長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

そんなんあり~!?超強引オチな欧米風『藪の中』 ~映画『断崖』~

2024年12月16日 20時08分07秒 | ふつうじゃない映画
映画『断崖』(1941年11月公開 99分 RKO)
 『断崖』(原題:Suspicion)は、アメリカのロマンティックサイコスリラー映画。夫に殺されるという疑念に取り憑かれた新妻を描く。 イギリスの推理小説家フランシス=アイルズ(1893~1971年)が1932年に発表した長編犯罪小説『レディに捧げる殺人物語』を原作とする。
 製作費110万2000ドル、配給収入は北米で130万6000ドルで海外では91万9000ドルとなった。
 第14回アカデミー賞でジョーン=フォンテインが主演女優賞を受賞した。
 本作は後年、アメリカの TVドラマシリーズ『 American Playhouse』(1982~93年放送)の枠内で1988年4月にリメイクされた(第7シーズン第11話)。

 ヒッチコック監督は、本編約46分51秒頃、村の郵便ポストに手紙を入れる帽子をかぶった男の役で出演している。


あらすじ
 1938年。ハンサムだがいい加減な性格の遊び人ジョニー=エイズガースは、イギリスの列車の中で眼鏡をかけた女性リナ=マクレイドローと出逢い、彼女を散歩に誘う。ジョニーはリナに接近するが、リナはそれを不愉快に感じ警戒する。しかしリナは、父である裕福な有力者マクレイドロー将軍が自分の結婚を考えていないことを知って傷つき、自暴自棄になった末に駆け落ち同然にジョニーと結婚してしまう。
 ヨーロッパでの豪華な新婚旅行を終えてジョニーが購入した新居に入ったリナは、ジョニーが仕事も収入もなく惰性的な借金生活を送っており、リナの父の脛を齧ろうとしていることに気づく。リナの説得を受けたジョニーは、彼の従兄の不動産業者メルベックの下で働くことになるが、そこへリナの父マクレイドロー将軍の死の知らせが届く。
 将軍の遺産がほとんどもらえないことを知ったジョニーは機嫌を悪くし、友人ビーキーと共に不動産会社を設立して景観の良い断崖にリゾート地を開発する計画を立て始める。そんな中、リナの脳裏にある疑惑がよぎる……

おもなキャスティング
リナ=マクレイドロー  …… ジョーン=フォンテイン(24歳)
ジョニー=エイズガース …… ケーリー=グラント(37歳)
イゾベル=セドバスク  …… オリオール=リー(61歳)
バートラム=セドバスク …… ギャビン=ゴードン(40歳)
ビーキー=スウェイト  …… ナイジェル=ブルース(46歳)
マクレイドロー将軍   …… セドリック=ハードウィック(48歳)
マーサ=マクレイドロー …… メイ=ウィッティ(76歳)
メイドのエセル     …… ヘザー=エンジェル(32歳)
ジョージ=メルベック  …… レオ=G・キャロル(49歳)
ホジスン警部補     …… ラムズデン=ヘア(67歳)

おもなスタッフ
監督 …… アルフレッド=ヒッチコック(42歳)
脚本 …… サムソン=ラファエルソン(47歳)、アルマ=レヴィル(42歳)、ジョーン=ハリソン(34歳)
製作総指揮 …… デイヴィッド=O=セルズニック(39歳)
音楽 …… フランツ=ワックスマン(34歳)
撮影 …… ハリー=ストラドリング(40歳)
編集 …… ウィリアム=ハミルトン(48歳)


≪本文マダヨ≫
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9割がた「龍」なんだけど……最後の最後で蛇尾ったワン ~映画『八犬伝』~

2024年11月11日 09時24分56秒 | ふつうじゃない映画
 はいはいど~もみなさま、おはようございます! そうだいでございまする。いや~、いよいよ秋めいてまいりましたねぇ。

 さてさて、今年の秋、だいたい映画『箱男』くらいから始まりました、極私的な「秋のおもしろ新作ラッシュ」も、ついにおしまいを迎えることとあいなりました。『黒蜥蜴2024』でしょ、『カミノフデ』でしょ、『傲慢と善良』でしょ、『ジョーカー フォリ・ア・ドゥ』でしょ……うん、こうやって振り返ってみると、ぜんぶがぜんぶ大当たり!というわけでもなかったのですが……まぁ、新作なんてそんなもんですわな。

 そいでま、今回取り上げるのは、それら秋の強化月間の掉尾を飾る、この一作でございます。


映画『八犬伝』(2024年10月25日公開 149分 キノフィルムズ)
 『八犬伝』は、山田風太郎(1922~2001年)の長編小説『八犬傳』(1982~83年連載、現在は角川文庫より上下巻で発刊)を原作とする映画作品である。
 江戸時代の読本(よみほん)作者・曲亭馬琴(1767~1848年)の長編伝奇小説『南総里見八犬伝』(1814~42年)をモチーフに、28年もの歳月を費やし失明してもなお口述筆記で書き続け全106冊という大作を完成させた馬琴の後半生や浮世絵師・葛飾北斎(1760~1849年)と馬琴の交流を描く「実の世界」と、『南総里見八犬伝』作中での、安房国大名・里見家にかけられた呪いを解くために八つの珠に引き寄せられた八人の剣士たちの運命を描く「虚の世界」との2つの世界が交錯する物語となっている。
 本作の撮影は、香川県琴平町の旧金毘羅大芝居(金丸座)、兵庫県姫路市の姫路城・亀山本徳寺・圓教寺、滋賀県長浜市の大通寺、山梨県鳴沢村などで行われた。

あらすじ
 時は江戸時代後期、文化十(1813)年。
 人気読本作家の曲亭馬琴は、親友の浮世絵師・葛飾北斎に新作読本の構想を語り始める。それは、由緒正しい大名・里見家にかけられた恐ろしい呪いを解くために、里見の姫が祈りを込めた八つの珠を持つ八人の剣士たちが運命に引き寄せられて集結し、壮絶な合戦に挑むという、壮大にして奇怪な物語だった。
 北斎はたちまちその物語に夢中になるが、馬琴から頼まれた挿絵の仕事は頑なに断る。しかし頻繁に馬琴を訪ねては物語の続きを聞き、馬琴の創作の刺激となる下絵は描き続けるのだった。やがてその物語『南総里見八犬伝』は、馬琴の生涯を賭けた仕事として異例の長期連載へと突入していくが、物語も佳境に差し掛かった時、老いた馬琴の目は見えなくなってしまう。苦悩する馬琴だったが、義理の娘のお路から「手伝わせてほしい」と申し出を受ける。
 馬琴は、いかにして失明という困難を乗り越え、28年もの歳月を懸けて物語を書き上げることができたのか? そこには、苦悩と葛藤の末にたどり着いた、強い想いが込められていたのだった。

おもなキャスティング
曲亭 馬琴 …… 役所 広司(68歳)
葛飾 北斎 …… 内野 聖陽(56歳)
滝沢 お路 …… 黒木 華(34歳)
滝沢 鎮五郎 / 宗伯 …… 磯村 勇斗(32歳)
滝沢 お百 …… 寺島 しのぶ(51歳)
渡辺 崋山 …… 大貫 勇輔(36歳)
葛飾 応為 …… 永瀬 未留(24歳)
四世 鶴屋 南北  …… 立川 談春(58歳)
七世 市川 団十郎 …… 二世 中村 獅童(52歳)
三世 尾上 菊五郎 …… 二世 尾上 右近(32歳)
丁字屋 平兵衛   …… 信太 昌之(60歳)
歌舞伎小屋の木戸番 …… 足立 理(36歳)

里見 伏姫   …… 土屋 太鳳(29歳)
犬塚 信乃   …… 渡邊 圭祐(30歳)
犬川 壮助   …… 鈴木 仁(25歳)
犬坂 毛野   …… 板垣 李光人(22歳)
犬飼 現八   …… 水上 恒司(25歳)
犬村 大角   …… 松岡 広大(27歳)
犬田 小文吾  …… 佳久 創(34歳)
犬江 親兵衛  …… 藤岡 真威人(20歳)
犬山 道節   …… 上杉 柊平(32歳)
大塚 浜路   …… 河合 優実(23歳)
玉梓の方    …… 栗山 千明(40歳)
金碗 大輔 / 丶大法師 …… 丸山 智己(49歳)
金椀 八郎   …… 大河内 浩(68歳)
里見 義実   …… 小木 茂光(62歳)
扇ヶ谷 定正  …… 塩野 瑛久(29歳)
船虫      …… 真飛 聖(48歳)
網乾 左母二郎 …… 忍成 修吾(43歳)
赤岩 一角   …… 神尾 佑(54歳)
大塚 蟇六   …… 坂田 聡(52歳)
犬田屋 文吾兵衛 …… 犬山 ヴィーノ(56歳)
姨雪 世四郎  …… 下條 アトム(77歳)
姨雪 音音   …… 南風 佳子(60歳)
足利 成氏   …… 庄野﨑 謙(36歳)
横堀 在村   …… 村上 航(53歳)
河鯉 守如   …… 安藤 彰則(55歳)


おもなスタッフ
監督・脚本 …… 曽利 文彦(60歳)
製作総指揮 …… 木下 直哉(58歳)
撮影    …… 佐光 朗(66歳)
音楽    …… 北里 玲二(?歳)
配給    …… キノフィルムズ


 いやぁ、八犬伝ですよ。ここにきて、日本文学史上に燦然と輝く大名作『南総里見八犬伝』を原作とした作品のご登場でございます!

 私はねぇ……『南総里見八犬伝』には、ちとうるさ……いというほどでもないのですが、色々と思い入れはあるんですよね。
 まず、大学時代に専攻ではないのですが『南総里見八犬伝』研究の大家である先生の講義や実習を受けたことがありまして、まぁ真面目に受講していなかったので身につくものはほとんど無いダメ学生だったのですが、最低限、曲亭馬琴のことを「滝沢馬琴」と呼んでは絶対にいけないというルールくらいは覚えました。
 その後、千葉暮らしの劇団員だった時に劇団の公演で『南総里見八犬伝』を元にした舞台の末席に加えさせていただきました。なんてったって千葉県ですから、そりゃ『南総里見八犬伝』はやりませんとね。里見家とは直接の関連は無いのですが、千葉市は亥鼻公園にある天守閣を模した外観の千葉市立郷土博物館を前に、物語の登場人物を演じることができたのは、分不相応ながらも良い思い出であります。その頃、下北沢の古書ビビビで購入した岩波文庫版の『南総里見八犬伝』全10巻を読破したのはうれしかったなぁ~。江戸文学、がんばれば読めんじゃん!と。
 そして、最近ともいえないのですが、6、7年前に仕事の関係で『南総里見八犬伝』にまた関わることがありまして、その時は原書に加えて、学研から出ている児童向けコミカライズや、講談社青い鳥文庫、角川つばさ文庫のジュブナイル版などを参考にしました。あと、2006年の TBSスペシャルドラマ『里見八犬伝』(主演・滝沢秀明)や1983年の映画『里見八犬伝』(主演・薬師丸ひろ子)も当然、観ました。映画の『里見八犬伝』はクソの役にも立ちませんでした。
 惜しむらくは、NHKで放送されていた伝説の連続人形劇『新八犬伝』(1973~75年放送 人形制作・辻村ジュサブロー)を観れていないことなんですよねー。人形はジュサブローさんの美術展で観たことあるんだけどなぁ。

 まぁ、そんなこんなで要は、わたくしは『南総里見八犬伝』が大好きだということなのであります。好きなキャラは籠山逸東太(こみやま いっとうだ)です!

 そんな私が、今回の映画『八犬伝』の公開を心待ちにしていたことは火を見るよりも明らかであったわけなのですが、ここで注意しておかなければならないのは、本作が曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』の直接の映画化作品では決してない、ということです。ややこしや!

 そうなんです、上の Wikipedia記事にもある通り、この映画はあの「忍法帖シリーズ」で戦後昭和のエンタメ界を席巻した人気小説家・山田風太郎の長編小説『八犬傳』を原作としているのです! そして、山田風太郎にはこの『八犬傳』の他にもう一つ、曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』に想を得た『忍法八犬伝』(1964年連載)という奇想天外忍術時代小説も存在しているのです! うわ~、沼また沼!! 八犬伝ワールドは広大だわ……

 え? 読みましたよ……そりゃあーた、『八犬傳』も『忍法八犬伝』も、どっちも読んだに決まってるじゃないですか。残念ながら映画を観るまでには間に合わなかったのですが、どっちも読みましたよ、だって面白いんだもん!!

 正直申しまして、山田風太郎の2作品のうち、面白いのは圧倒的に、映画化されなかった方の『忍法八犬伝』のほうなのですが、こちらはもはや「メディア化なんてクソくらえ!!」とばかりに、撮影技術的にも放映倫理的にも映像化300% 不可能な桃色忍術合戦のオンパレードになっており、山田風太郎の小説かエロゲーの中でしかお目にかかれないようなバカバカし……幻惑的なイリュージョンが目白押しの一大絵巻となっております。すばらしすぎる。そりゃ角川春樹も映画化しないわ。
 ちなみに概要だけ触れておきますと、こちらの『忍法八犬伝』は曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』の続編のような内容となっており、馬琴の物語で大団円を迎えた里見家と八犬士の子孫たち(約120年後 里見家当主は里見義実の9代あとの里見忠義)が、江戸時代初期の「大久保忠隣失脚事件」(1613年)に連座して改易された史実を元にした……んだかなんだかよくわかんない崩壊劇となっております。でも、史実を最大限遵守したタイムスケジュールになってるのがすごいんだよなぁ。
 ほんと、ものすごい「里見一族の滅亡」ですよ。あの、八犬士たちの高潔な志はどこにいったんだと……まさに国破れて山河在りといったむなしさで、ペンペン草ひとつ残らない気持ちいいまでのバッドエンドは、まさに山風ならではのニヒリズムといった感じなのですが、そのラストシーンに、読者の誰もがその存在を忘れていた「あの人」がふらふらと通りすぎるというオチは、もう見事としかいいようがありません。あ~、君いたね~!みたいな。ほんと、読者をたなごころでクルクル回す手練手管ですよね。曲亭馬琴もすごいけど、山田風太郎も相当やっべぇぞ!!

 え~、いつも通りに脱線が長くなりました。

 それで今回映画化された小説『八犬傳』についてなのですが、こちらはほぼほぼ、映画版と同じ筋立てとなっております。つまりは「江戸時代の曲亭馬琴パート」と「南総里見八犬伝パート」のか~りぺったか~りぺったで物語が進んでいくスタイルですよね。

 ほんで、この『八犬傳』は1980年代前半の小説ということで、山田風太郎の還暦前後の作品ということもあってか、約20年前に『忍法八犬伝』に見られた全方位に噛みつくごときアグレッシブなストロングスタイルはさすがに鳴りをひそめて、かなり忠実に曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』の世界をなぞりつつ、その一方でそういった「正義の叙事詩」を世に出した、出さなければならなかった馬琴の実人生を克明に小説化した端整な物語となっております。うん、映画化するんなら絶対こっちのほうだわ。

 ただ、ここで大きな問題となってくるのが、この小説『八犬傳』のあまりにも落ち着きすぎた締めくくり方なのでありまして、端的に言ってしまうと、「馬琴はなんとか『南総里見八犬伝』を完成させましたとさ。おしまい!」みたいな感じで、かなりスパッと終わっちゃうんですよね。正直申しまして、「風太郎先生、電池切れたな……」と察せざるを得ない、余韻もへったくれもないカットアウトなのですが、小説はそれでいいとしても、2時間30分も観客を引っ張り続けた映画は、そうはいきませんやね! 今作は、そういうところでかなり苦労したのではなかろうかと。

 実のところ、私が今回の映画作品を観て強く感じたのも、「この風呂敷、どうやってたたむんだろう?」というところ、ほぼ一点でした。

 だって、『南総里見八犬伝』のダイジェストに加えて、失明してもなお執筆をやめなかった馬琴の生涯を描くんでしょ? 主演、役所広司さんと内野聖陽さんなんでしょ!? 玉梓の方を栗山千明姫が演じるんでしょ!? 面白くならないはずがないじゃないですか。
 だとしたら、その際限なく豪華絢爛になってしまった物語をどう締めるのか。ここが唯一最大の課題だと思うんですよ。そして、残念ながらその解決策は、肝心カナメの原作小説には存在していないのです……どうする!?

 そんでま、それに対する映画版オリジナルのエンディングは、確かに用意されていました。されてはいたのですが……
 う~ん、THE 無難!! まぁそうなるかなという、100人が考えたら80人くらいが思いつきそうな『フランダースの犬』オチとなっていたのです。

 いや、うん、わかる! だいたい、原作の風太郎先生がほっぽっちゃってるんですから、それよりひどい締め方にはなりようもないはずなのですが、も~ちょっとこう、ねぇ! そんな小学生向けの学習マンガみたいな安全パイじゃなくて、「令和に『八犬伝』を世に出した曽利文彦ここにあり!!」みたいな、観客に爪跡を残す伝説を創ってほしかったなぁ、と。

 惜しい! 実に惜しいんですよね。そこまでけっこう面白かったんですから!
 まず、正義をつらぬく八犬士たちが悪をくじいて平和を勝ち取るという『南総里見八犬伝』の世界に反して、やることなすこと上手くいかず家庭もほぼ崩壊という悲劇に見舞われる曲亭馬琴という対立構造が非常に興味深く、なんとか息子の嫁お路の献身的な協力を得て『南総里見八犬伝』を完結させた馬琴ではありましたが、その怪物的な創作エネルギーの犠牲になったかのようにこの世を去って行った息子・宗伯や妻・お百の存在価値とは一体なんだったのかというところが、映画『八犬伝』なりの大団円を迎えるためのキモだったと思うのです。

 ところがどうでい! あんなエンディングじゃあ、馬琴は浮かばれたとしても、宗伯やお百の魂魄は地上に縛られたまんまじゃねぇんですかい!? そんな自分勝手なカーテンの閉め方、あるぅ!? 寺島しのぶさんが化けてでるわ!!
 とにかくどんな言葉でもいいから、苦悶の表情を浮かべて死んでいった宗伯やお百に対する馬琴の姿勢のようなものは見せてほしかったです。あれじゃ馬琴自身がボケて2人のことを忘れちゃってる可能性すらある感じでしたからね。カンベンしてよ~!!

 いや~、ほんとこの映画、最後の最後までは面白く観たんだよなぁ。特に現実の江戸世界のパートに関しては、もう文句のつけようもないくらい最高のキャスティングと演技で、いつまでも、2時間でも3時間でも観ていられる感じだったのですが。

 主演の役所さんも内野さんも当然すばらしく、お路役の黒木華さんも言うまでもなく最高だったのですが、私が特に目を見張ってしまったのは、「フィクションだからこそ正義が勝つ!」という創作哲学を堅持する馬琴に大いに揺さぶりをかける、「悪が勝つのが現実じゃござんせんか」理論を展開したダークサイドの売れっ子作家・四世鶴屋南北を見事に演じきった立川談春さんの大怪演でした。これ、ほんとすごかった!
 正義至上主義の馬琴に対して、へらへらと嗤いながらも昂然と反駁する舞台奈落のブラックすぎる南北……絵的にも、地下から見上げる馬琴と地上の舞台装置から顔を逆さまにして見下す南北ということで、まるでトランプのカードのような対称配置が非常に面白い会話シーンだったのですが、ここ誇張表現じゃなく、あの『ダークナイト』(2008年)を彷彿とさせる正義と悪の名対決だと思いました。それで、正義派の馬琴が結局は南北に言い負かされた形で終わっちゃうんだもんね! 南北もまた、ものすごい才能だったのね~。

 ところで、史実の南北は馬琴の12歳年上だったらしいので、実際には『スター・ウォーズ』サーガの銀河皇帝パルパティーンみたいなヨボヨボのじいさまが、「ふぇふぇふぇ……馬琴くんも、まだまだ若いのぉ。」みたいな感じであしらう雰囲気だったのかも知れませんね。ま、どっちでも面白いけど!
 余談ですが、映画のこのシーンで、馬琴と北斎を舞台奈落に案内する、いかにも歌舞伎の女形さんっぽいナヨッとした木戸番さん(演・足立理)がいたじゃないですか。「あの、そろそろ蝋燭が消えます……」って言ってた人。
 あの人、風太郎先生の小説にもちゃんと出てくるのですが、小説ではなんと、江戸時代でもかなり有名な「あの人」の仮の姿という設定になってるんですよね! 話がややこしくなるので映画でカットされちゃったのは仕方ないですが、気になった人はぜひとも原作小説を読んでみてください。いや~、化政文化、激濃な才能が江戸に集まりすぎよ!!

 まぁまぁ、こんな感じで馬琴の現実パートはほんとに面白かったんですよね。

 もちろん、それに対する『南総里見八犬伝』パートも負けずに楽しかったのですが、やっぱりまともに全部映像化するのは絶対にムリということで、犬村大角の発見以降の物語の流れがいきなり雑になってしまったのは、予想はつきつつも、やっぱり残念ではありました。いや、しょうがないんですけどね!
 この、『南総里見八犬伝』における「犬村大角が出たとたんにザツ化問題」は、八犬士を探すために東日本各地に散った主要メンバーが、再び安房国(房総半島のはしっこ)に集結するまでの「帰り道でのなんやかやがめんどくさすぎ」であることと、八犬士の大トリである『ドラゴンボール』の悟空なみにチートなスーパーヒーロー少年・犬江親兵衛の登場&加入を物語るパートの「規模が京都まで拡大してめんどくさすぎ」であることが起因しているわけなのですが、これをまともに追うわけにはいかない大抵のダイジェスト小説や映像作品は、このあたりをまるっとはしょって、「まぁ色々あったけど八犬士が集まって、玉梓の方が転生した悪者をやっつけたヨ!」という、まさに今回の映画版がそうしたような雑な RPG的展開に堕してしまうのです。

 いや、しょうがねぇよ!? しょうがねぇけど、この場合、いちばんの被害を被ってしまうのは、満を持しての大活躍をほぼ全てカットされてしまう犬江親兵衛くんなのでありまして、今回の映画を観た人の多くも、「なんだ? あの唐突に馬に乗って現れた親兵衛ってガキは?」という印象を持ったかと思います。親兵衛かわいそう! さすがの藤岡マイトくんをもってしても、あのとってつけた感を拭い去ることはできなかったでしょう。
 あと、最後の八犬士 VS 玉梓の方の決戦シーンも、なんだかほんとに典型的な RPGの魔王の城といった感じで、右手だけムッキムキになって定正を締め上げる玉梓も、な~んかチープになっちゃいましたよね。あれ、 CGでちょろっとでもいいから、ムキムキになった腕を袖の中にしゅるっと引っ込める描写を入れたらよかったのに、それをやらずにムキムキ腕の造形物を着けた栗山さんだけを撮っちゃうもんだから、コントみたいな肉じゅばん感が増しちゃったと思うんだよなぁ。あそこ、残念だったな……どうせ栗山さんなんだから、思いきって20年ぶりにあの射出型モーニングスター付き鎖鎌「ゴーゴーボール」を復活させればよかったのに! 栗山さん、たぶん喜んでやってたよ!?
 「八犬士が玉を集めたら勝てました。」っていうのも、ねぇ。ちょっと安易だけど、まぁフィクションなんだから、しょうがねっか。

 それはまぁいいとして、こちら『南総里見八犬伝』パートで輝いていたのは、やはり実質主人公格である「名刀村雨丸」の使い手・犬塚信乃を好演した渡邊圭祐さんと、今年の NHK大河ドラマ『光る君へ』であんなにか弱い一条帝を演じたのに、本作では一転して悪辣非道な中ボス・扇ヶ谷定正を嬉々として演じていた塩野瑛久さんのお2方でしたね。

 いや~、渡邊さんはほんとにいい俳優さんですね! まさか、『仮面ライダージオウ』であんなに怪しげな3号ライダーを演じていた彼が、大スクリーンでこんなにもド正統な正義のヒーローを演じきる日がこようとは……非常に感慨深いです。
 古河御所・芳流閣における古河公方のリーサルウエポン犬飼現八との対決なんか、CG による誇張も非常にいいあんばいで手に汗握る名勝負だったのですが、あそこ、小説ではかなりタンパクに描かれているのですが、映画版は現八の武器である捕縄をうまく使って、いったん屋根から転落した信乃が捕縄を命綱にして城壁を垂直に走り、また屋根に登ってくるというムチャクチャなアクションを映像化してましたよね。あれ、絶対に小説版の『魔界転生』へのオマージュでしょ! やりますねぇ!!
 渡邊さん、かっこよかったなぁ~。アクションもカッコいいんですが、ふと俯き加減に黙り込むと、あの天本英世さんをちょっと思い出させるような知性もにじみ出るんですよね。これからの活躍にも期待大です! 祝え、大名優の誕生を!!

 いっぽうの塩野さんなのですが、完全にやり慣れていないド悪役を、ムリヤリ悪ぶって演じているという不自然さが、「実は小物」という定正のキャラクターと妙にリンクしていて最高だなと思いました。これはキャスティングの勝利ですね! こんな定正、絶対に根っからの悪人じゃないもの! ちょっと酒グセと女性の趣味が悪いだけなんだもの。

 その他、『南総里見八犬伝』パートに出ている俳優さんで気になった人と言えば、2024年の映像界でいきなり有名になった河合優実さんが実質ヒロインの浜路を演じている点なのですが、いやいや、こっちのパートはフィクション世界なんですから、なんでそんなに「リアルな」お顔立ちの河合さんがヒロインを演じてらっしゃるのかな、という疑問は残りました。どう見たって現実パート顔でしょ。馬琴の近所の娘さんって顔じゃないの……いや、もうこれ以上は申しません。

 ヒロインと言えば、かつてあの『るろうに剣心』3部作で、あれほどキレッキレのアクションを見せていた土屋太鳳さんが、本作ではまるで身体を動かさない伏姫を演じるベテラン感をみなぎらせていたのにも、時の流れを痛感して感慨深くなりました。そうよねぇ、もうお母さんなんだものねぇ。


 と、まぁ、そんなこんなでありまして、もともと『南総里見八犬伝』ファンである私にとりまして今回の映画『八犬伝』は、直接の映画化作品ではないにしても、おおむね期待した以上に満足のいく作品でございました。単純に、観ていて楽しかった!
 ただ、それだけに惜しいのは、やっぱり最後の締め方なんですよね。そこさえ、他の作品に無い「なにか」を提示してくれさえすれば、邦画史上に残る完全無欠の名作になったはずなのですが……そこが非常に残念でなりません。役所さんだったら、どんな展開でも対応できたはずなのに、なんであんなに無難な感じになってしまったのか! まさにこれ、龍頭蛇尾。

 でも、現状可能な限り、最高級の逸材が集結した豪華絢爛な映画作品に仕上がったことは間違いないと思います。小さな画面じゃなくて大スクリーンで見ることができて良かった~!!


 いや~、『南総里見八犬伝』って、ホンッッッットに! いいもんでs……

 あ、思い出した。うちの積ん読に、あの桜庭一樹さんの『南総里見八犬伝』オマージュの『伏 贋作・里見八犬伝』(2010年)が未読のまま塩漬けになってたわ……プギャー! これ、『伏 鉄砲娘の捕物帳』(2012年)っていうアニメ映画にもなってるの!? エー、あの桂歌丸師匠が馬琴を演じてたの!?

 こここ、これを読まずして、観ずして『南総里見八犬伝』ファンだなどとは片腹痛し! おこがましいにも程がある!!

 また、出直してまいります……やっぱ『南総里見八犬伝』は広大だワン☆
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世界よ、これがハリウッドの風呂敷たたみだ ~映画『ジョーカー フォリ・ア・ドゥ』~

2024年10月28日 09時35分08秒 | ふつうじゃない映画
 え~みなさまどうもこんにちは! そうだいでございまする。
 いやぁ、なんだかんだ言っても、いよいよ秋めいてまいりましたね。今度の週末に私、福島県の土湯温泉に泊まりに行く予定があるんですが、紅葉はどうかなぁ。今月の頭に山梨まで車で往復した身としては、隣県の福島行きなんか気楽なもんにも思えちゃうんですが、なんにしろ遠出にはなるので、くれぐれも安全運転に心がけたいものです。よその県の温泉は、やっぱりワクワクするなぁ! 山形県内の温泉地ももうちょっとでコンプリートよ。待っててくれ、瀬見温泉!!

 ほんでもって今回は、秋にドバドバッとつるべ打ちになった「個人的に見たい映画・ドラマ」の中でも特に気になっていた、この作品でございます。ついに日本にも上陸しましたね!


映画『ジョーカー フォリ・ア・ドゥ』(2024年10月公開 138分 ワーナー・ブラザース)
 『ジョーカー フォリ・ア・ドゥ』(原題:Joker: Folie à Deux)は、アメリカのスリラー映画。DCコミックスの『バットマン』シリーズに登場するスーパーヴィラン・ジョーカーを描いた2019年の映画『ジョーカー』の続編。前作に続いてトッド=フィリップスが監督し、ホアキン=フェニックスが主演するほか、ハーレイ・クイン役でレディー・ガガが出演する。
 タイトルの「Folie à Deux(フォリ・ア・ドゥ)」はフランス語で「二人狂い」という意味で、一人の妄想がもう一人に感染し、複数人で同じ妄想を共有する精神障害のことを指す。
 製作費2億ドル。アメリカ本国では R指定、日本では R15指定だった前作と異なり PG12指定での公開となる。

あらすじ
 前作『ジョーカー』で発生した連続殺人事件の2年後。
 アーカム・アサイラムで解離性同一性障害と診断されたアーサー=フレックは、音楽セラピーで出会ったリーと名乗る女性と打ち解ける。ハーヴェイ=デント検事補によるアーサーの責任能力を問う裁判が始まる中、リーはアーサーの子を妊娠したと告白する。


おもなキャスティング
アーサー=フレック …… ホアキン=フェニックス(50歳)
 かつてスタンダップコメディアンを目指していた元大道芸人であり、2年前に連続殺人を犯した男。脳の障害のため、自分の意思に関係なく突然笑いだしてしまう病気を患っている。

ハーレイ(リー)=クインゼル …… レディー・ガガ(38歳)
 アーカム・アサイラムの音楽セラピーに参加していた女性。アーサーと出逢い恋愛関係となる。

ジャッキー=サリヴァン …… ブレンダン=グリーソン(69歳)
 アーカム・アサイラムの看守。囚人たちを虐待し、アーサーを玩具にして散々な目に遭わせる。

メアリーアン=スチュワート …… キャサリン=キーナー(65歳)
 アーサーの弁護士。死刑回避のために2年前の連続殺人事件をアーサーの精神病の悪化による二重人格から起こったとして弁護し、責任能力の有無をめぐってデント検事補と争う。

ハーヴェイ=デント …… ハリー=ローティ(28歳)
 アーサーを起訴するゴッサムシティの新任地方検事補。アーサーを死刑にしようと精神面の問題を争点に責任能力の有無でスチュワート弁護士と対立する。

パディ=マイヤーズ …… スティーヴ=クーガン(59歳)
 獄中のアーサーにインタビューする人気テレビタレント。

ヴィクター=ルー博士 …… ケン=レオン(54歳)
 デント検事補が裁判に召喚した、アーサーの精神鑑定医。

リッキー=メリーネ  …… ジェイコブ=ロフランド(28歳)
 アーカム・アサイラムの若い囚人。アーサーに心酔している。

ハーマン=ロスワックス …… ビル=スミトロヴィッチ(77歳)
 アーサーの裁判の裁判長。

ゲイリー=パドルズ …… リー=ギル(?歳)
 2年前にアーサーの元同僚だった大道芸人。

ソフィー=デュモン …… ザジー=ビーツ(33歳)
 2年前にアーサーが恋愛関係にあると妄想していた、シングルマザーの元隣人。

デブラ=ケイン …… シャロン=ワシントン(?歳)
 2年前にアーサーを担当していた民生委員。

若い囚人 …… コナー=ストーリー(?歳)


おもなスタッフ
監督 …… トッド=フィリップス(53歳)
脚本 …… スコット=シルヴァー(?歳)、トッド=フィリップス
製作 …… トッド=フィリップス、ブラッドリー=クーパー(49歳)
音楽 …… ヒドゥル=グドナドッティル(42歳)
撮影 …… ローレンス=シャー(54歳)
制作・配給 …… ワーナー・ブラザース・ピクチャーズ


 あ~、もう5年前のことになるんですかぁ。あの、R指定でありながら日本でも異様な熱狂を持って受け入れられた前作『ジョーカー』の、ほぼ同じスタッフ&キャスト陣による正統どストレートな続編であります。

 ええ、当然観に行きましたよ、私もおおそれながら DCコミックスファンだし、ジョーカーファンだし、ハーレイ・クインファン(ただし全身タイツ時代)でもありますからね。これは劇場に行かないわけにはいかないでしょ!

 前評判が決定的に悪い映画を観に行くっていうのは、つらいもんですね……まぁ、ファンだからかまやしないんだけどさ。

 私が観たのは、本作が日本公開されてから3回目の週末で、アメリカ本国での公開から見ると4回目の週末にあたるタイミングだったのですが、ネット上ではアメリカ公開の時点でかなり批判的な意見が多く、興行的にもかなり期待はずれな勢いになっているとのことです。
 実際、私が夕べ山形の映画館で観た時も、夜8~9時からの最終上映回だったことをさっぴいても10人いるかいないかのお客さんだったので、内容うんぬん以前の問題で「失敗」と言わざるを得ない結果を築きつつあるようですね……でも、お客さんの中にかなり硬派な、「どんな映画でもいいよ、俺たち愛し合ってるから!!」な雰囲気の、歩くたんびに全身がガッチャガチャ鳴るようなレザージャケット&チェーンまみれカップルがいたのには、なんだかほっこりしてしまいました。その心意気や、よし。

 ままま、そんな前評判はどうでもいいんですよ。要は観た私がどう感じたかなんだもんね! それで実際に観てみたわけなんですが、その感想はと言いますと、


こんなにきれいに前作の風呂敷たたみに終始した続編があっただろうか……もはや新作ですらない!?


 という感じでございました。いや、地続きもなにも、雰囲気から何からぜ~んぶ前作そのまんま!

 映画の長い歴史の中で、大ヒットした前作を強く意識して、「前でやらなかった新たな方向性で対抗しよう!」と舵を切った作品というものは、それこそ山のようにあります。『エクソシスト2』(1977年)しかり『エイリアン2』(1986年)しかり『ターミネーター2』(1991年)しかり……時系列的に遡って主人公役の俳優を代える手法を採った『ゴッドファーザー PARTⅡ』(1974年)もそうですし、ティラノサウルスをアメリカ本土の街中で大暴れさせた『ロストワールド ジュラシック・パーク』(1997年)もそう。そして、3代目ジョーカーことヒース=レジャーを唐突にぶっこんで来た漢クリストファー=ノーラン監督の『ダークナイト』(2008年)も、大成功した続編映画の枠に入れて良いのではないでしょうか。ちなみに、私がいちばん好きな続編映画は、『時の翼にのって ファラウェイ・ソー・クロース!』(1993年)です! うをを、ナタキンさま~!!

 そういった鼻息の荒い面々と比較しますと、今回の『 For リア充』……じゃなくて『フォリ・ア・ドゥ』が、いかに異質な映画であるかがよくわかるのではないでしょうか。
 こ、この作品、オレがオレがと前に出るがっつき感がまるでない! ていうか、劇中の盛り上がりシーンがことごとく、前作の名場面の流用じゃないか!! 新規撮影されたシーンはぜ~んぶ地味! ド派手なはずのミュージカルシーンも、ぜんぶ地味!!

 信じられない……いやホント、この映画、前作の制作費(約5500万ドル)の3~4倍のお金をかけて撮られてるんですよね? え……どこ? どこにそんなにお金がかかってんの!?

 これ、たぶんあれなんじゃない? 自分のことを全然描いてくれない前作を観てイラっときた本物のジョーカーがハリウッドに乗り込んできて、フィリップス監督をパンツいっちょにしてロッカーに押し込んだ挙句にメガホンを執って作った映画なんじゃない? 絶対にそうだよ! それで制作費の大半を持ち逃げしちゃってんだよ!!
 なんか、そういう筋のお話、ハーレイ・クイン(全身タイツ時代)とポイズン・アイヴィーが主人公のスピンオフコミックにありましたよね。あの時はバットマンが駆けつけて2人をとっちめてくれていましたが、今回は来てくれなかったか……『ザ・バットマン』の続編の撮影で忙しいのかな?

 地味だ……ほんと地味なんです、この映画。
 だいたい、ミュージカルシーンが収監中のアーサーの脳内妄想であることは明らかですし、物語の後半の舞台が法廷なんですから、地味なのはシナリオの時点でわかっていたはずなんですが、それを全く変えずにドドンッとまんま映像化してしまったその信じられないまでのクソ度胸は、さすが前作で「ジョーカーが全然出てこないジョーカー映画」を撮ったフィリップス監督といった感じなのですが、やはり今回ばかりは大方の支持は得られていないようで……でも、ギャンブルってそういうもんよね。

 本作は徹頭徹尾、前作で5人を殺害したという罪状で収監中のアーサーのその後を描く内容になっており、過酷ながらも前作よりはいくらか精神的に平穏な獄中生活を送っていたアーサーに、彼のファンと名乗る謎の女リーが現れたところから、アーサーの中に封印されつつあった狂気「ジョーカー」が再び胎動を始める……といった内容になっております。

 そういう感じなので、ほぼ全編にわたってお縄になっている状態のアーサーが、前作の「マレー=フランクリン・ショー」で見せたような完璧な状態の犯罪道化師に戻ることができるはずもなく、定番の赤い焼いもルックを見せてくれるのは冒頭のアニメか、物語のはしばしでのミュージカルシーンだけとなっております。現実の法廷で着ていたのは、赤に近い地味な赤茶色のジャケットでしたよね。

 でも、あの能天気なアニメ開幕のあとに出てくるアーサー役のホアキンさんのガリッガリの上半身のインパクトは、やっぱりCG とかでは絶対に出せない凄絶なオーラをまとっていますよね。作品の出来不出来関係なく、ホアキンさんがあの身体に戻ってくれたってだけで、劇場でお金払って観る価値はあると半ば強引に納得させられちゃいますからね。また命削ってるよ、この人……だって、『ジョーカー』のあとに、あの『ボーはおそれている』で、年齢相応のだるんだるんな中年体型になってから、また今作でこうなってるんでしょ!? 頭おかしいって!

 先ほども申したように、この作品は前作以上のカタルシスを!といったような野心は全くなく、ただひたすらに、殺人者となってしまったアーサーを断罪し、アーサーの信奉者となったリーをはじめとする多くのゴッサムシティの若者たちに冷や水をぶっかけて「目ェさませ!!」と一喝するような、まるで前作でアーサーをカリスマ犯罪者に祭り上げた風呂敷を「すんませんでした……」とたたんで片付けるかのような処理作業に終始している、ただこれだけの138分間なのでございます。
 それはまぁ、そうですよ。個人的な感情で衝動的に犯罪をおかした人間が前作であそこまで世界的に受け入れられたというのは、アメコミの超有名な悪者キャラがウケたとは全く別の現象で、確かに異常な事態ではありました。そのフィーバーに対して何らかの危機感をいだいたフィリップス監督が、まるで庵野秀明監督のように「いやあの、落ち着いてください。」と真摯に応対したのが、この『フォリ・ア・ドゥ』のクソがつくほど真面目な姿勢につながったのかも知れません。

 ですので、そういう意味で言うのならば、本作はこれまでに世に出たどの続編映画よりもマジメで、まごころに満ちた「風呂敷たたみ映画」なのかも知れません。ホアキンさんの完璧な役作りも、ゲイリーを演じたリー=ギルさんを筆頭として再び集まった前作キャスト陣の真剣さも、前作と全く矛盾せず、前作が生んでしまったアーサーの心の中の怪物をきれいに「成仏」させる、理想的な続編の誕生に寄与していたと思います。「浄化」じゃなくて「成仏」なところが哀しいですが……

 ただ、今回こういった気持ちいいくらいの「発つ鳥跡を濁さず」映画を目の当たりにしてしまった観客の多くの心に去来したのは、


きれいに収まったらいいってもんでも、ないんだな……


 という、どっちらけな感情だったのではないでしょうか。例えばあなたがどこかの観光地に旅行に行ったとして、おなかをけっこう空かせて入ったこじゃれたリストランテで、味は神業的においしくてもひと口サイズのお通しみたいなスイーツとよくわかんない味のハーブティーだけ出されて1800円って言われたら、う~んってなるじゃないですか。今食べたいのはマックの油ぐじゃぐじゃで味おおざっぱな Lサイズセットなんだけどなぁ~みたいな!?

 かつて江戸の昔の人々は、

白河の 清きに魚も 棲みかねて もとの濁りの 田沼恋しき 

 なんて狂歌を詠みましたが、純度100%、前作尊重度100% の『フォリ・ア・ドゥ』のこれじゃない感って、これに通じる部分も少なからずあるのではないでしょうか。いや、そのストイックな姿勢に文句はないんだけどさ、もちっと冒険してもいいんじゃない?みたいな。

 冒険というのならば、今作のミュージカルパートの多用と、それにともなうハーレイ・クインへのレディー・ガガの起用という手が充分すぎるほどの冒険じゃないかという意見もあるかとは思うのですが、作中にこれでもかというほどに音楽が流れていたのは前作から何も変わっていない傾向ですし、そこも、オリジナル版の歌手や演奏のオンパレードだった前作に比べて今作ではホアキンさんかガガ様のボーカルだけになっているので、むしろ今作の方が地味になってしまったという悪手だったのではないでしょうか。だいたい、音楽セラピーで出逢ったからってそれ以降ぜんぶミュージカル妄想になるって、アーサーってどんだけ純粋なんだって話なのですが……ま、アーサーですから。

 本作におけるハーレイ・クイン(こちらもバットマンサーガのハーレイとは別人だという意見もあるのですが、便宜上統一します)の役割も、結局は原典のハーレイほど狂った人間ではなく、それなりの自立性を持った正常な判断のできる女性だったという感じなので、最後も「そりゃそうなるわな。」といった感情しか湧かず、ごくごくフツーのヒロインでしかなかったな、という印象でした。本作のタイトルの「二人で狂う」って、アーサーとリーのカップリングじゃなくて、冒頭のアニメで示された通りにアーサーと内なるジョーカーのカップリングだったんですね。アーサー無惨……

 やっぱり、ハーレイ・クインはジョーカーに輪をかけて狂ったキャラでないといけませんやね。蛇足ですが、私が一番好きな映像作品上のハーレイ・クインは、やっぱり TVドラマシリーズ『ゴッサム』でフランチェスカ=ルート・ドットソンさんが演じていたハーレイ(女優さんで言うと通算4代目)です。あの左右で上下反対になっている顔のメイクが最高に狂ってますよね……出番が少なかったのが残念!

 やっぱり、今作のミュージカル導入は悪手だったとしか言えないのではないでしょうか。
 なぜならば、前作では映画の内容と全く関係の無いシナトラやジミー=デュランテの滋味あふれる歌声と、この映画の空気感を象徴しているとしか言えないヒドゥル=グドナドッティルの激重な音楽とのムチャクチャな温度差がアーサーの心理状態のグッチャグチャ感を体現していたのに、今作では映画の雰囲気を充分にくみ取ったホアキンさんやガガ様のボーカルになっている分、グドナ音楽にわりと近い質感に歩み寄っちゃってるんですよね。これでは、前作で発揮された「緊張と緩和」の効果はきいてきませんよ! 全体的にのぺーっとした空気の変わらなさを助長する一因になっちゃった。


 このように、今回の『フォリ・ア・ドゥ』は、どうやらフィリップス監督が「作品の面白さ」をそっちのけにして前作の火消し&後片付けに心血を注いでしまったがゆえに、ほぼ確信的につまらないことが必定になってしまった「なるべくしてなった失敗作」としか言えないような気がします。でも、こういう失敗さえもフィリップス監督の想定内である可能性は高いので、とにもかくにもこんな悪だくみにホイホイ2億円をつぎこんでしまったワーナーはんには、もはやご愁傷さまと声をかけるしかありませんやね。そもそも、「ジョーカー出る出る詐欺」で世界中からお金をしぼり取った作品の続編なんですから、これは空から色が生まれ、そしてまた色が空へと還ってゆく自然の理なのではないでしょうか。南無阿弥陀仏……

 でも、今作でほんとのほんとにジョーカー役からは卒業となったホアキンさんは、本当に身体をいたわってほしいです。ジョーカーを映画で2作も演じるという前人未踏の偉業、よくぞやり切ってくださいました(『ジャスティス・リーグ ザック=スナイダー・カット』のジャレッドジョーカー再登板はカウントしません)……もういい! あと、あなたはもうやんなくていいから、若いバリー=コーガンくんに任せてください!! まだキャメロン=モナハンくんの線も諦めてはいませんけどね!

 いや~、ほんと、変な映画だったな……ここまで振り切っちゃってたんなら、バットマンサーガに色目をつかったハーヴェイ=デントの登場とか「若い囚人」のラストシーンでの挙動とか、いっそのことやらなきゃよかったのにね。ていうか、前作のブルース=ウェイン、どこ行った!? チベットでニンジャ修行してんのか、それともウチで全身タイツの手もみ洗いでもしてんのかァ~!? HAHAHA☆
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これが戦後か……ほろにが過ぎる和製フィルム・ノワール ~映画『狼』~

2024年10月21日 23時02分16秒 | ふつうじゃない映画
映画『狼』(1955年7月 128分 近代映画協会)
 『狼』(おおかみ)は、近代映画協会制作の映画。白昼に強盗事件を起こす五人の男女を通して、貧窮する弱者を追い詰める会社組織の残虐性と人間性の弱さを描く犯罪映画。
 監督・脚本の新藤によると、本作は神奈川県金沢八景付近の国道で実際に起きた郵便車襲撃強盗事件を元にしており、事件の犯人グループも貧窮した男性3名、女性2名の生命保険勧誘員だった。
 新藤は、知人の生命保険外交員に取材して脚本を完成させ、乙和信子や浜村純らのキャスティングも決まり、1954年6月から映画制作を再開させていた映画会社・日活での制作が決定した。しかし、当時の日活の大株主に生命保険会社があったことから本作は撮影直前に制作中止となり、新藤はその他にも生命保険会社による企画中止を求める圧力などを受けながらも、自主製作で本作を完成させた。

あらすじ
 暑い夏の午後、日本刀と猟銃で武装した五人の男女が郵便自動車を襲った。五人は、元銀行員、脚本家、元自動車組立工、そして子どもを抱えた戦争未亡人ふたり。
 窮乏により家庭は崩壊寸前となり、最後の頼みの綱として生命保険の勧誘員となった彼らが見たのは、さらに絶望的な戦後日本の現実だった。生きるため、家族を救うため、追い詰められた人々はついに犯罪の牙をむく。

おもなスタッフ
監督・脚本 …… 新藤 兼人(43歳)
製作 …… 絲屋 寿雄(46歳)、山田 典吾(39歳)、能登 節雄(47歳)
音楽 …… 伊福部 昭(41歳)
制作 …… 近代映画協会

おもなキャスティング
矢野 秋子  …… 乙羽 信子(30歳)
矢野 義登  …… 松山 省二(現・政路 8歳)
吉川 房次郎 …… 菅井 一郎(48歳)
吉川 たか  …… 英 百合子(55歳)
吉川家の居候・高橋 …… 下元 勉(37歳)
三川 義行  …… 殿山 泰司(39歳)
三川 文代  …… 菅井 きん(29歳)
藤林 富枝  …… 高杉 早苗(36歳)
原島 元男  …… 浜村 純(49歳)
原島 智子  …… 坪内 美子(40歳)
東洋生命新宿西部支部桜部長・橋本 …… 小沢 栄太郎(46歳)
東洋生命新宿西部支部梅部長・町田 …… 北林 谷栄(44歳)
東洋生命新宿支社長・神森     …… 東野 英治郎(47歳)
東洋生命新宿支社西部支部長    …… 御橋 公(60歳)
東洋生命丸ノ内本社営業部長    …… 清水 将夫(46歳)
郵便車の輸送員・岡野 …… 柳谷 寛(43歳)
山本 秀夫    …… 信 欣三(45歳)
洗濯屋の主人   …… 左 卜全(61歳)
押し売りの男   …… 高原 駿雄(32歳)
春日 さゆり   …… 曙 ゆり(?歳 当時の松竹歌劇団スター)
和田医師     …… 宇野 重吉(40歳)
踏切の警官    …… 下條 正巳(39歳)
十二号室の看護婦 …… 奈良岡 朋子(25歳)
病院の事務員   …… 佐々木 すみ江(27歳)




≪すっごく……重たいです。本文マダヨ≫
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ハリウッドへの名刺がわり? ヒッチコック第2のデビュー作 ~映画『海外特派員』~

2024年10月13日 13時19分19秒 | ふつうじゃない映画
映画『海外特派員』(1940年8月公開 120分 アメリカ)
 『海外特派員』(原題:Foreign Correspondent )は、アメリカ合衆国のサスペンス映画。アルフレッド=ヒッチコック監督のアメリカ・ハリウッドにおける2作目の作品である。

 1939年3月にアメリカに移住したヒッチコックは、翌4月からハリウッドの映画プロデューサー・デイヴィッド=O=セルズニックの映画会社セルズニック・インターナショナル・ピクチャーズに所属した。1940年3月の『レベッカ』の完成後、セルズニックはしばらくプロデューサーとしての活動を停止し、契約した俳優や監督を他社に貸し出す方針をとったため、ヒッチコックも1944年まで他の映画会社に貸し出されて映画を制作することとなった。
 『海外特派員』は独立系映画プロデューサー・ウォルター=ウェンジャーの映画会社に出向して制作した作品で、1940年3月に脚本が完成し、同年夏まで撮影が行われたが、製作費はそれまでのヒッチコック作品の中で最高額の150万ドルとなった。本作は、第二次世界大戦の開戦直前のロンドンに派遣されたアメリカ人記者がナチスのスパイの政治的陰謀を突き止めるという物語であり、大戦への不安を抱いていたヒッチコックは、この作品であからさまにイギリスの参戦を支持し、エンディングではアメリカの孤立主義の撤回を求める戦争プロパガンダの要素を取り入れた。
 本作は同年8月にユナイテッド・アーティスツの配給で公開されると成功を収めたが、その一方でイギリスのメディアからは、祖国の戦争を助けるために帰国しようとせず、アメリカで無事安全に仕事を続ける逃亡者であると非難された。なお、実際に第二次世界大戦が開戦したのは本作公開の翌月の9月3日だった(イギリスとフランスによるナチス・ドイツへの宣戦布告)。
 第13回アカデミー賞の6部門にノミネートされた(作品賞、助演男優賞アルベルト=バッサーマン、脚本賞、撮影賞、美術賞、視覚効果賞)。

 オランダ人外交官ヴァン・メア卿を演じたドイツ人俳優アルベルト=バッサーマンは英語を全く話せなかったため、全てのセリフを音で覚えて演じた。
 新聞コラムニストのロバート=ベンチリーはステビンズ役を演じるにあたり、自分のセリフを自ら考えることを認められた。
 ヒッチコック監督は、本編開始12分35秒頃、ロンドンで主人公のハヴァーストックがヴァン・メア卿と初めて出会う場面で新聞を読みながら歩く通行人の役で出演している。
 日本では1976年9月に劇場公開されたが、それ以前にも TVでたびたび放映されていた。


あらすじ
 第二次世界大戦前夜の1939年8月中旬。ニューヨーク・モーニング・グローブ紙のパワーズ社長は、事件記者ジョン=ジョーンズに「ハントリー=ハヴァーストック」のペンネームを与え、ヨーロッパへの海外特派員としてイギリス・ロンドンに派遣した。
 ジョーンズの最初の任務は、昼食会でオランダの外交官ヴァン・メア卿にインタビューすることだった。ハヴァーストックはヴァン・メア卿とタクシーに相乗りして戦争が差し迫っている社会情勢について質問するが、ヴァン・メア卿は言葉を濁す。昼食会に出席するとハヴァーストックは、会議の手伝いをしていた、司会を務める万国平和党党首のスティーヴン=フィッシャーの娘キャロルに夢中になってしまう。フィッシャー党首は、講演する予定だったヴァン・メア卿が急用により欠席したと発表し、代わりにキャロルに講演をさせた。
 続いてパワーズ社長は、万国平和党の会議に出席するヴァン・メア卿を取材させるため、ハヴァーストックをオランダ・アムステルダムに急行させる。ハヴァーストックはヴァン・メア卿に挨拶をするが、なぜかヴァン・メア卿はハヴァーストックのことを憶えていない。すると突然、カメラマンを装った男が隠し持っていた拳銃でヴァン・メア卿を射殺してしまった!

おもなキャスティング
ジョン=ジョーンズ(ハントリー=ハヴァーストック)…… ジョエル=マクリー(34歳)
キャロル=フィッシャー   …… ラレイン=デイ(19歳)
スティーヴン=フィッシャー …… ハーバート=マーシャル(50歳)
スコット=フォリオット   …… ジョージ=サンダース(34歳)
ヴァン・メア卿       …… アルベルト=バッサーマン(72歳)
ステビンズ記者       …… ロバート=ベンチリー(50歳)
クルーグ大使        …… エドゥアルド=シャネリ(52歳)
殺し屋のローリー      …… エドマンド=グウェン(62歳)
パワーズ社長        …… ハリー=ダヴェンポート(74歳)

おもなスタッフ
監督 …… アルフレッド=ヒッチコック(41歳)
脚本 …… チャールズ=ベネット(41歳)、ジョーン=ハリソン(33歳)、ジェイムズ=ヒルトン(39歳)
製作 …… ウォルター=ウェンジャー(46歳)
音楽 …… アルフレッド=ニューマン(39歳)
撮影 …… ルドルフ=マテ(42歳)
編集 …… オットー=ラヴァーリング(?歳)、ドロシー=スペンサー(31歳)
製作 …… ウォルター=ウェンジャー・プロダクションズ
配給 …… ユナイテッド・アーティスツ


≪本文マダヨ~≫
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