「LE NOUVEAU KELLY(新たなケリー)」――。「エルメス」から届いたとびきりのニュース! メゾンを、そしてそのウオッチメイキングを象徴するアイコンが、満を持して今秋ローンチされることが決まりました。
シンプルなステンレススチールモデルから、ふんだんにダイヤモンドをあしらったジュエリーウオッチまで、5タイプで展開する新たな「ケリー」ウオッチ。
3つのパターン 自在に楽しめる
最大のサプライズであり、ときめきポイントは、カデナ(ケース)が取り外しできるようになったこと! そして今作にはクロシェット(鍵を収納するアクセサリー)が付属しており、カデナをセットすればネックレスとしても楽しめるようになったのです。
つまり従来通り「腕時計」として、カデナを外して「ブレスレット」として、そして「ネックレス」として、と3パターンの装いを授けてくれます。
シンプルなステンレススチールモデルから、ふんだんにダイヤモンドをあしらったジュエリーウオッチまで、5タイプで展開する新たな「ケリー」ウオッチ
ラグジュアリーをお届けする記事にはふさわしくない表現なのは承知ですが、この「1個で3度おいしい」感は、素直にうれしくとっても得した気分にさせてくれますよね。
2023年は、この連載の第1回目(時計=ジュエリーを実感! ペンダントウオッチの世界)でもお伝えしたように、従来の腕時計の既成概念から解き放たれたネックレス(ペンダント)ウオッチが多く誕生しました。
正確な時刻を知るためだけならスマートフォンやスマートウオッチがあれば十分というこの時代、私には「もっと自由に、エレガントにファッショナブルに時計を楽しみましょう」というメッセージが聞こえてくるような気がします。
取り外しできるカデナ、クロシェットというまったく新しいアプローチで、まずは女心をわしづかみにする新たな「ケリー」ウオッチですが、同時に、初めてK18ゴールドやステンレススチールといったメタル素材のブレスレットをまとい、また新たな表情を得ています。
さらにカデナ形のケースは従来のモデルより小型化され、よりモダンで洗練された雰囲気に。
誕生から50年近く 新たな個性を獲得
1975年に誕生した「ケリー」ウオッチですから、すでにお持ちという方もいらっしゃるでしょう。
もちろん、その歴史の間には幾度か時代に合わせたアップデートが施され、現行のレザーストラップのモデルもあせない魅力を放っています。
しかし今回の新作は、メタルブレスレットと小型化されたケースによって、単なるバリエーションではなく、独立した個性を宿すタイムピースに仕上がりました。
ウオッチ&ジュエリーやモードがお好きな人のなかには、今回ご紹介している「ケリー」ウオッチが、2022年春に発表されたのをご存じという方もいらっしゃるかもしれません。
そう、エルメスがこれを発表したのは、22年の「Watches & Wonders Geneva」でした。
当初の発売予定は、その年の秋。しかし程なく発売を23年に延期すると公表されたのでした。
ウオッチに限らず、ラグジュアリーメゾンが新作の発売を延期することは時々あることです。
とはいえ、発表から発売までに約1年半かかるのは、珍しいケースです。私は当初、マーケティング戦略のひとつかと考えていました。
しかし先日、これらの「ケリー」ウオッチを取材し、実際に手にした時に「もしかしたらこの新作を120%以上完璧に仕上げるためにブラッシュアップを重ねていたからでは?」と思うようになりました。
あくまで個人的な「推察」ですが、22年の発表間もない頃に取材した時にはなかった意匠に気づいたのです。
待ったかいがある? 完璧を求めた「作品」
このタイムピースの最大の特徴である、手首の動きに呼応して揺れるカデナを、ブレスレットの向きに合わせてスライドさせればしっかりと固定される仕組みにアップデートされていたのです。
こう書けば簡単なことのようですが、そのシステムのみならず、滑らかにスライドしてしっかりと固定されるその「感触」を実現するのは容易なことではないはずです。
春に発表、その年の秋に発売――。戦略的にはそれがベストだったかもしれません。
しかしローンチインパクトよりも完璧を追求する、エルメスの妥協を許さないものづくりの神髄に触れた気がしています。
55万3000円 74万3600円
手首の動きに合わせて楽しげに揺れるカデナを、自由に解き放つことも、しっかりとブレスレットに固定することもできる、新しい「ケリー」ウオッチ。「解放」と「固定」というマトリックスを仕掛けたアイコンは、大人だけではなく若い世代の心にも大きなインパクトをもたらすでしょう。
:岡村佳代(ウオッチ&ジュエリージャーナリスト)
岡村佳代
学生時代から執筆活動を開始。女性向け本格時計のムックに携わったのをきっかけに機械式時計の魅力に開眼。本格時計に関心が薄かった女性にその魅力を伝えるべく、女性誌などを舞台に活躍してきた。高級ブランドが集まるスイスの時計フェアを中心に世界での取材経験も豊富。