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核融合発電の実証が国内で始動、要素技術の強み生かし米中に先駆け

2024-12-19 00:13:15 | 科学技術・宇宙・量子・物理化学・生命・医学・生物学・脳科学・意識・人類史

FASTで構築する核融合炉のイメージ(出所:FASTプロジェクト事務局)
FASTで構築する核融合炉のイメージ(出所:FASTプロジェクト事務局)

 

日本で2030年代の核融合発電を実証するプロジェクト「FAST(ファスト)」が2024年11月に始動した。

核融合スタートアップの京都フュージョニアリング(東京・千代田)など民間企業や研究機関が持つ要素技術を組み合わせて、世界初となる発電実証を目指す。高温超電導(HTS)コイルなど最新技術を活用することで、米中などの競合に先駆けて核融合発電を実現できるか注目されている。

 
 
核融合技術の進化に伴い発電実証に向けた取り組みが加速している(出所:日経クロステック)
核融合技術の進化に伴い発電実証に向けた取り組みが加速している(出所:日経クロステック)
 
 
 

核融合発電の本格プロジェクト

FASTはプロジェクトリーダーの京都フュージョニアリングなどの民間企業に加えて、東京大学や東北大学などの研究者らが連携して核融合発電の実証を目指す。

まずプラズマ研究者や炉工学研究者などが2024年内に設計活動を開始し、2025年度内に概念設計を完了する。京都フュージョニアリングの株主である商社、パートナー企業であるメーカーやゼネコンと協力して、プラントの設計や安全解析などに取り組む。

 

一方で、国内に閉じた組織体制でないのもFASTの特徴だ。日本国外の研究者とも連携して、核融合発電に必要な技術を積極的に取り込む。

例えば、核融合の燃料となる三重水素(トリチウム、T)の研究で強みを持つカナダ原子力研究所(CNL)や、米エネルギー省(DoE)が管轄する核融合施設を運営する米General Atomics(ジェネラル・アトミックス)、核融合スタートアップの英Tokamak Energy(トカマクエナジー)など有力なプレーヤーから研究者たちが参加する。

 

プロジェクトでは主半径2~3mと小型の核融合炉を構築する。

プラズマの閉じ込めには、トカマク型と呼ばれる方式を採用し、強力な磁場を生成できるHTSコイルや液体金属を利用したブランケットなど、最新の技術を採用する。

 

核融合には重水素(デューテリウム、D)とTを反応させる(D-T反応)オーソドックスな手法を使い、発生する高速の中性子からエネルギーを回収する。出力は5万~10万kWを想定する。

 FASTではスピード感も重視して、設計にかかる期間を短縮する。FASTは概念設計を1年ほど、工学設計を約2年半で完了させ、重工メーカーなどへ建設を順次発注していく。国際的な核融合炉プロジェクトとして有名な「ITER(イーター)」では、これらの設計だけで10年近くかかった経緯がある。AI(人工知能)やシミュレーション技術なども活用して、設計を効率的に進めていく。

 

 

FASTで構築するプラントの予想図(出所:FASTプロジェクト事務局)
FASTで構築するプラントの予想図(出所:FASTプロジェクト事務局)

 

 

技術課題を世界に先駆けて解決

 FASTでは4つの技術的な課題の解決を目指す。

①D-T燃焼の実証(プラズマの生成と持続、制御)、

②エネルギーの取り出しと利用(熱回収と発電)、

③トリチウム生成と燃料サイクルの実証、

④システム統合(プラント技術の開発と実証)、の4つだ。

 

特に③において、反応で生じた中性子を利用して燃料となるトリチウムを再び生成・利用する仕組みは世界でも実証した事例はまだなく、大きな挑戦になる。

 FASTを取りまとめる京都フュージョニアリング取締役最高執行責任者(COO)の世古圭氏は、「こうした技術課題を解決していくことで、日本の産業界が核融合分野で一歩リードできるチャンスだ」と語る。

 

実際に日本は核融合に必要な要素技術を持つ企業を多く擁しており、自国だけで核融合プラントをつくれる世界で唯一の国とされる。重要な技術を先駆けて確立することで、日本が世界で主導的な立場を築ける可能性がある。

 
 

世古氏は日本の幅広い産業の裾野を生かして高い競争力を実現できると語る(写真:日経クロステック)
世古氏は日本の幅広い産業の裾野を生かして高い競争力を実現できると語る(写真:日経クロステック)

 

FASTプロジェクトが始まる以前から、京都フュージョニアリングは自前の実験施設を構築して技術実証に取り組んできた。

液体金属を使った熱回収や発電を検証する「UNITY-1」(京都府久御山町)を2023年9月に建設したほか、カナダ原子力研究所とは燃料サイクルシステムの共同プロジェクト「UNITY-2」の開発を進めている。

 

京都フュージョニアリング共同創業者兼社長兼チーフフュージョニアの小西哲之氏はこれらの技術基盤を生かしながら「世界に核融合サプライチェーンを構築して、主要な産業として育てていく種をつくりたい」と意気込む。

ただし、技術的な課題を解決したとしても、実験炉の建設には膨大な資金が必要になる。最低でも5000億円は必要になる見込みで、これは原発を建設するのに必要な費用に相当する。

 

世古氏は「資金調達の検討はこれからだが、国内外の機関投資家や政府の支援がなければ日本でやっていくのは難しいだろう」と語る。

米国では有力な核融合スタートアップが1社で20億米ドル(約3000億円)以上を調達した事例もあり、日本でも支援体制や環境の整備が急がれる。

 

 

主要国で進む発電実証

核融合に向けた国際的な研究ではITERプロジェクトが有名だが、米国や英国、中国などは独自のプロジェクトを進めており、核融合発電実証の早期実現を狙っている。

それぞれの国で民間主導の自由な研究開発や、政府主導の大規模な計画などに特徴があり、2030~2040年代の核融合発電実証を狙う。

 

主要各国で発電実証に向けた取り組みが加速している(各種資料を基に日経クロステックが作成)
主要各国で発電実証に向けた取り組みが加速している(各種資料を基に日経クロステックが作成)

 

米国では民間主導の核融合研究が盛んで、多くのスタートアップが多額の資金を調達して技術開発に取り組む

例えば米Commonwealth Fusion Systems(コモンウェルス・フュージョン・システムズ)は累計で20億米ドル以上を調達するなど、高い競争力を持つ。ただ政府機関と民間企業の間で予算を取り合う形で対立することもあり、足並みがそろわないといった構造的な問題を抱えている。この構図は米国の宇宙産業と同様だ。

 

英国では公的機関の英国原子力公社(UKAEA)などが中心となり、球状トカマク型の商用核融合炉「STEP」を2040年までに建設する計画を打ち出している。

英国にはトカマク型実験施設である「欧州トーラス共同研究施設(JET)」があり、長年にわたる研究の土台がある。政府主導の研究開発が中心だったが、ここ数年はスタートアップの活動も活発化している。

 

近年、急速に力を付けているのが中国だ。中国は核融合の要素技術を獲得するための大規模試験施設「CRAFT」や、ITERに先立ってD-T反応を目指すトカマク型核融合実験炉「BEST」などのプロジェクトを政府主導で進めている。

中国政府は必要な土地と数千億円規模の予算を積極的に投じており、「戦略的に動けている」(量子科学技術研究開発機構(QST)職員)と評価する声も多い。

 

 「(中国は基礎技術を)ど真ん中から取り組んで、着実に積み上げている」(世古氏)ため、日本は政府と民間がうまく連携できる強みを生かして競争力を高めていく必要がありそうだ。

 

 

幅広い産業の裾野が日本の強み

日本は60年以上にわたる核融合研究の歴史があるほか、幅広い産業の裾野がある。

これらの技術を持ち寄ることで、日本は優位性を発揮していく狙いだ。核融合炉の中心温度はセ氏2億度にもなるとされ、炉を構成する部品や装置の精度や品質も重要な要素になる。

強力な磁場でプラズマを閉じ込めるのに利用するHTSコイルは量産に高い技術が求められ、古河電気工業やフジクラが強みを持つ。

プラズマを加熱して核融合反応を促す中核部品のジャイロトロンでも日本が先行しており、民間企業の貢献が大きい。キヤノン電子管デバイス(栃木県大田原市、旧・東芝電子管デバイス)とQSTは2021年にITER向けのジャイロトロンを世界に先駆けて製造した実績がある。

 

京都フュージョニアリングもUKAEAやジェネラル・アトミックスにジャイロトロンを納入した実績がある。

ジャイロトロンは米国などの主要国でも開発できておらず、「中国でも今後10年は造れないだろう」(関係者)というほど日本の優位性が高い。

 

プラズマ中の不純物を排出する機器であるダイバーターは最も高い熱負荷を受けるため、耐熱性や除熱性、ろう付けの高い精度などが求められる。

ダイバーターの組み立ては三菱重工業や日立製作所などが手掛けているが、それを構成するタングステンモノブロックはアライドマテリアル(東京・中央)などが、特殊銅合金を使った冷却管は大和合金(東京・板橋)が製造している。

 

金属技研(東京・中野)や大阪冶金興業(大阪市)は、ろう付けの高い技術とノウハウを持つ。

 
 
 

三菱重工とQSTがITER向けに開発したダイバーター外側垂直ターゲット(写真:日経クロステック)
三菱重工とQSTがITER向けに開発したダイバーター外側垂直ターゲット(写真:日経クロステック)

 
 
日経記事2024.12.18より引用
 
 

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