インド北東部アッサム州のサルマ首相は日本の半導体メーカーの投資拡大に期待を示した
インド北東部アッサム州のヒマンタ・ビスワ・サルマ首相は24日、都内で日本経済新聞のインタビューに応じた。
インド財閥タタ・グループが州内に半導体工場を新設している点を踏まえ「(半導体の)全体のエコシステム(生態系)を発展させたい。
日本は(パートナーとして)きわめて強力だ」と述べ、日本の半導体関連企業に幅広く投資を呼びかけた。
日本に介護分野を中心に技能実習生を送り出すため、2月に日本語学習施設を開設することも明らかにした。
米マイクロンの広島工場視察、ルネサス幹部らと会談
タタ財閥系のタタ・セミコンダクター・アセンブリー・アンド・テスト(TSAT)は半導体の後工程の工場をアッサム州内に建設中で、2025年中の稼働を計画している。
日本企業に投資を呼びかけたのは、タタの工場を中核として半導体産業の一大集積地をつくる狙いからだ。サルマ氏は米マイクロン・テクノロジーの広島工場を視察したほか、ルネサスエレクトロニクス、ディスコ、トヨタグループの幹部らと会談したという。
サルマ氏は「半導体には(前工程の)ファブ(工場)、組み立て工場、そして研究開発(R&D)が必要だ。
多くの半導体産業は日本の(半導体)製造装置を使っている」と語り、日本の企業を2月25〜26日に州内で開くイベント「グローバル投資サミット」に招待する考えを表明。
サルマ氏のX(旧ツイッター)には半導体製造装置の東京エレクトロンの関係者とも会談したことを伝えている。
インド北東部にあるアッサム州は紅茶の産地として有名で、人口は3000万人超。ブータンやバングラデシュとの間で国境を持ち、ミャンマーにも近いことから東南アジアとの市場の結びつきが期待される戦略的な要衝にある。
人手不足に直面している日本は今、アッサム州の若い労働力に着目している。
日本への介護分野の技能実習生派遣に意欲、覚書署名へ
サルマ氏はインド国内でも精力的にアッサム州への投資誘致のため駆け回っている(6日、ムンバイで)=AP
サルマ氏は「日本人の平均年齢は49歳。インド全体では27歳だが、アッサム州は22歳と若い」と語り、アッサム州の若手人材を技能実習生として日本に派遣したい考えを示した。
そのため2月25日に日本政府などと協力するための2つの覚書に署名し、州の中心都市グワーハーティーに日本語学習施設をつくる。そこで1年間、日本語を学習した後、日本各地の介護施設などで働くことを想定しているという。
アッサム州の人材は東アジアの人材と比較的外見上の特徴が似ているとされる。サルマ氏は日本と「多くの面で文化的に近い」点もアピールした。
日本との間の人的交流の拡大については経済産業省幹部らとも意見交換したという。
日本からの観光客増めざし、外務省に渡航制限緩和を要請
サルマ氏は「アッサム州はインドで最も平和的な地域の一つ」として、日本の外務省による渡航制限緩和を要請している(2023年8月15日、地元のインド独立記念日にて)=AP
アッサム州が注力する3つ目の分野は観光だ。
州内にはカジランガ国立公園など複数の世界遺産があり、米紙ニューヨーク・タイムズが掲載した「2025年に訪れるべき52カ所」のうち4位に選ばれた。
「国立公園には4000頭ものサイがいるが、こんな場所は他にはない。州内には800の紅茶庭園があり、22のゴルフコースがある。日本からの観光客を増やしたいと思っている」。サルマ氏はそう語った。
ハードルの一つが、日本人にアッサム州の一部地域に「不要不急の渡航中止」を呼びかけている外務省の海外危険情報だ。
州内にインドからの分離独立運動をしている武装勢力がいるとされる。サルマ氏は24日に生稲晃子外務政務官と会談し、「アッサム州はインドで最も平和的な地域の一つで、ここ数十年で何の事件も起きていない」として渡航制限の呼びかけを撤回するよう求めた。
生稲氏は在インド大使館に現状を評価するよう求めるとともに、日本人観光客を増やすために協力していく考えを示したという。
(聞き手は編集委員 瀬能繁)
Himanta Biswa Sarma アッサム州のグワーハーティー大学で法学士、政治学博士号を取得。弁護士、州議会議員を経て2021年から現職。モディ首相と同じインド人民党(BJP)所属。55歳。