「詞変線(オルタード・ライン)」が東西日本の「壁」となる。
東京圏総長・中村緑と大阪圏総長・九木右大、茨城山中にて消息を絶つ。2人の持っていた二極神器「荒神」と「炎神」も喪失される。これにより、近畿動乱終結。
近畿動乱の影響により、全世界広告塔「 BABEL 」の建造が一時中止となる。
1985年 日本の学生代表が分化代表制となり、国内の東西での学生交流が事実上、断絶する。この対処として、臨時教育委員会より「東西往復許可書」が発行されることとなる。
1986年 東京圏で「帝都第一高等学校」、大阪圏で「大阪府立第一高等学校」、名護屋圏で「安土国立高等学校」が創立し、東西の臨時教育委員会、海外からの留学生、優秀生徒たちの専用学校となる。
関東地方と関西地方を結ぶ航空網が復興する。
1988年 オルタード・ラインの修復が開始される。
1991年 MD ウォークマンを小型化したチップ・ウォークマン、販売開始。
1992年 大阪府立第二高等学校の地下で開発された言詞加速器「 IXOLDE(イゾルデ)」による最高速神器の抽出、開始。
1993年 オルタード・ラインの修復にともない、新幹線、復興。
1996年 大阪圏にて大規模テロ活動が連続発生する「和解動乱」が勃発する(小説版の内容)。
1997年 全世界広告塔「 BABEL 」の建造が本格的に再開される。
大阪圏にて「 NET 戦争 BABEL争奪戦」の出場者募集と選考が開始され、関東地方の学生も選考に参加する。
1998年 「 NET 戦争 BABEL争奪戦」の選考が終了し、争奪戦が開始される(ゲーム版の内容)。
『奏(騒 正式な表記は「騒」の上に「奏」が乗る作者の創作漢字)楽都市 OSAKA 』(そうがくとし おおさか)は、川上稔の「都市シリーズ」の第4作。前作『風水街都 香港』に続く上下2巻組み大長編。
異世界の都市・大阪を描いた小説、およびプレイステーション用ゲームソフトである。両者は同じ世界観を共有しているが、ゲーム版が小説版の続編にあたるという関係にあり、どちらかがどちらかの原作という関係にはない。
あらすじ
時は1996年12月。舞台は学生達が全ての主導権を握り、かつ東西で勢力が分裂してしまっている日本列島。
西日本の首都・大阪はかねてよりの計画、「言詞加速器 IXOLDE(イゾルデ)」を完成させ、最強神器の開発を行おうとしていた。
だがその最強神器を狙い、東日本の首都・「矛盾都市」東京の総長連合が大阪へと侵攻してくる。
そしてまた、時を同じくして一人の少年が大阪へとやって来た。
少年の名は陽阪勝意(ひざか しょうい)。大阪に伝わる秘伝において「近付く事を許すな」とされる、「己の詞を持たない少年」だった……
用語
大阪圏(おおさかけん)
西日本の中心都市・大阪のこと。
1983年(物語の13年前)に起きた「近畿動乱」以来、東日本と敵対している。IXOLDE による最強神器の開発を長年の悲願としており、本作での戦いはそれによって巻き起こったもの。
古都圏(ことけん)
西日本の主要都市・京都(京都圏)と、奈良(奈良圏)が1970年に併合してできた都市圏のこと。
西日本の有力な都市圏の一つで、特に南大門神社は古都圏の総意に強く影響する勢力である。その南大門神社の主張もあって、大阪圏のIXOLDE 完成と最強神器開発に反対しており、今回の開発立ち会いも監視としての意味あいが強い。
名護屋圏(なごやけん)
中日本の主要都市・名古屋のこと。戦国都市(タービュレントシティ)・名護屋。
日本の東西を分ける位置にあり、常に実戦や情報戦が繰り広げられる激戦地域として知られる。比較的大阪圏に協力的であり、今回の最強神器開発にも他意無く立ち会った。
圏内には、13年前の「近畿動乱」で「言詞爆弾」が投下されたために「言詞構造」が破壊された砂漠地帯「詞変線(オルタード・ライン)」が存在している。
東京圏(とうきょうけん)
都市世界における東日本の首都・東京のこと。矛盾都市(ゼノンシティ)・東京。
東日本の中心であり、近畿動乱以来、大阪とは敵対を続けている。
この東京を舞台としたのが、「都市シリーズ」第7作『矛盾都市 TOKYO 』(2001年)である。
冬に咲く桜並木
略して「冬桜」とも。大阪圏のどこかにあるとされる並木道。
近畿動乱の引き金となった場所で、近畿動乱中には大阪圏・東京圏の総長が「全ての不幸」と呼んでいた。東京圏総長連合副総長の葵聖が探している。
総長連合(そうちょうれんごう)
日本の各都市に存在する、学生達の自治組織。
作中の日本列島では、学生紛争の激化による国力の減衰を抑制するために、成人社会と学生社会との全権相互不可侵を取り決めた「校則法」が施行されている。
全員が各都市最寄りの「御山(おやま)」で修行を積んだ学生であり、学力・戦闘力ともに一般の学生を遥かに超えている。総長と副総長を中心とし、副総長補佐や特務隊長などの役職が存在している。
御山(おやま)
総長連合の幹部を育成するための機関。
通常は半年の修行を経て、適性の有無が判断される。あらゆる面で能力の優れた者が集まっており、落第者でも大学卒業以上の学力を持つ。
大阪圏総長連合
現在はIXOLDE による最強神器開発を計画している。総長は難波総一郎、副総長は平野某(登場せず)、第一特務隊長は崎誠次。
古都圏総長連合
IXOLDE や最強神器の完成に反対している。総長は古都圏守護役を兼任する結城夕樹。
南大門神社(なんだいもんじんじゃ)
奈良時代以来、「平城京」「長岡京」「平安京」といった畿内地方の首都の南を守護し続けてきた、奈良県大和郡山市内の小高い丘にある大きな神社。付属学校も存在している。
ここの筆頭である古都圏守護役は都市に根付く無量の心霊と対話する者であり、朱雀四十式を操る事もあって、古都圏において強い発言力を持つ。
名護屋圏総長連合
比較的、大阪圏に協力的である。同圏の生徒会とは折り合いが悪い。総長は山下妙子、副総長は市村雄生、第一特務隊長は霞隆一。
東京圏総長連合
最強神器を狙い、大阪圏へと侵攻してくる。総長は中村久秀、副総長は葵聖、第一特務隊長は池丸孝弘。
近畿動乱(きんきどうらん)
1983年に発生した、東西日本の学生が敵対するきっかけとなった事件。大阪圏と東京圏の双方の総長が犠牲になって終結した。
和解動乱(わかいどうらん)
本作における一連の抗争の通称。
技能(テック)
教育機関によって取得できる、肉体や精神の専門技能のこと。
特定の一動作を特殊能力のレベルにまで昇華させたものであり、無数の分野に体系化されている。これを発動させる事によって、ある程度の物理法則を無視して自身の行動・意思を制御する。
神器(リズム)
神器の遺伝詞が宿った歌詞の無い音楽。その発動には個人の詞と、その音楽を込めたMD が必要である。
右神器、左神器、重神器の三種が存在しているが、右神器以外の種は非常に数が少ない。なので主に右神器とその能力を指す。その強さによって「神(ハイ)」「帝(ミドル)」などと段階付けされ、その能力の内容を示す漢字一文字と繋げて神器の名前とする。
右神器(オーバーリズム)
一般的な神器。
左神器(ワインドリズム)
原始的な種であり、MD を必要としない。攻撃力が非常に強い。
重神器(ヘビィリズム)
左右の神器とは全く異なる種。強大な能力を秘めているが、それを扱える者は非常に少ない。
草薙(くさなぎ)
大阪圏総長連合総長・難破総一郎が使用する左神器。日本神話に由来する強力な切断能力を持つ。
炎神(えんじん)
IXOLDE が開発した最強の神器。重神器としての名は「八又(やまた)」、荒神と併せて「二極神器」と称される。
物体、術を問わずあらゆるものを貫通し、触れたものを絶対的に燃やし尽くす炎を生む。
荒神(すさがみ)
重神器としての名は「十拳(とつか)」。あらゆる神器の効果を打ち消すことができる、攻めではなく護りのための重神器。
詞(ことば)
各人の遺伝詞から導き出される、個性を表現する詩。神器を発動させる際に用いられる。
己の詞を持たない少年(ディスワーダー)
何らかの要因によって己の詞を失った者の総称。己の詞を持たないがゆえに他者の詞に影響され易いが、低威力ながらもあらゆる右神器を使用できる。
殺活者(キリングホルダー)
総長以外で殺人を犯した学生に与えられる異名。
登場キャラクター
陽阪 勝意(ひざか・しょうい)
本編の主人公。字名「己の詞を持たない少年」、戦種「近接格闘師(クリティカルフォーサー)」、舞闘「南大門無手派」。
飄々としたいい加減な性格で、かなりエロい。しかし夕樹のことになると必死になる意思の強さがある。元南大門食客で、夕樹の恋人になる。しかし「勝意が夕樹を護る」という約束を守れず、強襲してきた山下義兵を夕樹が殺害して以来、別れている。その時の負傷が額に残っているため、常にバンダナをしている。15歳から2年間、御山で修行するも総長連合に入れなかったという経歴を持つ。かつて西日本中学空手選手権で優勝した経験があり、予備動作無しで5m 以上の跳躍技能ができる。
山下義兵死亡の直前に負傷で気絶しており、夕樹の義兵殺害に関する記憶が無い。そこに隠された事実があるらしい。
結城 夕樹(ゆうき・ゆうき)
古都圏総長・古都圏守護役。字名「殺括者」、戦種「遠隔神術師(エナジーガンナー)」、神器「水神(アクア・ハイ)」「凍神(コールド・ハイ)」「霊帝(ガイスト・ミドル)」、舞闘「南大門神術派」。
寡黙で冷徹な性格で、排他的な態度を崩さないが、今のようになったのは勝意が約束を守れなかったためだとされている。かつては勝意の恋人だったが、現在は別れている。守護役として心霊と対話する能力を持ち、総長として戦闘兵器「朱雀四十式」と「鳳星」を操る。右目は山下義兵に潰されたため、朱雀四十式を操るための義眼「鳳凰」が移植されている。
勝意との別れ、義兵殺害にある事実を隠している。
難波 総一郎(なんば・そういちろう)
大阪圏総長。字名「鬼沈め」、戦種「近接武術師」、神器「草薙」、舞闘「紫電流改」。
平安時代中期に都に巣食う鬼を退治したという武将・渡辺綱(953~1025年)の末裔。
寡黙にして無骨、実直な性格。2年前にIXOLDE の暴走で生まれた鬼と戦った際に四肢と右目を失い、現在はそれらの義体を装着している。大阪圏総長として、IXOLDE による最強神器開発を先導する。
山下 妙子(やました・たえこ)
名護屋圏総長。字名「竜后」、戦種「全方位義体師(スチールマスター)」、神器「雷神(サンダー・ハイ)」、舞闘「我流」。18歳。
快活であっけらかんとした性格で、人なつっこい。山下義兵の妹で、同じ詞を持つ。義兵を殺した夕樹を恨んでいるが、勝意の彼女に相対する主張から、自分の意思は抑えている。御山での勝意との試合中に右腕を失ったため、大八竜帝を装着している。
崎 誠次(さき・せいじ)
大阪圏総長連合第一特務隊長。神器「圧神(プレッシャー・ハイ)」。
公私共に難破総一郎を支える。槍術技能を得意とする。勝意を「己の詞を持たない少年」であるとして危険視した。
市山 雄生(いちやま・ゆうせい)
名古屋圏副長。西日本空手無差別級一位。神器は「爆神」。両腕と眼を義体化し、強化内臓を呑んでいる。
霞 隆一(かすみ・りゅういち)
名古屋圏総長連合第一特務隊長。爆神神器とナイフの投術を得意とする。武闘は「裏五家流」。
結城 繊雅(ゆうき・せんが)
夕樹の祖母で、元御山・高野山教官長、関西寺社連盟長。大阪一の槍使いと言われたが、13年前に引退している。現在67歳。
中村 久秀(なかむら・ひさひで)
東京圏総長。神器も技能も使えないがゆえ、「奏音の領主(ホワイトノイズ)」としての能力を持つ。舞闘は「伊庭式」。
近畿動乱の際に東京圏総長だった姉・緑の遺した神器を奪うため、また、予言を果たし王になるために大阪に侵攻する。
東日本空手無差別級一位。
高田 清犠(たかだ・せいぎ)
「速読歴(ファストリーダー)」の字名を持ち、他人の唇から予言を詠むことができる。
狗神使いであり、自身の遺伝詞から生まれた狗神・太郎丸を連れている。太郎丸は敵意に反応し、彼女を護る。
久秀の恋人。孝弘の従姉妹でもある。
太郎丸(たろうまる)
狗神。七十二の分身を持ち、主の意志を通訳する。
葵 聖(あおい・ひじり)
東京圏副長。全方位格闘師。神陰流の継承者。
かつて両親が見たという「冬に咲く桜」を探している。孝弘の恋人。
池丸 孝弘(いけまる・たかひろ)
東京圏総長連合第一特務隊長。言霊師(ワードマスター)。舞闘は「帝式真呼流」。
清犠の従兄弟であり、過去に彼女の遺伝詞から狗神を生み出した。
伊庭 優明(いば・まさあき)
御山の教員で、近畿動乱時の大阪圏第一特務長。久秀の師匠。繊雅の元教え子。
岩井 参蔵(いわい・さんぞう)
豪商・法善寺家の執事長で、難波総一郎の有力な擁護者。大阪圏最大の情報網を統括している。前・法善寺グループ特殊部隊部長。
山下 義兵(やました・ぎへい)
山下妙子の兄で、かつての名護屋圏総長。結城夕樹との果たし合いで殺されている。
中村 緑(なかむら・みどり)
中村久秀の姉で、かつての東京圏総長。13年前の近畿動乱で死亡している。繊雅の元教え子。
久木 右大(くき・うだい)
かつての大阪圏総長。13年前の近畿動乱で死亡している。緑の恋人。繊雅の元教え子。
二条 誠(にじょう・まこと)
九代前の古都圏総長。使う神器は「鉄神」。舞闘は「洋門二条流」。
藤原
栃木県の日光に住む15歳の少女。使う神器は「水帝(アクア・ミドル)」。華厳の滝に潜り、滝壺の底に咲く「白い花」を目撃する。
登場機械
言詞加速器「 IXOLDE(イゾルデ)」
最強神器「炎神」製造のために大阪圏が開発した、巨大な言詞加速器。大阪府立第二高等学校の地下に設置されている。
衛星「朱雀四十式」
南大門神社が保有する世界唯一の戦闘用人工衛星。結城夕樹が「鳳凰」を介して操る。天蓋の外側から粒詞砲での砲撃や流体給弾を行い、粒詞砲の最大出力は地上の半径1キロを壊滅させることができる。
巨杖「鳳星(ほうせい)」
南大門に伝わる、喪失技巧(デステクノ)で作られた巨杖。朱雀四十式との連携によって強力な砲撃を放てる。
義腕「第八竜帝(だいはちりゅうてい)」
山下妙子の左腕に装着されている義腕。竜の力を持つ「竜帝」と称される機種の一つ。
竜の眼を内蔵しており、自らの意思で装着者を選ぶ。全部で9つの形態を取り、最終形態では喪失技巧級の戦闘力を発揮し、都市ひとつを壊滅させる破壊力を持つという。
義眼「鳳凰」
結城夕樹の右目に埋め込まれた赤い瞳の義眼。移植された者は朱雀四十式に単独通信が可能となる。
ゲーム
キングレコードから1999年3月に発売されたプレイステーション用2枚組ゲームソフト。2010年7月よりガンホー・オンライン・エンターテイメントからプレイステーション3、プレイステーションポータブル向けのゲームアーカイブスソフトとして配信中。
内容は小説版の続編にあたるが、共通して登場するキャラクターや直接つながる要素はほぼない。
なお、1998年4月~99年3月にはゲームソフトと小説と連動したラジオ番組『池澤春菜のぱちモン OSAKA 』(ラジオ日本 毎週土曜日深夜0時30分~1時)が放送されていた。番組パーソナリティはゲームソフトに出演していた声優の池澤春菜(22歳)。
あらすじ
時は小説版の「和解動乱」が終結したのちの1998年。西日本の首都・大阪圏は25年以上の建造期間をへて、ついに世界を変えることができるという全世界広告塔「 BABEL(バベル)」を完成させ、企業と学生にその使用権を争わせる NET戦争を行う。
作中での関連年表
1944年 第二次世界大戦における敗色濃厚なドイツ第三帝国、「言詞爆弾」を全世界の主要都市に投下。世界の都市概念が崩壊し、各都市がそれぞれ独自の発展を遂げる端緒となる。
この際の「言詞崩壊」により、地球の成層圏には透明な力場「大天蓋」、世界の各都市の上空には同様な「天蓋」が発生し、人類は宇宙への進出が不可能となる。
同時に、電波も上空を通過することが不可能となり、全世界のネットワークが事実上、断たれる。
1945年2月 アメリカ合衆国・ソヴィエト連邦・イギリス帝国3ヶ国の首脳による「ヤルタ会談」の結果、第二次世界大戦で投入された主要兵器「超常識飛行艦『dp』シリーズ」、「グラソラリアン言詞板」、「風水五行三法」、「アティゾール計画式自動人形」などが違法とされ廃止される。
5月 ドイツ第三帝国、降伏。
1950年 朝鮮戦争勃発にともない派生した安全保障問題をめぐり、活発化した学生運動や暴力の低年齢化が問題となる。
1962年 学生の武力的行為一切を取り仕切り、学生を正しく先導する役職を組み込んだ「番付式司導格認定制度」、いわゆる「番格制度」が執行される。
1963年 肉体や精神の特定の一動作を特殊能力のレベルにまで昇華させた専門技能「テック」が学校教育に導入される。
1965年 番格の「司導格徒長認定試験制度」が制定され、第零から第九まで、10ヶ所の修行場が全国に創設される。
1969年 1959~60年に展開された安保闘争などの反省から、番格制度から大学生が完全排除される。
1970年 京都圏と奈良圏が併合され「古都圏」となる。
1972年 1944年以来断たれていた全世界でのネットワークの復活をうたう全世界広告塔「 BABEL 」、大阪圏で建造開始。
1978年 MD ウォークマンの販売が開始され、廉価な神器が大量発生する。
1983年 近畿動乱、勃発。
1984年 名護屋圏郊外で「格爆弾」が爆発。これによって発生した砂漠地帯「詞変線(オルタード・ライン)」が東西日本の「壁」となる。
東京圏総長・中村緑と大阪圏総長・九木右大、茨城山中にて消息を絶つ。2人の持っていた二極神器「荒神」と「炎神」も喪失される。これにより、近畿動乱終結。
近畿動乱の影響により、全世界広告塔「 BABEL 」の建造が一時中止となる。
1985年 日本の学生代表が分化代表制となり、国内の東西での学生交流が事実上、断絶する。この対処として、臨時教育委員会より「東西往復許可書」が発行されることとなる。
1986年 東京圏で「帝都第一高等学校」、大阪圏で「大阪府立第一高等学校」、名護屋圏で「安土国立高等学校」が創立し、東西の臨時教育委員会、海外からの留学生、優秀生徒たちの専用学校となる。
関東地方と関西地方を結ぶ航空網が復興する。
1988年 オルタード・ラインの修復が開始される。
1991年 MD ウォークマンを小型化したチップ・ウォークマン、販売開始。
1992年 大阪府立第二高等学校の地下で開発された言詞加速器「 IXOLDE(イゾルデ)」による最高速神器の抽出、開始。
1993年 オルタード・ラインの修復にともない、新幹線、復興。
1996年 大阪圏にて大規模テロ活動が連続発生する「和解動乱」が勃発する(小説版の内容)。
1997年 全世界広告塔「 BABEL 」の建造が本格的に再開される。
大阪圏にて「 NET 戦争 BABEL争奪戦」の出場者募集と選考が開始され、関東地方の学生も選考に参加する。
1998年 「 NET 戦争 BABEL争奪戦」の選考が終了し、争奪戦が開始される(ゲーム版の内容)。