超一流の医学研究者である渡辺昌先生のロングセラーの秀逸な本の内容を紹介します。
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私が読売新聞に「薬を使わず、食事と運動だけで糖尿病を治したお医者さん」ということで取材され、健康欄で一週間にわたって紹介されたのは2001年春のことでした。 記事の内容は糖尿病と宣告されたとき、薬を飲まずに運動と食事だけで、自分で糖尿病を治したとというものです。
新聞に記事が載った当時、編集部には大きな反響があり、私もそうやっているという患者さんの声とともに、全国のお医者さんからたくさんの抗議が寄せられたそうです。
その大半は「どうしてこんな記事を載せたのか」というお叱りの電話だったそうです。というのも「食事と運動だけで治る」と言う記事は、糖尿病患者に誤解を与えるというのです。
しかし、お医者さんはすべての糖尿病患者を診(み)ているわけではありません。 平成一二年(2000年)度の厚生労働省糖尿病実態調査によると、糖尿病を指摘されても四割程度の人しか診察、治療を受けていません。
また、平成十四年の糖尿病実態調査によると、糖尿病患者の数は全国で七四〇万人、疑いのある人は八八〇万人で、予備軍を含めた全体の数は、なんと一六二〇万人にのぼると推定されています。
つまり、本当にたくさんの人々が「糖尿病」と宣告され、「どんな治療をすればいいのか?」という選択を迫られているのです。
普通は、検査で血糖値が高めに出て、「糖尿病」ですと宣告されても、そもそも糖尿病というのはどんな病気なのか、知らない人が多いのではないでしょうか。 まったく何の症状もなく、元気な人がたまたま高血糖を指摘されて糖尿病といわれることも多いでしょう。
普通、糖尿病というとインポテンツ奈なる病気だとか、金持ちの贅沢病だとか、インスリン注射が必要になるらしいとか、合併症が怖いとか、そのような部分的な情報や知識はあるのですが、「糖尿病」とは何か、そして「高血糖」を指摘された場合、それが健康にとってどのようなリスクを持ち、将来にわたる健康生活の維持のためには、どんな対策をとることがベストんおかということについて、一般の方はほとんど無知に等しいのではないかと思うのです。
私が「糖尿病」と宣告されたときがまさにそうでした。 青天霹靂(へきれき)という言葉がぴったりで、「糖尿病」と宣告されましたが、いったいどうしていいのか途方に暮れました。
長年病理解剖医として多数の糖尿病患者を解剖していましたから、糖尿病が原因で亡くなった方も多く見ていました。 それで「糖尿病」都言われたときに、糖尿病腎不全(じんふぜん)や心筋梗塞(こうそく)など末期の状態がまず頭に浮かびました。
担当の医師は、薬による治療を勧めてくれましたが、私は当時国立がんセンターの疫学部長として、生活習慣予防の重要性を説いていたので、自分が真っ先に生活習慣病になったのではあまりに情けない、と思いました(疫学とは、集団の中で病気がどのように起こるかを統計的に調べ、病気の予防や健康の増進に役立てる学問)。
そこで治療は食事と運動でどこまでやれるかやってみようと思ったのです。
もうひとつ、大きな疑問もありました。 私の検査で血糖値が非常に高めに出たとき、同時に中性脂肪の値も高く、血圧も高かったのです。 いろいろな医学の専門書や論文にあたって調べ、血糖値が高めであると中性脂肪の増える理由が分かりました。
そのことは本文で詳しく述べますが、読者の皆さんの中にも、そのような症状を抱えている人は多いのではないでしょうか?
そしてその場合、どのような治療法が適切なのかということもまた問題なのです。 つまり糖尿病は、単に結党の問題だけではなく、全身の退社病だというふうに理解することが大切だと思いました。 「糖尿病」というのは、典型的な不治の慢性病だと思います。
うまく「糖尿病」と付き合い、血糖値をコントロールして健康な生活を送るのも合併症によって悲惨な状態に進むのも、まさに本人次第ということがよく分ったのです。
歴史的に見て、血糖値を測って、糖尿病を予防するようになったのは、ごく最近の話です。 高血糖の段階から、何が何でも正常の血糖値にまですぐ戻そうとすることが現代の医療の考え方で、多くの医師がしている治療です。
自分でいりいろ「糖尿病」について研究してみて、さらに自分自身の血糖値コントロールを通して考えていくうちに、私は本格的な「糖尿病」と検査で高血糖値が出ただけで合併症がない「高血糖症」とは、分けて考えるべきではないかと考えるようになりました。
今、大きな問題になっているのは、生活習慣病としての糖尿病で、それは血糖値が高い場合に「糖尿病」と診断される病気です。 その場合、未だ自覚症状がない場合がほとんどです。
私の場合は、ヘモグロビンA1Cが12.8%、筋肉崩壊も始まり、高脂血症、脂肪肝、高血圧と、診断された時は相当重度の「糖尿病」の状態でした。
「糖尿病」を宣告された当時、国立がんセンターでの忙しい研究生活でストレスもあったのかも知れません。 しかし食事と運動で血糖値をコントロールすると決めてから、糖尿病克服を学問的に研究し、そして自らの体で実践してきました。
その結果、一〇年を過ぎていますが、糖尿病と宣告されてから薬は一切使わず、健康を保ち、むしろ糖尿病と宣告された頃より、なお一層元気になり、一病息災と言う言葉を実感できるようになりました。
血糖値をコントロールする生活を送るうちに、中性脂肪も高血圧も、すべて改善されていったのです。
「食と健康」の研究を発展させるために、東京農業大学の教授に就任するという変化もありました。 農大に移ってから八年になりますが、二〇〇〇年には、ハワイのホノルルマラソンに出場し、完走することもできました。 それから機会あるごとに学生たちとともにホノルルマラソンの他、各地のマラソンにも参加しています。
糖尿病を宣告された当時、肥満状態で、自分がフルマラソンを走るようになるなんて考えもみませんでした。それだけ、精神的にも肉体的にも元気になったのだと思います。
本書は、私の体験と研究が基になっています。 糖尿病研究は私の主たる専門ではないのですが、「糖尿病」と宣告されて、治療法の選択に迷い、途方に暮れている方に、一病息災、長寿を目指す手助けになればと思い、上梓(じょうし)することにしました。
目指すのはクオリティの高い生活を維持しつつ、なお天寿を全うすることです。 本書がその一助になれば幸いです。
渡邊昌