スイスの資源大手フェレクスポのルチオ・ジェノベーゼ会長は
日本の鉄鋼大手向けの鉄鉱石供給の再開に意欲を示した
スイスの資源大手フェレクスポのルチオ・ジェノベーゼ会長は9日、都内で日本経済新聞の取材に応じた。
同社はウクライナで鉄鉱石鉱山を持つ。2022年2月のロシアのウクライナ侵攻以降、日本の鉄鋼大手向けの鉄鉱石輸出を中止したものの、今後数年のうちに日本向け輸出を再開する方針を明らかにした。
フェレクスポはスイスに本社があるが、ウクライナの鉱山で採取した鉄鉱石の粉を「ペレット」という球状の製品にして輸出している。
日本の日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼所の3社は一時、年間で計100万〜120万トンの規模でフェレクスポからペレットを輸入してきた。
ピーク時で日本の輸入鉄鉱石ペレットのうち10%程度はフェレクスポ製品だったという。同社はロンドン証券取引所に上場している。
日本の鉄鋼大手の海外事業向けの製品供給にも意欲
フェレクスポ社は年初から黒海経由の輸出を再開した=ロイター
日本向け鉄鉱石輸出の再開時期についてジェノベーゼ氏は「日本企業はわたしたちが良い時も悪い時も常にそばにいた。
1年、2年、3年かかるかもしれないが、日本市場に戻ってこられると考えている。長年にわたり良好な関係を保ってきた日本の顧客企業に関与し続ける」と述べた。
同時に「日本企業は中東や米国でも鉄鋼製品をつくっており、われわれの製品を提供できる」と語り、日本の鉄鋼大手の海外事業向けの製品供給にも意欲を示した。
フェレクスポは年間で約1200万トンの鉄鉱石ペレットを生産してきた。しかし、ロシアのウクライナ侵攻の影響を受け、2022年の生産量は約600万トン、23年は約400万トンまで減少した。
侵攻以降は陸路の鉄道を通じて主に欧州の鉄鋼メーカー向けに製品を供給してきたが、ジェノベーゼ氏は「年初から黒海の港湾からの輸出を再開した。
物流のボトルネックは少なくなり、今年はもっと輸出できるようになる」との見通しを表明した。
戦時下のウクライナでの人材確保へ退職人材の再雇用や女性社員の訓練も
ジェノベーゼ氏は退職社員の再雇用や女性社員の訓練に力を入れているという
戦時下で約8000人の社員のうち約750人が兵士として戦闘に参加し、34人が死亡したという。
人材の確保が当面の課題で、「退職した人材を再雇用したり、トラック運転手に就けるように女性社員を訓練したりしている」という。
フェレクスポによる鉄鉱石ペレット製品の輸出はウクライナの輸出全体の3%を占め、同社はウクライナ最大の輸出企業のひとつといわれる。
ジェノベーゼ氏は「戦争が終われば、年間の生産量を約1200万トンから約2400万トンに倍増する計画を再開したい」と強調した。
国際社会のウクライナに向けた関心が低下しつつある現状に関しては「懸念している。ウクライナの人々やビジネスを守るには資金面や軍事面の支援が必要だ」と力説した。
フェレクスポのウクライナ子会社の元トップ、コスチャンティン・ゼバゴ氏がマネーロンダリング(資金洗浄)などの容疑で逮捕され、ウクライナ政府は同氏の資産を凍結した。
ゼバゴ氏はフェレクスポ社の筆頭株主。この事件は事業にも「影響を与えている」と認めた。
そのうえで「ウクライナ当局には(元トップの事件とフェレクスポの事業を)区別してほしいと要請している。
わたしたちは税金を払い、適切な企業市民として行動し、2007年以降で33億ドルの投資をしてきた。
ウクライナの復興に必要な多くの資金は民間の投資がもたらす。わたしたちの過去の投資を尊重してほしい」と訴えた。
Lucio Genovese
南アフリカのウィットウォーターズランド大学卒業後にスイスの資源大手グレンコア、買収ファンドの運営会社などを経て現職。金属・鉱物産業や金融業界で30年あまりの経験を積む。スイス、イタリア、南アフリカの国籍を持つ。62歳。
編集委員 瀬能繁)
【関連記事】
日経記事2024.04.10より引用