晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

野沢尚 『リミット』

2009-03-02 | 日本人作家 な
福井晴敏のテビュー作『川の深さは』を読み、この作品が江戸川乱歩賞
を獲れなかった(翌年、続編『Twelve Y.O.』で受賞)というので、この
作品を凌ぐ作品があったのかと思っていたら、同年の受賞作品は、野沢尚
の『破線のマリス』で、こちらを読んだら、ああなるほど、こりゃ面白い
わ、と納得したものです。

『破線のマリス』以外の作品は、別に避けてたわけでもなく、ただ単に読ん
でなかっただけなんですが、この『リミット』を読んで、ミステリー作品と
しての主題選びの着眼点の見事さといい、登場人物、特に犯罪を犯してしま
う側の人物背景や心理描写の卓越さといい、とにかく、読んでる最中の「ドキ
ドキ感」の持続、登場人物への共感が楽しめます。

物語は、関東一円で幼い子どもの誘拐が多発、そしてエリート商社マンの一人
娘が誘拐され、その犯人との交渉役に、夫に先立たれて男の子を育てつつ警視
庁捜査一課刑事という過酷任務に明け暮れる女性刑事が担当することに。
しかし、犯人側には捜査状況が筒抜けで、ついに、女性刑事のひとり息子も誘
拐されて、犯人は身代金を女性刑事に運ばせることを要求。しかし女性刑事は
自分の息子までも誘拐されている事実を同僚には告げず、ひとりで身代金を運
ぶことになり、途中で警察の追跡車を撒いて、単身、神奈川県の山中へと向か
い、身代金の引渡しをしようとするも、子どもは帰ってこず、さらに身代金は
奪われて、失敗に終わる。

この一連のスタンドプレーにより、女性刑事が犯人一味であるという報道が流
れてしまい、隠密行動を余儀なくされた女性刑事は、今回の商社マンの娘が誘
拐される前にも相次いで幼児誘拐があったことに着目し、そのうちの一家族と
接触する。犯人との身代金の引渡し時に犯人ともみ合いになった際に、犯人の
後ろポケットにあったキーホルダーを掴み取っていて、それが、某テーマパー
クのトイレで誘拐された子どもが持っていたキーホルダーであると父親は確信
する。ここで、この一連の幼児誘拐は同一人物であるという方向で調べていこ
うと、女性刑事は、子どもを誘拐された父親と共に犯人をあばいていく・・・

この作品テーマは臓器売買で、悪徳医師、外国人ブローカー、誘拐実行役が
絡んでくるのですが、その目的はいずれも金。
しかも、この話に飛びついて、誘拐の実行役リーダー格となるのは、女性。
子どもを連れ去り、外国へ運び、パーツに分解して売りさばくという闇商売に
加担できるというのは、母性本能を持ち合わせない女性の所業。
そもそも女性刑事に身代金を運ばせることにしたのは、警察に告げれば容赦し
ないということを示せば、我が子可愛さで単身運んでくれるとふんだ犯人の、
「母性」の悪用であったのです。

結局、犯人に情報を提供していたというのは、なあんだやっぱり、という人物
だったのですが、それにしても、金と幼い子どもの命を天秤にかけた時に、金
と即答できる人間の強欲さに、薄ら寒くなりました。
コメント
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