プリント基板を製造するメイコーの株価が快走している。2023年末比で2倍超となり、村田製作所や太陽誘電などの電子部品大手が2〜4割安に沈む中で堅調ぶりが際立つ。
背景にあるのが「脱中国」需要の取り込みだ。米次期大統領のトランプ氏による中国製品への関税引き上げが現実味を増すなか、メイコーのベトナム工場が輝きを放っている。
24年はメイコーにとって飛躍の年になった。23年末から24年12月23日まで約1年間の騰落率は2.2倍で、東証プライム企業約1600社中の20位と最上位クラスだ。
12月上旬には一時9590円を付け、同社として2006年2月以来約19年ぶりの高値をつけた。
「プリント基板業界は中国生産への依存度が高い。短納期で大量生産が可能な拠点をベトナムに持つメイコーの優位性は圧倒的だ」。東京海上アセットマネジメントの渡辺晋司シニアファンドマネージャーはこう強調する。
渡辺氏が運用する「東京海上・ジャパン・オーナーズ株式オープン」は、11月末時点の組み入れ比率でメイコーがトップ(4.1%)だ。8月上旬の日本株急落局面では、全体につれて下落したメイコー株をすかさず買い増した。
メイコーが製造するプリント基板はコネクターやコンデンサー、半導体などの電子部品をのせて電気信号をやり取りする。
自動車やスマートフォン、家電などで使われるあらゆる電子機器に組み込まれている。
メイコーが製造するプリント基板
同社は11月6日、25年3月期の連結純利益見通しを引き上げた。前期比33%増の150億円と従来予想(125億円)から2割引き上げ、3期ぶりの最高益更新を見込む。発表翌日の同社株は制限値幅の上限(ストップ高)まで上昇した。
堅調なのは今期から加わった「衛星通信」向けで、従来80億円としていた同売上高の予想を160億円程度へと大幅に引き上げた。メイコーは期初時点で、米大手航空宇宙メーカーから人工衛星の電波を地上で受信するアンテナ向け基板を受注したと明らかにしていた。こうした需要が当初の想定以上に積み上がっているという。
プリント基板の買い手がサプライチェーン(供給網)見直しを進めていることが背景にある。米国が中国製品の関税を引き上げればコストが重くなるとみて、調達先の脱中国を進めるなかでメイコーに白羽の矢が立った。
同社は日本の6カ所と中国2カ所に加え、ベトナムに3カ所の製造拠点を構える。
メイコーは米中対立の動きを嗅ぎ取り10年代前半からベトナムで製造体制を整えてきた。「日系プリント基板メーカーで中国や台湾以外に大きな生産拠点を持っているのは我々だけ」。
1975年の創業以来同社を率いる名屋佑一郎社長は強調する。米大手スマートフォンメーカーからも数年以内に再び受注を獲得する可能性があるという。
さらに今後は人工知能(AI)搭載スマホやAI利用で需要が増えるデータセンターなど向けの引き合いが強まる。これら向けには基板を多層に積み上げて小型にできる最先端の「ビルドアップ基板」が必要だ。
メイコーは積極投資の手を緩めず、26年3月期以降にベトナムで2つの新工場を相次ぎ稼働させる。11月には27年3月期まで5カ年の設備投資予定額を1100億円と従来から200億円上積みした。
メイコーは自己資本利益率(ROE)も高い。24年3月期で約13%と、同じくプリント基板を手がける日本CMKやNOKの倍以上だ。
8月には資本効率などの面で投資魅力が高い会社で構成する「JPX日経インデックス400」に組み入れられた。
東海東京インテリジェンス・ラボの萩原幸一朗シニアアナリストは「積極的に借り入れを行いながらベトナム新工場などへの投資を続けている効果だ」とした。ROEを構成要素に分けてみると、売上高純利益率に加え財務レバレッジが高い。
今後については懸念もある。売上高比率で約半分を占める車載向けは不透明さが増している。25年3月期の車載向け売上高は8%減の875億円を見込む。
先進運転支援システム(ADAS)向けを中心に競合にシェアを奪われている。名屋社長は「数年先になるかもしれないが、競合に負けた部分は取り戻せる」と強気の姿勢だ。
ベトナムの生産拠点を強みとするメイコーだが、競合も相次ぎ東南アジアに進出している。東京海上アセットの渡辺氏は、25年以降もメイコーの快進撃が続くかどうかについて「納入先でさらにシェアを高められるかどうかが重要になる」と語る。
(郭秀嘉)
記者が独自の視点で企業を分析。企業ニュースの背景や株価変動の要因、プロの投資家が注目するポイントなどをわかりやすく紹介します。
日経記事2024.12.24より引用