ハーイどうもこんばんは! そうだいでございまする。
いや~、昨日はもう大変な日でしたね。台風19号! とはいいましても、私の住んでいる山形市はほとんど被害もなかったらしく、ケータイはもうしょっちゅう避難勧告でビービーピロピロビービーピロピロ鳴りまくっていたのですが、幸いそれも私の家からはだいぶ離れた地区が対象となったもので、特に大きな被害もなく、嵐も過ぎ去っていきました。
ただまぁ~、他の地域は本当に大変ですよね、現在進行形で。1日経っていても、まだ決壊する可能性のある川があるっていうんですから。
昨日の TV画面はもう、全局台風情報のテロップで埋め尽くされている感じでしたね。まさに古今未曽有の大災害の到来した日だったわけです。
なんでまた、待ちに待った放送日がこんなことになんのよ……
うむむ……令和の御代になっても、八つ墓明神のたたりは健在だということなのか。おそろしいことであります!
ドラマ『八つ墓村』(2019年10月12日放送 NHK BSプレミアム『スーパープレミアム』 119分)
主なスタッフ
脚本 …… 喜安 浩平(44歳)、吉田 照幸(49歳)
演出 …… 吉田 照幸
主なキャスティング
井川 辰弥 …… 村上 虹郎(22歳)
森 美也子 …… 真木 よう子(36歳)
田治見 春代 …… 蓮佛 美沙子(28歳)
田治見 久弥 …… 音尾 琢真(43歳)
田治見 要蔵 …… 音尾 琢真(2役)
里村 典子 …… 佐藤 玲(りょう 27歳)
里村 慎太郎 …… 小柳 友(31歳)
田治見 小竹・小梅 …… 竜 のり子(75歳 2役)
野村 荘吉 …… 國村 隼(63歳)
濃茶の尼 …… 木内 みどり(69歳)
駐在 …… 宮沢 氷魚(25歳)
駐在の妻 …… 佐津川 愛美(31歳)
井川 鶴子 …… 樋井 明日香(28歳)
新居 修平 …… 馬場 徹(31歳)
久野 恒美 …… 久保 酎吉(64歳)
麻呂尾寺の長英 …… 津嘉山 正種(75歳)
麻呂尾寺の英泉 …… 山口 馬木也(46歳)
慶勝院の梅幸 …… 山下 容莉枝(55歳)
諏訪弁護士 …… 酒向 芳(60歳)
井川 丑松 …… 不破 万作(73歳)
片岡 吉蔵 …… やべ きょうすけ(45歳)
34代目・金田一耕助 …… 吉岡 秀隆(49歳)
16代目・磯川常次郎警部 …… 小市 慢太郎(50歳)
※日本ミステリー界の巨星・横溝正史による金田一耕助ものの第4長編『八つ墓村』(1949年3月~51年1月連載)の10度目の映像化
※『八つ墓村』の映像化回数「10回」は、金田一耕助もの作品の映像化された原作の中でも最多となる(次に多いのは映像化「9回」の『犬神家の一族』)
※公式資料によると、原作で本事件の捜査にあたった時点(1948年5月)での金田一耕助の年齢は「35歳」だった
多少、雨風で外がビュービューうるさくはあったのですが、それでもゆっくりとお茶の間で、この記念するべき『八つ墓村』ディケイドを鑑賞することができたのは、本当に幸せなことでありました。これはありがたいと受けとめないとね。
そして、放送前に内心、台風情報で画面の外枠が占領されて、10分に1回くらいの頻度でニュース速報がバカスカ流れる惨状の中でドラマを観る覚悟をしていたのですが、今回の放送は「1回だけ速報が流れた」のみで外部情報を抑えるという放送局の英断に、私はまったく感服いたしました。さすがはプレミアム! 数年前に、あるドラマの件でかなり怒りまくったことも、今や過去のことですね。
決して「金田一ブーム再来」とまでは言えないものの、2016年11月の、あの長谷川博己金田一による衝撃の『獄門島』(と、池松金田一のミニシリーズ)いらい、確実に年1~2のペースで映像化金田一作品の新作がおがめるという幸せな状況が復活したのは素晴らしい僥倖であります。まぁ、一般的な浸透率でいいますと、やっぱり地上波放送のフジテレビによるシゲアキ金田一シリーズの方がインパクトはあるのでしょうが、現在の流れのご本家はあくまでも、この脚本・喜安&監督・吉田による BSプレミアム版シリーズなのです。そして、昨年の『悪魔が来りて笛を吹く』のエピローグにおける予告通り、待望の最新作にして、令和最初の映像化金田一作品として、あの『八つ墓村』がやって来たわけだったのであります! うをを!!
ちなみに、昨年末のくだんのシゲアキ金田一版『犬神家の一族』の登場によって、「金田一ものの映像化回数ランキング」において、最多の「9回」という記録で『八つ墓村』と『犬神家の一族』がタイで並ぶという状況となっていたのですが、今回の吉岡金田一版の放送によって、記念すべき「10回」となった『八つ墓村』が、再び単独の首位に躍り出ることとなりました。さすがは『八つ墓村』! そ~簡単に首位の座をシェアするわけにはいきませんよね。もんのすごいデッドヒートだ!
さぁ、そんな経緯もありまして、いやがおうにも期待値が高まる今回の『八つ墓村』だったのですが、正直なところ、私は不安に感じている要素もあるにはありました。
また、『八つ墓村』を2時間でやるなんて……大丈夫なの?
そうなんです。原作小説『八つ墓村』は、まさに推理+ホラー+アドベンチャー+ロマンスのおもしろ要素てんこもり宝石箱! 高さ60cm の花火つきパフェのような欲ばりエンタテインメント作なのです。これをまともにノーカットで映像化するなんて、2時間じゃあ到底ムリムリ!
いままで9作もの先達がいならぶ『八つ墓村』ではありますが、それらのことごとく全てが、どこかの部分で必ずなんらかの「ショートカット&改変」をほどこして映像化にこぎつけていました。物語を語る時間制限「尺」という要素で、比較的余裕のある境遇にあった1977年映画版(151分)、1978年ドラマ版(239分)に関しても、原作に忠実どころか、それぞれの事情によって似ても似つかない要素を含んだ作品に仕上がっているため、『八つ墓村』の映像化には、どこか必ず危なっかしいバイパス手術が必要となる難しさがあるという印象があったのでした。
中には、1977年映画版(渥美金田一のやつ)のように、もう勢いで有無を言わさず突っ切っちゃって独自の良さにしてしまった成功例もあるのですが、まず偉大すぎる原作小説の縮小再生産という印象はぬぐえません。しかし横溝先生は寛大だねぇ! 1977年版はもう、原作小説の論理的ミステリー要素を気持ちいいくらいにカットしちゃってます。
個人的に最高だと思っている1991年ドラマ版(古谷金田一の2回目)もとってもいいのですが、やっぱりバッサバッサといろんな部分を切り取っちゃった、盆栽のようなちんまり感はありますよね。1996年映画版(豊川金田一のやつ)も、ダブル岸田今日子にご自慢の市川演出で雰囲気はやたら良かったのですが、改変したオリジナルのメイントリックがんまぁ~ひどいもんだったので、落第もいいところの出来となってしまいました。1996年版の真犯人は、逮捕されたかったのか!? あんなもん、金田一耕助いらんわ!!
……といった、個性的な9人のお兄さんお姉さんに囲まれた、今回の最新『八つ墓村』。さぁ、それを目の当たりにした私の感想はどうだったのかといいますと~!?
ここにきて、原作小説に最も忠実なバージョンが誕生! 予想以上におもしろかった。びっくりしました!!
いや~、まさか、2時間でここまで原作の要素をあまさず取り込めるとは。今までの諸先輩方のご苦労が一体なんだったのかという、実にスマートな映像化。ほんとに驚いた。
手離しに絶賛する、とまでもいかない歯がゆさはあるのですが、ともかく予想していた以上のクオリティであったことは確か。そして、なんといっても原作小説ほんらいの端正な構造を最大限、丁寧に映像化したその姿勢がすばらしかった! その一言に尽きます。まじめ! いい意味でも、そうでない意味でも。
これまでの映像化された『八つ墓村』群と比較してみますと、今回の2019エディションは、以下の数々のポイントをかなり原作に忠実に描写したものとなっています。
①恐怖の「どっちかが死ねばいい」ペアターゲットリスト(しかし、実は……?)
②作品の本来のヒロインである、里村典子(主人公・寺田辰弥のいとこ)の存在
③「真犯人」の動機に深く関わる、里村慎太郎(典子の兄)の存在
④西屋の当主である野村荘吉の抱いている「ある疑惑」
⑤辰弥の「ほんとうの父親」亀井陽一の存在と、現在の姿
⑥事件の重要なきっかけのひとつである新居修平医師の存在
⑦尼子の落ち武者の財宝はどうなったのか?
⑧「真犯人」の死因
特に、②と④と⑥をちゃんとおさえているところが、非常に大きいというか、もう2019年エディションの特色と言ってもいい新鮮さにあふれていますよね! ④なんか、今回が初映像化なんじゃないですか? そこを、國村隼という名優がガッチリ演じているんだからすごいんですが……それにはちょっと、功罪相半ばする効果があり……?
結論から言いますと、この「原作に最も忠実な映像化」という部分がもたらす効果は、「よくない部分」も多少はあった、と私は見ました。
言いたいことは山ほどあるのですが、まず、私が今回の2019エディションを観て「ここはいいね!」と感じたのは、
・里村典子の大暴れ!
・吉岡金田一の「こわ~いところ」が出てきたぞ~!!
この2点でした。
典子に関しては、映像化された『八つ墓村』といいますと、これまでヒロインといえば田治見春代と森美也子という、「オトナの魅力」に満ちたおふたりが若い辰弥をめぐってバチバチやらかすという構図が有名かと思われます(そこは2019エディションもしっかり描いています)。でも、そんなどうしようもないドロドロのしがらみの中で倦み疲れた辰弥を救う真のヒロインは、実はフレッシュな若さとピュアさ(バカっぽさ?)にあふれた里村典子だったのだ! という流れが、今回は非常にしっくりくる演出になっていました。1996年版の、「あんた一柳鈴子ちゃんじゃないの?」と見間違えてしまうほどに危うい典子でもありません。しっかり強い女性です! 典子ちゃんの底の知れない笑顔にかかっちゃあ、さすがの要蔵ミイラもかなわねぇや!!
ところで、「戦国時代の尼子家の財宝」が、あんなに分かり易い大判の形をしていて良いのだろうか……時代考証的に、ギリギリ OK? でも尼子家だったら、やっぱりほんとは銀なんだろうなぁ。
吉岡金田一の怖さに関しては、もう見ていただくしかありませんが、なにかというと「ギョロッ!」とむく目がこわいこわい! 何かに気づくたびに、鳥居みゆきさんばりに「逆三白眼」の目つき(黒目が下に寄る)になるのです……田治見要蔵よりも濃茶の尼よりも「真犯人」よりも、金田一さんがいちばんこわ~い!!
さすがは、吉岡さん。伊達に1977年映画版で辰弥の幼年時代を演じているわけではない、気合の入りっぷりを見ました。
そういえば、今回の金田一先生は、あざやかなブルーの着物も印象的なのですが、しじゅう来ているマントが、まるで「教誨師」のようなイメージも与える着こなしになっていましたね。うむ、『八つ墓村』の金田一先生は、それでいいかもしんない。
そうそう、今回の田治見要蔵ほど、「32人、殺せんの!?」と心配になるか弱い要蔵もいませんでしたね。実際、映像の中で村人の反撃に遭いかけてただろ!
そこはおそらく、「愛の妄執に憑りつかれた哀しい男」という部分を強調したキャラクター造形だったのでしょうが、まるで迷子のような、母親を見失った子どものような表情で村の中をさまよう姿が実に味わい深い田治見要蔵でした。特に、金田一先生がつかの間に見た幻影として現れるラストシーンがよかったなぁ。
ただ、あれじゃ32人は絶対殺せないでしょ……モデルになった実在の事件の犯人は、かなり周到に計画して、村人が寝静まった深夜にやってたんだもんねぇ。大金持ちのボンボンが思いつきで日中に暴れだしても、相手にはむくつけき農村の若者もいただろうし、ねぇ。
そんなこんなで、みどころがいっぱいあった今回の2019エディション。少なくとも、過去の映像化作品をまるっとトレースしたような、志の低い更新作業ではなかったという時点で、私は大いに高く評価させていただきましたが、まぁそこはそれ、ファンの勝手なつぶやきということで、ちょっとそこはどうかナ~? と、気になったポイントも、挙げさせていただきましょう。そんな、たいしたことじゃないんですけど、ま、ね!
「真犯人」の意外性が、めちゃくちゃゼロに近い……いや、これはもう、確信犯的演出なんでしょうけどね!
はっきりいいまして、この2019エディション、「真犯人」に対するアタリがそうとうキツイ!! ていうか、隠す気が毛頭ない! 事件の事情をほとんど噂くらいでしか知らないと思われる村人までもが、最初っから「真犯人」のことを、「あいつはあやしいぞぉ。」と何の根拠もなく疑っているんです、冒頭から! ひどいよ! まぁ、犯人だけどさ!!
実はこれ、先ほどにあげた④のポイントをしっかり映像化したってことからも、スタンスははっきりしてるんですよね。逆に言うと、たぶんこれまでの9作品は、金田一先生以外に事件の真相を見抜いていそうな登場人物がいるとミステリーとしてつまんなくなっちゃうから、わざと④を削除していたんでしょう。
だから、べつに『古畑任三郎』みたいな倒叙ものでもないはずなのに、「真犯人」自体ものっけからあやしいし、周囲の「真犯人」に向けられた視線も、冷たい冷たい! そんなアウェーすぎる状況の中で、ほんとにやってしまう「真犯人」もとんでもない肝っ玉なわけですが、それだけに、余りにも哀しい人生、とも言えますよね。
いや、そんなもんキャスト表を見たら誰が犯人かなんてすぐわかるだろ、と言われてしまえば身もフタもないのですが、ここまで犯人を隠す気がない『八つ墓村』も初めて観ました。犯人がわかりやすいことで有名な市川崑演出だって、こんなに周囲の人物がこぞって「あいつあやしい! あいつあやしい!」と言うような環境は作らなかったでしょ!?
だから、今回の2019年版は、原作にこんなに忠実でありながらも、結局はあの1977年版同様に「ミステリーであることを放棄している」『八つ墓村』になっているわけなんです。不思議だな~!! 方向性は全く違うのに。
なのでたぶん、「ウソー! まさかあの人が真犯人だったなんて!」とクライマックスを見て驚愕する人は、まずいないんじゃない? そういう意味で、カタルシスのはなはだしく欠如した作品になってしまった感はあります。あぁ、なるべくしてなったんだなぁ、みたいな無力感が……
あと、吉田演出にロマンを求めるべきでないのは当たり前なのですが、なんか、クライマックスにいくにしたがってクラシックやら洋楽ロックやらがジャカジャカつぎこまれていった騒がしさがあって、今までの2作品(『獄門島』の洋楽ロックと『悪魔が来りて笛を吹く』のフルート)にあった一貫性が崩れた印象は受けました。無理矢理ロマンを作ろうとした感じというか。なにをか焦ることやはある!?
それに、ラストのブラックジョーク的なオチシーンにあんな華々しいクラシックを用いるべきではなかったし(見てもなんの爽快さもない)、そもそも辰弥と典子のシーンで終わりにしてよかったんじゃないかと。その点、同じ結果を招くシーンだったにしても、そこに多治見(この表記でいい)家の炎上というスペクタクルをドッキングさせた、1977年版の橋本忍脚本は、やっぱりちゃんと考えてらっしゃるんだなぁ、と今更ながら感じ入ってしまいました。
う~ん、やっぱり、「原作に忠実にすりゃいいってもんじゃないよ」ってことなんですかねぇ? 難しいなぁ、映像化って!
様々なチャレンジ精神に満ちた出来でありながらも、その一方で「若さ」「愚直さ」も目立つ『八つ墓村』2019エディションであると見ました。
ま、なにはなくとも、「亀の湯」が出てくる次回作が楽しみ……って、それ、シゲアキ金田一が年末にやるやつじゃないの!?
それに、『悪魔の手毬唄』は、原作小説の時間軸だと『八つ墓村』の7年後の事件ですよ~! 7年間、「亀の湯」を目指して旅をするのか!? 岡山県そんなに広かったっけ!?
今まで割とまともだった、BSプレミアムシリーズの時間軸が、ついにゆがんできてしまった……余談ですが、本編中でちゃんと「鬼首村の事件」と言及するくらいのファンサービスをするのならば、いっそのこと令和の『夜歩く』を映像化して欲しかった……かなわぬ夢か~!
まま、まずはフジテレビの『悪魔の手毬唄』を楽しみにしております! よろしくお願いいたしますよ~!!
いや~、昨日はもう大変な日でしたね。台風19号! とはいいましても、私の住んでいる山形市はほとんど被害もなかったらしく、ケータイはもうしょっちゅう避難勧告でビービーピロピロビービーピロピロ鳴りまくっていたのですが、幸いそれも私の家からはだいぶ離れた地区が対象となったもので、特に大きな被害もなく、嵐も過ぎ去っていきました。
ただまぁ~、他の地域は本当に大変ですよね、現在進行形で。1日経っていても、まだ決壊する可能性のある川があるっていうんですから。
昨日の TV画面はもう、全局台風情報のテロップで埋め尽くされている感じでしたね。まさに古今未曽有の大災害の到来した日だったわけです。
なんでまた、待ちに待った放送日がこんなことになんのよ……
うむむ……令和の御代になっても、八つ墓明神のたたりは健在だということなのか。おそろしいことであります!
ドラマ『八つ墓村』(2019年10月12日放送 NHK BSプレミアム『スーパープレミアム』 119分)
主なスタッフ
脚本 …… 喜安 浩平(44歳)、吉田 照幸(49歳)
演出 …… 吉田 照幸
主なキャスティング
井川 辰弥 …… 村上 虹郎(22歳)
森 美也子 …… 真木 よう子(36歳)
田治見 春代 …… 蓮佛 美沙子(28歳)
田治見 久弥 …… 音尾 琢真(43歳)
田治見 要蔵 …… 音尾 琢真(2役)
里村 典子 …… 佐藤 玲(りょう 27歳)
里村 慎太郎 …… 小柳 友(31歳)
田治見 小竹・小梅 …… 竜 のり子(75歳 2役)
野村 荘吉 …… 國村 隼(63歳)
濃茶の尼 …… 木内 みどり(69歳)
駐在 …… 宮沢 氷魚(25歳)
駐在の妻 …… 佐津川 愛美(31歳)
井川 鶴子 …… 樋井 明日香(28歳)
新居 修平 …… 馬場 徹(31歳)
久野 恒美 …… 久保 酎吉(64歳)
麻呂尾寺の長英 …… 津嘉山 正種(75歳)
麻呂尾寺の英泉 …… 山口 馬木也(46歳)
慶勝院の梅幸 …… 山下 容莉枝(55歳)
諏訪弁護士 …… 酒向 芳(60歳)
井川 丑松 …… 不破 万作(73歳)
片岡 吉蔵 …… やべ きょうすけ(45歳)
34代目・金田一耕助 …… 吉岡 秀隆(49歳)
16代目・磯川常次郎警部 …… 小市 慢太郎(50歳)
※日本ミステリー界の巨星・横溝正史による金田一耕助ものの第4長編『八つ墓村』(1949年3月~51年1月連載)の10度目の映像化
※『八つ墓村』の映像化回数「10回」は、金田一耕助もの作品の映像化された原作の中でも最多となる(次に多いのは映像化「9回」の『犬神家の一族』)
※公式資料によると、原作で本事件の捜査にあたった時点(1948年5月)での金田一耕助の年齢は「35歳」だった
多少、雨風で外がビュービューうるさくはあったのですが、それでもゆっくりとお茶の間で、この記念するべき『八つ墓村』ディケイドを鑑賞することができたのは、本当に幸せなことでありました。これはありがたいと受けとめないとね。
そして、放送前に内心、台風情報で画面の外枠が占領されて、10分に1回くらいの頻度でニュース速報がバカスカ流れる惨状の中でドラマを観る覚悟をしていたのですが、今回の放送は「1回だけ速報が流れた」のみで外部情報を抑えるという放送局の英断に、私はまったく感服いたしました。さすがはプレミアム! 数年前に、あるドラマの件でかなり怒りまくったことも、今や過去のことですね。
決して「金田一ブーム再来」とまでは言えないものの、2016年11月の、あの長谷川博己金田一による衝撃の『獄門島』(と、池松金田一のミニシリーズ)いらい、確実に年1~2のペースで映像化金田一作品の新作がおがめるという幸せな状況が復活したのは素晴らしい僥倖であります。まぁ、一般的な浸透率でいいますと、やっぱり地上波放送のフジテレビによるシゲアキ金田一シリーズの方がインパクトはあるのでしょうが、現在の流れのご本家はあくまでも、この脚本・喜安&監督・吉田による BSプレミアム版シリーズなのです。そして、昨年の『悪魔が来りて笛を吹く』のエピローグにおける予告通り、待望の最新作にして、令和最初の映像化金田一作品として、あの『八つ墓村』がやって来たわけだったのであります! うをを!!
ちなみに、昨年末のくだんのシゲアキ金田一版『犬神家の一族』の登場によって、「金田一ものの映像化回数ランキング」において、最多の「9回」という記録で『八つ墓村』と『犬神家の一族』がタイで並ぶという状況となっていたのですが、今回の吉岡金田一版の放送によって、記念すべき「10回」となった『八つ墓村』が、再び単独の首位に躍り出ることとなりました。さすがは『八つ墓村』! そ~簡単に首位の座をシェアするわけにはいきませんよね。もんのすごいデッドヒートだ!
さぁ、そんな経緯もありまして、いやがおうにも期待値が高まる今回の『八つ墓村』だったのですが、正直なところ、私は不安に感じている要素もあるにはありました。
また、『八つ墓村』を2時間でやるなんて……大丈夫なの?
そうなんです。原作小説『八つ墓村』は、まさに推理+ホラー+アドベンチャー+ロマンスのおもしろ要素てんこもり宝石箱! 高さ60cm の花火つきパフェのような欲ばりエンタテインメント作なのです。これをまともにノーカットで映像化するなんて、2時間じゃあ到底ムリムリ!
いままで9作もの先達がいならぶ『八つ墓村』ではありますが、それらのことごとく全てが、どこかの部分で必ずなんらかの「ショートカット&改変」をほどこして映像化にこぎつけていました。物語を語る時間制限「尺」という要素で、比較的余裕のある境遇にあった1977年映画版(151分)、1978年ドラマ版(239分)に関しても、原作に忠実どころか、それぞれの事情によって似ても似つかない要素を含んだ作品に仕上がっているため、『八つ墓村』の映像化には、どこか必ず危なっかしいバイパス手術が必要となる難しさがあるという印象があったのでした。
中には、1977年映画版(渥美金田一のやつ)のように、もう勢いで有無を言わさず突っ切っちゃって独自の良さにしてしまった成功例もあるのですが、まず偉大すぎる原作小説の縮小再生産という印象はぬぐえません。しかし横溝先生は寛大だねぇ! 1977年版はもう、原作小説の論理的ミステリー要素を気持ちいいくらいにカットしちゃってます。
個人的に最高だと思っている1991年ドラマ版(古谷金田一の2回目)もとってもいいのですが、やっぱりバッサバッサといろんな部分を切り取っちゃった、盆栽のようなちんまり感はありますよね。1996年映画版(豊川金田一のやつ)も、ダブル岸田今日子にご自慢の市川演出で雰囲気はやたら良かったのですが、改変したオリジナルのメイントリックがんまぁ~ひどいもんだったので、落第もいいところの出来となってしまいました。1996年版の真犯人は、逮捕されたかったのか!? あんなもん、金田一耕助いらんわ!!
……といった、個性的な9人のお兄さんお姉さんに囲まれた、今回の最新『八つ墓村』。さぁ、それを目の当たりにした私の感想はどうだったのかといいますと~!?
ここにきて、原作小説に最も忠実なバージョンが誕生! 予想以上におもしろかった。びっくりしました!!
いや~、まさか、2時間でここまで原作の要素をあまさず取り込めるとは。今までの諸先輩方のご苦労が一体なんだったのかという、実にスマートな映像化。ほんとに驚いた。
手離しに絶賛する、とまでもいかない歯がゆさはあるのですが、ともかく予想していた以上のクオリティであったことは確か。そして、なんといっても原作小説ほんらいの端正な構造を最大限、丁寧に映像化したその姿勢がすばらしかった! その一言に尽きます。まじめ! いい意味でも、そうでない意味でも。
これまでの映像化された『八つ墓村』群と比較してみますと、今回の2019エディションは、以下の数々のポイントをかなり原作に忠実に描写したものとなっています。
①恐怖の「どっちかが死ねばいい」ペアターゲットリスト(しかし、実は……?)
②作品の本来のヒロインである、里村典子(主人公・寺田辰弥のいとこ)の存在
③「真犯人」の動機に深く関わる、里村慎太郎(典子の兄)の存在
④西屋の当主である野村荘吉の抱いている「ある疑惑」
⑤辰弥の「ほんとうの父親」亀井陽一の存在と、現在の姿
⑥事件の重要なきっかけのひとつである新居修平医師の存在
⑦尼子の落ち武者の財宝はどうなったのか?
⑧「真犯人」の死因
特に、②と④と⑥をちゃんとおさえているところが、非常に大きいというか、もう2019年エディションの特色と言ってもいい新鮮さにあふれていますよね! ④なんか、今回が初映像化なんじゃないですか? そこを、國村隼という名優がガッチリ演じているんだからすごいんですが……それにはちょっと、功罪相半ばする効果があり……?
結論から言いますと、この「原作に最も忠実な映像化」という部分がもたらす効果は、「よくない部分」も多少はあった、と私は見ました。
言いたいことは山ほどあるのですが、まず、私が今回の2019エディションを観て「ここはいいね!」と感じたのは、
・里村典子の大暴れ!
・吉岡金田一の「こわ~いところ」が出てきたぞ~!!
この2点でした。
典子に関しては、映像化された『八つ墓村』といいますと、これまでヒロインといえば田治見春代と森美也子という、「オトナの魅力」に満ちたおふたりが若い辰弥をめぐってバチバチやらかすという構図が有名かと思われます(そこは2019エディションもしっかり描いています)。でも、そんなどうしようもないドロドロのしがらみの中で倦み疲れた辰弥を救う真のヒロインは、実はフレッシュな若さとピュアさ(バカっぽさ?)にあふれた里村典子だったのだ! という流れが、今回は非常にしっくりくる演出になっていました。1996年版の、「あんた一柳鈴子ちゃんじゃないの?」と見間違えてしまうほどに危うい典子でもありません。しっかり強い女性です! 典子ちゃんの底の知れない笑顔にかかっちゃあ、さすがの要蔵ミイラもかなわねぇや!!
ところで、「戦国時代の尼子家の財宝」が、あんなに分かり易い大判の形をしていて良いのだろうか……時代考証的に、ギリギリ OK? でも尼子家だったら、やっぱりほんとは銀なんだろうなぁ。
吉岡金田一の怖さに関しては、もう見ていただくしかありませんが、なにかというと「ギョロッ!」とむく目がこわいこわい! 何かに気づくたびに、鳥居みゆきさんばりに「逆三白眼」の目つき(黒目が下に寄る)になるのです……田治見要蔵よりも濃茶の尼よりも「真犯人」よりも、金田一さんがいちばんこわ~い!!
さすがは、吉岡さん。伊達に1977年映画版で辰弥の幼年時代を演じているわけではない、気合の入りっぷりを見ました。
そういえば、今回の金田一先生は、あざやかなブルーの着物も印象的なのですが、しじゅう来ているマントが、まるで「教誨師」のようなイメージも与える着こなしになっていましたね。うむ、『八つ墓村』の金田一先生は、それでいいかもしんない。
そうそう、今回の田治見要蔵ほど、「32人、殺せんの!?」と心配になるか弱い要蔵もいませんでしたね。実際、映像の中で村人の反撃に遭いかけてただろ!
そこはおそらく、「愛の妄執に憑りつかれた哀しい男」という部分を強調したキャラクター造形だったのでしょうが、まるで迷子のような、母親を見失った子どものような表情で村の中をさまよう姿が実に味わい深い田治見要蔵でした。特に、金田一先生がつかの間に見た幻影として現れるラストシーンがよかったなぁ。
ただ、あれじゃ32人は絶対殺せないでしょ……モデルになった実在の事件の犯人は、かなり周到に計画して、村人が寝静まった深夜にやってたんだもんねぇ。大金持ちのボンボンが思いつきで日中に暴れだしても、相手にはむくつけき農村の若者もいただろうし、ねぇ。
そんなこんなで、みどころがいっぱいあった今回の2019エディション。少なくとも、過去の映像化作品をまるっとトレースしたような、志の低い更新作業ではなかったという時点で、私は大いに高く評価させていただきましたが、まぁそこはそれ、ファンの勝手なつぶやきということで、ちょっとそこはどうかナ~? と、気になったポイントも、挙げさせていただきましょう。そんな、たいしたことじゃないんですけど、ま、ね!
「真犯人」の意外性が、めちゃくちゃゼロに近い……いや、これはもう、確信犯的演出なんでしょうけどね!
はっきりいいまして、この2019エディション、「真犯人」に対するアタリがそうとうキツイ!! ていうか、隠す気が毛頭ない! 事件の事情をほとんど噂くらいでしか知らないと思われる村人までもが、最初っから「真犯人」のことを、「あいつはあやしいぞぉ。」と何の根拠もなく疑っているんです、冒頭から! ひどいよ! まぁ、犯人だけどさ!!
実はこれ、先ほどにあげた④のポイントをしっかり映像化したってことからも、スタンスははっきりしてるんですよね。逆に言うと、たぶんこれまでの9作品は、金田一先生以外に事件の真相を見抜いていそうな登場人物がいるとミステリーとしてつまんなくなっちゃうから、わざと④を削除していたんでしょう。
だから、べつに『古畑任三郎』みたいな倒叙ものでもないはずなのに、「真犯人」自体ものっけからあやしいし、周囲の「真犯人」に向けられた視線も、冷たい冷たい! そんなアウェーすぎる状況の中で、ほんとにやってしまう「真犯人」もとんでもない肝っ玉なわけですが、それだけに、余りにも哀しい人生、とも言えますよね。
いや、そんなもんキャスト表を見たら誰が犯人かなんてすぐわかるだろ、と言われてしまえば身もフタもないのですが、ここまで犯人を隠す気がない『八つ墓村』も初めて観ました。犯人がわかりやすいことで有名な市川崑演出だって、こんなに周囲の人物がこぞって「あいつあやしい! あいつあやしい!」と言うような環境は作らなかったでしょ!?
だから、今回の2019年版は、原作にこんなに忠実でありながらも、結局はあの1977年版同様に「ミステリーであることを放棄している」『八つ墓村』になっているわけなんです。不思議だな~!! 方向性は全く違うのに。
なのでたぶん、「ウソー! まさかあの人が真犯人だったなんて!」とクライマックスを見て驚愕する人は、まずいないんじゃない? そういう意味で、カタルシスのはなはだしく欠如した作品になってしまった感はあります。あぁ、なるべくしてなったんだなぁ、みたいな無力感が……
あと、吉田演出にロマンを求めるべきでないのは当たり前なのですが、なんか、クライマックスにいくにしたがってクラシックやら洋楽ロックやらがジャカジャカつぎこまれていった騒がしさがあって、今までの2作品(『獄門島』の洋楽ロックと『悪魔が来りて笛を吹く』のフルート)にあった一貫性が崩れた印象は受けました。無理矢理ロマンを作ろうとした感じというか。なにをか焦ることやはある!?
それに、ラストのブラックジョーク的なオチシーンにあんな華々しいクラシックを用いるべきではなかったし(見てもなんの爽快さもない)、そもそも辰弥と典子のシーンで終わりにしてよかったんじゃないかと。その点、同じ結果を招くシーンだったにしても、そこに多治見(この表記でいい)家の炎上というスペクタクルをドッキングさせた、1977年版の橋本忍脚本は、やっぱりちゃんと考えてらっしゃるんだなぁ、と今更ながら感じ入ってしまいました。
う~ん、やっぱり、「原作に忠実にすりゃいいってもんじゃないよ」ってことなんですかねぇ? 難しいなぁ、映像化って!
様々なチャレンジ精神に満ちた出来でありながらも、その一方で「若さ」「愚直さ」も目立つ『八つ墓村』2019エディションであると見ました。
ま、なにはなくとも、「亀の湯」が出てくる次回作が楽しみ……って、それ、シゲアキ金田一が年末にやるやつじゃないの!?
それに、『悪魔の手毬唄』は、原作小説の時間軸だと『八つ墓村』の7年後の事件ですよ~! 7年間、「亀の湯」を目指して旅をするのか!? 岡山県そんなに広かったっけ!?
今まで割とまともだった、BSプレミアムシリーズの時間軸が、ついにゆがんできてしまった……余談ですが、本編中でちゃんと「鬼首村の事件」と言及するくらいのファンサービスをするのならば、いっそのこと令和の『夜歩く』を映像化して欲しかった……かなわぬ夢か~!
まま、まずはフジテレビの『悪魔の手毬唄』を楽しみにしております! よろしくお願いいたしますよ~!!